富豪村とは。
住民の全員が25歳の時にその土地を購入し、その後皆例外なく大富豪になったという。
それは人里離れた山並みの中にある不可思議な村。
公共インフラはほとんど備わっていないにも関わらず、まるで富裕層の別荘地のように設備が整っているのだとか。
そんな富豪村のことを編集者から聞いた岸辺露伴は、あることに気が付く。
一番最近購入したのが、当時25歳だった若き歴史学者───空条承太郎であるということに。
「承太郎さん?イタリアについての資料を持ってきましたが」
高級ホテルの405号室が現在の空条承太郎の杜王町における拠点となっている。
そのドアを露伴がノックすれば、すぐに部屋の主により入室の許可が出た。
低い「ああ、露伴先生か。どうぞ」と、開ける前から来客が分かっていたかのような言葉は、事実彼の【目】が未来を捉えていたからこその言葉だろう。
部屋の中は広く、隣のスペースは転がってくつろげるよう畳張りになっている。
奥に見えるのはバスルームだろう。ベッドルームが別にあり、そこは無人で明かりがついていないようだった。
承太郎の娘である徐倫が、畳張りのスペースでおままごとをやってキャッキャとはしゃいでいる。
一緒にいるのはスタンドの蛇、アルカナテラーだ。
「くーじょーじょーたろーさま、ごーかくです。山の神はあなたへこの土地をぉー売りません!」
「こら徐倫、それじゃジョセフさんに金をせびらなきゃならなくなるだろ?「売ることをお決めになりました」だろ?」
「きめましたー!」
「そうそう。今更だけどなんで俺ら富豪村ごっこやってんの?需要ある?」
「じゅよーってなに?」
「楽しいかなぁ?ってことだよ、徐倫」
「楽しいよ!!!これ、とうもろこし!!」
「トウモロコシなんで???うーん、あんがとよ、徐倫。けどなぁ、怪異はあんまり形が似過ぎると類感が起こってあぶないんだけどなぁ…まぁこれくらいならいいか」
そこで露伴は、そういえば編集者から聞いた富豪村の件で、承太郎が最近富豪村の土地購入者に名を連ねていたという事を思い出した。
「25歳、というと数年前のことですかね。承太郎さんが富豪村とやらで土地を買ったのは」
「ん、露伴先生も富豪村について知っているのか?……そうだな。イタリアで起こる事件の解決のためまとまった金が必要でな。娘の教育費も必要だった」
「金が必要なのに土地を買うんです?」
「『そういう』土地だからな」
露伴もオカルトを信じていないわけではない。
富豪村の土地購入者が大富豪になったのはまごうことなき事実であるし、実際自分自身オカルトとしか言えない能力を所持している。
だが、そういう類のものに承太郎が手を出すとは思っていなかったのだ。
承太郎は露伴からイタリアについての資料を受け取って「ありがとう、助かった」と頭を下げた後、こともなげに言葉をつづけた。
「富豪村のアレはかなり強固なルール側の現象だ。だがルールを守りさえすれば人間にはかなり有益だからな。未来視に頼らずとも普通にマナーを丸暗記すればいいだけの話だから、対処は非常に容易だ」
「なるほど……ルール内の存在に手を出すことは決してない、と」
こくり、と承太郎がうなずく。
徐倫ととっくみあいごっこ(スタンド有)をしていた蛇が顔だけ出して話に合流した。
「最初はさぁ、普通に未来視でいい株を見て買って売るだけの簡単な仕事のはずだったんだがな。どうも承太郎は自分のことになると杜撰で」
「杜撰じゃねぇ。ただ少々財団の依頼で予定が重なっただけだ」
「で、売り時を逃したりしていまいちなんだよな。金の増え方が」
やれやれ、と実に欧米な反応をする蛇だ。徐倫が「もーーテラーはよそ見ばっかりして!すとーんふりー!!」とスタンドを発現して蛇を絞めている。
締め技は反則だぜ!?とがんじがらめに縛られた蛇が泣き言を漏らした。
「それでも十分すぎるぐらいじゃないんですかね。いち考古学者の資産にしては」
「徐倫首は、首はダメだから、とと。……だめなんだよそれじゃ。少なくとも6億ははした金と言い切れるレベルじゃないと。だからオカルトに頼ってもっと放っておいても片手間で増やせるようにしようとな」
「6億とは大きく出ましたね。大富豪にでもなるつもりで?」
「どうせならジョセフさんぐらいにはなりたいよな。投資界の王。な?」
「面倒だからそこまではいい」
「承太郎ォ!この意気地なし!徐倫にたくさん資産を残したくないのか!!」
なんだかムキになっているらしい蛇が徐倫の肩に巻き付き、しゅーしゅーと悪だくみを吹き込むように徐倫にささやいた。
徐倫は蛇使いみたいな姿にご満悦のようだ。ノリノリでポーズを決めている。
「ほら徐倫、かわいい顔して!」
「うん!えーっと、ダディは私の事嫌い?」
一人と一匹の熱い視線が承太郎へと突き刺さる。
うっ、と最強のスタンド使いは思わずうめいた。
「いいや、お前を愛してるぜ、徐倫」
「ふふーん。ダディは徐倫のことが大好きなんだよ!ね、テラー!」
「そうそう。間違いない。徐倫は超かわいくて素敵で頭もいいスーパーガールだもんな!」
「うん!徐倫はすごいの!テラーもそーいってる!」
やれやれだぜ…という承太郎の顔もまんざらではない様子で、どことなく微笑ましい。
子煩悩ということのリアルな事例としてこれはこれで資料価値があるかもしれない。露伴は素早く承太郎の様子をスケッチした。
実は15分に1回は妻と徐倫の無事を【目】で確認してるんだぜ、と追加で補足した蛇に、露伴は頷いてスケッチブックに情報を書き込む。
「ほう……」
「いい度胸だ、蛇」
承太郎はむんず、とスタープラチナで蛇をつかんで顔に影を背負った。
やば、と蛇が蛇の身で器用に冷や汗を流す。
そして、おらおらおらおら、と無言で承太郎はスタープラチナにてお手玉を始めた。
「おわわわわやややめろ承太郎めめがまわわわ」
「誰がお前の本体か思い出させてやらないとな。露伴先生もそう思うだろう?」
「わかった承太郎悪かった俺が悪かったです反省してますすすす」
高速でお手玉される蛇というまたとない資料を露伴は我関せずスケッチした。
この二人はこのように間々、思わぬネタになるような行動をするのだ。
半分以上、露伴はそれを目当てに協力していると言って過言ではない。
お手玉に飽きた承太郎が部屋のソファへと座り、広げてある各種資料を改めて確認しだす。
「だが…ジジイの時も思ったが、これ以上遠い親戚が増えるのはごめんだぜ。金は面倒この上ない」
「遠い親戚が増えて困る金持ちの孫か……思えばなかなか汎用性の高そうなシチュエーションじゃないか。ちょっと家の集まりとかあれば僕も同伴したいんだが」
「断る」
承太郎のセリフは秒速だった。
断られてなおめげない露伴がもう一度再トライする。
「イタリア語を完璧に喋れる、と書き込むという条件はどうです?」
「イタリア語なら喋れる」
「露伴先生、諦めろ。承太郎は本気になったら現地人レベルでしゃべれるようになるほど語学センスがすごい」
「チッ」
露伴は舌打ちした。実につまらない。
こっそりついていってもこの未来視のスタンド使いの前ではすぐにばれてしまうだろうし。
「まぁ、なんにせよだ」
蛇はくらくらと頭を回しながら露伴を見た。
承太郎も同様に、露伴の身を心配しているように見える。
「露伴先生も気をつけろ。ルールを守りさえすれば有益ということは、破ればとんでもないペナルティを受けることになる」
「明日行くんだったか?自分と同行者に『完璧にマナーを守ることができる』とか書いといたほうがいいぜ。そうしないと死人が出る」
「そうでしたか。助言感謝します」
全然感謝してなさそうな顔で露伴は薄っぺらく感謝した。
なにぶん、未来視によるあらかじめ全部分かった風な助言というのは、リアリティの「鮮度」が落ちるので。
露伴はそのあたり、あんまり好きではないのだ。
明日から第5部突入です。
徐倫はアメリカに置いていかれ、二週間ほど泣き怒り也。