ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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1-11.リデンプション

昨日村から拉致された村人達を解放して戻ってきてからの事。

 

 

「トーリ、良くやってくれた。お前の仕事ぶりには大満足だ。我々のスポンサーは無事ソウジャーン号の自室に戻った。

 

 報酬の件については彼女からも許可を得ている。リーチに行く際には最高級のもてなしを約束しよう」

 

 

波頭亭に戻ろうとしたところを以前依頼を受けに行った際にお茶を出してくれた女性セイラー(美人)に呼び止められ、

 

船着場に連れられていった所でリナールから冒頭の労いの言葉があった。

 

その後、村の状況を鑑みて華美にとはいかなかったが、ささやかながら祝宴の席が設けられご馳走していただくこととなった。

 

どうやら前回夕食をとった際にこちらの好みをある程度把握していたらしく、全体的に俺好みの味付けがされていた。

 

聞くとこれらの和風っぽい味付けはコーヴェア大陸ではなく隣のサーロナ大陸風の味付けらしい。

 

サーロナといえば異次元からの侵略により一大帝国が築かれている死亡フラグ満載の大陸である!

 

本場の味を堪能するのは無理か、と諦めたところで塔の町「シャーン」では本格的なサーロナ料理の店があるということを教えてもらった。

 

・・・どうやらまた1つ、シャーンに行かなければならない理由が増えたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

1-11.リデンプション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。自室にて昨晩消耗したアイテムのチャージが回復していることを確認した後、1Fで久々にシグモンドの朝食を食べていると彼から話し掛けてきた。

 

 

「最近の話だが、ウチの娘以外にもラースがまだ生きているって話を聞くようになった。

 

 バリケードにいるウルザがラースを見たって言う話だ。良かったら相談に乗ってやってくれ」

 

 

皿を下げにきたアイーダちゃんに昨晩船で調達した甘味(飴っぽいもの)をお駄賃としてプレゼントしつつ詳しい話を聞くことにした。

 

 

「ラース・ヘイトンか。ヘイトン家の当代なんだっけ?

 

 彼にはこの状況をひっくり返せるような何かがあるのか?」

 

 

「ヘイトンの一族は代々優秀なアーティフィサーだ。

 

 例の"シー・デヴィル"を封じている装置についても彼ならばより有効な使用法を知っているかもしれん。

 

 ・・・ここだけの話だが、やはり村だけでなくあの遺跡の防備も行うというのは少々負担が大きい。

 

 今は先日の大勝もあって皆の意気が高いおかげで問題にはなっていないが、このままでは遠からず破綻するだろう。

 

 そうなる前に何らかの手を打っておきたい」

 

 

後半についてはこちらにだけ聞こえるような小声で、シグモンドは伝えてきた。

 

確かに村から近いとはいえ、入り江の中にある遺跡の入り口はどちらかといえばサフアグンのテリトリーだ。

 

遺跡の中に突入されてしまえば日光も届かないため、遺跡入り口で敵を堰き止めるしかないが敵の増援は周り中の海から現れるだろう。

 

何度か大規模な攻勢を受ければ、村と遺跡の二正面作戦を強いられているこちらが不利になっていくだろう。

 

こちらは依然として補給の目処が立たない篭城状態なのだから。

 

 

「わかった。じゃあウルザから話を聞いてみよう」

 

 

ひょっとしたら他のパーティーがクエストを終了させているかも、と思ったがこのクエストのフラグは俺に立ってしまったらしい。

 

このクエストを終了すればあとは『ミザリー・ピーク』へ赴くことになる。

 

どうやら決戦フラグは避けられそうも無い。あとはメンバーをどうするか、だな・・・。

 

 

 

バリケードを守っている村人にウルザの所在を尋ねると、すぐに返答が返ってきた。

 

彼女は今村と遺跡を結ぶエリアに防衛線を押し上げるべく、村の外へ出るために何人か人を集めに行っているらしい。

 

そういうことであれば直にバリケードを通るだろう。

 

答えてくれた村人に礼を言い、バリケードの内側にある木陰で待たせてもらうことにした。

 

 

脳裏でキャラのステータス画面を見ながら時間を潰していると、やがて立派なフルプレートを着た女戦士が何人か軽装の男たちを連れて近づいてくるのが見えた。

 

以前遠めで見たことがあるが、おそらく彼女がウルザで間違いないだろう。

 

木陰から歩み出て、バリケードに向かう彼女に声を掛けた。

 

 

「失礼、ウルザさんでいらっしゃいますか?」

 

 

突然声を掛けられたからか、彼女は一瞬警戒するそぶりを見せたがこちらを確認するとにこやかに対応してくれた。

 

 

「ああ、トーリ殿だったか。貴方の活躍は聞き及んでいる。この村に対する貴方の働きには感謝してもしきれない位だ。

 

 私に何か用が?」

 

 

シグモンドから話を聞いた件を伝えると、彼女は連れていた男たちに先にバリケードを出ているよう伝え、場所を変えようといって先ほど休憩していた木陰へと移動した。

 

 

「この件は非常にデリケートな話題なんでね。念のため人払いをさせてもらった。

 

 ラースについての事なんだが、カヤの話を聞いているうちに私も彼が生きているんじゃないかと思うようになったんだ」

 

 

「ああ、彼女の依頼で彼の一族の墓所を調べたのは俺だ。だがそこには彼は居なかったぜ」

 

 

そういうとウルザはかぶりを振って答えた。

 

 

「墓所じゃない。私はラースを別の場所で見たんだ。

 

 以前は幽霊じゃないかと思っていたんだが、カヤの話を聞いているうちに彼が生きていてあれは本物だったんじゃないかと思うようになってきたんだ」

 

 

「なるほど。その場所は?」

 

 

「これから言う事は誰にも漏らすんじゃないよ・・・

 

 私が彼を見たのは古いカニスの工房さ。隠されたダクトから中に入ることが出来るんだ。

 

 そうやって入り込んだ工房の中で私は彼の姿を見たんだが、一瞬そこにいるかと思った次の瞬間には消えていた。

 

 そのせいで幽霊じゃないかと思っていたんだけれど、私は今まで他に幽霊なんてものを見たことが無い。

 

 おそらく彼はあの工房で反撃の機会を窺ってるんじゃないかと思う。

 

 貴方にはカニスの工房で彼を見つけてもらいたい。彼の協力が必要なんだよ」

 

 

どうやらウルザも現状については憂慮しているようだ。

 

ゲームと違い地下遺跡の防衛も行わなくてはいけなくなった以上、村にかかる負担は増えている。

 

村人の意気の高いうちに現状を打破したいと考えているんだろう。

 

ウルザに対して依頼を受ける旨の返事を返そうとしたところで、予想外の声が頭上から投げ掛けられた。

 

 

「面白そうな話じゃないか。

 

 そのラースって奴を連れてくればあのドラゴンにも一泡吹かせてやれるっていうのかい?

 

 勿論報酬は弾んでくれるんだろうね」

 

 

声の主はどうやら頭上の木の枝に臥せていたらしい。

 

ひょっとしてさっきからずっとそこに居たのか?

 

感知系装備を外していた事もあるが、接近してきたのではなく初めからそこに居たということであれば察知できなかったことも仕方ないといえる。

 

 

「お前ラピスといったか?いつから話を聞いていた!」

 

 

ウルザは人払いまでして打ち明けた会話が第三者に漏れていたことで焦っているようだ。対してラピスは涼しい顔である。

 

 

「何って、最初からさ。そこのボンクラがアンタをこの木陰で待っていたときから僕はここで昼寝してたんだ。

 

 勝手に近づいてきて人の昼寝を妨害した挙句、盗み聞きみたいに言われるのは勘弁してほしいね」

 

 

そういうとラピスは身軽にも体を預けていた木の枝から飛び降りた。着地の際にも殆ど音を立てていない。大した身のこなしである。

 

 

「安心しなよ、そのラースとかいう引きこもりはきっちり引きずり出してやるよ。

 

 勿論、アンタがきっちりと報酬を払ってくれたらだけどね」

 

 

そのままラピスはウルザと報酬についての条件闘争に突入した。

 

ううむ、流石は海千山千の冒険者である。

 

こちとらスペック上は『交渉技能』の判定値は高いものの、経験が伴っていないためどうにもその実力を活かしきれていない。

 

ここはひとつ彼女流の交渉術を学ばせてもらうことにしよう。

 

 

 

結果として、ウルザのジャンスヴァード家に伝わるマジックアイテムを成功報酬として譲り受けることで合意したようだ。

 

 

「それじゃ早速行ってくる。ボンクラはそこで私の代わりに昼寝でもしてなよ」

 

 

おや?驚きの展開であるが・・・

 

 

「まてまて、元はといえば俺が受けた依頼だろ。何横から掻っ攫ってんだよ」

 

 

コイツに任せていては文字通りラースをボロ雑巾にしてから工房から引き摺り出しかねない。それではとてもではないが良好な関係は築けないだろう。

 

 

「なんだ、横から口を挟まないもんだから放棄したんだと思ってたよ。

 

 まぁ私はもう報酬の契約を済ませたから、アンタもタダ働きが嫌ならそこの女に交渉するんだね」

 

 

しかも今の交渉の報酬を独り占めと申したか。

 

 

「おい。昨日の件については俺は何も要求する気は無いがな。

 

 この件は俺が正式に依頼を受けたものだ。むしろお前には何も主張する権利なんか無い。

 

 さっきの報酬を俺と折半するのが嫌っていうなら大人しくこの依頼から降りろ。

 

 あとラースとは俺が話す。アンタは敵やらがいたらそれを排除してくれればそれでいい。これが条件だ」

 

 

この辺りは最低限抑えておかなければ今後やっていけないだろう。別に報酬に興味は無いが、タダ働きするなんて噂が立つのはよろしくない。

 

 

「フン・・・仕方ないな。

 

 それじゃとっとと行くぞウスノロ。僕はお前のスピードになんか合わせるつもりは無いよ」

 

 

そう言い捨てるとラピスはバリケードを潜り村の外へと出て行った。

 

 

「それじゃそういうことで。

 

 アイツの手綱はしっかりしておきますから、安心して待っていてください」

 

 

依頼主のフォローもしておかなければならない。なんだかラピスと知り合ってから一気に心労が増えている気が。

 

エレミアもバトルマニア的なところがあるし、やはり残された最後のオアシスはメイだけか・・・。

 

とりあえずウルザがこちらに首肯するのを確認すると、『ストライディング/馳足』強化のアイテムを装備して先に進んだラピスを追いかけることにした。

 

如何に身体能力の高いシフターといえど、"シフティング"という半獣モードでなければ人間と大差ない範囲だ。

 

装備で移動距離2倍の状態であればすぐ追いつけるだろう。

 

 

「おい、他の二人には声を掛けなくていいのか?」

 

 

バリケードを越え、地下遺跡へ向かう道と分岐するあたりで追いついたので気になっていたことを尋ねてみた。

 

確か一緒にパーティーを組んでいたんじゃなかったのか?

 

 

「何言ってるのさ。ただでさえお前のせいで予定の半額しか報酬が手に入らないってのに、

 

 あの二人を呼んじゃったら報酬が四等分じゃないか!

 

 お前の取り分から支払うってならともかく、僕はこれ以上の安い仕事はしたくないよ」

 

 

うーむ、そんなものなのか。

 

マジックアイテムなら最低でも1,000GPくらいの価値はあるだろう。1GP=1万程度と思えば1,000万円だぞ?

 

日帰りの依頼でこれだけの報酬であれば物凄い高級取りだと思うんだが、冒険者の世界では違うということか。

 

だがその貨幣換算でいくと俺は3兆円弱くらい持っていることになるしな。

 

これは貨幣経済の崩壊したゲーム内の事だとはいえ、少なくとも冒険者が装備しているアイテム類を考えれば当然のことなのかもしれない。

 

一番低級の回復ポーションが50GPで、それを浴びるように飲むこともあるんだしそれを考えれば妥当なのか・・・?

 

この世界の経済感覚を養っておかないと、そのうち酷い失敗をすることになるかもしれないな。

 

派手な買い物をする前にもうちょっと世間について勉強しておかなければ。

 

 

 

そんなことを考えているうちに、目標としていた古いカニスの工房跡に到着した。

 

島の南西にある丘の斜面に沿うように立てられた、石造りの建物だ。建物の入り口は遥か昔に崩れ落ちたらしく、積み上げられた瓦礫は年月の経過を感じさせられる。

 

丘の斜面を登ってから建物の上層部に取り付き、ウルザから教わったダクトを利用して中に進入した。

 

進入したそこは実験室の一つだったんだろうか、周囲には様々な実験道具と思わしき物体が散乱していた。

 

ラピスは注意深く辺りを捜索しているようだが、俺としては特にその辺りに興味は無いので繋がっている大きな部屋の方へ足を踏み入れた。

 

進んだ先の部屋は天井が一段と高くなっており、その分広がったスペースには多くの配管が縦横無尽に張り巡らされている。

 

そのうちいくつかの配管はまだ生きているようで、時折中を何かが流れている音を立てたり蒸気を噴出したりしている。

 

 

「いくつか新しい足跡があるな・・・ウルザとかいう女が入り込んだときのものと思われるもの以外にも足の大きさの違うものがある。

 

 大きさと規則正しい間隔からしてウォーフォージドか?

 

 何にせよ、無人ってわけじゃなさそうなことはこれで明らかだね」

 

 

ラピスがこちらの部屋にやってきて捜索の結果を教えてくれた。

 

なるほど、やけに注意深く周囲を観察していると思ったらそういうことを調べていたのか。

 

ゲームの中で経験した展開的にここにラースがいるのは当たり前だったので、そんな疑いは持っていなかったなぁ。

 

確かに普通はそういったことを調べるべきなんだろうな。

 

 

「まあそうだとしてもこんな入り口近くにはいないだろうさ。

 

 とりあえずもっと奥の方にいってみよう」

 

 

「確かにこんなところに金目の物があるとは思えないしね。そうしようか」

 

 

こんなところに時間を浪費しても仕方ない。ラピスも同意してくれたので先を急ぐことに。

 

配管の下を通って先に進むと、先に向かう扉が板張りで封鎖されているのを発見した。

 

 

「ふん、この板張りの部分だけホコリが被っていない・・・

 

 どうやら最近張られたもののようだね」

 

 

嫁の掃除具合を確認する姑のように、板張りのホコリを指で掬い取っているラピス。

 

うん、自分の考えながらいい例えだ。

 

 

「? 何が可笑しいのさ。

 

 妙なことを考えてるくらいなら、とっととこの板張りをどうにかしなよ」

 

 

おっと、表情に出ていたか。

 

 

「オーケー。んじゃちょっとブチ抜くから下がっててくれよ」

 

 

ゲームだと適当な武器で殴って破壊してたしな。蹴りでいいだろう。

 

幸いなことに板張りはそれほどの強度はなかったようで、ヤクザキックを1発お見舞いしただけで何枚かの板が吹き飛んでいった。

 

残っている板も同様に吹き飛ばして、人が通れるサイズの隙間を確保するとその先の通路に入り込む。

 

遠くから何かが擦れている様な音が聞こえてくる。

 

規則正しく、何かの機械が動いているようだ。やはりこの建物はまだ生きているらしい。

 

後ろでラピスが隙間をくぐってこちら側に抜けてくるのを確認して、先に進むことにした。

 

曲がり角を二つほど曲がった先には、先ほどの音の原因であるらしい映画で見るような派手な仕掛けが動いていた。

 

 

「うわぁ・・・古典的だが迫力あるなぁ」

 

 

目の前で、通路を覆いつくす巨大なギロチンを思わせる刃物が上から下へと動き回っている。

 

丁寧なことに二枚刃であり、タイミングをずらして昇降を繰り返している。

 

最近手入れされたのかなんらかの魔法の効果によるものか、刃物の切れ味は新品同様に見える。

 

通路は二方向に伸びているのだが、ギロチンの無い通路の方は天井の配管から有毒そうなガスが噴出している。

 

幸いすぐに拡散して無害化しているのか、直撃を受けない限りは被害はないようだ。

 

 

「何を驚いてるのさ。大げさなだけの虚仮脅しじゃないか、こんなの。

 

 まぁウスノロにはちょっと厳しいのかもしれないけどね。

 

 それにしてもかなりのやっつけ仕事だね、それとも隠蔽する気が無いのか・・・」

 

 

そう言ってラピスはガスを噴出している配管から視線を天井沿いに動かし、ぐるっと回って側面にある壁に手をやった。

 

 

「ふん、この辺りかな・・・あった、隠し扉だ」

 

 

壁際で何やらラピスが手先を捻ると、今まで壁があった部分がスライドして隠し部屋が現れた。

 

覗き込むと、巨大なバルブがあるのが見える。

 

 

「これと同じのがそっちの壁にあるはずだ。

 

 ボサっとしてないでバルブを捻るんだよ!

 

 まぁアンタが刺身になりたいっていうんなら構わないけどね」

 

 

言われて指示された壁を注意深く見ると、一部に不自然な模様が見える。

 

その部分を指で押し込んでやると、先ほどと同じように壁がスライドして隠し部屋が現れた。バルブも同様にある。

 

キュルキュル音を立てながらバルブを回転させると、ブシュー、という音がして噴出しているガスが止まった。

 

作業を終えてから意識して周囲を見渡すと、確かにラピスの感じていたであろう違和感のようなものが俺にも感じられた。

 

 

(配管への供給をしているパイプがあの視線の先を通ってこのバルブに繋がっているのかな?

 

 罠発見と解除についてはデータ上の技能はあっても実経験がないから今の感覚を忘れないようにしないといけないな)

 

 

コルソス島が導入される以前は、「初心者島」という一通りの技能を使用させてくれるチュートリアルがあったのだが。

 

それをクエストの中で行うような形でコルソス島が誕生してしまったため、そういった基本中の基本についてはこうやって体で覚えるしかない。

 

 

ガスの噴出が止まり安全が確保できたので、そちら側の通路を進む。

 

少し進んだ先に曲がり角があるが、その先の通路から何か軽い金属質のものが床を擦る音がする。

 

 

「・・・何かいるみたいな。カニスの工房をガードしているゴーレムの類か?」

 

 

「そうだね。まぁ二匹いるみたいだけど音からして小物だろうし、任せるよ。

 

 僕はどうもああいう生きてない連中の相手は苦手でね」

 

 

立ち止まってラピスに伝えると、彼女も音を聞きつけていたようだ。流石に獣耳娘。

 

確かに人造の敵にはローグの急所攻撃は効果が無い。正確な打撃で急所を狙うことを信条にしているラピスでは時間がかかるかもしれないな。

 

 

「ま、それじゃひと働きしてくるかな。まぁゆっくりしていてくれ」

 

 

腰に佩いていた非チートロングソードを抜き放って曲がり角を曲がると、ゲーム通りそこには人造の犬・・・アイアンディフェンダーがいた。

 

ゲーム中では足元を滑らせるオイルを吐いてきたんだが、どうやらこいつらのデータはTRPG準拠らしく噛み付きを行ってくるだけだ。

 

作成者であろうラースには悪いが、襲い掛かられた以上そのままにもしておけない。破壊させてもらうことにしよう。

 

単調な噛み付きをおこなってくるその顎をやり過ごして上から頚椎部にむけて両手で剣を突きこむと、機械仕掛けの犬はあっさりとその動作を停止した。

 

もう一度同じ動作を繰り返し、残る1匹も処理をする。

 

 

「おーい、終わったぞ」

 

 

後ろで見ていたラピスに声を掛けると近寄ってきて犬の残骸を観察しだした。

 

 

「ふーん、アーティフィサーの作成したガーディアンってところかな?

 

 素材は特に特別なモノじゃないのか・・・まぁこんなところでミスラルやアダマンティンにお目にかかれるとは思ってないけどさ」

 

 

破片をショートソードで小突きながら素材の分析などをしているようだ。

 

秘術の心得もあるようだし、興味があるのかもしれないな。

 

 

「ミスラルならもっと動きが素早いだろうし、アダマンティンだとこのナマクラじゃ手間がかかっただろうけどな。

 

 あんまり年代物って感じもしないし、最近作られたものだとしたらますます怪しいな」

 

 

こんな島で他にゴーレムを作成できる術者がいるとも思えない。どうやらシナリオ通りに進みそうで何よりだ。

 

その後も時折襲い掛かってくるアイアンディフェンダーを処理しながら中の探索を進めていくと、魔法の障壁で遮られた側道を発見した。

 

障壁内部を満たしている圧縮されたエネルギーがブゥゥンと震えるような音を立てている。

 

 

「周囲には開閉に関する機械的な仕掛けはなさそうだ。

 

 どうやら魔法によってしか開閉しないみたいだね。

 

 でもお粗末なことに障壁への魔力供給路が剝き出しじゃないか。

 

 どうやら別方向からエネルギーが供給されているようだし、開閉条件を調べるよりはエネルギー供給をなんとかしたほうがよさそうだね」

 

 

テキパキと障壁を調査するラピス。

 

ラピスが側道とは別方向の奥へと進んでいくのを後ろから追いかけながら、彼女の先ほどの動作を自分のものにすべく反芻していると

 

目前に鉄製の柵に囲まれた3つのクリスタルが目に留まった。

 

村で最初に参加したクリスタル攻防戦、そこでの敵の狙いであったクリスタルにそっくりである。

 

 

「あー、あれが魔力の供給源ってことでいいのか?」

 

 

ゲームでも確かに同じ状況だったが、あまりにもあからさまではないだろうか。

 

ラピスも同感な様で、呆れたような表情にはなっているが周囲を警戒しているのか視線は色んな所を探っているようだ。

 

 

「・・・とりあえずそこの扉から中には入れるようだね。

 

 僕はしばらく解錠に専念するから周囲の警戒は任せたよ」

 

 

牢屋のように縦横に走る鉄柵で構成されている壁だが、その隅には奥の部屋側に出入りするための扉がついていた。

 

ラピスはその扉を開錠するということでその作業を見て参考にしようと思ったのだが、生憎物陰に潜む鉄犬の存在に気付いてしまった。

 

文字通りサクっと処理して戻ると、既にラピスは解錠を済ませて柵の内側に入り込んでいる。

 

 

(うーむ、『解錠技能』の勉強はまた後日だな)

 

 

少々残念ではあるが、並の扉などであれば武器や呪文で破壊することも出来る。

 

とりあえずこの村にいる間は解錠が必要な場面もなかっただろうし、次の機会を待つとしよう。

 

 

「このクリスタルをどうにかすればいいのか?」

 

 

確かゲームではこの三つのクリスタルを破壊することで先ほどの障壁が解除されたはずだ。

 

しかしラピスは何やら腕組みをしながらブツブツと考え事しているようだ。

 

 

「・・・周囲の冷気を取り込んで供給するエネルギーに変換しているのか?

 

 素材は何だ?見たところ既存の金属ではないようだが・・・何かのエレメンタルが捕縛されているのか?

 

 そうするとカイバー・ドラゴンシャード?

 

 この大きさであれば持ち帰れば一財産だけど・・・下手に動かせばエレメンタルが暴走する?」

 

 

どうやらラピスの守銭奴回路がフル回転しているようだ。

 

中空をゆっくりと回転しながら浮かんでいるクリスタルだが、大きさは高さ1メートル、太さは成人男性の胴回り程度はある。

 

現在は浮いているので重量は定かではないが、金属かそれに類する物質だとすると持ち運べるものではないように思える。

 

ラピスもしばらくは悩んでいたようだが、やがて諦めたのかクリスタルに吹き付けている冷気の元を断つべく周囲の機器を操作し始めた。

 

 

「僕がこの機器を操作して、クリスタルにパワーを与えている冷気を停止させる。

 

 トーリは吹き付けている冷気の供給が止まったクリスタルから順番に破壊していってくれ」

 

 

ゲームで見ていたより複雑な機構のようだが、ラピスは危なげなく操作して次々と冷気の供給を停止していた。

 

 

「了解。それじゃいっちょやりますか!」

 

 

胸辺りの高さに浮かんでいるクリスタルを正面に捉え、まずは横一線に片手剣を斬り付ける。

 

パキィィン、と澄んだ音を立てて崩れ去るクリスタル。切断面は横方向だけだったんだが、何故か切断面から亀裂が縦横に広がり落下するより早く空中に解けて消えていった。

 

やはりなんらかの魔術的な品物だったんだろう。

 

残る二つは気分を変えて袈裟切りと唐竹割りにしたものの、結果は同じ。

 

三つのクリスタルが全て破壊されると、遠くに聞こえていた障壁の音も静かになったのを強化された聴覚が捉えた。

 

何か破片が残れば持ち帰って研究材料にできたのかもしれないが、この結果では仕方ないな。

 

それを見ていたラピスの機嫌はどんどん悪化していっているようだ。

 

古いカニスの工房ということで発掘品に期待してた部分も強かったのかもしれないが、なにせ今のところ収穫ゼロである。

 

ようやく何か金になりそうなものを見つけたと思ったらそれは目の前で粉々になって消滅してしまっている。

 

このまま放置するとここの主であるラースに食って掛かりかねない雰囲気である。

 

 

(ラースとの交渉権を主張しておいて良かった・・・)

 

 

声を掛けづらい雰囲気であるが、このクエストも後は大詰めを残すのみである。さっさと先に進むように促さなくては。

 

 

「あー、これでさっきの障壁が消えたんだろう?

 

 さっさと片付けて戻ろうじゃないか。

 

 こんな辛気臭い建物の中で一晩過ごすなんて気が滅入るしな」

 

 

そう言ってクリスタルの部屋から出て障壁のあった側道に向けて歩き出すと、最後の一言には同意してもらえたようで彼女も部屋から移動してくれた。

 

側道に到着すると魔法の障壁が解除されて先に進めるようになっていた。

 

奥には何人かの気配を感じ取ることが出来る。どうやらラースはこの先にいるようだ。

 

念のため慎重に周囲を警戒しながら少しずつ足を進める。

 

そうやって古い実験室と思われる部屋に入ると、まず酷い汚臭に気付いた。

 

 

(そりゃずっとこんな風呂も無い所に引きこもってれば臭くもなるか・・・)

 

 

本棚の影には1人の男が腰掛けていた。彼がラース・ヘイトンで間違いないだろう。

 

ラースはこちらに気付くと椅子から立ち上がり、警戒しながらこちらに呼びかけてきた。

 

同時に本棚の影に隠れていた護衛のウォーフォージド・・・カニスの技術によって作り出された自我を持つ人工生命体が彼を庇う様に立ち塞がる。

 

 

「お前は一体誰だ?」

 

 

まぁ突然障壁が解除されて見慣れない人物が侵入してきたら警戒するだろう。いきなり攻撃されないだけマシだと思える。

 

ウォーフォージドは何時でもこちらに飛び掛ることが出来るように重量感たっぷりのヘビーメイスを構えて俺とラピスを注視している。

 

 

「コルソス村に足止めされてる冒険者さ。村の連中に依頼されてあんたを探しに来たんだ」

 

 

そう伝えるとラースは疲れた顔を怒りに歪めてこちらを睨み付けてきた。

 

 

「お前、障壁を破壊してきたのか?

 

 なんてことをしてくれたんだ!

 

 サフアグンに対する防御がなくなってしまったではないか!

 

 馬鹿な事をしてくれたな。お前は奴らに道を作ってやってしまったんだ!」

 

 

どうやら無理やり罠などを突破してきたことが御気に召さなかったらしい。

 

 

「すまないな。どうしてもあんたを見つける必要があったんだ。

 

 村の連中はあんたの助けを必要としている」

 

 

仕方がなかったんで勘弁してくれと言ったつもりだが、ヘイトンは一層怒りを露にして怒鳴り散らした。

 

 

「時間の無駄だったな!

 

 あの役立たず共が何もしないでいる間に、私の一族は何代にも渡り不遇の死を遂げてきた。

 

 連中はただサフアグンの相手を私に任せてしまいたいだけだ!」

 

 

ううむ、どうも代々犠牲となって村を助けてきたその役割に嫌気がさしてきたというところか。

 

まぁここは理と情の両面から説得するとするか。

 

 

「そうか、村を見捨てるのか。あんたがそれを選択するのは自由だが、カヤやウルザはどうするんだ?」

 

 

「く・・・・カヤのことは言うな!」

 

 

どうやら二人の間ではカヤがリードしているらしい。依頼人には申し訳ないが、ここは彼女らをダシに話を進めさせてもらおう。

 

 

「ここでお前が引きこもっている間に彼女も死なせるのか?

 

 もしくはサフアグンが彼女を生きたまま山に連れて行くかもしれないな・・・・。

 

 もしそうなったら、いずれ彼女はお前に対する刺客としてここにやってくるだろうさ。

 

 その時お前はどうするんだ?彼女を殺せるのか?」

 

 

これに対してラースは答えない。苦りきった表情で地面を見つめている。後一押しかな?

 

 

「第一、連中は"シー・デヴィル"を復活させるつもりだ。

 

 今はシグモンドらが防衛線を押し上げてくれているが、村が滅べば遠からずあの化け物が復活するぞ。

 

 そうしたらこの島は丸ごと海の底に沈むんじゃないか?

 

 そうなったらどこに引きこもっていても結果は同じだと思うがね」

 

 

「・・・・・・」

 

 

しばらく悩んでいたのだろうラースが、意を決したのかその顔を上げた瞬間。

 

顔の横を鋭利な物体が通り過ぎて行ったかと思うと「それ」はラースの胸に突き刺さった。

 

 

「うぐ・・・なんだ力が抜ける・・・毒、か・・・」

 

 

そう深く刺さったようには見えなかったが、ラースは力なく床に崩れ落ちた。

 

鋭利な物体・・・ダガーの出所を確認しようと振り返ると、そこには黒光りするダガーを再び投げ放たんとするラピスの姿があった。

 

 

「おい、何やってるんだ! ダガーを捨てろ!!」

 

 

だが制止の声をかけても彼女の動きは止まらない。仕方ない、取り押さえなければ。

 

鋭い爪と獣耳が見えており、どうやら「シフティング」しているようだが、組み付いてしまえばチートで筋力補正の高い俺の方が圧倒的な有利なはずだ。

 

 

「いい加減にしろよ・・・せっかく上手く話が進みそうだったのに、どういうつもりだ!」

 

 

投げ飛ばしてマウントポジションを取り、両腕を押さえながら下半身のバランスで体を起せないように抑え込む。

 

後ろでは護衛のウォーフォージドがラースを物陰に避難させているのを感じる。

 

そっちが片付いたら武装解除を手伝ってもらおう・・・と思っていると、押さえつけているラピスの体が突然縮みだした!

 

瞬きする間に彼女の体は一抱えもある猫・・・どちらかというと山猫、大型のネコ類に変身すると抑え込みから抜け出して俺から距離をとり、そこで半獣形態に戻った。

 

 

(完全な獣化・・・シフターではなく『ライカンスロープ』だったのか!)

 

 

より細かい情報を得ようと彼女を注視したところ、先ほど揉みあった際に乱れたのであろう彼女の前髪の隙間から、妙な4つのアザのようなものが見て取れた。

 

それを見た瞬間、また以前のようにTRPGで得たモンスターについての知識が脳裏に閃く。

 

 

「ヴォイドマインド・・・マインドフレイヤーの奴隷か!」

 

 

その言葉を聞いてもはや隠す必要なしと判断したのか、その額の穴からおぞましい一本のヌラリと輝く身の丈ほどもある触手が飛び出してくる。

 

触手からはポトリと粘液がこぼれ落ち、その液体は床に触れるとジュージューという音を立てて穴を空けた。強力な溶解液のようだ。

 

 

「ほう、我々の秘儀に通じるものがいたとはな・・・ラースだけではなく、貴様も我らが従僕にすべく連れ帰るとするか。

 

 その脳の中にはどのような知識が他に詰まっているのか、非常に興味深い。

 

 これは思わぬ拾い物をしたやもしれんな」

 

 

ラピスの口から、常の彼女の口から出たとは思えないしわがれた声が発せられた。

 

マインドフレイヤーはD&Dでも屈指の悪役として有名なモンスターだ。

 

人間の頭の変わりに蛸のような頭部を持つこのおぞましいクリーチャーは、その顔から生えた八本の触手で人型生物の脳を食い荒らすことを喜びとする悪の異形である。

 

エベロンでは『狂気の次元界:ゾリアット』から侵略してきた来訪者の王達が作り出した存在だと言われている。

 

そしてヴォイドマインドとは、3人のマインドフレイヤーにより脳を吸いだされた後、脳の変わりに呪術的な触媒を頭蓋内に封入されてしまった生物の総称である。

 

怖ろしいことに、彼らは普段は被害にあう前と何ら違わないように見える・・・その額に空いた4つの穴を除きさえすれば。

 

だがその精神の奥底は餌食とした3体のマインドフレイヤーと繋がっており、連中からの命令があればそれに忠実に従うマシーンと化す。

 

さらに連中はその奴隷と化したヴォイドマインドたちを自分の感覚器の延長として使用することが出来るという。

 

おそらくラピスはある時点で既にカルティストらの犠牲になっており、村の内情を探るスパイとして利用されていたのだろう。

 

そして今物語の鍵となるラースを前にしてついにその存在を明らかにしたのではないだろうか。

 

 

「外道が・・・」

 

 

思わず思考が沸騰しそうになるが、今目の前にしているのはラピスの体を端末にしているだけの存在に過ぎない。

 

ここでラピスの体を破壊したとしても、連中には痛くも痒くもないはずだ。

 

そう、いわばラピスはもう既に死んでしまっているのだ。

 

 

「さあ、偉大なるカイバーの元にひれ伏すがいい!」

 

 

高く掲げられた触手が振り下ろされると、その軌跡から歪な波動が円錐状に広がった。その波動に包まれると脳裏に名状しがたい狂気が押し寄せてくるのを感じる。

 

 

(マインドフレイヤー十八番のマインド・ブラストか!)

 

 

連中はこの狂気の波動に打ち負け、朦朧としている所で脳を啜りに来るのだ。

 

ここでこの狂気に負けてしまってはまず間違いなく命はない!

 

そしてこの攻撃はマインドフレイヤー・・・この場合はその端末となっているラピスが活動している限りずっと続くのである。

 

ラピスを止める必要がある。

 

だがその決断をあざ笑うかのように、ラピスの後方から大量のサフアグンが殺到して来た!

 

おそらく俺達の進んできた通路を利用して潜入してきたんだろう。

 

ラピスからは敵味方お構いなく狂気の波動が撒き散らされ、それによって大勢のサフアグンも動きを止めるものの肉の壁となって彼我の間に立ち塞がる。

 

このままではいずれ狂気に押しつぶされるのは時間の問題だ。

 

そう判断した俺は、ブレスレットから1本の杖を取り出しその力の一端を解放した。

 

 

「《グローブ・オブ・インヴァルナラビリティ/耐魔法球》!」

 

 

力ある言葉と共に解放された青い魔力が俺を中心に3メートルほどの球体となって周囲を覆う。

 

この球体の中では中位以下の魔法的効果は抑止される・・・自分の使える殆どの呪文は力を失うが、相手のマインド・ブラストを封じることも出来る。

 

抑止された効果により動きを止めていたサフアグン達が動き始めるが、そのまま杖を両手で振り回し薙ぎ払った。

 

 

「小癪な・・・抵抗するのであれば仕方あるまい。

 

 体に傷をつけるつもりはなかったが、貴様が苦痛に苦しむその感情を脳のスパイスにしてくれるわ!」

 

 

周囲のサフアグンの群れに身を隠すようにして、こちらの死角を突こうと動くラピス。

 

包囲してくるサフアグンを取り出したチートコペシュで一度に複数匹切り倒していくが、まだ技量が足りないのか一太刀では2体が限界である。

 

絶命したサフアグンは武器の付与効果による強酸で溶けて消えていくために足場の邪魔にこそならないものの、次々と現れて途切れる様子を見せない。

 

十重二十重に包囲しているサフアグンを手足のように使い、その援護を受けて奇襲を仕掛けてくるラピスの攻撃は尋常ではない鋭さである。

 

ライカンスロープにより飛躍的に高められた身体能力に加え、ヴォイドマインド化したことにより脳のリミッターが外れているのだ。

 

敏捷性については、チートボディである俺よりも更に上のようだ。

 

また現在常時展開していた《シールド/力場の盾》の呪文が抑止されていることもあり、時折ヒヤリとさせられる瞬間がある。

 

交差の瞬間に何度かラピスに斬りつけてはいるが、ヴォイドマインドは酸に完全耐性を持つようでこのチート武器の魔法効果も大部分は無効化されている。

 

そうこうしている内に張り巡らせていた《耐魔法球》が効果時間を終了し、その魔力が掻き消えていく。

 

 

(マズい!張りなおさないと)

 

 

あまりの敵の猛攻に、呪文の効果時間にまで意識が回っていなかった。

 

慌てて剣から杖に持ち替えようとブレスレットに意識を移すが、敵はその隙を見逃してはくれなかった。

 

 

「馬鹿め!」

 

 

俺が取り出した杖の影にその身を隠し、ラピスが死角からタックルを掛けてきた。その勢いを殺しきれずに打ち倒されてしまう。

 

するとマインド・ブラストの影響を受けていなかった数匹のサフアグンが群がり、杖を取り上げられ遠くに投げられてしまった。

 

馬乗りになったラピスの額から触手がこちらに鎌首をもたげ、滴り落ちる粘液が顔の横に落ち床を溶かす。

 

絶体絶命かと思われたその瞬間、部屋の奥でラースの身を守ることに専念していたウォーフォージドからの《スコーチング・レイ/灼熱の光線》がラピスの体を撃った!

 

 

「ラース様とコルソスの民に手を出すのであれば、まずこのアマルガムを倒してからにしてもらおうか!」

 

 

そう言った彼・・・アマルガムの手には閃光を放ったワンドが握られている。

 

如何にライカンスロープが銀の武器でしか傷付かないとはいえ、それは物理攻撃に限ったことであり魔法の炎は彼女に手痛い打撃を与えることに成功したようだ。

 

ラピスの注意が忠実なウォーフォージドに向いた瞬間、そのチャンスを逃さず再びコペシュを召喚すると額から生えるその触手を断つべく伏せた状態のまま剣を振るった。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

付け根から触手を切り落とすと、傷口からは鮮血を、口からは名状しがたき悲鳴を上げてラピスは俺の上から転げ落ちた。

 

手で触手の生えていたところを押さえているが、まるで首を切ったかのように噴出する血流は止まりそうもない。

 

やがてビクビクと震えたと思うと、血の勢いが緩まると共に体は動きを止めた。

 

その結果を見て周囲のサフアグン達は動けるものから皆逃げ出そうと出口に向けて移動していくが、そこには主人に害を為す者を逃がしはしないとウォーフォージドが立ち塞がっていた。

 

サフアグンのことを彼に任せて、俺はラピスのほうへ近づいていく。

 

触手を斬られたことで支配が途切れたのか。

 

仰向けに伏せる彼女の瞳には、今朝まで見てたのと同じ皮肉げな光が宿っていた。

 

 

「・・・なんてこと。

 

 まさかトーリならともかく、この僕がこんな間抜けな役回りをさせられるなんて。

 

 格好付かないな」

 

 

相変わらずの憎まれ口ではあるが、口調には力がない。無理もない、あれだけの出血だ。

 

勢い良く噴出した鮮血は天井にまで届いていた。彼女の上体は自らの血で余すところなく濡れている。

 

おそらく彼女はもう長くないだろう。それにたとえ治癒したとしても、再びマインドフレイヤーの奴隷となって立ち上がることになるのだ。

 

 

「せっかくフレイムの糞坊主共も少ない新天地に向かったっていうのに・・・

 

 まさか新大陸にたどり着くことも出来ず、こんな所でお陀仏とはね」

 

 

彼女が元居たコーヴェア大陸は『浄化』の名の下にライカンスロープを狩り立てたシルバーフレイム教会が1国を支配し勢力を築いている状態である。

 

そんな住みにくいであろう生まれ故郷を捨て、彼女は新天地を求めてきたのだろう。

 

だが、あの竜とマインドフレイヤーの狂気が彼女の人生を狂わせた。

 

 

 

「・・・さん、  んよ・・・・」

 

 

最後に何かをつぶやいて、ラピスはもう動かなくなった。死亡したんだろう。

 

 

(・・・《レイズ・デッド/死者蘇生》や《リザレクション/蘇生》のスクロールはある。

 

 だが、このまま彼女を蘇らせてもヴォイドマインドとして蘇るんじゃないか?)

 

 

ブレスレットの中には、上で挙げた魔法効果の他に《トゥルー・リザレクション/完全蘇生》という究極の呪文すら存在している。

 

だが、いずれも彼女からマインドフレイヤーの影響を取り除くことはできない。

 

もはや肉体が変質してしまっているのだ。触手はその際たるものに過ぎず、細胞の一片にまでも狂気の侵食は進んでいるだろう。

 

 

(・・・まてよ。なら一旦肉体を完全に破壊すればどうなる?)

 

 

通常の蘇生であれば呪文の使用には対象の肉体の一部が必要である。

 

だが、最上級の《トゥルー・リザレクション/完全蘇生》なら肉体すら不要であり、術者が対象を指定するだけでいい。

 

ならば彼女の肉体を完全に消去した上で、「ヴォイドマインドではない彼女」をイメージして蘇生を行えば復活させられるのではないか?

 

彼女とはこの二日程度の付き合いだ。憎まれ口ばかりであったが、冒険を通じて彼女の人となりはある程度知っていると言える。

 

今であれば彼女のあの態度は、ライカンスロープであるために他人を近づけないようにする防衛線だったのではないだろうか。

 

 

(これでは彼女が余りに報われない。ならば試してみるか)

 

 

ブレスレットからアイテムを取り出し、上級呪文である《ディスインテグレイト/分解》を彼女の遺体に放つ。

 

緑の光線が彼女に触れた瞬間、彼女の体はその身に着けていた装備を残して塵に分解された。

 

続いて別のアイテムを取り出す。

 

必要なのはイメージだ。

 

つい先ほどまでの、狂気に支配された彼女ではない。

 

昨日と今日、一緒に冒険していたときの彼女を思い浮かべろ。

 

エレミアやメイと三人で笑っていた彼女。こちらに向かって嫌味を言う彼女。こちらを試すように厄介事を押し付ける彼女。

 

そして今日知った、ライカンスロープだった彼女。

 

幸い彼女はエベロンの一般的な神格の信者ではない。蘇生についても文句を言うことはないだろう。

 

そんな自分の知っている人物がこうして報われずに死んでしまうのは大変気分が悪い。

 

偽善や押し付けといわれても構うまい。さぁ、呪文を唱えよう。

 

 

「《トゥルー・リザレクション/完全蘇生》」

 

 

一瞬周囲の光が消えたかと思うと彼女の遺体があったところに光の粒が集まっていくのが見える。

 

そうやって集まった光の粒子はやがて人の形を取り、一際輝いたかと思うとそこにはラピスが横たわっていた。

 

《トゥルー・リザレクション/完全蘇生》で復活した対象は肉体的に完全な状態で蘇る。HPは満タン、状態異常も解除される。

 

他の蘇生方法のように能力値やレベルが減少することもない。

 

ヴォイドマインド化は状態異常ではなく「変質」なので通常は不可能なのだが・・・

 

復活の余韻か意識が朦朧としているらしい彼女の近づき、前髪をよけて額を確認する。

 

 

「良かった・・・成功したみたいだな」

 

 

そこにはヴォイドマインドの証である穿孔は見受けられなかった。

 

思い付きから実行した案ではあるが、どうやら理に適っていたようだ。

 

この《トゥルー・リザレクション/完全蘇生》はレイドクラフトの効果だが、強力すぎて次のモジュールで弱体化される予定だった能力である。

 

日本サーバはそのモジュールが来ることなく終了してしまったため、弱体化することなく俺の手に残ったということだ。

 

 

「ま、お互い運が良かったってことだな」

 

 

緊張が解けたことで、一気に疲れが襲ってきた。

 

一息ついて腰を下ろすと、意識を取り戻したのかラピスと目が合った。

 

 

「ようラピス、気分はどうだ?

 

 どこか調子の悪いところはないか?」

 

 

データ上は問題ないはずだが、TRPGでのエベロンの蘇生には不安定要素が多いとも言われていたはずだ。

 

実は肉体は元に戻ったが、中にある意識は別人のものでしたなどという笑えない展開もないとは言い切れない。

 

 

「・・・・・・、っ!」

 

 

しばらく呆けていたラピスだが、周囲を見回して状況を確認すると突然半獣形態になりその鋭い爪で目突きを放ってきた!

 

 

「うおお、危ない!」

 

 

額の状態を見て早合点してしまったが、まだマインドフレイヤーの洗脳は解除されていなかったのか?

 

あるいは別人格が彼女の肉体に憑依している状態か?

 

後者ならばまだ話し合いでなんとかなるかもしれないが・・・前者の場合、俺の手で彼女を再び殺さなければならない。

 

座った状態から上体だけを反らして目潰しを回避したあと、その勢いでバク転のような挙動で距離をとった。

 

とりあえず状況を見極めるために、彼女の観察をしなければ。

 

しかし彼女の反応はこちらの予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「この馬鹿!こっちを見るんじゃない!」

 

 

顔を真っ赤にしてこちらに突っかかってくる。執拗に目を狙ってくるその性格の悪さからどうやらラピス本人なんじゃないかと予想。

 

 

「ってそっち見てないと俺の命が危ないだろうが!人に目潰し放っておいて無茶言ってるんじゃねぇよ!」

 

 

「ううううるさい!記憶を失えー!」

 

 

ううむ、蘇生の反動か精神が退行したのか? クールで性悪なイメージが台無しだぜ。

 

 

「あー、さっき見た秘密のことなら言いふらしたりしないから。

 

 とりあえず落ち着け~」

 

 

ヒラヒラと回避しながら説得を試みるが、聞く耳を持ってくれない。どうやらあの獣耳は飾りのようだ。

 

 

「こんな格好で落ち着いてられるか!

 

 いいからあっちを向いてろ!この変態が!」

 

 

ああ、そっちか。どうやらこのお嬢さんは裸を見られたことで興奮しているらしい。

 

 

「あー、言っておくが不可抗力だぞ。

 

 肉体をゼロの状態から再構成したんだ。そんな状態で服着たまま生まれてくるわけないじゃん」

 

 

まさに生まれたままの姿というやつである。

 

マントか何かを掛けようとは思ったが、それより先に覚醒して襲い掛かられたんだし。

 

 

「うう、そんな理屈なんて知るもんか!

 

 乙女の柔肌を汚した報いを受けさせてやる!」

 

 

そういって襲い来るラピスと繰り広げられた追いかけっこは、サフアグンを始末したアマルガムが戻ってくるまで続いたのであった。

 

・・・俺としてはまずそこに転がっている服を先に着るべきだと思うんだ。どうかな?

 

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