「お前たちはここで死ね、疾く死ね」
長髪に特徴的なハート型のアクセサリーをつけた男が言う。
濃紺のレオタードのような服はここからではよく見えない。
しかし、おそらくそのスタンドの口の中にある姿は俺の知るようなソレであるのだろう。
波紋でアヴドゥルの肩の傷をふさぎながら、ジョセフは冷や汗を流しながらヴァニラ・アイスを睨んでいる。
ばくん、ともう一度亜空間のスタンド──クリームの口が閉じられた。
ジョセフが咄嗟に叫ぶ。
「まずい、またあの攻撃が来るぞ!」
やる気のなさそうなイギーが「がああ、ウゥン」と鳴き、フンと息を吐いた。
その瞬間、大量の砂が舞い上がり、庭と周辺一帯が砂嵐で覆われる。
亜空間によって削り取られた砂でクリームの位置がぽっかりと球状に浮かび上がる。
来る、と確信させる一時。
承太郎が全員に怒鳴りつけた。
「てめえら全員蛇の陰に隠れろ!」
蛇──すなわち俺は、腹側の鱗を非実体化させて無音で移動し、皆が隠れられるスペースをグネグネと無秩序にうねる胴体で作っていたのだ。
無秩序、とはいうものの実際には何億というルートから選び出した最適解。
飛び込む位置、来るであろう仲間が触れる手の方向まで予想通りの動きなのだ。
やられるなど、万に一にもありはしない。
全員が一にも二にも無く俺の胴へと飛び込んだのと同時に、勢いよく発射された攻撃が鱗をビリビリと揺らす。
正体は死角から発射されたウォーターカッターのごとき刃だ。
クリームの間を縫って狙撃してきた水のスタンドだが、俺の未来視によって防がれてしまう。
「防がれただと?例の蛇か……厄介な」
その声を聴く者は本人以外に誰一人いない。
なぜなら水の主……ンドゥールは屋敷の中、玄関を開けた先の広間で胡坐をかいて座っているからだ。
「これは……水、だと?」
「見ろ、庭の隅にあるスプリンクラーも蛇口も水道管も!破裂して水を溢れさせている!」
「…!水のスタンドか、本体はどこにいやがる!?」
本来なら1Km以上先からの狙撃が可能な遠隔操作型の物質同化型スタンド、ゲブ神。
その猛威は原作にて花京院を一時離脱にまで追い込んだほどだ。
街中で音が聞こえにくいというデメリットをその分近づいて聞くというシンプルな解法によって補ったンドゥールに死角はない。
本体が攻撃されやすい欠点すら、幻覚によって体を隠すことで補われている。
まったく、うまく考えたものだ。
「次は蛇の上に乗れッ!安全圏へ運ぶ!」
「あの水は僕ら全員の位置が正確にわかっているようだ。屋敷の中から僕たちを見ているのか!?」
「……いや。見ちゃあいねぇぜ。奴は聞いているのさ」
「見ていない?……なるほど、あの水のスタンド使いは大気を削る音を聞いて、僕たちだけでなくクリームとやらの位置すらも把握してるってことか」
「ご明察だぜ、花京院」
「うれしくない考察が当たってしまったな」
次の攻撃も無音と化した俺の動きによってクリームにもゲブ神にも捕捉されない位置に移動したことによって不発となった。
針に糸を通すような攻防だ。
精密動作性に難がある俺だが、こればっかりは皆の命がかかっている。
補助に回った承太郎がスタープラチナで細かく俺の部位を引っ張ったり押したりして調整してくれているのも効いている。
3回目の攻撃も上手く躱されたヴァニラ・アイスが、体をフルフルと震わせて唐突に叫んだ。
「このビチグソ共がぁーーーッ!」
額には青筋が浮かび、切れているのがありありと分かる様子だ。
地味にンドゥールが耳を押さえているのが【目】に映っている。突然叫ばれたのが耳にキたらしい。可哀そうに。
「DIO様は私にゴミ共を急ぎ掃除してこいと仰った。貴様らは私を、わ、私を、DIO様の命に背かせた!!」
「んな事俺たちが知るかよ。イカれてんのか?」
「殺すッ」
展開は佳境に入っている。
ヴァニラ・アイスの逆ギレに真顔で答えるポルナレフの横を走り抜け、承太郎が合図を送った。
「アルカナテラー、足場だ!」
「……蛇さんを足蹴にしようって?」
「そうだぜ、思いっきりな」
「くくく、あいよ。承太郎も大胆になったもんだ」
その瞳には宇宙色の極彩色が浮かんでいる。
幾千幾万のルートを検索し、それをスタープラチナを通して子細に至るまで見通す絶技。
必勝を約束されたそのあり方は、承太郎だからこそ許される奇跡の賜物だ。
僅かな苦り顔は手札を一つさらしてしまわざるを得ないが故か。
「やるか。本番にはちと早ェが、この際仕方ねーな」
「殺す殺す殺す、死ねぇ!」
ついにキレたらしいヴァニラがクリームに飲み込まれたままめちゃくちゃに動き回り、大気と砂とを無尽蔵に削りつくしていく。
それを予知したルートで素早くかわし、屈み、踏み越え。
「ここだ」
「ッ!!!」
ばくんとヴァニラ・アイスが顔を出したその瞬間に蛇を足場に舞い上がった承太郎は、スタープラチナの拳を振り上げた。
花京院が叫ぶ。
「承太郎!危ない!」
そこに迫る三条の鋭い水の刃。
皮膚に届けば八つ裂きにされかねない、必殺の一撃が承太郎に迫る。
この速度、この角度でよけられる道理は無い。
「────スタープラチナ・ザ・ワールド」
しかし。
承太郎がゲブ神の凶刃にとらえられることはなかった。
時が止まる。
いや……止まるほどに遅くなる。
時の遅延に遅延を重ね、強力な力で留められた時が凍りつく。
相対する相手を超えていくスタンド、スタープラチナがその敵を「加速する時」だと定めたが故のゆらぎ。
原作承太郎が加速の末に時の停止へとたどり着いたとするなら、その逆。
世界を留めて留めて留め置いて、その末に停止へとたどり着いたということだった。
加速の末に一巡にたどり着くように、停滞の末に停止へと至った極致の御業。
スタープラチナ・ザ・ワールドと言うよりスタープラチナ・メイド・イン・ヘブン、といった方が正確だったろうスタンドだ。
1秒、2秒、3秒。
全力のスタープラチナに殴り飛ばされ、ヴァニラ・アイスは勢いよく首を回転させた。
4秒、5秒、6秒。
同時に、時の留められた間に俺はンドゥールの背後に忍び寄る。
ようやく速度を取り戻した時の中で、ンドゥールが驚愕に目を見開く。
「ヴァニラがやられただと……!いったいどうやって、」
「どうしてだろうなぁ。まぁ気にすることねぇさ、お前もここでリタイアだ」
「ッ!?」
大きな大きな蛇の毒牙が、ンドゥールを捉えていた。