ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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2-6.インターミッション2

「ありませんか」

 

 

「やはり、そういった条件となると難しいですね……。

 

 曰く付きの物件でしたら先程ご案内させていただいた通りなんですが」

 

 

翌日、ジェラルドの紹介してくれた案内人に条件を話したところやはり難しいようだ。

 

ちなみに曰く付きとは「有名な死霊術士が生前使用していた物件。現在アンデッドの群れが占拠中」とかいう癖のある物件である。

 

その弟子が相続しているのだが、建物のどこかにある書物3冊を持って来れば建物含めた他の権利については譲渡してくれるとか。

 

無論このクエストには覚えがあるが、ちょっとレベルの高いものだけに今の俺では手を出す気になれない。

 

1人で突撃しても敵の数が多すぎて大変だし、他のメンバーを連れて行くのは危険すぎる。

 

敵が使ってくる《クラウドキル》の呪文は毒に対する耐性装備が何かの拍子で外れたら俺は一瞬で即死、エレミア達も抵抗に失敗すれば即死だろう。

 

他にも「夜に異音が聞こえてきて今の住人が眠れないと売りに出した塔」等、突っ込みどころ満載な物件目白押しである。

 

話を聞いたところ魔法使いの操るゴーレムなどを街中に連れ歩くのは構わないらしいので、街中で鉄蠍を連れ歩くのは問題なさそうである。

 

ゴーレムの起こした問題には持ち主が全ての責を負う、とあるがそんな心配はしなくてもいいだろう。

 

しかしやはりあの大型蠍が出入りできる頑丈な物件、となると難しいようだ。

 

少なくとも、近代に入ってからここの住人向けに作成された建物では条件にそぐわない。

 

仕方ないのでここは発想を転換することにする。

 

 

「空いている土地に家を建てる場合、どういう手続きになるんです?」

 

 

家が無ければ自分で建てればいいじゃない、ということだ。

 

幸い昨日市場で建築に都合のいいマジックアイテムが陳列されているのを確認している。

 

あれが流れていなければ、手早く家を建てることができるはずだ。

 

 

「現在管理されている街区、となると無理でしょうね。

 

 外れであればテント村などもありますし、届けさえしていただければ構わないはずですが」

 

 

外壁の外などには結構畑などが作られており、そこで生活している人たちも居る。

 

とはいえこの間通ったセルリアン・ヒルあたりではオークが襲ってくることもあって既に放棄されてしまっているようだが。

 

その問題についてはいくつか考えがあるし、とりあえず「自分で建築」のセンで進めよう。

 

案内人と建築する土地について相談し、手続きを依頼した後に俺は市場で例のマジックアイテムを購入することにした。

 

 

「と、いうわけで家を建てることにした」

 

 

その日の夜。いつものように倉庫に集まっている面々に対して俺はそう宣言した。

 

エレミアとは組み手を行った後であり、それを見ていた少年少女は興奮覚めやらぬのか、倉庫の別の場所で先ほどの組み手を再現しようと木剣を振り回している。

 

 

「また唐突だね。

 

 条件にあった物件は無かったの?」

 

 

流石にラピスも自分が住む家の話題であれば興味があるようだ。

 

 

「条件が厳しかった。

 

 いくつか曰く付きの物件があったけど、皆もアンデッドの先住者を倒す必要があるような家は嫌じゃないかと思って。

 

 それに自分で建てるのであれば好きなように設計できるからな。

 

 何か希望があったら言ってくれ」

 

 

自分で建てるということは好きに作れるということだ。

 

 

「そうですね。部屋にはあまりこだわりはないですけど、書庫があると嬉しいです。

 

 自分の部屋以外に、スクロールを書いたりする作業にも使える部屋があると助かりますね」

 

 

まず意見が出たのはメイだ。

 

確かに、スクロールを書く以外にもマジックアイテムの作成などに使える部屋は必要だろう。

 

 

「私も部屋には特に言うべきことはないな。安全に起居できる空間であればそれでいい。

 

 鍛錬できる場が近くにあれば、家自体には特に求めるところは無い」

 

 

エレミアも部屋には意見が無いようだ。この世界だとあまり個室で自分の空間を持つという意識がないのかもしれない。

 

冒険者なんて全財産は装備類にして持ち歩いているようなものだしなぁ。

 

 

「僕も同じかな。そう荷物があるわけでもないし。むしろ建てる場所の方が気になるよ」

 

 

ラピスも同じか。んじゃ三人の部屋はビジネスホテルのシングルをイメージに作るとしよう。

 

 

「建てるのは街の壁のすぐ傍だ。

 

 街の北部、ジョラスコ氏族の居留地の近くに『憩いの庭園』という場所があるんだけど、そこから街を出てすぐのところになる」

 

 

ゲームでは最初期のレイドである「テンペスト・スパイン」のクエストへの出発点として利用されていた場所だ。

 

街壁の外といっても門で遮られているわけでもなく、市街に対するアクセスも良好だ。

 

一応下見は済ませておいたが、時折交易商人のキャラバンが通過する以外は静かで落ち着いたエリアである。

 

 

「ま、明日下見に行ってみようかな。

 

 いつから建築は始めるの?」

 

 

そう問いかけるラピスに対し、ニヤリと笑って答えてやる。

 

 

「明日着工して、すぐに終わらせるさ。

 

 皆も昼間のうちに家具を選んでおいたほうがいいぜ」

 

 

今日市場で購入した秘密道具があれば、一日で建てる事も不可能ではないはずだ。

 

 

「二人には悪いけどちょっと手伝って貰いたいんだ。

 

 明日はちょっと頼まれてくれないか」

 

 

ルーとフィアにはちょっとした手伝いを頼むことになる。

 

元気よく頷く二人を見て、俺は明日の大仕事に向けて英気を補充するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

2-6.インターミッション2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

俺たちは建築予定地に到着した。

 

周囲には巨人時代の彫刻や、折れたオベリスクなどが転がっている状態だ。

 

 

「ここかい?

 

 確かに位置は良さそうだけど、とてもこれから家を建てようって状態じゃないね」

 

 

ラピスが胡散臭げに言うのも判らなくはない。

 

俺も市場でたまたまこのアイテムを見つけなければ、そんなことをしようとは考えなかっただろう。

 

エレミアとメイは市場に寄ってから来るらしく、今はこの場に居ない。

 

 

「んじゃ早速始めるか。

 

 ルーは俺が疲れてきたらこのワンドを振ってくれ。

 

 使い方は判るよな?」

 

 

そういってルーに《レッサー・レストレーション/初級回復術》の込められたワンドを渡した。

 

 

「フィアは俺の手元の飲み物がなくなったら注いでくれ。

 

 食事は取らないけど、咽喉が渇くとつらいからな」

 

 

フィアの目の前には水の入ったポーション瓶をいくつか並べておく。

 

 

「任せておけ!

 

 他にも何か困ったことがあれば遠慮なく言うのだぞ」

 

 

「しっかりサポートする。

 

 がんばってね」

 

 

二人ともやる気満々なようだ。ルーもここ数日、カルノの一団と一緒に過ごしたせいか共通語が上手になってきている。

 

元々口数が多いほうではないが、時折交わす言葉に柔らかさが出てきた気がする。

 

そんな二人の応援を受けて、俺はそのあたりにあったすわりのいい石の上に腰掛け、ブレスレットから例のアイテムを取り出した。

 

『ライア・オヴ・ビルディング/建造物の竪琴』。

 

1時間奏でるだけで、100人の大工が1週間働いたのと同じ効果の建築が為されるという魔法の竪琴だ。

 

本来であれば演奏にはそれなりの技術が必要であり、そう長時間続けられるものではないがそこはチートでカバーできる。

 

『バード・クローク』というレイドユニークは、そういった演奏を行う"芸能"技能に対して非常に高い技量補正を加えてくれるアイテムだ。

 

技能を割り振っているとはいえ素人に毛が生えた程度の技術しかない俺も、この装備のおかげで超一流と言っていい技術を一時的に発揮できる。

 

技能に補正を行うタイプでは、ゲーム中でも最高の値を誇るユニークアイテムである。

 

これを装備している限り、俺は気力体力が続く限りこの竪琴での演奏を続けることが出来るのだ。

 

さっそくその外套を身に纏い、竪琴に触れるとどの弦にどのように触れればどのような音が出るかが勝手に伝わってきた。

 

頭の中でメロディーを流せば、動かすべき指の動きが頭に浮かぶ。

 

まるで一時期流行した音ゲーをやるような感覚で、触ったことも無い楽器を演奏することが出来るのだ。

 

未知の体験に、昔聴いていた様々なフレーズが脳裏をよぎって行く。

 

さあ、それではその音楽を思う存分再現しようじゃないか!

 

まずは土地を均すところからだ。頭の中にある設計図を目の前の地形に投影し、少しの余裕を見た空間を対象に意識して弦に指を伸ばす。

 

1本を揺らして発せられた音がその空間を撫でると、ほんの僅かだが地表で風に靡いている草花に変化があったように感じられる。

 

そのまま立て続けに弦を弾いて音を鳴らすと、目に見えて土地が整地されていった。

 

まるで何倍速ものスピードで再生される動画を見ているような気分だ。

 

演奏に加えてこの現象になんだか気分が楽しくなってきた。

 

この辺りの地盤は巨人の遺跡の上に堆積した地層からなっている。まずは杭打ちを行う必要があるだろう。

 

周囲に転がっていた巨大な石柱を敷地の四方に埋め、固い地盤まで届いたことを確認して細い鉄芯を捻り込むように何十本と打ち込む。

 

こういった建材なども自在に作り出すことが出来るとは、まさにファンタジー万歳だ。

 

杭打ちが終わったスペースには周囲の岩を砕いた砕石を敷き詰め、鉄筋を組んだベタ基礎の上からコンクリートを流し込む。

 

建物の重量が相当な物になるであろう事を考え、基礎工事はこれでもかというほど徹底的に行った。

 

この世界にあるかどうかは謎なSRC構造を採用することにし、ひたすら鉄とコンクリートを使って建築を進めていく。

 

鉄ではなくてアダマンティンを使用すれば物凄い強度になるのかもしれないが、流石に建材扱いにはならず生成できない様子。

 

また、演奏の出来次第で建築のペースも変わってくるようだ。

 

お気に入りの曲を会心の出来で演奏できたときなどは目に見えて作業の進捗が違う。

 

演奏の合間に片手が空く瞬間を利用して咽喉を潤しつつ、作業用BGMの演奏からお気に入りのメドレーへと曲をシフトさせることにした。

 

既に太陽は中天を過ぎている。朝から既に6時間ほどはぶっ通しで作業している計算になるが、まだ疲れる気配は無い。

 

 

「ルー、フィア。

 

 まだ俺は大丈夫だから休憩してていいぞ。

 

 メイたちが来たら替わってもらえばいいから」

 

 

演奏を続けながら二人に休憩を勧める。よく考えればドラウの二人にはこの炎天下での作業は辛いものがあるだろう。

 

ゼンドリックのドラウにも眩しい光が苦手という特徴はあるはず。

 

このペースだと夜までかかりそうだし、二人には今のうちに休んでおいて貰った方が良さそうだ。

 

 

「ん。ちゃんと交代でお世話する。大丈夫」

 

 

「我らのことは気にしないでいいぞ。今は休憩するよりもトーリの演奏を聴いていたいのだ」

 

 

なるほど。そんなことを言われては気合も入ろうというものだ。

 

流石は世界に名だたる神曲だ。世界と種族を超えても聴衆の心を掴んでいるらしい。

 

建築はついに骨格となる柱・梁などの骨組が鉄骨で組み上がったところだ。ここから鉄筋コンクリートを被せていくことになる。

 

ちなみに工法などについては"知識:建築術および工学"技能によるサポートで、強度計算も直観的に把握できている。チート万歳だ。

 

なにせ家の中を中型トラックが動き回るようなものなのだ。どれだけ慎重になっても構わないだろう。

 

次に床部分を組み上げる。大浴場だけじゃなく各部屋に洗面台とシャワーを取り付けるための水道の配管も設置していく。

 

温水以外の水は、最上階に設置予定の貯水槽から供給する予定だ。

 

圧力ポンプとかは流石に作れないだろうし、蛇口を捻れば水が出るようにするには重力の力を借りることになる。

 

水源はソウジャーン号でも使用していた"デカンター・オブ・エンドレス・ウォーター"からの常時放出でまかなう。

 

貯水槽から溢れた分は、邸内を通過して中庭にある池を通り、コロヌー川へと排水される予定である。

 

浴場に設置する温水供給用に特殊加工された"デカンター"からの水は、トイレなどと一緒に下水に排水する予定だ。

 

目一杯に空き地を使用したため、敷地は横50メートル、奥行き40メートルと馬鹿みたいな広さである。

 

半分程度は庭だが、その周囲を3メートル程度の高さの柱を一定間隔で立てることで取り囲んでいる。

 

日本人感覚からすれば広すぎる気もするが、大型サイズの客が来ることも想定しての間取りなのでこんなものではないだろうか。

 

ちなみに浪漫であるところの地下室も設置済みである。

 

こっそり掘り進めて非常時の脱出路にするつもりではあるが、今のところはそこまで完成させる余裕は無い。

 

この竪琴の建築の能力は一旦奏でるのを止めると一週間使用できないというペナルティがある。脱出路の作成はまた次回でいいだろう。

 

空腹を堪えつつ、今は建物の建築に集中する。

 

そのうち日が沈んで月の光が増し、日付も変わろうかという時刻になってようやく家は完成した。所要時間は15時間くらいだろうか。

 

さすがに8時間を越えた辺りで疲労を感じ始め、毎時間ルーにワンドを使ってもらっての強行作業となった。

 

適当な家であれば昼過ぎには完成させられただろうが、凝りに凝った結果がこの長時間演奏である。

 

ちょっとした砦くらいのコストが掛かったのではないだろうか。我ながら会心の出来栄えだ。

 

 

「トーリ様! 凄かったです!」

 

 

演奏を終えて立ち上がった俺目掛け、誰かが飛び込んできた。

 

咄嗟に身を翻して迎撃しそうになるが、その姿を目にして慌てて手を止める。そのせいで彼女の突進を回避できず受け止めることになってしまった。

 

 

「私、感動しました!

 

 以前カヴァラッシュで聴いたどんな演奏よりも素晴らしかったです!」

 

 

飛びついてきたのはソウジャーン号を降りて以来、久しぶりの再会となるレダだ。

 

ふと彼女のやってきた方向を見ると、市街の『憩いの広場』は夜だというのに大勢の群集で埋め尽くされていた。

 

そして近くに寄ろうとしている群集をラピスやエレミアが牽制している。

 

どうやらレダはあの二人の防衛ラインを鍛えた"軽業"技能で突破してきたようだ。

 

 

「レダ! 久しぶりだね。

 

 どうしてこんなところに?」

 

 

抱きついてきたレダをあやしながら疑問を尋ねてみる。

 

確かにソウジャーン号はまだ埠頭に停泊していたが、こんな時間に出歩くようなことはないと思ったのだ。

 

 

「昼ごろから、『憩いの広場』で聴いたこともない旋律の演奏が聴けるって噂が聞こえてきまして。

 

 それで船のクルーの何人かが代表で偵察に来たんですよ。

 

 そしたらトーリ様が噂の演奏者だなんて!」

 

 

よく見ると、人ごみの最前列にはリナールを初めとしたソウジャーン号のクルー達がいた。

 

準備がいい事に折りたたみチェアに腰掛けて俺の演奏を聴いていたようだ。

 

こちらが気付いたのを察してか、リナールはチェアから立ち上がるとこちらに近づいてきた。

 

エレミア達も顔見知りのリナールを止める様な事はしない。

 

レダも流石に上司が来たとあって抱きつくのを止めたが、今度は俺の横で腕を組むようにしている。

 

 

「やあトーリ。

 

 とても素晴らしい演奏だったよ!

 

 商売柄、最高峰の演奏にも触れているつもりだったが今夜は芸術のさらなる可能性を思い知ったよ。

 

 圧倒的な技量に、時に繊細で時には大胆な表現。

 

 1人の演奏者から発されたとは思えない多様なメッセージ性に、私の今までもっていた常識は粉々にされた。

 

 今夜の出来事は、たとえドルラーに行ったとしても忘れることは無いだろう!」

 

 

しまった。どうやら演奏が失敗しないように万全を期したつもりが過剰だったようだ。

 

難易度20で名人芸、25で名演、30で歴史的名演といわれる世界観でサイコロ振る前から30越えている演奏を延々とブチかましてしまったのだ。

 

建築のためにずっと演奏していたんだから、街外れとはいえ聴きとめる人がいて当たり前だ。

 

そのうちに噂話が人を呼び、この有様というわけだな。

 

幾人かは演奏が終了したことで去っていくようだが、多くの群集はまだ余韻に浸っているのかその場を動こうとしない。

 

 

「君が例のドラゴンをどうやって抑えていたのかを私はずっと悩んでいたんだが、どうやらこれが答えというわけかな?

 

 いかに長い年月を経た竜といえども、これほどの演奏を前にしては心を奪われたに違いない。

 

 おかげで私も、コルソス村の脚本にさらなるインスピレーションが得られたよ」

 

 

誤解しているのか?

 

ゼアドとの一件はまだリナールの耳にはいっていないのか、それともその上でこう言っているのか判断できない。

 

 

「命がけの商売なんでね。引き出しは色々と用意しているつもりだよ」

 

 

とりあえず差し当たりの無い返事でお茶を濁すことにする。

 

まだまだこの辺りの駆け引きは未熟で、その筋の一流相手に勝負しようという気にはなれない。

 

今は演奏重視の装備でその手のブーストが効いていないというのもあるのだが。

 

 

「それよりリナール、ちょうどお願いしたいことがあったんだ。

 

 演奏へのチップ代わりに頼まれちゃくれないか」

 

 

過ぎたことは仕方ない。せっかくここにリナールが居るのだから、彼を有効に利用させてもらうことにしよう。

 

 

「私に出来ることであれば何でも言ってくれ給え。

 

 素晴らしい時間を与えてくれたお礼だ」

 

 

神妙な顔で頷くリナール。だがそんな大それた事をお願いするつもりではない。

 

 

「ああ、ちょっと腕のいい職人を紹介してもらおうと思ってね。

 

 見ての通り箱は出来たんだが、中身がさっぱりでね。

 

 家具やら何やら、色々と揃えたいのさ」

 

 

できればソウジャーン号に備えられていた、水温調節の出来る"デカンター"がいくつか欲しい。

 

他にも普通の家具やら何やら、そろえなきゃいけないものは沢山ある。

 

 

「お安い御用だ!

 

 チュラーニ氏族の名誉に懸けて、一流の職人を紹介させてもらうよ。

 

 君の演奏の腕前には及ばないかもしれないが、我らは造形においてはエベロン一を自負している。

 

 きっと君の期待にも応えられるだろう」

 

 

彼としては願ったり叶ったりであろう。一も二もなく承諾してくれた。

 

 

「後、あそこのお客さんたちに今日はもうお開きだって伝えてくれ。

 

 出来れば役人連中にも誤解が無いように説明しておいてくれると助かるな。

 

 まさかこんな大事になるとは思っても無かったんでね」

 

 

このくらい要求してもバチは当たらないだろう。

 

案の定リナールは上機嫌のまま頷くと、『憩いの広場』に向けて歩いていった。

 

船長の前は演劇団の座長なども務めていたというし、普段から人の上に立っている彼のことだ。きっと上手に纏めてくれるだろう。

 

去り際に奏者として勧誘されたが、それについては軽く断らせていただいた。

 

確かにこの世界で生きていくならそれも選択肢の一つかも知れないが、今の俺に必要なのは命を削ったやり取りの先にある冒険者としての経験なのだ。

 

 

「トーリ様……」

 

 

さて、リナールは立ち去ってレダが残された。彼女は何やら潤んだ目でこちらを見つめている。

 

 

「さ、レダも今日はもうお帰り。

 

 随分と遅い時間になってしまったからね」

 

 

「久しぶりにトーリ様にお会いできましたのに。

 

 長時間の演奏でお疲れでしょうし、今晩はソウジャーン号へいらっしゃっては如何ですか?

 

 ジョラスコ氏族のスタッフもまだ残っておりますし、皆トーリ様に会いたがっていますよ」

 

 

そういってレダは腕を引いてきた。

 

確かにその提案は魅力的だが、この状態でソウジャーン号に行っては前回以上の大騒ぎになりかねない。

 

 

「すまないね。まだ色々と家の準備でしなきゃいけないことも多いんだ。

 

 非番のときにでも顔を出してくれれば歓迎するよ。何せ訪ねてくる知り合いも殆どいないからね」

 

 

どの程度の割合で冒険に出るか判らないので、運が悪いと入れ違いなんてこともあるだろうけど。

 

そんな遣り取りをしていると向こうの方からソウジャーン号の他のクルー達がやってくるのが視界に入った。

 

リナールがうまくやってくれたようで、集まっていた群衆も徐々に解散し始めているようだ。

 

 

「約束ですよ。

 

 それじゃあ名残惜しいですけど、トーリ様……」

 

 

そういってレダはサッと顔を寄せると、軽く啄ばむ様なキスをしてから距離を取った。

 

そしてこちらに近寄って来ていた他のクルーたちを捕まえるとそのまま離れていく。

 

 

「ちょっとー、チーフだけずるいんじゃない?

 

 私もトーリ様とお話しーたーいー」

 

 

「「そーだそーだ、横暴だぞチーフ!」」

 

 

まるで三つ子のように見える彼女らはプールを担当していたエルフのスタッフ達だ。

 

確かレア、ディオネ、ティティスだったと思う。三人とも淡いブロンドをセミロングにしており、健康的な印象を受ける容姿をしている。

 

彼女達も不平を言ったりこちらに手を振ったりしていたが、そのままレダに連れられて『憩いの広場』を抜け市街へと立ち去っていった。

 

おそらくチュラーニ氏族の居留地か、ソウジャーン号へと帰るのだろう。

 

 

「いまのエルフ、トーリには及ばぬものの中々の身のこなしだな。

 

 あれもお主の群れの一員か?」

 

 

一部始終を横で見ていたフィアがそんなことを言ってくる。

 

"群れ"という言葉にどんな意味があるのか不明だが、とりあえず首を横に振っておく。

 

 

「この街に来たときに乗ってた船のクルーさ。

 

 仲良くしてもらってるけど、仲間ってわけじゃないな。友達ってところか」

 

 

言葉にするには微妙な距離感である。

 

 

「強い輝きの星の下には、他の輝きも惹かれて集まるもの。

 

 自信を持っていい」

 

 

ルーの発言もどう捉えていいものか。この双子、微妙に常識からずれている所があるんだよな。

 

まぁ俺もこのエベロン的常識からは遠いんだろうけど。

 

そんなやり取りをしている間に、少し離れたところに居たエレミア達がこちらにやってきた。

 

 

「見事な演奏だったな、トーリ。

 

 我らエルフの芸術に掛ける情熱はエベロンでも高いものだと思っているが、今ほどの演奏がこなせる奏者はいないだろう」

 

 

エレミアの言葉にやはりか、と落ち込んでしまう俺。

 

また無駄に目立ってしまったようだ。余計なトラブルが起こらなきゃいいんだが……。

 

 

「トーリさん、お疲れ様です~

 

 演奏しっぱなしでお腹すいてませんか?

 

 聴いたことがない曲ばっかりでしたけど、トーリさんのオリジナルなんですか?」

 

 

どうやら広場には屋台も出ていたらしい。メイが焼きたての串を何本か載せた皿を持ってきてくれた。

 

朝から何も食べていなかっただけに有難い。演奏しながらでは水分補給が精々で、食べるなんて事は流石に出来なかったのだ。

 

 

「昔聴いたことがある曲を適当に並べただけなんだけどね。

 

 子供の頃なんで実際に聴いたのとは違ってるかもしれないけど、オリジナルってわけじゃない」

 

 

そういえば寝ながら聴いていたはずのミュージックプレイヤーはこの世界には来てないな。

 

あれらの音楽を聴きたければ、こうやって自分で演奏するしかないというのはちょっと残念なところだ。

 

自分ひとりじゃメロディーラインしか奏でられないし、女性ボーカルの歌とかは再現しようが無い。

 

暇があったら楽譜を書き写してリナールあたりに渡せばそのうち再現してくれそうではあるが。

 

 

「さっきの連中はソウジャーン号の船長だっけ?

 

 どうやら上手いこと観客を散らしてくれたみたいだよ」

 

 

メイから受け取った串をパクついていると、リナールの後を追っていったラピスが戻ってきた。

 

 

「でも良かったのかい?

 

 あいつチュラーニだろ。氏族所属のアーティストって勘違いされちゃうんじゃないか?」

 

 

ラピスの懸念も尤もだ。確かに少しは関わりがあると思われるのは仕方ない。

 

でもそれはソウジャーン号でストームリーチに乗りつけた時点で疑われる部分であるし、逆にこちらを調べるような組織であればチュラーニ氏族からの仕事を受けている訳でもない事はわかるだろう。

 

フィアラン氏族からの何らかの接触が今後あるかもしれないが、それはその時に考えることにしよう。

 

 

「まだ駆け出しだしな。

 

 冒険者としての名前はこれから売っていけばいいさ」

 

 

奏者として呼ばれるようなことがあるかもしれないが、魔法のアイテムのパワーなので頻繁には行えないとか言って断ればいい。

 

『バード・クローク』は3キャラが持っていたので、予備もあるのでいざとなったら売却してもいいわけだし。

 

考え事をしながら、ブレスレットに仕舞っていたいくつかの食べ物を追加で食べてようやく一心地ついた。

 

 

「とりあえずややこしい話は後にして、家に入ろう。

 

 中の造りを紹介するよ」

 

 

中央からやや左側に寄ったところに設けた門をくぐって敷地内に入る。

 

こうしてみると、今の時点では飾り付けが一切されていない無骨な建物に見える。

 

エレミアは建材を叩いたりして固さなどを測っているようだ。ラピスは庭が気になるようで、建物の外周を回って移動していった。

 

とりあえずあの二人は放っておいて中に入ることにする。

 

メイと鉄蠍に乗った二人を連れて進む。玄関も廊下も、大型クリーチャーが無理なく移動できる幅を持たせてある。

 

とりあえず今晩のうちに、各人の部屋を決めてもらうのが良さそうだ。

 

 

「1Fには応接間と食堂、大浴場と個室が4つ。

 

 そこに見える階段を登った2Fには俺の部屋と個室を6つ、あとは作業やら倉庫に使えるスペースを用意したから。

 

 好きな個室を自分の部屋にしてくれ」

 

 

俺の部屋だけ個室の倍のスペースがあるが、それは俺専用の風呂場やトイレを設置したりしたせいである。

 

すべての個室にはシャワーと洗面所を設置したが、昨日の様子からいくとエレミアやメイは入浴のために大浴場を使用することが多くなりそうである。

 

そこでの鉢合わせを避けるため、俺の部屋にはマイ風呂を設置したのだ!

 

……半分くらいは建前で、残りの本音はソウジャーン号での贅沢な暮らしを思い出してあの船室を再現しようと間取りを考えたせいなのだが。

 

余った個室は客室なりにするつもりだ。侵入してきた盗人を懲らしめる罠部屋なんかもいいかもしれないが。

 

 

「家の中にお風呂を作ったんですか?

 

 それは楽しみですね~」

 

 

やはりメイが食いついてきた。

 

 

「今日はまだお湯が用意できないから、水風呂になっちゃうけどな。

 

 シャワーでよければ各部屋で浴びれるようにしてあるから。あとトイレは各階に3つずつだ」

 

 

水を供給するための"デカンター"は市場で購入したのを建築の際にセット済みだ。

 

熱帯地方だけあって、とりあえずは水のシャワーでも十分だろう。

 

その気になれば呪文なりでお湯を沸かすことも出来るかもしれないが。そのうちこのあたりは実験していくことにしよう。

 

頑張ればそのうち野宿の際にも風呂が楽しめるかもしれない。

 

間取りの説明をしながら階段を登っていく。

 

踊り場で足を止めて後ろを見たが、双子達も問題なく追いかけてきている。どうやらあの蠍が中を歩き回っても問題ないようで一安心だ。

 

 

「正面のこの扉の向こうが雑部屋だ。書庫にするなり、作業場にするなり好きに使ってくれ。

 

 ここから右手に俺の部屋と個室2つ。左手に個室4つだ。部屋によってはバルコニーで繋がってるぞ」

 

 

部屋の間取りを説明するために、俺の部屋の向かいにある個室に入る。

 

ドアを開けて右手にはシャワールーム。その奥にはクローゼットになる収納スペースがあり、奥行きは6メートルほどか。

 

横幅はもう少し広く、7メートル半といったところだ。

 

左手奥にはバルコニーに続く窓が見える。

 

 

「石の中で暮らすというのは少々慣れないが、ここからであれば星の輝きも見えるのだな」

 

 

確かに倉庫では碌な窓が無かったから外の景色は見えなかっただろうな。

 

この部屋はバルコニーに通じるもの以外にも窓がいくつか設けられている。

 

野外暮らしの長い二人には、2Fの部屋の方が良さそうだな。

 

1Fの部屋からは壁やらが邪魔で星空を見るのは難しかったり、そもそも窓が無い部屋とかもあるくらいだ。

 

 

「それじゃここの部屋にするか?」

 

 

聞いてみたところ、フィアだけでなくルーも首を縦に振った。蠍も尻尾を縦に揺らして賛成してくれているように見える。

 

 

「じゃ、私はこの隣の部屋にしようかな。

 

 作業場に近いのは便利ですもんね」

 

 

そういってメイはこの部屋を出て行く。隣の部屋は2Fで唯一バルコニーに接していない部屋だ。

 

天窓が取り付けられているが、建物の中央にあるため側壁には窓が無い。

 

誰も選ばないのであれば罠部屋なり倉庫代わりにしようと思っていたが、メイが使うのであればそれでもいいだろう。

 

二人と一匹を連れてバルコニーへ出ると、庭を歩いているラピスの姿が見えた。

 

こちらを確認した彼女は、勢いをつけて助走するとそのままの勢いで壁を蹴りながらこちらまで駆け上がってきた!

 

バルコニーの手すりに手を引っ掛けると、トン、という音と共に着地した。

 

 

「このバルコニー、いくつかの部屋に繋がってるのか。

 

 賊が侵入してくるかもしれないし、何かの備えはしといたほうがいいんじゃない?」

 

 

一応、6メートルほどの高さはあるのだが確かに彼女の言うことも尤もではある。

 

敷地に侵入してきた時点で《アラーム》が教えてくれるが、侵入を察知するだけで撃退できるわけではない。

 

扉などは《アーケイン・ロック》で施錠するにしても、他の対策も考えておいた方がいいな。

 

そんなことを考えているうちに、廊下側の扉からエレミアも入ってきた。

 

 

「立派な造りの建物だな。壁の硬度も中々のものだ。

 

 我々だけで使うには広すぎるぐらいだ」

 

 

確かに少々調子に乗って大きくし過ぎたかもしれない。まぁそのうち有効利用については考えるとしよう。

 

 

「二人とも、好きな個室を選んでくれればいいから。

 

 そこのバルコニーから先は俺の部屋で、こっちがルーとフィア。階段の隣の部屋はメイが使うみたいだよ」

 

 

二人は少し逡巡した後で、このバルコニーから繋がっている別の二部屋を選んで入っていった。

 

とりあえずこれで全員の部屋が決まったようだし、今日はシャワーを浴びて寝るとしよう。

 

今晩はいつもの寝袋だが、そのうち良くスプリングの利いたベッドなんかも買いたい。

 

リナールの紹介してくれる職人に注文してみることにしよう。

 

風呂も檜風呂みたいに、ソアウッドなんかの木で造れないか試してみたい。今から色々と楽しみである。

 

寝室(予定)の部屋に寝袋を広げ、ようやく手にした自宅の飾り付けに思いを馳せながら眠りについた。

 

 

 

次の日。

 

起き出して来たメンバーを集めて1Fの食堂で食事を済ませた後、各部屋に散らばっていく皆を見送って俺は家の外に出た。

 

目的地は『憩いの広場』、その地下にある『デッド・ホール』と呼ばれる墓所である。

 

この打ち捨てられた墓所では怖ろしいことに定期的に死体がアンデッドとなって蘇り、獲物を求めて街を徘徊しているのである。

 

運の悪い被害者がそういったアンデッドによってこの墓所に引きずり込まれ、さらなるアンデッドへと姿を変えるという負のスパイラル。

 

先日ジョラスコ氏族の居留地に宿泊した際に、同じ宿に泊まっていたヘスタールという女性から話を聞いていたのだ。

 

彼女はこのジョラスコ氏族の居留地に来たが経済的な理由から治療を受けられなかった弱者に癒しの手を差し伸べていたソヴリン・ホストのクレリックだ。

 

そんな彼女の患者達のうち何人かが姿を消し、原因を探っていたところこの墓所に行き当たったのだ。

 

家から歩いて3分の距離に、そんなアンデッドの湧くスポットがあるなんて事態は見過ごしておけない。

 

綺麗な草花が並んでいる庭園部分を通り抜け、その地下部分である空間に潜り込む。

 

名前のわからない背の高い草が生い茂るその影に、打ち捨てられた墓所への入り口が隠されている。

 

入り口は封鎖しようとしたのか鉄製の柵で塞がれているが、その支柱は折れ曲がっており、まるで内部からの力で押し破られたかのようである。

 

周囲は微かに太陽の光で照らされているものの、その明かりさえ封じられた墓所の暗闇を演出するための材料にしか見えない。

 

既に役目を果たしていない柵を通り抜け、地下に向けて緩やかにカーブを描きながら下っていく通路を進む。

 

通路は徐々に広がっていき、やがて幅10メートルほどまで広がった。

 

その通路の両側には石棺が立ち並んでおり、忘れ去られた墓所に葬られた遺体を閉じ込めている。

 

30メートルほど奥には行き止まりがあり、石棺と石棺の間には個人の記録を収めたと思われる書架が置かれている。

 

だがどれだけの年をこの湿っぽい地下で過ごしたのか、それらの本は既に取り出しただけで崩れ去ってしまいそうな腐敗具合だ。

 

通路の奥まで足を進めると、コルソス島の地下墓所で感じたのと同じ不浄のオーラが、どこからか漏れ出しているのを感じる。

 

耐性のない人間であれば、すぐにこの場から逃げ出してしまいそうな絶望感。

 

どこからか吹きぬけていく風が壁の石を擦る音が、何故か自分の名前を呼んでいるように聞こえる。

 

行き止まりの壁には、長年手入れされていないために殆どその用を為さなくなった鏡が飾られていた。

 

汚れのせいかこの場に満ちる不浄のオーラの成せる技か、その鏡に映った自分の顔の、頬の肉が腐り落ちたかのように見えた。

 

ギョっとして立ち止まった瞬間、冷たい石を擦るような音と共に壁の一部がスライドし、隠された空間からワイトが飛び出してきた!

 

 

「命あるものよ! 息をすることも無く、音を聞くこともなく、物を見ることも無いようにしてくれるわ!」

 

 

ただの死体ではなく、鎧を着込んだ死者の兵士だ。

 

両腕をも足のように使い、四つん這いの姿勢からは考えられない異様なスピードでこちらに近づいてくる。

 

初見であればその動きに惑わされたかもしれない。だが、俺は生憎コルソスでワイト・プリーストとなったジャコビーと戦った経験がある。

 

低い体勢から伸び上がるように放たれた爪の一撃を回避し、上段から勢い良くシミターを斬り下ろす。

 

微かな燐光の残像を残してワイトに吸い込まれた刃から、その死者の体を焼き滅ぼす強力な光と炎の爆発が生み出される。

 

体を左右に両断した切断痕から発した炎は、その死者の体を一片残さず焼き尽くすと消え去った。

 

だがそのワイトの発した言葉にならない断末魔の叫びに応えてか、通路の左右に並んでいた石棺の蓋が重い音と共に砕け散り、それぞれの棺から生者を憎むアンデッドたちが姿を現した。

 

ある遺体は弓を、ある遺体は剣を、またある遺体は杖を持っている。

 

ここに埋葬された海賊の先祖達だろうか。10体を越えるスケルトンは、その手に構えた得物をこちらに向けて攻撃の意志を示している。

 

また彼らの犠牲となった街の住人だろうか。棺にも入れられず、地中に埋められて未だ肉のついたままの遺体が地面を掘り起こして立ち上がってきた。

 

 

「お前も俺を殺した連中の一味か!」

 

 

腐った咽喉を震わせて、ゾンビたちもこちらにゆっくりと近づいてくる。

 

背後に壁を背負っているとはいえ、通路の幅が広いこともあってこのまま押し包まれてはジリ貧だ。

 

ここは出し惜しみせずに、シミターに込められた呪文の効果を使用することにする。

 

グリーンスティールの刀身に秘められた力を意識し、敵の軍勢の中心目掛けてシミターを振り下ろす。

 

狙った地点から、音も無く炸裂した焼け付くような熱と輝きを持った光球が敵軍を飲み干した。

 

範囲内のクリーチャー、特にアンデッドに効果的なダメージを与える《サンバースト/陽光爆発》の呪文だ。

 

強力な紫外線を発してスライム系のクリーチャーにも効果的な呪文だが、幸い建造物に与えるダメージは大して無いという呪文であり、今日のようなシチュエーションでは便利に使うことが出来る。

 

頑丈さがウリの連中も、天敵たる太陽光に焼かれては一たまりも無かったのか既に跡形も無い。

 

このあたりの敵は無事一掃出来たようだ。先ほどワイトが飛び出してきた隠し部屋を探り、そこにあったレバーを操作すると突き当たりの壁がスライドしてさらなる奥へと続く空間が現れた。

 

部屋の中央には水で満たされた池のようなスペースがあり、その真ん中には人骨、特に頭蓋骨が積み上げられた不気味なオブジェが立っている。

 

頭蓋骨に触れるか触れないかといったあたりには天井から巨大なランタンが吊られており、部屋全体を不気味な灯りで照らしている。

 

この部屋にも4つの石棺があり、俺がその広間に足を踏み入れるや否や、蓋を破壊して亡者達が襲い掛かってきた。

 

幸い連携を一切考慮しない単なる突進だけを繰り返す連中だったおかげで、こちらから距離を詰めて接敵までの時間差を作り出すことで容易に各個撃破できた。

 

シミターの切れ味もさることながら、付与されている魔法の効果がアンデッド達には効果覿面なのだ。

 

敵襲を撃退したことで再び奥への通路が開かれ、そこにいたスケルトンたちも走りよって滅却した。

 

通路の先にあった階段を上がった所には石棺で埋められた通路があり、その奥には何やら妖しい雰囲気の祭壇と、壁には見覚えの無い聖印が描かれている。

 

この場にはおそらくこの惨状を作り出したのであろうスペクターが存在したが、陽光を弱点とするアンデッドだけに《サンバースト》の呪文で一瞬で破壊された。

 

相性の問題もあるだろうが、やはり余程の物量で押されない限り余裕を持って切り抜けられそうである。

 

祭壇を破壊して禍根は断ったし、この墓所に居たアンデッドも全て葬った。依頼は無事完遂したと見ていいだろう。

 

オージルシークスやゼアドのような規格外と事あるごとに対峙する羽目になっていたため自信を失いかけていたのだが、このクエストで少し自信を取り戻せた。

 

後は宿でここのアンデッドについて悩んでいたクレリックに報告しておくとしよう。

 

クレリックとして高いレベルを得ていれば遺体がアンデッドにならぬよう《ハロウ/清浄の地》の呪文を使用することが出来るのだが、生憎信仰呪文には縁が無い身だ。

 

それについてはこの街の寺院に任せることにしよう。

 

 

 

 

 

探索した墓所が狭かったこともあり、報告を終えて家に戻ってきたのは昼前だった。

 

何やら騒がしいと思って庭を見ると、溢れた水を一時的に貯めて置くために作った池でフィアが泳いでいるのが見えた。

 

ルーは足だけを池に入れて涼んでいる様子。もうすっかりこの家に馴染んでしまっているようだ。

 

その後は家で過ごしていたところ、リナールが早速職人を連れて来たのに対応したりしているうちに夕方になった。

 

厨房もまだ水が流れるだけで、調理に必要な小道具類が揃っていないためこの家ではまだ料理が出来ない。

 

また屋台にでも買出しにいくかと腰を上げたところ、再び玄関の釣鐘が鳴らされた。

 

 

「またトーリの客かい?

 

 初日から忙しいことだね」

 

 

リナールのつれてきた職人と相性が悪かったのか、ラピスはご機嫌斜めである。

 

ソウジャーン号の建設にも関わったというエルフの師弟が来たんだが、それからどうにもピリピリしっぱなしなのだ。

 

後で何かフォローしておいたほうがいいかもしれない。

 

 

「とりあえず誰だか見てくるよ。

 

 日も落ちそうな時間だし、外で待たせておくわけにも行かないしね」

 

 

リビング代わりになっている食堂から玄関に向った。

 

外に出ると、庭の辺りで来客を警戒している鉄蠍の姿が見える。

 

どうやら彼はここを自分の縄張りとして認めたようで、警戒役を買って出てくれたのだ。

 

知性もあるし、無闇矢鱈に襲い掛かったりしない分別もあるので頼りになるガードである。

 

薄暗がりに溶け込むアダマンティンの黒い肌は、夜中の警戒にも打ってつけである。

 

入り口の前には、微かに見覚えのあるシティ・ガードがいた。

 

給水施設から出た際に、エレミア達と一緒にいた衛兵だ。

 

今日はオフなのか、以前会ったときのようにガードの装備はしていない。

 

彼は俺を確認すると、少し慌てたような口振りで話し出した。

 

 

「トーリ、といったか。

 

 先日会ったシティ・ガードのテンバーだ。

 

 お前が助けてくれた私の従兄弟達が、勇敢な冒険者達に頼みごとがあるといっている。

 

 話を聞いてもらえないだろうか」

 

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