インドへ向かう航空機の中。
花京院は承太郎の隣へ座り、まだ包帯の残る額を撫でさすっている。
波紋による治療は済んでいるからじきに包帯も取れるだろうが、本来脳まで達する傷跡だからな。
安静にするに越したことはない。
「せまっ苦しい。出てくるんじゃねーぜ。」
「暇なんだよ……承太郎の家では家事手伝いと色々忙しくしてたからさ」
「俺の授業中は静かだったじゃねーか」
「普通に授業聞いてた。意外と面白いんだよなぁ」
「本当に分からねぇやつだな」
狭い機内に顔だけにゅっと出して承太郎と雑談する。
心なしか花京院が羨ましそうな顔をしている。もしや「話し相手になるスタンド」という物への若干の憧れだろうか。
「ああ僕、実家から飴持ってきたんだ。承太郎もアルカナテラーも食べるかい?」
「あざっす花京院君!」
「早く寝ろ。まだ額の痕は塞がり切ってねーだろうが」
「ちなみにだがその持ってる安いアイマスクじゃなくてアメニティのアイマスクを使うとよく寝られるぜ。具体的には98分寝れる時間が増える」
「そうかい?せっかく買ったのにな……だがアルカナテラーが言うなら間違いないだろう。こっちのアイマスクを使うとするよ」
冷静に考えるとDIOに指令受けて急行って時に飴持ってくの凄い面白いな。
非常食のつもりだったのか、家族に無理やり持たされたのか。謎が深い。
あの戦闘後、騒ぎを聞いて急いで駆けつけたジョセフと合流し、ことの経緯を共有し合った。
自分で自分に矢をぶっさす暴挙にこのアンポンタン!ダメ太郎!と語彙力ゼロの罵倒を繰り返していた俺をジョセフは不思議そうに見ていた。
花京院はといえば、承太郎によって肉の芽を抜かれて無事正気に返った。
赤の他人の家をめちゃくちゃにした挙句、小遣いの残高は雀の涙という状況に愕然としていた。
哀れな…花京院君……。DIOが学生相手に突然無茶振りするから……。
旅についてくると決意した経緯は原作通り。
特に今回承太郎は肉の芽の摘出と矢によるスタンド覚醒と二つの危険を冒しており、原作以上の驚愕をはらんだ「なぜ僕を助けた」の一言となった。
ジョセフはDIO打倒の旅に巻き込むことにいい顔をしなかったものの、口には出さなかった。
というかボコボコに青あざ作った顔面で言われても格好がつかなかっただろう。
東方良平さん、ほんとに遠慮なくやったんだな……。
ちなみに、虹村万作さんとその家族はSPW財団預かりとなった。
帰ってきた億泰&形兆兄弟が不自然に全身に怪我をしていること、それと万作本人への聞き取り調査の結果、虐待が疑われたからだ。
スタンド使いによる虐待など下手をしなくても被害者が死にかねない。
「あーー、俺が唯一の承太郎のスタンドだったのになーー」
「うっとおしいぞ蛇。テメーが俺のスタンドなのは何も変わりゃしねーだろうが」
「オンリーワンって想像以上に甘美な味。失って気付く大切なものもあんだよ」
「まぁ確かに、僕もハイエロファントに違う主がいたら相当嫌だな……」
「だろぉ?それを言うならそもそも俺は居候の身分、って突っ込みもなくはないけどさ」
なんというか、花京院が俺に対して妙に優しい。
「ところで、飲み込んだ矢の方は大丈夫なのかい?のどに引っかかったりとか」
「大丈夫大丈夫、この俺のブラックサバスモードは完璧なんだよ」
んべ、と口から矢を取り出して見せれば、花京院は安心したようだった。
現在、俺は預かった矢をブラックサバスを見習って体内に保管している。
この方法にジョセフさんもアヴドゥルも賛成したのは、DIOの目がある以上下手にSPW財団へ預ければ襲撃を受けかねないと警戒したからだ。
スタンド使いにはスタンド使いしか対抗できない。
まだまだスタンド使いに対して戦力の薄いSPW財団では対応しきれないとの判断だ。
「ブラックサバス(黒いサバト)?」
花京院が不思議そうなのは仕方のないこと。五部ネタだもんね。
などとどうでもいい雑談にふける俺たちの姿に、もはや興味すら失って一人で新たなスタンド・スタープラチナの操作の練習をする承太郎である。
きーっ、俺を差し置いて新しいスタンドと戯れるなんて許しませんわよ!
「承太郎はどうだい、新たなスタンドの調子は」
「自由自在にとは到底いかねぇ。頭も痛ェし、スタンド像も安定しねー」
「俺もそうだが、スタープラチナも相当重いA級スタンドだからな。二体同時展開しようと思ったらそりゃ体にガタが来てもおかしくないさ」
「ならテメーが引っ込む気はねーのかよ」
「お、俺とそのオンナ(?)のどっちが大事なのよ!?」
「昼ドラかな?もてる男はつらいな承太郎」
「『アマどもよりうっとおしい蛇』って概念を俺は今知っちまった。人生で最もいらねー気づきだったぜ」
などと学生プラスアルファで騒ぐ俺たちの飛行機旅であった。
前の席で若干寝づらそうにしているアヴドゥルさんを添えて。
ジョセフさんはすでに爆睡中である。