ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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2-8.スチームトンネル

酒場でメイと休憩した後、『チャプターハウス』を後にして2人で予定していた他の用事を済ませることになった。

 

トゥエルヴの砦で定価よりやや高めに設定されているスクロールや魔法の品物を購入したり、デニス氏族の居留地でセキュリティ・サービスの契約をしたり。

 

それぞれに結構な時間がかかり、用が済んだ頃にはすっかり日も沈んでいた。

 

 

「すっかり遅くなっちゃいましたね~」

 

 

横を歩くメイは、そんなことを言いながらも口調は上機嫌そのものだ。

 

こちらの肘の内側辺りにそっと手を添えた、軽く腕を組んでいるような状態で夜の道を歩いている。

 

とはいえ、夜のストームリーチを気が緩んだ状態で歩けるわけも無く意識は警戒モードだ。

 

腕を組んでいるのも咄嗟の転移呪文の際に術者と接している必要があるからだ。

 

埠頭区画の倉庫街ではないとはいえ、暗がりにはどんな脅威が潜んでいるか分からない。

 

いざというときに即座に反応できるように、周囲の気配に気を配りながら家路を進む。

 

近所のアンデッドが徘徊する墓所は掃除したものの、街全体の地下を繋いでいる下水道部分や遺跡部分から新たな脅威が侵入してきてもおかしくないのだ。

 

先日は真夜中まで賑わっていた『憩いの広場』も、今日は無人で俺達以外には人っ子一人見当たらない。

 

それだけあの騒ぎは異常だったという事なんだろう。官憲に目をつけられていなければ良いのだが……。

 

静まり返った庭園を通り過ぎ、街を取り囲む分厚く高い壁を横切ると我が家がようやく視界に入った。

 

何箇所かに灯した《コンテニュアル・フレイム》の呪文による照明が周囲を暖かく照らしている。

 

門の脇に控えていた鉄蠍に手を振って挨拶をし、集会所のようになっている食堂へと向う。

 

 

「ただいま戻りましたよ~♪」

 

 

俺が扉を開けたところで、メイが部屋の中にいる皆に呼びかけた。

 

どうやらテーブルでカードを使って遊んでいたらしい。ソウジャーン号で遊んだ『スリードラゴン・アンティ』のようだ。

 

おそらくは初見であろうフィアやルーもそれぞれカードを持って興じていたようだ。彼女達はカードゲーム自体が初体験かもしれない。

 

 

「おかえり。随分とゆっくりだったんだね」

 

 

こちらを振り返ったラピスの目の前にはそれなりの高さのコインが積まれている。

 

だが、そんなラピスに並んでコインが多いのがルーだった。エレミアは3位、フィアが4位といった辺りは妥当といえるかもしれない。

 

 

「遅くなってすまなかったな。それじゃ得てきた情報について話すから聞いてくれ」

 

 

土産に買ってきた食べ物類をテーブルに並べながら、明日の出発に向けての情報交換などを行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

2-8.スチームトンネル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、俺たちは『チャプターハウス』の入り口に近い入り組んだ街路の行き止まりに来ていた。

 

街の区画を分ける巨大な壁に沿って背の低い建物が軒を連ねており、それらを巨大なパイプが接続している。

 

緑青に覆われた金属製の扉の両脇には衛兵が立っており、中に進もうとする俺達を見かけると声を掛けてきた。

 

 

「コボルド狩りか? 収拾がつかなくなっても、衛兵がこの中に入ってお前達を助けに行くようなことはないからな。

 

 それだけは覚えておけよ」

 

 

「我々の仕事は、悪党共が地上に出て来た際に備えてここで警戒することだ。

 

 これより先のことは、シティ・ガードの管轄外だ。引き際を誤るなよ」

 

 

2人の衛兵がそれぞれ俺達に話しかけてくるのに手を振って応えながら、立て付けの悪い扉を潜って建物内に足を踏み入れた。

 

俺とラピスが前衛、メイとルー、そしてルーを乗せた鉄蠍が中央、エレミアとフィアが殿という隊列だ。

 

薄暗い内部は、すぐに地下へと降りる階段になっていた。

 

機械類が出す絶え間の無い蒸気音と騒音に紛れ、トンネルの奥からコボルド達の騒ぐキャンキャンと甲高い声が聞こえてきている。

 

入り口部分は各所に照明となる”消えずの松明”が取り付けられており、視界に悩まされることは無さそうだ。

 

何万年もの年月を経てなお、鉄蠍の重さにも十分に耐えることの出来る階段を下っていく。

 

随分と昔に人の手が入ったのか、階段の段差自体は人間が使いやすいものになっていたり加工が難しいところには梯子が取り付けられたりしているようだ。

 

やがて下り階段は終わり、下水とは異なる目的の水路が設けられた設備内に到着した。

 

現在立っているところは中空を走る回廊で、少し下の水面近くにある通路から見れば二階に相当する位置にある。

 

所々には水面から壁や天井に向かって伸びているパイプがあり、どうやら水を汲み上げているようだ。

 

他にも壁から生えて天井を走っている配管があり、そこからは時折蒸気が噴き出しており、それによりこの空間は常に薄い靄に覆われている。

 

全員が《火抵抗》の装備をしているので熱にやられることは無いが、あまり長居したくないことには違いない。

 

熱による消耗は防げるといっても、不快な環境はできるだけ早く通り過ぎるに限る。

 

ゲーム中では特に影響は無かったが、手入れされていない水場の蒸気になんらかの有害物質が含まれていないとも限らない。

 

 

「さっそく分岐だけど、どっちに進む?

 

 占術では道案内まではしてくれなかったんだっけ」

 

 

横を歩くラピスが通路の分岐で立ち止まって聞いてきた。水路の上に設けられた中空の回廊はここで左右に分岐している。

 

右手の分岐はそのまま真っ直ぐこの水場から離れるように伸びており、壁に行き当たったところで蜘蛛の巣に覆われてその先を見ることは出来なくなっている。

 

左手の分岐は下りのループを描いた後、水面近くの通路へと接続し別方向でこの空間から抜けていくようになっている。

 

 

「とりあえず左から行こうか。右は長い間使われていないように見えるし、コボルドの声は左側の通路の先から聞こえてきているみたいだ」

 

 

幸いゲーム知識から来る分岐の選択をもっともらしく理由付ける要素があった。無駄な手間を省かせてくれたコボルド達には感謝したいところだ。

 

とはいえゲームのように最短距離目指して飛び降りるなんて真似が出来るわけも無く、ぐるっと通路を回ってから目的の区画に向うことになる。

 

途中壁に備えられた梯子を使う場面があったが、なんと蠍は器用に壁面にその爪を立てるとルーを乗せたまま壁を移動していった。

 

上に乗っているルーを見ると蠍から滑り落ちないように器用に体を支えている辺り、随分と手馴れているようだ。

 

蠍の方も尻尾の部分でルーを支えており、中々のコンビネーションである。

 

 

「器用ですね~

 

 場所によっては一緒にはいけないかと思いましたけど、あの様子なら大丈夫そうですね」

 

 

梯子を下りてきたメイがそんな様子を見ながら呟いていた。

 

確かに、立体構造のダンジョンは梯子などを利用することが多いためどうなることかと思っていたがこの様子であれば心配はいらなさそうだ。

 

歩く音もその図体からは考えられないほど静かで、隠密行動にも優れている。

 

このパーティーには重装鎧を着ているメンバーはいないし、メイすら少しばかり"忍び足"の心得があるようだ。

 

注意して進めば、待ち構える敵に対して先手を取ることが出来るだろう。

 

そんなことを考えながらも水面に近い通路を歩く。

 

水はどんよりと濁っており透明度は無いに等しい。もし何者かが潜んでいて水中に引きずり込まれてしまっては厳しい戦いを強いられることになるだろう。

 

だが幸いそのような遭遇は起こらず、通路はやがて水路を離れて上り坂になり、その先には斥候と思わしきコボルドの姿が見えるようになった。

 

だが、相手はまだこちらに気付いていないようだ。この辺りは既に照明が設置されておらず、俺達の姿は薄暗がりに隠されている。

 

コボルドも暗視能力があるとはいえ、その距離はさして長くない。不意打ちを警戒するために篝火を焚いているのが却って彼らにとって仇となったようだ。

 

 

(先行する。エレミアはついてきて)

 

 

ハンドサインでラピスが皆に合図を送り、気配を殺して2人で先に進んでいった。

 

配管などの構造物が作り出す暗闇に身を潜ませながら、スルスルと斥候に近づいていく。

 

2人の斥候は暇を持て余しているのか2人で何やら掛け合いを行っており、その近づく影には気付いていないようだ。

 

甲高い声がここまで響いているが、残念ながら内容までは聞き取れない。

 

分岐の先を確認したラピスから、さらにサインが送られてきた。どうやらあの先にもコボルドはいるようだが、術士らしき姿は見えないらしい。

 

数も脅威となるほどではなく、2人でも片付けられるようだが一応こちらに指示を求めている。

 

フィアとルーのほうを見、両者が頷きを返すのを見て方針を決定した。

 

 

(こちらから仕掛ける。2人はフォローよろしく)

 

 

そうラピスにサインを送り、了解の合図が返ってきたのを見てフィアとルーを乗せた蠍が先に進んでいく。

 

20メートルほどの距離を一気に詰め、斥候のコボルドが気付いたときには既にその剣と爪が彼らの体を引き裂いていた。

 

斥候の断末魔の悲鳴を聞きつけて、奥から6体のコボルドが迫ってくる。

 

手にしているのはダガーだが、そんな小さい刃物では蠍のアダマンティンの装甲を傷つけることは不可能だ。蠍はその巨体を敵の中心に向けて走らせた。

 

迫る蠍に威圧されたコボルドらが足を止めたところで、気配を消して暗闇に溶け込んだフィアが彼らの背後に回りこむと無慈悲な一撃を見舞った。

 

数の上ではコボルドが勝っているとはいえ、突然挟撃された彼らは恐慌に陥ったようでそのまま成す術もなく全滅することとなった。

 

 

「歯応えのない連中だ。戦い慣れしていないのだろうな」

 

 

小剣についたコボルドの血を払いながらフィアがそう評していた。先ほどの動きを見るに、確かに彼女は相当な実戦経験があるようだ。

 

蠍とのコンビネーションもなかなかのものだし、敵の背後を取った隙の無い動きも見事だった。ひょっとしたら俺よりもレベルが高いかもしれない。

 

蠍の上のルーもまったく動じていない。時折何かを伝えるように指先で蠍の装甲を叩いていたようだが、あれで何かの指示を送っていたのだろう。

 

とりあえずこの様子であれば彼女達も十分に戦力として数えることが出来そうだ。

 

フィアはあの隠行と暗視の能力を考えると、ラピスと組んでもらって斥候役を務めて貰うのがいいのかもしれない。

 

 

「トーリさん、安心しましたか~?」

 

 

横からメイが声を掛けてきた。

 

 

「ああ、あの様子なら十分やっていけそうだな。俺が置いていかれるんじゃないかと心配だよ」

 

 

あの2人もドラウなので多少はゆっくりとはいえ俺よりは格段に早いレベルアップを行うだろう。まったく、将来が楽しみなことだ。

 

 

「こいつらは単なる斥候だろうね。装備も貧弱だし連携も取れてない」

 

 

フォローで使うつもりだったのか、投擲用のダガーを指先で器用に回転させながらラピスが寄ってきた。

 

おそらく封鎖線が張られているとしたらこの奥なんだろう。

 

視線を向けると、少し構造の異なる人工の通路が先に伸びているのが見える。

 

 

「その通りだろうな。こんなところに時間を掛けていても仕方が無い。先に進むとしようか」

 

 

前方の警戒に当たっているエレミアの横を通り、先ほどと同じ隊列を組んで地下の通路を先に進む。

 

おそらくこの遺跡は巨人の奴隷だった中型のクリーチャー、おそらくエルフが使用していたものだと思われた。

 

入り口はともかくこの辺りの通路などの構造が、巨人が使うにはやや小さくて不便なサイズに思われたのだ。

 

所々、配管から漏れた水が貯まっている通路を進んでいるとやがて扉に行き当たった。横にあるバルブを回転させることで開くタイプのもののようだ。

 

特に罠があるような違和感もないし、横のラピスも同意見のようだ。

 

分厚い金属で出来ているためか、扉の向こうからは特に何も聞こえてこない。

 

念のため扉の正面には立たないように他のメンバーを移動させ、機構部分に油を差して音がなるべく漏れないようにしてからレバーを回転させ扉を開けた。

 

どうやら杞憂だったらしく、扉の先には何もいない。壁で囲まれた四角い部屋の右手側の壁には別の扉が備えられている。単なる通路のようだ。

 

少々拍子抜けしながらも同じ工程を繰り返す。TRPGではユニバーサルチェック等と呼んでいたが、"視認""聞き耳"等を常に行いながら先に進むのは中々に大変な作業だ。

 

それだけで徐々に神経を磨り減らすし、やがて集中力が途切れた頃に罠を感知しそこなうとパーティー全員を危機に陥らせることになりかねない。

 

ローグ役というのは本当に大変な仕事だなぁと実感する次第だ。

 

そうやって同じ手順を経て開かれた扉の先には、今度こそコボルド達の集団が集っていた。

 

 

「intruders!」

 

 

流石に10メートルほどの距離であれば誤魔化すことは出来ない。侵入者を知らせる銅鑼の音が響くのを聞きながら俺とラピスは前に突進して行った。

 

俺が前面に出ているコボルド達を切り伏せている間に、ラピスはその敏捷性を活かした高い跳躍力で一息に彼らを飛び越えると後衛の連中に肉薄した。

 

こちらの後列に向けてクロスボウを放とうとしていたコボルドが慌てて武器を持ち替えている間に、彼女は杖を持っている術者と思われるコボルドに向ってそのショートソードを突き込んでいる。

 

やや遅れて到着した蠍がその尾で前衛の戦列の一角を突き崩すと、それによって出来た隙間に向ってエレミアとフィアが滑り込むように進み、術者に向っていたラピスの背を狙っていたコボルド達に痛撃を加えている。

 

俺も遅れまいと前に出ると10秒もしないうちに最初にこの辺りにいたコボルド達は殲滅された。だが銅鑼の音を聞きつけて奥から敵の増援が迫ってきている。

 

スリングを構えた投擲兵から投げつけられる"錬金術師の火"の下を潜るようにして、武装を整えたコボルドのウォリアー達が迫ってくる。

 

さらに後列の術者達は呪文を唱える準備をしているようだ。何人かが杖を振りかざしながら大仰に腕を振っている仕草が見て取れた。

 

どうやら《マジック・ミサイル》の呪文のようだ。

 

力場で編まれた紫の光弾が空中に軌跡を描きながら通路の中央にいた俺に殺到するが、《呪文24時間持続》により一日中展開されている《シールド》呪文に遮られてその全ては俺に届くことは無かった。

 

"錬金術師の火"の投擲は《火抵抗》のおかげで気にする必要はない。やはりまずは相手の呪文使いを排除すべきだろう。

 

今打たれたマジック・ミサイルの弾数から敵の術者としての実力を推定する。2体の術者は2本、1人が3本の魔法の矢を放ってきていた。

 

最初の2体はそれほど脅威ではないが、3本の矢を放ってきていた最後の術者に再び詠唱させるのは危険だ。

 

そう考えたところで横を《スコーチング・レイ》と思われる熱線が通り抜けていった。メイが予め渡しておいたワンドを使用したようだ。

 

より強力な呪文、おそらく《ライトニング》を放とうと木箱の上に移動して射線を取っていたそのコボルドは3本の熱線を受けて一瞬で炭化した。

 

解放直前で放棄された回路から微弱な電気が漏れて周囲の金属のパイプに火花を散らしながら吸い込まれていくのを見届けながら、迫ってきた前衛たちの相手をすることになった。

 

スリング兵達も手持ちの”錬金術師の火”が効果がないと見て取ったのか、武器を持ち替えてこちらに向っている。

 

俺とエレミアの2人で戦列を支え、ラピスとフィアは通路の壁を走るようにして敵の術者目掛けて進んでいった。

 

コボルド達も俺達と同様、術者であるメイを狙おうとしているようだが幸い通路の広さが幸いして後方に敵をもらすことは無い。

 

幸い連中にはラピス達のように"軽業"を駆使して突破を図ってくる者が居なかったのだ。

 

敵のウォリアーは個体差はあるものの多少の鎧兜を身についていたが、俺の使うチート武器の前には何ら役に立たず紙のように切り裂かれていった。

 

エレミアもその双頭武器の両端を使用して一振りで複数のコボルドに傷を与えている。

 

俺達2人で敵の前衛を受け止めている間に、術者へと向った二人がそれぞれの目標を倒したことで戦いの趨勢は決まった。

 

俺達の後ろには蠍がその出番を待って控えていたが、今回はその爪と尾が活躍する機会は無く戦闘は終了した。

 

術士3体を含めて、20体ほどの部隊だったようだ。

 

使おうとしていた呪文を考えても、練度の高い部隊であったことは間違いない。

 

駆け出しの冒険者であれば開幕の《マジック・ミサイル》の集中砲火の時点で戦闘不能になっている。

 

物陰には骨や古びた背負い袋がいくつも積み重ねられており、その大きさからここで連中に倒された冒険者達の遺品であろう事が窺える。

 

ラピスが手早く中身を改め、コボルドに無価値であると判断されたのであろうハーバー・マスターの印章指輪を回収しているのが見えた。

 

 

「ハーバー・マスターに届ければ、身元の照会くらいはしてくれるだろうさ。

 

 遺族に送るような遺品は見当たらないけどね」

 

 

なるほど、ドッグタグと似たような働きがあるということか。

 

他の探索者協会などに登録しているのでなければ、身元を知るには確かにあの指輪を使うのが簡単だろう。

 

俺のように名前しか登録していない場合も多いのだろうが、それでもひょっとしたら故人を探している人たちがいるのであれば役に立つこともあるだろう。

 

ラピスを手伝ってその辺りを捜索してみるが、残念ながら印章指輪以外には役に立ちそうなものを含めて何も発見することは出来なかった。

 

 

「ま、こんなとこだろうさ。

 

 そろそろ先に進もう」

 

 

ラピスの切り上げの言葉を合図に、再び隊列を組みなおすと通路の奥へと歩き始めた。

 

少し進んだ先には左右に分岐した緩い下り坂があり、左の分岐の先には再び水場が広がっているのが見える。

 

右側の分岐はその水場を見下ろすような通路になっており、行き止まりになっている。

 

ゲームでは右手の分岐の先にあるバルブを捻り、水中のゲートを開くことで泳いで進むのだが実際に行うとなると水中に身を投じるのは躊躇われる。

 

それに付近に壁も無い状態では水場の奥にある梯子を使う際に蠍がついてくることができないだろう。別のルートを考える必要がある。

 

幸いなことに水場周辺の通路は壁に遮られず吹き抜けになっている。

 

巻物で購入しておいた《フライ》の呪文を使用すれば容易にショートカットすることは可能だが呪文のリソースは出来るだけ残しておきたい。

 

 

「左手の分岐の先にある壁面を登った先に通路が続いていそうだ。

 

 壁を登攀するから、何人かは通路の上側を警戒しておいてくれ」

 

 

背負い袋から購入しておいた登攀道具を取り出しながら皆に呼びかける。

 

アイテムと呪文で強化した場合、6メートル程度の壁であれば"跳躍"で飛び乗ることは出来るのだがこの壁はそれよりもう少し高いため別の手段を取る必要があるのだ。

 

水場が近いためか壁の表面は少し滑りやすくなっているが、元々ある程度の手がかり足がかりとなる凹凸があるためよじ登ることが可能だ。

 

靴に滑り止めの金具をつけ、分岐を戻って水場上の通路へと移動したエレミアとメイの姿を確認してから壁に向う。

 

横ではルーと交代したフィアが蠍の上でこちらのサポートをするために待ってくれている。

 

通路の上の安全が確認できていれば彼女達だけを先に送り込めばいいのだが、先ほどのような術者の一斉攻撃があった場合にそれは危険すぎる。

 

ドラウエルフは呪文に対する抵抗を強く持ち合わせているとはいえ、完全なものではない。小柄で耐久力も低いだろうことから、余計なリスクを侵す必要はないだろう。

 

 

「俺より先に頭を出さないようにな。コボルドが潜んでいるかもしれない」

 

 

フィアと蠍に釘を刺し、頭の中で壁を登るためのルートを絞り込むと最初の手がかりとなる凹凸に手を伸ばした。

 

強化された筋力は、腕一本で自重を支えることも難しくない域に達している。おかげで落ち着いて登攀する分には余裕を持って行動することが出来た。

 

スルスルと壁を登る自分はまるで虫か何かになったような気分である。

 

順調に上へと進み、手すりを掴んでこっそりと頭を出す。対岸のエレミア達が動いていないことから今のところ脅威はないと思うのだが、念のためである。

 

どうやらこの水路沿いの通路部分には敵はいないようだ。

 

体全体を持ち上げ、念のため音を立てないように通路側に着地する。俺の後を追ってフィアも通路へと乗り込んできた。蠍はルーを運ぶために一度下へと降りていっている。

 

他のメンバーの登攀をサポートするため、購入していた縄梯子を付近の柱に結び付けて壁面へと垂らす。

 

分岐を戻って合流してきた二人がそれを使用して壁を登り、最後に後方からの敵襲を警戒していたラピスがその身軽さで縄梯子を足場にして、何度か跳躍するようにして登ってきた。

 

彼女が着地したのを確認してから、手早く縄梯子を巻き上げて片付ける。おそらくこの先も何度か使うことになるだろうし、回収は必須だ。

 

この先で何か危険に遭遇して逃げ出す必要があったとしても、メイが出身地のシャーンで購入してきたという《フェザー・フォール・タリスマン/軟着陸の護符》が全員に配られており高所からの落下による危険も回避されている。

 

一回使いきりのアイテムではあるが、安価でありかつ装備スロットを圧迫しない便利なアイテムである。

 

俺が縄梯子を片付けている間に、フィアが前方の偵察を済ませて戻ってきていた。

 

 

「この先に連中がバリケードを構築しているぞ。

 

 バリケードの手前に4匹、奥にも同じくらいの数がいるようだ」

 

 

高い暗視能力を持つドラウであり、その能力を活かす訓練を受けているフィアはやはり斥候としての適性がありそうだ。

 

敵の視認範囲外から確認したところ、木箱や樽を積み上げられた粗末なバリケードの周辺に報告どおり4匹のコボルドが群れている。

 

バリケードは所々銃眼として使われるのだろう隙間が開いており、その隙間からも何体かのコボルドが動き回っているのが見て取れる。

 

 

「とりあえず、出来る限り距離を詰めてから一気に仕掛けよう。

 

 エレミアはバリケードの前にいる連中の相手を頼む。

 

 俺があのバリケードを破壊するから、ラピスとフィアは向こうの連中の相手を頼む。

 

 一当てして手強いと感じたらすぐに退いてくれて構わない。

 

 メイは敵の術者に備えて《ディスペル・マジック》でカウンターする準備をしておいてくれ。

 

 ルーはメイに敵が近づかないようにサポートを」

 

 

一つ一つ説明してはいるが基本的には先ほどまでと同じ流れであり、昨晩打ち合わせた通りの作戦である。

 

俺とエレミアで戦線を維持、敵前衛の掃討。ラピスとフィアは身軽さを活かして敵の術者や後衛への強襲。メイは対術者のカウンタースペル、ルーはそのガード。

 

ルーのクレリックとしての能力を使うのであれば俺と配置を替えるべきなんだろうが、力の回復に時間がかかる現状彼女のリソースを使用することは極力避ける方針である。

 

皆の頷きを確認して、武器を"ソード・オブ・シャドウ"へと持ち替える。今度の通路は横幅も広く、両手持ちのグレートソードを振り回すのに十分なスペースがある。

 

この剣であれば障害物を破壊しながらの勢いでも十分コボルドを戦闘不能にすることが可能だろう。

 

皆の用意が整ったのを確認して、照明を消して足音を殺しながらバリケードへ接近を図った。

 

コボルドのいる位置には篝火が焚かれているが、その周囲をうろつくコボルドのせいで不規則に生まれる暗闇が連中の視界を妨げている。

 

連中の暗視能力は20メートル弱だ。そこまで近づけば一息で駆けて斬る事ができる。

 

靴底で床を擦るように、それでいて音を立てないようにじりじりと距離を詰めた。

 

時折歩き回っているコボルドの視線がこちらを向くが、今いる位置はまだ連中の視認距離外なためそのまま視線は横へと流れていく。

 

俺のゴーグルやルーの瞳による《トゥルー・シーイング》の呪文は、魔法による幻術を暴くだけではなく、コボルドの倍の距離の暗闇を見通す力を与えてくれる。

 

この効果と、皆の"忍び歩き"技能のおかげで有利な条件で戦闘を開始できるのだ。

 

そろそろ20メートルというところで一旦物陰に隠れて停止し、他の皆の様子を振り返って確認する。

 

皆ついてきていることを確認したため、俺は速度を減じない程度に足音を殺したまま一気に距離を詰めた。

 

最後までこちらに気付かなかった右手側に立つコボルドをすくい上げる様に、地面ギリギリからの一閃をお見舞いしてそのままの勢いでバリケードの上部を横殴りに斬りつける。

 

篝火の灯りを照り返して黒く輝くアダマンティンの刃は一匹目のコボルドの腰から肩を抜けるような軌跡を描き、バリケード上部に積まれていた木箱を破壊した。

 

そのまま勢いを殺さずに左側のコボルドに打ち下ろしたが、こちらは少々無理があったのか浅く斬りつけただけに終わった。

 

だが俺の後ろについていたエレミアが、斬られて後ろに下がったそのコボルドの頭蓋にシミターの無慈悲な一撃を見舞う。

 

頭の後ろ半分を斬り飛ばされたコボルドは、そのまま今しがた俺が砕いたバリケードの残骸へと倒れこむ。

 

俺達2人がそうやって開けた隙間に向ってラピスとフィアが駆け込んでいく。

 

フィアの報告どおり、バリケードの向こうにも4体のコボルドがいたようだ。

 

先ほどの一撃で砕けたバリケードの隙間から、丁度コボルド達の頭だけがこちらからも視認できる。

 

突然の襲撃にも慌てず対応しようと動いている様子が見て取れる辺り、入り口辺りにいた斥候よりは数段上の戦闘力を持っていると思われる。

 

とはいえ、元々がコボルドは戦闘に向いた種族ではない。小柄な体は接近戦でのリーチやパワーに欠けるし、術者としての素養も高くは無い。

 

数で圧倒することが信条の彼らに対して、奇襲で同数まで持ち込んだ上に連携を断ってしまえばこちらの優位は揺るがない。

 

懸念だった術者だが、バリケードのこちら側に1体がいただけだった。

 

立ち塞がろうとした壁役の前衛をその構えた小剣ごとグレートソードで兜割りにして両断し、障害がなくなったところをエレミアが接近したことで勝負はついた。

 

術を使おうとしたところを斬りつければ、余程の凄腕の術者でもない限り痛みなどにより精神集中を乱されて呪文の発動には失敗してしまうのだ。

 

あいにくこのコボルドの術者はエレミアの斬撃から身を護れるほどの技量は無かったようである。

 

おそらくは俺を巻き込む形で《ライトニング》の呪文を発動させようとしたのだろうが、エレミアに斬りつけられて呪文の発動は失敗。

 

その後は形勢不利と見て逃げ出そうとしたが、その隙だらけの背中をエレミアのシミターが逃すわけも無く斬りつけられこの地下道に骸を晒す事となった。

 

こちらが片付いたところでバリケードの向こう側を見ると、最後に残ったコボルドが2人に挟撃されて倒されたところだった。

 

 

「トーリから貰ったこの鎧は素晴らしいな。

 

 板金鎧並みの硬度がありながらまるで布のように体の動きを阻害しない上に、気配と足音を消すまじないまでかけられているとは」

 

 

先ほどから敵陣の中央へ切り込んでいるフィアが"デルヴィング・スーツ"を気に入ったようで使用感を報告してくれた。

 

あの鎧は俺のキャラクターも長い間装備していたお気に入りの品だけにそう言って貰えると嬉しさもひとしおである。

 

 

「フィアちゃんたちはいいですね~

 

 このローブの効果も試してみたいんですけど、私はなかなか出番がないです。

 

 もう少し距離を詰めていれば魔力を温存しながら攻撃する手段もあるんですけど」

 

 

後ろからメイが残念そうに反応しているのが聞こえてきた。

 

とはいえメイのいう《炎の爆発》という攻撃手段は射程距離が短いし、敵の術者へのカウンターを考えるとやはり《ディスペル・マジック》を用意しているメイには待機をしておいてほしいところだ。

 

現在、コボルド相手で火力が十分に足りているということも大きいのだが。

 

 

「コボルド相手に呪文に頼るのも勿体無いし、メイには後で沢山活躍してもらうよ。

 

 俺達が安心して攻撃に専念していられるのはいざというときにメイが控えてくれてるからなんだし、感謝してる」

 

 

装備でHPを補強しているとはいえ、《ライトニング》クラスの呪文は熟練の冒険者でも一撃で戦闘不能にしうる強力な呪文だ。

 

術者を野放しにしておくと一瞬で戦局をひっくり返されかねない。

 

コボルドの集団にこの呪文を使えるレベルの術者が混ざっているということがこの先の戦闘の厳しさを予感させる。

 

ルーの指示でバリケードを破壊している蠍の横を通り過ぎ、奥に進むと通路はすぐに行き止まりになっており、下のフロアへと続く大きなパイプが床の中央にあった。

 

パイプは床の部分を貫通したところで途切れており、その所々には足場となる支柱が点在している。

 

下のフロアは人工的な灯りに満たされており、なんらかの仕掛けがあるようだ。

 

サイズ的になんとか蠍でも通過できる大きさだが、上に戻る際には呪文を使用しなければならないだろう。

 

さてどうしたものか、と考えていると破壊を粗方終えたルーがやってきた。

 

 

「大丈夫。

 

 地下空洞に抜ければこの子は自力で帰ってこれる」

 

 

ふむ。確かにホブゴブリンの居住区はこのスチームトンネルの構造を抜けた自然の地下空洞にある。

 

あのあたりからであれば、壁なりを掘り進んで地上に抜けることができるということか。疲労を知らないウォーフォージドだからこその帰還方法だな。

 

瞬間移動のアイテムや巻物もそれなりの個数の準備があるし、連れて行っても問題なさそうだ。

 

護符を装備できない蠍には《フェザー・フォール/軟着陸》の付与されたクロークを背中に装備させている。それを利用して、蠍はパイプの中をゆっくりと降下していった。

 

俺もそれを追って空中に身を躍らせる。一つ下のフロアは広いホールになっており、床のタイルは複雑な魔法陣が書き込まれているのが判る。

 

ホールの中央には先ほどのパイプの続きと思われる下への通路が見受けられるが、その上には蓋がされており現在は通行不能だ。

 

パイプ途中の支柱に上から覗き込んでも見えないようにロープを結び、帰りのルートを確保して降りて来た他のメンバーの意見を聞いてみる。

 

 

「ゼンドリックの遺跡によく見られるパズルですね。

 

 これらの魔法陣の刻まれたパネルを回転させることで一つの回路を構築すれば解けるタイプのものだと思います」

 

 

メイが大学でゼンドリック探索の経験を持つ教授から聞いていた情報から、このフロアについての説明をしてくれた。

 

床のタイルはゲームでは見たまま回路図になっていたが、実際に眼にしたのは呪文に対する知識が無ければ理解できない図面だった。

 

余所者を立ち入らせないための仕掛けなんだから、確かにこのくらい手が込んでなければ無意味だとつい納得してしまう。

 

 

「間違った経路で回路を組むとトラップが発動するっていうのがよくあるパターンだね。

 

 四隅にある支柱にエネルギーが供給されると別の仕掛けが起動するみたいだし、それには注意した方がいい」

 

 

ラピスも秘術の心得があるため、またローグとして罠の事を念頭に置いて注意してくれた。

 

散々繰り返したクエストだけに、大体のパズルの解き方は頭に入っているがここはメイの働きを見守ることにしよう。

 

俺の目に映っている回路図が実際のところどういう働きをするものなのかは不明確だし、メイの作業を見ながら学んでおくのが良いという判断だ。

 

そんなメイは暫くの間周囲のパネルを見回しながら思考をめぐらせていたようだが、1分ほどするとテキパキと床のタイル模様を回転させはじめた。

 

俺たちは邪魔にならないよう少し離れたところでその様子を見学だ。

 

どうやらゲーム知識を基にした俺の見立てとメイの判断は一致しているようだ。ゲーム同様、床のパネルを使用した水道管ゲームのようなものだ。

 

水漏れの替わりに、トラップのキーとなる部分へエネルギーを供給しないように目的の位置までパイプをつなげればクリアとなる。

 

それほど難易度の高くない仕掛けだったこともあり、その後間も無くしてホール中央のパイプを塞いでいた蓋は開かれた。

 

 

「メイ、お疲れ様。おかげで勉強になったよ」

 

 

労いの言葉をかけつつ、メイに歩み寄る。

 

 

「大したことじゃありませんよ~

 

 呪文の心得がある人であれば、慣れたらすぐに解ける様になると思います。

 

 秘術を学び始めた子供が遊びで使うパズルキューブにも似たようなものはありますし」

 

 

メイがいうには何やらルービックキューブ的な玩具があるとの事。

 

機会があれば触らせてくれるようにお願いし、開いた階下へのパイプを覗き込んだ。

 

階下のフロアには死体が転がっている。ゲーム通りならばあれはネクロマンサーに操られたゾンビで、下のフロアに誰かが侵入するなり襲い掛かってきたはずだ。

 

俺が最初に降りようかと思ったが、ルーが蠍と共に降下するということで一緒に飛び降りることにする。

 

ゲーム通り、辺りの死体たちは俺たちが着地するや否や起き上がりゾンビとして活動を開始しようとした。

 

だが、あまり機敏とはいえない動作で起き上がること自体が隙だらけな行動である。

 

蠍の尾が一閃すると、間近にいた3体ほどのゾンビは上半身を抉られて再び崩れ落ちる。

 

少し離れたところに転がっていたゾンビたちは立ち上がることは出来たものの、その緩慢な動作ではとてもこちらに近づくことなど出来ずに他の死体同様の運命を辿った。

 

尾の先端から毒液の替わりに注入された強酸はゾンビの体を分解し、数秒後にはその臭気すら酸に分解されたのか辺りからはゾンビが存在した痕跡は一切残らなかった。

 

 

「《アニメイト・デッド/死体操り》か。

 

 どうしてこういう穴倉には趣味の悪い連中が決まって住み着いてるんだろうね」

 

 

「街中では不浄の術を行使できないからな。

 

 おそらくはここまで来た冒険者以外にも街の住人も犠牲になっているのだろう。

 

 見過ごすわけにはいかんな」

 

 

梯子の途中から様子を見ていたラピスとエレミアが、片付いたと見て下まで降りてきた。

 

俺にはもう感じられないがラピスは違うのか鼻を顰めている。暗視の無い二人はこの先視界が利かないようで陽光棒を取り出している。

 

メイとフィアも降りてきたのを確認してからこのフロアの探索を開始した。

 

上の階へと繋がるこの部屋からは一本の通路だけが伸びており、少し進んだところで十字路になっているのが見える。

 

正面の道はすぐに行き止まりになっており、壁には大きな扉が設置されている。

 

足音を殺して進み、壁際から左右の通路を確認する。本来であれば鏡などを使ってこっそり行うべきなのかもしれないが、照明を持って歩いている以上視線の通るところに敵がいれば既に発見されているだろう。

 

不意を撃たれても対応できるように武器を構えていた方が身のためだという判断で、小道具を使用せず直視による確認を選択したのだ。

 

幸い左右の通路共に見える範囲には敵はいない。記憶ではこの区画は上層へと繋がる部屋を中心とした四角の回廊で、4方向に扉があったはずだ。

 

目の前にある扉もその一つ。そしてこの外縁の曲がり角を越えた辺りで敵が出たように覚えている。

 

皆に合図して、通路の反対側へと移動する。通路側の壁役を蠍とエレミアに任せ、俺はラピスと扉の調査を行う。

 

 

「……特に罠の仕掛けはないし、呪文の痕跡もない。埃の感じからすると長い間出入りされてないみたいだね」

 

 

ラピスのお墨付きを貰ってから扉を開くと、中は10畳程度の小さな部屋だった。長い間使用されていたわりには不思議と小奇麗な印象を受ける。

 

部屋の隅にはどこからか流れてきている水が排水溝へと流れており、天井近くには空気の流れるダクトのようなものが複数開いている。

 

ゲーム中では回復ポイントだったこの部屋だが、確かに扉を閉じれば休憩には良い空間に思える。

 

とはいえ、まだ探索を始めて1時間程度。今のところ皆疲労もないようだし、とりあえずこの部屋は覚えておいて先に進むべきだろう。

 

そこまで思い至ったところで、廊下から何かが近づいてくる気配を察知した。

 

まだ俺とラピス、そして室内を調べていたメイは部屋の中におり通路側には3人しかいない。

 

慌てて警告を発しようとしたが、時遅く既に戦闘は開始されてしまった。

 

 

「生きてる奴らを殺せ! 今夜は奴らの肉で宴会だ!」

 

 

浮き出た骨格に死斑の浮いた肉が申し訳程度に貼りついている。窪んだ眼窩には灼熱した石炭のような赤い光が宿っており、鋭い牙が生えた口からは呪いの言葉を吐き出している。

 

コルソス島でも戦った『グール/食屍鬼』だ。

 

 

「包囲しろ! 誰も逃がすなよ!」

 

 

扉の開く音を聞きつけてやってきたのか、左右の通路からそれぞれ2体のアンデッドたちが押し寄せてきている。

 

だが連中の武器である病気や麻痺は、アダマンティンの蠍にはなんら効果を発揮することは無かった。

 

僅かに身動ぎしたかと思うと蠍は音も無く前進し、直後その両の鋏はそれぞれ1体のグールの胴体を両断していた。

 

まさに一瞬の出来事だった。十分に見切れる範囲ではあるが、今のパーティーでは最も鋭い攻撃を行うのは紛れも無くこの蠍だろう。

 

別の通路から向ってきた2匹にはエレミアが対しており、ダブルシミターの両端を使ってうまく牽制しつつダメージを与えているようだ。

 

後ろへ通さないことを考えて足止めに徹したために今の一交合では倒すには至らなかったようだが、元々がそう強い敵でもない。あと一当てもすれば滅ぼせるだろう。

 

そう考えていると、エレミアの後ろに位置していたフィアが背中に巻いていたスコーピオン・チェインをサイドステップから繰り出した。

 

彼女の背中越しに振られた鎖の、先端に繋がれたショートソードがその名の由来どおり蠍の尾のような軌道を描いて1体のグールを貫いた。

 

こうして後ろから見ていたから理解できたが、正面から対峙していたら見事な奇襲に対応できなかったかもしれない。

 

体に比してやや大きな武器のため手元に引き戻した小剣を扱うところにやや隙が伺えたものの、リーチの長い攻撃と今のような奇襲は十分な威力がある。

 

瞬く間に残り1体となったグールは間も無く殲滅されたが、引き続き左手の回廊から複数体の敵が迫ってくるのを感じる。

 

 

「まだ何か来るぞ!」

 

 

警告を発しながら前列に出てエレミアと肩を並べたその直後、曲がり角から顔を出したのは3体のスケルトンだった。

 

そのうち1体は手に背骨よりも長くて太い杖を持ち、こちらに《スコーチング・レイ》を放ってくる。

 

 

「きゃっ!」

 

 

俺とエレミアは左右に飛んで回避したものの、直進した2本の熱線は廊下に出ようとしていたメイの移動を妨げたようだ。

 

今のは失策だ。おそらく俺の装備している《火抵抗》の装備であれば被弾してもダメージは無かっただろうから、受け止めるべきだった。

 

無傷とはいえメイが頭を抑えられた状態のため、今敵のボーンメイジはフリーハンドだ。

 

2本の熱線を放つ技量から見て、上層で遭遇したコボルドの術者よりも高レベルのキャスターだと判断できる。

 

次に大規模魔法を放たれたら耐久力の低いメンバーは即死もありうる!

 

焦る俺の目の先で、不浄のオーラを纏った骸骨は新たな呪文回路を構築し始める。

 

広範囲に冷気を撒き散らす……オージルシークスの使用した《フィールド・オブ・アイシィ・レイザーズ/氷槍の平原》かと一瞬思ったが、それより低位の《アイス・ストーム/氷嵐》の呪文だ。

 

威力的には白竜の呪文に相当見劣りするものの、この呪文が完成すると荒れ狂う雹と風のせいで移動が阻害される。

 

おそらくそれによって生じる時間は、もう一手を敵の術者に撃たせる事になるだろう。

 

先ほどの《スコーチング・レイ》を回避したこちらの動きを見て足を止めに来たと見える。この敵は相当戦闘に長けているようだ。

 

 

「《ファイアー・ボール》!」

 

 

敵の呪文が完成しそうになったその瞬間、突如俺の横へと現れたメイが敵の術者に火球による攻撃を加えた。

 

召喚術士に特化した彼女の持つ空間歪曲能力で短距離のテレポートを行い、足止めされた分の距離を稼ぎなおしたのだろう。

 

彼女の纏ったブルー・ドラゴンの鱗で編まれたローブが、発動する秘術の効果を増幅して本来は小爆発程度の火力である《ファイアー・ボール》の呪文威力を何倍にも押し上げた。

 

爆発の中央にいたボーンメイジは直撃を受け、全身の骨を燃え上がらせながらバラバラに砕け散った。

 

前衛を務めていた2体のボーンナイトもその半身を焼かれ、爆風に煽られて壁面に叩きつけられると動かなくなった。

 

高位術者の誇る圧倒的火力が発揮された結果だ。一歩間違えば俺達が敵に似たような目に合わされていただろうことを考えると素直には喜べない。

 

が、今のはメイの機転のお蔭で助かった。

 

 

「助かったよ、メイ。今のは危なかった」

 

 

声を掛けながら横の彼女を見ると、自分でも吃驚しているというような表情でメイが固まっていた。

 

 

「呪文を妨害するつもりで放ったんですけど……

 

 なんかいつもの倍くらいの威力になっちゃいました」

 

 

きっと呪文がクリティカルヒットしたのだろう。本来範囲型呪文にはそういったことは起こらないのだが、彼女のローブはゲーム通りの能力であらゆる魔法に一定のクリティカル率と倍率を発生させる。

 

基本的には威力が高まるのはいいことだが、時に予想しない火力は悪手になることもある。

 

そのあたりを上手に制御できないと、特にこういった地下遺跡などの構造物内では使いづらいかもしれないな。

 

 

「メイ、この指輪を渡しておくよ。

 

 これを使えば今使った呪文の力を取り戻せると思うよ」

 

 

ブレスレットから指輪を一つ取り出し、メイに渡す。カータモンの依頼を受けていた際に使っていたSP回復の効果がチャージされているアイテムだ。

 

もう1種類、もっと高い効果を持つ手袋もあるのだが素材や見た目がエグいためとてもじゃないが世間に出せる代物ではないため、こちらのアイテムを渡すことにした。

 

 

「……確かに、流れ出した力がまた満たされていくのを感じます。

 

 『パール・オヴ・パワー/力の真珠』に似た効果でしょうか?

 

 でもまだ指輪に力が残されているみたい」

 

 

掌で握り締めてその効果を発動させたメイは、瞳を閉じながら力の流れを感じ取っているようだ。

 

 

「1日3回使えるはずだ。

 

 余らせていても仕方ないし、機会があったらどんどん使ってね」

 

 

彼女に準備してもらっている呪文は先ほどのようにあるかないかで戦局を一変させる効果を持つものだ。

 

高レベル術者の存在はお互いにとってそれだけ重要なのである。

 

長期戦も予想されるし、呪文が尽きたせいで敗北するなんて事態は招きたくない。

 

 

「ありがとうございます。暫くの間お借りしますね」

 

 

メイの消費したリソースはこれで回復できた。

 

今のところ誰も怪我をしていないので俺も呪文は毎朝準備しているもの以外は使っていないし、危険な遭遇が続いた割には順調な滑り出しだ。

 

幸いこのあたりに他のアンデッドはもういないのか、先ほどの轟音を聞いても近寄ってくる気配は無い。

 

 

「もしさっきのグール達が自然発生したものじゃなくて呪文によって創造されたものだとしたらやっかいだね。

 

 《クリエイト・アンデッド》は蘇生を上回る階梯の呪文だし」

 

 

出遅れていたラピスが前に出て周囲を警戒しながら話しかけてきた。

 

ここでラピスの言う蘇生は《レイズ・デッド》という死者蘇生の中では一番低い階梯の呪文だ。

 

0~9まである呪文階梯の中で《レイズ・デッド》は第五、《クリエイト・アンデッド》は第六階梯だ。

 

《ライトニング》《ファイアー・ボール》は第三でメイがここまでの呪文を使用できる。先ほどの敵が詠唱していた《アイス・ストーム》が第四。

 

ちなみにオージルシークスの使用した《フィールド・オブ・アイシィ・レイザーズ》が第八、《タイムストップ》は第九階梯といえばあの白竜の理不尽さがわかってもらえるのではないかと思う。

 

ともあれ、ひょっとしたら俺達よりも大分レベルの高い敵がここに潜んでいるかもしれないということだ。

 

基本的にそういう連中は徒党を組まずにいるだろうことと、術者であれば打たれ弱いだろうことがこちらのつけいるポイントになるだろう。

 

 

「よし、それじゃ他の区画の探索を続けよう。

 

 エレミアとフィアは後方への警戒を頼む」

 

 

前列に立った俺は罠の警戒をラピスに任せ、敵襲に備えた。

 

極端な場合だと実体を持たないレイスなどの場合、床下から突然襲い掛かってくることもあるのだ。

 

だが先ほどの増援でやはりこのあたりの敵は打ち止めだったらしい。ぐるっと1周回るように回廊を進み、残ったのは休憩可能な部屋の反対側に位置する1枚の扉のみとなった。

 

 

「この奥から不浄な気配が漂ってきているようだな」

 

 

エレミアの言葉に皆が頷いた。おそらく呪的にも冒涜されているのだろう、明らかに感じられる異様な雰囲気が肌にも伝わってくるようだ。

 

扉には罠はなく、かけられていた鍵はラピスによって既に解錠されている。

 

《アラーム》などの呪文が掛けられている痕跡も感じられない。

 

どちらにせよ先に進むにはこの扉を越えなければならないのは確かなのだ。俺は覚悟を決めて扉に手をかけた。

 

扉の先は円形のパイプが横向きに壁の中を走る通路になっており、少し進んだ先は狭い部屋になっているようだった。

 

見える範囲には脅威らしきものは見当たらない。

 

念のためハンドサインで合図をかわし、俺が最初に踏み込むことになった。

 

歩きづらいパイプの中を進み、奥の部屋に足を踏み入れたところで気配を殺していたコボルド達の奇襲が俺を待ち受けていた!

 

元々小柄なコボルド達が伏せるように低い体勢から、部屋に踏み入れた俺の足首を狙って斬りつけてくる。

 

慌てて部屋の中へと1歩ステップしながら回避したが、そこで足場に違和感を感じた。どうやら粘着剤を予めこの部屋中央にばら撒いていたようだ。

 

ブーツが樹脂により床に貼り付けられ、身動きの取れなくなったところにコボルド・シャーマンの詠唱する《ライトニング》が俺に向って放たれる。

 

原始的な罠ではあるが確かに効果的だ。俺のブーツには《フリーダム・オヴ・ムーヴメント》という呪文が付与されているがこの効果は水中や組み付き、あるいは呪文による移動阻害効果には完全耐性を与えてくれるがこのような罠は効果範囲外だ。

 

両足が固定されている状態では流石に迫る雷光の直撃を避けることは出来ず、俺の体の中心を稲光が貫通した。

 

装備しているアイテムで増幅されていたヒットポイントが一気に半分ほど削られたのを感じる。

 

おそらく《即時呪文威力最大化》により強化された呪文だったのだろう、通常では考えられない威力の攻撃だった。

 

だがそれを受けても俺が倒れなかったことを見た連中はさらなる追加攻撃を加えるつもりのようだ。

 

封じられている下半身を狙って5体ものコボルドがこちらに殺到してきた。

 

とりあえず呪文による短距離転移を試みようとした時、俺の口から声が出ないことに気付く!

 

コボルド達が普通に音を立てているところからして、特定の侵入者のみに作用する《サイレンス》の呪文がこのあたりには定着しているのだろう。

 

これでは後続のラピスやエレミアにコボルド達の仕掛けを警告することも出来ない。

 

無駄になった呪文の詠唱を放棄、力尽くで床からブーツを引き剥がして迫るコボルド達を迎撃する。

 

体の自由さえ戻っていればコボルドなど敵ではない。

 

やや防御への意識を割り引くことになるが、迫ってくるコボルド達の攻撃の隙を突く事で5体全てに反撃を加えて地面に伏せさせた。

 

瀕死で横たわっているコボルド達を足場にして、こちらに追加の呪文攻撃を行おうとしているコボルド・シャーマンに飛び掛った。

 

暗闇に緑に光る酸の残滓を振りまきながら打ち下ろされたコペシュがコボルドの頭蓋に滑り込む。

 

《サイレンス》の効果のため斬撃の音はしないが、コボルドの体が倒れ酸に溶ける音が狭い室内に響く。

 

左右に細長い構造をしていたこの部屋は、その両端に扉を備えていたようだ。最後のシャーマンが倒れた瞬間にその両方の扉が開放された。

 

俺の目の前の扉の先からは大勢のコボルドが向ってくる様子が眼に入る。もう一方、背中側の扉の先には確かゲームではネクロマンサーがいたはずだ。

 

いずれにせよ発声を封じられている状況ではこちらのみが呪文を封じられた不利を負い、その上この部屋の中では挟撃される状態にある。

 

一旦後ろに下がって態勢を立て直すべきかと考えたその時、部屋を満たしていた《サイレンス》の呪文効果が消失した。

 

効果範囲外だったパイプの通路からメイが《ディスペル・マジック》を使用したんだろう。

 

メイのその行動を待って、ラピスとエレミアが部屋の中に突入してくる。

 

どうやら先ほどの俺の動きを見て、床に仕掛けがあることは察しているようだ。

 

 

「2人とも、こっちを頼む!」

 

 

咄嗟に判断し、二人とスイッチして俺はネクロマンサーが潜んでいるだろう反対側の扉へと向う。

 

だが既にタイミングは遅く、通路の向こうの薄暗がりの中1人の人間が呪文の詠唱を終えていた。

 

天井から轟音が響いたかと思うと、突然信仰の力を帯びた業火の柱が部屋に落下してきた。《フレイム・ストライク》の呪文だ!

 

炎の影響は《火抵抗》の装備で軽減できたが、付加されている信仰エネルギーが部屋中を吹き荒れる。

 

純粋な打撃力に変換されたパワーに翻弄され、床に伏せていたコボルド達が絶命する。

 

幸い、今の呪文は部屋の中にしか効果を現さなかったようだ。通路にいる残りの三人+1に被害は無い。

 

後ろでラピスが《ホールド・ポータル》の呪文で反対側の扉を封鎖したのを感じる。これで一先ず挟撃の危険は薄れた。

 

攻撃呪文の影響を完全に防ぐことは出来なかったエレミアに《高速化》と《光線化》により起動した回復呪文を飛ばしつつ、死霊術士のいる部屋に向ってパイプの中を突進した。

 

だが部屋を繋ぐパイプに足を踏み入れた際に薄い膜を潜り抜けたような感触と、それに遅れて全身を衝撃が貫いた。

 

《フォービダンス/立入禁止》、術者と異なる属性を持つ侵入者に害を与える結界系の呪文の効果だ。再びアイテムにより補強されたヒットポイントが削られる。

 

さらにパイプの周囲に刻まれていた禍々しいルーンが視界に入ると、その文字は突如赤く光ってその内に込められた呪文エネルギーを解放した。

 

《グリフ・オヴ・ウォーディング/守りの秘文》、その上級だと思われる呪文の効果だ。

 

咄嗟に勢いを加速して先へと踏み込んだ俺の背中で、解き放たれた呪文エネルギーが吹き荒れているのを感じる。

 

10メートルほどのパイプを走り抜ける間、都合6回もの爆発を背後に置き去りにすることになった。

 

これがゲームだったらあまりに入念な防備の固さに設定した人間をクソDM、と罵るところだが残念ながらここにその言葉を向ける対象はいない。

 

この通路に最初に踏み込んだのが俺でなければ、間違いなく死んでいる。

 

そしてようやく目的の部屋へと踏み入ると、かろうじて聞き取れるほど微かな命なき者の呻き声が耳に入り全身に寒気が走った。

 

目の前にはこの階層の全てのアンデッドの源であろうネクロマンサーが1人。だがその周囲には多くの命亡き者が佇んでいた。

 

 

「機敏な動きはまるで蝿のようだな。貴様を素材とすればさぞ素晴らしい死者が生まれるに違いない。

 

 さあ、ひれ伏すが良い!

 

 

死と腐敗を司る暗黒六帝が一柱、キーパーのシンボルが刻まれたローブを身に纏ったクレリックが周囲の死者に号令を下すと腐肉と骨の軍勢がこちらに押し寄せてきた。

 

そしてその言葉には対象を屈服させる《コマンド/命令》の呪言が乗せられていた様だが、生憎チートされた俺の抵抗力を貫くには至らなかったようだ。

 

だが放たれた軍勢は明らかに俺1人に差し向けるには多い物量だ。おそらく後ろに居るエレミア達にも向わせるつもりなんだろう。

 

流石に出し惜しみしている状況ではない。幸い爆発に背中を押された俺と《フォービタンス》の呪文の影響でパイプの手前で立ち止まってくれている皆の間には距離が開いている。

 

今であれば皆を巻き込まずに範囲呪文で攻撃することが可能だ。

 

俺は掌を敵の首魁に向けると、アイテムにチャージされた呪文の効果を発動させた。

 

この部屋にはメイのディスペルが届いていないために《サイレンス》の効果が残っているが、アイテムの起動には声を出す必要はないのだ。

 

直径50センチを越える火球が4つ、差し伸べた手の示す方向へと直進すると悪のクレリックへと殺到して爆発した。

 

単発では先ほどのメイのファイアー・ボールにやや劣るとはいえ、それが4つ同時に炸裂したのだ。

 

術者である俺のところまで爆風と熱波が押し寄せてきたが、ローグの身かわし能力と装備による《火抵抗》のおかげでダメージは無い。

 

少々乱暴ではあるが、今のタイミングを逃すとアンデッドたちが散開して面倒になっていたと思えば悪くないやり方だったと思う。

 

案の定、爆発の中心となったネクロマンサーは跡形も無く消滅していた。彼の率いていた軍勢もその全てが広範囲に渡った爆発によって原形を留めていない。

 

高レベルの敵だけにひょっとしたら良い装備をしていたかもしれないが、《メテオ・スウォーム》でそれらの品も全て焼却されてしまったようだ。その点は残念かもしれない。

 

部屋を見回して既に脅威が残っていないことを確認して意識を切り替える。ラピスの《ホールド・ポータル》は数分で効果が途切れるはずだ。

 

そうするとコボルドの群れがあの部屋に突入してくることになる。とりあえず急いでそれに対応しなければならないだろう。

 

踵を返し、パイプの通路を通って皆のいる部屋へと戻った。

 

 

「呪文が解けるまであと1分ってところだよ。どうする?」

 

 

通路を抜けたところでラピスから声を掛けられた。

 

皆の視線はコボルド達が反対側から叩いている扉へと向けられている。このままこの部屋で迎え撃つか、あるいは一度退くかということだろう。

 

部屋の中央に仕掛けられていた粘着床は先ほどの《フレイム・ストライク》で焼き払われており、戦闘に支障は無さそうだ。

 

後ろに下がるといってもこちらに有利な地形があるわけではないし、ここで迎撃しても大差は無いだろう。

 

そう判断した俺はブレスレットから1本のワンドを取り出すと、チャージされている《レジスト・エナジー》の呪文を使用して皆に敵の《ライトニング》への抵抗力を付与した。

 

 

「ここで迎え撃つ。俺とエレミアで敵前衛を止める。範囲呪文が来るだろうけど、エレミアには今付与した抵抗でなんとか凌いで貰う。

 

 ラピスとフィアは敵の数が減ったらまた敵の術者を狙ってくれ。

 

 メイは敵の中心に攻撃呪文を叩き込んで、敵の数を減らした後でこの巻物を使って蠍を敵の後衛まで運んでくれ」

 

 

指示を出してメイに《ディメンジョン・ドア》のスクロールを渡したところで呪文の効果時間が切れたようで封じられていた扉が開け放たれた。

 

敵前衛の頭の上を火球が飛び越えてきてこちらの部屋の中央で炸裂した。敵の術者による《ファイアー・ボール》だ。

 

身かわし能力を持たないメンバーも予想していた攻撃であることからダメージを受け流すことに成功したようだ。

 

直撃でなければ装備の《火抵抗》の効果によりダメージを受けることはない。

 

両腕でショートスピアを構えたコボルドのウォリアーたちが爆発の収まった部屋の中に突撃してくるが、彼らの鼻先でメイの《炎の爆発》が炸裂した。

 

4体ほどのゴブリンが炎にまかれるが、流石に呪文のリソースを使用しない攻撃では倒れるほどのダメージは与えられなかったようで勢いを殺さずにこちらに向ってくる。

 

だが、程よく手傷を負った彼らの攻撃はもはや隙を曝け出す行為でしかない。

 

体ごと突っ込んできた第一波の攻撃をサイドステップして回避し、無防備な背中から首筋へと武器を振り下ろす。

 

続いて向ってきた第二波には体を捩るだけで槍の穂先を逸らすと、敵の股間から頭部を振り上げた剣で両断した。

 

横ではエレミアが敵の攻撃を受け止めて返す刀でコボルドを倒しているのが見えるが、相手の勢いを利用して倒した俺は既に次のアクションへと移っていた。

 

敵のほうへと一歩踏み出し、今ほど二匹のコボルドを仕留めた武器を振って通路にいるコボルド達を"威圧"した。

 

俺の気迫に気圧されたのか、敵の動きが鈍った隙を突いてラピスとフィアが連中の頭上を巧みな"軽業"で擦り抜けて行き、先ほど《ファイアー・ボール》を放った術者へと攻撃を仕掛けていく。

 

死地に置かれたと判断したその術者は《ホールド・パーソン》と思われる呪文を紡いで彼女達の動きを止めようとしたが、戦士2人に挟撃された状態で呪文を発動できるほどの集中力は無かったようですぐに打ち倒されていた。

 

そのさらに後ろに別の術者が控えていたが、そこには既にメイが蠍を連れて《ディメンジョン・ドア》の呪文による転移からの急襲を仕掛けている。

 

あの蠍の鋏に捕えられたが最後、もはや哀れなコボルドの命は潰えたと言っていいだろう。

 

苦し紛れに《ライトニング》を放ったようだが、先ほど付与した呪文のおかげで効いている様には見えない。逆に鉄装甲を伝わってきた電流で自分にダメージがいっている有様だ。

 

後は僅かに残ったコボルド・ウォリアー達の掃討を残すのみである。

 

 

「チェック・メイトだな」

 

 

視界の隅で上下に分割されたコボルド・シャーマンの肉体が蠍の高く掲げた鋏から零れ落ちるのを確認しながら、通路に閉じこめられた哀れなコボルド達に向って俺は足を踏み出した。

 

 

 

掃討の終わった三つの部屋を探索したところ、最後のコボルド達が押し寄せてきた部屋に階下へと繋がるパイプを発見した。

 

埃の積もった蓋を開けてみると梯子が備え付けられており、往来に支障は無さそうだ。

 

先ほどの戦闘で削られたヒットポイントをポーションで回復しながら休憩していると、他の部屋などを探索していた皆が作業を終えたようでこちらに集まってきた。

 

 

「あっちの部屋は魔法の炎で焼かれたせいか、めぼしい物は見当たらなかったよ。

 

 この部屋に居たコボルドの術者がいくつか魔法の指輪を装備していたのでそれが収穫かな」

 

 

ラピスが指輪を二つほど掌で転がしていたのを受け取り、軽く握ってブレスレットに転送してみたところその効果が判別された。

 

反発の力場を装備した本人に与える防護の指輪のようだ。既に皆にはこれより強力な防護効果のある品を渡しているし、換金対象だろうな。

 

元の掌の上に指輪を排出し、効果を伝えつつラピスに返す。

 

 

「死霊術士さんの居た部屋は高度な呪文で護られていますし、探索するのなら解呪が必要ですけどちょっと分が悪いですね。

 

 今のところは入り口の扉を《アーケイン・ロック》で封鎖して、帰り道に余裕があれば確認すればいいんじゃないでしょうか」

 

 

奥の部屋にかけられている呪文を調べていたメイがその結果を伝えてくれる。とりあえずその判断で良さそうだ。

 

先ほどの《サイレンス》を部分的に解呪できたことがそもそも運が良かった出来事なのだ。

 

残念ながらあのネクロマンサーの術者としての技量は俺達のパーティーの誰よりも高いため、解呪はじっくりと腰を据えて行う必要があるだろう。

 

今の俺達には他に優先すべき目標がある以上、後回しでいいだろう。部屋中を高威力の呪文で焼き払ったため実入りが期待できないということもあるが。

 

リソース節約のために購入しておいた《アーケイン・ロック》のスクロールをメイに渡し、処置をお願いしてもう少し休憩を続けさせてもらうことにする。

 

先ほど回復のために飲んだポーションが腹にたまって少々気持ち悪いのだ。

 

傷を治す分にはすぐに取り込まれて吸収されるのだが、オーバードーズしてしまうと胃にもたれるのである。

 

飲み込んだその瞬間に効果を失ってしまうため、いま胃に残っているのは何の役にも立たない液体でしかない。

 

とはいえ俺以外の皆も負傷こそ無いものの、度重なる戦闘の連続で目に見えない疲労が溜まっていることが考えられる。

 

なので全員集まったところで10分ほどの小休憩を取り、それから階下へと進むことになった。

 

 

 

降り立った階下のフロアにはこれまでと似たような構造の地下通路が伸びていた。

 

先ほどの死霊術士またはコボルドが使用していたのか、正面の通路を進んだ突き当りには錬金術に使用する作業台が置かれている。

 

だがこのフロアにはコボルドの気配は無い。既に彼らの防衛線は突破してしまったものと思われる。

 

先ほどの行き止まりを除けば一本道の通路を進む。

 

何度かの曲がり角を越えたところで、前方のホールらしき空間に動く影を発見した。

 

標準的な人間よりはやや低い身長に長い尾がついており、筋肉質の体はまだら模様の鱗に覆われている。

 

トログロダイトだ。数本のジャベリンをそれぞれ背負った二足歩行する爬虫類といった姿の彼らは、こちらが使っている陽光棒の灯りを発見したのか威嚇の構えを取っている。

 

4匹ほどが視界に入り、戦闘態勢に入っている。あの種族は非常に好戦的で、人型生物を食らうのを特に好んでいる。戦闘は避けられないだろう。

 

こちらで彼らを視認出来ているのは俺とルーだけだ。

 

流石にこの距離であればジャベリンによる攻撃も当たらないとは思うが、一方的に攻撃される状況はよろしくない。

 

 

「前方にトログロダイトが4匹。こっちを狙っている!」

 

 

簡単に事情を説明した後で前方へ向けて駆け出した。

 

そんな俺目掛けて狙い通りジャベリンの集中砲火が行われるが、まだ距離が遠いためか警戒には値しない。

 

どうやらまだ若い連中のようで、錬度は高くないようだ。見当違いの方向に飛んで行ったジャベリンも一本見受けられた。

 

俺の後ろにはルーを乗せた蠍が寄り添うように追従してきている。

 

他の四人は敵を視認出来ていなかったためか初動が遅れているが、この程度の連中であれば特に問題は無いだろう。

 

 

「Hssssssssss.... Go back to the surface, scum!」

 

 

おそらくは竜語だろうと思われる言語で何かの脅しを言っているのだろうが、爬虫類独特の発声器官から発される声にはシューッという音が多く混じっていて聞き取れない。

 

固い外皮の上に薄手の皮鎧で所々を覆っているようだが、動きが止まっているように見えるのであればそんな装甲は無いも同然だ。

 

強酸を振りまくコペシュでその首を横薙ぎに切り落とす。爬虫類らしい強靭な生命力か、頭部を切り離されても胴体は直立を暫く保ったままでいたがやがて尻尾が痙攣するとその動きに吊られる様にして残った胴体も倒れこんだ。

 

無論その間にも俺は他のトログロダイトを仕留めている。悪臭にさえ気をつければ大した敵ではないし、戦闘能力でいえば先ほど大量に戦ったコボルドのウォリアーと大差ない。

 

結局、後続の皆が到着する頃にはすべてのトログロダイトは始末されていた。

 

 

「うーん、近くに巣があるなら最初に増援を呼びにいったと思いますし。

 

 トーリさんが仰るように練度が低いということでしたら、この辺りを縄張りにしようと移動してきた一孵りの兄弟かもしれませんね」

 

 

メイが状況を分析して意見を述べてくれた。

 

確かに巣があるなら普通20体からの群れがいるはずで、この4体だけというのは少なすぎる。

 

ホールの中央は掘り下げられており、その底は水で満たされていることを考えるとこの水路を伝ってどこからか移動してきた連中と考えることが出来る。

 

付近には二箇所の扉が見えたが、それ以外にはこのホールの中には特筆すべきところは無い。

 

あのトログロダイトたちが生活していた痕跡も僅かしか見当たらないのだ。

 

無論この水路の先に進めば何かあるのかもしれないが、水中で戦闘するかもしれないリスクを考えればわざわざ探索しようとは思わない。

 

 

「ならここの脅威は排除できたと考えていいか。

 

 扉の先に進もう」

 

 

既に扉自体は開けてあり、片方が行き止まりになっていることも確認済みだ。

 

一方の扉が開閉のギミックが水路の先にあるようでやむ無く"ソード・オブ・シャドウ”で切り抜くことになったのは余談だ。

 

扉を抜けた先に続く通路を進んでいると、やがて周囲は鉄と大理石からなる人工物の通路から土と植物が露出した自然洞窟へと変化していた。

 

目の前に広がる深い縦穴は巨大な胞子類が足場として利用できる自然の階段になっているようだ。

 

 

「確かこの先は蜘蛛の巣、だったか。蟲の類は天然の狩人だ。

 

 不意打ちに注意しなければならないな」

 

 

エレミアの声にも少し緊張が混じっているように感じる。ゲームでも難易度が上がるにつれて蜘蛛や蠍は強敵として立ち塞がってきた。

 

クエストのラスボスよりダンジョン入り口にいる1匹の蜘蛛の方が強いなんてことがあるくらいだ。

 

この『シャン・ト・コーの印璽』に関わるクエストではそこまでの危険な敵はいなかったはずだが、油断は出来ない。

 

蜘蛛の特徴として暗視以外に振動感知といって、同じ地面に接している対象の動きを察知するというものがある。

 

種類によっては遠距離から糸を吐きつけてくる連中もいる。

 

この洞窟に住んでいるのはそういった種類の蜘蛛のようで、所々に吐き出された蜘蛛の糸が固まっているのが見える。

 

中には人間どころか巨人すら飲み込んでしまいそうな大きな糸の塊も存在している。

 

元居た世界では考えられなかった、車サイズの蜘蛛がこの先には潜んでいるという証左だろう。

 

取り出した投光式のランタンを使用し、慎重に進行方向とその周囲を索敵しながら進む。

 

ちなみに蠍は流石に天然の植物の足場を利用することは出来ず、ルーを降ろして壁際の斜面を降りたり穴を掘って壁面を移動したりしている。

 

開けた空間で全周方向を警戒しながら進むというのは思っていたより疲れる作業だ。

 

何しろこの足場にしている茸の傘部分、その裏側に連中が張り付いているかもしれないのである。

 

あまり頓着せずに先へと進んでいくラピスの姿を見ていると、俺が現代人的に蟲に過敏になっているだけかもしれないと思ってしまうのだがこればっかりは性分だ。

 

不意打ちされたとしても余程の事がない限り凌げるはずだが、今はとてもそんな気持ちにはなれない。

 

巨大な蟲というのは、もう存在しているだけで俺の心にプレッシャーを与えてくるのである。別にトラウマとかを持っているわけではないのだが。

 

そうやってビクつきながら進んでいると、やがて縦穴の途中に壁面から突き出したそれなりの広さがある土のでっぱりに1匹の蜘蛛が陣取っているのが見えた。

 

馬ほどの胴体に、8本の足が生えておりそのいずれもが凶悪な爪を生やしている。頭部の巨大な顎は人間の上半身くらい容易に飲み込んでしまいそうなほどだ。

 

こうして見るとやはり生理的嫌悪感が強く湧いてくる。

 

そのうち接近戦を行わなければいけないのだが、今は遠距離から始末することにする。

 

問題の先送りという無かれ。徐々に慣れていけばいいのだ。

 

《スコーチング・レイ》の呪文は連中の知覚範囲に踏み込まなければ届かないので、エレミアと横に並んで弓を構える。

 

2人とも使っているのは使い勝手の良い"シルバー・ロングボウ"である。

 

蟲には付与されている『ホーリー』の効果は発動しないが、それを抜きにしても高い殺傷力を有しているのだ。

 

タイミングを合わせ、一呼吸の内に複数の矢を射掛けた。

 

狙い違わずその巨大な頭部に全ての矢が吸い込まれるように命中し、巨大な蜘蛛はやがて微かに痙攣したかと思うとひっくり返って動かなくなった。

 

一瞬擬態である可能性も脳裏を過ぎったが、今の十分な手応えからしてその可能性は無いだろう。

 

その屍骸に近寄ってみたが、八本の足それぞれが俺の胴体くらいの太さがあった。体を覆っている体毛自体が鉄のように固い。ファンタジーの大自然の恐ろしさを感じさせてくれる。

 

その後縦穴では特に遭遇も無く底までたどり着き、10メートルほどの高さの自然洞窟を進むことになった。

 

どうやらこちらが蜘蛛の本営に近いようだ。そこら中に蜘蛛の糸が張り巡らされており、哀れな犠牲者が白い繭に包まれるようにして天井から吊るされている。

 

火属性が付与されたシミターで糸を切り裂きながら進み、時折現れる巨大蜘蛛をメイの呪文の援護射撃を受けながら倒していくと滴る水音が岩に響く反響音が聞こえてきた。

 

 

「前方に水場があるみたいだな」

 

 

何体かの蜘蛛と切り結んでいる間になんとか迫り来る巨大蟲にも慣れる事が出来たようだ。周囲の状況にも冷静に対応できるようになってきた。

 

最初頭上から突然降ってきた蜘蛛に押しつぶされそうになった時には悲鳴を上げそうになってしまったが、逆に言えばあの経験がショック療法になったのかもしれない。

 

とはいえ長い間視界に映っていると気分が悪くなるのは確かで、今は間合いに収まるや否やシミターで斬りつけて焼き殺している次第だ。

 

強力な火属性が付与されたこの剣で切りつけられた敵は死体すら残さず焼き尽くされる。全く以って有難いことだ。

 

 

「フフッ、しかしトーリにも意外な弱点があったもんだね。

 

 子供じゃあるまいし、蜘蛛が怖いなんてさ」

 

 

横を歩いているラピスが楽しそうに笑いながら話しかけてくる。

 

 

「……俺の住んでたところじゃ、蜘蛛なんてのはいいとこ掌サイズまでだったんだ。

 

 どうもあの種の足が多くてデカイ蟲は苦手なんだよ」

 

 

蟲類の口ってのはどうしてああも凶悪に見えるのか。

 

 

「その気持ちは解かりますよ~

 

 私も蟲や、海の生物とかはちょっと苦手ですし」

 

 

メイがそんな発言をした辺りで、視界に水場が映った。

 

浅いが澄んだ水に覆われた水辺には3体の大型蜘蛛が身を伏せていたが、メイの《炎の爆発》を受けて追い立てられるようにこちらに向ってきたところをエレミアと並んで斬り伏せた。

 

 

「だが、もう随分慣れた様だな。

 

 我らもあの巨体に押さえつけられてしまっては厳しいところだが、今のトーリであればそうなる前に今のように斬り伏せられよう」

 

 

巨大クリーチャーの怖ろしいところは、その体格を活かした組み付き攻撃だ。やはり接近戦でものをいうのはウェイトなのである。

 

動物や蟲の類は、生来の狩りの手段としてその手法に長けているのがまた厄介なのだ。とはいえ、俺の場合はブーツの効果で押さえ込まれないというチート状態なのでその点は問題ないわけだが。

 

 

「ま、このあたりのサイズならまだ可愛らしいもんだよ。

 

 世の中には足の太さだけで巨人の胴体くらいある蜘蛛だっているんだ」

 

 

「そうだな。我々の村の近くにも家のように巨大な蜘蛛が縄張りを持っていた。

 

 その毒は象すら瞬く間に昏倒させるという話だ」

 

 

ラピスとフィアの遣り取りを聞いて、また少しゲンナリしてしまう。

 

確かにデータブロックには身の丈20メートルを越える蜘蛛も掲載されていたが、そんな怪獣相手に刃物片手に肉弾戦とかたとえレベルがカンストしていても遠慮したい。

 

とはいえ、確かにエレミアの言うとおりこんな無駄話をしながらでも対処できる程度には慣れてきたのは良いことだ。

 

所詮蟲ということもあって行動パターンは呆れるほど単調。不意打ちさえされなければ蹴散らすことは容易だ。

 

相手の大きさも、発見しやすいという点では有利に働いているといえる。視認範囲外の頭上から突然降ってくるなんてハプニングさえ無ければだが。

 

水場を越えて少し歩いたところで、今度は前方から派手な水音が聞こえてきた。どうやらこんな地下に滝でもあるようだ。

 

さらに深い地下へと誘う穴を降りたところ、前方に広がる空間には深い峡谷に架かる橋とその両側で天井から地底へと流れていく滝が見えた。

 

二日前の夜にルーの星詠みで見た光景だ。

 

ついに俺たちはスチームトンネルを抜け、地下に住まう『クローグン・ジョー族』の城塞に辿り着いたのだ。

 

 

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