白夜と藍嵐   作:凍星 奏雨

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【登場人物】
ーー銀狼隊戦闘部・一年
椛野(かばの)穂咲(ほざき)・赤毛の少女。〈種子〉
仙慈(せんじ)寿人(ひさと)・目隠れの少年。〈万華の右眼〉
小森(こもり)蜜歌(みつか)・桃毛の人狼。〈桜援〉
土内(どない)游游(ゆうゆう)・黄緑髪の両性。《植人》
鴻上(こうがみ)(しの)・白インナーの少年。
霞ヶ浦(かすみがうら)兎子(ばにい)・兎尾の少女。

ーー銀狼隊戦闘部・二年
夜桜(よざくら)(ゆき)・銀髪の少女。〈獣人化:狼〉
雉子雨(きじさめ)佐久雲(さくも)・ゴーグルの少年。〈演算〉

ーー銀狼隊支援部
真代坂(ましろざか)仁子(にこ)・猫又の少女。
彩上(あやがみ)八子(やこ)・深紅髪の少女

ーー銀狼隊幹部
彼岸崎(ひがんざき)(にしき)・空色目の少年。戦闘部管轄。
朽羽(くちば)那由多(なゆた)・三つ編みの少年。支援部管轄。
不知火(しらぬい)朱輝(あき)・深青目の少女。支援部管轄。
依折(いおり)(けい)・瑠璃髪の少女。医療部管轄。


第十二話 始まりの銃声、終わりの声

「取り敢えず、まずは自己紹介から始めない? 軽く出来ることだけ共有しよう」

 森林を歩く私は、横に歩く土内(どない)さんと、斜め後ろに続く小森(こもり)さんへ言った。

 言うなれば超マイペースな美声持ちと、臆病で緩い人狼としか分からないこのパーティ。なるべく早くに解像度をあげたくて、自然と引っ張る形になる。

 動物の声が一切聞こえない青々しい自然の中で、互いの声はよく通った。

「つつがなき提案。しからば私から」

 どう聞いても男女どっちか判別の付かない中性的な響きの声だ。滑らかな色合いの黄緑色をふくらはぎまで伸ばした髪からは、女性らしさを感じる。ただ、身近に長髪男子が複数人いるので、間違っても断定は出来まい。

「私は土内游游(ゆうゆう)。植人です」

「しょくじん?」

 後方からおっとりとしたイントネーションの疑問符。

 彼(仮称)は何を指して、表わす主張なのかを率直に答えてくれる。婉曲な仙慈君よりもここは親切。

「人型植物ですよ。私が出来るのは、周囲の自然に多少干渉する事と、自分自身を生育させる事です」

 そういう種族という事か。

 この自然環境なら色んな動きが出来そうだ。自然環境が正常に機能するなら……だが。

 兎も角時間が惜しい。今は詰めるのを控えて次に移ろう。

「私は椛野穂咲、能力で好きなところに種子を出せて、それを成長させることが出来る。でも自信があるのは格闘戦かな。身体能力ならそう簡単に引けを取らないと思う」

「素晴らしき自負」

「へへ……頼りにしてるね。椛野さん」

 軽く頷いて、最後に小森さんの番。

「私は、小森蜜歌(みつか)です。……えっと、人狼で、あと能力は、皆を強化する桜の花びらを出せるよ。椛野さんとは、同じクラスなの」

 土内さん向けにそう告げ、たどたどしくも自己紹介は終わり。

 さて次。

「じゃあ早速作戦を決めよう。時間は……」

 支給された腕時計を見る。

 残り三分。三分経てば試験官、夜桜(よざくら)(ゆき)先輩がこのフィールドに現れる。

 現在私達は恐らくフィールドの中央付近に居る。推測なのは、入ってから一直線に歩いたので大体それくらいだろうというざっくりとしたものだからだ。

 一応奥に見える、今より更に高い山をエリア外、ざっくり言えば背景として解釈した上での判断でもある。

 そう、ここはあくまで『フィールド』なのだ。

 広大に思える自然の領域は例の如く先代の技術部の設計で、空間圧縮と模造技術によって造られた擬似的自然。道中で川の気配もしたが、それだって理屈的には疑似的なものらしい。

 思考が脱線したが、私はこの見慣れぬフィールドで、三分後に私達を、そして『防衛目標』を攻撃する夜桜先輩へ対策を立てねばならない。

「私、ヨザクラさんとは面識がありますよ。手の内は共有しましょう」

「それも知りたいけど、一旦動く方針を決めよう。守り切るか迎撃するか。戦場選びにも関わってくるでしょ? ここで止まってる訳にもいかないし」

「……」

 私は振り返って、小森さんの横に並んで歩く『防衛目標』を見た。

「守るなら、制限時間いっぱいまでですよね……でも、教えてくれなかったよ。夜桜先輩」

 そうだ。彼岸崎先輩は制限時間まで防衛する事が終了条件の一つと言った。でも、時間について聞けば、返答は『実践に明白な終了時間はありません』なんてつっけんどんな内容だった。

「うん。見積もりが立てられないなら、私は迎撃派」

 

 

「やっぱ先導は椛野か」

 森林を歩く三人と防衛目標を俯瞰するモニター。模造された空間内に放たれた無数のマイクロドローンが、リアルタイムで試験者の動向を映している。

 開始時間をズラした計三チームの中で、現在は開始直後のBチームを、幹部四人が注目していた。

「Aチームの先導も仙慈だったし。ここまでは予想通りだな」

 言葉を続ける彼岸崎。この時点では取り立てて言うことはないという態度だ。

 反して、早々に難色を示したのは背もたれに力をかける依折と、椅子で足を組む朽羽。

「引っ張り方がなぁ……」

「腹立つ」

「……お前らが言うかァ? つか、どこら辺よ」

 朽羽が中途作成したオブラートを知らん顔で引き裂く依折。男二人の視線は、ひそかに少女へ集まった。

 言語化に要した時間はわずかで、医療部管轄は目を細めて毒づく。

「土内のヒント、どうせ聞くなら遮るべきじゃなかった。折角各チームに試験官のリーク役がいるのに。方針を多数決で決めようとしてるのも、穏やかなのとマイペースがいるのを良いことに、自分がやりたいようにやってるような気がして気に食わないね」

「……それ、朽羽のやり方とどう違うんだよ。コイツも大概自分勝手に事を進めるだろ?」

 試験を受けている中では縁が深い方の彼岸崎が、あくまで椛野の肩を持つ。

 自分の眼前で自分自身の評価を下されるのは堪らないと、視線は緑色の画面に固定されたまま、朽羽が言い分を誂えた。

「私のは立場を使った命令って側面があるけど、今回の椛野さんはあくまで皆と対等だ。それも連携したて、不満を覚えさせるのはあまりよくない」

 後ろを振り返った事で椛野は知る機会もなかったが、厚意を遠くへ流された土内はわずかに眉を落とした。僅かな機微を映し出すマイクロドローンは、幹部へ無欠の視点を語らせる。

 二人の意見を聞いて、彼岸崎は唸る。

 椛野を贔屓目で見ている側面は誰にも否定できないが、そこを踏まえて彼は『でも』と切り出す。

「そこら辺は二人が内向的過ぎるのもあんだろ。丁寧に意見を聞いてグダつくより、今回は良いと思うぜ。どうせこの後――悠長に話す時間はないわけだしな」

 椛野達は開けた場所へ出た。木々を抜けたそこは小川の流れる平野で、踏み歩くには砂利が疎ましい。

 視界ははっきりと確保出来て、実に迎撃向きとされる環境だ。

 この選択に、擁護していた彼岸崎もやや苦笑い。

「ほらな。土内の話を聞いていたら、迎撃するにしたってこの場所は選ばない」

 沈黙を肯定と受け取り、依折は鼻を鳴らした。

 自分を挟んで論ずる彼岸崎と依折をも放置し、終始黙って見守っていた不知火だったが、思い付いたようにふと呟く。

「何を焦ってるのかしら」

「ん?」

 彼岸崎はその真意を促す。

 誰にも拾わなければ述べる事の無かった、少女への違和感を、パズルのピースを確かめるように並べていく。

「前の……仙慈君の作戦立てが余裕ありすぎただけかもしれないけど。なんだかずっと余裕がないように見えるわ、元々そういう子?」

 知る由の無い依折は口を閉じる。朽羽も、入隊初日にこそ共に激闘を繰り広げたものの、それ以降椛野と深く関わった試しはない。

 自然と彼岸崎が質問の回答者になるのだが、彼もまた、モニターを見上げて疑問を抱いていた。

「確かにな……何拗らせてんだ? アイツ」

 

 

 夜桜先輩とは私も顔見知りだ。木塚街で窮地を救ってくれたのは、何を隠そう先輩なのだから。

 その時、彼女は獣のような敏捷性で敵の前に立ちはだかった。

 きっと戦闘スタイルはスピード系の近接型。となれば、見晴らしのいいこの平野は迎撃に持ってこいだろう。

 腕時計を確認する。

「三分経ったし、きっともう始まってるね。小森さんはその子の傍で、周りを警戒して」

「う、うん」

 私は続けて、指抜き手袋の具合を確かめた。通気性伸縮性抜群の黒い手袋は、事前の確認である『武装の使用』に否と答えたら、先程腕時計と共に支給されたささやかな贈り物だ。付けていても違和感がないので、取り敢えず付けている。

 支給されたのはもう一つある。腕時計同様一人一つずつ渡された耳栓型の無線だ。分断されても通信が取れるが、かといって自分達から離れる気にはなれなかった。

 それは防衛対象の存在が大部分を閉めている。

 彼岸崎先輩に言われた時、てっきり何かの建物等を護るのだと思った。しかし実際は違った。

 ある意味ではこれも、夜桜先輩からの支給品なのかもしれない。

 小森さんが傍で護る防衛対象は、人だった。

 正確には人に極めて近しい、人形だった。

 自律AIの試験も兼ねて、私達が護るのは自分で歩ける精巧な人形。大きさは真代よりも小さい、女子中学生並のもの。ボブカットの黒髪と黒目、一般的な女子にしか見えない。

 私達は二人以上欠けないようにして、この人形を護りながら夜桜先輩を討つ!

 

――人の倒れる音がした。

 

 振り向けば、桃毛の人狼が力なく倒れ伏していた。

 直立した人形が、熱もなく彼女を見下ろす。

「え……」

「狙撃です。なんて忌まわしき」

 ハッと意識が戻る、そうだ、驚いている暇はない。

 方角を探知するにしても一度防衛対象を動かして逃げないと。

 開けた場所に出たのが裏目に出た。幸いにも少し走れば再び森林に身を投じることが出来る。

 私は小森さんの身体を抱き上げる。

「土内さんはその子お願い!」

「賢しき判断!」

 小森さんが横たわる近くには白く丸い小玉が一つ、砂利や丸石に紛れている。頭の傍にあるということは、これが狙撃弾ということだろう。頭部から出血は見られない。揺さぶらないよう運び始めた頃には、土内さんも少女を運んで森に走っていた。

 彼は右腕の先端を木々の茶色に染め上げ、伸ばす。

 先程言っていた生育機能で、縄で縛るかのように少女を腕で抱えている。左腕は更に植物化を進め、無数に枝分かれした網のような木腕で自分と防衛対象を隠す。

 弾避けだろう。あれなら抱えてる防衛対象を正確に撃つのは難しい。

 小森さんの倒れ方でなんとなくの方角は分かる。その方角から軸をズラすように私は駆けた。

「ッ!」

 左肩に激痛。

 被弾した。軸をズラしていたら頭は免れなかったかもしれない。

 小森さんを落とさないよう強く抱き、私達はどうにか木陰に辿り着いた。

「ハァッ、ハァ……」

「恐ろしき精度。ご無事で?」

「うん。利き腕じゃないし、外れてもない」

 私達は抱えていた少女らを降ろして、木にもたれ掛かる。右手で抑えた着弾地点は熱く、じきに腫れるだろうという予感はあった。でも、痛みさえ堪えれば普段の動きに支障はない。

 気にするべきは、動けない小森さんと姿の見えぬ狙撃手。

「夜桜先輩、近接タイプじゃなかったの……?」

「遠近両用です。狙撃銃から拳銃まで何でもござれの、機動型ガンナーですよ」

「……!」

 それなら、遠距離手段のない私達は距離を詰めるべきだった。初動を見誤った……!

「ごめん……」

「試験は続くよ何処までも。索敵に移ります」

 彼はそう言うと、左手で木を触る。その際にもゆるゆると優しく、防衛目標を地面に降ろした。

 そして、彼の姿が消えた。

「えっ」

 違う、木に飲み込まれたのだ。溶け合うようにして、姿が消えていく。

 ……私に出来ることを考えよう。

 現状、私達は守るものが二つだ。言うまでもなく少女二人。でも、実弾でもないのに高精度の狙撃をしてみせる夜桜先輩に、いったいどこまで防衛戦が出来るだろう。

 防衛戦で、どれほど私に役割があるだろう。

「ふぅ。話の分かる方で素晴らしき幸運」

 ふと顔をあげて、土内さんを飲み込んだ木を見る。

 ……そこには、一糸纏わぬ姿の、土内游游が。

「なっ、え、なっ……」

「失礼。麗しき我が身が曝け出されてしまった」

 信じられない。

 言葉が出ない。

 え? 木に取り込まれる前までは服を着ていたのに。本当に信じられない。

 種族の違いは文化の違いとも言うけど、でも、何か違くないかな。彼自身がズレてるんじゃないかなぁ。

 というか彼でもなかったし。何もない。土内さんの身体はなんにもなかった。

 目を背けた私に、悠然と声が掛かる。

「目に毒ではないでしょう」

 何かしらで隠したのだろうか、土内さんを見る。

「着てくれない!?」

「元々着てませんでしたが……」

 しょぼくれた表情を作る土内さんは、みるみるうちに自らの身体から服らしきものを捻出する。

 ああ、なんか、直視してしまったけれど、見た限り土内さん、()()()()()()()みたい。

 生殖器がない種族も、いるにはいる……聞いたことはあるけど、初めて見た。

 見たというか。見たとは言いたくないけど、きわめて正しい表現として、見てしまったなぁ。

「はぁ……それで、どうだった」

「こちらに向かっているでしょう」

 呑気に言った彼(呼称続投)だが、それは悠長にしていられない状況だった。

 この際どう確認したかは省いて、私は必要最低限の情報を聞く。

「何処から?」

「我々がこの領域に足を踏み入れた方角です。足跡を追ってくるかもしれません」

 スタート地点は同じだったということか。

「……小森さんの事よろしく」

「……はい?」

「迎え撃つ」

 

 

「あー……」

 椛野の決断に苦々しく笑う彼岸崎。

 肘置きを使って頬杖を付き、三人の観覧の邪魔をしないよう呟く。

「また暴走してんな。椛野」

「ふぅん? どうなってる」

 他二チームが膠着状態なのを良いことに、依折が言葉を拾う。

 追って椛野を俯瞰するモニターを見たが、段々と状況に察しがついてきたようだった。

「……夜桜に単騎特攻しやがった」

「二年舐めすぎだろ」

「依折に言われちゃ夜桜さんも形無しだけどね。まぁ……鳴島君と虎郷君が、少し優しすぎたかな?」

「イヤミのつもりか……?」

「そういうわけじゃ」

 発言するや否や、依折の機嫌を損ねた朽羽は、左手を軽くあげて否定を示す。

 そんな二人の冷戦を毛ほども気に留めず、心惜しさを声に滲ませる彼岸崎。

「経験値は試験受けてる奴の中でもトップレベルなはずなんだけどなー……」

 実際、後輩の雄姿に魅せられた瞬間はある。救援に来たと思えば、大の大人が揃いも揃って転がされている場面には、衝撃に目を抜かれた思いだった。

 だからこそ無念でならない。

 いや、近接での格闘戦は椛野の得意とするところ。夜桜に通用するかどうか、試さない事には悲観的になれないか。

 期待を抱き直しながら、森の中を引き返す椛野に注目する。

「私が思ってる以上に相性が悪いね。土内さんと椛野さん」

 今回のチーム分けには朽羽が大きく関わっている。それを踏まえ、彼は論題を提示する。

 それぞれ三人も、朽羽がどういう意図で組み分けたのかを一度脳内で反芻した。

 基準としては、既に深い交流のある人物を離すこと。椛野仙慈金時、土内霞ヶ浦(かすみがうら)が良い例である。

 加えて一チームに一人、依折の言う『リーク役』を用意する。Aチームの雉子雨(きじさめ)には霞ヶ浦、Bチームの夜桜には土内、Cチームの鳴島には金時がそれぞれ、試験官をよく知る人物として分けられた。

 そして、仙慈と鴻上、椛野と小森、添木(そえぎ)甘扇(あまおうぎ)のように、クラスメイトを交えるなどの配慮を加えた。

 試験らしい追い込みと、連携の動線を考慮したチーム分けをしたつもりだった。故に朽羽は、Bチームの想像を上回る足並みの悪さに首を傾げる。

 一方で彼岸崎は、こうなるような予感がしていたために不思議でこそないが、だからこそ朽羽の発言に引っかかる。

 頭がやや固い椛野と、かなりマイペースな土内の相性は火を見るよりも明らかと言える、それでも組ませたというのはどういう意図か。

「……もしかしてさ。朽羽」

「ん?」

「お前――椛野と仙慈が相性良いと思ってる?」

「そうだけど……」

 そんなわけねえだろ、と叫ぶ気持ちはどうにか理性で堪えた。

 マイペースな仙慈との噛み合いは、彼岸崎にとってかなり悪く映る。だが組み分け担当の朽羽には逆と映っていたら? 彼女達Bチームは既に、ディスアドバンテージから始まっていたことになる。

 難色を覚え、それを朽羽に伝えようとしたところ――

「えっ……」

 ――不知火の零した声によって、Aチームの『迎撃防衛戦』が終了した事に気が付いた。

 

 

「嘘もう終わったの!? すごいわねあの子ら……じゃあー、Aチーム担当の子はディスカッション! 会話ログと映像を見て、意見纏めて提出用プリントに書きなさい!」

 報告を受けた彩上は、受け持つ支援部の試験者に次の行動を促す。

 一部始終をマイクロドローンで確認していた一年の支援部は、Aチーム――仙慈の率いた『防衛迎撃戦』の感想会に入った。

 然るに、それは作戦会議まで遡る。

 戦闘試験者に配られた無線にはギャラリーに声を届ける役目も担っており、リアルタイムで文字に起こす機能も含まれている。支援部は、仙慈の会話ログへ注目し始めた。

 

『僕は仙慈寿人だ。この場に指揮や戦略に心得のある者はいるかい? もしもいなければ、一度僕の考えでやらせてほしい。

 助かるよ。絶対に後悔させないと誓おう。

 それじゃあ自己紹介の後、対策を立てよう。僕の能力は簡単に言うと――……

 ――霞ヶ浦君だね。鴻上君とはクラスが同じだから、そこは良かった。さて、これから対策を決めるけど、雉子雨先輩を知ってる人はいるかい? 生憎と、僕は今回が初対面で、どう攻めてくるのか見当がつかない。

 ほう、なら能力と攻撃手段……癖まで知ってればそこも知りたいな。あぁいや、癖は知れたら幸運ってだけだ。気に止まないでほしい。

 演算能力か……なるほど、僕対策だね。あぁいや自信過剰と思わないでほしいんだが、さっき述べた通り僕の能力は能力と相殺する。だから質量のある能力なら有利を取れると思っただけだよ。もしよければ二人も、思いついたことがあれば言っていくと良い。伝えなくとも、呟くくらいでいいさ。

 なんでかって、それは無論。

 ――この会話も試験の評価点になるだろうからね』

 彩上は、同級生に渡された紙面の会話ログを見て絶句する。

 試験の見通しが良すぎる。彼を弟子に取ったらしい朽羽が、試験内容を伝えたということか。

 いや、朽羽がそんなことをする訳がない。必要ならばルールを破ることも厭わない悪評を持つ彼だが、しかし、今回に限っては必要ないのだ。

 なにせ、そういった事前情報がなければ試験に合格できないような弟子を、本入隊させる必要性など欠片もない。……もし仮に理由があれば、幹部の権限で合格させればいいだけだ。

 つまりこれは、仙慈寿人の自力。

 のびやかな先導能力と見通しの良さ。朽羽の鞭撻あってこそとは把握しつつも、彩上は入隊一ヶ月そこらの一年が獲得していいスペックを超えているようにさえ思う。

 これではまるで、依折蛍の再来だ、と。

『狙撃超当ててくるじゃん……角度おかしいし……』

『角度がおかしい? ふむ、跳弾だね。聞いた限り、先輩なら可能だ。

 ……よし。場所を変えよう。このままだと護衛対象に弾が当たってしまう』

 など。

『これ三人で突っ込んじゃ駄目ぇ……? 兎の気って実は長くないんだけどぉ……』

『距離を詰めるのはいい案だ、でも策がいるね。〈影絵〉の君に賭けたい。今からする僕の要求はどれだけ叶う?』

 など。

 卑屈で引っ込み思案なクラスメイトと、短気でダウナーな初対面の女子を上手いこと乗りこなし、結果的には鴻上篠の持つ〈影絵〉で姿を隠した電撃速攻でAチームの『迎撃防衛戦』は幕を下ろした。

「これ支援部(うち)にほしいわぁ……」

 思わず呟いた声に、眼力を向ける少女が一人。

 彩上も今回ばかりは慌てて口を閉じる。それを認めれば、少女は再び画面に注視した。

 真代坂仁子は、友人の勝利を疑わない。一挙手一投足を、透徹した目で見つめながら。

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