グリーンドルフィンストリート刑務所の農場は広い。
囚人用の作業場でもあり、その広い敷地を生かして量を生産することで、格安のGDs産野菜として外部で売ることもできる。
ここに来る囚人は逃走防止用に爆破機能付きの腕輪を付ける義務があるが……。
腕を糸化し、軽く腕輪を外して手の中で弄びながら、徐倫は思案にふけっていた。
「なぁ徐倫。どうして捜索隊なんかに志願したんだ。面倒なだけだろ」
エルメェスが左右を見渡しながら言う。
捜索隊、というのは今日農場で行方不明になったという2人の受刑者を探すため、志願制で選抜された囚人たちによる捜索隊のことだ。
行方不明者はこのあたりに住まう凶暴なワニに襲われている可能性もあり、はなからあまり脱走したとは考えられていないらしい。
捜索隊の目的も「死体を見つけたらすぐに報告すること」であるわけだし。
徐倫は少し悩んでからエルメェスに視線だけをよこした。
「父さんのスタンドを貸してもらってる話ってしたかしら」
「貸してもらってる?なんだそりゃ、この力って貸し借りできるもんなのかよ……って、このDISCとやらの記憶でもそんな様子が映ってたな。DISCを差し込んでスタンド使いになるとこ」
エルメェスが男らしいしぐさでため息をついた。
「プッチ神父のホワイトスネイクによるDISCでもできるけど。父さんのアルカナテラーも他人に分体を憑けたり外したりできるのよ」
「へぇ、便利だな」
「それで、テラーの能力で少しだけ周囲の様子を見たんだけど」
そこまで言って、徐倫は歯噛みした。
自分では数秒、望む時間・地点を見ることしかできない。
それ以上は頭痛でまともに見ていられないからだ。
細切れに見ていけばある程度の範囲を見渡すことが可能とはいえ、やはり消耗はしてしまう。
昨晩ひとしきりこのあたりを異常が無いかを確認したのだが、夜が明けるころにはさすがにヘロヘロになってしまっていた。
「それで見たのよ。この農場のトラクターに、プッチ神父が取り出したDISCが隠されているのがね」
そこに保管されているDISCで抜き取られた記憶を見ていけば、あの「プッチ神父」が何を考えてそんなことをしているのかがわかるだろうと考えたのだ。
DISCを介さず直接アルカナテラーで見れば、遠すぎて疲労でまともに動けなくなる可能性が高い。
この農場でDISCの回収に失敗したならそれも最終手段として考慮せねばならないが。
エルメェスが足元の土を蹴っ飛ばした。
「まどろっこしいな、そんなの直接聞きゃあいいじゃねぇか。知り合いなんだろ?その神父とやらと」
「もう聞いたわよ」
「聞いたのかよ!?直接!?」
「ええ」
徐倫が問いただせば、プッチ神父はひどく動揺した様子で「バカな」「あれは夢ではなかったのか」「そんなはずはない」、とぼろぼろ独り言をこぼしていた。
その顔は真っ青で、隈も数日前よりずっとひどくなっていた。
なんでも、徐倫が面会人と会ったあの日、プッチ神父は急な体調不良に襲われて自室で休んでいたと言う。
その時誰かを襲う悪夢を見たが、夢だろうと気に留めていなかったと。
「気に留めていなかった」……というには、プッチ神父の表情はあまりにこわばっていたが。
よほど真に迫る内容だったのだろう。プッチ神父は憔悴しきっていた。
実際監視カメラを神父と一緒に確認したが、ホワイトスネイクがいた面会室の周囲には誰も映ってはいなかった。
もちろん、廊下の監視カメラも神父が自室に篭りきりだったことを証明していた。
徐倫はアルカナテラーの瞳で見た農機具置き場をひたと見据え、口元を引き結んだ。
「そもそも、こんなふうにトラクター内でDISCを隠す意味もないのよ。財団からセキュリティのしっかりしたDISC保管用の隠し拠点をいくつももらってるんだもの、神父さん」
「いよいよわかんねーな。ならあの自殺野郎には何のためにDISCを渡したんだよ」
自殺野郎、とはマックイィーンのことだ。
彼はホワイトスネイクから与えられた「自殺の際、相手にも同じ傷を与える」能力でエルメェスとの無理心中を図った。
うーん、と徐倫は悩んで己の背後に向かって声をかけた。
「貴方はわかる、テラー?」
「そりゃまぁ、俺は過去・現在・未来を見る蛇さんだからな。だがなんて言ったらいいか、あー」
にゅるっと徐倫の背後から頭を出した翼あるガラガラヘビに、エルメェスは思わずのけぞった。
サイズは通常のアオダイショウほどに縮んでいる。
「うおっ、そいつが親父さんのスタンドってやつか!?ってか蛇かよ!?」
「ええ。アルカナテラー。あたしの父親代わりでもあるわ」
「それは承太郎が泣くからやめてやってくれ」
「忙しい忙しいって、物事全部一人で抱え込むクソ親父が悪いのよ。自分で自分の首を絞めてりゃ世話ないわ」
「まぁそれは全面的にその通りなんだが」
エルメェスが引き気味に「えらい喋るじゃねーかその蛇……自我があるスタンド、って奴か?」と言ってアルカナテラーとわざわざ目線を合わせるために中腰になった。
アルカナテラーも「こりゃどうも」と会釈した。なんとなくまったりした空間だ。
「あー、で、神父のことについてだったか」
アルカナテラーが長い体を生かしてぐるぐる首をひねりながら言った。
「今の所は、そうだな。ホワイトスネイクが余計なモン受信しちまったのが原因だ。プッチ神父は自分がやってることに気づいてねーし、憑かれてる側っていってもいい」
「憑かれてる?何に憑かれてるって言うの?」
「うーーーん、そうだなぁ」
非常に歯切れが悪く、アルカナテラーは言葉を選んでいるようだった。
「違う自分が残した怨念?というか、規定ルートで絶たれたはずの野望、というか」
「なにそれ。全然意味わかんないんだけど」
「あー、うん。ひとまず言えることはプッチ神父は悪くないし、ホワイトスネイクは暴走してるってことだ。つまり大変面倒くさい状況にあると言っていい」
徐倫は眉をひそめた。
このように蛇が困った顔をするのは然う然う無い。
もっと聞き出したいが、彼が語らないということ自体が、徐倫とその未来を思ってのことだというのは重々承知している。
言葉をのみ込み、徐倫は息をついた。
「なんにせよだ。ゆっくり一つずつ解決していけばいい。お前ならできる、徐倫。俺もついてるから、気張れよ」
「ええ。ありがとう、テラー」
エンリコ・プッチは毎晩夢を見ている。
世界が終わる夢だ。ぐるぐると昼と夜とが切り替わり、全ての生き物達が世界から取り残されていく夢だ。
恐ろしい。悍ましい。
ソレを歓喜する自分がいることが、他の何より恐ろしい。
ホワイトスネイクが自分を見ている。
「今度こそ、完全な形での一巡を果たすのだ」と。
フー・ファイターズとの戦闘は通常通り行われ勝利しました
F・Fが仲間になった!!!(全カット)