一人歩き型スタンドなオリ主と承太郎   作:ラムセス_

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未来へ

 

 決戦の翌日。

 電話口で呆れたような声色で応えたのはジョルノ・ジョバァーナその人であった。

 

「ああ、あの崩れかけの馬みたいなスタンドですか? もちろん処理しましたよ。僕を狙ってきたみたいなので」

『迷惑をかけてすまない。私の方が動けなくてな』

「別にあれぐらいなら構いませんよ。既に康一君のおかげでボロボロの様子でしたし、適当に『死なせ続ける』のに何の苦労もなかったので」

『……そうか』

 

 流石はゴールド・エクスペリエンス・レクイエムだ。

 そう承太郎が静かにほめれば、ジョルノは鼻白んだようだった。

 

「それで、あなたの方はあのはた迷惑な父の始末、きちんと付けたんでしょうね?」

『当然だ。スタンドのコストオーバーで内臓にガタが来て緊急入院する羽目にはなったがな』

「やめてくださいよ、変なタイミングで死ぬのは。貴方に何かあると父の残党が蠅のようにワラワラ湧いてきて大変なんです。僕らのシマも荒らされるし」

 

 全く迷惑だ、と吐き捨てるジョルノの様子に笑ったのは承太郎とは別の声だった。

 気のいい兄ちゃん、といった明るい男性の声だ。

 ジョルノはそれが承太郎のスタンドだと理解して話を続ける。

 

「未来視のスタンド、まだ娘に譲渡してなかったんですね」

『DIOとやり合うのに必要だったからな。最初に大火力を持つアルカナテラーで吸血鬼特有の生命力を削り切っていなければ競り負けていた』

「その断定形の口調。未来視もほどほどにしておかないと足をすくわれますよ?」

『心しておこう。それと、今回の件の詫びの品は後日SPW財団を通じて送っておく。要望通り和牛しゃぶしゃぶセットだ』

「たのしみにしています。たまに食べたくなるんですよね、本場の日本食」

『しかし、本当にこんなものでいいのか?ギャングならもっと色々求めるものがあるかと思ったが』

「ここで毟るほどうちは貧しくないので。ええ。麻薬は止めましたが、製薬企業をフロント企業に新スタートを切ってますから」

 

 パッショーネは現在、スタンド能力を使った製薬企業としてSPW財団等に薬を卸す等の新しい活動を展開している。

 以前より規模はわずかに縮小したが、それでも勢力圏では地下で財団と手を組み太く営業活動を行っているようだ。

 ただ、その新事業には並々ならぬジョルノの努力があったようで、声には少しばかり疲れた色が乗っていた。

 

『そうか。では、今後とも頼むぞ』

「ええ。末長いおつきあいをこちらも望んでいますから」

『それとだ。パッショーネに最近傘下入りした例の木っ端ギャング。現在麻薬の密造に手を付けているようだ。来週水曜の夜8時にアジト裏の広場で取引を行うから、そこで一網打尽にするといい』

「……は?」

『じゃあな』

 

 通話が切れ、ジョルノはしばらく無言で立ち尽くした後、深々とため息をついた。

 そして後ろに控える部下に鋭く指示を飛ばす。

 

「そこ、ブチャラティに直ちにつないでください。また僕のシマで麻薬に手を出そうとしているバカが現れました。雨後の筍のように何度も何度も……いい加減堪忍袋の緒が切れそうだ」

「は、はっ!ただいま!」

「『未来視』からの情報です。来週水曜までに殲滅戦の盤面を整えます。ミスタは……今ローマでしたか。すぐ呼び戻してください」

 

 はっ!と慌てる部下の返事を背景に、ジョルノは歩き出した。

 毛足の長い絨毯をつややかな革靴で踏みしめ、優雅にほほ笑む。

 

 いつものように。イタリア最大のギャング、パッショーネのボスとして。

 

 

 

 

 

 時刻は同じく、日本、杜王町にて。

 

「───という感じでさ。アメリカでは大変だったよ」

「へぇ……やっぱ承太郎さんの案件はやべーな。つーか、あの怖ぇ奥さんはどうしたんだよ」

 

 『杜王町同窓会』と銘打たれた杜王町出身のスタンド使い──そのほとんどはSPW財団所属だ──の飲み会が、今夜はトニオのレストランで執り行われていた。

 美味しい料理、この日のために取り寄せた高級な酒の数々。

 もちろんSPW財団式飲み会の通例に倣い、「キレてもスタンド戦は禁止」というルールは常設されている。

 

 その中で最近出張から帰ってきた広瀬康一がチューハイを片手に、奥さんの話題にへへへと顔を緩めた。

 

「由花子さんは家で待ってるって。無茶しないでって言ってくれてさ」

「お熱いねぇ!……つかあの迫力の奥さんとお熱くなれるのが異次元の凄さというか、なんというか」

 

 この日のために無理やり時間を作ってきた多忙極まる東方仗助が、恐る恐るといった様子で引き気味のコメントを残す。

 ちなみに、この1時間後にはプライベートジェットでアメリカに飛ぶ予定である。

 グリーンドルフィンストリート刑務所の一件で出たけが人の治療にあたるとのこと。

 

 その向かいに座る億泰・形兆兄弟はゆっくり焼酎を片手にスルメをシェアしている。

 億泰は仗助と一緒のプライベートジェットで刑務所へ除染作業のために赴くことになっている。

 

「そういや、刑務所の件。あれ何があったんだぁ?なんかすげー毒?がたくさんあるから消してくれって俺言われててよぉ」

「テラーさんが奥の手とやらを使ったらしいぜ。毒を吐く攻撃だとか」

「僕も指示書見たけど、想定汚染区域があんまりにも広すぎない?テラーさんが竜になってブレスを吐くとしてもだよ?」

「そりゃあれだろ……なんか……あんだろ」

「仗助君適当。あ、億泰君はこれ一人でやるの?」

「いいや。なんかウェザーって天気を操る奴が一緒にやるらしいぜ。バーッて風で毒を集めてよ、そんで集めた毒を俺が消すって寸法よ」

 

 少しだけ考えてから、ぱっと康一が顔を明るくした。

 

「ああ、ドメニコ・プッチさんのウェザー・リポート!凄いスタンドだよね。僕も一回怪異対応の時に一緒に働いたことがあるよ」

「へー、皆色々仕事してていいよな。俺なんか料理作るトニオさんの横で治して治して治して治して……ってそればっかだぜ」

 

 ひでーけが人もそろそろ見飽きたぜ、と唇を尖らせて愚痴る仗助の肩を、背後からポンとたたくシェフが一人。

 

「まあまあ。そうむくれずニ。特製パスタをどうぞ」

「おぉーー!美味そう!いただきます!!」

 

 酒より食事な仗助はパスタにすぐさまがっついた。

 そしてはじけ飛ぶ肩。治る肩こり。爆笑する億泰。ここぞとばかりにスケッチする露伴(勝手に入ってきた)。

 

 

 そうして夜も更けていく。

 スタンド使い達の笑いと涙と明日への希望を添えて。

 

 

 

 

 

「テラーはあたしのなの。わかる?老い先短いクソ親父にはもう不必要なの」

「バカを言うな。私とアルカナテラーは一心同体。スタンドは人に帰属するものだ。譲渡はできない」

 

 病院で言い争う徐倫と承太郎を奥の方の看護師さんが迷惑そうな顔で止めようか否か迷っている。

 ここは例によってSPW財団の息がかかった病院で、あらゆる融通がきく関係上、承太郎の入院先に選ばれたのだ。

 

 承太郎はスタンドパワーのかかりすぎで内臓の一部を痛めての入院となる。

 通常なら原因不明となりそうなところ、スタンドと怪異に慣れた医師が担当しているため、何はともあれ回復の道には乗れている。

 暫く養生して胃が回復したあと、念のためトニオの料理を食べる手筈となっている。

 

 そんなところでキャーキャーワーワー騒ぐのだから迷惑なことこの上ない……のだが。

 最重要顧客であるため気安く注意もできない。

 そんな看護師さんの歯痒さよ。

 

「スタープラチナってチートスタンドが父さんにはあるじゃない!テラーぐらいあたしによこしなさいよ!」

「断る。蛇は私のスタンドだ。お前だってストーンフリーに蛇の硬さを取り入れることに成功しているだろう。それで我慢しなさい」

「何よそれ!ずるいずるいずるいずるい!テラーを渡せぇ!!」

 

 シャッ!と猫のようにいきり立つ徐倫に蛇はとぐろを巻いて間に割って入った。

 

「親子でスタンドバトル禁止ィーっ!!徐倫はストーンフリーしまう!!承太郎も時留めの構えはしない!もう!!それ以上やったら死ぬほどイナゴ召喚してやるぞ!!」

「ラッパは止めてくれ」

 

 承太郎が降参のポーズをとった。

 そして話題を逸らすように言葉を続ける。

 

「そういえば、ラッパのリキャストタイムはどうなっている?」

「まだ千年はかかるな。ラッパって所詮は俺の外付けスキルというか、そもそもサタンはラッパを吹かねぇ的なところがあるし」

「それは……そうね」

 

 徐倫が首肯した。

 黙示録においてラッパを吹くのは7人の天使で、サタンはそれに敵対する立場になる。

 

「それでも俺がラッパの能力を得たのは、怪異として肥大化した……デブデブに太ったから脂肪の一部を切り離して適当な能力にしたっつーことでしかないわけで」

「その例えどーなのよ。わかるけど。デブ蛇テラーはなんか嫌よあたし」

「では、その能力を違う能力に置換することはできないのか?」

「うーーん、できなくもないけど。何か案でもあるのか?」

 

 承太郎が蛇に耳打ちする。

 ひそひそと。企むように。

 

「え、あたしに向かって堂々と隠し事……意味不明でもとりあえず端的に説明していく父さんが……?」

「お前の説明意味不明だってよ、承太郎」

「待て、いつも徐倫も頷いていただろう」

「真面目そうな様子だったから形だけは頷いておこうかなって」

「じょりーん……」

 

 未来を見すぎて端的が極まった男の末路がこれである。

 未来視にあまり適性が無かったらしい徐倫にはわからない世界の話だ。良かったのやら悪かったのやら。

 

「それで、どうなんだ蛇。ラッパの代わりにこの能力は獲得できそうか?」

「難しいけど、まぁ、できなくはないな。今までの能力の範疇内だし。改変には一か月ほど『寝る』必要が出てくるが」

「その程度なら構わない。やってくれ」

「何何何、ねえちょっと!あたしに内緒で何しゃべってんのよ!ねえってば!!」

 

 すっかり成長した大怪獣が牙をむいて怒るが、承太郎はどこ吹く風だ。

 病院の白いカーテンが揺れて、収納棚に飾られた花瓶に華やかな花が生けられている。

 承太郎は穏やかに微笑んだ。

 

 その宇宙色の瞳に、もう滅びの大渦は映っていない。

 

 ただ煌めく可能性の線が無数に色とりどりの光を伴って続いていく、そんな光景が広がっているばかりだ。

 破滅は回避された。天国に打ち勝った。

 20年にも渡る戦いは今、終止符を打たれたのだ。

 

 それをこのようにして実感しているのが承太郎と相棒たる蛇だけだとしても。

 

 窓の外を見るように遠い未来を覗き見る。

 その今と変わらず穏やかで刺激的な様子を見て、安堵の笑みはどうしたって漏れ出てしまう。

 

 蛇に囁いたのは単純だ。

 

 『俺たちを末長く見守ってくれ』。

 

 どこか死を望んでいたらしい蛇を繋ぎ止める、残酷で我儘な提案だ。

 それを嫌な顔ひとつせずに受け入れるのだから、蛇もつくづくお人よしだ。

 

 能力としてどう出来上がるのかはまだわからない。

 だが、きっと。

 

 きっと、未来に希望はある。

 

 

 そう信じて。

 承太郎は窓の外から遠い景色を眺めるのだ。

 

 

 




完結。
次からは空いた時間にぽつぽつ余談を書いていこうかな
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