「はーっ、散々な目にあったわ。スタンド使いに絡まれるわ変な木の化け物には会うわ、最後にはテラーのおなかの中よ!」
シャワーを浴びた徐倫が、タオルを頭にかけたまま下着姿で練り歩いている。
俺が「こら!はしたないぞ!」と注意するものの「いいじゃんテラーしかいないんだし」と聞く耳持たず。
これが承太郎なら「何見てんだクソ親父ィ!!」とキレ散らかすあたり、俺のことをどう思ってるのかがわかる。
まぁ、確かに?俺に性別はないけれども?
前世があるので一応男として扱って欲しいなって。
閑話休題。
ここはグリーンドルフィンストリート刑務所近隣のホテルである。
俺の逃走方向を未来視で分かっていた承太郎が、あらかじめ予約を取っていたのだ。
素早くホテル内へと退避した俺は腹から徐倫達を出し、承太郎と共に関係各所へ連絡。
一番激震が走ったのはSPW財団だろう。
長年DIOの残党の対策に追われてきた彼らはDIO復活の報に驚愕。
今は未来・運命究明課を中心にして必死に対策を練り直しているはずだ。
占いの腕を極めた先に最近スタンドに目覚めたらしい占い師のおじさん──イタリアにて勧誘した彼だ──がまた過労死しかけなければいいのだが。
彼は一度占いに入り込むと我が身を顧みぬ所があるからなぁ。
と、そのあたりで着替えを済ませたらしい徐倫が別室に押し込められた承太郎を呼び出した。
「父さん着替え終わったー」「ようやくか」などと軽く会話して寝室から承太郎が出てくる。
承太郎の姿を見て、徐倫が何か悪いことを考えついたのかニヤァと笑った。
「あと、テラーはこのままあたしが貰っていいのよね?ずっと一緒にいたわけだし」
「それはだめだ。私がアルカナテラーとやることがある。そうでなくとも、お前には早々テラーは渡せない」
「ケチ!いや、いいわ、テラーはあたしのものって決めたから!二人でずっと仲良くやるのよ!」
「いや待て、落ち着け徐倫。テラーを返せ、本当に困る」
俺は父娘コントに咳払いして割り込んだ。
「イヤーン、俺のために争わないで!!」
「ブッ……ま、待って突然の裏声は卑怯だわ…フフッ」
「アルカナテラー。お前そんな声出せたのか」
「出そうと思えばいろんな声出せるんだよな、声帯は自由だし。承太郎の真似もできる」
「!え、なになに、父さんの声で好き勝手言わせられるってこと?いいこと聞いたわ。録音してやろ」
「本当にやめてくれ」
頭痛を堪える顔で承太郎が頭を抱えた。
緊迫した空気もずいぶんほぐれたようだ。あまりに緊張が過ぎれば良くないからな。
普段通りの様子を取り戻したらしい承太郎に俺はこっそり微笑んだ。
さて、そんな感じで緩く経緯を徐倫が話していく。
プッチ神父の元からDIOの骨が逃げ出したこと。懲罰房に骨を探しに行き、その道すがらケンゾーに出会ったこと。DIOが古木の怪物として蘇ったこと。
ちなみにだが、ケンゾーは現在隣の部屋で寝込んでいる。
DIOから逃げおおせる為とはいえ、俺が精神エネルギー吸い尽くしたからな。
後でお見舞いの品を贈ってやらねば。
順に話していくと、途中承太郎が目を見張って俺を見てきた。
「ラッパを吹いたのか!?何を考えている!」
「仕方ないだろ、ああしないとどの未来でもDIOにザ・ワールドで小細工されて追いつかれてたんだから」
「だが……ラッパはお前にとって諸刃の剣だ」
使えばお前の身が危うい、と承太郎は沈鬱そうな顔をした。
怪異たる俺の力、ラッパは聖書にうたわれる終末の再現だ。
それはつまり、7つ目が吹かれたらサタンは神に討たれるということを示している。
7つのラッパは聖書において、災厄を呼び寄せた。
一つ目のラッパにより、血の混じった雹と火が地上に降り注ぎ、地上の三分の一とすべての青草を焼いた。
二つ目のラッパにより、巨大な山のような火の固まりが海の中に落ち、海の生き物の三分の一が死んだ。
三つ目のラッパにより、”苦よもぎ”という名の巨大な星がすべての川の三分の一の上に落ち、多くの人が死んだ。
四つ目のラッパにより、空の太陽や星の三分の一が打たれ、その分だけ昼も夜も暗くなってしまった。
五つ目のラッパにより、穴からイナゴの大群が湧き出し、蠍のような痛みを伴って人を襲った。
六つ目のラッパにより、人々を殺戮する騎兵隊と、あらゆる災害を起こす預言者が現れた。
そして、七つ目のラッパにより七つの神の怒りの鉢をもった七人の御使いを呼び出され、サタンは討ち果たされるのだ。
使えば使うほど追い詰められていく諸刃の剣と言っていい。
承太郎の顔は深刻だ。
「それに、これ以上怪異に寄れば戻れなくなる」
「勿論、さすがに俺が地に災厄をもたらすものになるつもりはねーよ」
俺の言葉に承太郎は疑わしげな顔をした。どうやら信じていないらしい。
「無理しないで、テラー。貴方がいなくなると私も悲しいの」と徐倫が俺の鱗を撫でた。
飴と鞭かよ全く、と俺は嘆息する。
「わかったよ。無茶はしない。これでいいんだろ、承太郎」
「ああ。お前は俺たちの家族の一員だということを忘れるな。失えば皆悲しむ」
「つか、家族といえば奥さんはどうしたよ承太郎」
「家内は………家の寝室に引き篭もっていたが、もうすぐこっちへくるはずだ」
「あ、母さんも来るのね!良かった、心配してたのよ」
嬉しそうな徐倫の様子に若干後ろめたさを覚えなくもなかったが、そのあたりは密に、密に。
俺の瞳で見た限り、承太郎は奥方の火力マシマシ往復ビンタを喰らっているはずだ。
恐ろしいまでの切れ味はスタプラで咄嗟に防ぐこともできず承太郎に直撃。
両頬を腫れさせた哀れな姿をスタクルの皆にさらされたのであった。
大爆笑のポルナレフ、あまりの惨事に両手で顔を覆うアヴドゥル、肩をポンと叩く半笑いの花京院を添えて。
ひたすらオロオロしてるジョセフが哀れだったりね。
「そういえば、あたしが脱獄したあとエルメェス達はどうなったの?」
「SPW財団の手引きでこちらへ向かっているところだ。心配はない」
「ならいいけど…今更だけど刑期とか冤罪については」
「見ていた。もう手回しは済んでいる」
「そう……やっぱ気に食わないわ、クソ親父」
「何故だ」
本心からの「何故だ」に俺は噴き出した。そういうとこだぞ、承太郎。
「それと、ウンガロに続きドナテロのアンダーワールドもDISC化されて引き抜かれた。警備にあたっていた3名のスタンド使い、ホルホース、ラバーソウル、ギアッチョが重軽傷だ」
「ギアッチョさんが!?あんな硬いスタンドを一体どうやって…!」
「温度が伝わる間もないほどの超スピードによる突進攻撃、と報告が上がっている。これは前回と同じくメイド・イン・ヘブン……プッチ神父のスタンドの仕業だろう」
「……!」
徐倫が喉の奥で言いたいことを飲み込んだ。
実際問題、原作神父の怨念はプッチをかなり蝕んでいるし、それによって彼のスタンドは乗っ取られていると言っても過言ではないからだ。
怨念が本体である以上、スタンドに射程距離はあってないようなもの。
「…、目的は何なの?」
「DIOが復活のための餌にしようとしている線が濃厚だな。今、奴の身体は脆い木でできた不完全なものだ。それをなんとかしようとすれば、かなりのエネルギーが必要になる」
「監獄内の人間は大丈夫なのよね」
「今、監獄をよく知るミューラーを中心に防衛チームの投入が予定されている。どれだけ助けられるかは分からないが」
承太郎は正直だった。
DIOが復活した以上、被害ゼロにはできないだろうと。
そのような冷徹な、しかし現実的な目線で言葉を語る。
「そう……あたし達はこれからどうするの?」
「俺はDIOを止める為グリーンドルフィンストリート刑務所へ行く。お前は怨念を追ってくれ」
「!当てはあるの?」
「次現れるとしたら間違いなくリキエルの元だろう。狙い目だ。気をつけろよ」
「ええ。分かってるわ。父さんも気をつけて」
俺はするりと徐倫に分体を残して承太郎へと移る。
「テラー…」と寂しそうな声を上げる徐倫の頭を尾で撫ぜ、承太郎に残していった分体と統合。
これで完全体の8割といったところか。
承太郎がスタープラチナと併用できるギリギリのサイズだ。
「行くぞ」
言葉少なに承太郎は立ち上がった。
決戦の時は近い。