魔女の微笑み 作:カトレアの花言葉
物心ついた頃には、自分がいわゆる転生をしたのだと気がついた。そして、転生先が日本ではなく英国だということにも。更にいえば、前世では中年のオッサンで、冴えないサラリーマンだったのだが…なぜか女性として生まれた。マジかよ。
周囲が英語を喋っているのを無意識のうちに学習していたようで、おかげさまで前世では不得意だった英語がペラペラ(当たり前)になり、思わず心の中でガッツポーズしたのも良い思い出だ。ちなみに日本語も話せるので、地味にバイリンガルになってしまった。まぁ日本語を使う機会なんてなさそうだけど。
家族は父親と母親と歳の離れた兄と俺の4人家族で、イングランド南部の片田舎に住むごくごく普通の家庭だった…そう思っていた時期が俺にもあった。
なんと…俺の一家は魔法使いだったのだ。俺も含めて。
家の中で杖を使いながら生活する両親の姿を最初に見た時は本当に驚いた。そして一番驚いたのは、俺が4歳の時に、7つ上の兄貴がスコットランドにある学校で寮生活をするという話が出た時だ。その名前は…ホグワーツ魔法魔術学校。
俺、まさか『ハリー・ポッター』の世界に転生したのかよ…。しかも俺が生まれたのは1979年9月29日なので、主人公であるハリー・ポッターやその仲間達と同い年だ。なんてこった…。
いや、『ハリー・ポッター』の世界自体は前世でガキの頃に映画で観たし、子どもながらに「ホグワーツに行きたいなぁ」とも思っていたが、あの作品を最後まで観た人はみんなこう思うんじゃないかな。「結構登場人物が死んでない…?」と。
ハリー・ポッター達と時代がずれていたら、無茶苦茶行きたい素晴らしい学校だと思うが…。もちろん主人公であるハリー・ポッターやその仲間達は偉大で、勇敢で、気高いし、本当によくぞ闇の魔法使い達と戦ってくれたと思う。しかし、前世で安穏とした学校生活を送り、保身まみれだった私からすると、あまりにも激動過ぎるのだ。
うーん…ここは両親に他の学校に通えるように頼んでみるか?確かドラコ・マルフォイはスカンジナビア半島北部にあるダームストラング専門学校も選択肢の一つとしており、母親であるナルシッサ・マルフォイの希望でホグワーツ魔法魔術学校になったそうだし、俺もワンチャンいけそうか?
結論からいうと、ダメだった。
確かに言語面からダームストラング専門学校とボーバトン魔法アカデミー(フランス)が無理なのは納得したが、まさか同じ英語圏であるイルヴァーモーニー魔法魔術学校(アメリカ合衆国)もダメだったとは…。やはり英国とアイルランドの魔法使いや魔女がホグワーツ魔法魔術学校に入学するのは仕方ないか。
ちなみに、父親が無茶苦茶嫌がった。曰く、ブリテン島から絶対に俺を出したくないと。えぇ…(困惑)
こうなったら仕方ない。ホグワーツ魔法魔術学校に入学するのはやむを得ないとして、ホグワーツの4つの寮の中でもグリフィンドール寮とスリザリン寮への入寮は避けねばならない。
グリフィンドール寮は主人公達が入寮する寮で、「勇猛果敢」を掲げる紅き獅子寮。児童文学の主人公が入寮するだけあって、本当に活気があり、前世でも凄まじい人気があったが…ここに入寮すると、自動的にハリー・ポッター達と近くなり、ホグワーツの戦いにも参戦することになりそうなのが怖い。あと単純に寮内のノリが陽キャっぽいのにビビるのは偏見だろうか。
スリザリン寮はハリー・ポッターと敵対する人が入寮する傾向がある寮で、「俊敏狡猾」な緑の蛇寮。作中では良くない描写が比較的多いが、寮内の団結主義は目を見張るものがあり、あの偉大な魔法使いであるマーリンを輩出したのは特筆すべきだろう。とはいえ、団結主義と相互監視は紙一重で、伝統的で少々息苦しさを感じるのは前世の性質だろうか。
幸い、ホグワーツの寮は家族で比較的遺伝しやすい。ハリー・ポッターやロナルド・ウィーズリー、ドラコ・マルフォイも両親と同じ寮だったし。もちろんあくまでも傾向レベルであり、シリウス・ブラックやアルバス・セブルス・ポッターみたいに両親と寮が違う場合もある。
そして我がランドール家は両親がハッフルパフ寮で、7つ上の兄貴はレイブンクロー寮だった。ちなみにそこそこの純血一族ではあるが、聖28一族やポッター家ほどのガチガチの名門ではなく、ほどほどの家系らしい。強いて言えば、男は普通で女は美女が多いのが特徴か?
個人的には「賢明公正」ではないので、兄貴と同じレイブンクロー寮は難しいと思う。あそこの個人主義的で学者肌な気風は無茶苦茶憧れるが、「なりたいもの」と「なれるもの」は違う場合がそこそこあるからなぁ。あと寮の談話室に入る度にいちいち謎解きをするのは少々大変そう。
となると、両親も入寮したハッフルパフ寮か。「温厚柔和」な黄色き穴熊寮で、来るもの拒まずの精神なのは好ましい。あそこの温和な気風も好きなので、平穏無事に学校生活を送る為に是非とも入寮したい。あと何より闇の魔法使いをあんまり輩出していないのも素晴らしい。
まぁ大丈夫だろ。歴代ランドール家の約4割はハッフルパフ寮で、約3割はレイブンクロー寮らしいので、いけるいける。ちなみに約2割はスリザリン寮で、残りがグリフィンドール寮らしい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ホグワーツ入学を数年後に控えた名門や門閥家族の交流会…ですかお母様」
「そうよ、私の可愛いオリヴィア。マルフォイ家の方々やパーキンソン家の方々をはじめとした聖28一族や、それに連なる門閥家族のご子息やご息女で同学年ごとに交流会を毎年開催しているの。そして今回は1991年9月1日にホグワーツへ入学を予定する学年で開催することになったのよ」
母親であるソフィア・ランドールにそう言われたオリヴィア・ランドールは、自分の手を顎にあて考える仕草をしながら苦笑交じりに答えた。
「我が親愛なるランドール家は良くも悪くもそこそこクラスの名門で、聖28一族はおろか、そこに連なる門閥家族の方々にも及びはしないのはお母様もご承知のはず。つまりこれは…門閥家族の方々のヨイショ要員としての参加でもあるのですね?」
「もうオリヴィアったら、どうして時々そんな乱暴な言葉が出てくるのかしら…」
母親であるソフィアはため息をつきながらも否定はしなかった。それがランドール家の魔法界での立ち位置を示していた。
「見た目は本当に魔法族でもトップクラスに美しく、更に華麗さや気高さもあるのに、なんで時折妙に男の子っぽい言動をするのかしら…」
ソフィアがそう嘆くのも無理はない。娘のオリヴィア・ランドールは本当に美しく育っていった。…美少女というよりも美女のような容姿に。まだ10歳にも到達していないのに、既に「妖艶」の気配を徐々に醸し出しており、大人になったら良くも悪くも「悪女」になるのが目に見えている。それなのに言動や趣味は男っぽく、見た目とのギャップが激しかった。並の男の子ならコロッといきそうだ。
ちなみにソフィアはオリヴィアの趣味嗜好は彼女の息子でオリヴィアの7つ年上のジェームズ・ランドールの影響が原因だと睨んでいた。彼が夏休みや冬休み期間に帰省するたびに、まるで男兄弟のように遊んでいたからだ。
ジェームズ・ランドールは天才というよりも努力する秀才タイプで、典型的なレイブンクロー寮生だったが、3年時に魔法生物飼育学の合同授業で、グリフィンドール寮の同期であるチャーリー・ウィーズリーと知り合い、彼と友人になってからガラッと変わった。少年から青年になったのだ。言動も見た目も。
もちろん学業成績は申し分なく非常に優秀だったが、少々「腕白」になった。母親であるソフィアを最も驚かせたのは3年時のクリスマス休暇時に帰省した時だ。今まで両親をそれぞれ「父さん」「母さん」呼びだったのが、「親父」「お袋」呼びになったのだ。もっとも、夫であるセオドア・ランドールはむしろ喜んでいたが。
ちなみに兄に影響されてか、オリヴィアまで両親を「親父」「お袋」呼びしようとしたが、流石にそれはやめさせた。もっとも、夫であるセオドア・ランドールや息子のジェームズ・ランドールは全く気にしていなかった。むしろ2人揃ってオリヴィアにダダ甘だった。この前など2人で「オリヴィアにホグワーツで彼氏が出来たらどうする親父?」「そりゃもう闇祓いも真っ青な高等尋問よ」とアホみたいな会話を真剣な表情でしていた。
「それはさておき、これはほとんどスリザリン寮閨閥のパーティーになってしまいませんか?間違いなくウィーズリー家の方々やロングボトム家の方々は来られないでしょうし」
「そうとも限りません。アボット家の方々やマクミラン家の方々も来られますし、ハッフルパフ閨閥の門閥家族の方々もいらっしゃるでしょうし…」
ソフィアが若干苦し紛れに答えたが、少なくとも事実ではあった。もっとも基本的にこのような純血家系の社交界や交流会なんてオリヴィアが言うように、スリザリン寮閨閥の独壇場になる傾向があるのも事実である。
「まぁ分かりました。せいぜいご機嫌伺いと太鼓持ちに専念しますよ」
「もう……ありがとうね、可愛いオリヴィア」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
うっへぇ…ホグワーツ入学前の純血児童同士の交流会なんて、絶対に無茶苦茶だるいやん。ただでさえ英国魔法界の純血家系なんて面倒くさいのに、日本でいう小学校中学年辺りの交流だろ?ぜってぇロクなことにならないって。お互いのマウント合戦と子分候補の品定めだろ、常識的に考えて。
不幸中の幸いか、俺と同学年ってことはだいたい面子は予想出来るからまだマシか。ドラコ・マルフォイやセオドール・ノット、パンジー・パーキンソン、ダフネ・グリーングラスといったスリザリン系の聖28一族は当然として、ビンセント・クラッブやグレゴリー・ゴイルといったスリザリン系の純血門閥家族も参加するだろうな…どうみてもスリザリン閨閥の交流会です、本当にありがとうございました。
とはいえ、お袋が言うようにハッフルパフ閨閥の人達…ってかハンナ・アボットやアーニー・マクミランが来るのは本当に助かるわ…やはり偉大なりし、ハッフルパフ寮。マジで神寮だろ。
まぁ前世の中小企業のサラリーマンとして鍛え上げられた目上の人間に対するヨイショと太鼓持ちを発揮する時がきたと考えりゃいっか。マグルだろうが純血だろうが、人間褒められて悪い気になる奴はあんまいねぇし。
むしろあれやな、7つ上の兄貴以外に同世代の少年少女と交流する機会なんてほとんどなかったから、そっち方面で不安だな。前世は日本のオッサンだし、英国魔法界の純血少年少女と何を話せばいいんだ?クィディッチの話題か?でも前に家に遊びに来たウィーズリー家のチャーリーがジェームズ兄貴とクィディッチの話題で殴り合い寸前までいった時があったからなぁ。まぁその後にドラゴンと下ネタの話題で直ぐに仲直りしてゲラゲラ笑い合ってたけど。
あと話題以外だと、地味に聖28一族だと女子メンバーが多そうで、聖28一族に準ずる門閥家族も女がやや多いイメージがあるのが怖いな。これお互いのマウント合戦で済めばよいけど、基本的にお山の大将気質なスリザリン系純血ご息女連中の手綱は誰が握るんだ?マルフォイ坊ちゃんか?
まぁそこは俺が気にすることじゃないか。せいぜい無駄に育ったこの身体と美貌でヨイショするぜ!ガハハハ!……本当になんでこんなに美人…というか悪女系美女(美少女ではなく美女)になりつつあるんだ?身長も急成長してるし、本当にホグワーツ入学前なのか、俺の身体??
注意点:1980年代の古き保守的な家庭なので、母親であるソフィアがジェンダー的に不適切な表現をしておりますが、そこは時代背景的にご容赦ください。
オリヴィア・ランドール Olivia Randall
家系:一応純血だが、そこまで名門でもない
原作知識:うろ覚えだがあり。
兄貴:レイブンクロー所属で、チャーリー・ウィーズリーと同期