「ちょっといいか、占いをしてもらいたい」
昼。サルディニア島。
とある占い師は、いつもの通りで少ない客相手に占いの営業をしていた。
そこに近寄ってきた白いロングコートの男に振り向き、今日初めての客にふむ、と顔を向けた。
そして、驚きにぱちくり、と瞬きをした。
「ええ、他に客もいないし構いませんよ。だが…」
占い師は眉を顰めて白いロングコートの男をもう一度見た。
あまりに予想外の事態だったので、自分の耳がおかしくなったのかと訝しんだと言った方が正しいか。
「貴方は占いを必要としない人だ。というより、どうやってかは分からないが、自分で自分の道行をはっきりと理解している…」
「ッ、なるほど、分かるのか!」
「ええまあ。同業者…というわけではないようですが、一体何故私に占ってもらおうと?貴方は既にその運命を十分認識されておられる」
占い師の瞳から見えるのは、巨大な蛇の双眼と、ぐるぐる渦巻く時間のトンネルのみ。
詳細はわからないが、この男の後ろには未来へ続く開けたトンネルと、それを見る瞳とが鎮座しているのだ。
「私が分かるのは未来だけだ。占いとは未来を見るだけでは務まらない。そうだろう?」
「…おや、含蓄がありますな。ええ、その通り。占い師ならば未来を見るだけでは不足だ。それをもってお客様の導きとならねば、一人前の占い師とはよべますまい」
きっと友人知人に腕のいい占い師がいるのだろう、と思う。
男の語り口は真摯で、占い師を見る目も真っ直ぐだ。
「そんな占いに真摯な、確かな腕を持つ貴方だからこそ、問いかけたい。財団に来ないか?」
「……どういうことですかな」
占い師は男をまじまじと見た。
職業柄、見ればどうしても占ってしまう。男の様子には占い師を騙そうだとか陥れようだとか、そう言った悪意はかけらもない事がわかった。
このまま話を聞いても悪くない運命がある、ということも。
「あなたの占いは正確だ。極まった確かな腕というものを持っている」
「面と向かって言われると照れますなぁ。私も、そのように自らを自負しておりますが」
「では、これが何かはわかるか?」
男がトン、と白いクロスを敷いた机の上に手を置いた。
首を傾げる。
勿論男は何も持っておらず、手をついただけだ。依然として変わったところはなにもない。
それでも、占い師としての感覚が告げていた。
「なんだこれは…私の目には何も映っていないように思うのに、いや、間違いなくここには何もない!」
ざらりとクロスの上を手で一撫ぜする。
何か触れることも温度変化もない。
「だというのに、『これ』は貴方の右腕だと私には感じられる!」
ここには男の右腕がある。
魂だとか霊だとか、そう言った非物質的な何かがここにはあるのだ!
男はほう、と感嘆の息をついて机から手を離した。
「非スタンドユーザーだというのに、占いの感性だけでスタープラチナの腕を感じ取るか。やはり貴方は私が求めていた人材だ」
占い師として多くの客を相手にしてきたが、スタンドユーザーという言葉に聞き覚えはない。
男の素性がどんどん気になってくる心地がして、占い師は我知らず口角を吊り上げるような笑みを浮かべていた。
「他に何か私から感じられるものはあるか?」
「あとは……竜、でしょうかね。なにか巨大な災いが貴方を取り巻いている」
「というものの怯えた様子はないな?」
「この災いは既に打倒された後の…いわゆる名残のようですからな」
はっはっは、と占い師は笑って額を伝う汗を拭った。
名残という言葉に間違いはない。
だが、正しいというわけでもない。何故ならただ見るだけで吐き気のするほど黒々とした気配、死を望む声、未来を呪う呪詛がうねり叩きつけるように占い師へと吹き付けてきたからだ。
これのせいで今まで男の素性をうまく占えなかった。
占い師は沽券にかけて眼を開き、男の意図するところを占った。
「貴方もまた随分な冒険を繰り広げたように見えます。しかもハリウッド映画も顔負けの」
「そこまでわかるのか。ますます欲しいな」
白いロングコートの男は懐に手を入れ、内ポケットから予算①と書かれた紙片を取り出した。
それをパラリと何の気なしに机の上で広げる。
すると。
しゅるりと空気が入って膨らむようにトランクケースが現れた。
「ここに10億リラある。私に…財団に雇われてほしい」
「……私の占いの力をそこまで?」
「ああ。貴方がいるだけで減らせる危険がごまんとある。特に近年の怪異対策部門の被害は甚大だからな」
男は語る。
この世には不可思議な力による被害が多数あるのだと。それを防ぐため、SPW財団はその財を投じて被害の防止等に力を入れてきたのだと。
「私の未来視だけでは手が回りきらない。ぜひ貴方の力を借りたい」
「……、そこまで言われるのでしたら。貴方についていくのも、そう悪い未来は見えないですからな」
「有難い」
男は微笑んで占い師に名刺を渡してきた。
特徴的な車輪をモチーフにした財団ロゴが印刷され、男の名前──空条承太郎──が黒いしっとりとした字体で記されている。
スタンドユーザー部門 Division Director(部門長) 兼 Managing Director(常務取締役)。
「詳しい話は財団イタリア支部のオフィスで話そう。時間はあるか?」
「ははは。私はいつでも構いません。せっかくなので、一旦荷物を片付けますから少しそこで待っていただけますか」
「勿論」
一旦テントの奥へ引っ込んだ占い師の姿に、承太郎は一つ頷いて歩き出す。
道路の端では、ピンク色の特徴的な髪をした青年が車に轢かれそうになって転び、全身水浸しになっていた。
承太郎は知っている。
彼の名はドッピオ。真の名はギャング・パッショーネのボス、ディアボロだと。
肩をトントンと驚かせないよう優しく叩き、声をかける。
「そこの少年」
「は、はい?僕ですか?」
「ハンカチを落としたぞ」
一瞬だけ目と目が合う。
ドッピオは目をゴシゴシと擦り、涙目になって首をふった。
「あれ、目にゴミが入ったかな……じゃなくて、どうもです」
「ああ。気をつけろよ」
ドッピオは鞄を持ち直し、よろよろと去っていった。
「奴は食っていいのか?」
「これ以上太る気か、デブになるぞ」
「うううるせーででデブじゃねーし。というか俺にデブの概念はねーし!」
「徐倫にも『最近の蛇さんは大っきいねぇ』って言われてたじゃねーか」
「待って今裏声で徐倫の真似」
「『徐倫が乗れなくなって悲しいから、蛇さんはダイエットした方がいいよ』」
「笑う待てブフゥ卑怯だぞ突然真顔で裏声モノマネなんて道義に反する行いフヒィ」
「さて、帰るか」
「この流れで!?!?」
承太郎「なかなか似ていただろう(自慢げ)」
蛇「似てたけど!似てたけど!!!」