ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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1-5.村の掃除

エレミアはどうやら心術をかけてきた相手の顔を見ていないらしい。

 

ここ数日の動きを見ていれば、森と波頭亭をつなぐ道を張っていればエレミアを見つけることは容易だろう。

 

おそらくどこかで身を隠した状態から《魅了》の呪文をエレミアに行使し、彼女の思考を誘導したんだろう。

 

《魅了》の呪文には強制力がなく、例えば自殺を命じることはできない。

 

だが今回のように疑惑の種を育て、猜疑心から争いを起こすことくらいは誘導次第でできるだろう。

 

呪文の影響下では、術者のことを親しい友人であるかのように錯覚してしまう。

 

おそらく、相談に乗るようなフリをして情報を聞き出し、都合のいいように話を持っていったのだろう。

 

上手くすれば同士討ち、殺し合いまでいかないかもしれないが仲を裂くことはできると踏んだのか。

 

回りくどい手段を使うだけあって、その辺りの手管はお手の物なのかもしれない。

 

だが、今のこの状況を逆手に取ることができるかもしれない。

 

エレミアには嫌な顔をされたが、当面仲違いしたフリをして相手の次の動きを見ることにした。

 

念のため、彼女には今回のような《魅了》効果を防ぐためのアイテムを貸しておく。

 

"フラグメント・オブ・シルヴァーフレイム"という名の美しい白い宝石であり、邪を打ち払う銀炎の力を秘めている。

 

悪に対する防御効果を付与し、悪からの精神操作や精神支配を遮断する《プロテクション・フロム・イビル/悪よりの保護》の永続効果を持つ。

 

宝石としての価値もあるため受け取るのを渋っていたエレミアだが、

 

「また呪文に惑わされて襲い掛かられたら困るよな~」と言うと拗ねた表情で引っ手繰っていった。

 

その後組み手に付き合って貰い、少しはこのスペックに慣れてきたように感じる。

 

これからは仲違いしたフリをする以上、次に組み手の相手をしてもらうのは当分先になる。

 

そんなわけで、エレミアには悪いが体力の限界まで相手をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

1-5.村の掃除

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、次の日の朝である。昨日一日を組み手に費やしたため、今日から相手の出方を探ることになる。

 

数日もすれば仲たがいした噂は村に広がるだろう。その際の相手の動きを逆手に取り、スパイを炙り出すのだ。

 

放っておいても相手はこちらを狙ってくるだろうから、その前にある程度の手を打っておく必要がある。

 

まずは朝食がてらシグモンドのところに顔を出してくるか。

 

 

 

 

「そうだな、暇だってんなら娘のカヤがヘイトンの墓所から唸り声が聞こえてくると言っていた。

 

 墓所のあたりに居るはずだから、話を聞いてみたらどうだ?

 

 娘の悩みを解決してくれたら何泊分かはサービスするぜ」

 

 

 

 

ということで村の西にある墓場に来た。そういえばこの世界は土葬なんだろうか。ゾンビとか多いし、きっとそうなんだろうな。

 

陰鬱な墓所の入り口には、面影にイングリッド夫人を感じさせる娘さんがいた。

 

普通なら墓所に立っている人に声なんかかけたくはないのであるが、まあ仕方ない。

 

 

「貴方がカヤさん?シグモンドから話を聞いてきたんだけれど」

 

 

彼女の話を要約するとこうだ。

 

"共同墓所の奥にあるヘイトン家の墓所(英雄の家系だけあって、特別扱いらしい)から嘆き声が聞こえる。

 

不気味ではあるが、村人は怖がって誰も様子を見に行こうとはしない。

 

彼女の愛するラース・ヘイトンは行方不明になっているが、ひょっとしたらこの墓所の嘆き声と何か関係があるのかもしれない。

 

どうかヘイトン家の墓所に何が起こっているのか確認してきてくれないか"

 

実際には夫人同様余計なエピソードやらラースに対する惚気話などが存分に散りばめられていたのであるが、

 

余りにも長いため今回は割愛させていただく。イングリッドさんといい、どうも話が長いのはバウアー家の女性の特徴なのかもしれないな。

 

アイーダちゃんにはそうはなって欲しくないものである。

 

彼女の願いを聞き入れて共同墓地に踏み入れると、奥に立派な作りのエントランスがあるのが見えた。

 

おそらくあれがヘイトン家の墓所なんだろう。

 

丘の斜面に入り口があり、おそらく丘を掘って巨大な墓所にしていると思われる。

 

なにせ初代ヘイトンはもう何百年も前の人物と聞く。それ以降の家長を全員埋葬してあるのだ、相当な広さだろう。

 

少しこれからの作業を考えて憂鬱になったが、気を取り直してヘイトンの墓所へと進んだ。

 

 

中は薄暗く、僅かに発光する苔の明かりが足元を照らしているがいかにも心細い。

 

ゲームでは気にならなかったが、やはり照明は必要だな。

 

今回は先日船で日用品と一緒に陽光棒を買っておいたのでこれを使用する。片手が塞がってしまうが、今は他に上手い手段を考え付かない。

 

そのうち別の手段を考えておかないと戦闘に支障が出るな、といくつかの方法を頭にリストアップしておく。

 

 

 

 

墓所に入ると、カヤが話していた奇妙で不気味な嘆き声が聞こえる。風の通り道があるのであればこんな音がするのかも知れない。

 

とはいえここは丘をくり抜いて作られた密室である。十中八九、この声の主がいることになる。

 

少し進んだところで前方に明かりを持った男が立っていて、こちらを確認すると制止の声を上げた。

 

 

「見ない顔だが何者だ?

 

 我々の誇り高い先祖の墓所を汚そうというのであれば容赦はしないぞ!」

 

 

「俺はカヤの依頼でこの墓所を調べにきた冒険者だ。そういうアンタこそなんでこんな場所に?」

 

 

男はジャコビー・ドレクセルハンドと名乗った。どうやら長い間放置されている間に、この中は巨大蜘蛛の巣になっていたらしい。

 

ジャコビーは蜘蛛が外に出て人を襲わないようにゲートを閉じ、その見張り番をしているとのことだが・・・。

 

 

(ぶっちゃけコイツがスパイだって事を俺は知ってるんだよな。おそらくここの中を村人が調べないようにしているんだろうが)

 

 

そう、このジャコビーこそが村のスパイの中心的人物なのであり、おそらく先日エレミアに《魅了》をかけた人物であろう。

 

だが、ここで奴を糾弾しても何の意味もない。

 

コイツが村に匿っている魚人どもを、正当な理由で捜索した結果見つけて処分していけば、焦ったこいつが何らかの動きを見せるはずだ。

 

それまでは猿芝居を続ける必要がある。

 

 

「ふん、蜘蛛程度に恐れをなしているようじゃこの村の連中の程度が知れるな。この嘆き声はその先祖様が悲しんでいるんじゃないのかい?

 

 いいからアンタはそこをどいてお家に帰りな。後は俺がやっておいてやる」

 

 

「・・・いいだろう。だが蜘蛛の糞みたいになってから俺に助けを求めても遅いぞ。

 

 泣き付くなら命があるうちにするんだな」

 

 

ジャコビーはレバーを操作し、ゲートを開放した。

 

これだけ挑発しておけば、エレミアじゃなくてこっちを狙ってくるのではないかという期待あっての口撃である。

 

 

 

 

 

その後、墓所の奥にて怪しげな儀式を行っていたサフアグンのプリースト達を退治した。

 

連中は葬られたヘイトンの遺体をアンデッドとして復活させ、教団の尖兵にしようという企みだったらしい。

 

すでに何体かの遺体がゾンビやスケルトンへと変成されており、彼らにも再びドルラーへ旅立ってもらった。

 

アンデッドたちは動きが鈍く相手にならなかったが、プリーストたちは組み手の成果を練習する相手として十分役に立ってくれた。

 

チート武器を使わずにロングソードを用いて、時折魔法を取り入れた攻撃を行ってくる相手と何合か切り結んだことはいい経験になったと思う。

 

昨日まではどうも被弾を恐れてか防御に偏ってしまい、その結果腰の引けた攻撃しか出来ていなかった。

 

だが組み手の結果、攻撃と防御のバランスを適切に配分することがある程度出来るようになったようだ。

 

とはいえ相手はクレリック、本格的な戦闘職ではない。攻撃は種族由来の腕力と、トライデントという長射程を活かした力押しである。

 

昨日までの自分も、熟練の戦士から見ればこんな隙だらけな攻撃しかできなかったのかもしれないと思うと正直ゲンナリする。

 

そういえば結局、昨日の組み手の間はエレミアはシミターを使っても俺に掠らせる事も出来なくて最後のほうはちょっと涙目だったなぁ。

 

それでいて俺の素手攻撃で気を失っては回復魔法で治療されて組み手再開、というエンドレスループだったのである。

 

「自分の仕出かしたことに比べればこれしきの事!」と言っていたので、この機会を逃せば当分無理だと思って甘えさせてもらい、長時間つき合わせてしまった。

 

やはりこの件が片付いたら労わってあげないと駄目だな。

 

 

 

 

墓所の出口に近づくと、そこにはすでにジャコビーの姿はなかった。

 

そのままカヤの下にいき、ジャコビーの事は伏せつつ事の顛末を報告した。

 

 

「そうでしたか。ラースはここには居なかったのですね・・・」

 

 

心配事は片付いたとはいえ、少し期待していたラースの手がかりも無くカヤは少し落ち込んでいるようだ。

 

 

「ああ。だが少なくともここで死んでいたわけじゃなかったんだ。きっとどこかで生きているさ。

 

 彼は村を守った英雄の子孫なんだろう?

 

 今もどこかで反撃の準備をしているのかもしれない」

 

 

そう、ラースはこの島のクエストを完了させるために欠かせない人物の一人だ。

 

まかり間違ってもこんなところで死なれていては困る。

 

 

「ありがとう。そうね、私が彼を信じないと。

 

 私は彼を直接助けてあげることは出来ないけれど、きっと貴方にはそれが出来るはず。

 

 お願いします、彼を手伝ってこの村を救ってください」

 

 

「まぁ任せておいてくれ。まずはこの村に入り込んでいる魚連中を叩き出して、その次には島からも叩き出してやるさ」

 

 

随分と景気のいい事を言ってしまった気もするが、彼女を元気付けられただろうから良しとしよう。

 

とりあえず今日は宿に戻って、プリーストたちから戦利品として獲得したアイテムの整理でもしようかな。

 

そう考えながら波頭亭への道を歩いていると、脇道のほうから声をかけられた。

 

 

「おい、そこのアンタ。ちょっとこっちに来てくれ!」

 

 

視線を返すと、建物の影から手招きしている中太りした中年親父が一人。このご時勢に立派な体格だなぁ。

 

・・・念のため周囲の気配を探ってみるが、とりあえずこの近辺には他に人の気配はない。待ち伏せとかの危険はなさそうだな。

 

 

「そんな物陰でどうしたんだ?

 

 話くらいなら聞いてあげるけど」

 

 

「危険なことを言うなよ。どこからカルティストの連中が見張ってるかもわからないってのに!

 

 とりあえずこっちだ、こっちの物陰に来てくれ」

 

 

おっさんはいかにも挙動不審な目つきで周囲をキョロキョロと見回しながら小声で会話しつつ手招きしている。

 

まぁ特に害はなさそうだし、ついていくとするかな。

 

 

「よし、よく来てくれた。アンタは話が分かりそうだ。さっき声をかけた奴ときたら、まったく耳にもかけやしなかったぜ。あの長い耳は飾りかってんだ!

 

 だがアンタは違う。アンタのその思いやりの心をもう少しこの村の連中のために使ってやってくれないか?」

 

 

どうやらエレミアにも声を掛けたらしい。今この村に彼女以外のエルフはいなかったはずだし。

 

だがどうやら彼女には相手にされなかったみたいだな。まぁあの挙動不審っぷりでは仕方がないとも思える。

 

 

「場合によるけどね。どんな助けが必要なんだ?」

 

 

まぁ今はこのおっさんの話を聞くとしよう。

 

 

 

「良くぞ聞いてくれた!

 

 ここから見える村の北側・・・あそこに倉庫があるのがわかるか?

 

 あそこの倉庫から、ある巻物を持ってきて欲しいんだ」

 

 

お、どうやらまたクエストのフラグが立っていたみたいだな。

 

 

「あそこの倉庫には、ラース・ヘイトンが自分の巻物をしまっている部屋がある。

 

 その巻物を取ってきて貰いたいんだ」

 

 

実はこのあたりの初期クエスト群は、このコルソス村のシナリオが採用された際に元々別の場所にあったクエストを改変して組み入れられたものなんだよな。

 

なのでクエストの中身自体はだいたいわかっているんだけど、細かい話の流れとかは読み飛ばしていたせいもあってあまり覚えていない。

 

二つ返事で了解してもいいんだけど、ここではゲームと違った流れであることも考えられる。色々と話を聞いておこう。

 

 

「なるほど。その巻物があればエラ野郎どもに目に物見せてやることができるってことなのか?」

 

 

そう聞くとおっさんは力強く頷いた。

 

 

「ああ、昔聞いたところによると、その巻物には将来このコルソスに訪れるであろう災厄のことについて記載されているらしい。

 

 それはおそらくあのドラゴンのことに違いない!」

 

 

「なんでそんな巻物があるのにいままで放っておいたんだ?

 

 自分で取りに行けばいいだろうに」

 

 

「なんていうか、その・・・実は長い間放置していた間に、繁殖してやがったんだ、ネズミや蜘蛛どもが。

 

 一回取りに行こうとしたんだが、倉庫で一斉に連中に襲い掛かられちまってな。それでアンタに助けを求めたってわけだ」

 

 

この世界の蜘蛛やらネズミは洒落にならないからなぁ。TRPGでもスウォームといって群れを成して襲ってくることがあるし、

 

ゲームでも高レベルなクエストで出てくる蜘蛛モンスターは、道中の雑魚的な位置づけにも関わらず、ラスボスより強いなんてこともあるくらいだし。

 

 

「わかった。それじゃあ普通の人には厳しいだろうしね。他に何か気をつけておくことはあるかい?」

 

 

「実は前倉庫に入ったときに、無我夢中で逃げ回ったせいでヘイトンの巻物の部屋の鍵をどこかに落っことしちまったんだ。

 

 だからその鍵も探してもらうことになる。

 

 あと、巻物が魚連中に奪われないよう、ヘイトンは防御シールドを張り巡らせたんだ。だが、賢いアンタならそいつもなんとかできるだろう。やってくれるか?」

 

 

「ま、乗りかかった船だからな。なんとかしてみせよう」

 

 

聞いた感じ、特に覚えていた内容との差異は無い。確かここにも潜んでいるサフアグンがいたはずだ。渡りに船というヤツだな。

 

 

「頼んだぞ。回収した巻物はシグモンドに渡してくれればいい」

 

 

指定された倉庫は波頭亭の隣だ。まぁ帰る前に一仕事していくとしますかね。

 

 

 

 

 

「うひぃ、気持ち悪い!」

 

倉庫に入った俺を待っていたのは、物凄い腐臭とホコリにカビ、そして蜘蛛に加えてなぜか動き回るネズミの死体だった。

 

 

「ここのネズミってアンデッドだっけ?ゲームじゃ適当に薙ぎ払っていたから細かい雑魚の名前なんて確認してなかったしなぁ」

 

 

倉庫に入って他人に見られる心配も無くなったところで、『視認』技能を強化するゴーグルを装備しておく。

 

他にも魔法の幻術効果を看破する効果とか色々な能力が付与されているんだが、とりあえず今のところは関係ないので説明は割愛。

 

強化された観察力で、この倉庫のどこかに転がっている「鍵」を見つけなきゃいけない。

 

ゲームだと奥の部屋のどこかに落ちているんだけど、二度手間をさけるためにも手前の部屋から捜索することにした。

 

時折足元を狙ってネズミが噛り付いてきたり、天井から蜘蛛がこちらを狙って落ちてきたりと邪魔が入るのを薙ぎ払いながら捜索することはや1時間。

 

ゲーム同様奥の部屋で、部屋の隅に転がっている金色の鍵を発見した。

 

 

(さて、ゲームではこの鍵を拾うと隠し扉の奥からサフアグンが攻撃して来るんだが)

 

 

おそらく、こういった人気の無い倉庫を中心にジャコビーは魚人たちを匿っているんだろう。

 

ひょっとしたらネズミがアンデッドになっていたのは、墓所と同じく自分たちの尖兵として利用するつもりだったのかもしれない。

 

《アニメイト・デッド/死体操り》の呪文は5Lvクレリックの使用できる呪文である。

 

先ほどの墓所では実際に5Lvクレリックが儀式を行っているのではなく、呪文の能力を記した『スクロール』を使用することで儀式を行っていた。

 

『スクロール』は基本的に使い捨てではあるが、より低レベルの術者でも呪文を発動できるようになるため広く活用されている。

 

この奥に隠れている術者もそういった類かもしれないが、万が一5Lvのクレリックが中にいるとするとエレミアでは分が悪い。

 

おそらく彼女はまだ3Lvだと思われるので、そのことを考えるとこのクエストは自分が受けていて良かったと思える。

 

相手が5Lvクレリックだと仮定すると、警戒すべきは《ビストウ・カース/呪詛》や《ブラインドネス/視覚剥奪》のようなバッドステータスを与える呪文だ。

 

どちらも効果を受けると援護の期待できない状態では致命的な呪文だ。

 

ゲーム中同様、そういった効果を解除する『ポーション』を持ってはいるが、それを取り出して飲むのは戦闘中では隙が大きすぎる。

 

《呪詛》については気合で呪文に抵抗するしかないが、《視覚剥奪》については耐性をつける装備がある。

 

念のため、その装備に付け替えて戦闘に望むとしよう。

 

 

 

隠し扉を操作してその奥に踏み込むと、狭い通路の向こう側でなにやら儀式を行っているサフアグンの姿があった。

 

隠し扉が開いたことでこちらに気づいたのか、儀式を中断された怒りで牙の並んだ口をこちらに開け威嚇してくる。

 

"ソード・オブ・シャドウ"で斬りかかればおそらく一撃で切り倒せるだろうが、残念ながら通路は狭くグレートソードを振り回せる広さが無い。

 

世界最高硬度を誇る『アダマンティン』製であり、おそらく世界最高の切れ味を誇るあの剣であれば通路ごと切り裂けるのかもしれないが・・・

 

それで通路が崩落してしまっては生き埋めにされてしまう。流石にそんなことになっては生き延びられない。

 

腰に刺しているロングソードも、突きに使用できなくはないが本来斬りつけるための武器であり、今の状況では使いにくい。

 

相手は相変わらずトライデントを構えており、今回もこのままでは相手に先手を譲ることになる。

 

そこでここはブレスレットに収まっている別のアイテムを試してみることにした。

 

意識下から呪文を充填された秘術の杖・・・『ワンド』を取り出し、離れた間合いから相手に向け振り下ろした!

 

 

「《スコーチング・レイ/灼熱の光線》!」

 

 

ワンドの先端が赤く輝き、そこから3本の火炎光線が相手に向かって突き進んだ!

 

一瞬前までトライデントを持つ魚人を有利にしていた細い通路が、今度はヤツの退路を塞ぐ枷となった。

 

この火炎光線は1本でも馬一頭を焼き殺すほどの殺傷能力を持つ。それを3本、しかも急所に打ち込まれた魚人は、悲鳴を上げるまもなく炭化して崩れ落ちた。

 

『ワンド』は『スクロール』同様呪文の効果を封じ込めたアイテムだが、巻物と異なり作成時に込められたチャージ回数が切れるまで繰り返し使用することが出来る。

 

その点は巻物と比較して便利ではあるのだが、反面低レベルの呪文しか『ワンド』には込めることができない。

 

だが、低レベルの呪文だとしても高位の術者が使用すれば十分な破壊力を持つ。「今のは余のメラだ」というヤツである。

 

今使用したワンドはそういった高位の術者が作成し、呪文を込めた『ワンド』なのである・・・ゲームでは店で普通に買っただけなので製作現場は知らないのだが。

 

ちなみに3本の光線を発射できる術者のレベルは11Lvであり、大都市でも一流クラスである。

 

未だにレベルが上がらず1Lvのままである身としては、自力でそこまでの呪文を使用できるようになるのは遥か先の事であろう。

 

 

 

 

魚を焼いた独特の匂いが立ち込める中、通路の奥を捜索すると一番奥に水溜りを発見した。

 

水底はかなり深そうであり、ひょっとしたら村の外に続いているのかもしれない。

 

聞いたところではこういった倉庫は遥か昔からサフアグンと戦っていたころからある建物を利用しているということだし、

 

村の外に抜ける非常通路がここにはあったのかもしれない。

 

それが時を経て浸水したことなどにより村からは失伝され、今回逆にサフアグンに利用されたというところか・・・。

 

幸いなことに、この通路を開くための隠し扉はこちら側からは操作できない。

 

どういう仕掛けか、かなり分厚い石造りの壁がスムーズに動いて倉庫とこの通路を遮断しているため、よほどの事がなければこちら側から攻め込まれることはないだろう。

 

だが、内通者がこの扉を開け放てば、一気にサフアグンたちがシグモンドたちのいる波頭亭に攻めかかることになる。

 

とりあえずはすぐには開閉できないような小細工をして、仕掛けについてはシグモンドに報告することにしよう。

 

 

 

 

 

 

巻物を囲んでいた防御シールドは簡単なパズル仕掛けで、すぐにシールドを解除することが出来た。

 

一応パズルのパネルを操作するのに、少し深めの穴に指を差し入れる必要があったのが一工夫されているところだろうか・・・。

 

指の間に水かきがある水棲生物には確かに骨の折れる作業なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

2クエスト分の戦利品と、巻物を持って波頭亭に戻る。

 

戦利品は連中が持っていた幾許かの宝石と、未使用で残されていた《死体操り》のスクロールである。

 

墓所の件と倉庫の件について報告し巻物を渡すが、それを開いたシグモンドは一見してこちらに突き出してきた。

 

 

「・・・共通語じゃない。読めん」

 

 

「いや、俺も共通語以外はサッパリなんだが・・・」

 

 

突き出されたスクロールを受け取りつつも、期待されても困るぜと返事をしておく。

 

日本語サーバの世界だからか?この世界は共通語が日本語なのである。

 

文字も日本語が使用されており、その点は非常に助かっているんだが・・・

 

 

「えーと、なんだこりゃ。アルファベットっぽいな。筆記体じゃ読みづらくて仕方がないが・・・英語か?」

 

 

ミミズののたくったような字ではあるが、昔中学時代に練習させられたアルファベットの筆記体に見れなくもない。

 

 

「大昔の英雄『ビオルン・ヘイトン』が書いたって言うのなら竜語かもしれんな。おまえさんは読めるのかい?」

 

 

確か昔竜が巨人に呪文を教えて、それがエルフから人間とかに広がったんだっけ?

 

さっき拾った『スクロール』も中身を調べてみれば英語なのかもしれないな。

 

 

「・・・字体が難解なんで時間はかかるだろうけど、読めなくはないと思う。これが竜語かどうかはわからないけどな」

 

 

「そうか。ラースのヤツがいない以上、それを読めるヤツは村にはいねぇ。

 

 他の冒険者連中をあたってみてもかまわんが、もし出来るのならそいつの解読をしてもらいたい」

 

 

確かに、他に何組かいる冒険者の中に竜語を習得しているヤツがいるかもしれないな。

 

でも、この手の巻物はゲーム中ではすぐに依頼主に引き渡すなどしてばかりで、実際に中に何が書かれているかは興味がある。

 

 

「了解。それじゃ引き受けよう」

 

 

最初しばらくは時間がかかるかもしれないが、慣れれば読み解くスピードは上がるはず。

 

英語自体は大学受験以来勉強していないので、分からない単語が出てきたらお手上げなんだが・・・まぁ前後の文脈で判断するしかないか。

 

しばらくは相手の出方を探るために待つ必要があったんだし、丁度良いのでしばらくは宿に引きこもってこのスクロールの解読作業を行うとしよう。

 

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