戦士達の憩い
DIO討伐後の諸々は刺激的でこそ無いものの重要な処理ばかりであった。
戦後処理、というのは大げさすぎるが……気持ちとしては似たようなものだ。
街中で派手にドンパチやったせいで近隣住民に不審がられたし、通報を受けた警察だって様子を見に来ていた。
それをSPW財団の力を借りて黙らせるのには相当の苦労が必要だった。
またDIOのせいでカイロを中心に頻発していた大勢の行方不明者の事務的な手続きも難航した。
死体は皆屍生人と化して灰になってしまったし、ほとんどの場合攫われたのでなくDIOの危険な色気に惑わされて自ら来てしまっていたからだ。
捕らえたスタンド使いの管理制度の作成も頭が痛い問題だ。
一人でもやっかいなのに、今回のようにスタンド使いが徒党を組んで犯罪を犯せば同じスタンド使い以外に対処のしようがない。
早急にスタンド使いの犯罪者に対処する法制度を作らねばなるまい。
他にもあの大量の屍生人の残党がいないかどうかの確認のため、ジョセフの伝手で波紋使い達をエジプトへ数名呼び寄せることになったり。
トト神に不吉な予言が出て騒ぐ弟ボインゴの真相を確かめるためはるばるアメリカへ行ったり。
数え上げればきりがない。
そして一息吐ける段階となってようやく、スターダストクルセイダースの祝宴が催されることになったのである。
「かんぱーい!」
「と、いいつつ僕らはノンアルコールですけどね、承た、………それはビールかい?」
「美味ェ」
「コラーっ承太郎!いい加減にせんかい!ホリィからも聞いとるぞ、コーラ飲むみたいに気軽にビールかっ食らっとると!」
「蛇さんは擁護できないなー。肝臓にだけは気をつけろよ」
「わかってる。それよりポルナレフ、テメーはこの後予定あるのか?」
この世界線ではポルナレフ戦が無かったがゆえに経験していなかった中華料理店でテーブルを囲う形式の飲み会だ。
わざわざ日本のビールを取り寄せて、かつ缶の下の方に穴をあけてグラスに注ぐ承太郎にアヴドゥルは半笑いだ。
一口目を思いっきり楽しんだ承太郎がポルナレフへと問いかけたので、ポルナレフは一つ瞬いてから答える。
「フランスへ帰るつもりだぜ。誰もいなくなろうが、俺の故郷だからな」
「そうか。連絡手段はあるか?」
「ああ?家に電話くらいならあるぜ。番号は前に伝えた奴だけどよ」
「もう10年もすれば携帯電話が一般的になる。出たらすぐに買え。番号は【目】で分かるからな」
「お、おう……?」
「携帯電話というと、時々サラリーマンが持っとるショルダータイプのやつじゃったか」
この時代の携帯電話というと少し前に営業マンが持っていたショルダータイプの激重電話か、ほんの去年発売された電話子機がそのまま携帯型になったようなものぐらいだ。
これでも進化の過渡期というやつで、ポケベルの普及、10年すれば着メロも登場する急成長を遂げる。
転生者で未来視の蛇アルカナテラーたる俺からすれば、なんだかタイムスリップしたような気分になる話だった。
「ポルナレフは今後イタリアでとんでもねー事件に巻き込まれるからな。すぐに連絡が取れるに越したことはねぇ」
「なにぃーーッ!?俺がかよ!」
「具体的には亀だな」
「蛇、そうさせねぇために俺らがいるんだろうが」
「亀ってなんだよ!?俺はどうなっちまうんだよ!?」
混乱するポルナレフに俺は頷いた。亀は亀だよ。
喚く電柱を全く無視し、花京院は感慨深く上を見上げた。
「日常はまだまだ続く、か。まるで物語のような大冒険だと感じていたけれど、これで終わりというわけではさらさらなかったんだな」
「花京院がそう思うのも分からんでもねーな。超能力者だと言っても自分がバトル漫画の登場人物だとは思ってねぇもんな」
「アルカナテラーはこれからも承太郎についていくのかい?」
俺はぱちくりと瞬いた。
予想外の質問だったからだ。
「そうだぜ。承太郎は俺唯一の相棒だからな」
「また話し相手になってもらってもいいかな。学校は遠いが、アヴドゥルさん達と違って休みのたびに会いに来られる距離ではあるし」
「おいおい、俺という本体を持ちながら浮気とはいい度胸じゃねぇか。なぁ?」
「当て擦んのはやめんかい。まだ根に持ってたのかよ。というか、定期的に集まろうって話無かったか?」
「ワシもホリィに会いに日本へ行くからのぉ、アヴドゥルも一緒にどうじゃ?」
「ぜひご一緒させてください」
「えっ、ずりーぜ2人とも。オレも行く!」
花京院がややワクワクした様子でがたりと前のめりになった。
ゲーム好きのボッチとしては理想的な状況だったからだろう。分かるぞ、わかるぞ花京院よ。
「フルメンバーですね。せっかくですし皆でF-MEGAでもやりませんか?」
「それ、ニホンのゲームだろ?お前の一人勝ちになる気がするぜ……」
「俺は次々回作のF-MEGA:Xが好みなんだがな」
「っ!承太郎、発売日は?【見】たんだろう?次回作の方でもいい!」
「次回作は3年後の4月だぜ」
「さ……さんねん……」
うら若き高校生にとって3年は長すぎる。
真っ白に燃え尽きた花京院はすぐさま気を取り直して、「だがそれだけ待てば素晴らしいゲームになっているに違いない。そのはずだ…!」と気合を入れなおしている。
ちなみに、この世界線に於いてF-MEGAは次々回作XからPlayStati○nの作となる予定だ。
きっと楽しいから期待して待っているが良い、と俺は温かい視線で花京院を見た。
「うむ。やはりワシの方もゲームに少々投資しとくべきかもしれんな」
「……もしや株主優待とかあるんですか」
「そりゃあるわい。保有率が多ければ直接経営陣と話もできる」
にしてもすごい食いつきだな花京院。
もう3年のことは忘れたかのような立ち直り方である。情緒どうなってんだ。
「それにしてもさっきから浮かない顔してんな、承太郎。どーしたんだよ?」
ポルナレフがポンと承太郎の肩をたたいて顔を覗き込んだ。
やはりポルナレフは兄属性なだけあって人の感情にさとい。承太郎の表情は余人には常の仏頂面に見えるだろうが、実のところかなり心にダメージを負っているからだ。
らしくない、と言い換えていいが……それだけショックだったという事だ。
俺は承太郎の後ろから顔を出してポルナレフにフォローした。
「承太郎は少々未来を見過ぎてナーバスになってんだよ。20年後まで詳細に見ちまったせいでなぁ」
「……」
「敵か?お前が気に病むような強大な敵……なのか?」
ポルナレフの真剣な表情に怜悧な戦意が浸透していく。
承太郎は緩く首を振り、しばらく黙ったままだった。
「……娘と」
「うん?」
「娘とどういうふうに接していいのか分からない」
ちょっと理解に苦しんで、ポルナレフはうぅん?と犬が困ったような声を出した。
床で最高級ジャーキーをもそもそ食べていたイギーが思わず振り向く困った感だった。
「……娘ェ!?」
「待て待て待て待て待て承太郎、それはワシの曾孫ってことか!?そうじゃな!?そうなんじゃな!?」
「まだ結婚もしてないだろう君。悩みが早すぎないか?」
いきり立つジョセフさん、宇宙猫と化すアヴドゥル。場は混沌としている。
真顔で花京院が突っ込んだ。
「妻と」
「妻ぁ!?結婚するとか聞いとらんぞワシは!」
「ジョースターさん落ち着いて。座ってください」
「離婚することになって、私はそんなつもりではなかったが、結局は私が悪かったのだ」
「承太郎、一人称が私になってるから。ショックは分かるが未来につられすぎだから」
「薄情な蛇は黙ってろ。これが飲まずにはいられるかよ」
「そんな理由でビールに手を出してたのかよ……」
ポルナレフがもう一度ポンと肩をたたいた。哀愁を背負う男へのせめてもの慰めだった。
そんな飲み方をして若い時から肝臓は大丈夫なのか。俺は不安でならない。
わいわいがやがや。
部屋を貸し切っての中華飲み会はにぎやかだ。
夜はゆっくりと更けていく。
静かに穏やかに、戦士達に安らぎの帳をおろすように。
「それよりもだ。ジジイ、【見】たぜ」
「…?なにをじゃ?」
「杜王町」
「ブフゥーーッ!?!?」
「ジョースターさん、汚いです」