面会人がやってきたと聞いて、早いなと徐倫は思った。
なにせまだ何の手掛かりも得られていない。
あの父のことだからその程度分かっていて来ているはずだが、どういうことなのやら。
あのクソ親父の鼻を明かせずちょっとばかり癪だったが、それを徐倫は軽く飲み込んだ。
ムカつく看守の指示に従い、手錠をかけられたまま面会室へ。
面会時間は30分、外国語は禁止とのことだから、日本語での会話はできないだろう。
とはいえ、こちらにはスタンドを使っての会話がある。
内密に話をするには十分なはずだ。
さて、扉を開けたなかにいるのは。
2人の男性だった。
「よぉ、徐倫お嬢さん」
「あれ……イルーゾォさん?どうして私の面会なんかに?そっちは、父さん、じゃないわよね。誰?」
そこにいた1人はイルーゾォだった。
一時期、散発するDIOの残党たちの対処のため、徐倫達空条家の警護についていたこともある、生粋のエージェントだ。
長い髪を後ろで一つにまとめ、片手を上げて徐倫へと挨拶した。
もう1人──外見は空条承太郎そのものだ──は、ゴホンと咳払いして軽く笑った。
「いやいや、俺のクヌム神を一瞬で見抜くってどういうことだよ。まぁ、確かに俺は空条承太郎じゃないが」
男が帽子を取る。
それと同時に顔がグネグネとかわり、見知らぬ男のものへと変貌した。
「俺はオインゴ。SPW財団に勤めてる。お前の親父さんの命令で空条承太郎のふりをしてるんだ。悪く思わないでくれよ」
「なにそれ……父さん本人はどうしたのよ」
「なんでも『私が赴けば事態が面倒な方向に動きかねない』とのことだ。でも面会人は囚人の家族である必要があるってことでよ」
「あー……。分かったわ。仕事ご苦労様。父さんに化けるなんて、何が起こっても不思議じゃないでしょうに」
「ありがとよお嬢ちゃん。俺もちょっと心臓縮みそうになってんだ」
承太郎は年がら年中DIOの残党やら何やらに狙われる立場だ。
いつ不意打ちでこめかみに弾丸が飛んできてもおかしくない。
というか、実際空条家で昼飯を家族で食べていたとき飛んできた。
その時は軽くスタープラチナで銃弾を弾き飛ばし、「少し出る。先に食べていてくれ」と言い置いて10分ほどで制圧。
何事もなく昼食を再開していた。
その辺りはオインゴと名乗った男も理解しているらしい。
よくみれば青い顔で脂汗をかいている。ご苦労なことだ。
イルーゾォが話は終わったと見たのか、ふむ、と腕を組んでウインクをした。
「まぁ挨拶はそこそこに……マン・イン・ザ・ミラー!」
「えっ」
あっという間に、景色は反転した鏡の世界へと一変していた。
引き込まれたと言うことすら曖昧な、熟練のスタンド使いらしい早技だ。
「へー」とオインゴが物珍しそうに反転した時計をつついている。
「ちょちょちょ、ちょっと待って、いったい何!?」
「こうしろってのが我らがボスのオーダーでね。なんでも、敵襲があるから詳しい話は中でしろとのお達しだ」
「……なるほど、遠隔操作型か、もしくは近距離でも能力範囲が広いか。厄介ね」
そんな会話からほどなくして。
面会室全体がぐずぐずと溶け始めた。
SPW財団の手引きで部屋に設置された鏡もやや曇って外が見えづらくなる。
「うわ、えぐ……って、これプッチ神父のスタンド攻撃じゃない!?なんで!?」
徐倫の記憶が正しければ、これはホワイトスネイクの人を眠らせ溶かしてDISCを取り出す攻撃だ。
本人は「荒っぽい」としてあまり好いてはいない能力の様だったが、徐倫が子供の頃ねだって動物相手に見せてもらったのだ。
そばについていた看守が眠っているので間違いない。
「プッチ神父。スタンド被害対策部門のプッチか。スタンド使いなのにスタンドユーザー部門以外に勤めてる珍しい奴」
「マジかそれ。給料倍近く違うのに変な奴だぜ」
「一足早く大人の事情聞いちゃった気分だわ……それより、どうして神父さんが私たちを攻撃してるのよ!」
徐倫は混乱に目を白黒させた。
身に覚えが全くないどころか、つい先日会話したばかりだ。
そもそも、やるならあの時に不意打ちで徐倫のDISCを抜き取ってしまえただろう。
不可解極まりないそれに、徐倫は混乱していた。
オインゴが半笑いで肩をすくめた。
「またあれじゃね、DIOの残党がSPW財団に紛れ込んでたとか」
「あったな、そういう事件。ここ十年で2回ぐらい」
「いえ、それは無いわ。そもそもプッチ神父はDIOと交流があったことをわざわざ財団に公表してるの。その上で認められて財団にいる」
「でもほかに理由が無くないか?金払いはいい、福利厚生も充実、なら裏切る理由が無ェ」
イルーゾォが指折り数えあげれば、うんうんと頷いてオインゴが同意した。
オインゴの着ている服は上から下まで高級ブランド一色。実に堪能しているのが伺える。
「ひとまず様子を見ましょ。私たちがいないと分かれば敵も姿を現すはず」
面会人のいない面会室が静かに溶かされていく中、不意に溶解がぴたりととまった。
そして数瞬ののち、面会室の扉を開けて透過するように現れたのは。
「ホワイトスネイク……やっぱり…なんで……?」
「へー、あれが人からスタンドを抜き出すスタンド、ホワイトスネイクか。そこそこ射程が長いな。本体が隠れてやがんのか、それとも遠隔操作型か」
「…プッチ神父のホワイトスネイクの射程は10m程度のはずよ。一緒に遊んでたから覚えてるわ。庭の左右の生垣まで」
「なら本体が隠れてんだな。ちっ、面倒な」
そしてホワイトスネイクは部屋の左右を確認し、中にお目当ての人物がいないことを知ったのだろう。
スタンド能力を完全に解除して、ぬるりときた時と同じように静かに去っていった。
それから数分、一同は何食わぬ顔で面会室に戻った。
「まぁ、なんにせよだ。俺の仕事はここまでだ。徐倫お嬢さんも、面倒なことになる前に早めに下手人はとっちめとけよ」
「……分かってるわよ。オインゴさんも今日はありがと」
「おうよ。あ、イルーゾォ、約束のブツ渡さないとな」
「いけね、忘れるところだった」
にゅるん、と何かが入ってくる感覚を徐倫は覚えた。
幼い頃からよく覚えのある感覚だ。
「じゃあ徐倫お嬢さん、渡したぜ」
「え、まさかテラーなの?」
言葉と同時に顕現する、部屋を埋め尽くすような大きな蛇。
愛嬌のある表情でニッと笑い、徐倫の頭に顎を乗せた。
「俺でした。蛇さんというスタンドは俺が唯一なので白蛇とかいう新顔は認めない、そんな蛇さん、アルカナテラーです」
「テラー!どうして、父さんは!?」
イルーゾォが肩こりに悩むかのように首をゴギゴキと鳴らした。
「まったく潰れるかと思ったぜ。なんつー『重い』スタンドだよ」
「まぁ、俺を支え切れるだけあんたも優秀だよ、イルーゾォ。本来はオインゴ1人に任せる予定だったんだし」
「悪かったな、俺がテメー入れられた途端ぶっ倒れて。俺は弟とは違うんだよ」
酷い目にあった、とオインゴがジト目で蛇を見た。
ちなみにだが、弟のボインゴは未来・運命究明課で辣腕を振るっている出世頭らしい。
「承太郎の方には俺の分体がついてるから心配すんな。徐倫は自分の身の安全を第一に考えろよ」
「……ええ、わかったわ。貴方がいれば百人力ね」
オインゴとイルーゾォは苦笑し、「俺らはそろそろ帰るぜ。ボスの蛇によろしくな」と徐倫に背を向ける。
徐倫は自らについた巨大な蛇、アルカナテラーと目を合わせ、笑い合ったのであった。
構想作成のため、今日明日とお休みさせてください。
エンポリオどうしようかな…