一人歩き型スタンドなオリ主と承太郎   作:ラムセス_

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振り返ってはいけない小道

 

 承太郎のいるホテルの喫茶コーナーから帰る道すがら、岸辺露伴は地図を片手に街並みを観察していた。

 ちょっとした取材程度のものだ。

 漫画のネタになるかもわからない細かな閃きを得るための散歩に近い。

 そこで不意に、地図に無い道を露伴は見つけた。

 

 近くにいた広瀬康一とともにその地図に無い道を進めば。

 そこで、杉本鈴美と名乗る女性の幽霊と、街に潜む殺人鬼という悪を知ることとなった。

 

 奇妙な、本当に奇妙な邂逅だった。

 妙に馴れ馴れしい杉本という幽霊の様子も引っかかるが、その殺人鬼とやらも妙に気にかかる。

 露伴はことのあらましと「あの殺人鬼を止めて」という杉本の涙ながらの願いに言葉を詰まらせた。

 漫画のネタになるのなら、とあくまで条件をつけて承諾することで奇妙な胸騒ぎを誤魔化す。

 

 そんな時のことであった。

 

 声は露伴の上から聞こえてきた。

 

「よかったじゃないか、杉本鈴美。お前の15年にも及ぶ願いが叶いそうでなァ?」

 

 思わず空を見上げ、露伴は言葉を失った。

 邪悪の滴る、巨大な影が空を覆い尽くしていたからだ。

 

 口だけで家一軒を丸呑みにできそうな巨大さ。

 黒々とした鱗に黄色のダイヤ模様が警戒色を彩る。

 翼は蝙蝠の羽のようで、そこにしわがれたトカゲのような手足を持つ。

 蛇に似て、しかして竜。

 物語に謳われるドラゴンに似た巨大な生き物が、露伴と康一を見下ろしていた。

 

「え、アルカナテラー、さん……?」

 

 見上げる康一が動揺に震える声を出す。

 

「そうとも、そうだとも。我が名はアルカナテラー。人の未来を喰む蛇である」

「それにしては随分と見た目が違うようですが?」

 

 ヘブンズドアーを構えながら露伴はゆっくりと言葉を選んで問いかけた。

 何かあれば、アレは遠慮なくこちらへと牙を剥く。

 そのような確信があった。

 

「我が身は分体でなぁ。ここ、あの世に近い場所でしか見えぬものを見て、本体に情報を伝えるためにここに配置されているのだよ」

「………」

「だが、少々この場の空気が肌に合いすぎたらしい。「昔」を思い出し、ここで物思いに耽っていたらいつの間にやらこうも育ち切ってしまったというわけだ」

 

 くくく、と竜は忍び笑いをした。

 ぞっとするような悍ましい悪意が、言葉の端々から滲み出ている。

 

 そこへ杉本鈴美がぱっと間に入り、心配そうな顔をして庇うようなことを言い出した。

 

「アルカナさんはアーノルドと一緒に私を守ってくれているのよ。話し相手にもなってくれるし」

「こんなのと親しげに話せるのか、きみは。頭がおかしいんじゃないか」

「それは偏見よ。いい人よ、アルカナさんは」

「嬉しいことを言ってくれるな、杉本鈴美。だが俺も腹が減ってはどうしようもないのでな。喰らう時は喰らうだろうよ」

 

 見上げるほどの悪意が目を細める。

 口にはゾロリとした牙が整然と並び、手の爪はいかなる肉食獣であろうとミンチにしてしまうであろう粗雑さを持つ。

 

 いい人?と露伴は首を傾げた。

 アレがいい人なら、この世の大概の人間はいい人になるであろう。

 

 露伴先生!!と小声で絶叫するという器用さを見せた康一が、露伴の袖を引っ張って無理やり内緒話の姿勢に持って行った。

 他ならぬ康一が相手だからそんなマネを許すのであって、これが仗助なら思いっきり袖を振り払っているところだ。

 

「本当にあれはテラーさんなんですか!?だってあれ、どう見てもドラゴンですよね!?」

「……恐らくはアレが怪異・アルカナテラーの本来の姿なんだろう。いや、アルカナテラーという名ですら無いな。西洋文化に則って具現化した怪異、悪魔の類か?」

「話についていけてないんですけど、今からすぐに承太郎さんに報告しに行きましょう、ね?」

「そうだな。…ふむ、アレが本物の悪魔として成ったものだとしたら、むしろ被害者800人という数は非常に少ないのでは」

「行きましょう露伴先生!メモは今じゃなくてもいいですから!!」

 

 急いで露伴の背中を押す康一にされるがまま押されて、露伴は帰途に就く。

 「あ、待って、この道にはルールがあってね」と杉本鈴美が声をかける。

 

「では、俺の分体をつけてやろう。多少振り返っても逃げ切れるくらいの時間は稼げる」

「……ありがとうございます」

 

 蠢く黒いヒルのような蛇をずるりと瞳の中に入れられ、二人は身震いした。

 拒否したいが、「振り返ってはいけない小道」の危険性も本物である以上、守りを失うのは得策では無い。

 じっとりと汗をかく露伴に対し、竜はからからと笑って言葉をかけた。

 

「案ずるな。その小蛇は小道を抜けた段階で自壊する。お前たちを害す気はない」

「……ええ、分かっていますよ」

 

 そうして。

 

 帰っていく二人の後ろ姿を見送る一人と二匹、杉本鈴美とアーノルド、そして蛇たる竜は静かな時を享受するのだ。

 竜が片目を瞑り、縦に細い無慈悲な瞳をギョロリと動かして言う。

 

「勇者ゆえ見逃したが…実に美味そうな二人組であったな。ああ、腹が鳴る」

「貴方は承太郎さん?というご主人のところに戻らなくていいの」

「戻ったところでここまで肥え太った身を支え切れるほど承太郎も器が育っておらぬ。分体たる俺は役目が終わればここで朽ちるのみよ」

「なら、無事あの殺人鬼を止められたら、私と一緒に成仏の途につくのはどうかしら?」

 

 にこり、と杉本鈴美が笑う。

 予想外のことを言われたと言う顔をして、竜はぱちくりと瞬きした後静かに笑った。

 

「そうさな。時が来たらあの世に向かう道でお前の警護でもしてやろう」

「!……ありがとう、アルカナさん。早くその時が来るといいわね」

 

 

「…そうさな。ああ、勇者の活躍を楽しみにしていよう」

 


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