ーー銀狼隊戦闘部・一年
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ーー銀狼隊戦闘部・二年
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ーー銀狼隊支援部
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ーー銀狼隊幹部
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仮隊員証。
真代のと見比べて、戦闘部や支援部は分かれているのだと知った。技術部や医療部もそうだろう。
戦闘部の仮隊員は任務に正式隊員の同行は必須で、金時君曰く武装にも大幅な制限――といっても、通常の法律通りの制限が掛かる。
もどかしさを感じていた。
高校生活の合間合間に訓練を挟んで、たまに鳴島先輩達に見てもらったり。
培うだけの時間。それは、今までと何も変わらない。卒業までもう三年無いのに、まだ何も変われていない。
物憂げに考える放課後。四月の終わりも見えてきた頃。
桜は散って、緑は温気を纏い始める。
今日は特に暑く、一足飛びで初夏に来たような気持ち悪さがあった。
委員会があると言った房嶋君、辻君に別れを告げ、いつもの三人で銀狼隊本部に向かう最中、仙慈君もくっついて、昇降口を出たところ。
こうして合流してくるのにも慣れてしまったけど、未だに胸はザワめきを覚えている。『負けているとは思わない』だったか。半月経ってもその真意はよく分からない。表面上はなんてこともなく付き合ってるけど、彼の瞳が脳裏に過ぎる度、言葉が詰まった。
いっそ誰かがはっきりと、優劣を決めてくれればいいのに。なんて。
銀狼隊本部には模擬戦の設備があるけれど、誘うのは気が引けた。仙慈君が言い出さないのだって、その勝敗に意味はないと分かってるからだ。
《月面の麗人》を倒したい。
《強欲の吸血鬼》を知りたい。
もっと多くの人を助けたい。
強くなりたい。
その中にまた一つ、彼――仙慈寿人を負かしたいと、胸に焔が植え付けられているようだった。
変わらないことへの憂い、雌雄を決することへの鋭気。対極のものが混ざり合ったように判然としない心持ちが、春らしからぬ半端な今日と同期している。
靴を履いた頃、真代が携帯を取り出したかと思えば、無言で私達に突きつけてくる。
「遂に、か」
自分の声だと分からなかった程、自然に、冷たく零れていた。
それから一週間が経った。
五月五日、こどもの日。ゴールデンウィークの半ば。私は――私達は銀狼隊本部へ集められていた。
地下一階の訓練室はエレベーターを降りてすぐに、休憩スペースがある。壁沿いに自動販売機があって、普段は並べられた椅子とテーブルで色んな人がくつろいでるのを見る。
何十脚かある椅子はたったの九個になっていて、並べられたテーブルは二つ。テーブルは繋げて並べられて、一つの大きなテーブルになっていた。
四脚と五脚が向かい合わせに、長方形の机の長い側面を埋める。隣で「ごーこん……!」と呟く甘い声が聞こえた。
既に五席分埋まっていて、その中には金時君や仙慈君もいた。他の三人は、別のクラスにいることは知ってるけど、関わったことはない。
エレベーターの音で一斉に注目を集めるけど、すぐに視線は散らばってく。
二席開いたスペースがあって、私は小声で促す。
「あそこ行こっか、
「うん」
テーブルには何も置かれていない。みんな自由に座っているのだろう。
そして、座ってない人もいる。彼らは柱にもたれ掛かるようにして、私達一年に身体を向けていた。
黒髪の雄健な少年と、白銀の髪をした端然とした少女。金時君と仲の良い剣士、虎郷先輩と、木塚街で私達の増援に来てくれた夜桜先輩だ。
軽く会釈すると、二人も黙して頷いてくれる。
二人が佇む柱の横にはホワイトボードがある。小森さんと隣り合って座りながら、やや大雑把に書かれた黒い文字を見た。
『本入隊試験 戦闘部 10:00~』
今は五分前。小森さんと女子寮で待ち合わせしていたら、思ったよりも時間が経っていて少し焦った。彼女自体がマイペースなところもありつつ、大きな要因としてはもう一つ。彼女は狼の獣人であるからして、ふわふわとした桃毛の姿はブラッシングにさぞかし時間が掛かるのだろう。果てしなく同情を覚えた。
真代とは会っていない。彼女は明日に控えた支援部の本入隊試験に向け、勉強をしている。きっとそのはずだから。
無意識に吸い寄せられたか、仙慈君と目が合うれけど、やたらと静まった空間では流石に声を出さない。対角に座る彼は名残惜しそうに前へ向き直る。
私は別に名残惜しくはないけれど。
こういう時こそ空気の読まない発言じゃないの、とか。ちょっと思う。
もう一人、黒髪に白いインナーカラーの入った少年がエレベーターからやってくる。一斉に見られて竦んだ彼は、おずおずと席に座った。
五分なんてあっという間で、虎郷先輩が腕時計を見つめるなり「時間だな」と呟く。
九席あって、元々五席埋まってて、私達で七席。それから一人来て……ふむ。
「お、なんだぁ?」
訓練室の方からやってきたのは三人の少年だった。
中央に彼岸崎先輩。空色の目をした眼鏡の銀狼隊幹部、現状において最も強いとされる人。声をあげたのも彼で、いつもよりも悪い目付きで私達を見た。
今日は以前に見た羽織姿ではなく、黒いシャツに黒いズボンの影じみた風貌だ。
彼岸崎先輩の左手側には茶髪の人。頭にゴーグルを付けていて、目は桃色。横に居る二人の背丈が高くて、平均的なのか低いのか分からない身長をしている。愉しげな表情を浮かべて、半歩後ろを歩いていた。
右手側には黄髪の長身。こっちは愉しげというよりハツラツというか、見るからに張り切っている。鳴島先輩だ。
この場にいる五人の先輩のうち、四人は関わり合いのある人で結構安心した。
彼岸崎先輩は欠伸を隠しもせずにホワイトボードの前へ歩く。
「一人いねぇじゃん。はい減点~」
予定通りとかじゃない。やっぱり一人来ていない。
まぁ私の知るところではないけれど。
鳴島先輩と茶髪の先輩は、元々いた二年生の横に並ぶ形で合流した。鳴島先輩と目が合うと、にぱーっと笑ってくる。嬉しそうだなぁ。
「ん? まぁ真面目に行くぞ」
跳ね返るように視線が離れゆく先輩と私。
少し恥ずかしい。
「これから仮入隊したお前らをテストします。一応自己紹介すっと、
とことんまで平坦な音で、彼は言った。やけに眠そうだと思ったら……。
八人に妙な緊張が走るのを横目に、虎郷先輩が眉間を抑えている。
溜め息を挟んで、彼は続けた。
「今までのお前らは仮入隊なんで、基本色んな制約とかがありましたー……。んでその分結構緩かったりもした。今回のテストはそんなお前らを試して、正式な隊員にするかしないかっていうテストです」
値踏みするような眼でも、発言の本気さは伺えた。
願ってもない好機だ。ここを逃す理由はない。
開いた彼岸崎先輩の口を、間の抜けたエレベーターの到着音が塞いだ。
「遅れて申し訳ない」
現れたのはやたらと髪の長い、黄緑色の髪の人だった。その背は長身で、スラりとしたシルエットをなぞる長髪はふくらはぎまで伸びている。
余裕を携えたその人の声は、聞いただけだと女性とも男性ともとれる、妙な美声だった。
「遅えぞ。ホントに。朽羽なら一発アウトだからな」
「ですが私ならセーフになる。素晴らしき」
「俺だからだよバカ」
「うん?」
とてもごく自然に、中性的な人は椅子に座った。厚いというか図太いというか。
すれ違った時にやたらと花の匂いが香ったのも、妙に気に食わない。遅れたせいで、結構印象が悪いもんだ。
「あー、んじゃ仮入隊と本入隊の違いを伝えて、試験内容の説明……だっけ?」
「はい」
確認を取られた虎郷先輩は淀みなく頷く。
途切れた集中を入れ直して、幹部の言葉に傾聴した。
「まぁ今から、何? 中学に入ったばっかの時に聞くようなこと言うけどよ。本入隊を経て隊員証を貰うってのは自由が増えて責任が増す、具体的には一人で任される任務もあるし、使えるもんも多くなる。使えるもんの中には――真剣、銃火器、エトセトラ。人を傷付ける為の武器が持てるようになる」
視界の端で軽く頷いたのは金時君だった。
ただ話を聞いているだけだよね。真剣がモチベーションでは……ない、よね。
「まぁ悪用する気の奴はー、俺ら銀狼隊以前に学長からボコボコにされるから、そのつもりでな。これが責任が増えるってこと。後は隊員証を持つ心構えの話しとくか。合格でも不合格でも、心に打ち据えるのは変わらねえんだからな」
先輩はそこで話を区切る。
それから、所々間延びしていた雰囲気がガラッと変わる。
「俺達銀狼隊は、人命を絶対の一番として考える。全てにおいて優先しろ。どんな種族もどんな能力者も、殺すことが目的じゃねえ。いつ何時でも俺達が戦う目的は守る為だ」
命と聞いて、思い出すものがあった。木塚街での戦いの前に仙慈君が言った事だ。
銀狼隊は、現場の判断で殺害の許可が下っている。
幹部がそれを知らないはずもあるまい。それを踏まえての彼岸崎先輩の発言に、息を呑む。
「――これは先代隊長の方針だ。そして守るべき志と思ってるからこそ、俺はこうして引き継いでいる。支援部管轄の朽羽も、医療部管轄の
力強く、ただただ光を蓄えた瞳が、かつての軌跡を思わせた。
理想を追い掛けた先代隊長の軌跡を。
浸る余韻はここになく、先輩は咳払いをした。
「本入隊にあたる心構えの話はこれが最後だ」
先輩はおもむろに、胸に拳を当てた。
拳と言っても軽く掌を緩めて、親指側の側面を押し当てている。
即ち〈心剣〉。心を具現化する刀が、此度は銀色に輝いて私達の前に姿を現す。
切先は正面へ、それは海図を指し示す海賊のように、威風堂々と皆へ向けられた。
「俺達は皆、命を懸けて戦う。……以上。心構え終わり」
先輩が手を広げると、心剣は銀色の粒子となって消滅する。
張り詰めた静寂を破ったのは、鈴の音のように淑やかな芯を思わせる声だった。夜桜先輩が、やや瞼を落としてジト目がちに言う。
「脅し過ぎです。先輩」
「マジ?」
「ッスよ。夜桜チャンの言う通り。可哀想じゃないスか試験前なのに」
「まぁ大事とは思うっすけどね」
「その辺にしとけ。支援部の人達が待機してるんだ。早く合流しないと申し訳ない。ですよね、彼岸崎先輩」
「おー……虎郷お前、呼んでよかったわホント」
二年生の総突っ込み(矛先自由形)で、死んでいた一年生の空気がかろうじて息を吹き返した気がする。
でも、彼岸崎先輩の言うことは全うだ。この上なく正しい。
戦う以上死ぬかもしれない。
当然のことを、先輩は言っただけだ。
私の前に座る小森さんが、微かに震えている気がする。ふんわりとした彼女にも、武者震いがあるのだと少し驚いた。
「んじゃ試験について話すぞ。質問は最後に受け付ける。
今からやって休憩挟んで夕方まで、まぁ午後六時に終われば御の字だ。全部実技な。
まず初めは『防衛迎撃戦』」
矛盾した単語が一息に詰め込まれた。
語尾に戦と付けられると、それだけで奮い立つような気がする。もしかしたら今、口角が上がっているかもしれない。
「お前ら九人を、三人一組にする。作ったスリーマンセルで、ここに居る奴ら……戦闘部の二年一人を相手してもらう」
三体一? もしも本気だとしても、少しこっちが簡単すぎるような気もする。
「終了条件は五つ。
一つ、担当の二年を倒す。
二つ、時間制限まで『防衛』しきる。
三つ、二人以上倒される。
四つ、『防衛』に失敗する。
五つ、降参する」
ふむ。試験の成否で考えるなら、倒すか防衛しきるかが勝利条件。その他三つが敗北条件と考えるのが妥当そうだ。
ここで重要なのは防衛するものと、時間制限か。立ち回りに大きく影響する。
「『防衛迎撃戦』の詳しい内容は担当の二年がこの後詳しく説明する。これから試験になるが、質問がある奴はいるか? いねえなら組み分け出すぞ」
仙慈君がすぐさま手をあげた。手の動きは静かで、凪いでいた。
先を越された気分になって、このうちに私も問うべきものを考える。
「もしも防衛に失敗したり、やられた場合でも試験は続行するということでしたら、いったい何を基準に僕らは本入隊を迎えることになるのでしょうか」
「……朽羽の入れ知恵か?」
「? いえ。……明確にしない意図が存在すれば、この質問は引き取りますが」
訝しむ彼岸崎先輩に、彼は一瞬たじろいだ。それでも臆さず端的に答えて、先輩は軽く頷いた。
何かがザワつく。
「そうか。いや、言われたら言うつもりだった。何を基準に本入隊に……だったな」
先輩は首に手を当てて少し考えた後、言う。
「今の時点から既に始まってんだよ。銀狼隊に相応しいかどうか。そしてその相応しさを、幾つもの試験でこれから測る。たった一つクリア出来ないだけで落とすのは勿体ない奴もいれば、どれだけ成績が良くても本入隊させるわけにいかねえ奴もいるからな」
「得点式のようなもの、ですか」
「いやちょいと違う。明確な点数のやり取りはないから、点数稼ぎとかは考えんなよ。その時その時の最善を尽くせ、でも――」
先輩の空色の瞳が、冷ややかに細められる。長く伸びた前髪を縫って放たれた眼光の先は、美声を持つ長髪の人。
つい目で追ってしまうが、矛先が向けられたとは思っていないように沈着だ。
「
「素晴らしき正論です」
「……ったく」
三人一組の組み分けはランダム。ともすれば、彼ないし彼女とは組まされたくないものだ。仙慈君とは似て非なるマイペースさを感じる。
本気でやれないような人とは、組みたくない。
「仙慈、満足か?」
「えぇ。不肖仙慈寿人、いついかなる時でも尽力しましょう」
……臆してる? いやいつも通りかなぁ。
まぁ彼の具合は置いといて。
採点基準は明確、銀狼隊の思想に則っているかどうかと考えていいだろう。
「他に聞きたい奴」
興味本位みたいなところはあるが、ずっと黙っているのは仙慈君に後れを取ったような気がして落ち着かない。
私も音を立てないように手をあげる。視界に入れた先輩が軽く顎で促したのを見て、私は採点についての疑問を話した。
「相応しさを判断するのは彼岸崎先輩や、そこにいる二年生の人だけなんですか? それにしては、数が少ないような」
「あー、そういうな」
ひとまず質問が折られることはないみたい。少し安心して話を聞く。
「別室で支援部の奴らと……いや。うん。支援部の奴らが見てる、俺ら以外にもちゃんと確認すっから、手抜くのは意味ねえぞ」
なんか明らかに言い淀んだ。支援部以外に誰が居るんだろう、ゲストがいる? いや、考えても仕方ない、情報を与えても仕方ないから先輩は言葉を切ったのだろうか。
不承不承、私は会釈で応える。
「他には。……いねえな。まぁ何かあったら二年に言え、俺は別室でお前らのこと観てるから」
最後に、と力を入れてメリハリをつける。
静かに息を研いで、いよいよ始まりを迎えようとしている試験に身構えた。
「どの試験も死ぬ気でやれ。俺達戦闘部は――命懸けだ」
静まる空間。
思わず彷徨わせた視界で、二年生同士で視線を送り合ってるのを目撃してしまう。
いや。分かってる、真剣だ。真剣なのだけど。
「……さっきも言ってたっすよ」
言った……鳴島先輩言った。やっぱりそうだ。大事だから二回言ったんだろうな。でもよく発言出来たなぁ鳴島先輩。
「あれそうだっけ」
「っす」
軽い。
メリハリというより、ここまで来たら温度差だ。小森さん辺りを少し可哀想に思う。
「あと合格しても剥奪することあるから気緩めるなよ。じゃ、あと頼んだ」
あと――の時点でホワイトボードの前から去り始めていた先輩は、道すがらに虎郷先輩の肩を叩いて廊下を歩いて往く。エレベーターを使わないから同じ階のどこかだろうけど、考えても仕方ない。
剥奪って、そんな気軽に言うことだっけな。
恐らくは過半数が呆気に取られて、とんだキラーパスを貰った虎郷先輩は、眉間を抑えた後に軽く前に出た。
「進行を引き継ぐことになった二年生の虎郷だ。既に顔を合わせている人もいると思うが、今回の試験内容に忖度はない、あくまでも今日の事で決まることを念頭に置いてくれ。じゃあ早速だが、組み分けを言っていく。名前を呼ばれたら担当の二年についてってくれ」
うだるように言葉を連ねる徹夜明け崎先輩と違ってハキハキと進めていく。
あの人の悪口を言いたいわけじゃないけど、慣れないと妙な圧がやや怖いのだ。
「Aチーム。仙慈」
「っはい!」
裏返った声の直後に、彼は勢いよく立ち上がる。
早速呼ばれたことへの感情よりも一旦、こっちまで恥ずかしくなるような返事に気を取られる。
「
「ぅす……」
黒髪に白いインナーカラーを写した少年、時間ギリギリに来た人だ。
消え入りそうな声で立ち上がると、アイコンタクトを所望した仙慈君の目線から露骨に逃げていく。
三人目。
心臓が重く脈打つ。今はそれだけを意識した。それだけしか、意識出来なかった。
「――
「俺な! こっちこっち」
柱の傍に居た茶髪の少年が、手をあげて先導していく。霞ヶ浦と呼ばれた少女は間延びした返事をして立ち上がり、既に動いていた二人に小走りで並んだ。
ふと、手汗の滲み方に気付く。
選ばれたかったのか、断固として拒みたかったのかは分からない。今それを知るには、時間が足りない。
「Bチーム。小森」
「ひゃい……っ」
こっちまで緊張してくる声。
目の前で慌ただしく立ち上がる小森さんの、ふかふかな尻尾に叩かれる。芯がハッキリとあるようで、結構衝撃があった。
「椛野」
「――はい」
すんなりと呼ばれて、今までのごちゃごちゃした思考から一気に醒めた気分だった。
力を見せる。私が考えるのは、その為の手段。
確かめるように慎重に立ち上がって、小さく小森さんに「よろしくね」と呟く。
三人組のうち、一人が知り合いなのは幸運だ。
これでもう一人が金時君なら言うことはない。そうでなくても、あの遅刻してきた人じゃなければ誰でも構いやしないが。
「土内」
「六番目っ。苦々しき順番……」
……黄緑色の長髪、麗しい中性的な声。類を見ないマイペース。
四分の一を、見事に引き当てたようだ。
小森さんに言ったように、私はよろしくと言えるだろうか。果たして。
「以上三名はそこの女子、夜桜に」
「こちらです」
慎ましく右手をあげた夜桜先輩。室内だが、紳士的な黒い中折れ帽を被っている。
試験官が私の知ってる人で良かった。夜桜先輩でも鳴島先輩でも、なんだか安心する。
私達三人が合流するのを待って、先輩は歩き出した。後ろでは残る三人に話す虎郷先輩の声が聞こえる。
「あとはCチーム。そこの鳴島について行ってくれ」
金時君は鳴島先輩が相手か。心配している余裕はないけど、健闘を祈ろう。
無機質な白い廊下を突き進む先輩、後を追う私達。土内さんにどう声を掛けたものか、前だけを見て考えていると、夜桜先輩が話し出す。
「ふぅ……試験の説明をしますね」
眠気を払うエナジードリンクの空き瓶をゴミ箱へ叩きつけるように放ると、彼岸崎は抵抗感の無い引き戸を開ける。
銀狼隊本部にはしばしば階層をぶち抜いた部屋があり、彼が入った部屋も一階と地下一階を贅沢に使った高い天井の部屋だった。
二部屋分の長い壁一面に、気が遠くなるほどびっしりと詰め込まれた本の棚。入る度、彼は気圧される。
入って右手には、保健室のベッドを囲うような白いカーテンがスペースを隠すように広がっている。意識的に感心を持たぬよう、彼岸崎は左手側へ歩みを進めた。
部屋は吹き抜けとなっており、地下一階から入った彼岸崎は、一階の床に高さを合わせた足場へ歩みを進める。壁や床、手すりや照明に至るまで清潔感の漂う白色。最早目に眩しい部屋に、溜め息を吐きながら階段を上る。
その先には、白いソファに二人、横に備えられた椅子に一人、合計三人の生徒がいた。
同じ方向を見上げるようにしていた三人は、足音に視線をやる。
「おー、まだ始まってねえよな」
「あぁ、もうすぐだよ」
彼岸崎の気怠い声に応えたのは椅子に座る少年。灰色の三つ編みを一つ垂らし、赤と青の混ざる虹彩を持つ――支援部管轄、朽羽
普段と変わらない、余裕そうな声に眉をしかめる。
「お前寝た? 俺差し置いて」
「二徹だけど。言わせるなよ」
黒いまなこで笑う朽羽。
普段と変わらないとはつまり、普段から無理していたのだったか。嘆息しつつ、朽羽と反対側の椅子に腰を掛けた。
「ボクの部屋だぞ。せめて断ってから入れ」
「邪魔しゃすしゃす」
「ああ、もう。なんだってここなんだ」
ソファに座る少女の一人が、咎めるように瞼を落とす。小言に慣れている彼岸崎は意に介さずで、その態度が一層少女の腹を滾らせる。
肩に掛かるか掛からないか、微妙な長さの瑠璃色の髪を適当に結んでまとめた少女。同年代の鳴島が言うに『アクが強く、気が強く、慣れるまでは困りもの』な彼女は、医療部管轄、依折
この部屋は医務室と隣接した、歴代の医療部管轄が管理してきた部屋である。壁沿いの本棚は然るに歴代の叡智であり、今も尚伸び代を残した二年生幹部。
「この時期に纏めて試験をしようって言った朽羽も大概だけど……どうにかする辺り、先輩も大概よね」
「ヤメテ先輩とか。褒めるならイジんないでくんない?」
「そんなつもり……まぁ、そう言うなら改めるわよ」
絹糸のようにサラついた白いポニーテールを揺らした、深い青色の瞳を持つ少女。技術部管轄の不知火
彼女とて、留年の危機に苛まれたことは一度や二度じゃないのだ。
そんなことはいざ知らず、ひとりでに展開されたモニターが座るそれぞれの目線の先よりやや上に固定化された。モニターは大画面が三つと、枝分かれするように伸びたアームの先に小型のモニターが複数。
大画面に映し出されたのは緑茂る大自然、閑静な住宅地、夜更けのコンテナターミナル。人はまだ何処にも映されていない。
総勢四名――銀狼隊幹部が一室に集った理由。即ち。
「お前ら誰期待してる?」
「まぁ、仙慈君かな。鴻上君も悪くないよ」
「私はまだ技術部以外の一年の事知らないのよね……」
「ボクも朱輝と同じく。興味がないとまでは言わないけどさ」
「俺は金時」
映画を観るかのような彼岸崎に、聞いてないと依折が一蹴。
いつもの事と呵々笑って流す彼岸崎が、ふと笑みの種類を変える。どちらかと言えば享楽に寄っていた顔が、慈しむような、ささやかで温かい笑みへと。
「後は、ま。三人だな。虎郷鳴島夜桜」
「『期待』もいいけど、あくまで試験だ。一年だけじゃなく――彼ら二年生もね」
試験官と称された三人。彼らもまた採点対象である。
一年のアドバンテージを手に、未来の精鋭となり得る三人を相手取るのだから。
採点そのものを採点されるのは、試験官だけに留まらない。
同時刻。
銀狼隊本部三階。作戦室。
依折の部屋ほどハイテクノロジーでは無いにしろ、沢山のモニターが置かれた部屋には、十数人が座って気を張っていた。その絵面は学校のコンピューター室を思わせる。
部屋の隅にある椅子で、足と腕を組むのは二年の銀狼隊支援部。
紅色の髪が気丈な彼女の強気なプレッシャーを促進する。
「アンタ達が戦う皆を見てどう思うか、あたし達が採点するから」
一人二枚用意されたモニターには、人影が現れ始める。三人一組の少年少女と、孤立した一人の少年や少女の姿が。
十数人の中の一人、真代坂仁子はその大きく紅い瞳を冷然と向ける。モニターに映る赤毛の少女へと。
表情の一切を動かさない彼女は、普段仲間達といる時のような朗らかさはなく、闊達とした器を感じさせる。
感情の読めない弟子へ、私情ながら目を惹く彩上。
彼女の耳に声が届き意識が戻る。インカム越しに聞こえたのは、別室に居る同級生、
準備完了の胸を聞いた彼女は、同室の後輩へ号令をかける。
「それじゃあ本入隊試験一日目、開始――!」
――真代坂仁子の世界考察――
代……真代坂仁子
錦……彼岸崎錦
異種族能力者の差別を始めとした、平常と隔てられた世界観点。
ここは生徒である真代坂仁子が様々な者を講師に招いて解き明かしていくコーナーである。
【第二回】『銀狼隊について。仮入隊と本入隊編』
錦:俺ずっと後書にいるじゃん
代:私も穂咲ちゃんも、正式隊員になる為に頑張るわけだけど、なんでならなくちゃいけないの?
錦:あー、要するに、外に出して働かせる為にはちゃんと資格が必要なんだよ。仮じゃない隊員証はその資格代わりになる
代:資格試験なんだ
錦:そうだ。仮入隊時点だと教育実習生で、本入隊だと学校の正式な先生。みたいな
代:じゃあ最初からテストして入隊させればいいじゃん
錦:実はもうテストは始まってるんだぜ。っていうのも、今日集められた戦闘部の一年は一握りなんだよ。一ヶ月間の働きで、隊員証を渡してもよさそうな奴を餞別したわけだ
代:ふんふん
錦:で、その適性を見る為には、銀狼隊の一員でなくちゃいけない。コイツの責任は銀狼隊が取りますよ、みたいなのが仮入隊証の主な役割だな
代:仮入隊のままじゃ駄目なの?
錦:まぁ、組織の頭的にはよくないって言いたいがな、本入隊すれば危険度の高い任務が回されるようになるから無理強いは出来ねえ。ただ勿論メリットもあるぜ
代:例えば?
錦:金
代:金
錦:かねと読んで金。給与がかなり色付くぜ。戦闘部は基本出来高だけどな。あとは顔を利かせてくれる場所もあるし、使えるものも多くなる
代:使えるものって、剣とか銃とかの話?
錦:まぁそれもそうだが、技術部なんかは隊員証が必要資格の肩代わりをしてくれるんだ、電工や溶接とか。勿論銀狼隊が管理している敷地に限るけどな
代:だから部署が違うと隊員証も違ったんだ
錦:おー。だから兼任したかったら試験を受ける必要があるぜ。届け出が必要だ
代:兼任していいの?
錦:おう。技術部で物作るうちに自分も戦いたいって奴はいるし、戦ってたけどこっちの方が性に合うって医療部に行った奴もいる
代:へえ
錦:朽羽は自力で全部の部署の試験突破した。依折も残すは技術部だけだ
代:えぇ
錦:で。試験は、今回みたくこっち側が人集めてやることもあるし、希望者がいれば専用で組むこともある
代:先輩も去年の今頃やってたのかな
錦:いや。去年とかは夏休み前とかに時間取ってた気がするな……それまでに希望した奴もいたけどよ。それも朽羽って奴が悪いんだ
代:そうなんだ
錦:こんなもんでいいか?
代:うん。ありがとうございました
錦:俺のコーナー風に言えば
『仮隊員証と隊員証の違い』
【メリット】
・資格の代わりになる
・給与にが色付く
・各所で顔が利く
【デメリット】
・任務の重要度が上がる
不定期に決行されたり、希望することで受けられる試験で本入隊する事が出来る。
錦:ってとこか
代:合いの手担当真代坂仁子と
錦:解説担当の彼岸崎錦。お疲れぃー