ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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2-4.キャプティヴ

転移が終わった直後、先程まで俺が隠れていた潅木がゼアドの突進を受けて吹き飛ばされているのが見えた。

 

それを横目に《インヴィジビリティ》の呪文で姿を消す。

 

いま俺は、先程まで隠れていたのとは別の潅木の影に隠れている。移動した距離は200メートルほどだろうか。

 

俺を見失ったゼアドは周囲の動くもの、コボルド達を手当たり次第に薙ぎ払いはじめている。

 

あれが狂戦士が味方にいる場合に最も怖ろしいことだ。

 

他にも同意する味方に対して狂乱を感染させる効果などもあるが、やはり敵がいなくなったら味方でも殴り始めるというのが手に負えない。

 

残念ながら今の俺の実力では狂乱しているゼアドを止める手段はない。こと近接戦闘に限れば最も恐ろしい相手かもしれない。

 

ドロアーム最強の戦士の称号は伊達ではないようだ。

 

俺には物理攻撃では倒しきれるほどの火力がなく、運が悪ければ10秒程度で切り刻まれるだろう。

 

距離を取っても先制の呪文で倒しきれなければあっという間に間合いに捕えられて接近戦に持ち込まれる。

 

戦士系の弱点である精神力を狙った呪文は、もう少しレベルが上がらなければ効果的な呪文を使用できないのだ。

 

狂乱状態に突入する前に相当削ったであろう今なら遠距離からの多重撃発《ディレイド・ファイアー・ボール》で倒せるかも知れないが、狂乱が切れる前に俺も無事ではいられないだろう。

 

ここは逃げの一手で間違いないだろう。

 

念のためSPを温存し、物陰に隠れながらポーションを飲み、HPの回復に努める。

 

観測所にいたであろうデニスの衛兵達がゼアドとコボルドの群れに気付かなかったように、姿を消して潜んでいれば塔から発見されることは避けられるはずだ。

 

このまま《テレポート》でストームリーチに戻ることは出来るが、掃討に出ていた他のメンバーが気になる。

 

上手く逃げ落ちてくれていれば、合流して一緒に転移で帰ることも可能だ。

 

コボルド達が砦を攻め落とした以上、生きていれば城壁のこちら側にいるはず。

 

トロルやホブゴブリンの戦闘団に遭遇していれば殺されてしまっているかもしれないが、コボルド相手に捕虜にされたのであれば助け出すチャンスもあるかも知れない。

 

《インヴィジビリティ》の効果時間のうちに塔の観測圏内から脱出すべくそっと足音を殺しながら戦場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

2-4.キャプティヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い夜が明けた。大分前に塔は発光するのを止めており、戦闘音は聞こえなくなっていた。

 

とはいえ青い光の範囲外へ脱出するために2キロ近い距離を移動している。そのためあの後の状況は全くわかっていない。

 

懸念していた追跡は行われなかったようだ。

 

ウルフなどの匂いで追跡をしてくる連中が駆り出されて来るかもと考えていたが杞憂だったようだ。

 

《ディメンジョン・ドア》を使用したところを見ていたのはおそらくゼアドだけだったろうし、どのような効果を持つ呪文かは狂乱状態にある彼には判断できなかったのだろう。

 

同じ戦場に留まっているとは考えなかったのか、それとも俺を殺すのを諦めてくれたのか。後者なら有難いんだが。

 

街道から少し離れた下生えに身を隠し、風下から砦に近づいていく。

 

終始姿を呪文で消したままではいられないので、今は"隠れ身"と"忍び足"の技能に修正を与えてくれる装備で隠行を補正している。

 

今だ街道沿いには昨晩の戦闘で破壊された攻城兵器の残骸が残されており、コボルドの死体も多く放置されたままだ。

 

おそらくもう暫くすればこの血臭を嗅ぎ付けて近くの森から掃除屋がやってきて片付けていくのだろう。

 

念のため周囲を探索するが、仲間達の遺体は見当たらない。

 

ローガンと愛馬の死体についても発見することは出来なかった。それなりの高級な装備をしていたこともあり、おそらく回収されたのだろう。

 

昨日遭遇したトロルだけでなく、コボルドも知性のある存在を食料にすることがある。

 

その点からするとローガンについては絶望的だが、他の連中についてはまだ希望がある。

 

昨晩落とされた砦には大量の物資が運び込まれた直後であり、コボルド達は食料を大量に手に入れたはずだ。

 

それなら捕虜をわざわざ殺さずにいる可能性も高いはずだ。

 

城壁中央の扉は昨晩ローガンが出陣した時のまま、開け放たれた状態で放置されている。

 

少し離れた脇にある、冒険者の2チームが守備についていた箇所も同様である。

 

念のため呪文による警報なども警戒しながら砦の中へ侵入した。

 

城壁の内側では、所々にデニスのグレイ・ブレードが倒れている。

 

遠目からだが、激しい欠損は見当たらないし、トロルなどではなく大勢のコボルドに蹂躙されたように見える。

 

ゼアドたちはここには来なかったのだろうか?

 

時折周囲を小走りで駆け抜けていくコボルドをやり過ごしながら砦内を移動する。

 

殆どのコボルドは塔に集まっているようだ。他の建物からは連中の気配を殆ど感じない。

 

同じく捕虜を捕えているとしても塔だと思われる。昨晩見たところ兵舎には監禁するのに相応しい部屋はないし、他の建物も同じようなつくりに見える。

 

そもそもが巨人用の建物だからして、中型生物である人間などを監禁するには向いていないのだ。

 

奴隷として使役していたエルフ用の部屋などがあればそこが怪しいのかもしれないが、どうやらそれらしき建物は見当たらない。

 

念のため人気のない建物の様子を窺って推測が正しいことを確認した後、中央の塔へ向った。

 

塔内部への扉は開け放たれているが、中ではコボルド達が宴会でもやっているのか大騒ぎしている。

 

流石にこの中へ侵入するには呪文の力に頼った方がいいだろう。透明化した上、出入りするコボルドの背後を取って中に潜り込んだ。

 

エントランスフロアは空調でも利いているのか、外部とは明らかに空気の清浄さと温度が違っていた。

 

横幅50メートル、奥行き40メートルほどで高さも20メートル以上はあるように見える。まさに巨人のための建造物だ。

 

入って右手には四基の昇降機、エレベーターらしきものが並んでいる。左手奥には階段もある。いずれも当然ながら巨人用サイズである。

 

小型のコボルドが巨人用の階段を使用することはないだろうから、俺は階段を使用した方がいいだろう。

 

だが、闇雲に探し回っても効率が悪い。何せこの構造から考えるに少なくとも地上部分だけで50階はあるのだ。

 

何かヒントを見つけてから動き出すべきだと考え、物陰に隠れて宴会をしているコボルド達の会話に耳を傾けた。

 

彼らの会話は竜語、俺からしてみれば英語で行われている上、独特の甲高い声をしており聞き取るのは非常に困難だ。

 

なんとか「プリズナー」や「キャプティヴ」という単語だけを聞き取ってその周辺の単語を洗い出すことで情報を得ることに成功した。

 

どうやら地下部分に閉じ込められているらしい。あまり長い時間留まることもできないし、すぐに移動することにした。

 

1段辺りの段差が身長ほどもある階段を、物音を立てないように飛び降りながら進む。

 

長い螺旋階段を降りると、降りた距離を感じさせる高い天井から無骨な機械が吊り下げられたフロアに出た。

 

エントランスのさらに倍はある天井の高さで、そこから球状の金属らしきものがパイプで壁や天井に繋がっている。

 

どうやらあれがこの建物の空調設備のようだ。エア・エレメンタルが捕縛されており、この塔内部に清浄な空気を供給しているのだろう。

 

窓があるが嵌め殺しで密閉されているこの建築物内ではこういった仕掛けがなければ巨人といえども快適には暮らせなかったようだ。

 

4万年以上の時が流れても今だ稼動しているその技術力には感嘆させられる。

 

この空調設備の部屋は同時に物資の貯蔵庫としても利用されていたらしい。そこかしこにデニス氏族のマークが刻まれたコンテナが積まれている。

 

下りの階段はここで終了だったことを考えれば、このフロアのどこかに捕虜となった連中がいるはずだ。

 

幸いこのフロアは空調設備の立てる震えるような音のおかげで足音を隠すのは容易い。

 

 

時折昇降機を使用して食料を取りに来るコボルドに見つからないように注意しながら捜索を続けること10分ほど。

 

フロアの片隅で手足を縛られた状態で放置されているケイジとゲドラの姿を発見した。

 

二人とも瀕死の重傷を負っているように見える。既に出血は止まっているようだが、このまま放置されればやがて死に至るだろう。

 

周囲にコボルドの影が見えないことや罠などがないことを確認し、二人に《キュア・ライト・ウーンズ》を使用して最低限の回復を行った。

 

同時に《サイレンス》の呪文を使用しておき、音が漏れないようにした上で手枷、足枷を破壊した。その後、用済みになった呪文は解呪する。

 

 

「……う、トーリか。アンタは無事だったんだな、おかげで助かったぜ」

 

 

「……感謝する」

 

 

最低限の回復だけではやはり力が出ないのだろう、ケイジは言葉少なに礼を返してきた。

 

ゲドラはいつもどおりの口数の少なさだが、感謝の気持ちはそれでも十分に伝わってくる。

 

二人に回復用のポーションを渡して飲ませた後、他のメンバーについての情報を知っていないか聞いてみた。

 

 

「意識を失う直前まではロンバートも一緒にいた。

 

 アンタ同様突出したローガンを追いかけようとしたんだが、途中でコボルドの大群に飲み込まれてこのザマだ。

 

 ドワーフのおっさんは置いていっちまったから判らねぇ」

 

 

どうやらロンバートを含む三人で行動していたところで戦士コボルドの群れに蹂躙されたらしい。

 

ゲドラのスパイクト・チェインがどれだけ広い間合いをカバーできるといっても、許容量を越える敵が押し寄せてしまえば迎え撃ちきれない。

 

ケイジも二刀で応戦したようだが、多勢に無勢だったんだろう。

 

 

「……ロンバートもここに連れて来られたのは一緒だ。彼は我々の傷の治療を優先し、逃げずに降伏した。

 

 だが、コボルドが夜のうちに別チームの連中で傷の浅かった連中と一緒にどこかへ連れて行った。

 

 恐らく我々は放置すれば死ぬと考え食料としてここに置き去りにされたのだろう」

 

 

ゲドラのポツポツと呟くような発言から、新しい情報を得ることが出来た。

 

どうやら彼はこの倉庫に放り込まれて暫くしてから意識を取り戻していたそうだ。

 

だが傷のために身動きできず、周囲の状況を観察しながら体が動かせるようになるのを待っていたらしい。

 

残念ながらゲドラは竜語が話せないため、連中の会話内容は理解できなかったそうだが。

 

 

「わざわざ連れ出したということは何か目的があると思える。

 

 とりあえず何匹かに話を聞いてみるとするか」

 

 

幸い、ここに食料を取りにくるのは数匹ずつだ。こっそり話を聞くにはいい環境である。

 

二人の使用していた武器も魔法が掛けられていない品だったからか、重要視されずに近くに放置されていた。

 

いずれにせよコボルドには大きすぎて使用出来ないサイズの武器だし、運ぶのも面倒で捨て置かれていたようだ。

 

鎧も脱がされておらず、傷も直ったことで二人ともすでに戦える状態である。

 

とはいえ今から行うのは情報収集だ。二人には俺の呪文が抵抗された時に備えて準備をしてもらう程度である。

 

昇降機付近のコンテナの陰に隠れ、コボルドが来るのを待つ。

 

どうやら宴会はいい調子で続いているようだ。5分から10分おきに昇降機が上下しており、こちらにとって非常に都合がいいシチュエーションである。

 

暫く待つと昇降機のドアが開き、中から3匹のコボルドが台車を引いてやってきた。

 

その中の一匹を選び、慎重を期して背後に回りこみ、他のコボルド達と別れて視界からも映らなくなったところで《チャーム・パーソン》を発動させた。

 

ジャコビーがエレミア相手に情報を聞き出した際に使ったであろう呪文だ。こう見えてもコボルドは"人型生物"という分類なのでこの呪文が効果を発揮するのだ。

 

 

「My Friend. Where did the captives go?」

 

 

大学受験以来使った覚えがない英語を思い出し、平易な単語の組み合わせで捕虜の行方を尋ねる。

 

ああ、英語がもっと話せたら楽なのに。そもそも英語が出来れば、日本語版のサービスが終了しても英語版で遊んでいただろうに!

 

 

「Hum? The auxiliary troops took it.

 

 Soft Meat was taken!」

 

 

やはり、殺されたのではなく連れ出されたようだ。どこに連れて行ったのかまで判ると有難いんだが……。

 

 

「Where did they take captives to?」

 

 

「They took the party to the Stormreach」

 

 

どうやら大陸内部ではなくストームリーチ方面へ連れ出されたとの事。

 

ついでにとミノタウロスやトロルについて聞いてみるがそんな連中は知らないとの事。

 

あまり長い時間を掛けて他の連中に気取られては本末転倒である。

 

とりあえず今の情報で満足し、このコボルドには上にたくさんの食料を持っていくように指示してこっそりと距離を取る。

 

離れたところに待機していた二人と合流して今得た情報について相談する。

 

 

「他の連中がいないんじゃ、ここにいる意味はないな。出来るだけ早々に退散したいところだが」

 

 

ケイジの意見も尤もだ。ゲドラは同じ意見なのか、先程喋りすぎた反動なのか沈黙している。

 

 

「それじゃここからずらかるとするか」

 

 

巻物からスクロールを取り出す。ゲドラは大柄ではあるが分類はあくまで中型サイズだ。問題なく一緒に転移できるだろう。

 

だがいざ呪文を発動しようとした際に、ゲドラがその口を開いた。

 

 

「待て。転移するならこの城門の外まででいい。

 

 俺は他の連れ去られた仲間を追いかける」

 

 

部族の戦士として受けた恩は返さねばならぬ、戦場で果てるはずだったこの身を、自身を省みず癒して捕虜となったロンバートを救い出さねばならない。

 

言葉少なにも力強く言い切る男の姿から高貴なオーラが発しているかのように感じた。

 

やはりこのゲドラは見込んだとおりのいい男のようだ。

 

思わずニヤリと笑って二人に告げる。

 

 

「安心しなよ、この『ディメンジョン・ドア』のスクロールじゃ街までは飛べないさ。

 

 精々が城門から少し離れた辺りが限界ってわけさ。

 

 ケイジもそれでいいか?」

 

 

長距離用のテレポートと違い、この巻物に込められた呪文は精々300メートル程度の転移だ。

 

ケイジがストームリーチへの帰還を望むなら、城門から離れた場所で位置の特定をしっかりしてからであれば安全に送り届けることはできるんだが。

 

 

「なんだよ、二人して格好つけやがって。

 

 二人とも追跡なんて出来るのか?

 

 ハンターのケイジ様がきっちり導いてやるから安心しなって」

 

 

グっと親指を突き立ててケイジも乗り気なようだ。

 

その腕に被せるように巻物を持っていないほうの手を寄せて、ゲドラにも同じように手を触れさせる。

 

一緒に転移を行うには接触している必要があるのだ。

 

 

「さぁ、それじゃ準備はいいな。飛ぶぞ!

 

 呪文を受け入れてくれよ」

 

 

昨晩と同じ捻じ曲げられた空間を跳躍する感覚。

 

一瞬の後に俺たちは空調設備の音が煩い地下施設から、城壁の外にある岩に隠れた物陰へと移動していた。

 

こういった転移系の呪文をよく使用するためだろうか、この世界に来てから非常に距離感覚は鍛えられている気がする。

 

チート能力の効果かもしれないが、いまの呪文も座標指定を誤ると「石の中にいる!」等の事故が起こりうる呪文なのに危なげなく使用できている。

 

まぁ、この世界では石の中に飛んでも若干のダメージを受けながら弾き出されるシステムのため即死するわけではないのだが。

 

転移を終えた後で、少し離れたところにある城壁を見やるが見張りなどは立っていないように見える。

 

だが早急に離れたほうが良いだろう。観測所からはこちら方面も見えているかもしれないのだ。

 

昨晩の青い光に包まれていた範囲を思い出し、塔から2キロ近く距離を取ってからようやく落ち着いて話をすることになった。

 

 

「地面がやや固めだが、雨も降ってないし連中が通ってからそう時間も経過してない。

 

 アンデール仕込みのハンターの技を見せてやるから待っていな」

 

 

塔から離れた街道でケイジが真剣に地面を調べている。

 

 

「……コボルド共は結構な群れでこの街道を進んで行った様だな。10や20って数じゃねぇぞ。

 

 後、連中荷馬車を使ってやがるようだな。

 

 俺達がここまで運んだヤツを流用したのかはわからねぇけど、俺達の移動してきた跡の上から新しい轍が被されてやがる。

 

 だとすると半日先行されているとしても、そう離れちゃいないはずだ。

 

 連中が日光を嫌って昼間動いていないのなら、日が沈む前に追いつけるかもしれないな」

 

 

残念ながら《マウント/乗馬》のような、魔法で乗騎を用意する呪文を習得していない。

 

少し上のレベルの呪文に上位互換のスペルが存在し、そちらを習得するつもりでいたためだ。

 

ペースは遅くなるが、徒歩で追いかけるしかないだろう。

 

幸い連中は大勢で移動していることもあり、痕跡を追うことは容易い。

 

通常の行軍速度を維持しつつ、ストームリーチに向って伸びる街道を歩き始めた。

 

 

「そういや、ケイジ。

 

 今追っている足跡は馬車とコボルドのものだけか?」

 

 

ミノタウロスやトロルといった連中が昨晩の戦いでは多く観客に回っていた。

 

狂乱したゼアドの攻撃である程度数を減らしたとは思うが、本来単体でも強力なモンスターである。連中との戦闘は避けたいところであるが……。

 

 

「ん? そうだな、馬以外にはコボルド連中の小さい足跡しか見ないな。

 

 特にウルフなんかもいないみたいだ」

 

 

ゼアドたちはもうコボルドと一緒に行動していないってことか?

 

俺達が運んできた客車1台と馬車5台にあの大型連中が全員乗せ切れるとは思えない。

 

 

「……昨日コボルド以外の敵はいなかったか?」

 

 

そういえば、皆はあの戦闘団を見たのだろうか。

 

かなり突出した位置ではあったが、狂乱したゼアドは城壁に匹敵する身の丈で相当目立ったはずだ。

 

今思い出しても身震いがする。

 

 

「いや?

 

 鎧に身を固めた敵の戦闘部隊しか見てないな。

 

 ゲドラはどうだ?」

 

 

「……」

 

 

ゲドラは無言で首を横に振った。やはり連中を目撃した生存者は俺だけということか。

 

本来であればこんなところにいない筈の、『タラシュク氏族』の精鋭たち。どうやら碌でもないイベントに巻き込まれてしまったようだな。

 

思い返してみれば、そもそも「コボルド・アソールト」のクエストはローガンから受けるものではなかった。

 

その時点で俺の知っているクエストではないことに気付くべきだったのだ。

 

だが、どうやら連中はこのコボルドとは一緒に行動していないようだ。

 

先頭を歩くケイジを追い越さないようにゆっくり歩きながら今回のクエストの背景について思考を巡らせる。

 

ドラゴンマーク氏族の利権争いなんて面倒なイベントへのフラグは立てたくないのだが……。

 

 

延々とコボルド達の痕跡を追い続ける道中、他の二人のゼンドリックに来た経緯などを聞いてみた。

 

ケイジは確かアンデール出身と言っていた。

 

 

「あー、ちょっと故郷でやらかしちまってな。

 

 逃げ出してきたのさ」

 

 

どうしてストームリーチに来たのかを聞くと、ケイジはばつが悪そうに鼻頭を掻きながら答えてくれた。

 

 

「最終戦争が終わってすぐ、我らがアーララ女王陛下がアンデール全土に布告を出されたんだ。

 

 『アンデールの剣によってアンデール人の血が流されるのは、わらわの見るに堪えないところなり』……所謂、決闘禁止令だな。

 

 だが、俺は田舎者でね。"先に血を流した方が負け"、そんな決闘でしか名誉を守れなかったのさ。

 

 その結果、相手がお陀仏しちまってね。檻に放り込まれる前に逃げ出してきたって訳だ」

 

 

ケイジって名前はそれで付けたのさ、と軽く笑いながら過去を語ってのけた。

 

アンデールは大地と大空の国である。農業が盛んで、一つの田畑やぶどう園を一族で代々受け継ぎ世話をしている。

 

そのために知性と機知が尊ばれる気風がありながらも一般の民衆は大地に根付いた暮らしをしている。

 

強い意志と高い誇りを持つが故に、ケイジが行ったような決闘が良く行われることがあったんだろう。

 

何が理由かはわからないが、この気のいい男であれば後ろ暗い事ではないだろう。そう思わせる人柄をしている。

 

 

「それで半年くらい前からゼンドリックで冒険者暮らしさ。

 

 まったく、この大陸の動物共は常識外れで困ったもんだぜ」

 

 

確かに、昨日のゴルゴンを筆頭に奇怪な生物には事欠かないだろう。

 

そういった専門のコレクターやハンターがいるくらいである。好事家には高く売れるのだろうが、まだあんな脅威度のモンスターの相手は御免こうむりたい。

 

 

「トーリはコルソスから来たんだっけ。

 

 ゲドラはゼンドリック出身なのか?」

 

 

最初に「コルソスから来た」と言ったおかげで勘違いしてくれているようだ。まぁ面倒だし都合もいいのでこのまま通すことにしよう。

 

そのうち出身地を聞かれた際は『サイアリ王国』とでも答えようかな。

 

《悲嘆の日/デイ・オヴ・モーニング》という災害で国土全てが魔境と化したあの国であれば出自に関して問われることもないだろう。

 

 

「……部族の男は成人に達したときに、1年間山を降りて自らの運命を探すのだ。

 

 そして最も偉大な狩りを行ったものが次の族長候補となる」

 

 

ポツポツとゲドラが出自を語ってくれた。ストームリーチから北西にある山岳地帯の出身との事。

 

ゴライアスは大柄で逞しい狩猟採集民で、常人を寄せつけない山岳地帯を部族単位で放浪している。

 

時折山を降りてはストームリーチで毛皮や肉、細工物の交易を行っているらしい。

 

そんな身の上話をしたりしながらひたすらに街道を進み、日が中天に差しかかろうとしたところでケイジが「止まれ」と身振りをした。

 

敵襲の警戒は俺とゲドラが行っており、ケイジには追跡に専念してもらっている。コボルドの動きに変化があったということだろうか。

 

 

「連中ここから街道を離れたな。

 

 痕跡はあっちのほうに向ってるが……」

 

 

ケイジが指し示す方向にはまばらに木々が広がっている。辛うじて踏み固められた道らしきものもがあるものの、視界は格段に悪くなるだろう。

 

コボルド達は大勢だっただろうが、俺たちは3人である。狩りを行う獣であれば組し易いと見て襲ってくる可能性は高いだろう。

 

 

「まぁ先行している連中が掃除してくれていることを祈ろうじゃないか。

 

 ゲドラ、いざというときには頼むぜ」

 

 

襲撃された際には間合いの広さが物を言う。ゲドラの持つ「スパイクト・チェイン」の長射程は心強い。

 

 

「山での狩りは慣れている。獲物の出す音を聞き逃しはしない」

 

 

チャリ、と鎖部分を揺らしながらゲドラが答えた。バーバリアンは"聞き耳"がクラス技能である。

 

俺の場合は技能判定値は高いものの経験が少ないため、入ってくる情報量の取捨選択が甘いため不必要なまでに警戒してしまう。

 

ここは経験を積ませてもらうことにし、警戒はゲドラにお願いすることにしよう。

 

いつ襲われても対応できるように腰の得物を抜き、手に提げたまま街道から踏み出した。

 

いまは踝を覆う程度の下生えだが、この先進めば邪魔になって草を切り払う必要もあるだろう。

 

横を見ればケイジも右手にククリを持ち、左手用の得物もすぐに抜き放てるように鞘の位置を微調整していた。

 

 

「さて、鬼がでるか蛇がでるか。気をつけていこうじゃないか」

 

 

 

 

 

時折、木の上からこちらを窺っている猿の斥候にドワーヴン・スロウアーを投擲して追い散らしながら先へ進む。

 

このあたりは往路にゴルゴンをやり過ごした荒野から少し砦側に寄った地域である。

 

悪路である事から馬車の速度は落ちるであろう事が予想されるため、そろそろ追いついてもいいと思うんだが……。

 

 

「来るぞ。左右から挟み撃ちするつもりのようだな」

 

 

少し前にゲドラが敵襲を告げていた。今度はどうやらライオンのようだ。

 

ゲドラにカバーされているケイジが右からくるライオンに矢を射掛け、俺は左手でもう一方の敵に投げ斧を見舞う。

 

それほど強く飢えているというわけではなく、少し手傷を負わせるか手ごわいと思わせれば退散してくれるのは有難い限りなんだが……

 

 

「いくらなんでも多すぎる。連中余計な置き土産を残していきやがったな」

 

 

ケイジが毒づいたとおり、この2時間で都合5回は襲撃を受けている。本格的な戦闘までは至っていないとはいえ、非常に高い遭遇率である。

 

原因は簡単だ。コボルドどもは運んでいる物資を食い散らかしながら進んでいるらしい。

 

そこかしこに食べ残しが投げ捨てられており、それに集る連中やさらにその連中を狙う肉食動物の類がこの獣道に集まっているのだ。

 

掃除どころか散らかしまくりである。意図して行ったわけではないだろうが、そうやって集まった動物の足跡などで追跡する速度もやや鈍っている。

 

普通はテリトリーがあって棲み分けがされているためこんなに頻繁に襲われることはないはずなんだが、迷惑な話である。

 

そんな襲撃を何度もやり過ごし、やがて木々の密集具合も高くなってきたところでついに連中の痕跡が消えていく洞窟へとたどり着いた。

 

小高い山の麓にぽっかりと口をあけたそれは、地底の深遠に俺達を誘っているかのようである。

 

ここで乗り捨てたのか、馬車の荷台が放置されている。

 

馬の姿はない。おそらくここで処理されたのだろう、盛大な血痕が残されている。

 

 

「この血の渇き具合からして、まだそんなに時間は経っていないと思うぜ」

 

 

周囲を調べていたケイジが報告してくれる。

 

 

「でも、ここが連中の巣ってわけじゃなさそうだな。もしそうなら見張りぐらい立ってるはずだ」

 

 

巣穴ではなく、巣に通じる通路というところだろうか。何にせよ一層警戒する必要があるだろう。

 

背負い袋から「消えずの松明」を一本取り出し、ケイジに渡す。松明といっても実際には魔法で明かりを灯された棒なのだが。

 

俺自身は投光式のランタンを取り出し、油を差して火をつける。消えずの松明の効果範囲は半径6メートルほどで、それほど広くない。

 

対してこのランタンは1方向限定ではあるがその3倍の距離を明るく照らしてくれる。

 

薄明かりであればそれぞれがその2倍の距離を照らしてくれるため、この二つを組み合わせれば洞窟の中でも視界を十分に確保することが出来るだろう。

 

迎撃の要であるゲドラは両手武器のため、光源を持つことが出来ないしこのランタンは俺が左手で持つことになる。

 

念のため予備の消えずの松明をゲドラの背負い袋に突き立てることで全員に光源を行き届かせた。

 

 

「さて、それじゃあ俺が先頭に立とう。

 

 中の幅は……結構広いな。ゲドラ、横についてくれ。ケイジは殿を頼むぜ」

 

 

ランタンで暗がりを照らして入り口の様子を確認し、隊列を組んで緩やかな下り坂になっている洞窟内部に足を踏み入れた。

 

幅10メートルほどで、高さは3メートルほどと扁平な通路は少々凹凸があるものの基本的には平坦だ。

 

地すべりや地殻変動によって出来た断層洞かとも思ったが、ランタンで照らされた周囲の壁面は岩ではなく土である。

 

何かによって掘られた洞窟なんだろう。

 

5分も歩けばもう地上の光は豆粒のように小さくなっている。このあたりから通路は緩やかなカーブを描きながら曲がり始めている。もうすぐあの日の光も届かなくなるだろう。

 

そうして俺たちは《アンダー・ダーク》と呼ばれる領域に足を踏み入れたのだった。

 

 

「深いな。まさかこのまま《カイバー》まで続いてるんじゃないだろうな」

 

 

ケイジの軽口も、流石に1時間を越えて下り坂を進み続ければ鈍ってくるようだ。

 

ゼンドリックの地下には10万年以上前のドラゴン・フィーンド戦争によって地下深くに封じ込められたロード・オヴ・ダスト、ラクシャーサやフィーンド達が封じられているという。

 

まさかコボルドが使っている通路にそんな連中の封印があるとは思えないが油断できないことは昨晩自身の身で味わっている。

 

ランタンの照らす先のどんな異変も見逃すまいと、気合を入れなおして足を踏み出したその時。

 

装備している靴の足裏を通じて微妙な違和感を感じた。

 

咄嗟にゲドラを軽く横に突き飛ばしながら自身は前へ跳ぶ。

 

 

「敵襲! 足元だ!」

 

 

そういって振り返った先、石や土を跳ね飛ばしながら地中から体節のある大きな虫が飛び出てきた。

 

細い足の先端には鋭い爪がついている。頑丈そうなキチン質の茶色い殻が体を覆い、濡れたような光沢のある黒い両目が、力強い両顎の上から俺を見下ろしている。

 

奇襲を回避されたことでご機嫌斜めらしい。蟻とクワガタを足して2で割ったような魔獣、アンケグはその顎をカチカチ鳴らしながら自身の掘った穴から這い出してきた。

 

全身を現したその体長は3メートルほどか。六本足を器用に動かしながらこちらに突進してくる。

 

 

「そいつは酸を吐くぞ、気をつけろ!

 

 後、他にも潜んでいるかもしれない。足元に注意を払え!」

 

 

ケイジが敵の正体を看破したのか、敵について教えてくれた。幸い相手はサイズこそ大きいものの、這っている為リーチは長くない。

 

鋭い爪も気になるがその体の構造から前方の敵を攻撃できるようには見えない。あの顎による噛み付きを警戒だな。

 

 

「こっちは大丈夫だ。

 

 二人は追加の奇襲に備えておいてくれ!」

 

 

言うや否や、ケイジの足元の地面が割れてその足をもう一匹のアンケグが銜え込み、そのまま地中に引きずり込もうとしている。

 

 

「うおお、やべぇ! この野郎!」

 

 

ケイジも抵抗しようとしているが何分体勢が悪い。奇襲の際に転ばされてしまった状態からでは有効な打撃を加えられるかは疑問だ。

 

だが、そのアンケグの顔面にゲドラの放ったスパイクト・チェインの先端が鋭くめり込んだ。たまらず虫は顎を離し、ケイジは解放される。

 

どうやらあちらは任せておけそうだ。万一の追加に備えて、俺は目の前のこいつを早急に処理しなければ。

 

ロングソードから武器をチェンジし、シミターを取り出す。

 

酸を吐くという事は酸による攻撃に対して耐性がある可能性が高い。いつものコペシュによる酸の攻撃より、別の属性効果による追加ダメージを狙うべきだろう。

 

ランタンを持った左手を庇うように後ろへ回し半身になってシミターを構えると、こちらに突き出された顎をサイドステップで回避しつつ刀身を斬り下ろした。

 

カツッという音と共に殻を斬り破って頭の付け根を半分ほど切り裂くことに成功し、切り口は刀身に込められた魔法の効果で燃え上がる。

 

それなりに固い外皮のようだが、俺の筋力と魔法によって極限まで切れ味を強化された武器であれば容易に切り裂けるようだ。

 

だが、相手は虫だ。生命力に定評があり、この程度では死なないだろう。

 

案の定、相手は千切れかけた顔をこちらに向けると口を大きく開けて酸混じりの霧を吐き出してきた。

 

再びサイドステップで迫り来る酸の奔流をやり過ごし、今度は反対側から再び首を狙い今度こそその頭を切り落とすことに成功した。

 

胴体と足はそれでもピクピクと動いているが、もう脅威にはならないだろう。

 

残り一体のほうに目を向けると、丁度ケイジのククリがアンケグの首筋に突き立てられたところだった。

 

即座にケイジは武器から手を離して後ろへ下がり、左手でもう一本のククリを抜き放つ。

 

だが、体幹に刃物を突き立てられた魔獣は微かな身動ぎをした後、崩れるように地に伏せた。その際の衝撃でさらにククリが深く刺さるが、もはや関係ないだろう。

 

見たところケイジは最初に噛まれた足首に怪我をしているようだ。

 

ゲドラも一度噛み付かれたのか、傷口を爛れさせている。吐き出す以外にも、噛み付いた箇所に酸を送り込むことができたようだ。

 

素早く二人の傷を《キュア・ライト・ウーンズ》をかける事で癒す。が、一度では癒えきらずに二度、三度と使用することになった。

 

どうやらあの顎による噛み付きは相当な威力があったようだ。並の人間なら一撃でかみ殺されているだろう。

 

 

「ふう、もう大丈夫だ。ありがとよ、トーリ。

 

 地元じゃ土地を肥やすからって放置しているところもあるくらいだが、たまに農夫がこいつらに食い殺されることがあるんだよな。

 

 こいつらのトンネル網を通じて空気や水が土壌に浸透するし、こいつらの排泄物も畑には良いらしいんだが。

 

 俺の家じゃ、急に作物の育ちがよくなったらコイツらに注意しろっていうくらいだぜ」

 

 

治癒が終わったケイジが、確認のためか足首をぐるぐると回しながらアンケグに纏わる話を紹介してくれる。

 

こんな危険なモンスターを作物の育ちが良くなるからって放置するとかアリなのか?

 

俺の想像よりも、この世界の人たちはずっと逞しいみたいだな……

 

 

「俺ももう大丈夫だ。先を急ごう」

 

 

ゲドラの傷の方がケイジよりも深かったが、ゴライアスの頑健さもあってか耐えることが出来たようだ。

 

だが、あそこでもう一匹追加が来たら危なかったかもしれない。とりあえずここは早く離れた方がいいだろうな。

 

早足で通路を進むこと10分ほど。ついに通路からホールのような空間に出た。

 

カンテラで照らすが、動くものの姿は見えない。

 

半径15メートルほどの円形の広間で、天井もここの部分は高くなっている。

 

俺達が歩いてきた通路からみて正面に奥への通路が伸びている。中央には焚き火の跡。

 

コボルド達はここで休憩を取ったのだろうか?

 

痕跡を調べようと広間に足を踏み入れると、今までの通路に比べて足場の感触が柔らかい。

 

フワフワとした感じがして落ち着かない。

 

先程のように足元から奇襲するのであればこの地面の柔らかさは相手に有利に働くだろう。

 

だが予想に反して俺が感じたのは耳に響く羽虫のような音だった。

 

カンテラで周囲を照らすが、周囲にそんな虫の姿は見えない。

 

後ろに続く二人も訝しげに周囲を見渡している。だが音の発生源らしきものは見当たらない……。

 

このままこのホールは通り過ぎるべきか、そう考えて中央部まで踏み込んだ際にカンテラの明かりが部屋の外壁と床が接するあたりにある小さい穴を照らした。

 

周囲を見やると部屋中の床と壁の隙間に同じような穴が開いている。

 

このシチュエーションには覚えがある。同じような地下通路をモチーフにしたシナリオ集の遭遇にこんな情景があった。

 

 

「二人とも、走って向こうの通路に飛び込め!

 

 俺が殿を務める!」

 

 

二人は機敏に反応して、焚き火跡を踏み越えると一気に俺を抜き去って前方の通路に飛び込んでいく。

 

その背を追って通路に駆け込もうとする俺の視界に、部屋の隅から湧き出した大量の黒い羽虫……コックローチのスウォームが津波のように押し寄せてきた!

 

嫌な直観は当たったらしい。

 

剣の代わりに準備していたスクロールを広げ、足りない術者としての技量をアイテムでブーストされた"魔法装置使用"技能で無理やりに補って発動させる。

 

 

「《ウォール・オブ・ファイアー/火の壁》!」

 

 

スクロールに刻まれた呪文回路が注ぎ込まれた魔力で燃え上がり、効果を現すと広間の出口周辺は立ち上った炎の壁に埋め尽くされた。

 

躊躇せずにそこに飛び込み、体に纏わりついていた数匹の虫を焼き払いつつ二人に合流する。

 

俺自身は強力な《上級火抵抗》の加護が付与された装備を予め身につけていたため無傷だ。

 

後ろでは溢れ出したままの勢いで炎の壁にぶつかって虫たちが焼けていく音が響いている。

 

 

「おい、トーリ大丈夫か?」

 

 

ゲームと違い、この呪文で熱が出るのは炎の片面だけだ。

 

その面は部屋の内側に向けてあるため、二人の逃げ込んだ通路側には熱は漏れてこない。

 

 

「ああ。間一髪間に合った。

 

 あの手の群体には切ったり叩いたりは通用しないからな。

 

 今のうちにここから離れよう」

 

 

アメリカ人はゴキブリに思い入れでもあるのか、様々なバリエーションのモンスターとして登場している。

 

エベロン関係のとあるサプリメントでもトラウマになりそうなモンスターとして登場していたのは記憶に新しい……

 

日本人としては一匹でもあの黒いのが飛んでいるのが耐えられないというのに、あんな何千匹の単位で襲い掛かられたら人によっては失神物だろう。

 

炎の壁が連中を押さえている間に先に進まなければ。

 

早足で通路を抜けると、やがて足場が土から岩へと変わった。

 

後ろから虫たちが追ってくる気配もない。周囲の見通しも悪くないし、小休止するには良いポイントのようだ。

 

 

「あー、悪いがここでちょっと休憩させてくれ。昨日から動きっぱなしってのは流石に堪える」

 

 

昨晩のゼアドとの戦闘からぶっ通しなのだ。林の中で身を伏せていたとはいえ、寝ていたわけではないので休憩できていないのだ。

 

疲労は呪文で誤魔化していたが、そろそろSPも残り少ない。

 

 

「見張りは任せろ。俺たちが警戒しておこう」

 

 

ゲドラにカンテラを渡し、前方の通路からの警戒をお願いする。

 

背負い袋から魔法の携帯寝具を取り出し、比較的突起の少ない床面を選んで広げる。

 

念のため、通路の前後に《アラーム》の呪文も掛けて、横になる。

 

 

「1時間したら起きる。二人も体を休めておいてくれよ」

 

 

休憩時間はあっという間に過ぎ、特に侵入者もなく十分に回復することが出来た。

 

寝具を片付け、今日準備する呪文を調整すると準備は完了だ。

 

本来であればブレスレットに仕舞ってある串焼きなどを食べたいところではあるが、あれは肉とタレの匂いがきつい。

 

仕方なく味気ない携帯保存食を齧りながら出発することにした。

 

ケイジとゲドラはあんな状態とはいえ一晩寝ているため、まだ余裕があるようだ。

 

先刻同様の隊列で進んでいくと、湿気た空気が風に乗って流れてくるようになり、やがて広大な空間に出た。

 

薄暗がりには水場が広がっており、カンテラの光が届く範囲には対岸は映っていない。

 

地底湖というよりはむしろ地底沼と言うべきか、雑多な植物が水面からその顔を覗かせている。

 

草木に覆われた小山が点在しているが、それらは蛇をはじめとするクリーチャーたちの棲家になっているのは間違いないだろう。

 

 

「こいつはマズいな。これじゃ足跡を追えないぜ」

 

 

どうやら連中はこの沼に踏み入っているらしい。

 

だが土地勘の無い暗がりの沼地に俺たち三人で突入するのも危険だ。

 

何か手段は無いものかとカンテラの光で周囲を探るが、この地下空洞は相当な広さのようで、横の壁面すら見えない。

 

 

「とりあえず、一旦迂回できるか確認してみよう。

 

 沼地に突っ込むのは最後の手段にしたい」

 

 

水場から距離を取りつつ、壁沿いに迂回する案を提案する。

 

沼地での遭遇は、平原のものより過酷なことが多い。

 

足場も不安定で、戦闘のために動き回っていると急に深くなっている場所に沈んでしまう危険もある。

 

俺はともかく他の二人は水中戦になったらまず生きていられないだろう。

 

20メートルほどの幅がある陸地を、水場からの距離を最大限に取るため壁に沿って進む。

 

広くなった空間に聞こえるのは俺達が歩く音だけである。

 

30分ほどでついに側壁に到着した。残念ながらこの沼地はこの地下空洞全体を覆っているようで迂回路は見当たらない。

 

だがこの側壁沿いに少し高台になっている断層があり、その上を進むことができそうだ。

 

コボルド達はこれに気付いていないのか、背丈の都合で利用できていないのかはわからないが今の俺たちには有難いスペースである。

 

まず俺がカンテラを置いて登攀で登った後、ロープを用いてケイジの登攀をサポート。

 

カンテラをさらに回収した後、二人掛かりでゲドラを引き上げた。

 

この4メートルほどの高さにある突き出した棚は幅も同じくらいで、壁面に沿って捻じ曲がりながらもずっと奥まで続いているように見える。

 

カンテラで進行方向と沼地方向を交互に照らしながら進む。

 

隊列は俺、ゲドラ、ケイジの順である。流石に横並びにはなれなかった為ゲドラには中央に位置してもらった。

 

時折沼地では大型犬サイズのネズミが何匹か群れているのを目にする。ダイア・ラットのようだ。

 

流石にこれだけの段差があると連中も襲い掛かってくることは無い。

 

地底暮らしで光に対する慣れが無いのか、カンテラの光に照らされるとそれだけで逃げるように姿を消していった。

 

やはりこれだけの高度差があれば余程の大物でもない限り安全なようだ。

 

だが、長年ここを利用していたであろうコボルド達がこの足場に気付いていないということがあるだろうか?

 

連中が気付いていても使用しない、なんらかの原因があると考えた方がいいだろう。

 

そして1時間後、俺たちはその理由を知ることになった。

 

 

「ウーズか」

 

 

「だな。ウーズだ」

 

 

「……」

 

 

突き出た棚台が急に広さを増したところで、停止を余儀なくされた。

 

ランタンの光の届くギリギリの距離、そこは少し窪地になっており、そこは黒い粘体で埋め尽くされていた。

 

まだ相手はこちらに気付いていないようだ。嗅覚と振動感知の範囲は20メートルほどだったろうか。

 

歳経たブラック・プティングの擬似肢は5メートルを越える射程距離がある。

 

回避して先に進むことはできそうにない。

 

カンテラで照らされた沼地も、ここの周囲は深くなっているのか付近には小山も見当たらない。

 

周囲に生物の気配が全く感じられないのはあのウーズが全て平らげてしまったからなのだろうか。

 

とはいえ、深さも判らない沼に向ってダイヴするのは危険だろう。

 

ひょっとしたら沼地には別の粘体が潜んでいるかもしれないんだし。

 

 

「ここから魔法で焼きながら後退して、倒せるかどうか試してみる。

 

 二人は撤退の準備をしておいてくれ。あの巨体なら足は遅いと思うんだが」

 

 

カンテラをゲドラに渡し、正面を照らしてもらう。

 

俺が準備するのは、ハザディルの倉庫でも使用した《チェイン・ライトニング》の効果が付与された弓である。

 

火球系の呪文では、下手すればこの足場を破壊してしまいかねない。

 

安定した広範囲への火力が見込める呪文だが、こういった洞窟で使用するには難しい呪文なのだ。

 

弓に番えられた一条の雷撃は、轟音を発して洞窟内を青白い閃光で照らしながら一直線に進むと黒い粘体に吸い込まれた。

 

黒い粘体の内部で紫電が弾ける様が透けて見える。立て続けにもう一射するが、動きが鈍っているものの健在のようだ。

 

並のブラック・プティングであれば今の2発で十分だったはずだが、流石にあの巨体ともなると耐久力も半端ない。

 

知覚範囲外からの攻撃に悶えている様だが、所詮は知性を持たないアメーバのような存在である。

 

多数の擬似肢で周囲を滅多矢鱈に叩いているがこちらには気付いていないようだ。

 

残念ながら弓に付与されたこの呪文は2発であり、チャージが回復する夜明けまではもう同じ効果は使えない。

 

仕方が無いので距離を詰めて、《スコーチング・レイ》のワンドで止めを刺そうかと考えていたところで相手に動きがあった。

 

おさまりの良さそうな窪地から這い出た粘体は、そのまま棚台から転がり落ちるようにして沼地へ落ちていった。

 

ちょっとしたプールなら埋めてしまいそうなその体積が飛び込んだために、沼地にはちょっとした津波が巻き起こっている。

 

 

「……逃げたか」

 

 

知性がないとはいえ、その程度の行動はとれるようだ。

 

まぁ二発の雷撃で相当なダメージを与えたはずだ。内部の組織はズタズタで、そのうちもっと小さなサイズに生まれ変わるだろう。

 

 

「派手な呪文だったな!

 

 アルカニックスの秘術評議会の連中にも見せてやりたいくらいだぜ!」

 

 

ケイジは《チェイン・ライトニング》の効果に少し興奮しているようだ。

 

ちなみにアルカニックスとはアンデールにある魔術師達の学院であり、コーヴェア大陸最高の秘術使いの組織であると言われている。

 

上空数百メートルに浮かぶ四つの城や塔からなるこの研究施設は、そもそも秘術使いでなければたどり着くことすら困難である。

 

 

「あー、魔法具の補助がなけりゃあんな大技使えないよ。ちなみに今日はもう打ち止めだからな、同じのを期待しないでくれよ」

 

 

弓を背負い袋に放り込むフリをしてからゲドラからカンテラを受け取り、先を照らす。

 

 

「それより早くあそこを抜けるとしようぜ。

 

 あの黒いのの気が変わってここに戻ってこられちゃ困るからな」

 

 

粘体であるからには、この崖も容易に登ってくるだろう。

 

念のため奇襲を警戒しつつも、足早にウーズの占めていた窪地を駆け抜ける。

 

木も金属も溶かしてしまうウーズの棲家には案の定何も残されていない。

 

下手に武器で攻撃すると即座にこちらの武器を溶かしてしまうところといい、冒険者に嫌われるモンスターである。

 

ストームリーチにはこいつの特性を利用して作られた廃棄炉があったはずである。

 

……少し記憶違いかもしれないが、なんでも溶かすという特性は便利である。

 

こいつら粘体を何日間という単位で使役する呪文も存在することだし、将来家を買ったら俺も利用を考えてみよう。

 

そして再び歩くこと1時間。どうやらこの通路はあのブラック・プティング以外は安全なルートだったようだ。

 

目の前には沼の終端が見えている。

 

湿地ということでヒュドラやリザードフォーク、果てはブラックドラゴンとの遭遇まで考えていたんだが懸念に終わってくれたようだ。

 

時折、沼側でウィル・オ・ウィスプと思われるぼんやりとした光源が舞っているのを見かけたが放置しておけば問題はなかった。

 

とりあえずはこちら側にコボルド達が抜けてきた痕跡をケイジに捜索してもらわなければならない。

 

それが発見できなかった場合は、反対側の壁際を探るか不本意ながら沼地に踏み入ることになるだろう。

 

だがこれまたラッキーなことに、すぐに痕跡を見つけることが出来た。

 

大勢が徒歩で沼地を抜けたため、石の床には沢山の足跡が残されている。

 

こちらからその通過してきた沼地の方を照らすと、何ヶ所かに戸板が置かれているのが発見できた。

 

あれを使って沼地の深くなっている部分を安全に抜けてきているのだろう。

 

今となってはあのブラック・プティングの起した津波のせいで流されているかも知れないし、利用することは無いだろうが。

 

沼地に背を向け、足跡を追っている二人に合流する。

 

 

「どうやらかなり近いみたいだな。

 

 まだ足跡が乾いていない。あと一息って所だな」

 

 

ケイジが地面についた泥の痕跡を指でなぞりながら状況を報告してくれた。

 

ひょっとしたらこの沼地を越える際に俺たちはショートカットできていたのかもしれない。

 

コボルドにとって、足場の不安定な湿地帯は移動の障害に成ったであろうことは疑いない。

 

カンテラを仕舞う事も考えたが、俺たちはコボルドと違って暗視能力を持っていない。

 

接近を相手に教えることになるが、無視界で戦闘することのほうが危険と判断し光源は維持することになった。

 

沼地の反対側とは対照的な曲がりくねった通路を進むと、やがて人工物と思わしき構造へと周囲は変わっていった。

 

急勾配な上り坂の上には鉄柵が下ろされている。見張りはいないようだが、明らかにここから先はコボルドの領域のようだ。

 

巨人時代の遺物にしてはサイズが小さい。彼らの奴隷だったエルフたちが使用していた設備なのか?

 

鍵の掛けられた鉄柵を、盗賊道具で解錠して音を立てないように慎重に開ける。

 

全員が柵を越えたところでカンテラを向け、正面を照らすとかなり離れたところでT字路になっており左側への分岐が見て取れる。

 

同時にそこの交差点にいた3体のコボルドと1対のウルフがこちらに気付く!

 

 

「Here is our territory!」

 

「Kill the intruders!」

 

 

1匹が備え付けられた銅鑼のようなものを叩こうとするが、その首筋にケイジの放った矢が突き刺さりそのコボルドは崩れ落ちる。

 

残りの2体はウルフを先頭にこっちに突っ込んできている。訓練されたウルフはこちらの足を狙って噛み付いてくるが、無論そんな攻撃を食らったりはしない。

 

逆に顔を蹴りつけ、怯んだところをシミターで切り捨てる。

 

ギャイン! と悲鳴を上げて飛び下がるウルフだが、そこにゲドラのスパイクト・チェインが追撃として襲い掛かった。

 

ゴライアスの膂力で振りまわされた鋭い鏃は、ウルフの頭蓋に命中しその意識を刈り取るとそのままの勢いで後続のコボルド達を薙ぎ払った。

 

この連中は昨晩戦場で見た連中と違い、たいした武装をしていない。ただの衛兵だったのだろう。

 

高さ3メートルほどの通路は真っ直ぐ伸び、100メートルほど先には扉が見える。

 

とりあえず左右の小部屋を確認しながら最初の分岐まで進む。柵が下ろされた小部屋の中には樽や木箱がしまわれており、倉庫のように使用されているようだ。

 

分岐の先をランタンの光で照らすと通路の先はまた分岐になっており、そこにもコボルドの衛兵が屯している。

 

コボルド達は侵入者を排除しようとこちらに近づいてくるが、ケイジの弓から立て続けに放たれた矢に射抜かれて道半ばに骸を晒す事になった。

 

これで両方の通路がクリアーになったわけだが、まだ調査が終わったわけではない。

 

この交差点に二人を残し、一先ず扉の方向を調べておくことにした。

 

カンテラを二人に預け、消えずの松明を片手に通路を進むと、扉の手前にある横部屋から人の声が聞こえてきた。

 

 

「やめろ、こっちに来るな!

 

 忌まわしいコボルドよ、私を連れて行くんじゃない!」

 

 

共通語……それに声の質からして同胞のようだ。ここに捕えられている囚人だろうか。

 

 

「コボルドじゃなくて悪いな。あんたはそんなところで何をしているんだい?」

 

 

一緒に押し込められている樽に必死に身を隠している男が1人、柵で仕切られた小部屋の中にいた。

 

 

「人間! 冒険者か?

 

 ここに来て20日経ったときから・・・もう望みも持たなくなっていたのに。

 

 私を救助しに来てくれたんだろ? そうだと言ってくれ!」

 

 

やはり囚われの囚人だったようだ。

 

 

「俺たちは捕虜になった仲間の痕跡を追ってここまできたのさ。

 

 半日以内にここに連れてこられた連中がいるはずだ。そいつらの行方を知らないか?」

 

 

先程の沼地を抜けてこの地下牢に運び込まれたのなら、この男が何か聞いているかもしれない。

 

 

「ああ、ちょっと前に大勢のコボルドどもがアンタ方と同じ方向からやってきたような物音を聞いたよ!

 

 生憎この前の通路は通らなかったので仲間とやらは一緒かどうか私にはわからないが。

 

 それよりもはやくここから出してくれ!

 

 そこのバルブを回してくれればこの柵が開くはずだ!」

 

 

こっちの通路は通っていない、ということは先程の分岐の通路を通ったということか。

 

 

「出すのは構わないが。俺たちはあんたを守ってやる余裕は無いぞ。

 

 ついてきても構わないが、邪魔はしないでくれ」

 

 

一応念を押してからバルブを回す。少々さび付いているがコボルドでも操作できる程度の重さだ。

 

片手で操作し、半周ほど時計回りに回転させると部屋を仕切っていた柵が勢い良く天井側へと収納されていった。

 

 

「おお、ソヴリン・ホスト!

 

 ここで絶対コボルドに拷問されて殺されると思っていた。

 

 貴方の助けに最大の感謝を。

 

 あなたとあなたの一族に祝福がありますように!」

 

 

部屋から飛び出した男はまさに踊り出さんばかりの勢いで感謝の言葉を述べた。

 

背負い袋から使い捨ての陽光棒を取り出し、1本渡してやる。

 

 

「はぐれた際はそれを使ってくれ。まだ俺たちもここに来たばかりで勝手がわかっていない。

 

 連中の数によっては押し込まれるかもしれないからな」

 

 

とりあえずは後ろをついてきてもらう事になるだろう。ゲームであればこの手の捕虜はどうやってか自力で脱出していくのだが、ここではそんな都合のいい事はない。

 

囚人の男を連れて分岐に戻ると大体の事情は聞こえていたのだろう、ケイジが声を掛けてきた。

 

 

「運が良かったな。だがこれからもラッキーでいたいなら俺たちの邪魔をしないことだ。

 

 特に戦闘の際に近くをうろちょろされると流れ矢が当たっちまうかもしれないぜ」

 

 

流れ矢云々は冗談だろうが、笑いながら話しかけたケイジの言葉は薄暗がりではそれなりの迫力があったようだ。

 

男はカクカクと頷くと慌てて後ずさり、薄暗がりの中で所在なさげに直立不動の姿勢をとった。

 

 

「あんまり脅かすなよ、ケイジ。

 

 まぁそのくらい離れていれば大丈夫だろうさ。

 

 さぁ、先に進もう」

 

 

その後も交差点ごとに点在しているコボルドの衛兵達を処理し、3人ほどの捕虜を解放しながらロンバートの痕跡を追った。

 

そしてたどり着いたのは拷問部屋だ。多くの捕虜が一度はここに放り込まれ、残忍なコボルドに弄ばれるらしい。

 

今も部屋の中からは悲鳴が聞こえている。聞きなれない声で、砦の仲間ではないだろうが助けてやる必要があるだろう。

 

 

「……俺が先に行こう。お前達は中の連中が扉を抜けないようにしてくれればいい」

 

 

ゲドラがそういってスパイクト・チェインを強く握り締めた。この牢獄エリアに入ってからのゲドラの戦いぶりは凄まじい。

 

彼であれば先陣を任せても大丈夫だろう。

 

部屋の扉の横にあるバルブを回すと、他の柵と同様に扉が天井に吸い込まれるように消えていった。そしてゲドラは雄叫びを上げて部屋に突進していく。

 

 

「貴様らの為した事、全てが今仇となって返るのだ!

 

 さあ、ドルラーに行くがいい!」

 

 

果たしてその共通語の叫びを何体のコボルドが理解できただろうか。

 

だが言葉は判らなくとも通じるものはある。

 

部屋の中にいた何体ものコボルドが、ベッドに縛り付けられていた男に向けていた血塗られた刃物を手に、怒りの雄叫びを上げたゴライアスに殺到する。

 

だが、激怒によりその身体能力を増したゲドラは逆にコボルドの群れへと一歩踏み出し、手にした武器を薙ぎ払った。

 

怒りのオーラによるものか、ゴライアスの戦士の姿は先程よりも一回り大きくなったように見える。

 

その体格から横一線に振るわれたスパイクト・チェインはその鏃が後列のコボルドの頭を砕き、鎖の部分はその途中にいたコボルド達の胴や首を叩いて吹き飛ばした。

 

たった一振りで10匹以上のコボルドが文字通り薙ぎ払われたのである。

 

奥に留まっていたコボルドのシャーマンが《ライトニング》の呪文を放つが、その雷に胴を撃たれても巨漢の戦士は身動ぎもせず、返礼とばかりに放ったチェインの一撃でコボルドのシャーマンを壁のシミへと変化させた。

 

 

「……凄いな。真似できそうにないな、これは」

 

 

優れた体格と長射程の武器を存分に活かした蹂躙だった。この大して広くも無い拷問部屋はどこにいてもゲドラの射程内だっただろう。

 

俺の体格と武器ではいつまで経ってもこんな攻撃は出来ないだろう。

 

改めて部屋を見回すと、残酷な拷問器具がこの部屋の至るところに置いてある。

 

その中の一つの寝台に、男が縛り付けられている。酷く痛めつけられたようで、今にも息絶えそうな有様だ。

 

咄嗟に近寄って《キュア・ライト・ウーンズ》で傷を塞ぐ。

 

腹を割かれていたが、臓器に欠損はないようだ。この手の回復呪文は失った器官を再生させることは出来ない。どうやら間に合ったようだ。

 

だが消耗が激しいのか、傷を癒しても意識が戻る様子は無い。とりあえず寝台を利用して即席の担架を作り、捕虜のメンバーに運ばせることにする。

 

そっちを連中に任せ、次にゲドラの傷を癒す。《ライトニング》の直撃を受けたのだ、平気そうにしていても相当効いている筈だ。

 

 

「あんまり無理するなよ、一瞬ヒヤっとしたぜ」

 

 

地底で遭遇したアンケグの噛み付きよりも傷は深いようだ。

 

ゲドラを貫通した電撃が壁に当たって止まったから良かったものの、俺を狙って部屋の外に打ち込まれていたら運の悪い捕虜のメンバーは間違いなく死んでいただろう。

 

まぁそれが可能な立ち位置へ移動する隙を与えなかったゲドラの間合いの広さが彼らを救ったというところか。

 

 

「だが、ここにもロンバートはいない。彼を探さねば」

 

 

そうだ。ここにも捕虜のメンバーは不在だった。他の通路を虱潰しに探すしかあるまい。

 

 

「内側からも扉を操作できるようだし、彼らはここで待っていてもらおうか」

 

 

流石に意識不明の怪我人まで増えてしまっては連れ回すのは困難だろう。

 

扉に《アーケイン・ロック》をかけておけば彼らも安心だろう。

 

そうと決まれば即行動だ。彼らも独力でここから脱出できるとは考えていないのだろう。

 

この拷問部屋で待つのは気分が悪いかもしれないが、こちらの言い分を聞いてくれた。

 

待っている間の暇潰しにと、携帯食料を多めに渡しておく。

 

 

「そこの彼が目を覚ましたら食べさせてやってくれ。心配しなくてもここにいる人数分くらいなら用意してやれる。

 

 ケチな真似はするなよ」

 

 

食い意地の張ったやつがいるかもしれないので、釘を刺してから拷問部屋を後にした。

 

閉じたドアに呪文を掛け、未踏破区画に向けて踏み出す。

 

先程掃除したはずの交差点に再び現れているコボルドを蹴散らして進む。

 

 

「流石にそろそろ気付かれてるだろうな。戦闘部隊が突入してくる前に合流したいんだが」

 

 

そして未踏破エリアの捜索で、また1人の捕虜を見つけた。

 

 

「おお、あなた方はローガン卿に雇われていた冒険者様ですね!

 

 私を助けに来てくださったのですか?」

 

 

そう、見つけたのはローガンの愛人と思われる女性だ。

 

なぜ、「思われる」なんて表現なのかには訳がある。

 

 

(この女性、チェンジリングか!)

 

 

チェンジリングとは、ドッペルゲンガーと人間の混血を通じて進化した変身能力を持つ人型生物である。

 

シフター同様、エベロン設定で追加された新種族だ。その性質上、ローグとしての適性を持ち有能なスパイとなる。

 

何故そんなことが判ったかというと、今の俺は《トゥルー・シーイング》の効果を持つゴーグルを装備しているのだ。

 

この効果により魔法的効果による幻術の一切を見破ることが出来る。チェンジリングの変身についても同様に、だ。

 

 

「……残念ながらローガン卿は戦いの中で果てられた。

 

 我々は連れ去られた仲間を追ってここまで来たのです」

 

 

女性と会話をしながらも思考をフル回転させる。

 

この女性は元からチェンジリングだったろうか? たぶんおそらくそれはYesだろう。

 

わざわざコボルド達がこんな罠を仕掛ける意味がわからない。

 

彼女はどこかの組織がローガンにつけていたスパイだと考える方が妥当だろう。

 

普通の愛人だったという考えも出来るが、その場合は特に害があるわけではないので今は除外しておく。

 

彼女が俺たちにとって害となる場合はなんだ?

 

ローガンの口振りからして彼女は観測所にいたはずだ。

 

ということはあのゼアドらの姿を見ていると考えていいだろう。

 

あの『タラシュク氏族』の一団が、目撃者を生かしておくだろうか。

 

連中の目的は「デニス氏族はコボルド相手にも拠点を守りきれなかった」という事実を捏造することでストームリーチでの権益確保を狙っていたのだと考えられる。

 

コーヴェア大陸ではモンスターを傭兵として活用することで、デニス氏族と傭兵斡旋業の双璧をなしている氏族だ。

 

歴史の浅い氏族だけにストームリーチでの影響力は弱く、鉱山開発をゼンドリックでの主たる作業にしていたはずだが本来の家業に本腰を入れ始めたというところか。

 

元々がハーフオークからなるタラシュク氏族は、現地のトロルの部族等と契約して人材を現地調達することが出来る。これはデニス氏族にはない大きなアドバンテージだ。

 

おそらく今頃は意図的に逃されたデニスのグレイ・ブレードの生き残りが馬を飛ばして砦の陥落をストームリーチに届けているだろう。

 

そうなれば後は情報戦、イメージ戦略だ。タラシュク氏族は同じく歴史が浅いチュラーニ氏族と懇意にしている。

 

今頃街中は今回の件を巡って、フィアラン氏族とチュラーニ氏族の影がお互い鎬を削っていることだろう。

 

ゲーム中でもタラシュク氏族とチュラーニ氏族は度々手を結んでいたことだし、昨日見たエルフのバードはチュラーニ氏族のエージェントだったかもしれない。

 

 

(そうなると、この女性の役回りはローガンを焚きつける事と、観測所の連中の口封じか)

 

 

今回の襲撃にタラシュク氏族が手を貸していた事が露見しては一大事だろう。

 

普通に考えればあのゼアドやコボルドの軍勢を見た時点で城壁を閉じ、防衛に徹したはずだ。

 

だが実際には扉は傷一つ無く、開け放たれた状態で落城していた。これは本格的な抵抗が行われなかったことを示している。

 

おそらく何者かが指揮系統を乱したのではないだろうか。そしてその位置に最も近いのがこの目の前にいる女性だ。

 

 

「そうですか。私と一緒に連れられてきた方達はそこの扉の向こうへと連れて行かれました。

 

 何時間か前のことですわ」

 

 

そう言って彼女は一枚の扉を指で示す。

 

どうやらこの言葉自体に嘘は無い。だが、全てを語っているわけではない。

 

 

「ではもうしばらくここでお待ちいただけますか。

 

 仲間を連れ帰ってきた後、地上までエスコートさせていただきます」

 

 

ひょっとしたら罠かも知れないが、今の時点で彼女が俺たち、というかゼアドを見た俺に害意があるかを判断できない。

 

後顧の憂いを断つ為に彼女を処断するのはゲドラやケイジが反対するだろう。

 

この二人に事情を話しても余計な情報を抱えさせるだけだ。わざわざ火種を抱えさせる必要はない。

 

 

「ご安心ください。昨晩は不覚を取りましたが、二度とコボルド相手に後れを取るようなことはありませんよ」

 

 

言外にこちらの意志を伝えたつもりだったが、彼女は俺の言いたい事を理解してくれただろうか?

 

可能性としては協力者であるコボルド達へも口封じを行うために彼女はここについてきていると考えることも出来る。

 

あるいは俺たちのような冒険者が救出に来る際にコボルド達を倒してしまうことも計算のうちなのかもしれないが……

 

ひとまずこの件は後回しにすることにして、まずはロンバートとの合流を優先しよう。

 

扉を開けると、近くで怒ったウルフのくぐもったうなり声が聞こえてきた。

 

直後、物陰から複数の影がこちらに飛び掛ってきた!

 

首筋を狙ってきたウルフはこちらの肩越しに打ち込まれたゲドラのスパイクト・チェインに貫かれたが、残り2匹が俺の足を狙ってきている。

 

咄嗟に前方に跳躍して位置を入れ替える。扉の位置にいるゲドラと部屋の中央に近い位置へ移動した俺でウルフらを挟み込むような形だ。

 

だが、その絶好の位置からは一瞬で移動することになる。部屋の中央を貫くように立っていた太い柱の半ばから、幅広の刃が飛び出し俺の首を狙ってきたのだ。

 

咄嗟に部屋の奥に向って転がり、間一髪で回避する。距離が離れすぎており、ゲドラ1人にウルフを任せる形になってしまった。

 

あの罠があっては武器の間合いで援護することは出来ないだろう。

 

取り出した《スコーチング・レイ》のワンドを起動し、こちらに近い側のウルフに2発、もう片方に1発の熱線をお見舞いしてやるとその攻撃を受けて負傷し、怯んだ隙にゲドラのチェインが唸りを上げた。

 

キャン、と甲高い悲鳴を上げてすべてのウルフは動かなくなった。

 

ひょっとしたら援護も要らなかったのではないかと思ってしまう戦闘力だ。

 

 

「そこ、罠に注意してくれ。

 

 伏せて進めば大丈夫だと思う」

 

 

コボルドであれば頭上を通り過ぎるであろう位置に仕掛けられた罠だ。良く考えられている。動作は床の感圧式だろうか?

 

解除するための機構も見当たらないし、とりあえずは放置することにしよう。

 

ケイジは中腰だが、ゲドラは四つん這いのような格好で潜り抜ける必要があった。

 

体格がいいのは戦闘では概ね有利だが、ダンジョン探索ではデメリットもありそうだ。

 

まぁゼンドリックの古代遺跡は大抵巨人サイズだから問題ないのかもしれないが。

 

派手なアクションを行ったために消えてしまったランタンの明かりを点け直し、前方を照らすと一直線に伸びる通路の向こう側に檻が見えた。

 

その奥、薄暗がりの中に何人かの人影が見える。

 

 

「ロンバート?」

 

 

駆け出そうとする二人を抑え、念のため罠を警戒しながら近寄る。

 

案の定、途中に足元から巨大な刃物が飛び出す陰湿なトラップが仕掛けられていた。

 

迂闊に飛び出していれば両断されていたかもしれない。

 

幸い仕掛けを解除する仕組みは罠の手前にあったため、動作しないように解除してから乗り越えていった。

 

柵の向こうには、丁寧に手かせ足かせに目隠し、猿轡とフルコースで接待されているロンバートともうひとりドワーフの男の姿があった。

 

装備は剥れ、簡素な布一枚の格好である。まだ拷問には曝されていないのか、特に目立った外傷は見当たらない。

 

檻の鍵を解錠し、ゲドラとケイジに介抱を任せて俺は来た道へと注意を向ける。

 

何か仕掛けてくるのであればこのタイミングか、と思っていたのだが特に何も起こらない。

 

 

「救出に来てくださったのですね。

 

 皆さん、ありがとうございます。ソヴリン・ホストもあなた方の行いを祝福してくださるでしょう!」

 

 

「命を救われた借りを、等しい価値のあるもので返しに来ただけだ。

 

 気にすることは無い」

 

 

「そーそー、まだここから脱出しなきゃいけないんだからさ。

 

 祝杯をストームリーチで挙げるまでは湿っぽいのはなしで頼むぜ!」

 

 

後ろでは感動の救出劇が演出されているようだ。

 

その中に入り込むのは気が引けたのか、解放されたドワーフの戦士が檻から出て俺のほうに来た。

 

 

「礼を言うぞ、勇敢な人間の戦士よ。

 

 暗闇に放り込まれてドゥエルガルになっちまうかと思ったんだが、こうして救いの手が差し伸べられた!」

 

 

どうやら別チームにいた神官戦士のようだ。ドワーフの見た目を判別できる自信が無いが、この特徴的なヒゲは同じチームにいたドワーフのものとは異なっているのが見て取れる。

 

ちなみにドゥエルガルとは地下に住まうドワーフの亜種で、エルフにとってのダークエルフのような存在とでも言えばいいのだろうか。

 

無論、地下に暮らしているだけで変性したりはしない。彼なりのジョークなんだろう。

 

 

「ああ、礼なら街に帰ってからでいいぜ。

 

 後ろでも言っている通り、これからまた一戦交えなきゃいけないだろうし、他にも囚われていた連中がいるんだがそいつらの面倒も見てやる必要がある。

 

 ここで寝転がってたほうがマシって目に合うかもしれないぞ?」

 

 

「ここより悪い場所があってたまるものかよ!

 

 あんたの腰にある我らが氏族に伝わる伝統武器を貸してくれれば、ワシも脱出の手助けが出来ると思うんじゃが」

 

 

目敏く腰に据えてある「ドワーヴン・スロウアー」を見て彼は言ってきた。

 

確かに、無手でいるよりは何かの得物を持たせておいた方がいいだろう。

 

防具なしでは前線に出てもらうことは出来ないが、後方で捕虜達の面倒を見てもらうには丁度いいかもしれない。

 

 

「そうだな、それじゃ暫く貸しておこう。

 

 アンタの装備を回収するまでの間だが、丁寧に扱ってくれよ」

 

 

ローブの腰につけていた留め具から外し、投げ斧を渡す。

 

 

「おお、感謝するぞ!

 

 ワシの名はウルーラク、ムロールホールドからの出稼ぎ冒険者じゃ。

 

 コボルドどもめ、鼻水たらして泣きながら、命乞いをさせてやるぞ!」

 

 

得物を手に入れてハイになったのか、投げ斧を掲げて威勢よく声を上げるウルーラク。

 

やる気満々のようである。

 

 

「俺はトーリだ。後ろのデカイのがゲドラ、もう1人はケイジ。

 

 その格好じゃ前に出てもらうことは少ないだろうし、とりあえずは後ろについていてくれよ」

 

 

自己紹介をしつつ釘を刺しておいたんだが、聞いているかは謎である。

 

そんな遣り取りをしているうちに、檻から拘束されていた腕をさすりながらロンバート達も姿を現した。

 

 

「トーリ殿、貴方にも感謝を。

 

 私も微力ながら道中の手助けをさせていただきます」

 

 

いいってことよ、と返しながら今後の事を考える。

 

 

「とりあえず一旦合流しよう。怪我人のことも気になるしな」

 

 

彼もそろそろ意識を取り戻しているかもしれないし、チェンジリングの女性も連れて行かなければならないだろう。

 

流石にこの大勢を一度に連れて転移は出来ないし、沼を抜けても虫たちに襲われたら助け切れない。集合して相談する必要があるだろう。

 

 

「まぁ、ご無事で。

 

 皆さん合流されたのですね。良かったですわ」

 

 

罠を再び潜り抜け、見た目人間女性の姿をとっているチェンジリングを檻から解放する。

 

 

「とりあえずこちらへ。別に捕えられていた者たちも解放しておりますし、何か話が聞けるかもしれません」

 

 

どうも言葉遣いが変になってしまうのは初対面時に貴人として接してしまったせいか。

 

念のためウルーラクとゲドラに後方の警戒を任せ、前衛は俺とケイジが務める隊列で通路を進む。

 

今度はコボルド達の衛兵にも出くわさず、無事に拷問部屋へ辿り付く事が出来た。

 

部屋の中に入ると、思い思いの場所に捕虜達が座り込んでいる。怪我人の男はまだ意識を取り戻していないようだ。

 

 

「おお、あんたらか。

 

 ついに脱出の時が来たのか!?

 

 ストームリーチの喧騒が懐かしくて仕方ないよ!」

 

 

一番近くに座っていた男が立ち上がって話しかけてくる。他の連中も同じ気持ちなのか、期待に満ちた目でこちらを見ているようだ。

 

 

「残念ながらまだだな。

 

 ようやくこの階層を調べ終わっただけで、コボルドの掃除は終わってない。

 

 あんたらが連中の事で何か知っている事があったら教えてもらおうと思って来たのさ」

 

 

そう告げると皆は一気に落胆したようだが、男達はポツポツと自身の連れてこられた経緯などを話してくれた。

 

皆、ストームリーチで夜道を歩いているところを浚われて来たのだと言う。

 

その中の1人の話の中に、聞き捨てならない単語が混じっていた。

 

 

「トンネルワーム?

 

 今あんた、連中の事をトンネルワームって言ったのかい?」

 

 

つい、その男に詰め寄ってしまう。

 

 

「あ、ああ。仕事柄少しくらいなら連中の言葉も判るんだ。街には役に立つコボルドの連中も多いしね。

 

 で、ここに連れてこられた際に連中が自分達の事を『トンネルワーム族』って言ってるのを聞いたんだが」

 

 

聞きなれた単語である。『トンネルワーム族』はゲームのクエスト初期に遭遇するコボルドの一族で、ストームリーチの給水設備の地下に根城を有していたはずだ。

 

ひょっとしてここはすでにストームリーチに近い地下空間なのかもしれない。

 

地下空間を一直線に進んだために、街道を馬車で進むよりも効率よく移動したということだろうか。

 

 

「どうしたんだトーリ。何か思い当たることでもあったのか?」

 

 

突然考え込んだ俺に、ケイジが声を掛けてきた。

 

 

「ああ。俺の記憶違いでなければ、もうここはストームリーチの地下かもしれない。

 

 トンネルワームってのは、埠頭地区の給水設備を根城にしているコボルドの悪辣な連中の名前だったはずだ。

 

 皆を連れて沼地を抜けるよりは、連中の相手をしながら上層を抜けた方がいいかもしれないな」

 

 

全員を生還させるならそのほうが確度が高そうだ。

 

コボルドの戦士団が問題だが、屋外と異なり狭い部屋や通路内では一度に攻撃できる手数も限られるだろう。

 

チラリと女性の方を見やるが、この状況でニコニコしているその表情からは何を考えているのか読み取れない。

 

 

「こいつらが皆ストームリーチから連れて来られてるっていうんだし、その話も信用できそうだな。

 

 あのコボルド連中にはお礼参りしてやりたいところだったし、俺は構わないぜ」

 

 

ケイジは俺の案に賛同してくれるようだ。ゲドラも頷いている。

 

この人数をテレポートで運ぶことはピストン輸送にしても無理だし、万が一転移先の指定に失敗した場合にゲーム同様の効果が発生した場合、街の遥か上空に出現して墜落死してしまうだろう。

 

沼を抜ける際にもコボルド達が追撃してくる可能性は高い。で、あればここで連中を倒しておくのが確実だろう。

 

 

「直接の戦闘には参加できませんが、私たちも癒しの力でお助けできると思います」

 

 

「突破してきた連中はワシが血祭りに上げてやる!

 

 少しぐらいは仕事を回してくれても構わんのだぞ?」

 

 

二人のクレリックもやる気十分なようだ。それでは覚悟も決まったところで出発することにしよう。

 

 

「頼んだぞ。

 

 あのクソッタレのコボルドどもを全部殺して、ねずみや虫けらの餌にしてやってくれ!」

 

 

見送ってくれる捕虜達の声援? を受けながら拷問部屋を後にした。

 

ゲドラとケイジが前衛、俺が中衛、ロンバートとウルーラクが後衛だ。

 

今まで放置していた上層へ通じる階段の前にある柵で一旦止まり、魔法による強化を順次行っていく。

 

敵の呪文を警戒して電撃と火に対する《エネルギー抵抗》の呪文を全員にかけ、前衛2人にはアイテムによる《ストーン・スキン》と《グレーター・ヒロイズム》を付与した。

 

 

「おお、これはスゲェな!

 

 やる気と力がいくらでも湧いてくるみたいだ!」

 

 

《グレーター・ヒロイズム/上級勇壮》の呪文は戦場での偉大な勇気と高い士気を与え、[恐怖]に対する完全耐性を短時間付与する効果を持つ。

 

ゲーム後半ではずっと掛けっぱなしにしておくほどの便利呪文だ。無論、アイテムからの発動なため今はこの場限りのスポット使用ではあるが。

 

 

「それの効果は10分程度だ。《ストーン・スキン》も効果は無限に続くわけじゃない。

 

 調子に乗り過ぎないようにしてくれよ」

 

 

二刀を構えてクルクル回りだしたケイジに注意しておく。大丈夫だとは思うが、見ているとどうも不安になってしまうのだ。

 

目の前の柵に鍵は掛かっていない。音を立てないように油を差してから慎重に開け、階段を登っていった。

 

 

階段を上った先は、繁殖している苔が光を発しているのか薄明かりに照らされた通路だった。

 

横幅は3メートルほどで、なんとか二人が横になって戦えるスペースがある。天井は少し高めで5メートルほどか。

 

所々には光を発する水晶のような鉱物が点々と配置されており、視界には苦労しない。

 

万が一撤退するときのことを考え、階段のすぐ傍にランタンを置いて通路の先を照らし、左手には《スコーチング・レイ》のワンドを持つ。

 

薄暗がりの中を進むと、やがて広間に出た。

 

ピラミッドを模したような台座があり、そこには一体のコボルドが玉座と思わしき椅子の前に立っている。

 

 

「まさかあの沼地を生きて抜けてくるものがいるとは思わなかったぞ!

 

 だが、お前達はこのジィティックを怒らせた!

 

 自分達に力があると思っているようだが、死んでもらうぞ! TunnelWyrms, Kill Them All!」

 

 

見ただけで高級と判る鎧兜に身を包んだコボルドが、共通語でこちらを威嚇した。

 

そして彼の号令によって、台座の後ろに隠れていた大勢のコボルドがこちらに押し寄せてきた。

 

だが連中は決してこちらには突っ込まず、少しの距離を取ってスリングを取り出すと石を投擲してきた。

 

 

「うお、連中、考えてやがる!」

 

 

こちらの考えでは、少し下がって大勢に包囲されないようにしながら各個撃破するつもりだったんだが敵も甘くは無いようだ。

 

仕方ない。呪文を使用して前に出れるようにしなければいけないだろう。

 

 

「《ウェブ》!」

 

 

指差した空間の一点から爆発的な勢いで粘着性の糸が広がって、天井や壁に張り付くと敵の前衛を巻き込んでこちらに遮蔽を提供した。

 

 

「トーリ、ナイスアシストだ!

 

 突っ込むぜ!」

 

 

蜘蛛の糸を迂回して回り込もうとする敵集団を迎撃すべく、ケイジとゲドラが前進した。

 

元の目論見とは異なるが、「蜘蛛の糸」という障害物のおかげで前に出ても包囲される恐れはない。

 

連中が投げつけてきた中には「錬金術師の火」も含まれていたため、そのうち突破されるかもしれないが敵の一部を行動不能にしているうちに数を減らせればそれでいい。

 

 

「生意気な!

 

 リッザール、クランク! 出番だぞ!

 

 小うるさいヒューマンどもを黙らせろ!」

 

 

《ウェブ》の向こう側から大きな足音が聞こえてくる。

 

クランクはオーガの戦士で、リッザールはトログロダイトのウィザードだったか?

 

この二匹を自由にさせるのはマズい。牽制する必要があるだろう。

 

 

視界を埋め尽くす《ウェブ》の中を突っ切り、もがいているコボルドを飛び越えて反対側に突き抜けると視界には呪文を詠唱しているトログロダイトの姿が見えた。

 

なんであれ、完成させるのは不味い。左手のワンドから《スコーチング・レイ》を即座に発動させ、ジィティックとリッザール、クランクに各1本の熱線を打ち込む。

 

 

「ぐぐっ・・・ジィティックは怒ったぞ!」

 

 

突然攻撃を受けてコボルドの大将は激怒したのか、酸の滴った魔法剣を抜くとこちらにつっかかってきた。

 

 

「この、や、やりやがったな!」

 

 

乱暴者のクランクも、攻撃を受けたことで目標を変更しこちらに向ってくる。

 

リッザールは術者だけに突っ込んでくることはないものの、呪文の詠唱を妨害されて腹が立ったのだろう。

 

杖を振りかざして口から怪音を発すると再びなんらかの呪文を唱え始めた。

 

 

(まずは定石どおり、敵の術者からだ!)

 

 

お返しとばかりにリッザールから打ち込まれた2本の熱線を突っ込んできた二人を上手く利用することで回避し、近づいてきたその二人の間を突っ切ってリッザールを急襲する。

 

目の前に迫ったトログロダイト、おぞましい人型のトカゲの怪物はその体から油状の麝香のような化学物質を分泌させてこちらを牽制する。

 

ひどい悪臭であるが、一種の毒に分類されるためにその効果は装備の能力により無効化され、嫌な匂い程度にしか感じられない。

 

逆にこちらを追おうとしていたジィティック達が悪臭のあまり近づくのを躊躇してしまっているようだ。

 

 

「残念だったな!」

 

 

ロングソードのかわりに装備しているシミターが、付与されている魔法の効果により炎の煌きを軌道に残しながらリッザールの首筋に吸い込まれていった。

 

だが敵もさるもので、切断されぬように体を捩って被害を最小限に留める。

 

術者とはいえ鍛えられた能力が、生来のトログロダイトの戦闘力と合わさって後衛でありながらも咄嗟の回避運動を可能にしている。

 

だが即死は避けたとはいえ深手となった傷口から閃光が迸り、トログロダイトの目を焼いた。

 

どうやらシミターに付与されている特殊効果が発動したようだ。

 

《Radiance/光輝》というこの効果は、光属性のダメージを追加で与えると共に一瞬だが相手を盲目にする効果がある。

 

痛みと盲目で無防備となったリッザールの首を再びシミターで切り裂き、首を落として振り返るとそこには巨大な棍棒を振りかぶって跳躍しているオーガの姿が目に入った。

 

 

「があぁっ!!」

 

 

雄叫びと共に振り下ろされる棍棒だが、ゼアドに比べれば蝿が止まっているかのようなスピードだ。

 

軌道も単調だし、リーチも短い。

 

棍棒を振り切った腕をシミターで切りつけ、立て続けに足や胴といった隙だらけの部位を攻撃していく。

 

どうやら激怒しているのか、防御に頭が回っていないようだ。それでいて攻撃の精度がこの程度では、木偶もいいところである。

 

 

「運が悪かったな。今度生まれてくるときは組む相手をもっと考えた方がいいぜ」

 

 

間もなく、オーガの用心棒クランクも倒れた。

 

 

「ううう、よくもやってくれたな!

 

 かくなる上は、沼地の主より頂いたこの剣にて成敗してくれる!」

 

 

そういってボス・ジィティックは剣を振りかざし突進してくる。

 

黒い非金属の刀身に滴る酸。沼地で酸ということはやはりブラックドラゴンか?

 

今はいなくなっているようだが、昔あそこに住んでいた黒竜にこのコボルド達が仕えていたということだろうか。

 

トンネルワーム、という名前にも納得がいく。

 

そんなことを考えながら突き込まれる刃を回避し、足元のジィティックを断ち割るべくシミターを振り下ろしたが、ジィティックは巧みに盾を使うことでこちらの斬撃をいなして再び突きを繰り出してきた。

 

 

「キキッ、偉大なるジィティックの護りを貫けると思うなよ!

 

 じわじわとなぶり殺しにしてやる!」

 

 

どうやらそれなりに高価な魔法の品のようだ。材質自体もかなりの硬度のようで、このシミターでは時間が掛かるかもしれない。

 

チラリと向こうの様子を見てみると、ゲドラとケイジが敵の軍勢を良く押し留めてくれているようだ。

 

だが、《ストーン・スキン》の効果も薄まっているように見える。はやくこちらを片付けなければ万が一ということもあるだろう。

 

 

「悪いが時間も無いんでな。

 

 卑怯な手を使わせてもらうぜ」

 

 

左手のワンドをブレスレットに収納し、指先から徹底的に強化した《レイ・オヴ・エンフィーブルメント/衰弱光線》を放つ。

 

盾や鎧で防ぐことは出来ない、遠隔接触攻撃だ。

 

光線を受けたジィティックの体が紫色の淡い光に包まれたかと思うと、彼は武器と盾を落としてその場に倒れこんだ。

 

 

「ガッ、鎧が重く?

 

 力が、入らなイ……」

 

 

この呪文は相手の筋力にペナルティを与える効果を持つ。今ジィティックは自分の鎧の重さすら支えきれないほどに弱体化しているのだ。

 

相当な強度で放ったにもかかわらず、意識を保っている辺りはさすがは一族を束ねる戦士だけはあるというところだろうか。

 

 

「チェック・メイトだ。お別れだよ、ジィティック」

 

 

足で兜の位置をずらし、剥き出しになった首筋にシミターを走らせて止めを刺した。

 

一方的に無力化した状態とはいえ、街の住人を拉致して拷問した上で殺しているような連中を改心させられる自信は無い。

 

今後の被害を出さないようにするためにも、ここで殺しておかなければならないだろう。

 

何体か遠巻きにこちらの様子を見ていたコボルド達が、ボスが討ち取られたことによって散り散りに逃げ出していく。

 

ゲドラたちが相手をしている戦士団は流石にそんな醜態を晒しはしなかったが、士気の低下は見るも明らかだった。

 

それに対してこちらは呪文の効果もあって意気軒昂。後ろから《ヒプノティズム》などで戦列を乱してやれば、後は崩れる一方だった。

 

戦闘が終わってみれば、二人にも目立った傷は無い。

 

何発か《ストーン・スキン》を越えてダメージが入ったようだが、後ろに控えていたロンバートとウルーラクが回復呪文で癒してくれたおかげだろう。

 

 

「敵の頭領も討ち取ったし、これであとは大した抵抗もないだろうな。

 

 こいつの武器と防具はそれなりの値打ち物みたいだし、拾っていくか」

 

 

コボルドにとってはロングソードかもしれないが、体のサイズが違うため俺たちにとってはショートソード相当である。

 

鎧と盾については人間ではサイズが合わないが、ハーフリングであれば買い手も見つかるかもしれない。

 

ローガンからの報酬が見込めない以上、使ったスクロールなどの代金は持ち出しになるため戦利品はしっかり回収しておいた方がいいだろう。

 

すっかり敵影も無くなったところでこの階層の探索を行う。

 

ボス・ジィティックの部屋の近くに隠し扉があり、そこには連中の溜め込んだお宝やロンバート達から奪った装備品などが仕舞い込まれていた。

 

ウルーラクは自分の手に戻ってきたドワーフ族のウォーアックスを手に感無量といった表情である。

 

 

「お主の斧も中々の業物だったが、やはり武器は自分の手に馴染んだものが一番だな。

 

 もうコボルドの連中を追い散らした後というのが残念で仕方ないわ!」

 

 

結局出番の無かった投げ斧を返してもらい、腰の留め具に付け直す。

 

ケイジは手持ちのザックに金貨銀貨を詰め込んでいるようだ。あれだけあれば、ローガンの約束していた報酬分にはなるだろう。

 

ゲドラとロンバートには捕虜達を連れ出しに行って貰っている。彼らの手荷物もあるかもしれないし、いつまでも拷問部屋では気が滅入るだろうし。

 

俺は装備を整えたウルーラクを伴って、脱出口を探しに出た。

 

記憶に寄ればこの近くに上のフロアから下りてくる吹き抜けがあったはずだ。

 

 

「……どうやって登ればいいんだ?」

 

 

この階層の構造は、ゲーム通りだった。

 

隠し部屋の正面の通路を進んだ先には広い水場があり、その天井の中央には上へと続く縦穴が開いている。

 

 

(ゲームじゃ飛び降りるだけで戻ったりしないから気にならなかったが、ここの連中はどうやって行き来しているんだ?)

 

 

素朴な疑問である。

 

ひょっとしてどこかにコボルドのような小型生物でなければ通り抜けられない通路があったり、この上には縄梯子があったりするのかもしれないがそのどちらも俺たちには利用できそうも無い。

 

縦穴の下まで突き出している足場でそんなことを考えていると、突然縦穴の上から何かが落下してきたことに気付く。

 

 

「うお、なんだ?!」

 

 

咄嗟に手で払いのけようとするが、その黒い物体は空中で軌道を変化させるとこちらにぶつかって来た!

 

 

「あ」

 

 

一歩下がって回避しようとしたが、今の足場は水場の上に突き出している狭い板の上。

 

踏み出した足元には支えは無く、間抜けな声を出して俺は4メートルほど下の水面に落下していった。

 

 

「なんじゃトーリ!

 

 懲りずにコボルド共がやってきおったのか!?」

 

 

普段は大きなウルーラクの声も水中にいては上手く聞こえない。

 

幸い、装備している靴の効果で水中の行動にも支障が無いのはソウジャーン号で確認したとおりだ。

 

バタ足で水面目掛けて上昇し、顔を出すと先程俺が立っていたところには久しく見ていなかった黒い鎧姿の少女が立っていた。

 

 

「相変わらずのノロマだね、トーリ。

 

 あそこは格好良く抱きとめてくれるシーンじゃないのかい?」

 

 

「ラピス?」

 

 

そこに立っていたのは、コルソスで分かれたライカンスロープの少女ラピスだった。

 

皮肉げに口元を歪めているが、最初出会った頃の敵対心全開の表情とは異なりどこか柔らかい雰囲気を感じさせる。

 

到着するのが早すぎる気がするが、今の状態では話をする気にもなれない。

 

とりあえず近場にある足場へと続く梯子まで泳ぎ、水中からの脱出を果たして濡れたローブを一旦ブレスレットに仕舞って脱水すると装備しなおした。

 

下着の類も同様に着脱し、髪の毛が濡れているのはタオルで拭き取る。

 

そうこうしている内に、ラピスが上のフロアに呼びかけると長い縄梯子が下ろされ、メイが姿を現した。

 

 

「お久しぶりですねトーリさん~。

 

 お仕事先で行方不明になったって聞いて心配してたんですよ~」

 

 

相も変らぬマイペースな口調だ。

 

 

「なんじゃ知り合いか。

 

 コボルド共が来たのかと思ったのに、つまらんのぅ。

 

 だがこれで帰りの道の都合もついたようだし、ワシは他の連中を呼んでくるぞ」

 

 

ウルーラクはつまらなさそうに呟くと、水場から立ち去っていった。

 

確かにこれで問題だったこの階層からの脱出路は確保できた。

 

 

「二人とも、どうしてここへ?

 

 ストームリーチに到着するのはまだ数日先だと思ってたんだが」

 

 

目先の問題が解決したことで、早速疑問を聞いてみた。

 

 

「何を言っているのか判らないけど、トーリが行方不明になってからもう5日は経過しているよ。

 

 僕達は昨日ストームリーチに到着したところさ。

 

 別にスケジュールどおりだと思うけど?」

 

 

行方不明になってから5日?

 

デニスの拠点が落城したのが昨日のはずだ。それどころか俺がストームリーチに到着してからまだ5日か6日のはず。

 

……まさか「トラベラーの呪い」か?

 

砦を脱出してからここに到着するまでにストームリーチでは5日も経過していたということだろうか。

 

 

「で、トーリが囲ってるドラウの嬢ちゃんに聞いたら埠頭地区の給水施設にいるっていうじゃないか。

 

 街の外に行ったはずなのに、どうしてこんなところにいるんだい?」

 

 

むう、あの双子とは既に接触済みなのか。

 

そういえば、外でそれだけ時間が経過しているということはそろそろ渡しておいた食費が切れる頃だ。

 

これは早く戻らないとマズいかもしれない。

 

 

「……その件については話すと長くなるんでね。

 

 落ち着いた場所に移動してから説明するよ。

 

 今はとりあえずここから脱出するのが優先ってことで頼む」

 

 

そこまで話した辺りで、水場の入り口からガヤガヤと他の連中が入ってきたようだ。

 

上の階層の敵はラピスたちが倒してくれているだろうし、あとは彼らを連れて街まで戻るだけだ。

 

先に上へ行こうと縄梯子に手をかけると、頭上の縦穴を抜けたところでエレミアがこちらに手を振っているのが見えた。

 

どうやら3人揃っているらしい。

 

彼女に手を振り返しつつ、さてどう説明したものかと頭を悩ませるのだった。

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