「この俺、ベイビィ・フェイスは追跡のスタンドッ!親となった人間をどこまでも追跡することができるのだ!!」
「無駄にポーズきめてんじゃねーぞ」
「待て、優しくしてくれと言っているだろう。ベイビィ・フェイスは口は悪いがメンタルは弱いんだ。羽毛でくるむようにそっと扱うんだ」
「打たれ弱い鶏ってもうこれどうすんだよ…」
ココッと鳴く鶏にポッケから出した米を手で食べさせるリゾットは、やや涙目な鶏をよしよしと撫でてミスタへと顔を向けた。
彼も既にジョルノによって治療を施され、大きな傷はない。
改めて場を仕切り直すようにリゾットは岩場へと腰掛けた。
横の岩に鶏を優しく置き、ブチャラティ達へと向き直る。
途中うっかり足を滑らせた鶏が「ひえぇぇ!」と声をあげながら岩から落ちかけたが、メタリカによる足場生成に助けられた。
「改めて。俺たちはSPW財団からの依頼でパッショーネボスの足取りを探っていたんだ」
「ッ、ボスだと!?この島に来たのは、その足取りがこの島にあるからか?」
ブチャラティの鋭い声に、リゾットはややあってから頷いた。
「そうだな。というより、このベイビィ・フェイスのスタンド能力は追跡だ。その能力でパッショーネのボスを追わせていたら、ここに辿り着いた、と言った方が正しい」
「……つまり、この島にはボス本人がいると?」
「待ってください、ブチャラティ。もしや先ほどナランチャ達が感知した逃げる人影こそが…」
ジョルノが口を出せば、リゾットはさきほど負った傷をゆっくりと撫でた。
能力は承太郎から聞いていたとはいえ、キング・クリムゾンは恐るべき強敵だった。
時を消し飛ばす異能は元より、近距離パワー型としての圧倒的出力もスタンド使いとしての咄嗟の判断もリゾットを苦戦させた。
「ああ、そうだ。先程まで俺がやり合っていたのがパッショーネのボスだな」
「貴方の傷はそのボスにやられた傷だったんですね」
ジョルノの断定するような口調にリゾットは頷いた。
「恐ろしく強かった」と端的にそれだけ言い、口を閉じる。
まだ血が足りず、息が続かなかったからだ。
「さっき、君は「SPW財団の依頼」と言ったな。君もSPW財団のスタンドユーザー部門の人間かな?」
そう言って花京院は懐から社員証を取り出した。
「っ!……貴方もそうなのか。そうだ、俺たち元暗殺チームのメンバーは部門長のもと正式にパッショーネから財団に移籍させてもらったんだ」
「承太郎が!なら間違いない人選だったんだろうね。彼が言うなら君達は本当に優秀な一握りのスタンド使いに違いない」
「……その期待を裏切らないよう、俺たちも力を尽くそう」
「ははは、そう気負わなくていいよ。財団の力も借りて、着実に仕事をこなしていけばいいさ。財団のサポートチームは優秀だろう?」
「ああ。情報収集から移動手段まで、助けられてばかりだ」
二人の若干和気藹々とした優しい空気に、周囲もなんとなく気を緩めていく。
これまで一緒に行動を共にしてきた花京院の仕事仲間であるなら、一定程度身分は証明されたと思っていい。
ただやはりどうしてもSPW財団という謎の巨大組織に対する不信感は募ってしまうわけだが。
「おいおいおい、なんで表の企業が組織の暗殺部隊なんか引き抜きしてんだよ。まじでフリーメイソンじみてんじゃねーか」
「パッショーネのシマを横取りしようというわけではないんだよな…?」
「勿論。SPW財団は真っ当な福祉と互助の財団ですよ?麻薬撲滅や人身売買阻止のためパッショーネに経済戦争を仕掛けることはあれど、汚い金を啜ろうとはしませんよ」
「ギャングに喧嘩を売る一企業って何なんです?」
「そこはまぁほら、僕らという実働部隊を持つが故といいますか」
ね、リゾットさん!と花京院に話しかけられてリゾットは多少動揺しながら「ま、まあそうかもしれない」と言葉を濁した。
やっぱどうなんだそれ、大丈夫なのかSPW財団。
どちらかと言えば陰謀論的な方向性の疑念は残った。
一般的なギャングであるパッショーネは関係ないかもしれないが、アメリカのホワイトハウスとかで裏の権力を伸ばしてそうだな……とは一同の共通の思いである。
「それよりだ。テメーらもパッショーネのボスを追ってんだろ?ならお得だぜ、俺の能力はよ!」
岩の上でふっくら羽を膨らませている鶏が自慢げに首を伸び上がらせた。
そして親しげにトリッシュへと話しかける。
「なぁ姉ちゃん、姉ちゃんもそう思うだろ?俺と違って姉ちゃんは追跡能力は持ってないみてーだし」
「姉ちゃん、って私のこと?」
「何言ってんだ、水臭いぜ。俺ら姉弟じゃねーか」
「………えーと。どこから突っ込めばいいかしら。まず私は鶏を親に持った覚えはないわ」
「とすると、ボスが鶏と番って生まれた異母姉弟ということになりますね」
「ジョルノ、テメェは真面目な顔して何言ってんだ」
全然信じられる様子もなく、むくれる鶏を横目にブチャラティ達は今後に向けて相談を重ねた。
「どうするんだ、ブチャラティ」
「……そうだな。俺たちも手勢の少なさは危惧していた。パッショーネの総力を上げて潰しにかかられたら」
「それはたしかに。今まで個々に刺客が差し向けられてきたのは幸運でした。それとも、これもボスの慎重さ…慎重すぎるが故でしょうか」
「過剰なまでに慎重なのは間違いない。この島で足跡を追うにも罠に警戒する必要があるしな」
アバッキオの意見に一同は頷いた。
狙われるとしたら一番可能性が高いのはムーディ・ブルースを持つアバッキオだ。
彼が巻き戻しをしている最中に奇襲をされてしまえば逃げられない。
ブチャラティはリゾットに向き直り、手を差し出した。
「では、お前達を一時的に同行者として認める。だが、お前達をすぐに全面的に信用というわけにはいかない。故に俺達のスタンド能力を教えることはできないが、いいな」
「ああ。構わない。俺はボスを探るという任務を達成できればそれでいいからな」
「コケッコ。妥当だな」
アバッキオが立ち上がる。
そして己のスタンドを顕現させた。
「では、まずは先ほど逃げたというボスの素顔をムーディ・ブルースで探ろう。その後は当初の目的地である海岸に行こうか」
「疑うわけではないが、根拠は多い方がいいからな」とブチャラティが言葉を続けた。
トリッシュが持っていた15年前の写真は、それ自体が15年前のその日その場所にパッショーネのボスがいた証だ。
そこでアバッキオのスタンド、ムーディ・ブルースを使えば、ボスの素顔がわかる。
それはこれからのブチャラティ達にとって、これ以上ない指針となるだろう。