ボスの足跡を追い、一行はサルディニア島へ向かっていた。
ヴェネツィアにて襲ってきたスタンド使い、ティッツァーノとスクアーロはジョルノが打倒した。
花京院により人に嘘を吐かせるトーキング・ヘッドの正体を素早く見破られてしまい、早々にティッツァーノは敗退。
水の中を瞬間移動するクラッシュは、水を物体と捉えて生命に変える離れ業を見せたジョルノによって生命線である水場を枯らされてしまい、そのままラッシュを喰らったのだった。
これについてジョルノは「カキョーインは戦闘中にゲームについてマシンガントークするのはどうかと思いますよ、助かりましたが」と述懐している。
そうして現在、飛行機に乗って上空1000mの旅をしている。
出発前に敵スタンド使いに襲われるトラブルも発生したものの、不自然に無抵抗な敵スタンドであり特段の遅れもなく出発することができた。
「飛行機には嫌な思い出しかないんだよね」
花京院が大きなため息をついた。
その本当に嫌そうな様子に「いやいや、どうしたんだよ」とミスタが興味ありげに聞き返す。
「空の密室だろう?ここで敵スタンドに襲われると本当に対処が難しいんだ」
「そりゃそうだろうな。銃も下手に撃てねぇ、身動きも取れねぇとくればなぁ」
思わずミスタも機内を見渡す。もしここに敵スタンドが現れたら。
セックスピストルズを使ってうまく弾丸を操作すれば、窓など影響の少ない場所から弾丸を逃がすこともできるだろう。
敵も人間である以上同条件には違いないが、普段と違う気遣いを必要とするところは面倒だ。
花京院が遠い過去を思い返すように窓の外を見やった。
歴戦のスタンド使いらしき彼の過去話に、いつのまにかチーム全員が聞き耳を立てている。
「昔敵スタンド使いに飛行機を墜落させられて……特にグレーフライの時なんか、ジョースターさんの活躍が無ければあと少しでインド洋の藻屑になるところだった。まさか承太郎のいない帰り際を狙われるとは」
「グレーフライ?」
「趣味で乗客の舌を切り取って旅客機を落とす最悪のスタンド使いさ」
人の舌をハンティングトロフィーみたいに掲げて、趣味の悪い奴だったよ、と花京院は嘆息した。
その言葉に何か思い出したのか、一番知識階級に近いフーゴがなにやら下を向いてつぶやいている。
「グレーフライ……ジョースター……舌、まさか」
「フーゴ、どうした?」
「……そのジョースターって、まさか世界最大の怪奇現象研究機関、SPW財団の?」
フーゴの言葉に反応したのはナランチャだ。
意外と知識に対して貪欲な彼は、ハテナマークを浮かべて首を傾げた。
「SPW財団?」
「オカルト雑誌では定番の噂話ですよ。世界で福祉や子供の教育に力を入れるSPW財団が、実はジョースターという超能力者の一族に忠誠を誓う秘密結社だったって」
「なんだそりゃ、眉唾もたいがいだろ」
「オカルト雑誌の情報なんだからそんなもんですよ。で、SPW財団がかかわってるんじゃないかって話はたくさんあるんですが、その中に飛行機の墜落事件があって。10年前エジプトから飛び立った旅客機877便が、乗客のほとんどが舌を抜かれた状態でインド洋上で発見されたって話です」
実にオカルトらしい内容だが、ミスタが眉をひそめて前の座席から振り返ってフーゴを見た。
「いやなんでお前そんなの知ってんだよ」
「スタンドを制御するすべが何かつかめれば、って当時は藁にも縋る想いだったんですよ」
「あーー……」
フーゴのスタンド、パープルヘイズの能力はまさに凶悪の一言だ。
制御の利かない殺人ウイルス、その即効性凶暴性は筆舌に尽くしがたい。
それを気にしてフーゴが一時スタンドの情報収集に努めていたのはミスタも知っていた。
「ああ、そうだよ。当時それに乗ってたんだ、僕。ちょうどその便」
「じゃあ…舌を引き抜かれてた乗客ってのは」
「お察しの通り、グレーフライはスタンド使いさ。他人の舌を引きちぎることに快感を覚えるゲス野郎で、無駄に基礎能力の高いスタンドだったから苦労したよ」
と、そこまで語ったところでカリ……と奇妙な音が一同の耳に飛び込んだ。
それは話声でざわめいていた機内に不自然に響き渡り、皆一斉に沈黙する。
しばらくの無言と警戒、殺気が機内に満ちる。
「探索なら…ナランチャ、呼吸の反応はここだけかな」
「え、エアロスミス………ああ。機内の反応は俺らだけだ。敵が潜んでるって感じじゃねー」
エアロスミスを機内で静かに一周させ、ナランチャはレーダーを確認していった。
険しい顔をしたブチャラティが静かに花京院へ目配せする。
「ならばカキョーイン、頼めるか」
「ええ。ハイエロファントグリーン!機内をくまなく探れ!」
緑の触手が機体に憑りつくように這いまわり、外壁から内部のパイプまでくまなく捜索していく。
花京院が目を細める。
そして立ち上がり、つかつかと座席の後ろへと歩いていく。
お、おい花京院、というナランチャの心配そうな声を尻目に、花京院は何のためらいもなく機内後部にあった小さな扉を勢いよく開けた。
そしてそこにあったのは。
「骨?に、冷蔵庫……」
「人の指の骨だね。どういう意図かはわからないが」
一緒になって覗いたジョルノも目を瞬かせた。
お前たちの足跡はわかっているぞ、という意味で脅しとしては上等だが、人の指を仕込める暇があるのなら爆弾の一つや二つ仕込んだ方がずっと有意義だ。
敵方のスタンド発動条件である可能性も考えてジョルノは高速で思考を開始したが、すぐに花京院の深刻そうなつぶやきで中断されてしまう。
「………まさか、先ほどの男……これはまずいかもしれない」
「どうかしたんですか、カキョーイン」
暗い顔をして冷や汗を流す花京院につられ、ジョルノの緊張も増していく。
他のメンバーも席を立ち、警戒態勢だ。
「聞いたことは無いかい?スタンドは死後、一人歩きすることがあるという事を」
「一人歩きだぁ?そりゃ一体どういうことだよ」
「例えば僕の会ったものだと、死した刀工のスタンドが刀に宿って500年の時を経て残っていたり。あるいは悲劇の死を遂げたスタンド使いが、その恨みをスタンドに託すことで大災害に発展したり。そういうことがあった」
「……それとこれと何の関係が……いや、さっきのあいつがそれだってのか!」
「ええ。その証拠に、その窓を見てください」
全員が一斉に窓を見る。
そこにはいつの間に書かれていたのか、落書きのような文言が特徴的な字で書き殴られていた。
つるりとハイエロファントの触手で窓の落書きをなぞる。
「人の指、そして浮き上がる文字、不自然な場所にある稼働したままの冷蔵庫。こういう取り留めもない、ある種様々な能力が複合したかのように見える、ホラーじみた理不尽かつ奇妙な現象。それは」
うじゅる。うじゅるうじゅる。
冷蔵庫内の指が突如沸き立ち、近くにいたジョルノへと猛烈なスピードで襲い掛かってきた。
「恨みで肥大化したスタンド……怪異の特徴だ!」
「エアロスミス!」
「トリッシュはこちらへ!」
トリッシュをリードするフーゴの横をすり抜け、先ほど出したままだったエアロスミスをナランチャが猛発進させる。
不意打ちされたジョルノをぎりぎりよける形でプロペラによる抉り攻撃を繰り出せば、かすったエアロスミスの機体がボコリと欠け、フィードバックでナランチャが血を吐く。
同時に殴りぬけようとしたジョルノのゴールドエクスペリエンスも左腕をぽっかりと喪失してしまう。
うじゅる、と指は不気味に沸き立ってその体積を大きくする。
「こいつっ、喰っているのか!」
「っ他人の生命エネルギーを糧にして自分のエネルギーに変えるのは怪異のよくある特徴だ!」
「触れたらダメってことかよ!ならどうすんだよ!?」
「怪異相手なら、条件を見破って逃げ切るのが一番早い!打倒は不可能と考えた方がいい!」
「なんだそりゃ!?倒せないって、そんなのありかよ!」
「少なくとも、僕は倒せる怪異に遭ったことはほとんど無い!」
「力強く言うことか!」
同時刻。
小型漁船でサルディニア島近海のある地点へ来ていた承太郎は、船上で上空をじっと見つめていた。
「わたしのスタープラチナでお前を飛行機まで放り投げる。お前は上でノトーリアスBIGを喰う。いいな?」
「ねぇやっぱ俺の輸送方法どうにかなんない!?スタプラに鷲掴みにされて全力投球って、まるで人権が無いだろ!?」
「どうにもならん。お前が自分で飛べればそれでいいんだが」
「この羽は滑空用だし、飛べるまで肥大化したら承太郎がスタープラチナ出せなくなっちまうじゃねーか」
「ではだめだな。大人しく剛速球で吹っ飛んで行ってくれ。狙いの正確性は保証しよう」
「この悪魔!人でなし!」
「なるほど、お前とおそろいの属性だな」
「んぁあーーーーー!!!」
「言語を無くさないでくれ。事が終わったらトニオのところで徐倫達も連れて一緒にフルコースを食おう」
「許した」
「現金過ぎないか」
たぶんSPW財団は月刊ムーとかで特集されてる。