手から血を垂れ流しながら、DIOは焦りに冷や汗を流す余裕の無い相貌で承太郎を睨んだ。
すでに6秒は過ぎ、時は流れを取り戻している。
「ちいっ、屍生人の数が多すぎるわい!アヴドゥル、焼き払えんのか!?」
「これ以上火力を上げればこの屋敷自体に引火してしまうでしょう!」
「僕のエメラルドスプラッシュでは屍生人には効果が薄い…くそ、承太郎とポルナレフだけにDIOを任せておくのは……」
多量の屍生人の処理に手間取るジョセフたちを横目に、DIOは慎重に口を開いた。
「何をした、貴様……スタープラチナは先ほどから時間停止とそのインターバルで手一杯だ。他に能力を発動する余裕はないはず…」
「さて、てめーに教えてやれるほど暇じゃないんでな」
「空条、承太郎……!」
ギリギリと歯軋りするDIOからは余裕の二文字がごっそり剥ぎ取られてしまっている。
「だが、少なくとも俺の【目】はテメーの運命を捉え終えた。これでゲームセットだ。初見殺しも甚だしいが…勝負ってのはそういうもんだろ」
「ほざけ!人間如きがッ!」
3度目のラッシュ勝負は、インターバル中につき両者ともに時間停止はできない中行われた。
音速にも迫らんと言う拳の応酬は風圧すら生み出し、花京院らの髪を揺らす。
「オラオラオラオラ!」
「無駄無駄無……っ!?」
突然、拳が泥人形のように抉れ、DIOは驚愕に顔を歪めた。
異常はそれだけでは終わらない。
こちらまで舞ってきた火の粉が不自然に膨れ上がり、DIOを焼き尽くさんと包み込む。
「KUAAAAAAA!!!」
DIOは一度大きく後退した。
屈辱に犬歯を剥き出し、「ケニーG!幻覚だ!幻覚を張れェ!!」と恥も外聞もなく叫ぶ。
瞬間、屋敷の廊下がぐんぐんと伸びていくような崩壊した幻覚に見舞われ、ポルナレフは慌てて走り出しかける。
「待ちやがれ、DIO、逃げる気か!」
「ポルナレフ、落ち着け」
「ここで逃せばまた回復されちまう!この屋敷にもし他に人がいれば喰われる可能性だってあるだろうがよ!」
焦りはポルナレフだけのものでは無い。
ジョセフもアヴドゥルも、この幻覚の打破に一分一秒でもかけたくないと言った様子だった。
そんな中、花京院だけは承太郎の変化に気がついて静かに問いかける。
「承太郎。……先ほども聞いたが、その目は何なんだい?」
承太郎は黙ったまま、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて【目】を細めた。
代わりに答えたのは、んべ、と口の中に格納していた矢を出して見せるアルカナテラーだ。
その舌の先に僅かな切り傷がついている。
ぴし、ぴし、と何かが破れるような音。
よく見ればザ・ワールドの殴打跡の向こう側に新しい鱗が見えた。
「脱皮せずにいたのは奴を騙すためでもあってな。レクイエムとして脱皮しちまえば姿が変わる。それで不審に思われても困る」
それすなわち、アルカナテラー・レクイエム。
それは矢の力で進化した、運命を決定づけるスタンド。
「目で捉えた相手の運命を画鋲で止めるように固定する力だ。承太郎が戦闘中ずっと発動してたんだよ」
「だからいつもの未来視の目と様子が違ったのか」
「……だがよぉ、それがどうさっきのDIOの様子と関係してくるんだよ」
「簡単な話だ。幾重にもある未来の中、奴の破滅をこそ固定してやったんだ。奴はもう死ぬしか無い。全ての未来が死へと収束していくんだ」
蛇は矢を引っ込め、そう言葉を締め括った。
運命を固定し収束させる、自然の摂理を操る力を説明して。
承太郎が補足するように口を開く。
「どうしても負荷があってスタープラチナのパワーが落ちちまうのが難点だな。目で捉えるのにも時間がかかる」
「お、恐ろしい能力じゃわい…!では逃げ出したDIOは…」
「時間はちょいとかかったが、奴はこの瞳で破滅を決定づけられた。もうどこに行っても逃げられねーよ」
廊下を走る。ドアを蹴破る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」
廊下で家具が不自然に倒れ、それが鋭利にDIOの方へと突き刺さる。
それによる出血が壁へと跳ね、DIOの足跡を残していく。
「一体これは何だ、奴のスタープラチナの射程はせいぜい3メートル…能力の射程が長すぎる!」
ふわりと風が舞う。その風がかまいたちとなってDIOの左足を切り裂いた。
屋敷に秘密裏に用意した緊急避難用の地下道を全力疾走し、能力圏外へと出ようとDIOは足掻く。
「ぐうう、外はいま朝だ。緊急用につないだ地下道から街の下水施設へ逃れれば距離を稼げるはず…!」
街の地下に張り巡らされた下水道にはすぐに到着した。
ここまでいけばどこへでも通じる。
しかし。
下水道の水が跳ねる。それは溶解液のようにDIOの左足を溶かした。
ぐしゃり、と限界を迎え左足が崩れ落ちた。
「足が…動かん…!糞がァ!このDIOがこんなところでェェエエッ!」
動けないDIOを追い詰めるように、ごごごごご、と奥から唸り声のような音が響いてくる。
それは洪水か、はたまたどこかが詰まったのか、汚水の波が空間を埋めるように大量にDIOへと迫ってきていた。
その全てが鋭く尖った杭のように迫り出し、不自然なまでに攻撃的な形をとっている。
「う、ぉ、あ糞がァァアアアアア!!!」
咄嗟にDIOは迷宮のような地下水道の上階、もう一本走る水道へつながる壁を破壊した。
がらがらと瓦礫を吹き飛ばしながら上へと退避して。
「っ、ば、馬鹿なァァアッ!」
そのまま──。
上階の天井が壊れ、日光が差している中に無防備に入ってしまう。
じゅうじゅうと体を焼かれ、それでも這って動こうとするDIOの頭へ、ギロチンのように磨かれたマンホールの蓋がゴロリと落ち。
そうして。
「承太郎、これは……!」
「ああ。DIOは逃げきれなかったようだな。自分自身の滅びの運命から」
承太郎たちが現場に到着する頃には、男性一人分の灰のみが水に浮かんでいた。
脳内のDIO様が「まだだッ!!」って言ってるけどここで強制終了。
でないとこの人無限に足掻くから……。