「一体何が……」
小動物が道端に落ち、道行く人が倒れている。
しんと静まり返るコロッセオ周辺で、ドッピオは重い頭を振ってふらつきながら起き上がった。
そして、はっと手の中の携帯電話(人形)を見る。
「……ボス?ボス、返事をしてください!」
耳に人形をあて、ドッピオは焦りからウロウロと辺りを見回し、しきりに瞬きした。
記憶がとぎれとぎれなのはいつものことなのでそう気にはしない。問題は、いつもドッピオのことを見守っていてくれたボスの声が聞こえないことだ。
「どこだドッピオ、聞こえないのか?……ボス、あれ、さっきボスの声が聞こえポルナレフめ…何をした!」
「おーおー、ぐっちゃぐちゃ。まぁ仕方ないわな、今までが奇跡的なバランスだったって意味で」
ドッピオ/ディアボロはすぐさま戦闘態勢を整え、半歩下がった後重心を低く落とした。
見知らぬ声の主が誰なのか、とんと見当もつかなかったからだ。
周囲を見渡してもそれらしい影は見当たらない。
ディアボロは自らのスタンド、キングクリムゾンをいつでも発動できるよう実体化させた。
「お前は一体誰だ!ボスに何をした!」
「お前たちは入れ替わったのさ。いつものことだ。ボスの忠実なる腹心・ドッピオとパッショーネを支配する帝王、ディアボロ。その二つの魂が入れ替わった」
「何を……貴様、何を知っている。姿を見せろ!」
ディアボロが吠えるも、荒らげた声が静まり返った通りに反響するのみだ。
ソレはケタケタと笑った。
「その衝撃でお前らの中はごちゃまぜだ。無理やり卵の黄身と白身を入れ替えたようなもんだ。ポルナレフも可哀そうなことをする」
「バカな、そんなことがあってたまるか!…ボス!起きてください、ボス!ええい、静かにするんだドッピオ!私はここにいる!」
邪悪なせせら笑いがドッピオ/ディアボロを包み込む。
声の主すら判然としないまま、終わりをささやく蛇が嗤う。
「さぁ、ボスの身を守りな、忠実なるドッピオ。何物にも侵されぬよう。何者にも邪魔されぬよう」
そうしてたどり着け、永劫たどり着けない場所へと。
ちょうどブチャラティたちがたどり着いた時、パッショーネボス・ディアボロは亀入りポルナレフの上に馬乗りになり、自らのスタンドのこぶしを振り上げているところだった。
「オアーッ!?俺の身体ぁあああ!!!」
「頭をひっこめてくれポルナレフ、エメラルドスプラッシュ!!」
直前で攻撃に気付いたディアボロが一歩後ろへ引いて、エメラルドスプラッシュをスタンドの腕ではじく。
そしてそのままこちらをゆらりと見た。
「ああうるさい、蛇め、嘯くな! どいつもこいつも…邪魔を……するなァ!!!」
激しく頭を振り乱した瞬間、右半身が奇妙に捻じ曲がる。
なにか別のものに生まれ変わろうとしているかのように皮がはがれ、うろこ状のざらざらとした体節が顔をのぞかせる。
「この帝王ディアボロが、違う、僕はドッピオで……あれ?クソが、オレに何をしたジャン・ピエール・ポルナレフ!」
ディアボロの眼はほとんど狂気にまみれていた。
「何だありゃ、なにか形が、変わってきているのか?」
「俺のレクイエムの能力だ。魂を入れ替えた相手を『この世にない生物』へと変える力でな。二重人格のやつを入れ替えるとこんな意味わからんことになるなんざ俺も初めて知ったぜ」
「僕も君のレクイエムの能力は初めて知ったが…どこまでもプレーンなチャリオッツから一転して悍ましい能力になったな」
「悍ましい言うんじゃねーよ!」
ミスタが拳銃を構え、ちらっとブチャラティを見た。
「ここから撃つだけでもやれそうだな」
「いや、油断するな。前にやり合った時にカキョーインが見抜いていたが、奴の能力は時へ干渉する超級のもの。下手に近づけば手ひどい反撃を受けかねない」
矢を持ったまま、ジョルノが一歩進み出た。
「僕がやります」
「ジョルノ?」
「どうやらボスに手を下す役は僕が担うことになると未来が決まっているようですし。この美味しいポジション、逃がすほど無欲でもありません」
矢とポルナレフとを交互に見て、ブチャラティが顔を曇らせる。
「だが、本当に危険はないのか」
「物は試しというでしょう。もし本当ならば大幅な戦力増強にもなる」
ジョルノが矢を掲げる。その切っ先は鋭く、いかなるスタンドをも刺し貫く力が宿っている。
闇雲に宙へと攻撃を仕掛けるドッピオ/ディアボロの姿にわずかに嘆息し、ジョルノはその煌々と燃えるような瞳でディアボロを見た。
「死体蹴りをするようで気は進みませんが……刺客を差し向けられた関係でもあります。容赦をする理由は残念ながら見当たらない」
貴方を行動不能にした後、ゆっくりポルナレフさんのスタンドに対処することにしますよ。
そういって、矢を勢いよく己のスタンドへと振り下ろそうとする。
その姿に半狂乱であったディアボロも先ほどの光景──ポルナレフのスタンドに矢が刺さり、謎のスタンド能力が発動したこと──を思い出す。
「あれは!まさか先ほどの」と慄いて、絶叫した。
「やめろーーっ!キング・クリムゾン!!」
日の光に照らされて、逆光の中見える影がある。
とっさにキング・クリムゾンを発動して時を飛ばし、ジョルノの腹をぶち抜いたはずだったのに。
見える。見える。
瞳の中に潜む蛇も、その黄金体験をその未来視の瞳に焼き付けていた。
同時刻、承太郎はナポリ、ポジリポの丘から遠くナポリの街を一望していた。
その宇宙色の瞳には遠く遠く、並行未来を含めたあらゆる現在・過去・未来が夜景のように煌めいている。
「アレがゴールド・エクスペリエンス・レクイエムか」
「美しいなぁ、運命がぐるりと輪を描いて万華鏡みてーだ。俺のレクイエムもあんな感じにかっこよければなぁ」
「お前の目で見える景色は美しいと思うぞ、俺はな」
「サンキュー。お前のスタープラチナのレクイエムもかっこいいぜ、ちょっとチート臭いけど」
「チートとは心外だ、敵無しと言ってくれ。それに、お前は怪異として完成しすぎている。レクイエムでも大幅な変更の余地が生まれなかったのはそのせいだろう」
「つまんねーの。あ、そうだ、さっき奥さんから電話がかかってたぜ、徐倫が鬼泣きして暴れまわってるって。ほぼゴジラみたいな様子らしい」
「………蛇、頼んだ」
「お前それ『将来蛇さんと結婚する!』とか徐倫が言いだしてこの間散々へこんでたじゃねーか。そういうとこだぞ」
「いや、お前はわたしのスタンドだし、実質的にわたしと結婚したいと言ったに等しいはず」
「変な理論武装すんな。花京院にチクってやるぞ」
「やめてくれ」
蛇「ちなみに俺もボスに憑いて永遠死に続けてるんで寂しくないよ♡」
ボス「だんだんこの蛇に愛着湧いて来た(混乱)」