ジョセフ・ジョースターは驚愕しているらしい。
目の前で行われる炎の乱舞すべてを読み切り、スタンドをうまく使って避けて見せる承太郎の姿に。
一糸乱れぬ緻密さで炎を避ける承太郎と、それを完璧に予期しているように動く蛇体。
そのどれもが埒外といえば埒外だ。
「ものすごい防御力のスタンドじゃあッ!アヴドゥルの炎をものともせんとは!」
いやそこよりも承太郎の動きを見てくれよ。
なんでスタンドの動きについて来れるんだよ、高校生のレベル超えてんだろ身体能力!
……まぁ仕掛けとしては単純だ。
承太郎の瞳は俺のそれと同じ、星の散る不可思議な瞳へと変貌している。
これは俺の瞳、未来予知の能力が承太郎にも宿っている証だ。
エピタフよりも詳細に、トト神よりも広域に幾重もの可能性を見ていれば、この程度のアスレチック軽いものだ。
いやまぁ、身体能力は普通に承太郎の自前なのですごいのには変わりないけど。
鉄をも溶かす高熱の炎を腹のうろこで受け切り、俺はアヴドゥルの位置どりをもう一度確認した。
アヴドゥルの顔には若干の焦りが見える。
やはり空条邸の中庭じゃ遠慮なく炎をぶっ放すってわけにもいかなくて戦いづらいわな。
俺の体を盾に上手く炎を避け続ける承太郎が、ひとつ舌打ちをして俺に視線を寄越した。
「おいアルカナテラー、もっと【目】の精度を上げられねーのか!」
「無理!これ以上精度を上げると承太郎の頭がパーンってなるけどいいか」
「いいわけねーだろうが!っくそ、あちぃ」
現状、千日手に入りかけている。
俺は炎から承太郎を守り切るので精一杯で攻撃に転じる暇がない。
アヴドゥルはといえば広いと言えど限りある中庭で炎を操るには神経を使うのだろう。
先ほどから攻めあぐねている様子。
炎によって上がり続ける気温に、承太郎が汗を垂らしながら悪態をついた。
これ以上は体力面でこちらが不利か。
「しゃーねーな……もう一段だけ未来予知精度を上げる。吐くんじゃねーぞ!」
「誰が吐くって?」
強がっていられたのもこの一瞬のみ。
次の瞬間には承太郎はぐうう、と苦悶に膝を折りかけた。
間断なく迫り来る炎をギリギリで避けながら、歯ぎしりとともに【目】から受ける苦痛を逃がしていく。
これ奥歯が折れるんじゃないかと心配になってくるな……。
ばっと目を見開いた承太郎の瞳はさらに宇宙の如き色合いを濃くしている。
無事馴染んだようだ。
ここまで深く馴染んだのなら、お互いが見ている世界線がどれかすらも把握できる。
承太郎が叫んだ。
「っ63手目、てめーのラインに合わせる!」
「了解!とちるなよ承太郎、いくぜ!」
未来視で同じ【目】を持つが故の阿吽の呼吸だ。
同じ視界に映る景色にお互い頷き合い、その意図するところを交換する。
なめられたものだな、とアヴドゥルが顔をしかめ、その炎を食らいつくさんばかりに強くする。
「クロスファイヤーハリケーンスペシャル!」
「見えてたぜ、この大渦は」
瞬間、承太郎が跳んだ。
スタンドと挟み撃ちにするかのような動きで生身をさらす。
それは致命的な隙のようにも、命を投げ出した特攻のようにも見える。
蛇体には生半可な温度の炎では効かないと分かっているアヴドゥルは、すぐさま狙いを承太郎へと切り替えた。
「愚かな!そんなちんけな陽動で私のマジシャンズレッドを欺けるとでも思ったのか!」
大きく跳躍、そのまま尾を盾に迂回するように右へ走る。
俺は牙を剥き、精一杯脅威に見えるよう左回りでアヴドゥルの元へ。
それら一瞬の交錯。
銃弾だって避けられるだろう。その瞳の予知によって万に一にも無い可能性を掴み取る。
炎がわずかな手のブレによって承太郎を避ける。
偶然の風が熱を防ぐ。
全てが全て、我が瞳の前では必然となる。
「チェックメイトだ」
は、とアヴドゥルが息を呑む。
承太郎の動きに気を取られすぎていたアヴドゥルは、その頭の後ろに大きな牙がひたりと添えられていた。