ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

12 / 81
1-12.決戦前

アマルガムに仲裁してもらった後、とりあえずラピスにはソウジャーン号で購入したタオルを渡しておいた。

 

バスタオルくらいのサイズで、その内いくつかは裁断しようと思ってたんだが丁度良かったのかもしれない。

 

露になった太腿が強調されるその姿は全裸よりある意味エロいと思うのは俺がオッサンだからだろうか。

 

肉体が若返ったことだし、そのうちその方面も発散しておかないと情けないことになりそうだなぁ・・・。

 

ちなみにラースは筋弛緩系の強力な毒物でダウンしていたようだ。ラピス曰く、「象サイズの蜘蛛の毒」だとの事。

 

流石はD&Dの世界である。そんなのの相手は地球防衛軍にお任せしたいところだ。

 

とりあえず解毒のポーションを飲ませた後、毒により低下した能力値を回復する効果のあるアイテムを使用した。

 

意識を取り戻した際は俺の後ろにタオルを巻いた姿で隠れているラピスを見て一悶着あったが、

 

既にマインドフレイヤーの洗脳からは脱していると話し、警戒を解いてもらった。

 

ただし、リソースの消費が激しいため滅多にできることではない、とも言っておいたが。

 

どうやら毒を受けた時点で失神しており、その後の戦闘の経緯は見ていなかったようだ。

 

蘇生の件はアマルガムにも見られていないはずだし、特に追求されなければ問題にはならなさそうである。

 

 

(実際はアイテムのチャージ回数の問題で1日3回できます、なんていったら大騒ぎになりそうだしな)

 

 

まぁそれに今回はラピスの人となりをある程度知っていたから出来たという点もある。滅多にできないという意味では嘘ではないだろう。

 

ちなみにラピスはまだ俺の後ろでタオル姿のままである。肩口から顔を覗かせている様だが、肩を甘噛みするのはやめてもらえないだろうか・・・。

 

今は耳が出ていないので半獣モードではないようだが、ちょっと心理的に怖いものがある。

 

 

「おい、半獣状態で牙を立てるんじゃないぞ。

 

 病気耐性の装備だから罹患の心配はないけど、服に傷が付くだろ!」

 

 

ライカンスロピーというのは、怖ろしいことに半獣形態や動物形態の牙で噛まれることで感染するのだ。

 

悪のライカンスロープ達が無差別に感染を広めたことも、200年前の大弾圧の大きな原因だろう。

 

ラースに聞こえないように小声で耳打ちしたんたが、ますます噛む力が増した気がする。

 

 

「フン、何言ってるのさ!

 

 さっきの件をこの程度で水に流してやろうってんだから感謝して欲しいくらいだね。

 

 ・・・しかしこのローブ何て素材で出来てるんだ?僕の牙も通りやしない」

 

 

牙は通らなくても皮膚には突き刺さる感じが伝わるんです。

 

まぁ鎧ボーナスが特殊加工込みで+7だし、重装金属鎧並みの硬さはあるだろう。

 

魔法で隠蔽しているとはいえ、竜のルーンが幾重にも刻まれた最高級のレイドクラフト品である。

 

って首はダメ!アイテムの反発力場と外皮修正しかないから薄いんだよ!

 

 

「随分と仲が良いことだな。毒ナイフを食らった身としては複雑なところだが・・・」

 

 

小声で遣り取りをしているのを見て、ラースが呆れたように声を掛けてきた。

 

 

「あー、その件は解決済みって言ったろ。洗脳が解けたんだし敵対する必要はないさ。

 

 で、協力してくれる気になったか?」

 

 

逆にラースに問いかけると、疲れたようにため息をついて答えた。

 

 

「ああ、わかったよ。

 

 こうなっては連中は私が死ぬまでここを攻撃し続けるだろうからな。

 

 もはや生き延びるにはサフアグン共をコルソスから追い出す以外には無さそうだ」

 

 

「アンタの決断に感謝する。村の連中も喜ぶだろう。

 

 で、この状態を打開する何かいい案はないのか?」

 

 

話題を変えると、ラースは先ほどまでとは打って変わった真剣な表情で語り始めた。

 

 

「ああ、一つ考えがある。

 

 実はドラゴンについて調べていたんだが、驚くべき結論に達したんだ。

 

 ドラゴンは自らの意思でここに来たわけじゃない。

 

 ドラゴンもマインドフレイヤーに惑わされているんだ!まぁそこの彼女の件があったことからもこの線は信憑性を増した。

 

 だからそこが鍵だ・・・私には状況をひっくり返せるかもしれない計画がある。

 

 準備ができたら波頭亭にアマルガムを使いに出す。それまではもう暫く時間をくれないか」

 

 

「了解だ。ではまた会う時まで、ラース・ヘイトン。いい知らせを待っている」

 

 

最終的に、ラースは説得に応じてくれた。どうやら最後の戦いへのフラグが立った様だ。

 

幸い少しは時間に猶予があるみたいだし、それまでは村で準備を整えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

1-12.決戦前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村への帰り道に、ラピスから身の上話を聞いた。

 

ちなみに流石にもうタオル姿ではない。

 

 

「糞坊主どもから身を隠して田舎で暮らしていたんだけどね。

 

 ある時地下竜教団の連中が隠れ里にやってきたんだ。

 

 『虐げられた過去を拭い去るためにも、我々と協力して世界を変えようではないか』だとさ。

 

 遠まわしな言い方だけど、要はテロリストへの勧誘だよ。

 

 無論里の皆は断った。そしたら連中手のひらを返して攻め込んできたのさ!

 

 皆で抵抗したんだけど、多勢に無勢でね・・・僕以外の仲間はもういない」

 

 

・・・ヘビーな話である。

 

ちなみに地下竜教団とは、「下たるドラゴン:カイバー」を崇めるカルトの総称である。

 

世界創生に関わったという3体の神竜のうち、地下を司るこの竜の信徒は地底の奥底に封じられている邪悪な存在を解放しようとしている連中が多い。

 

テロリストという例えはまさにぴったりであると言えよう。

 

 

「で、冒険者として生計を立てていたんだけど流石にコーヴェア大陸じゃあフレイムの連中の勢力が強くて暮らし辛い。

 

 それでゼンドリックを目指してきたんだけど、このザマさ。

 

 難破船から漂着したところでマインドフレイヤーどもに捕らえられた。

 

 そこで脳を食われた後に毒の扱いとかを仕込まれたりして、村で泳がされていたってワケだ」

 

 

ふーむ、上級クラスである『アサシン』の訓練を受けたのか。

 

ヴォイドマインド化すれば属性が悪に傾いてしまうから、暗殺者として育てるにはいい素材だと思われたのかもしれない。

 

 

「まあ僕についてはこんなところだけど・・・・

 

 トーリ、アンタは何者なのさ。

 

 あんな高等な蘇生魔法なんて伝説でしか聞いたことがないよ。

 

 クソッタレなシルヴァー・フレイムの『炎の護り手』とやらは信仰呪文を極めているって噂だけど、

 

 とてもアンタがそんなに信心深いようには見えないね」

 

 

・・・どうしたものか。まぁある程度ぼかして事情を説明するくらいは良いだろう。

 

 

「あー、俺は元々コーヴェアやゼンドリック、ましてやアルゴネッセンやサーロナの出身じゃない。

 

 気がついたらこの島の浜辺に倒れていてね。元居た所に戻ろうにもその手段がない。

 

 とりあえず大都市に行って帰る手段を探すつもりなんだが、どうにも望み薄でね・・・。

 

 ちなみにあの呪文は故郷に伝わるアイテムを使用したんだ。

 

 呪文のことも、俺の今言ったことも他には口外しないでくれよ。

 

 ラピスの事については俺も秘密を護る。だからそれでお互い様ってことで頼む」

 

 

肝心なことは一切喋っていないが、嘘も言っていないし大丈夫だろう。

 

ラピスもこれで納得してくれたようで、それ以上の追及はない。

 

 

「フン・・・二人の秘密ってヤツだね。いいだろう。

 

 変に力があると狙われるってのは僕も散々嫌な思いをしたからね。

 

 で、トーリの元居た国ってどんなところだったんだい?」

 

 

「そうだなぁ・・・平和で豊かな国だったと思うぜ。

 

 あんまり個性が強すぎると集団から弾かれるってのはあるけどさ。

 

 普通に働いていれば食事に困ることはないし、治安も良かったしな」

 

 

こんな感じで後はラピスに質問攻めにされたが、当たり障りの無い範囲で質問に答えているうちにバリケードに到着した。

 

ウルザがどこにいるか聞いてみたところ、今日はもう家に帰ったとの事。

 

家の位置を聞いて礼を言い、ラピスを連れてジャンスヤード邸に向かった。

 

 

「なんだって、もう彼を見つけたのか。

 

 それに何か策があるって?

 

 ああ、ドル・ドーンの神よ、感謝します!」

 

 

家の応接間に通されて経緯を話すと、ウルザは感極まったのかその場で神に祈りを捧げ始めた。

 

『ドル・ドーン』とはソヴリン・ホストの一柱であり武器と力の神だ。

 

パラディンの多くはドル・ドーンの兄弟である『ドル・アラー』という名誉と犠牲の神を信仰していることが多いが、

 

この村の置かれた状況からか彼女は珍しいドル・ドーン信徒の聖騎士のようだ。神格の縛りの緩いエベロンならでは、である。

 

 

「・・・失礼した。

 

 では報酬を渡そう。

 

 この力でラースに協力してやって欲しい。

 

 村のことは我々が護ってみせる」

 

 

そう言うと彼女は一旦退室し、丁重に封された箱を持ってくると中から美しい刺繍のされた1枚のマントを取り出した。

 

 

「《軽傷治癒》の呪文が込められている。

 

 また効果を使用しても1夜経てば再度使用することもできる。

 

 "シー・デヴィル"と戦ったわが祖先、『セラ・ジャンスヤード』が使用していたという品だ」

 

 

これは結構な値打ち品である。

 

ゲーム上では序盤ちょっとお世話になる程度の品だが、この呪文をサービスとして受けようとすると1回につき8GPかかる。

 

同様のポーションについては50GPもする。

 

それが毎日1回とはいえ無料であり、また術者だけではなく誰にでも使用できるのだ。

 

治癒呪文を習得していない冒険者からすれば垂涎のアイテムではないだろうか。

 

 

(でもこの刺繍、女性向けだよなぁ・・・)

 

 

まぁこの品物はラピスに受け取ってもらい、適当な対価をラピスから金銭で貰うのがいいのではないだろうか。

 

俺は自分で治癒呪文を使用できるし、治癒関係のアイテムは相当数貯めこんでいる。

 

あと、HPが多すぎて回復したいときには《軽傷治癒》では追いつかないだろうし。

 

とりあえず分配は後回しにして丁重に報酬を受け取り、ラピスを連れてジャンスヤード邸を後にした。

 

 

「・・・まぁ今回僕はどっちかというと足を引っ張った。

 

 そのマントはトーリに譲るよ」

 

 

宿に向かう路上で、隣を歩くラピスから意外な申し出があった。

 

 

「うーん、気持ちは嬉しいけどこれ女物だしな。

 

 ラピスが使えばいいよ。俺は自分で怪我くらい治せる。

 

 代わりに昨日宝箱から回収した宝石をいくらか分けてくれれば良い」

 

 

正直受け取っても使いどころが無い。かといってこんな曰く付きの品を売り捌くのも気が引けるし。

 

使いでのある人に受け取ってもらった方がこの品も喜ぶだろう。

 

そう言ってマントの入った箱をラピスに渡す。

 

 

「・・・判った。借りとくよ」

 

 

ラピスは早速箱から取り出すとマントを羽織った。

 

うーん、自分も身に着けているとはいえやっぱりマント姿ってのは見慣れない。

 

痛いコスプレっぽい気分になる。でもこの世界じゃこれが普通なんだよなぁ。

 

 

「なんだい。似合わないからってそんな顔することないだろうさ!」

 

 

どうやら似合わない様を馬鹿にされたと思ったらしい。機嫌を損ねるとまた噛み付かれかねない。ここは機嫌を取っておかねば。

 

 

「いや、そういうのも似合ってるぜ。

 

 ただ、黒い鎧のほうと合ってないかなとは思っただけで。

 

 そういや半獣化した際にその鎧じゃ素早さを活かしきれてなかったみたいだし、機会があれば鎧を変えてみたらどうだ?」

 

 

「・・・これは獣化しても一体となって鎧の効果を残せる特殊な付与がされている特注品なんだよ。

 

 でも確かに最近色々とキツくなってきたから調整は必要だしね。その時でも考えてみるよ」

 

 

うむ、なんとか話題を逸らせたようだ。

 

そのまま今度は鎧談義に移り、ダラダラと会話しながら波頭亭に到着するとそこには少し前に見たのと似た光景が広がっていた。

 

 

「・・・酒臭い」

 

 

ちなみにこれはラピスの台詞である。

 

 

「あ~~、トーリさんおかえりなしゃい~~~

 

 ラピスちゃんもいる~~~」

 

 

目の前には大量の空き瓶と酔い潰れた男達の群れ。ここの村人達は反省という言葉に縁がないようだな。

 

そして前回と違うことはカウンターにはメイが居て、彼女も相当に酔っているらしいことだ。

 

 

「あ~、ラピスちゃんそのマントどうしたの~?

 

 可愛いね~

 

 おめかししてデートしてたの?

 

 私を仲間外れにするなんてヒドイ~~~~」

 

 

うーむ、エレミアと違い純後衛であるメイは耐久力の値が低いんだろう。酒には弱いようだ。

 

カウンターの中のシグモンドも弱った顔だ。

 

 

「今度はこの姉ちゃんがお前に用があったみたいなんだが・・・

 

 周りの連中に勧められて早々にこんな状態になったんだが、ここからがザルみたいにいくら飲んでも変わりやしねぇ。

 

 丁度いい、そっちの娘さんと同じ部屋なんだしもう連れて行ってくれねぇか」

 

 

「ふふーん、ハーフエルフはお酒に強いんですよ~

 

 なんといっても共同体の中で"協餐"という習慣があって、みんなでお酒を分け合って飲む習慣があるんですから~」

 

 

・・・『ハーフエルフのワイン』か。確かにそんな話は聞いたことがある。

 

が、この様子を見るにたとえ技能判定値にボーナスが入るとしても彼女にはお酒を飲ませない方が良い様に思える。

 

 

「あー、用ならあとで聞きますから。

 

 部屋に行きましょう、メイさん。

 

 ラピス、案内してくれ」

 

 

そう声を掛けて立ち上がらせようとしたが、とても自力で立てる状態ではないようだ。

 

すぐに倒れそうになりこちらに寄りかかる形となる。

 

やむを得ず、昨日のクエスト中同様にお姫様だっこで運ぶことになった。

 

 

「・・・仕方ないね、僕じゃメイを運べそうにないし。

 

 トーリ、こっちに着いてきて」

 

 

ラピスは最初厳しい視線を浴びせてきていたが、納得したのか先にたって2Fへ向かい始めた。

 

 

「わーい、トーリさんだ~

 

 やっぱり力持ちですね~

 

 でも何時の間にラピスちゃんと仲良くなったんですか~?

 

 やっぱりデートだったんだ~」

 

 

昨日同様ぎゅっと抱きついてくるメイではあるが、やはりそこは酔っ払いである。

 

昨日はなんともいわれぬ良い香りがしていたのに、今日は酒臭さが勝っていて感触を楽しもうとは思えない。

 

 

「こんな状態でどこにデートするっていうのさ。

 

 依頼を一つこなしてきただけだよ。

 

 偶々居合わせたんで一緒に行っただけさ!」

 

 

前を行くラピスのイライラ具合がどんどん上昇しているようだ。こちらを振り返らずにいるので表情はわからないが、むしろ振り返って欲しくない。

 

 

「おや~?

 

 首筋に赤い痕が・・・

 

 キスマークですか、やりますねぇお二人さん~♪

 

 私もつけちゃおっかな~」

 

 

そんな可愛らしいものじゃないですから!前方からのプレッシャーが大変なことになっている。

 

オイ、耳出てるよ耳。誰かこのカオスな空間をなんとかしてくれ!

 

 

「・・・この部屋だよ。

 

 早くその酔っ払いをそこのベッドに放り込んでくれ」

 

 

シンプルな鍵で扉を開き、奥にあるベッドを指し示す。

 

ふむ、部屋の広さは俺の部屋と同じか。10畳くらいの部屋にベッドが二つあるせいで非常に狭い感じがする。

 

 

「・・・レディの部屋をジロジロ見るもんじゃないよ」

 

 

「おっと失礼」

 

 

さっさと自分の部屋に戻るとしよう。

 

 

「それじゃベッドに降ろしますよー」

 

 

うーむ、チートボディは優秀である。昔の自分の体でこんなことやったら腰が大変なことになったに違いない。

 

ベッドにメイを降ろして手を離そうとしたが、逆に抱きかかえられてつんのめってしまう。

 

 

「えへへ、ありがとうございます~」

 

 

ぐ、視界が胸で埋まってる、というか息が出来ない!

 

恐るべしハーフエルフ。見事なボリュームである。

 

それに首根っこを器用に押さえられているので頭を振っても抜けられそうに無い。

 

 

「あーん、動くとくすぐったいですよ~」

 

 

仕方ない、ちょっと強引だが力尽くで腕を外させて貰うとするか。

 

首の裏側でがっちりホールドされている指を解こうと頭の後ろに手をやった瞬間、『直感回避』能力が危険を感知した。

 

咄嗟に《フリーダム・オブ・ムーブメント/移動の自由》の付与された靴に装備を変更し、その効果でメイの組み付きから逃れて身を翻した。

 

胴体のあった空間をラピスの振りかざした黒光りするダガーが通り抜けていく。

 

 

「オイィ、それラースに投げたやつだろ!

 

 毒とかついてるんじゃないのかそれ!」

 

 

実際には毒にも耐性のある装備をしているんだが、あの黒光りする輝きには本能的に恐怖を感じる。

 

 

「チッ、相変わらず素早しっこい・・・

 

 何、ベッドに横になりたそうだったから手を貸してやろうと思ったのさ」

 

 

うおお、怖えぇよ!

 

ヴォイドマインドの時みたいに虚ろな目で黒い台詞を吐くのは止めて頂きたい!

 

チラ、と元凶であるメイのほうを見るとベッドに横になったためか既に眠ってしまっているようだ。

 

ムニャムニャと寝言らしいものが聞こえるが、何を言っているかまではわからない。

 

眼鏡をしたまま眠るのはどうなんだろう・・・まぁ酔っ払いにそんなことを言っても仕方ないんだが。

 

ふむ、ここが引き時だな。既に随分と逸しているような気もするが。

 

 

「んじゃ俺はこれで。あ、俺の部屋はここの二つ隣の個室な。彼女が起きたら伝えておいてくれ」

 

 

撤退は電光石火の勢いで行われた。

 

一瞬で部屋から出て後ろ手にドアを閉めると、微かにトン、というおそらくナイフが刺さった音が聞こえた。桑原桑原。

 

そういえば今日は昼食もまだ食べていない。半端な時間だがシグモンドに報告がてら何か軽いものでも作ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、ステータスウインドウを開いたところレベルアップできるだけの経験点が貯まっていた。

 

1→2は5千点であるのに対し、3レベルは累計2万点と一気に3倍の経験点が必要となる。ちなみに4レベルには累計5万点必要である。

 

TRPGではもっと簡単にレベルアップするのだが、それはMMOとTRPGの違いというものだろう。

 

昨日と今日で一気に経験点が増えているのはおそらく大量のサフアグンと戦ったことに加えて、今日ラピスと戦った分が大きかったのだろう。

 

前回レベルアップの際の確認事項であった再訓練などがあるかどうかをチェックしながらレベルアップ作業を実行していく。

 

結論から言うと再訓練による特技や技能の割り振りなおしは可能であった。

 

これで今後何かの弾みで成長を失敗したとしても次のレベルアップ時に取り戻せるということがわかりほっとした。

 

ゲームと違ってキャラを消して作り直す、なんてことはおそらく不可能だろうし可能だったとしてもその際にはアイテムなどが失われるだろう。

 

そんなリスクを負う必要がないというのは大変ありがたい。

 

相変わらずクラス選択には上級クラスなどのほかの非実装クラスは出てきていない。

 

とりあえずは前回決めた方針に従って、成長を開始した。

 

 

 

 

 

 

夜になった辺りでレベルアップ作業が終わり、アクションポイントによる強化も完了したところで部屋に来客があった。

 

 

「こんばんわ~。

 

 メイですけど、トーリさんはいらっしゃいますか?」

 

 

コンコン、と控えめなノックの音と共にメイの声が聞こえてきた。

 

 

「開いてるよ。どうぞー」

 

 

そう返事を返すと錆付いた蝶番を軋ませる音を立てて扉が開き、メイが後ろにラピスを連れて部屋に入ってきた。

 

 

「あー、生憎椅子は一つしかなくてね。

 

 済まないが1人は適当に机にでも掛けてくれ」

 

 

二人部屋と違い、個室はベッドと机が一つずつ置かれている。

 

メイとラピスは一瞬視線を交わすとメイが椅子、ラピスがその後ろで机に腰掛けることで落ち着いたようだ。

 

 

「先ほどはどうもありがとうございました。

 

 子供のころからお酒を飲む習慣があったせいで、ついつい飲みすぎちゃうんですよね~」

 

 

椅子に腰掛けたままペコリとお辞儀をするメイ。子供のころから飲んでいてアレとは・・・

 

 

「・・・知り合いの居ないところでは飲まない方が良いんじゃないかな。

 

 この村はともかく、ストームリーチは治安が悪いらしいし」

 

 

ゲーム上では街中ではイベントでもない限り流石に戦闘は無かったが、それでも誘拐や窃盗といった犯罪がらみのイベントが盛り沢山だった。

 

ワールドデザイナーの書いた文庫小説ではさらに悪く、どこの世紀末だよ!といわんばかりの治安の悪さだったイメージがある。

 

 

「ええ、どうもトーリさんは初対面のときから初めて会ったような気がしなくて。

 

 ついつい甘えてしまっちゃうんですよね。

 

 年下の子に頼っちゃうなんてよくないな~とは思うんですけど」

 

 

うーん、初対面での相手の態度を決める【魅力チェック】が大成功だったのか?ってなんか今聞き捨てならないことを聞いたような。

 

 

「俺、22ですし年上なのでは?」

 

 

「へー、若く見えるんですね。でも私は25なので私のほうがお姉さんですよ?」

 

 

「・・・ちなみに僕は17だ」

 

 

えっへんと胸を張るメイ、どうでも良さそうに窓の外に視線をやりながらぶっきらぼうに答えるラピス。

 

ああ、ハーフエルフは成長が人間より少し遅いんだっけ?人間の成人15歳に対してハーフエルフは20歳だっけか。

 

んで、東洋人の顔はやはり若く見られちゃうってことかな。

 

ラピスはしっかりしているからもう少し年上かと思ったが、それは寧ろ色々と経験を積んできたせいなんだろうな。

 

 

「・・・まぁ年齢のことはさておいて。

 

 用があるというお話しでしたけど、どんなご用件で?」

 

 

とりあえず本題を済ませちゃおう。

 

 

「ええと、昨日《ジャンプ》の呪文を使ってたよね?

 

 私は今まであんまり必要に感じていなかったから習得してなかったの~

 

 それで、もし持っていたら《ジャンプ》のスクロールを売ってもらえないかと思って」

 

 

アクション要素の高いゲームでは鉄板呪文だったが、確かにTRPGではさっぱり使ったことが無い呪文である。

 

もう少しレベルが上がれば《フライ/飛行》を習得できるとはいえ、機動力の有無は実戦では非常に重要だってことは最近体感したことだ。

 

それに古いダンジョンだと崩落やらで跳躍力が必要な局面もあるだろうし、覚えておいて損はないだろう。だが。

 

 

「スクロールの持ち合わせは無いなぁ。

 

 この村でスクロール作成に必要な小道具が手に入ったら書くことは出来るんだけど」

 

 

もう少しレベルが高い、ゲーム中で効果のあったスクロールであればかなりの量を所持している。

 

だが、この場合は鉄板呪文すぎてスクロールでは持っていなかったのだ。

 

 

「ああ、作成に必要な道具でしたら私のほうで用意できますし。

 

 それなら、指導していただければ作成のほうも私がやりますよ~」

 

 

なるほど。アイテム作成には経験点を消費するルールだし、呪文の準備だけで作成を任せられるならこっちは楽で良いな。

 

 

「じゃあそれでいいですよ。

 

 その代わり、メイさんの習得している呪文で俺が覚えていないのがあればスクロールを1つ頂けませんか。交換って事で」

 

 

「はい。それじゃあ作成の準備しておきますね。

 

 明日でいいですか?

 

 できれば机があった方が有難いですし、この部屋をお借りしたいんですけど」

 

 

確かに、あの二人部屋ではベッドか床の上で作業することになる。それじゃ作業は捗らないだろうな。

 

 

「そうですね。その方が良さそうだ。

 

 それじゃ朝食を取ったらこっちに来て下さい。

 

 朝のうちに作業しちゃいましょう」

 

 

ちょうどこの世界での秘術呪文がどのサプリまで流通しているのか調べるのに良い機会だ。

 

メイには色々と話を聞くことにしよう。

 

 

「話は終わったかい?それじゃ今度は僕の用件だ。

 

 といってもこれを渡すだけだけどね」

 

 

そう言ってラピスはこちらに何かを投げてよこしてきた。

 

咄嗟にキャッチしたそれを見ると、透き通った藍緑色の宝石だった。

 

 

「さっきの報酬の取り分代わりだよ。

 

 僕の見立てならソイツにもそれくらいの価値があるはずだ。

 

 この村に居る間は使い道が無いだろうけど、そこはまぁ勘弁してよね」

 

 

なるほど。今日の帰り道に言っていた件で律儀に持ってきてくれたんだな。

 

 

「そうか。わざわざありがとうな」

 

 

一言礼を言ったあとでポケットにしまい込む振りをしてブレスレットに格納した。

 

高品質の宝石は貨幣換算した価値だけではなく、呪文の行使に必要な物資要素としての需要もある。

 

このアクアマリンであれば叩き売っても200GP、売り方次第ではその3倍くらいまでの値段がつくかもしれない。

 

 

「それじゃあこれで用件は終了ですね~

 

 せっかくですし1階で一緒に食事でも如何ですか?」

 

 

そのメイの提案に乗って3人で食事を取ることになったものの。

 

注意していたにも関わらず、いつの間にかまた酒を飲んで酔っ払ったメイを介抱する羽目になったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

いつもの様に顔を洗った後に朝食を取って部屋に戻ると、既に扉の前にメイが待ち構えていた。

 

 

「おはようございます、トーリさん。

 

 今日はよろしくお願いしますね~」

 

 

朝には弱そうなイメージがあったが、別にそんなことはなかったようだ。昨晩の深酒の影響もなさそうに見える。

 

そういえば昨日の昼間も酔いつぶれた後の回復は早かったな。

 

そんなところはしっかり鍛えられているということなんだろうか。

 

 

「おはよう、メイさん。早いですね。

 

 もう朝は食べられたんですか?」

 

 

部屋に彼女を招きいれて、昨晩同様に椅子を彼女に勧める。スクロールを作成するのは彼女なので、当然ではあるのだが。

 

彼女は慣れた手つきで机の上に作成に必要な道具を広げていく。

 

 

「見ての通り私はハーフエルフですから、睡眠はあんまり取る必要はないんですよ。

 

 ラピスちゃんはまだ寝てると思いますけどね」

 

 

そういえばそうか。エルフは睡眠せずに瞑想するっていうことだし、ハーフエルフも《スリープ》の呪文に完全耐性だっけ。

 

 

「あー、ラピスは夜型のイメージがあるし、朝弱そうなのはわかるかも」

 

 

そういえば昨日は木の枝の上で昼寝してたって言ってたっけ。やはり猫だけあって普段は寝てばかりいるのだろうか。

 

椅子に座った彼女の後ろに立って机を覗き込むようにする。

 

 

「じゃあまずは《ジャンプ》からやっちゃいましょう。

 

 そこの巻物の上に呪文を投影すればいいんだよね?」

 

 

「はい。よろしくお願いします~」

 

 

彼女は両手をぐっと握り締めてやる気十分な様子だ。

 

ああ、そんな動きをするとその双丘が強調されて、机が隠れて見えないよ・・・

 

 

(ううむ、雑念は排除せねば。集中集中・・・)

 

 

彼女の後ろから横に回りこんで立ち位置を代え、机に広げられている巻物に集中する。

 

呪文を行使している際に組み上げている力の網目のような「回路」を構築し、普段ならそこに力を流し込んで発動させているその「回路」を起動せずに巻物の上に展開したまま維持する。

 

その展開された網目をなぞる様に巻物の上でメイの操るペンが踊る。

 

魔力を伝達する特殊なインクが「回路」の模様を巻物の上に焼き付けていく。

 

 

「凄いですね~

 

 回路の構築が早いし、凄く綺麗~」

 

 

戦闘中にも呪文使いたちはこのように回路を構築して呪文を発動させている。

 

この回路を分析することで、知っている呪文であれば今から相手がどのような効果を持つ呪文を発動しようとしているのかを知ることも出来る。

 

回路構築には個人の癖のようなものが反映されるため、同じ呪文であっても同じ模様になるわけではない。

 

このためある程度の呪文に対する知識が無ければ、知っている呪文であっても見抜けなかったりすることはある。

 

「スクロール」はこの回路を特殊な巻物とインクによって留めてあり、魔力を流してやるだけで発動できる状態にしてある簡易型の呪文発動体である。

 

昨日の報酬のマントと違い簡易型であるため、呪文の使い手でなければ発動させることは出来ないし発動にも呪文の使い手としてある程度の力量が必要となる。

 

普通の『ウィザード』というクラスは呪文書に回路を記録しておき、毎日呪文書から魔力を通して発動直前にまで準備した呪文を脳裏に焼き付けている。

 

このため呪文書に記録の無い呪文や、記録があっても脳内に準備していない呪文は使用することが出来ない。

 

対して『ソーサラー』クラスは「生得魔術師」などとも呼ばれており、初めからこの「回路」を脳に焼き付けている。

 

このため呪文を準備することは出来ないが、魔力の続く限り持っている回路の組み合わせは自由自在に呪文を行使できる。

 

状況に応じて様々な呪文を用意し、また呪文のバリエーション自体も呪文書により増やすことの出来る『ウィザード』と、

 

習得している呪文の数に限りはあるものの、状況に応じてその呪文を咄嗟の判断で準備の必要なく潤沢に行使できる『ソーサラー』という特徴の違いだ。

 

俺の中には双方のキャラクターがいるが、そのどちらもがこの世界の『ウィザード』『ソーサラー』とは異なった仕様である。

 

アクションゲーム化する際にSP制になったことが大きな原因だとは思うが、かなりこの世界では異質な存在であろう。

 

ちなみにこのあたりの話は巻物を作成しながらメイに聞いて確認したことだ。

 

巻物の作成には非常に長い時間を要するため、その間に色々な話を聞くことが出来た。

 

どうやらこの世界に一般的に流通している呪文は基本ルールブックである「プレイヤーズ・ハンドブック」に掲載されている範囲内に留まっているということだ。

 

その後に大量に発売されたサプリメントに掲載されている呪文について聞いてみたが、いずれもメイには心当たりが無いとの事。

 

ひょっとしたら世界のどこかには密かにそういった呪文を伝えている連中もいるかもしれないが、一般的なものではないとわかっただけで十分である。

 

俺がレベルアップする際には成長の選択で習得する呪文を選ぶことが出来るのだが、そこでは意識すればゲームに採用されていなかった、

 

またこの世界では一般的ではないらしいサプリの呪文も選択することが出来るのは確認済みだ。

 

そういった呪文を研究の成果として発表すればそこらの大学で学位を得ることもできるだろうが、とりあえずは自身のアドバンテージとして隠し通していくべきだろう。

 

この世界に根を下ろして暮らすことになった際の選択肢の一つ程度に考えておけばよい。

 

ちなみに《ジャンプ》のスクロールが作成し終わった後には、マインドフレイヤー対策として《プロテクション・フロム・イーヴル/悪よりの加護》のスクロールを頂戴した。

 

敵にそういった精神干渉系の攻撃を行ってくる連中がいるということを教えることが出来たので、彼女も明日以降は対策としてこの呪文を準備してくれるのではないだろうか。

 

ついでに呪文抵抗という魔法無効化能力を高いレベルで持っている敵についての話も振って、それに対する対策についても意見を交わしておいた。

 

そんなこんなで作業を終えると、すでに昼を回って夕方近い時間になっていた。

 

 

「んー、こんなところで終了かな。

 

 メイさん、お疲れ様」

 

 

疲労が無いのは流石のチートボディだが、ずっと立ちっぱなしだったので関節が固まっている気がする。

 

 

「ふう~~~

 

 久しぶりだったので疲れちゃいました~」

 

 

メイもデスクワークに慣れているとはいえ8時間も作業しっぱなしだったので体が固まっているのか、両腕を上にして伸びを行っている。

 

 

「お昼も抜いちゃいましたし、下でご飯でも頂きましょうか」

 

 

昨晩に引き続き、またもご飯のお誘いである。無論それを断るようなことはしない。

 

1Fに降りるとやはりこの半端な時間にはシグモンドはいないらしい。

 

カウンターではまたイングリッドさんが縫い物をしていた。

 

 

「あら、トーリさんったらまた違う女の子を連れてるのね」

 

 

いや、「また」ってなんですか「また」って。

 

軽く流して食事をお願いすると、「あらあらうふふ」と微笑みながら奥の厨房に消えていった。

 

暫くすると暖めたシチューとパンを運んできてくれた。む、肉入りか。エレミアの獲物かな?

 

固めのパンをシチューに浸けてモフモフと食べていると、入り口に誰かが近づいてくるのを感じた。

 

二人か。距離の割りにやたらと足音が小さい。

 

日常的に足音を殺す訓練をしているんだな、などと考えていると予想通りエレミアとラピスがやってきた。

 

 

「トーリ殿にメイか。食事ということはもう作業の方は終わったのかな?」

 

 

どうやらエレミアはラピスから今日の事を聞いていたようだ。

 

今日はあちらも二人で行動していたようだ・・・村の外に出ていたとすると、また大量のカルティストがカイバーに送られたに違いない。

 

エレミアが二人分のジョッキを持ってテーブルに近づき、うち一つを既に座って勝手にシチューをつついているラピスのほうへ置く。

 

 

「ああ、さっきようやく一区切りついてね。ようやく食事にありついたところ。

 

 二人は今日は外に?」

 

 

こちらのパンを狙ってくるラピスをブロックしつつ、エレミアに話を振る。

 

 

「ああ。先日の救出依頼の際に、沿岸部に邪教の祭壇があったのはトーリ殿も覚えているだろう。

 

 あれを破壊してきた」

 

 

「相変わらずシケた連中だったけどね。

 

 近くにお宝を隠し持ってたんで、没収しておいたよ」

 

 

あー、祭壇の近くにランダムPOPのネームドモンスターが出るんだっけか。お宝ってのはそいつのことだろうな。

 

しかしなんだろう。男1人に美人の女性3人で食事なんて美味いシチュエーションのはずなのに、この殺伐とした会話は・・・。

 

しかもそれに慣れてきているような気がする自分。ファンタジーはやはり怖ろしいぜ!

 

 

「トーリ殿、この後の予定は?」

 

 

なんとかラピスから死守しつつ食事を終え、エールを飲みながら一息ついたところでエレミアが尋ねてきた。

 

 

「今のところ特にないかな・・・作業で体が凝っているから、少し解そうとは思ってるけど」

 

 

そう返すと、エレミアの瞳がキュピーンというエフェクトを発して輝いたように見えた。む。地雷を踏んだか?

 

 

「そういうことであれば是非またご指導をお願いしたい!」

 

 

(そうだな、レベルが上がったことで獲得した特技の確認もしておきたいしちょうど良いか)

 

 

「いいよ。それじゃまたあの広場でいいか?」

 

 

今ならまだ外は明るい。元々が熱帯であるこの辺りは日が沈むのは非常に遅いのだ。

 

 

「私も行っても良いですか~?

 

 お二人の動きを見ているだけで勉強になりそうですし」

 

 

メイも食事を終えて、ついてくるみたいだ。後衛だからといって接近戦の修練を怠って良いというわけじゃないしな。この世界はシビアなのだ。

 

 

「ラピスも来るか?なんなら二人掛かりでも構わないんだぜ」

 

 

ニヤリと挑発気味に誘いを掛けると、ラピスも不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

 

 

「フン、まだこんな時間だってのにベッドが恋しいみたいだね。

 

 早々に寝かしつけてやるよ」

 

 

昨日のように大量の敵に包囲されたときのことも考え、1対多の訓練もしておきたいしラピスが参加してくれるのは有難い。

 

そんなわけで4人で波頭亭を出て、森の広場に向かうことにした。

 

出掛けに婦人が「4人でだなんて・・・若いっていいわね」などと言っていたのは完全に無視する方向で。

 

 

 

相変わらず仕掛けられている鳴子にメイが引っ掛かったりしたのを除けば何事も無く到着した。

 

とりあえず俺は今回も武器無しで素手である。

 

エレミアは相変わらずのヴァラナー・ダブルシミター、ラピスは既に半獣モードでショートソードを抜いている。

 

 

「それじゃこの石が地面についたらそれを合図に開始ってことで」

 

 

武器を持っていないほうの手で拾った石を持ってラピスが宣言する。

 

特に異論は無いので首肯して返し、俺を挟むようにしている二人を左右にしながら視線を石のほうに向ける。

 

するとラピスは石を上に放り投げるかと思いきや、地面に向けて叩き付けた!

 

 

「GO!」

 

 

直後、ラピスはショートソードを突き込んで来る。そちらに身を向けると自然背後に回ったことになるエレミアからも攻撃の意志が感じられる。

 

連携を取って、ラピスの攻撃で体勢の崩れたところにエレミアが仕掛けるという作戦か?

 

ヴォイドマインド化が解けたとはいえ半獣モードのラピスの動きは素早い。強力な風の精霊にも匹敵するスピードだ。

 

それを活かしてショートソードという軽い武器で回避しづらい胴体の急所を狙ってくるのだから、普通の相手であれば必中なのではないだろうか。

 

だが、生憎こちらは回避に掛けては普通ではない。

 

10体以上のサフアグンの援護を受けた狂化ラピスの攻撃すら凌いだのである。

 

あの時に比べれば装備などはかなり緩い状態ではあるが、状況的には今回の方が余裕がある。

 

ショートソードを掌で払っていなし、続くエレミアのシミターに向かい合って軌道から逸れるように体をずらす。

 

反撃とばかりにラピスに対して足払いを仕掛けるが、これは軽くバックステップされたことで回避されてしまう。

 

昨日は武器の性能に助けられたり、動きが止まっていたからこそ有効打を加えることができていた。

 

だが今は素手でリーチも短く、あの身のこなしに当てるのは厳しそうだ。

 

対してエレミアはそこまで素早くはないが、一撃の威力が高い。力のエレミア、技のラピスといったところか。

 

挟撃を避けようと間合いを取ろうとするが、そうはさせじとどちらかが回り込んでくる。

 

広場を細かく動き回りながら攻撃を凌ぎ続けると、やがて先日切り倒されたままになっている倒木の位置まで来た。

 

それを跨ぐ様な位置に立つと、背後を狙ってラピスが回り込むのを気配で察した。

 

ここがチャンス!

 

振り返り、倒木を飛び越えるために不安定な姿勢になっているラピスに足払いを仕掛ける!

 

空中では回避することもできず、攻撃を受けたラピスはコマのように回転すると倒木の反対側に背中から着地した。

 

続いて切りかかってきたエレミアのシミターを、下方向に勢いをつけて撥ね下ろすとシミターの刃は倒木に切り込んで動きを止めた。

 

咄嗟に武器を捨てて下がろうとした判断は流石だが、そのときには既に俺は間合いの内側に潜り込んでいる。

 

鎧の上から掌打を叩き込んでエレミアを吹き飛ばす。

 

 

「うーん、まぁこんなところかな?」

 

 

実際には二人は戦闘不能になるようなダメージを負っているわけではないが、区切りとしては丁度いいのではないだろうか。

 

 

「わー、相変わらず凄いですねぇ・・・

 

 目で追うのがやっとですよぅ」

 

 

パチパチ、と拍手しながらメイが感想を述べる。

 

 

「くそ、性悪な攻撃してくれるじゃないか・・・」

 

 

倒れたときに打ち付けたのか、頭を押さえながらラピスも立ち上がってくる。

 

 

「いや、俺だとまだラピスには普通にやってもなかなか中りそうに無かったからな。

 

 ちょっとした小細工さ。挟撃に拘ってたみたいだから上手く嵌るんじゃないかと思ってね」

 

 

「確かに、攻撃については我々の方が一日の長があるようだが・・・

 

 二人掛かりでも一撃も当てることが出来ないとは。

 

 この村に来た当初よりは腕が上がっていると自負してはいるのだが、まだまだだという事だな」

 

 

少し距離が離れていたエレミアも近寄ってきたので休憩ということで先ほど活用した倒木を椅子代わりに座り込む。

 

前にここに座ったときは、直後に《魅了》されたエレミアに斬りかかられたんだっけな。

 

ついこの間の事のはずなんだが、随分と昔のことのように感じるのはここ最近の密度が高かったせいだろうな。

 

 

「じゃあ次は私もお手伝いしますよ~」

 

 

そう言うとメイは杖を構え、詠唱を開始した。うーん、召喚系か?

 

数秒の詠唱の後に呪文は完成し、煌きと共に3体の犬が召喚された。

 

 

「『紺碧の空・シラニア』から来たセレスチャル・ドッグちゃん達ですよ~

 

 さあ、みんなあの男の人を攻撃です!」

 

 

こうしてなし崩し的に第二ラウンドが開始されたのであった!

 

 

 

 

 

 

 

こんな感じで数日を午前中はメイとの呪文談義、午後はエレミア、ラピスとの模擬戦を行って過ごしていたある夜。

 

ついにラースからの使いとしてアマルガムが波頭亭に姿を現した。

 

 

「わが主、ヘイトンからの使いできた。

 

 明日の朝、ミザリー・ピークの頂上まで貴方を案内するようにとのことだ。

 

 準備は万全か?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。