ゼンドリック漂流記   作:逃げ男

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1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)

「しかし、何故奴は村の中に逃げたのだ?

 

 多少の危険はあるが、あのバリケードを超えればそこはすぐにやつの望む敵地だろうに」

 

 

駆け足で追跡しながらエレミアが尋ねてきたので、おそらく古くからある抜け道のどれかを使って村の外に出るつもりなんだろうと答えておいた。

 

あの場でたとえ《フライ/飛行》のポーションを飲んだとしても、バリケードを超えるまでに何度か弓で射られる危険性は高い。

 

 

「なるほどな。それなら合点がいく。

 

 先ほどヤツの盾になった者達も、そうやって村の中に潜入していた連中なのかもしれないな」

 

 

ちなみにそいつらは通り抜け様にヴァラナー・ダブルシミターで斬り倒されている・・・なんかいつの間にかレベル上がってるのではなかろうか、このお嬢さん。

 

少し攻撃のキレが増しているような気がする、と伝えると

 

 

「フフフ、分かってもらえたか。

 

 先日の組み手では醜態を晒したのでな。次こそはトーリ殿に一撃当てて見せると、ここ数日鍛錬していたのだ!」

 

 

笑顔で怖いことを仰る!

 

装備で補正されていてHPが大幅に増えているとはいえ、あんなゴツい得物で貴方を斬りますよとかいわれると恐ろしいわ!

 

そんな遣り取りをしつつ、ジャコビーの痕跡を追って波頭亭に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンドリック漂流記

 

1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらここに逃げ込んだようだが・・・ここにもその通路が?」

 

 

おそらくね、といいながらもゲームのシナリオを回想する。

 

本来は裏切り者であると露見したジャコビーがシグモンドを殺そうとこの酒場に来るのを待ち伏せる、そんな展開だったのだが。

 

俺が介入したからか、この世界の流れがそうなっているのか、既にかなり違う展開である。

 

だが、ジャコビーの死地が此処である事には変わりはない。

 

酒場に入り、足跡を追って地下の貯蔵室へと足を向ける。

 

そして忘れ去られた仕掛けを操作し、貯蔵庫から伸びる秘密の通路へと踏み込んだ!

 

 

 

果たして何年間使われずにいたのか、その通路は本来の用途から外れ、今はサフアグンら邪教の輩の利用する、村へと破滅を運ぶ洞窟と化していた。

 

とはいえここに配置されていたのは大した実力のない人間のカルティストらだけ。

 

結論から言うと一切援護の必要もなくエレミアが敵を薙ぎ払い、ジャコビーのいるであろう通路の最奥まで辿り着いたのである。

 

 

 

大掛かりな仕掛け扉がスライドし、通路から広がったホールのような部屋に出た。

 

部屋の向こう半分は水没しており、おそらくは村の外へ通じているのであろう水路があると思われる。

 

どこか血の色を思わせる赤い輝きを放つ水面の前に、姿を晒したジャコビーがこちらに向いて立っていた。

 

 

「フン、忌々しい冒険者どもめ。だが残念だったな、もはや巻物は俺の手を離れた。

 

 今頃はサフアグンの司祭が悪魔を解き放つべく儀式を始めているだろう」

 

 

余裕たっぷりといった表情でこちらを見るジャコビー。

 

 

「一応聞いておこうか。なんでお前はサフアグンに味方するんだ?」

 

 

そう聞くとジャコビーは呆れたように答えを返した。

 

 

「俺は馬鹿ではない。サフアグンは改宗しない連中を全員殺すだろう、間違いない。

 

 そしてあの白竜に勝てるヤツがいるとも思えない。つまりあの村はもう御終いなんだよ。俺は自分の身を守っているだけだ」

 

 

「誇りを捨てて仲間を裏切りるような卑劣な行いが報われるなど有り得ぬ!

 

 お前には嫌気がさす!

 

 恩人に刃を向けさせた貴様の所業、このシミターできっちり贖って貰うぞ!」

 

 

エルフという種族はやはり同胞思いなんだろうか。同じ種族間で争いまくっている人間とは違って。

 

あーでも氏族で分裂したりもしているし、彼女がいい人柄をしているっていうだけかもしれないが。

 

 

「それで巻物を獲得したお前は高い地位を持って迎えられる、という寸法か。

 

 でも残念だったな、その願いは叶いそうもない」

 

 

今にも斬りかかりそうなエレミアを抑えて会話を続ける。

 

 

「ほほう、参考までにその理由を聞かせてもらおうか。

 

 まさかここで俺が敗れるとでも?

 

 この軍勢をみてもまだそう言えるのかな?」

 

 

ジャコビーが合図をすると、水面より4体の人影が現れた。

 

すべてサフアグンで、トライデントを装備している上に皮製と思わしき防具も身につけているようだ。

 

ただの雑魚ではなく、訓練を受けた精鋭ってところかな?中の一体は他の3体よりも頭一つ抜けて大型で、四本腕を晒している。

 

 

「まぁそれもあるが・・・・残念、お前が持っていった巻物は偽物さ、ジャコビー。

 

 中身を確認せずに得意になっていたお前の姿は滑稽だったぜ。

 

 あれは墓所の連中が使わずに残していた《死体操り》のスクロールだ、本物はシグモンドが持っている」

 

 

ニヤリ、と笑って仕掛けを教えてやる。

 

最後まで踊らされていたことに気づいたジャコビーは案の定、また怒り心頭といった顔でこちらを睨み付けてきた。

 

 

 

「ええい、馬鹿にしおって!

 

 ならばここでお前たちを倒して、上にいるシグモンド達を殺すまでよ!」

 

 

ジャコビーの指図を受け、サフアグン達がこちらに向けて進んでくる。

 

流石にここは多勢に無勢。エレミアにも複数体の敵を相手取ってもらう必要がある。

 

左手には陽光棒をもったままなため、右手にブレスレットから武器を取り出して装備。

 

その柄頭をエレミアに触れさせ武器に込められた魔法の効果を発動させると、彼女の戦士とは思えない色白で美しい肌を石膏のような薄い力場が覆い隠していく。

 

 

「連中の武器の勢いを削ぐ《ストーンスキン/石の皮膚》だ。すまないけどジャコビーとあと一匹を頼めるかな」

 

 

「心遣い痛み入る。それではあの大柄の魚人はトーリ殿にお任せする」

 

 

簡単な打ち合わせを済ませると、こちらに向かって突出してきたサフアグン達の両側に回るように散会した。

 

若干エレミアより間合いを詰める事で、中心にいる大柄なサフアグンの注意を引き付ける。

 

巨大な背丈に見合った長いリーチに加え、構えるトライデントも他の連中のものより遥かに大型。

 

5メートル以上離れている距離から、踏み込み一つで味方の頭上を通してこちらにトライデントを突き込んでくる。

 

間合いの内側に入り込んでも、残った手で構えている片手剣がこちらを狙ってくるであろう事は疑いない。

 

さらに連中は連携をとってこちらを攻め立てようとしてくる。

 

中型の敵2体のうち、1体は壁として立ちふさがり、もう1体は挟撃せんとこちらの背後を取ろうとする。

 

しかもその2体は手を出さずに援護に徹し、隊長格の攻撃のサポートに徹するのである。

 

並の戦士であればこの連携に成す術もなく敗れたのかもしれない。だがこちらは実力は凡庸でも、アイテムによるチート補正がある。

 

 

「ヘイ相棒!クセェ連中が回りこんできてるぞ、気をつけやがれ!」

 

 

武器を持った右手に嵌めた小さい指輪が、甲高い声で喋る。

 

この『チャッタリング・リング/お喋りな指輪』は、宝石のかわりに小さな機械仕掛けの口がついている奇妙な指輪である。

 

この口はどうやってか周囲の状況を判断しており、敵の攻撃への警告や実況をしてくれるという優れものなのだ。

 

かつて最高難易度と謳われたレイドのユニークであり、そのレイドを世界で始めてクリアしたのが本家米国のプレイヤーではなく日本サーバのプレイヤーだったことは過去のいい思い出の一つである。

 

とはいえ自分は早期に脱落してしまった組なので無論そんな栄光のプレイヤー達の一員ではないのだが。

 

 

「ハッハー、臭い上にトロクセェ連中だな!さっさと刺身にしちまいなよ!

 

 最も、こんな臭さじゃ豚のエサにもならねぇだろうけどな!」

 

 

しかしこの指輪、マナーはよろしくないようだ。あと、非常に煩く喋りまくるのでこれを使いながら隠密行動などは有り得ないと言っていい。

 

どうせならもっと無口でクール系な性格設定にしてくれればいいものを!

 

ともあれ、この効果のおかげで背後を取られたとしてもそれほど気を取られることはない。

 

相手が仕掛けるタイミングを報告してくれるため、正面の壁役とデカブツに集中することが出来る。

 

壁役の小兵はそれほど苦労なく切り倒せるだろうが、デカブツのほうはあのガタイに相応しい耐久力が備わってると思って良いだろう。

 

如何にこの剣がチート武器でも一撃では倒せそうもない。逃がさずに、何発か浴びせる機会が必要だ。

 

だが、万が一この大型の魚人に逃げられれば他の冒険者が遭遇したときに余計な被害を生むことになる。

 

それを防ぐためには、ここでこの魚人を確実に仕留めなければならない。

 

あの水場に逃げ込まれないように回り込む必要があるな。

 

しつこく背後を取ろうと回り込んでくる魚人から間合いをとるフリをしながら、デカブツを中心に円を描くようにしてホールの中央側に回りこむ。

 

エレミアのほうに視線をやると、ジャコビーの前衛を務めているサフアグンを始末しようとするが防御に徹している魚人を切り崩せずにいるようだ。

 

ジャコビーから時折援護のスリングショットや魔法が飛ぶのも、攻めあぐねる一因のようだ。

 

だがホール中央側に回り込んだこの位置からは、エレミアとジャコビーを挟撃できる位置でもある。

 

 

「背中ががら空きだぞ、ジャコビー!」

 

 

声を掛けながら距離を詰めるそぶりを見せると、慌ててデカブツの壁役をしていた小兵を自分の盾になるよう指示を出した。

 

だがその動きは無論フェイク。進路を変更して今度は全速で大型のサフアグンに肉薄する。

 

 

「おっと相棒、1フィート右に避けな!」

 

 

ジャコビーの壁にまわった小兵が横からちょっかいをかけてくるが、リングのアドバイスを信じて軽く右へ軌道を寄せるだけで後は一顧だにせず突き進む。

 

デカブツはトライデントとショートソードでこちらを迎撃しようと攻撃を加えるが、生憎攻撃のキレはエレミアに劣る。

 

その程度の2連撃であれば、彼女のシミターのほうが何倍も鋭かった。

 

ショートソードを突き出してきた右第二腕の外側に回りこみ、盾で防げない位置から満を持した一撃を繰り出す。

 

斬撃に特化された日本刀のような反りを持つ刃の先端部分を、遠心力を利用して切っ先から入り込むようにして相手の体に滑り込ませた。

 

相手の体を剣先が通り抜けた後、剣に付与された魔法効果が切断面で炸裂する。

 

悪を打ち払う善性のエネルギーが体内で荒れ狂い、それと同時に切断面から強酸の浸食が爆発的に広がり巨体の半身を焼き尽くした。

 

それでもなお巨体を揺らしながら倒れずにこちらに向かってくる根性はたいしたものだ。

 

しかし近距離の間合いを制していたショートソードは、その武器を構えていた腕の付け根から酸によって失われている。

 

トライデントを振るうには間合いは近すぎ、焼け付きそうな生存本能に従って噛み付きという攻撃手段を選択した魚人ではあったが、

 

それは死神に向かって頭を垂れるに等しい行為だった。

 

噛み付きに頭部が向かってきたことによって射程に収まった首に対し、再び斬撃を加える。

 

再び炸裂するエネルギーに晒され、跳ね飛ばされた首は落下することもなく空中に溶けて消えた。

 

あとは連携の基点となっていたデカブツを失った哀れな雑魚を処分するだけ。それには大した手間はかからなかった。

 

 

 

 

 

最後のサフアグンに止めを刺した直後、ホールにジャコビーの哀れな悲鳴が響いた。

 

目をやると、エレミアに袈裟懸けに斬られたジャコビーがホール向こうの水面に倒れていく姿が見えた。

 

 

「馬鹿な・・・俺が、こんな所で、終わる、わけが・・・・」

 

 

今自分の身に起こっていることが信じられない、というような表情のまま沈んでいくジャコビー。

 

だがあの傷は致命傷だろうし、この冷たい水の中ではサフアグンの助けが直に来たとしても助からないだろう。

 

エレミアも同意見なのか、残心を解いた。

 

 

「愚かな男だ。サフアグンにつけば命が助かると考えたのか」

 

 

確かに奴は自身の保身のために同胞たる村人の命を切り売りし、人身御供に差し出すことによって延命を図った。

 

その行為自体については明らかに悪であり、許されざるものだ。

 

だが、自分が奴の立場であったらどう行動しただろうか?

 

無力な状態で争いの只中に放り込まれ、生き延びるためには隣人を刺す事を余儀なくされる。そんな状況で善性を保てるか?

 

あるいはジャコビーはあの白竜を間近で見てしまったのかもしれない。

 

畏怖すべき存在であるドラゴンは、その存在だけで敵の心胆を寒からしめるという。

 

そこで心を折られ、抵抗する気力を失ってしまったのかもしれない。

 

そういった人間に甘い言葉をささやいて、あのカルトは村に魔の手を伸ばしたんじゃないだろうか。

 

本来であれば、村を率いて戦うべきラース・ヘイトンが行方不明というのも大きな陰を落とす一因だろう。

 

持久戦になればなるほど、こちらは磨耗して継戦能力を失っていく。

 

これ以上不幸な裏切り者を出さないためにも、早急に始末をつける必要があるな。

 

 

 

 

戻り道は例の隠し通路と同じく、村側からの操作でなければ開閉できない仕組みのゲートで通路を閉鎖しながら波頭亭に帰還した。

 

1Fの酒場には誰の姿もない。

 

まだ戦闘は続いているのかと思い、エレミアを伴ってバリケードに向かった。

 

 

 

 

バリケードに到着したが、最低限の見張りと射手しかいないようだ。

 

彼らに話を聞いたところ、攻め寄せてきた魚人を追い払った余勢をもって、例の"シー・デヴィル"が封印されている地下遺跡までを一挙に制圧すべく戦闘を続行しているらしい。

 

どうやらアスケルが張り切っているらしく、シグモンドもその勢いを止めずにアスケルに指揮を任せてフォローに回っているとの事。

 

確かにあの巻物の記述からして、一刻も早く封印装置をメンテナンスする必要があるだろう。

 

連戦ではあるが先ほどの戦闘ではチートアイテムの魔法効果を使用しただけでリソースはあまり消耗していない。

 

村の皆がやる気になっている今がいいチャンスでもあるし、便乗して地下遺跡に乗り込むこととしよう。

 

 

 

 

そう気合を入れて村の外に出たんだが、その結果はなんとも拍子抜けなものだった。

 

アスケル率いる突入部隊が地下遺跡に突入し、すでに最下層まで制圧してしまっていたのである。

 

俺とエレミアが遺跡に到着したときにはすでに通路の要所要所には歩哨が立ち並び、サフアグンの逆襲に備えて警戒をおこなっている状態であった。

 

そんな安全の確保された遺跡を通過して、奥地にて稼動を続ける古代巨人帝国の魔法装置を修復し、このクエストはあっけなく終わりを迎えたのである。

 

正直消化不良なところはある。だが、ここはゲームの中ではない。

 

自分で全てのクエストをこなす必要はないし、この村に生きている一人一人の住人が主役として活動している。

 

そんな事を感じさせられた長い夜が終わり、俺たちは遺跡の守護を一部の村人と冒険者達に任せて帰路についたのであった。

 

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