一人歩き型スタンドなオリ主と承太郎   作:ラムセス_

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竜なる蛇

 

「トリッシュ、早く奥の部屋へ!」

「分かってるわ!」

 

 フーゴに手を引かれ、トリッシュがコックピット手前の部屋へと慎重に移動していく。

 道すがら窓の外に見えるのは、暴風吹き荒ぶ機体外へとなんとかノトーリアスBIGを誘導した花京院とブチャラティだ。

 

 外には翼から機体まで幾重にも張り巡らされたハイエロファントの触手があり、それの間を飛び移る花京院をサポートしている。

 組みつかれそうになったら触手の動きでうまく行き先をコントロールし、いざ実際に組みつかれれば共にいるブチャラティのジッパーで触手ごと切り離す。

 時折弾丸を乗り捨てる形でセックスピストルズの補助が入る。

 

 ギリギリの攻防が続き、なんとか均衡は保たれている状況だった。

 

 今にも吹き飛ばされそうな速度の中、ブチャラティが息を乱しながら険しい顔で花京院へと問いかける。

 

「敵が速すぎる!これではジリ貧だ!速度に制限が無いのか!」

「ルールはシンプルみたいですね。速度が速いものへそれを上回るスピードで襲い掛かり、エネルギーを喰らう。おそらくは超音速旅客機でも同じことができるだろうさ!」

「フーゴのウイルスを使う……いやだめだ、こんな密閉空間で使ったら最悪全滅する。カキョーイン、手はないのか!?」

 

 食い付きかけたノトーリアスBIGの肉片を触手からエメラルドスプラッシュを放つ事で逸らす。

 花京院は欧米人じみた様子で肩をすくめた。

 

「飛行機はあきらめて僕たちだけで脱出すれば万事解決だ。僕たちが地中海の藻屑になる可能性が高いという問題はあるが」

「却下だ。俺たちがサルディニア島にたどり着かなければ意味がない」

「なら着陸と同時に僕とナランチャで弾丸を思いっきり海に向かって放ってアレを誘導、その後撤退すれば波のスピードに敵を釘付けにできる」

「……問題は、それまで俺達が持つかどうか、か」

「そうですね。このまま全力で逃げ続けて、もって15分と言ったところかな」

「サルディニア島まで残り1時間と少し。絶望的だな」

 

 今のままなら遠くないうちにエネルギーを取り込み増殖した怪異に喰われて終わるだろう。

 生き残りをかけて飛行機を捨てることも視野に入れ、ブチャラティは歯噛みした。

 

 その時。

 

「……な、」

 

 ブチャラティが、思わず言葉もなくソレを見た。

 同じく振り返り、花京院が「あ、アル…」とだけ言って目を見開く。

 

 そこには。

 大きな大きな口が。柱のような牙が。高層ビルの如き巨体が。

 黒々とした蛇体をくねらせ、こちらを丸呑みにしようと口を開く、怪物の姿があった。

 

 避ける暇など無かった。

 花京院達を含めた自家用ジェット全てを丸呑みにする。

 

 咄嗟に花京院もブチャラティも、スタンドを出して覆い被さるように自らの身を守った。

 ずるずるずる、と体内を通る違和感と暗闇とが高速で通り過ぎる。

 

 そうして、ふいに明るくなった景色に、ブチャラティは顔を上げた。

 相変わらずの凄まじい風に髪をかき混ぜられながら、辺りを見回す。

 

 先ほど通り過ぎたはずの蛇は、もう既にどこにも見当たらなくなっていた。

 

「通り過ぎた、のか。さっきのは一体…」

「──来ていたのか、承太郎」

「ジョータロー?」

「僕の友です。……ひとまず中へ入りましょう。敵は消えたみたいですし」

「なに!?」

 

 先ほどまで猛威を振るっていたノトーリアスBIGの姿が見えない。

 見渡してみても、ついさっき花京院の触手に食いついていたはずの増殖中の肉片がきれいさっぱり除去されていた。

 

 その異様にごくり、とブチャラティは息を呑んだ。

 わけがわからない、というのが正直なところなのだろう。

 花京院に先導され、ひとまず機内へと戻る。

 

 開け放たれたハッチをくぐりようやく墜落死の危険のない安全な機内へと戻ってきて、無意識に詰めていた息がほっと戻ってくるのを感じる。

 ブチャラティは元凶である冷蔵庫周辺を見渡して敵の姿がないのを確認し、ようやく自らのスタンドの具現化を解いた。

 

 ふとみれば、フーゴとトリッシュも含めた機内組が一ヶ所に集まっている。

 

「お前達、一体どうしたんだ?」

「あ、ブチャラティとカキョーイン!それがさ、ジョルノが突然気を失っちまって」

「っ、容態は!?」

「息はあるぜ。傷もない」

 

 一体何が、やはりさっきのスタンド攻撃らしき巨大な何かが……とブチャラティが思案に暮れていると、花京院が深く得心がいったような顔をして頷いているのが見えた。

 

「やはりさっきのはアルカナテラーだったんだ」

「アルカナテラー?」

「僕の友のスタンドだ。恐らく、僕らが危機的状況に陥ることを知っていて、手助けしてくれたんだと思う」

 

 その安心したような様子にブチャラティは懐疑的な心を捨てきれなかった。

 その友とやらが何故自分達の状況を知っている?何故都合よく海のど真ん中に待ち伏せていられる?

 

「友人が助けようとしたってのは分かる。だが、なぜそんなことを事前に知ることができる?」

「そりゃ分かりますよ。さっき僕たちを飲み込んだ大きなスタンド像、アルカナテラーの能力は『未来予知』なんですから」

 

 予知能力。

 ブチャラティは目を見張った。

 この口ぶりは数秒とか数十秒とかの話ではない。

 少なくとも数時間は先の未来を見据えて、こんな海のど真ん中まで先回りできるレベルの未来視を持っていると言う事だ。

 「時々あるんですよね、事前に言ってくれればいいのに。不意打ちで来るからびっくりするんですよ」と呆れたように花京院が息をつく。

 

「ジョルノが気を失っている理由にも心当たりがあるのかよ」

「ああ、ミスタ。僕もこっち支えるよ。……たぶん、アルカナテラーを一時的にジョルノに憑かせたんだ。海からじゃ射程が足りないから」

「憑かせたって……背後霊じゃねーんだから、そんな事可能なのか?」

「アルカナテラーは普通のスタンドじゃないからね。僕らを襲った先ほどの肉塊と同じ、怪異に分類されるんだ」

 

 怪異、の言葉で一同はピリリと気を引き締めた。

 その厄介さ、どうしようもなさは先ほど嫌と言うほど教え込まれたばかりだ。

 

「そいつは本当に敵じゃねーんだろうな」

「勿論。敵ならさっきの肉片を放っておけば直に僕らは全滅していた。態々介入する事自体が味方の理由になるだろ?」

「……ノリアキ、そのスタンド使いは何者なの?」

 

 トリッシュが恐る恐る聞く。

 あの強大な怪異を先ほどの一瞬で排除するようなモノと敵対する事があれば、たとえブチャラティ達であろうと命を落とすかもしれない。

 そんな恐怖が滲んでいる。

 

「アルカナテラーの本体……承太郎はしっかりした身分の人だよ。ほら、出発時に話していただろう?SPW財団のスタンドユーザー部門の人間さ」

「SPW財団?いやいや、なんで普通の企業がスタンド使いなんて雇ってんだよ!?やっぱオカルト秘密結社だったりすんのか?」

「嫌だな、普通に各地のスタンド犯罪を取り締まってるだけの真っ当な企業だよ」

「それ十分真っ当じゃないと思いますよ…まさか僕の読んでた記事が割と正解の部類だったとは夢にも思いませんでしたけど」

「なぜカキョーインはSPW財団のそんな内情を知っている?そのジョータローとやらに聞いたのか?」

 

 ブチャラティの問いに、花京院はあっけらかんとしてポケットから社員証を取り出した。

 首にかける安っぽい青い紐がぴらぴら揺れる。

 

「いや、僕も一応財団に勤めてるからね。給料良いし福利厚生もバッチリだし。イタリア支部の社食は美味しいんだ」

 

 差し出されたのは財団ロゴと共に表の会社らしい硬質なデザインのICカードだ。

 一緒に一万リラ札が折り畳まれて入っている。

 裏には日本支部発行らしい──今気を失っているジョルノしか読めないであろう日本語で──「地震の備え」というタイトルのついた紙に花京院の直筆で名前と連絡先が書かれていた。

 

 一同はどう答えて良いものか分からず、僅かばかり沈黙した。

 

「秘密結社っていうから、もっとこう、あー、秘されてるのかと思ってたわ…」

「まるっきり表の企業じゃねーか!じゃあなにか?さっきのはマジで純粋にダチを助けにきてくれた奴がいたってことかよ!?」

「承太郎は意外と過保護なんだ。前も唐突にふらりと現れて怪異を消すだけ消して何も言わずに去っていった事がある。連絡ぐらいくれれば良いのに、水臭いなぁ」

「そうか……うん。ならいいか。うーん、いいのか?よくねー気がするが……いいか」

 

 ミスタが混乱してうんうん唸り出した。

 ブチャラティも同じ気持ちであったが、皆のリーダーである手前混乱する姿を見せられず黙りこくるしかなかった。

 ナランチャは「良いやつだなー」と気楽なコメントをしてフーゴに殴られていた。

 

 トリッシュだけは「ジョータロー、どこかで聞いた事が……」とポツリと溢すのであった。

 





・SPW財団公式HPより抜粋
財団活動理念 「星に願いを」
わたしたちSPW財団は、より良い社会のために──(略)

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