ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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閑話1
幕間1.ソウジャーン号


目を覚ますと、豪奢な天蓋が目に映る。

 

体を包むのは宿屋なんかでは考えられないほどフカフカのベッドだ。

 

そのベッドにしても昔俺が使っていたワンルームには放り込めないサイズだ。5,6人が寝れるほどの大きさである。

 

視線を転じるとこの寝室にはドアが2方向についており、それぞれがリビングとバスルームに繋がっている。

 

昨日簡単に受けた説明を思い出し、バスルームに備えられているシャンプードレッサーに向かう。

 

備え付けられている蛇口に手をかざし、合言葉を唱えるとそこから水が出てくる仕掛けなのである。

 

 

「『注げ』」

 

 

合言葉に反応して"デカンター・オブ・エンドレス・ウォーター"というマジックアイテムから水が溢れ出す。

 

さらにこのアイテムには火の精霊が呪縛されており、希望により水の温度も自由自在に変更できるときている。

 

推定だがこのアイテム一つで普通に家が建つんじゃないだろうか?

 

意識をはっきりする為に冷水で顔を洗うが、それだけではまだスッキリしなかったためシャワーを浴びることにする。

 

昨晩の寝巻き代わりにしていた"ヌルクローズ・ガウン"をブレスレットに収納して浴室に入った。

 

ゲーム中でも冒険には使わずに街での普段着に使用されていた悲しいレイドユニークであるが、こうして使ってみるとその有用性には驚かされる。

 

「冷気抵抗」と「火抵抗」を同時にそれなりのバランスで備えている装備はこれが唯一であり、どんな環境でも適温で過ごせる上に着心地は抜群だった。

 

寝ている間であればこの衣服の素材の影響による「秘術呪文失敗率」は気にしなくていいし、今後のメイン寝巻きに決定である。

 

ちなみにいつものジャージは冒険に使っていたため流石に綻びが生じており、それを見かねたここのアテンダントが手直ししてくれるとのことで預けてある。

 

流石に冷水ではなく適度に暖かい温水のシャワーを浴び、汗やらを落としてスッキリしたところで再びガウンを着て今度はバスルームからリビングに繋がるドアを開けた。

 

リビングの天井と壁面は外方向に向けて全面ガラス張りになっている。外の景色を見たくない場合は付与されている幻術呪文の効果を加減することで透過率を変更できるという便利設計。

 

今現在は外の景色が綺麗に映し出されている。雲ひとつ見えない青空が、水平線で少し異なる色の海原と接しているのを見ることが出来る。

 

こうして見ると水平線は微かに丸みを帯びている。どうやらこの世界も球体の惑星のようだ。

 

景色に目をやりながらリビングに入ると、そこでタイミングを測ったかのように廊下側のドアからノックの音がした。

 

どうぞ、と声を掛けると銀色のカートにトレイを乗せて1人のアテンダントが入室してきた。

 

小麦色の肌に銀髪の彼女は黒を基調とした品のよい制服に身を包み、元気良く挨拶をしてきた。

 

 

「おはようございますトーリ様。今日も快晴で良い航海日和ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

幕間1.ソウジャーン号

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた後、カートにチップとして銀貨を数枚置いてから彼女に話しかける。

 

昨晩はこのチップについても加減を間違えたせいで大変な騒ぎになったのだ。

 

 

「食事美味しかったよ。ありがとう。

 

 ところで今日もこの船の案内をお願いしたいんだけど」

 

 

本当は昨日のうちにある程度案内してもらうはずだったのだが、最初に案内された遊技場で遊んだカードゲームにハマってしまい他のスペースを回る時間が無くなってしまったのだ。

 

『スリードラゴン・アンティ』というもので、D&Dの世界ではこんなゲームが遊ばれていますよという触れ込みで実際に販売されていたというゲーム。

 

名前は聞いていたんだけれど実プレイ経験がなかったため、シンプルながらも奥深い内容にすっかり時間が経つのを忘れてしまったのである。

 

 

「案内するのは私でよろしいでしょうか?

 

 それとも昨日見て回られた際に気に入った者がおりましたらその者にご案内させますが・・・」

 

 

彼女は片付けの手を止めてこちらに向きかえりながらそう問いかけてくる。

 

頭の中で何人か昨日1日のことを思い出すが、会ったのは主にカジノのディーラーやレストランのウェイトレス達である。

 

彼女らには別の仕事があるだろうし、最初に案内役を務めてくれた目の前の彼女のほうが適任だろうと思える。

 

それに目の前で瞳に不安そうな光を浮かべている彼女に対して「別の人がいいです」などと言い出せるはずもない。

 

 

「いや、君に頼みたいんだ。昨日途中で中断させちゃったからね。今日もよろしく頼むよ」

 

 

そう伝えると、彼女は微笑んで一礼してきた。

 

 

「では私レダが案内を務めさて頂きますね。

 

 こちらの片づけが終わるまでもう暫くお待ちになってください」

 

 

そう言って片づけを再開した彼女の後姿を見ていると、先ほどは萎れて元気のなかった長い耳が今は元気に満ち溢れているように見える。

 

この船はエルフのチュラーニ氏族とハーフリングのジョラスコ氏族が共同で作り上げたと聞いていたが、このため殆どのクルーはその2種族で構成されているようだ。

 

とはいえジョラスコ氏族のハーフリングたちは彼らの担当する温泉浴場やリラックスルームから出ることは少なく、他の施設はほぼエルフたちの手で運営されているとの事。

 

昨日はそのあたりには寄れなかったから、今日は顔を出すことにしよう。

 

そんなことを考えているうちにレダの作業は終了したようだ。

 

カートを押して外の廊下の壁際に移動させている。おそらく後で掃除に来るハウスキーパーが回収して行ってくれるんだろう。

 

 

「トーリ様、お待たせしました。準備がよろしければご案内を開始させていただきますよ」

 

 

まぁこちらには準備も何もない。身嗜みも普通に整えてあるし、このガウンは寝巻き代わりにしていたといっても普段着で通用するレベルだろう。

 

腰掛けていたテーブルの上に銀貨を二枚置いて掃除に来てくれる人たちへのチップとし、立ち上がって部屋の外へと歩き出した。

 

部屋の外の廊下にも高価な品に違いないオブジェが所々に飾られているが、それらはとても品が良く船内の雰囲気にマッチしている。

 

一応それらの品々についてもレダが説明をしてくれるのだが、正直なところ芸術には造詣がないのでなんとなく上品だなぁとか綺麗だなぁくらいしか感想が出ない。

 

 

「そう言って頂けるだけで十分ですよ。

 

 我々チュラーニ氏族はフィアラン氏族から分かれたばかりの年若い氏族ではありますが、特に造形美に関しては彼らを上回っていると自負しています。

 

 彼らは主に芸能の方に重きを置いている分、そちらではまだ我々のほうに至らぬところがあるのですが」

 

 

最も古いドラゴンマークの一つである『影のマーク』を持つフィアラン氏族だが、彼らは最終戦争の半ばで氏族間の抗争により二つに分かれている。

 

表向きフィアラン氏族は一流のエンターティナー集団として知られているが、実はその影のマークを芸術だけではなく諜報にも活用するエベロン最大の諜報機関でもある。

 

それもそのサービスの恩恵を受けられるのは王族などといったほんの一握りの人物だけという、CIAやMI5のような組織なのである。

 

そしてその分裂により生まれたチュラーニ氏族はフィアラン氏族よりもより暗く、苛烈な組織として設定されていた。

 

目の前の彼女も、チュラーニ氏族に属する以上は諜報などに関する訓練は一通り受けているということだ。

 

とはいえ彼らの芸術に対する能力も本物である。ただその一分野としての『闇の芸術』に対する献身もまた本物であるという訳だ。

 

 

「では今日の最初のご案内はまずこちらのコンサート・ホールです。

 

 とはいえ、今回の航海には楽団のメンバーを乗せていない為に演奏をお聞かせすることはできないのですが」

 

 

客室に最も近い遊技場の次にある施設はこのコンサート・ホールらしい。

 

船の中にこんなものを設えるとは、彼らの豪華客船というコンセプトにかけた情熱がどれほどのものか思い知らされる。

 

確かに複数の風の精霊が呪縛されているというこの船は、まるで陸の上にいるかのように揺れることがない。

 

よほどの嵐や大波がこない限りは船酔いどころか船が動いていることすら気付かないし、その呪縛されている精霊のために大型の危険なモンスターなども近寄ってこない。

 

一部海域に出現する狂ったエレメンタルなどはこういった精霊捕縛船を狙うということだが、既にその海域は通過してしまっている。

 

今回のように、ドラゴンに襲撃されたため港から出航できないなどというトラブルに見舞われなければ航海スケジュールが遅れることもなかったろう。

 

まさかここまでの船だとは思わなかった。

 

普通のエレメンタルガレオン船であれば1日チャーターしても750GP程度であり、三日で2,250GPであれば要人の救出という任務の報酬には適当なところだろうと思っていたのだが。

 

おそらく正規の料金を支払うとすればその2~3倍は最低でも必要だろう。

 

試験航海中ということ等を割り引いても過分な報酬を要求してしまった気もするが、受け入れてもらえたのだからよしとしよう。

 

その分はチップなどで接する機会のあるスタッフらに報いるということで。

 

 

「さて、次はジョラスコ氏族のリラックス・ルームです。

 

 ここでは氏族のヒーラー達の呪文を含めたサービスを提供させていただいております。

 

 マッサージやアロマテラピーなんかも行ってるんですよ」

 

 

美容に関する話題でもあるためか、レダの説明にも熱が入っている気がする。

 

せっかくなのでマッサージのサービスを受けることにした。

 

 

「ではまずこの室内着に着替えて、隣のサウナに入っていただきます」

 

 

あれ? マッサージだけじゃないの?

 

 

「体を暖めることで筋肉をほぐし、マッサージの効果を高めるんですよ。私もご一緒しますので入りましょう」

 

 

サウナなんて混浴とはいわないのだろうが、そういえばフィンランドとかでは普通に男女の別なくサウナを楽しむんだっけ?

 

いかん突然の事態に混乱している。

 

そうこうしている間にも彼女はそこで制服を脱ぎ始めている!

 

俺は慌ててガウンを脱ぎ籠の中に放り込むと、渡された室内着を着こんでサウナに駆け込むのだった・・・ヘタレですいません。

 

だが、真に厳しいのはサウナに入ってからだった。

 

目の前に座るレダは薄い布一枚しか身につけておらず、それは当然サウナで汗をかくと薄っすらと透けてしまうのである。

 

座っているのが横であればよかったものを、彼女は正面に座ってニコニコしながらこっちを見ているのである。これでは視線を逸らす事もできない。

 

これがチュラーニ氏族のハニートラップか! 心頭滅却するんだ俺! 手遅れかもしれんがこれ以上の深手は避けなければ。

 

 

「ふふふ、お客様をご案内する時には船員も一緒にここのサービスを受けることが出来るんです。

 

 それ以外だと規定の料金を払わないと船員では受けさせてもらえなくて。

 

 これもトーリさんが私を案内役に指名くださったおかげです♪

 

 あ、料金の方は気になさらないで結構ですよ。お客様の場合は基本料金に含まれていますし」

 

 

レダは非常に上機嫌な模様。

 

どこの世界でも女性の美に対する情熱は変わりないって事かな。

 

特に彼女は職工ではなく芸能を主にしているようだから、女優さんみたいなものだ。一層気を使うのだろう。

 

そんなことを考えて気を紛らわしていると、視界の隅で砂時計がその時の刻みを終えたのが目に留まった。

 

 

「時間になりましたね。

 

 それじゃ出ましょうか」

 

 

彼女に手を引かれ、サウナを後にすると次は仕切りのあるブースでシャワーを浴びて汗を流し、新しい室内着に着替えてマッサージルームへと移動。

 

そこにはハーフリングの施術士が4名既に待機しており、いつでも取り掛かれるように準備を整えていたようだ。

 

 

「いらっしゃい、そこにうつ伏せになってくださいな」

 

 

その後はまぁ普通のマッサージだったと思われる。ハーフリングが二人掛かりで全身をマッサージしてくれた。

 

なんか色んな物が塗りこまれていたりしたようだが、香油だったり肌にいい薬液だそうだ。

 

このあたりの品物についてはTRPGでも触れられていなかったと思うので相場はわからないが、隣で至福の表情をしているレダの様子を見ると相当な高級品なのだろう。

 

一通りのマッサージが終了すると、最後にテラスに通されて温かい飲み物を振舞われた。

 

 

「うーん、なんか思っていたよりずっと本格的で驚いた。

 

 この飲み物も何か曰くのあるものなのかな?」

 

 

ソファの隣に座っているレダに声を掛ける。

 

 

「ええ、そうですね。体の中の流れを良くしてくれる飲み物だそうです。

 

 このマッサージはジョラスコ氏族の本拠であるカルナスの『レストホールド』で受けられる以外は、一部の人たちが個人で長期契約で施術士を雇い入れる以外ないって話です。

 

 一流のアーティストは大舞台の前日には必ずこのサービスを受けるようにするんだとか。

 

 肌が綺麗になる以外にも、指先の動き一つのコントロールも表現しやすくなるとか。

 

 トーリさんも明日起きられたら体調の良さにまた吃驚しちゃうかもしれませんね」

 

 

ふーむ、飲み物の方は血行促進や悪玉コレステロールを除去する感じなのだろうか。

 

しかし聞けば聞くほど半端ないサービスのようだ。乗船前のリナールの自信の程が今なら理解できる。

 

暫くソファに体を預けてマッサージの余韻を感じながらレダと会話していると、このテラスに誰かがやってきたのを感じた。

 

 

「トーリ殿、我々の氏族のサービスは気に入っていただけたかしら?」

 

 

やってきたのはこの船の女主人、ドールセン・ド・ジョラスコその人であった。後ろに飲み物を持った侍従を連れている。

 

 

「ミ、ミストレス! 失礼しました!」

 

 

レダが慌てて立ち上がり、直立不動の体勢を取ろうとするが彼女は手でそれを嗜めると彼女に座るように促した。

 

 

「座ったままで構いませんよ、今貴方はトーリ殿の案内をしているのですから。

 

 貴方がそんな状態では彼もあまり寛げないのではなくて?」

 

 

ありがとうございます、と綺麗に一礼してレダは再びソファに腰掛けた。とはいえ流石に先ほどまでの体勢ではなく、きっちり背筋を伸ばして綺麗に座っている。

 

 

「飲み物のお代わりは如何かしら?

 

 少し癖のある味なので貴方の舌にあっていれば嬉しいのだけれど」

 

 

向かいのソファに優雅に座った女主人の前に、侍従がカップを用意し飲み物を注いでいく。せっかくなのでとそのテーブルにコップを置くと、こちらにもそのまま注いでくれた。

 

 

「いや、堪能させていただきましたよ。どこへ行っても驚きの連続です。

 

 まるで生きたまま『紺碧の空・シラニア』に迷い込んだかのようです」

 

 

ちなみに『シラニア』とはエベロンに隣接している次元界の一つで、住人すべてが天使で構成されているといういわば天上界のようなところである。

 

以前メイは召喚術でこの次元界から『セレスチャル・ドッグ』という善の来訪者を召喚していた。

 

術者の力量が高くなれば、この次元界からより強力な存在を一時的に召喚することができるだろう。

 

 

「それは良かったわ。

 

 私をあの暗い墓所から助け出してくれただけではなく、聞けばあのドラゴンを追い払うのにも見事な働きをされたとか。

 

 勇士の行いに報いるのも我々の役目。

 

 ここに滞在している間は何時でもいらっしゃいな。

 

 客室にも浴室の備えはあるのでしょうけれど、こちらの大浴場で星空を眺めながら暖を取るのもなかなか趣がありますわよ」

 

 

ふむ、こちらの大浴場は露天風呂になっているのか。それはこの機会に是非とも堪能しておかなければ。

 

 

「こちらであれば大勢で入ることも出来ますわ。

 

 貴方が誘えばご一緒したいという娘はたくさんいるでしょうし・・・是非楽しんでいらして」

 

 

突然の台詞に飲んでいたものを噴出しそうになったがなんとか堪える事に成功した。

 

目の前にいるミストレスにそんな事を仕出かしたら、今夜のうちにサンダー海に浮かぶことになりかねない。

 

 

「あら、何か変なことを言ったかしら。

 

 英雄色を好むというのだし、恥じるようなことではないと思うのだけれど」

 

 

どうやらこの人は昨晩の騒ぎの事を知っているようだ。まぁこの船のオーナーなんだし当然といっちゃ当然なんだろうけど。

 

だが、このままでは宜しくない。会話の流れを変えることにしよう。

 

 

「それはさておき・・・少しお伺いしたことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

 

真剣な表情を作ってミストレスを見つめる。これはこの世界について俺の知っている事前情報を覆すものであるし、確認する機会があれば逃すわけにはいかない。

 

 

「ええ。私でお答えできることでしたら」

 

 

女主人はそういって微笑み返してきた。願わくばこの質問の後も彼女がその表情を変えないでいてくれることを祈るぜ。

 

 

「不躾な質問であることは承知しております。お答えできないのであればそれでも結構なのですが・・・・

 

 確かジョラスコ氏族はハーフリングの血に拠ると聞いております。

 

 ところが貴方は見たところ私と同じ人間種族に見える・・・その事についてお尋ねしたかったのです」

 

 

やはり少々厳しい質問になってしまったか。隣に座るレダに緊張が走るのが感じられた。

 

正面の女主人は一瞬悲しげに顔を伏せたが、すぐに顔を上げると口を開いた。

 

 

「それについてお話することは我が氏族の恥を晒すことになります。

 

 しかし確かにこの身でジョラスコ氏族を名乗ることに疑問を感じられることは理解できます。

 

 私の身の証を立てる上でもお話しなければなりませんね」

 

 

彼女はそう前置きをしてから語り始めた。

 

 

「恥ずかしながら我々ジョラスコ氏族も一枚岩ではないのです。

 

 近年、癒しの対価を求めることに対して疑問を抱く若い氏族のメンバーが増えています。

 

 特に最終戦争で従軍したものの中にその動きは顕著であるといえます。

 

 確かに対価を払えるものにしか癒しの力を振るわないことは、多くの人々が我らの氏族に感じている不満でありましょう。

 

 ですが『コースの勅令』により土地の所有を禁じられた我らドラゴンマーク氏族が同胞を養うためには、この『癒しのマーク』の力に頼るしかないのです。

 

 無論、対価が大きなものにならないように調整は常に行っております。

 

 そんな状態で私がこのような特権階級向けになるであろうサービスを開始しようしたことで氏族の中での風当たりが強くなり、ついには身の危険を感じるようになったのです。

 

 そのため、旅の間の危険を避けるために高位の術者の力を借りて別の姿をとっているのです」

 

 

なるほど、氏族間のゴタゴタか。

 

ひょっとしたらジョラスコ氏族とチュラーニ氏族が結びつくことを懸念したフィアラン氏族の陰謀という路線も考えられるが・・・。

 

リナールが『彼女には敵が多い』といってたのがこの事なんだろう。

 

しかし、今彼女から聞いた話で一つ気になるところがあった。

 

ひょっとしたら将来のクエストの芽を摘む事になるかもしれないが、過分なもてなしの礼にもなるし人命を救うことになるかもしれない。

 

一つ彼女にこちらから話をしてみるとしよう。

 

 

「なるほど、同胞を疑わなければならない貴方の心中、お察しいたします。

 

 ですが、私は今回の事件で一つ見逃すことの出来ない怪異に遭遇しました。

 

 ひょっとしたらそれを知ることが貴方の助けになるかもしれません。私の話を聞いていただけますか?」

 

 

そう話を振ると、女主人だけではなく隣のレダも興味を示したようだ。

 

視界には映っていないが、耳がピクピクと上下しているのが感じられる。

 

 

「遥か昔、『狂気の次元界・ゾリアット』から異形たちが攻め込んできた『デルキール戦争』についてはご存知かと思いますが・・・。

 

 その戦争の際にこのエベロンに撒き散らされた災厄の中に『マインドフレイヤー』という恐るべき存在がいるのです」

 

 

そうして俺は今回のサフアグン達を指揮していたのが3体のマインドフレイヤーだったこと。ドラゴンもその精神支配を受けていたこと。

 

そしてマインドフレイヤーによって脳を啜られた『ヴォイドマインド』のことについて話をした・・・無論それがラピスのこととは判らないよう、そういった存在について言及しただけだが。

 

 

「つまり、貴方は我々のこの件について地下竜教団が関わっているかもしれないと考えられるのですか?」

 

 

流石に突拍子もない話に聞こえるのだろう。女主人の表情は半信半疑といったところだ。

 

 

「勿論そうであるとは申しません。あくまでも可能性の一つとしてそういった場合もある、ということです。

 

 この場合、おそらく扇動する立場のものがマインドフレイヤーの端末となっているのではないかと考えられます。

 

 そういった者達は頭部に脳を啜られた証である4つの穿孔が開いています。

 

 ヘッドバンドや髪型などで隠すことは簡単ですが、逆にそれさえなければ発見するのは容易です。

 

 ただ気をつけなければいけない事として、マインドフレイヤー達は端末を通して周囲の状況を把握することが出来るということ。

 

 そして端末を通してその恐るべき狂気の力を振るうことが出来る、という点です。

 

 確認するにしても、事は密かに行わなければいけないでしょう」

 

 

その他、ヴォイドマインドが有している様々な能力や特徴について説明を行った。

 

無論俺がこんな話をするのにはある程度根拠がある。

 

途中のアップデートで追加されたジョラスコ氏族に関わるクエストに『内部の敵』というものがある。

 

これはストームリーチにその勢力を置く4つの氏族にマインドフレイヤーがその触手を伸ばし、密かに氏族の分裂と弱体化を測るという陰謀を打ち砕くストーリーなのである。

 

今の時点で既にその陰謀が進行しているのかどうかは定かではないが、ジョラスコ氏族の中でも高位に位置するであろう彼女にこの情報を伝えておくことは有意に働くはずである。

 

 

「・・・なるほど。大変ためになるお話でしたわ。

 

 申し訳ありませんが、ここでお聞きになった事やお話された事は他言無用にお願いしたいのですが」

 

 

話を聞いてしばらくは彼女は俯いて何か考え事をしていたようだが、暫くするとこの件をオフレコにするようにお願いしてきた。

 

 

「無論、貴方の不興を買うような真似はいたしません。

 

 私はあくまでもコルソスで遭遇した古い異形についての話をさせて頂いただけですし」

 

 

美味しい飲み物のお礼代わりのちょっとした小話です、と言ってそれに答えた。

 

 

「トーリ殿、感謝いたしますわ。

 

 ストームリーチでは是非ジョラスコ氏族の居留地にいらしてください。

 

 この船にも劣らぬサービスでおもてなしいたしますわ」

 

 

女主人はそういうと来た時と同じく優雅に立ち上がると侍従を連れて立ち去った。

 

 

「・・・ひょっとして私、今物凄い話を聞いちゃいました?」

 

 

レダは女主人が立ち去って緊張が抜けたのかソファにもたれ掛かっていたが、迂闊に耳にしてしまった話の重大性に今更ながら気がついたようだ。

 

 

「うーん、別に聞いたとおりだろ。

 

 氏族云々の話はレダが横にいることを判ってて話したんだし、問題ないと思うよ。

 

 俺がしたマインドフレイヤーの秘儀については、一緒に冒険した他の仲間も知っている事ではあるからそのうち広まるだろう。

 

 言い触らしたりしなけりゃいいんじゃない?

 

 この船のクルーである以上はレダにとっても自分の主人の問題なんだし」

 

 

情報を取り扱うチュラーニのメンバーとしては良い情報だったのではないだろうか。

 

 

「まぁ聞いてしまったものは仕方がないさ。

 

 それよりそろそろ昼にしたいな。マッサージでお腹がすいちゃったよ」

 

 

そう伝えるとレダは一瞬で持ち直し、立ち上がって動き出した。

 

 

「そうですね、私としたことが先にご案内すべきところを申し訳ありません。

 

 ではレストランに参りましょう。今日もシェフがトーリ様にご満足いただけるように腕を奮っておりますし」

 

 

脱衣場で元着ていたガウンに着替えると、来た道を戻りレストランに向かう。

 

レストランは客室を挟んで反対側に位置しているのである。

 

一応先ほどのリラックス・ルームでも食事を提供してくれるサービスもあるのだが、どちらかというと健康食の類になるため今日も昼食はレストランで取ることにしたのだ。

 

とはいえ昼からあまり重いものを食べるわけでもないので、展望の良い席で外の景色を眺めてゆっくりするのが主目的となる。

 

ここから見える船体後部では、捕縛された強力なエア・エレメンタルがリング状になって力を放出しているのが見える。

 

60ノットほどのスピードで、海上を滑るように航行しているこの船には殆どの海中生物は追いつけないようだ。

 

時折遠めに巨大生物の影らしきものが目に映るが、それらは見る間に遠ざかっていく。

 

聞いた話ではファイア・エレメンタルが捕縛された飛空挺も存在するが、空路は海路に比べても遥かに危険らしく、よっぽどの緊急性がなければこの海を飛んで越えようとする船長はいないんだとか。

 

そういうわけで、今体験しているこの航海は『瞬間移動』によるものを除けば最も安全で快適な旅というわけだ。

 

食後のジュースを飲みながら流れていく海原を見ていると、今度は船長のリナールが現れた。

 

 

「やあトーリ。いま少し時間を貰ってもいいかな?」

 

 

先程の件がレダから報告がいったのかな? 

 

どうぞ、と促すと彼はテーブルの向いの椅子に腰を下ろした。

 

 

「昨晩の活躍は聞かせてもらったよ。成る程やはり英雄というのは夜の方も凄いようだな!」

 

 

今度こそ堪え切れずにジュースを噴き出した。テーブルを少々汚す程度で済んだのは不幸中の幸いというところだろうか?

 

真剣な話が始まると思っていたところに腰を折るような話を振るのは、ひょっとしたらその後の会話の主導権を握るための彼ら一流の会話術なのかもしれないな。

 

 

「・・失礼。急にそんな話をされるものだからジュースが気管に入ってしまった。

 

 船長といえば忙しいだろうに、態々そんな世間話をしに来たのか?」

 

 

ちょっと不機嫌ですよ、というニュアンスを含めてリナールを見やったのだが彼はさっぱり気にしていないようだ。

 

 

「何、いざ船が出航してしまえば船長の仕事なんてたいした事はないさ。

 

 余程の緊急事態が発生すれば話は別だが、次の寄港地に向けた少々の書類仕事以外は定期的な確認事項の繰り返しだからね。

 

 たまにはこうやって乗客とのコミュニケーションを取って常連客を確保するのも立派な私の仕事というわけだよ。気分転換を兼ねているのは否定しないがね」

 

 

そこまで言うと彼はウエイトレスを呼び、飲み物を持ってくるように伝えると再びこちらを向いて会話を続けた。

 

 

「トーリのことは船員の中でも噂になっているよ。

 

 特に女性船員からはいい話しか聞かないね。出来れば女性の心を掴むコツを私にも伝授していただきたいのだが」

 

 

「そう言われてもな・・・。昨日は昔住んでいたところのルールでチップを出しちゃったのでそのせいじゃないのか?

 

 例えば食事の場合はその料金の10~20%をチップにするって言うのが一般的だったんでね。

 

 大体そのくらいかと思って置いたんだが、どうやら勘違いさせちゃったみたいだな」

 

 

まぁこれも海外に昔一回だけ行った際に適当に詰め込んだ知識によるものだから、実際には違うのかもしれないが。

 

 

「それは我々のサービスを高く評価してくれたということで有難くはあるのだが。

 

 流石にこの船のサービスでいちいちそんなことをしていては金貨が何枚あっても足りないさ。

 

 気持ち程度に銀貨でも置いてくれれば十分だ。

 

 君が金貨なんか寄越すもんだから、彼女らが自分が『指名』されたものだと考えても仕方あるまい。

 

 まぁ早速我々のサービスの一端を堪能していただけたようで何よりだがね。

 

 我々の造形美に対する情熱はご存知の通りだが、私は女性の持つ造形美についても並々ならぬ情熱を注いでいてね。

 

 良ければストームリーチで我々の氏族が経営している紳士の社交場についても紹介させてもらうよ」

 

 

なんというか、エルフというのはもっと淡白というか潔癖症なイメージがあったんだが・・・

 

これがエベロンのエルフなのかリナールの個性なのか。できれば後者であって欲しいものである。

 

 

「ひょっとして女性船員しか見かけないのはリナールの趣味なのか?」

 

 

彼の話を聞いて、ふと気になったことを尋ねてみる。

 

 

「いや、これは君という乗客に対するサービスのようなものだよ。

 

 島で君を案内したウィルムのことは覚えているだろう? 女性のそういった『ご希望』に対応するためにも男性のクルーも職務を行っている。

 

 ただ、今は乗客が君しかいないから、見える範囲には女性クルーしか配置していないというわけだ。

 

 もしそういう希望があるのなら男性クルーの配置についても考慮させてもらうが?」

 

 

まさか、そんな趣味であるとなんて思われたくもない。

 

そういやゲーム中ウィルムの名前は『ハンサム・ウィルム』とかなっていた気がする。これはきっとつまり、そういうことなんだろう。

 

 

「それについてはお断りさせてもらうよ。現状で十分に満足させてもらってる」

 

 

これが彼らの交渉術というのであれば、その効果は抜群と言っていいだろう。昼食後だというのに、なんだか一気に気力が削られた気がする。

 

精神的に優位に立たれているのは間違いないだろう。

 

 

「まぁそれならば彼らにはこの航海の間は裏方に徹してもらうことにしよう。

 

 ああ、あとそれから昨日君からうちのクルーが預かった服のことなんだが。

 

 どうも我々には取り扱ったことのない繊維で出来ているようでね。申し訳ないが大した補修はできないようなんだ。

 

 良ければ入手先なんかを教えてもらえれば生地を取り寄せたりすることはできると思うんだが」

 

 

ジャージのことか。確かにポリエステル繊維なんてこの世界にはないだろうしな。

 

ひょっとしたら物凄い希少価値があるのだろうか。

 

確かに魔法で強化したわけでもないのに軽くで丈夫で水を弾く。風通しも良いとなると上質の素材扱いされるのも頷けるか。

 

 

「すまないが、あれは以前冒険の際に入手したものなんでどこの工房で作られたものなのかはさっぱりわからないんだ。

 

 使い勝手がいいのでそのまま普段着代わりにしていたんだが、まぁそんな品だから完璧な補修は望んじゃいないさ。

 

 珍しい品ではあるだろうし、暫く預かってくれて構わないよ。

 

 ストームリーチに降りた際に返してくれればいい」

 

 

あんな細い繊維をより合せた生地なんて再現できないだろうけど。ああ、ファスナーはひょっとしたら衣類の技術革新になったりするのか?

 

機械による安定した量産ができないと高品質での実用化は無理だろうけど、この世界は文明レベルが高いのでひょっとしたら腕利きのアーティフィサーがなんとかしてしまうのかもしれない。

 

まぁいずれにしても俺が持っていても役に立たない技術ではあるし、リナールに恩を売っておいて損はないだろう。

 

 

「ふむ。それではお言葉に甘えて寄港までお預かりさせてもらおうか。

 

 ウチの服飾部門の担当者に見せればいい刺激になるだろう。

 

 よければこれからそちらへ顔を出してみてはどうかね?

 

 お礼といってはなんだが一着仕立てさせてもらうよ」

 

 

・・・自然な流れで一見何の裏もないような提案に聞こえるが、この申し出にはいくつかの裏の目的が隠されているだろう。

 

少し考え物ではあるが、断るのも不自然だろう。ここは受け入れておいて、後で対処すればいいだろう。

 

 

「それじゃご厚意に甘えさせてもらおうかな。

 

 船が沈んだ際にほとんどの荷物は海の底に沈んじゃったんでね。礼服の一つは仕立てないといけないと思っていたところなのさ」

 

 

チュラーニ氏族やフィアラン氏族のダークサイドについては、一般には知られていないはずである。

 

冒険者という職業がどれだけ「一般」の範疇に入るのかは皆目見当もつかないが、知らないフリをしておいたほうが無用な警戒をさせないはずだ。

 

念のため乗船以来、"はったり"技能を補正する指輪を装備しているし余程の事がない限り看破されることはないはず。

 

 

「では午後はまずそちらを案内させるとしよう。

 

 この船ではパーティーを行うこともあるのでね、様々な衣装を用意している。

 

 何分今日明日という制限があるので既存の品のサイズあわせという形になってしまうが、それでも満足してもらえると自負しているよ」

 

 

そう言ってテーブルの上のベルをリナールが3回鳴らすと、レストランの入り口からレダがやってきた。

 

 

「レダ君。午後はまずトーリ殿をドレッサー・ルームに案内してくれ給え。

 

 『担当のメティス君にはよろしく言っておいてくれよ』」

 

 

リナールの何気ない台詞に違和感を感じる。再訓練で割り当てた"真意看破"技能のおかげか、この手の符丁もある程度読み取ることが出来る。

 

おそらくは仕立てる礼服に『シャドウ・アイ』を仕込むなどといった細工の事を言っているのではないかと思うが・・・。

 

エルフのドラゴンマーク氏族が持つ『影のマーク』には《スクライング/念視》という呪文効果を発揮するものがある。

 

彼らはこの能力を活用することでスパイとして暗躍してきたのであり、『シャドウ・アイ』はその《スクライング》のターゲットして活用することで身に着けている人物の周囲の情報を収集する目的で使われる。

 

本人を目標にした場合抵抗されたり無効化されることがあるが、こういったアイテムを身の回りに忍ばせる事で呪文の成功を容易にするのである。

 

『シャドウ・アイ』自体はマジックアイテムでもなんでもないため、魔法探知などで発見することが出来ないというのも重要なポイントだろう。

 

まぁ予め判っていれば対策はいくらでも取り様がある。ここは礼服を有難く頂戴することにしよう。

 

 

「畏まりました。トーリ様、ご案内を始めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

外の景色を眺めたりリナールと会話していたので、結構な時間が経過している。

 

食後の休憩にしては少々長すぎるくらいだ。目の前のジュースのグラスを一気に飲み干し、チップを置いて立ち上がる。

 

 

「それじゃ午後もお願いするよ、レダ。

 

 お先に失礼するよ、リナール」

 

 

リナールはまだしばらくここで時間を潰すようで、葉巻を取り出すと火をつけはじめた。

 

 

「午後も我々のサービスを堪能してくれたまえ。何せ君は我々にとって記念すべき最初のお客様なんだからね」

 

 

リナールに別れを告げて廊下を歩く。

 

そうしてやってきたのは彼の言うドレッサー・ルーム。

 

とはいえ壁一面に服が吊るされているというわけではなく(そういうスペースもあるのかもしれないが)、試着室とサイズあわせをするのだろう作業机が置かれているワンルーム程度の部屋だった。

 

おそらくこの部屋の唯一の住人であろう団子頭の女性は、ジャージのファスナーを上げたり下げたりしながら不気味な笑い声を発している。

 

・・・どうやら夢中になっておりこちらには気付いていないようだ。

 

レダが痺れを切らしたのか、彼女に歩み寄ると肩を軽く揺すって意識を取り戻させた。

 

 

「もう、メティスったらお客様よ! いい加減戻ってきなさい!」

 

 

どうやら彼女がメティスらしい。現世に戻ってきた彼女はジャージを机の上に置くと、恥ずかしげに咳払いをしてから自己紹介を開始した。

 

 

「・・・コホン、失礼しました。

 

 当船の服飾部門でチーフを勤めさせていただいておりますメティスと申します。

 

 コルソスの勇士様に服を仕立てる機会をいただけるとは恐悦至極。

 

 本来であれば我らの本拠である『トゥルー・シェイパーズ』で生地を選ぶ時点から御作りしたいのですが」

 

 

『トゥルー・シェイパーズ』とはカルナス国の都市アターにあるチュラーニ氏族の拠点のひとつであり、フィアラン氏族の『造形のディメイン』と対を成す施設である。

 

コーヴェア大陸中の名匠と呼ばれる芸術家や匠のもと、あらゆる種族の学生がそこでは技術を磨いているとか。

 

影のネットワークの本拠はラザー公国連合のどこかにあるといわれているがはっきりとしないし、そういう意味では『トゥルー・シェイパーズ』はチュラーニ氏族の表の本拠といったところだろうか。

 

 

「まぁそこまで気を入れてもらわなくてもいいさ。

 

 ただ流石にきちんとした場に出る際にはそれなりの服装も必要だろうからね。

 

 俺はそのあたりのことには詳しくないんで、君に任せるよ」

 

 

元の世界では一応仕事でスーツを着たりもしたが、オーダーメイドなんてものは作ったことがない。

 

それにこの世界の衣服のスタイルについては無知もいいところだ。専門家に任せてしまったほうが良いだろう。

 

 

「それでは早速採寸させていただきますね。

 

 ・・・ふむ、今お召しになられているこのローブも独特の素材のようですね。興味深い」

 

 

今着ている服を脱ぐ手伝いをしてくれるメティスだが、"ヌルクローズ・ガウン"に触れた途端に興味を示したのかそこで手を止めてしまう。

 

 

「こらメティス、トーリ様が困ってらっしゃるでしょ!」

 

 

後ろに下がって待機していたレダが注意してくれたことでメティスも再起動したようだ。

 

 

「ああ、確か魔法効果を吸収する『ヌル衣料』とかいう素材で出来ているらしいね。詳しいことは知らないんだけど」

 

 

採寸されながら、先程彼女が興味を示していた事に対して開示できる範囲内で情報を伝えてみる。

 

とはいえこれも一般的な素材ではないはずだ。ゲーム中でしか聞いた事のない素材だし、どんな由来の品なのかもはっきりしない。

 

 

「ほほう。あの『ジャージ』とかいう衣服も見たことのない生地でしたし、トーリ様のお持ちの品物には珍しいものが多いですね。

 

 一デザイナーとしてとても興味があります。

 

 そちらのローブのほうは似合いの装身具さえ揃えられれば、そのまま礼服としても使用いただけるデザインになっておりますし。

 

 今回仕立てるのは趣の異なる方向の物のほうがよろしいでしょうね」

 

 

メジャーのような物(一定間隔で別の色に染められている糸)を使用して各部の採寸を行った後は、腕を回したりして関節の動き具合を見たりもしているようだ。

 

10分ほどでそれらの作業が終わり、ガウンを装備しなおした。

 

 

「それでは今の採寸に基づいて何着かご用意させていただきますね。

 

 後ほどお部屋の方に届けさせていただきます。その際にまた微調整させていただきますので、よろしくお願いいたします」

 

 

これでこの部屋の用事は終わったんだが、せっかくなので少し話を聞いていこう。

 

 

「そういえばさっきジャージのファスナーを弄ってたみたいけど。

 

 どう? 再現できそう?」

 

 

話題を振るとメティスは目をキラキラとさせながら話に乗ってきた。うーむ、召喚術の話をしている時のメイもこんな感じだったなぁ・・・。

 

 

「ええ、原理については見た目どおりの単純なものですし理解することはできたのですが。

 

 やはり問題となるのはこの両側で牙のように組み合わさっていく部品の量産になるでしょうか。

 

 耐久性を考えれば金属などがいいのでしょうけれど、それだと重くなりますし削り出しも大変になりそうです。

 

 繊維もそうですがこの噛み合わせ部分の部品も不思議ですね。軽くて丈夫に見えますし、こういった部品に使うには理想的なんじゃないでしょうか」

 

 

そういえばファスナー部分はプラスチックか。どれも石油製品だろうし、この世界には無さそうだな。

 

 

「あー、そういえばジャージのズボンのポケットにボタンの替えとはぎれが入ってたはずだ。

 

 俺が持っていても仕方ないし、それについてはプレゼントするよ。

 

 この衣類の秘密が解明されて量産されたら俺もその恩恵に与れるだろうしね」

 

 

買った時に大抵ビニールに詰められて後ろのポケットに入ってるんだけど使ったためしが無いんだよね、アレって。

 

高位呪文の《トゥルー・クリエイション/完全な創造術》であれば量産もできるんだろうけど、確か高位呪文だし相当なレア呪文だから使い手がいないだろう。

 

ここはチュラーニ氏族の技術力に期待するとしよう。

 

 

「本当ですか! ありがとうございます!」

 

 

メティスの喜び様は大変なもので、今にも踊りだしそうな様子である。

 

 

「まぁその前に今回の仕立てのほうをよろしく頼むよ。それじゃ、期待してるから」

 

 

この辺りの情報や技術はきっとリナールが上手く活用してくれるだろう。

 

自分では活用しようもないので、せっかく恩が売れるチャンスなのだから最大限に活用させてもらおう。

 

あまり深入りするつもりはないが、この世界におけるドラゴンマーク氏族の権力は強大である。一昔前の財閥みたいなものだろうか?

 

リナールに接近しすぎるとフィアラン氏族からもマークされるかもしれないが、表面のみの付き合いに留めることができれば問題ない・・・と思いたい。

 

上機嫌のメティスに見送られてドレッサー・ルームを後にした。

 

 

「さて、あとまだご案内していないのはプールとラウンジ、それに書庫になりますが・・・どうなさいますか?」

 

 

そういえば、この体になってから泳いだ覚えがない。

 

"水泳"技能に割り振りはしたのだが、この機会に試すことにしよう。

 

ストームリーチでは下水道など市街の地下部分が活動の中心になると思われる。時によっては不本意ながら水中を進まなければいけない場面もあったはずである。

 

 

「それじゃあプールで軽く運動してからラウンジに案内してもらおうかな。よろしく頼むよ」

 

 

案内されたプールでは更衣室で準備されていた水着に着替えることになった。

 

D&D世界にはビキニアーマー大全なる本もあるんだぜ! なので水着という文化もしっかりあるのです・・・あれって同人なんだっけか?

 

二度目となれば横でレダが着替えていてもうろたえる事はなく、サっと着替えてプールに移動した。

 

念のため準備運動を行ってからプールに入ってみる・・・どうやら屋内プールの上に温水プールでもあるらしい。

 

検証の結果、"水泳"技能判定の場合は地上移動速度の四分の一の速度で移動可能のようだ。

 

プールのような穏やかな水面であれば失敗することはほぼ無いようだが、荒れた水面などでは要求される判定値が上昇するだろうと思われる。

 

とはいえ、《フリーダム・オブ・ムーブメント》の呪文効果のある靴を装備していれば地上同様に移動できるので泳ぐ機会はなさそうではあるが。

 

この装備も水中での呼吸を可能にしてくれるわけではない。だがゲーム内では水中呼吸が可能になるアイテムは高頻度で入手できるアイテムだったし各キャラ1個は持っている。

 

水中に体を沈めて拳を振ったり蹴りを放ったりしてみたが、これも上記の靴を装備していれば地上と同じ動きが可能であることを確認した。

 

ゲーム中で最も情熱を掛けて入手したアイテムだけに、これだけ大活躍してくれると嬉しさもひとしおである。

 

レダの泳ぎも見せてもらったがなかなか堂に入った泳ぎっぷりだった。客船のクルーだけあって水泳の訓練も受けているのだろう。

 

ある程度水周りでの自身のスペックを把握した後は、レダに加えてここのプールのスタッフを交えてゲームをして遊んで時間を潰した。

 

水球をもうちょっとソフトにしたような遊びで、水泳の訓練の一環として取り入れられているらしい。

 

空気を入れて膨らませた皮製のボールをパスで繋いでゴールにシュートする、という流れ。

 

ボールをもっている人は動くことが出来ないが、ボールを持っている相手にタックルすることは可能ということで、真面目にやるとかなり消耗するスポーツだった。

 

参加人数によってボールの数を増やしたりするらしいが、今回はボール1個で行っていた。

 

そんなこんなで美人集団と水場で戯れた後、ラウンジで休憩となった。

 

せっかくなので先程ご一緒したプールのスタッフの女性陣も誘ってのブレイクタイムである。

 

色々と話を聞いたところ、彼女らは所属している流派とでもいうべき筋が25年程前の"影の大分裂"でチュラーニ氏族側についたことでそのままこちら側に所属しているのだとか。

 

彼女らは若いように見えても皆エルフであり、成人しているということは皆100歳は超えている。

 

それだけの長い時間を技術の研磨に向けることの出来るエルフ族が芸術の領域で力を発揮するのは、ドラゴンマークの力抜きにしても当然であるように感じられた。

 

ちなみにプールのスタッフはウェイトレスなどと同じくローテーション制とのこと。

 

どうやらプールなどに関係する芸術分野は無いようだ。この世界にはシンクロという競技はない模様である。

 

しばらくラウンジで疲れを癒した後は、プール組と別れて書庫に案内してもらうことにした。

 

大まかにジャンル分けされている書架から「歴史」や「社会」などのジャンルを選択し、可能な限り《スカラーズ・タッチ》の呪文で読破していく。

 

この呪文は6秒で1冊の本を熟読したかのように扱える便利な呪文である。

 

傍目からは本のタイトル部分に触れて悩んだ後に、別のタイトルを手に取っているようにしか見えないはずだがこれでそれぞれの本を理解できているのである。

 

流石に理解できない言語で書かれている本には使用できないが、そのあたりはタイトルを見れば判断可能なため特に困らない。

 

流石に動作や音声などの要素を隠蔽しながらでは長時間使用できない呪文ではあるが、60冊程度を処理することは出来た。

 

あとは適当に1冊を選んで普通に読むことにしよう。

 

やはり本は持ち出しが許可されないということで、書庫内に設けられているブースで読むことになる。

 

こうやって大量の本を読んだことで、おぼろげながらこの世界について自分の持っている情報との刷り合わせを行うことが出来た。

 

概ね出版されていたエベロン関係のサプリメントと違いはないようだ。

 

これから向うストームリーチについても何冊かの本に記載があったが、TRPG寄りのセッティングだと思われる。

 

とはいえこれらの書籍は最終戦争終結前に書かれたそれなりに古いものである。現在の状況については自分の眼で確かめるしかない。

 

2時間ほどそうやって書庫で過ごした後は、食事の時間までカジノで時間を潰すことにした。勿論プレイするのは昨晩同様『スリードラゴン・アンティ』である。

 

 

「いらっしゃいませ、トーリ様。

 

 もっと早くおいでいただけると思っておりましたのに、寂しかったですわ」

 

 

そういって妖艶な微笑を浮かべているのはこのカジノのディーラーであるキュレーネさんである。

 

白い肌に銀髪の姿なため、照明が暗めのこの部屋の中で彼女の姿だけが浮かび上がって見えるがそれが一層神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

2人でも遊べなくはないシステムではあるが、大勢のほうが楽しいためレダに加えてもう1人スタッフを加えた4人でプレイすることとなった。

 

チート知力によるカウンティングを駆使するも、流石に本職の二人の表情は読めず比較的接戦となった。

 

基本的にレダが沈み、その間に誰がトップを取るかというレース展開である。

 

最終的にはカードの引きで勝った俺が競り勝つことが出来たが、僅差の勝利である。

 

新しいデッキの封を開けてカットされた物を使用したんだが、どうも勝たせてもらった感が拭えない。

 

開封直後のデッキは並びが一定だから、ひょっとしたらカットの具合で試合のコントロールをしてるのかもしれないな・・・。

 

相手の戦術を見る限り手加減されている様には見えないが、あの出来のいい生徒を見るような目がそんな想像を掻き立ててしまう。

 

その後はレダにシャッフルさせたりして何戦かし、トータルちょい浮きで終了となった。

 

 

「トーリ様は本当に物覚えが良いですわね。昨日初めてお遊びになられたとは思えない上達ぶりですわ」

 

 

キュレーネはそういって褒めてくれるが、どうも掌で遊ばれた感じが拭えない。

 

やはりこういったところのディーラーは一筋縄でどうにか出来るものではなさそうだ。

 

そういう意味ではいい経験になったと思う。ここでこういう怖ろしさを知ることが出来たので、将来ギャンブルで身を崩すことは無くなったと思う。

 

授業料代わりに、勝ち分はチップとしてそのまま残していくことにしよう。

 

 

「いや、とてもいい経験をさせてもらったよ。

 

 どうも自分はギャンブルには向いていないみたいだ」

 

 

「左様でございますか・・・確かにトーリ様ほどの方であればもっと別のところで御自身を御賭けになる場面がおありでしょう。

 

 その際に貴方様にオラドラの加護があることをお祈りしておりますわ」

 

 

彼女らにお礼をいって別れ、夕食を取りにレストランへ向った。

 

今日のメニューはカルナス国の郷土料理らしい。シチューやソーセージ、後ビールについてはカルナスが最も盛んらしく特にソーセージ造りは一種の芸術とされているらしい。

 

ビールやエールも国民的娯楽であるらしいし、イメージ的にはドイツがモチーフなんだろうか。

 

コーヴェアで最も有名な騎士団などもあり、武勇についても日々ヴァラナーのエルフの騎馬部隊と戦闘を繰り広げるなど高い実力で知られている。

 

最終戦争中はアンデッド部隊を運用したりなどといった過去もあり、アンデッドを崇める《ヴォルの血》の勢力の強い国柄でもあるようだが。

 

そこの国王からしてトンデモ設定な人物なのだが、ここでは説明は割愛させてもらおう。

 

ともあれ冬の厳しい土地柄であるカルナスでは体の温まる料理が主体のようだ。蒸し焼き鍋料理なんかは素朴ながらも様々な味わいが楽しめる素敵な品だった。

 

他にも皮の厚いパンに香りの強いチーズを混ぜ込んで焼いたヴェッドブレッドというものは、ビールにとても合う。

 

オニオンバターをつけても良し、そのまま食べても良しで、とても満足な時間を過ごすことができた。

 

見送りに来てくれたシェフにお礼をいい、出口でレダと合流すると自室に向う。

 

レダが伝えてくれたところによると、礼服のサイズ合わせが済んだとメティスから連絡があったらしい。

 

どうやらここに服を持ってきてくれるとのことで、レダが彼女を呼びに行ってくれている間はリビングのソファに腰を落ち着けて待つことに。

 

暫くすると、レダがメティスを伴って入室してきた。後ろには何人かのアテンダントが服を持っている。

 

 

「トーリ様、お時間を割いていただきありがとうございます。

 

 早速ですが今回は3着ほどお似合いになるものを用意させていただきましたので、実際に着て頂いた上でその中からお選び頂きたいと思います」

 

 

というわけで暫し着せ替え人形と化すことに。

 

 

「こういうものってもっと着にくいものだと思っていたんだけど、そういうわけでもないんだな」

 

 

格式ばった服というと、自分で着ずにお手伝いさんが何人掛かりかで着付けしているようなイメージがあったんだが、今回用意されたものは1人でも容易に着れるものばかりだった。

 

 

「今も廷臣の服などになるとそういったものも御座いますよ。

 

 ただトーリ様の場合は普段は冒険者でいらっしゃいますし、手間が掛かる物は望まれないと思いまして」

 

 

服を着た後はそれに合った装身具の類を取り付けていく。これも衣服に合わせて別に用意してくれているようだ。

 

 

「はい、これで完成です。よくお似合いですよ~」

 

 

この部屋に備えられていた姿見の鏡を礼服を運んできたアテンダント達が正面まで移動させてくれたため、それを覗き込むことになる。

 

とりあえず今回用意された3着は大雑把に言うと白、緑、茶の3色である。他にも細かいディティールなどは違うのだが割愛。

 

結論として茶色のものを選ぶことにした。白や緑は特定の勢力のイメージカラーに近いため、身につけるのが躊躇われるというのが最大の理由なのだが。

 

双方ともに敵の多い宗教がらみの組織のため、無いとは思うが勘違いされるようなリスクは冒したくない。

 

一つを選んだ後はそれを着たままサイズの確認を再度行い、持ち帰って微調整してもらうことになった。

 

 

「では、こちらの品を仕立てさせていただきます。

 

 船をお降りになる際にお持ちいただけるように致しますので」

 

 

そう言ってメティスらは退室して行った。レダも近くの部屋で待機しているということで、用が出来たらベルを鳴らして呼んで下さいと言って一緒に出て行ったため久しぶりに1人である。

 

外の景色を見るために照明を落とし、天井と壁の幻術を調節するとそこには満天の星空が広がっていた。

 

そして多くの月が空を飾り立てているのが見える。このエベロンには13個の月があるという。

 

実際には12個しか目に映る月はないのだが、実は次元界ないしはドラゴンマークに対応した13番目の月があると信じられている。

 

高レベルクエストの中にはその『13番目の月蝕』を題材にしたレイドクエストもあったし、おそらくはそれは存在するのだろうが・・・。

 

 

「まぁとりあえず露天風呂にでも入ってみるか」

 

 

この船で過ごす最後の夜である。おそらくもうこの船を利用することはないだろうし、せっかくだから存分に堪能させてもらおう。

 

ベルを鳴らしてやってきたレダにそのことを伝えて、露天風呂に案内してもらう。

 

案外客室に近かった入り口からまずは脱衣場で湯浴み着に着替えて、露天スペースに入ると想像以上の光景が広がっていた。

 

 

「・・・綺麗なもんだな」

 

 

先程客室のリビングから見たのと同じ夜空ではあるが、風呂というシチュエーションから見るだけで別物に感じてしまう。

 

露天といいつつ実際は透過率の高い壁面で覆われているようだが、これはモンスターの攻撃を警戒する上で当然の処置だと思われる。

 

まぁ本来の目的である外の景色を楽しみながら入浴できるという点は果たせているので問題ない。

 

その後は何人かの不意の来客の訪問を受けながらも、心地よい疲労を感じながら客室のベットで眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

「さあトーリ、見えてきたぞ。あれがストームリーチだ」

 

 

翌日は午前中を書庫とリラックス・ルームで過ごし、昼食を取ったところで昨日に引き続きリナールが現れた。

 

彼に連れられて展望室へと移動したところで、丁度目的とするストームリーチの町並みが見えてきた。

 

石柱や巨大な岩が海面から突き出し、海岸は切り立つ崖のようだがその崖の切れ目にこの大陸の数少ない玄関口があるのだ。

 

崩壊した古代遺跡の上に建築された町並みは遠目から見る限り廃墟にしか見えないが、確かにそこからは人々が生活している力強さが感じられた。

 

古の巨人が作り上げたであろうモニュメントが、空高くまで登る光の柱をその掌から伸ばしている。

 

港には大小さまざまな船が溢れかえっているが、その多くは小さな漁船のようだ。

 

近づくにつれて遺跡の隙間に建築された今現在使われている住居が目に入るが、それぞれの建物はコーヴェア中からかき集めたような多様性を持っており一つとして同じ様式の建築物はないように見える。

 

中には沈没したであろう漁船をそのまま利用しているようなものや、石や流木を適当に組み合わせたようなものも存在した。

 

 

「なんというか、独特の雰囲気のある町並みだな」

 

 

あまりのカオスっぷりに他に言葉が出ない。

 

 

「今見える部分はストームリーチでも最も騒がしい港湾部分だ。

 

 そこを治めるハーバー・マスターにはジンという男が昨年就任したと聞くが、彼はなかなか上手くやっているらしい。

 

 彼の手腕でストームリーチ自体の治安も相当良くなったという評判だよ。

 

 とはいえ正義が執行されるのは月の欠けた夜よりもさらに少ないということだが」

 

 

エベロンはその月の多さから、一ヶ月の28日中満月に近い日が平均して19日もあるという。

 

それから逆算したものよりさらに少ないということだから、法による問題解決には頼れそうもないな。

 

 

「自分の身は自分で守るしかない、というわけだな。

 

 まぁある程度は覚悟してる。上手くやって見せるさ」

 

 

「ジン以外にもここには4人の領主・・・コイン・ロードがいる。

 

 彼らは皆この大陸の開拓者の子孫であり、その5人があの街の実質上の支配者達だ。

 

 我々ドラゴンマーク氏族も彼らから土地を借り受けて居留地を維持しているに過ぎない。

 

 あの街では五つ国の法は通用しないし、街の暗がりには常に哀れな犠牲者を求める暗闇の存在が蠢いている。

 

 確かに危険は多いが、それだけ成功の可能性に満ち溢れた土地であることも確かだ。

 

 あの土地での君の成功を祈っているよ、トーリ」

 

 

やがてソウジャーン号は港に入り、埠頭の船乗りの誘導に従って船架へと誘導された。

 

周囲にも数多くの大型船が停泊しているが、この船はその中でも一際豪奢で人目を引いているようだ。

 

さて、俺も船を降りる準備をしないといけないな。

 

 

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