辻彩「イタリア裏社会でうまく動けるよう変装したい、ね。分かったわ」
承太郎「私は顔が売れていてな。君がいてくれて助かった」
辻彩「裏社会受けする怪しい色香……あとこの人のイメージを崩さないカリスマ…悪の救世主……これだわ」
デン!(そこはかとないDIO臭)
承太郎「?」
蛇「そうはならんやろ」
黄金の風
「そこの人、市内までなら8000円で送りますよ」
旅行客狙いでネアポリス空港前の白タク業をはじめて、一ヶ月ほど。
ジョルノ・ジョバァーナはその日も資金集めを兼ねた裏社会情報収集のため、空港前で客引きを行っていた。
そして空港入り口より外へ出てくる人波の中、一人の男に声をかける。
白いロングコートに同じく白いズボン。
身長は2メートル近いだろう。
体格も良く、がっしりと筋肉に覆われた体は並のギャングでは蹴散らされて終わりといった威圧感がある。
加えていうなら。
男はどこか、怪しい色香を纏っているような、不思議な魅力というものを持っていた。
その男はジョルノの前に立つと、そのまま無表情でこちらを見た。
そして初対面のはずのジョルノの名を、なんでもないように呼び上げたのだ。
「君に会いたかった、ジョルノ・ジョバァーナ」
ジョルノは静かに身構えた。
このギャングはびこるネアポリスで個人を知られているということ自体、危険極まりないからだ。
警戒したまま男へと問いかける。
「何者です、貴方?」
「承太郎、とだけ名乗ろう。君に用があってきた」
「へえ……。なんですか、僕に用って」
事と次第によってはゴールド・エクスペリエンスで切り抜ける必要も出てくる。
己の腕に重ねるようにゴールド・エクスペリエンスの腕を出し、手持ちの飴を生命へと変える下準備をする。
しかし、男はまったく敵対する様子をみせず、自然体といった風体でスーツケースに体重を預けている。
「それよりもまずは腰を落ち着けられる場所が必要だな。送ってくれ、場所は……地図は見えるか、この通りにあるホテルだ」
「……そこなら料金は8000円です。荷物は自分で助手席に積んでくださいね」
「わかった。それと、荷物泥棒はほどほどにな。イタリアに好意を持つ罪のない旅行客を苦しめるのはあまり好ましいとは言えない」
「いやだな、僕はそんなことしたことありませんよ」
上滑りする会話が警戒と敵意とを巻き込んでぱちぱちとした乾いた空気を生んでいる。
ジョルノが運転席に乗り込むと、男も助手席に荷物を載せてバタン、と扉を閉めた。
そこで思いっきり急加速。
激しく路面をかきむしるタイヤのゴムがギュギュギュギュと異音を立て、ぐんと体がのけぞるようなスピードを生む。
無論、白いロングコートの男を置いたままだ。
今頃呆然としているだろう男への意趣返しとして、ジョルノは大きく息をついて独り言ちた。
「貴方の荷物はいただきました。せいぜいここから貴方の身元と目的を探らせてもらいますよ」
言って隣の席を見れば、そこには。
ぽっかりと、座るものも荷物もない助手席だけが静けさの中にあった。
先ほど男が置いたはずの荷物が、間違いなく出発の時に確認したはずの荷物がそこには無かった。
「!?」
「本当に油断も隙もないな。荷物は返してもらったが、約束通り8000円は支払うから安心するといい」
ジョルノは息を呑んだ。
置いていったはずの男がバックミラー越しに見えている。車内で何食わぬ顔をしてスーツケースを手に、こちらを無表情のまま覗いていた。
そして足を組んで泰然と、優雅なまでに憂いがちに目を伏せる。
「馬鹿な、一体どうやって」
男は微笑むだけだった。
そこに反発を覚える若さと力強さとをジョルノは持っていた。
「その胆力、野心。流石はジョースターとDIO、双方の血を継ぐ男」
「ッ!父のことを、知っているのか」
「ああ、知っている。君の父親のことも、君の生まれについても、私は知っている」
「………」
余りにも知りすぎている。
ジョルノの危機感は最大限までに高まっていた。
この男は間違いなくジョルノ個人を狙ってここまで来たのだ。このようにジョルノ自身ですら知らない過去を探れるだけの組織性と資金を背景に。
「改めて聞く。僕に何の用だ。ことと次第によっては僕は貴方に攻撃をしなくてはならなくなる」
「気が早いな、ジョルノ・ジョバァーナ。だが…そうだな。これぐらいは語っておくべきか」
ミラー越しに男が肩をすくめた。
きっと世の女性が放っておかないだろう整った顔立ちで。
「君の旅に同行したい。即ち、君が打倒するであろうギャング・パッショーネのボスの最後をこの目で観察すること。それが私の望みだ」
「……なんだって?」
「できればその後君の助力も得たいが、それはその時考えてくれればいい」
わけがわからない。
だがギャングスターになる、というジョルノの夢を知っていて話しかけてきたのは間違いないのだろう。
敵意が無いのが逆にぞっとする。
車はいつの間にか目的地、つまりは旅行客用の変哲のないホテルへと到着していた。
「ここだ。聞きたいことがあれば上がってきてくれ。私は荷解きをする」
「………」
ジョルノは逡巡した。
ここで一歩踏み込んでこの男の情報を集めてもいい。虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うのだから、多少の攻めの姿勢は必要だ。
しかし相手の思うつぼ、という感が無いでもない。
じっとりとした手汗がジョルノの緊張を表していた。
「あーっ、お前は!!!」
そこでばったりと、目的地であるホテルから出てきたのは、先ほどネアポリス空港でジョルノの荷物泥棒の被害にあった「能力者」と思しき少年であった。
ジョルノに指を突き付け、険しい目つきでこちらを見ている。
ああ、面倒な、とジョルノはため息をつきたいここちであった。
「僕の荷物を返せ!……って、承太郎さん?」
「!」
ジョルノは息の呑んだ。まさかあの少年がこの謎の男の知り合いだとは思っていなかったからだ。
いや、思い返せばこの男もまた「能力者」なのであろう。そうであるなら、先ほどの不可解な現象に説明がつく。
「知り合いか、康一君……いや、違うな。君も被害にあった口か。まったく、よくやる」
「……荷物は全部売ってしまったのでもう手元にはありませんよ」
「いや、いい。康一君の物については私の方で補填しよう。すまないな、康一君」
目の前に犯人がいる状況でそんな言い分で収まるわけがない、と思ったものだが。
予想に反し、康一というらしい少年はするりと矛を収めた。
「……なんか納得いきませんが、承太郎さんがそういうってことはその方がいいんだろうし、わかりました」
少年の様子と、無表情のロングコートの男と。
双方を見比べて、ジョルノはゆっくりと口を開いた。
「貴方は一体何者なんだ。なんでも見通すような意味深な発言といい、不可解すぎる」
「変装中の今は承太郎、以外の名乗りは難しい。それなり以上に有名なのでね。発言については特に意識したことはないが…そうだな。君と同じようなチカラ、スタンドをわたしも持っている」
首にかけていた蛇の剥製のような物が、ふいに起きあがってシューシューと鳴き声をあげた。
思わずのけぞれば、それが本物の生きた蛇らしいことが理解できた。
「これはわたしのスタンド、名をアルカナテラーという。神秘を語るものの名の通り、わたしの目は全てを見通す」
どこか真摯に、厳かに男は告げる。
祈りにも似た感情がそこに詰まっていることを、ジョルノは理性ではなく直感で感じ取っていた。
「どうか君のこれからの旅路の同行者にしてほしい。君の思うよりは力になるはずだ」
沈黙が場を支配する。車が通りすぎる音と、町の喧騒のみが耳を打つ。
この男に敵意はないことはわかった。そして、そして、純粋にジョルノの道行きを見たいと思っていることも。
そのために力を貸すことも惜しまない、と考えていることも。
だが。
「……お断りします。自分の道は自分で切り開く。それがギャングスターというものだ」
はっきりと、ジョルノは男の目を見てそう言った。
「そうか。残念だ」
男もまたジョルノをまっすぐに見て、わずかに顔をほころばせながら微笑んだようだった。
くるりと踵を返し、ジョルノは半身で視線だけを男へとむけて挑戦的な笑みを浮かべる。
「最後に一つだけ」
「……?どうした、ジョルノ・ジョバァーナ」
「コレは、迷惑料代わりに貰っていきます」
「!」
手の中でお手玉される、男の黒い長財布。
男はさすがに驚いたらしく、目を見開いていた。
そのまま取り返される前に勢いよく車を急発進させる。
態度に反し大した額も入っていない財布のようだったが、あの男に一泡吹かせてやったと思えば、その程度気にするまでのことでもないように思えた。
「いやぁ、悪童悪童。あのぐらいでなきゃ運命は打破できないって奴よ、なぁ承太郎」
「そうだな。しかしやられたな。財布をすられる可能性はそう高くはなかったはずだが」
「ゼロじゃないってことはその数%の可能性をつかみ取る奴もいるってことだ。うんうん、若い時の承太郎もあんな感じで勢いがあったよな」
「そうだったか。なんにせよ縁は結べた。レクイエムもディアボロのスタンドも、大渦を打破するための貴重な情報になるはずだ」
「一歩一歩丁寧にってな。今回俺ら、はっきり言ってストーカーだし」
「言うな」
DIO似補正
・正義側の人間にやや警戒される
・悪側の人間がやや好意的にになる