学校帰りの人波がまばらに歩道を埋める時刻。
仗助、億泰の2人組もその流れに乗って帰宅の途についていた。
仗助、億泰という見るからに不良といった風体の学生が連れ立って歩いているものだから、周囲の学生たちがチラチラと心配そうに距離をとっている。
そこから少し離れた先に康一は歩いている。
数日前に空条承太郎と名乗る歴史学者の名刺をもらった康一は、その彼が東方仗助と親戚関係だと言うことを風の噂で知った。
それでなんとなく気になって、康一は仗助たちの方をチラリと盗み見た。
見てみれば、周囲の空気になんとなく釈然としない表情の仗助と、それをつゆ知らず愉快そうに口を開く億泰の姿があった。
「よお仗助、今日俺んちこねーか?今日は珍しくアヴドゥルさんがウチに来てんだよ。お土産のお菓子たくさんあるっつーんでよ、一緒に菓子パといこうぜ!」
「ああ、オメェのもう1人の親父さんだっつう、あのエジプトの人か」
遠くから聞こえる2人の話し声につい康一は耳をそばだてた。
なんというか、彼の周りは実に国際色豊かだ。
あのいかにも彫りの深い外国人然とした顔立ちの仗助といい、エジプト人らしい知人といい。
日本から出る時は海外旅行程度の康一には新鮮な空気感だ。
「いい人だよな。おめーの親父さんが持ってたっつー矢を財団で守ってんだったか?」
「そうだぜ。まぁ俺も兄貴もあんな変な矢どうなったっていいけどよぉ。あの人が持ってんなら間違いねぇよ」
「あの人のスタンドほんとクソ強ェからな。DIOの残党とかいうのが来ても精々丸焼きだろ」
と、そこでふとこちらに気がついた仗助と目が合った。
盗み見たことは気まずいが、ここで目を逸らすのも余計に怪しい。
苦肉の策で「やあ、仗助くん」と右手を挙げれば、仗助はパッと顔を明るくした。
「お、承太郎さん肝入りの勇者君じゃねーか。ほら、こっち来いよ」
手招きされるものの、どうしてもメンツ的に不良に絡まれる善良な一般生徒みたいな絵面になってしまう。
はははと笑って仗助のところへかけていったが、周囲の目線は厳しい。
「先生に言う?」なんてひそひそ聞こえてきて肩身が狭い。
なんにせよ、康一には空条承太郎に自身が気に入られる理由にかけらの心当たりもなかった。
「僕もあの怖い人にどこが気に入られたのか分からないんだよね……」
「あの人の【目】は何があろうと正しいからな。おめーは承太郎さんが一目置くほどのやつってことだ。自信持てよ」
「えーー。そうかなぁ……僕は君たちみたいに不思議な力を持ってないし」
康一にとって彼らの超能力──スタンド、というらしい──は未知そのものだ。
【目】というのも何かわからないが……おそらくは空条承太郎の持つ超能力なのだろう。
そういった特殊な力を持たない康一には、彼らは遠い世界の住人だ。
あえて言うならTV越しに見るヒーローに近い。
しかし、仗助にとってはそうではなかったようだ。
「こんなん個性と一緒だっつの。太眉か細眉かの違いぐれーで、承太郎さんが気にするわけねぇ」
心からの本音を喋るトーンだった。
事実、その通りではあるのだろう。仗助はこの通り学生で、皆と一緒に学校に通っている。
それを思えば、きっと能力とは個性の一部でしかないのだ。
「そういや俺、あの人に前アドバイスしてもらったらさぁ、テストの点数メッチャ上がったんだよな」
「あっ、ずりーぞ!俺もテスト前に話聞きにいこっかなぁ。もしかしたらテストの問題教えてもらえるかも」
テストの問題を教えてもらえるとはどう言うことだ?と思ったが、きっとあの人はクレヤボヤンス(千里眼)に似た能力を持っているのだろうと勝手に当たりをつける。
「そ、それはないんじゃないかなぁ。その辺は厳しそうな人だったし」
「俺ん時はよ、苦手な問題教えてくれたんだよ。そしたらそこがちょうどテストに出たんだぜ」
「あー……そういう感じか。それならまぁ、承太郎さんも教えてくれないでもないのか。つかやっぱずりーだろ、未来見えるとか」
おお。どうやら当たりだったらしい。
未来視とはこれまた苦労が多そうな能力だ。
夢がなくなりそうで康一としては遠慮したいところだった。
「俺も未来見て宝くじで一攫千金してぇ~」
「俺も俺も。ほしかった新作の靴買い放題…………はぁー」
欲望を駄々流しにし、2人は嘆息した。実に素直で結構。
気持ちは分からんでもないため、康一は半笑いで2人に声をかけた。
「ほら、帰ろう2人とも。ゲーセン寄る?」
「寄る。やっぱ承太郎さんに言ってみてテラーさん貸してもらおうかな……脳みそ爆発すっかな……」
「お、おいよせよ仗助。俺一回やってみたけどよ、あれはやべぇぜ。あと一歩遅かったら穴という穴から具噴き出してた気がすっし」
「どんだけ命知らずなんだよオメー!?あー、もういい。細かいことは忘れて今日こそクレーンゲームで俺の千円を取り返すんだよ!」
「おし来たぜェ、俺のクレーン捌きを見せてやるぜェ!」
「2人とも行きつけのところあったりするの?ならそこに行こっか」
ぷるるるるるる、と。
そこでふいに誰かの電話が鳴った。どうやら億泰の持っている携帯電話のようだ。
しゃっと折りたたみ式のアンテナを伸ばし、電話に出る。
「んんーっ?アヴドゥルさん!?おう、おう、ん。……分かったぜぇ!」
電話先は噂の「アヴドゥル」さんとやらのようだ。
電話を切った億泰が、少々困った顔をしてこちらへと向き直る。
「いま家に承太郎さんが来ててよ、それで急いで来いってさ」
「承太郎さんが?何かあったのか……わかんねーけど、呼ばれたなら行くっきゃねーな」
「スタンド関係の話かな?……じゃあ僕は帰るよ。ゲーセンはまた明日だね」
「……」
康一の僅かばかりの寂寞に気がついたのか、何か言いたげな顔で仗助がこちらを見た。
やはり仗助は人の感情に聡く、優しい人だ。
そうして仗助が口を開く前に、億泰が困り果てた様子で言葉を続けた。
「それがよぉ、なんでかわかんねーけど、康一も連れて来いって」
「「え?」」
ちなみに、今花京院はイタリアで潜入捜査中です。