白夜と藍嵐   作:凍星 奏雨

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【登場人物】
ーー銀狼隊戦闘部・一年
金時(きんとき)射弦(いづる)・白髪の少年。《剣士》
添木(そえぎ)(ばん)・三白眼の少年。
甘扇(あまおうぎ)(まつり)・三つ角の少女。

ーー銀狼隊戦闘部・二年
鳴島(なりしま)(じん)・黄髪の少年。〈放電〉

ーー銀狼隊幹部
彼岸崎(ひがんざき)(にしき)・空色目の少年。戦闘部管轄。
朽羽(くちば)那由多(なゆた)・三つ編みの少年。支援部管轄。
不知火(しらぬい)朱輝(あき)・深青目の少女。支援部管轄。
依折(いおり)(けい)・瑠璃髪の少女。医療部管轄。


第十四話 遠雷の至り

 場面は再び、幹部四人の集まる医療部管轄の私室へ。

 三枚の大画面モニターは、全て同じ森林を映している。

 森を駆ける白銀の狼を見て、頬杖を付いた彼岸崎はボヤいた。

「こりゃ長くなるかもなー」

「だからボクは反対したんだ。残りの試験で挽回させればよかっただろ」

 冷たい目で彼岸崎に毒づく依折だが、それを返す彼岸崎もまた冷ややかな目を向ける。空色の瞳もこの時ばかりは、凍て空に抜かれた真剣のように寒々しい。

「バァカ、それじゃ小森は兎も角、椛野も土内も簡単に突破させられちまうんだよ」

「はぁ? ボクの目にはそう見えない。先の仙慈程、確実なものを持っているようには思えないね」

 露骨に張り合う依折を見て、その少女を挟んだ他二人の幹部は溜め息を吐く。どちらも一様に呆れ色だ。

「ホントに思ってるか? 俺ァ初見の夜桜とあそこまで張り合えた一年を知らねえし、土内ほど身体を活かしてる新入生も見た事ねえな」

「結果が伴わなければただの芸だ。結局痛み分け、それも夜桜がわざわざイニシアチブを放棄したうえでの結果だ」

「だからァ、結果じゃなく過程も見ましょうねーって時間が今だろーがよ」

 痺れを切らした不知火が、不毛な議論に挟まれていた不知火が、流石に眉をしかめて苦言を呈す。

「それくらいにしておきなさい。話すにしても、今する話題じゃないでしょ」

「……おー、悪い」

「…………」

 その一声で、不気味なほど静まる依折。

 少女は目を落として、自動でプリントアウトされた一枚の紙を見る。他にも五枚ほど、同じように横書きの文字がつらつらと長く記された紙を膝に置いているが、依折の持つ一枚はそれら五枚とは比べる余地もなく短い。

 紙は試験者の発言を記したもので、現状計六枚が、幹部それぞれに渡っている。機械が自動で配ったものだ。

 やけに短く、したがって文量も少ない紙を見て、瑠璃色の髪をした少女は、彼岸崎に牽制をした。

「お前が期待をしていた金時も随分期待外れに終わったんだ。考えてみれば、今更アテにもならないな」

「突っかかるじゃねーか。まぁ、流石に予想とは外れたけど、知って半月程度の後輩なんざそんなもんだろ。にしても、朽羽に聞いた分じゃもうちょい粘れたと思うんだがな。まさか、舐めプしたまま終わるとは思わなかったぜ」

「舐めプは棘があるよ、彼岸崎。金時君には金時君の、思うところがあるんだろうから。それを脱ぎ去った戦いを強要するのは、如何に幹部としても」

「分かったっての」

 朽羽の言葉を打ち切ると、彼は先程終了したCチームの『防衛迎撃戦』を思い浮かべた。

 Bチームと同じく全員が至近距離で戦う、足並みの揃った編成。戦場は夜のコンテナターミナル、群れなすコンテナが隠密と強襲どちらにも活かせるため、比較的試験者に寄り添ったフィールドと言える。

 素の身体能力では鬼族の甘扇と並び、試験者トップクラスにいる金時射弦。彼岸崎の知る限りでは、物腰柔らかで戦況判断を下せる、クレバーな剣士という印象だ。この試験は彼の主導により、辛勝へ漕ぎ付けると思われていた。

「寡黙だったわね。本当」

 つられて、金時の発言を紙面で見る不知火。

 彼が自分から言葉を発したのは、たったの一回。

 展開としては、チームメイトの速攻会敵に続いた添木、甘扇が、作戦もへったくれもなく戦いを挑んだ形となる。

「鳴島が頑張りすぎちゃったのもあるな。うん」

「あの三人が勝てないのは織り込み済みで、だからこそ防衛に回れるかってテストだったんだけど……金時君、まるで退こうとしなかったね」

「勝機はあった。添木が慣れないことせず戦いに専念すれば、だけど」

「そこは添木のガッツだろうぜ。依折(おまえ)みたいなワンマンも別に否定しねえけど、周りに合わせて動こうとする奴は好きだし、必要だろ」

 Bチームの状況は、目を覚ました小森を交えた作戦会議と相成っている。朽羽にとってはやや不毛にも思える言葉の交わし合い、一応はそちらへ耳を貸しながらも、朽羽はCチームの戦闘を今一度反芻した。

 

 

 たどたどしい自己紹介を終えた頃には、試験官である鳴島がすぐ傍に迫っていた。

 無論金時から能力の共有はされなかったが、今回に限っては問題でもない。添木も甘扇も、一目見てすぐに思い当たったからだ。

 道路の左右には密集するコンテナが陳列されており、それがまるで自ら整然と並び立ったように思える。それほどまでに、威風堂々と道路を歩く鳴島迅。

 彼の姿は、両腕を残し、黄電に包まれていた。誰がどう見ても電気能力者であることは疑いようもない。

 他にも、彼の右腕には肘に足らない程度の大きさをした、銀色のガントレットが見えた。何かパーツが巻き付いているようだったが、視力に秀でた金時甘扇両名、それを口に出して共有することはない。

「何処に隠れてるんすかねー」

 呑気にひとりごつ鳴島。一言一句記録されているとも知らずに。

 赤と白の配色のヤードクレーンをふと見上げたり、かと思えばコンテナの隙間をしらみつぶしに、決して広くない今回のフィールドを徹底的に洗おうという気であった。

 コンテナの間に潜む三人と防衛対象。少年二人は長身なので、かなり手狭だ。そしてひとたび覗いてしまえば、暗闇に潜む不自然なシルエットにすぐさま気付けてしまうだろう。

 それを鑑みた合理的思考かはいざ知らず――長身の一人、金時射弦がすくりと立ち上がる。

「おい、気付かれちまうって」

 小声で嗜めるのは、縦横どちらにも広い体格をした三白眼の少年、添木(ばん)。雄健な体格に加え、義侠心を感じさせる力強い眉。それも此度は()の字を逆に描き、弱気を象った。

 そんな反応を意に介さない金時を見上げるのは、同年代の女子と比べてもやや小柄な鬼の少女。額の中央には控えめな一本、側頭部には根本が大きく、天へ反り立った二本一対の角を見せている。甘扇(まつり)は、腰を上げつつも、どちらにも肩入れをしないスタンスを取った。

「……ん?」

 視界の端から人影を見た鳴島は、怪訝なものを覚える。

 堂々と目の前に現れたのは、銀狼隊の模擬戦兼仮隊員用刀剣『蛇尾(だび)』を携えた糸目の少年、金時だ。彼が『蛇尾』を担うのは、自分と共に《穢れた神話》を討つ時以来だったか。共闘の過去に馳せる間もなく、鳴島は作戦を読み取ろうと思考する。

 たった一人が現れた理由を。もしや護衛対象を連れて逃げているのだろうか? 或いは強襲を狙っているのだろうか。

 真宵の路面を照らず黄電が、腕と脚に集約していく。

 金時も、先輩の戦闘態勢に応じて『蛇尾』を抜刀する。一見ただの真剣にも思える出で立ちだが、刃先はとんだ鈍刀(なまくら)となっている。銀狼隊技術部が量産した、人を切り捌くことのない非殺生剣だ。

 仮初の月と同じ色の白房を揺らして、金時は切先を向ける。

「手合わせ願います」

「……オッケー。先輩にも釘刺されてるし、本気でやるよ」

 鳴島が右腕を振るうと、添木の目には腕に巻かれた装飾――金時達の認識では黒鉄色の紐が、勢いよく地面を叩く。

(――勢い出し過ぎた!!)

 ピシャリと、遠雷の如く甲高い音が静寂に響き渡り、思わず唇を仕舞う鳴島。解放されたのは長さにして二メートルほどの特殊繊維。伸縮性に長け、先端に黒く硬質的な重りのあるそれは鞭が近いか。

 心境などいざ知らず、鞭打ちを気高き意気と受け取った金時は、離れた距離を埋めに行く。相手の手首の内側から伸びている紐が、自らにとってリーチのディスアドバンテージと素早く判断。故にリーチの差を縮めようと間合を詰めた。

 電光へ臆さぬ度胸を買い、鳴島もまた近接に乗る。展開した黒鉄を使うよりも近接戦に持ち込む方が、自身の訓練をより活かせるだろうという思い切りもあった。

 かくして両者は肉薄。

 右腕を突き出して剣筋を牽制する鳴島。触れれば忽ち感電する事が目に見えて、突貫の勢いとは裏腹に、金時は半歩下がって絶妙な間合を維持する。

 現在放電しているのは四肢のみ。故に金時は、如何にそれ以外の部位へ『蛇尾』による一撃を与えられるか検討する。自らの技の(はや)さに訴えて突きを放つか、じっくりと崩しに行くか。ここを悠長にしていたら、空いた間合を使って、電撃を纏った特殊繊維の薙ぎ払いが見る間に制圧してしまうだろう。

 足音を聞いた鳴島、その鳴島の背後に姿を認めた金時。同時に三人目の介入に気が付く。

 右腕に、ガントレットとは似ても似つかない無骨な岩石の鎧を纏わせた添木番が、鳴島の背後から襲い掛かった。

「ウオオオォォォッ!」

 瞬きの間に背後を盗み見て、強襲の方角にアタリを付ける黄髪の少年は、相対した剣士に背を向けることなく迎撃に動いた。

 鳴島の四肢のうち、ガントレットを装備した右腕だけが電光を鎮める。突如沈黙した明かりに、先達を挟んだ一年二人は迷いを見る。目に見えた攻撃性を沈黙させた右腕に、何があるのか。これは好機か否か。

 思考の余剰を突いたとは微塵も思っていない鳴島は、続く手元の操作に精彩を注ぐ。

 黄電が消失したガントレットは然るに、黒鉄の混紡も電気を失くす。それは、特製の特殊繊維が効果を発揮するトリガーでもあった。

 紐がガントレットへ、ひとりでに巻き付いていく。三周ほど自動で巻いたところで再び雷光を纏う右腕、奇しくもリーチを縮めた黒鉄の混紡は、周囲を最小の動きで薙ぐのに丁度良い長さとなった。

 金時へ牽制を図りながら、背後に迫る後輩へ特殊繊維を差し向ける。

 黄電を纏った紐を握り、右腕を抱くように思い切り振れば、先端へ僅かに重心が寄せられている黒鉄の混紡が添木の拳を見事弾いた。

「ぐぁ……ッ!」

 綻ぶ岩石。それ以上に深刻なのは、刹那に伝播した電撃。ほんの寸秒のうちだが、添木の右腕には電撃が遡り、脱力を余儀なくされた。それに伴い、能力で寄せ合わせた岩石が地面へ崩れてゆく。

 勢いのまま自らの背を叩くことなく、自身が立つ地面の前方に叩きつけて慣性を殺した。

 迎撃に成功した少年だが、緩急を禁じる追撃が鳴島を襲う。

 突如鳴島の右方向から爆裂的な衝突音、その場の三人が咄嗟に見てみれば、コンテナが自動車の如く速さで射出されていた。

 味方への被害を鑑みて、長方形の短い辺で鳴島を狙い打った甘扇。蹴られた衝撃で放たれたコンテナが躱す間もなく鳴島へ打擲(ちょうちゃく)する。

 ほんの数瞬平行移動したコンテナが、鳴島を巻き添えに、道路越しの別のコンテナへ迫ろうとしている。

 流石にまずいと思った添木も、水を差された思いでいる金時も、鳴島を挟んだコンテナ同士の激突を阻むことは出来なかった。

 波音すら聞こえない静寂にコンテナ同士の激突音が劈いた。

「お、おい、やりすぎだろ甘扇……大丈夫か? これ」

「うちも迷ったけど、手加減したら避けられそうだったもん」

 コンテナ群の一端が空き、その実行犯である甘扇は、防衛対象と共にその空いたスペースに立っている。悪びれる様子のない彼女は童顔に付随した薄い唇を尖らせ、右角の根本に巻かれた赤いリボンを触っていた。赤いリボンは左角にも巻かれている。本来ならば幼さの混じった快活さを覚えさせるものだったが、月明かりしかない状態で見てもあまり効果はない。剛力無双の直後であれば尚更だ。

 薄い土煙も去り、完全に沈黙したコンテナ事故現場を見て、しかし金時は剣を鞘に納めず継戦の構えを取った。

 理由は単純、試験終了の合図が出ないからだ。

 待てどもコンテナから這い出てくる様子は無い。設定されている防衛時間を考慮すれば、引き伸ばせば引き伸ばすだけ鳴島へ不利に働くというのは留意しているはず。だというのに一向に出てこないというのはどういう理由か。もしや本当に気絶しており、試験終了の合図が来ないのは判断出来ていないからというだけなのだろうか。警戒を弛めずに、金時は一歩ずつ距離を詰めていく。

「……」

 一方で添木は空白時間を使い、砕けた岩石を一纏めにしてから改めて触れる。

 添木番の能力〈岩纏(がんてん)〉は、触れた岩石を身に纏う能力。盾にも矛にもなる頑健な質量は、速度と体力を引き換えに相応の対応力を帯びる。

 電撃にもほんの僅かばかり抵抗が図れたはずだが、黒鉄の混紡が見せた破壊力に〈岩纒〉の鎧はあまり期待出来ない。よって、気持ち少し纏う岩石を減らし、より鳴島の装着したガントレットに寄せた軽量装備にした。

「うしっ……」

 正面にはジワジワとひしゃげたコンテナに近付く金時、背後を振り返れば防衛対象をお姫様抱っこで持ち上げる最中の甘扇。作戦会議の五分間で、二人が牽引するようなタイプではないと彼は既に察してしまっていた。

 息を研ぎ澄まして、己を律する添木。琥珀色の三白眼が勝利を見据える。

 その為に自分がすることは、同輩二人を束にして、先輩を出し抜くこと。そんな指揮紛いなものは一回とてやったことがないが、しかし情けない話、自分一人で勝てる気は全くしなかった。

「うし……金時、ちょっと待ってくれ。甘扇! 三人でひとかたまりになるんだ。防衛しないといけないおまえが一人じゃまずいだろ」

「うい」

 早足で少年二人に近付く甘扇。

 達人の佇まいを見せる金時、そして今しがた埒外な怪力を見せた甘扇が揃えば、後れを取ることはないだろう。

「んでどうするんだ……? 撤退か? いやでもな」

 口角を難しげに歪ませて今後の方針に悩む添木。ここで迫り来る先輩を迎撃するというのも一つ、選択肢だろう。だがここを離れて再び隠密に移行するのだって悪くないように思える。でも姿が見えないのに好き勝手動いたら相手の術中ではないのか。勇み足を及び腰が制して、そこを更に果敢さが顔を出して、一進一退の脳内に思わず黙り込む。

 三白眼の少年の思考が曇り始めた頃、異変にいち早く気付く少年がいた。

 小さな物音。何か硬質的なものが鳴ったのを、金時は聞き逃さない。この場ならいくらでも考え得るが、それがどうやって、何故発されたのかは限られる。なにせ道路の中央にいる三人から鳴るはずのない音だ。

「……」

 辺りのコンテナを見回す。どうやってか攻撃を退けた鳴島が、何処かに潜伏して強襲を目論んでいるというのは、ひしゃけたコンテナでただ寝ているよりも遥かにあり得ると断じていた。

 再びの金属音。今回は甲高いものではなく、軋むように唸る音だった。その不気味な音には残る二人も気付き、音源を見上げる(・・・・)

 来襲するは、放電不使用の鳴島迅。

 射出されたように彼は飛来し、右腕を放電させると共に黒鉄の混紡を展開する。

 予想だにしない襲撃に形だけの構えを取る添木、甘扇。

 空中にいる鳴島を迎撃に移る金時だが、やってきた方角は添木の方に近い。よって、間に合わない。

 大きく振りかぶって、夜闇を切り裂く雷電を奔らせる。その矛先はまたも添木番。

 物思いに耽っていた状態からのエンカウントというのもあり、判断が曇る。攻撃を受け止めるという定型的な守勢を取った彼の身体は――強烈に打ち付けられた混紡、そして極めつけに身体中を駆け巡る電撃によって、再起不能となる。

「ち、くしょお……っ」

 仰向けに倒れ往く仲間の状況を認め、しかし足を止めない金時。

 金時の見る限り、鳴島は全開の力で鞭打った。少なくとも余力を残した振り方には見えなかった。そして混紡を大きく解き放ったということは即ち、地上の迎撃に使う際には再び大きく振り上げなければならないということだ。でなければ、素早く振りかぶったところで、鞭のようにしなる慣性が思うように打たせてくれないだろう。

 それだけの間があれば自分は、相手の着地に間に合う。

 着地直後の鳴島へ素早く突きを放つ。電気を纏った相手にはそうした瞬間的な決着以外を望めまい。

 熟達した剣士の判断はしかし――実践経験の差、そして他者理解によって阻まれる。

 鞭を振るった方向へ、鳴島自身が回転する。そうして鞭の第二撃をつつがなく用意し、間髪入れずに金時へ放った。

「……っ」

 旋回する鈍刀『蛇尾』。

 かろうじて受けた金時だが、腕に奔った電流で脱力し、得物を剥奪される。

 無茶な姿勢運動を見せた鳴島だが、滑るようにして難なく着地。

 電気をいちはやく帯びた刀剣もすぐに手元を離れたのが功を奏し、添木のように麻痺を全身へ食らうことはなかったが、窮地に他ならない。

 続く甘扇の反撃。添木が纏っていた散らばる岩石を、ただただ直球に、蹴りつける。

「うぇっ!?」

 硬式ボールが迫って来るのと半ば変わらないそれに肝を冷やしながらも、身体は動く。

 迫り来る石片に、ジャストで鉄腕を合わせ、殴り砕く。衝撃こそあるものの、ダメージは完璧な形で相殺出来たと言える。

「せんぱいも馬鹿力じゃん……」

「速いもんに合わせるのは慣れてるんすよっ」

 得意げに言い放つと、防衛対象……鳴島にとっては攻撃対象を側に付かせた甘扇ではなく、コンテナの隅に落ちた『蛇尾』を拾いに向かった金時へ、追撃を試みる。

 石片への迎撃分後れを取ったが、こちらにはリーチがある。『蛇尾』と金時の間を分かつのは地衝の雷刃。強く地面を叩いた混紡の一撃は、雷光に鳴々を伴わせた。

 ほんの一瞬、マイクロドローンでも捉えたか怪しい僅か、金時が不満げに眉を落とす。あからさまで、ともなれば余程の思いであろうそれは、金時自身が瞬時に切り捨ててしまう。

 足を止め、刀剣の入手にも失敗した金時から目を外し、背後――肉薄していた甘扇を捉える。反応ではなく予測、更に言えば経験から来る妥当さを無自覚に受信した鳴島は、奇襲だったはずの、護衛役による格闘を万全に向かえた。

 鬼の膂力をもってしても、一瞬。

 刀剣を拾い上げた金時が背後に迫る頃には、甘扇は身体の制御権を失った。

 かくして、Cチームの『防衛迎撃戦』は鳴島迅の圧勝に終わった。

 

「それじゃあ医療部の人呼ぼうか。っても多分、もう来てるけど。……甘扇さん、運んであげてくれない?」

 意識はあるものの、身体を動かすことの出来ない添木を鳴島が担ぎ、金時もそれに続く。

「実はこのガントレット、つい最近改良してもらったばかりなんだ」

「それであれほど身に付いた運用。さぞ有意義な訓練をこなしていると見ます」

 二人が向かうのは模造空間の出入り口。この場では波打つ停泊所と真反対の、管理棟を模したスペースにある。そこまで歩く数分間、鳴島は機嫌が良さそうに話した。

「なんて言ったって二世代目だからね」

「二世代目」

「一年の頃……本入隊して少ししてからかな。その時に作ってもらったんだ、オレ用のガントレットを。で、細かい調整じゃなくてガッツリアップデートを済ませたのがこいつ。それにワイヤー機動は元々慣れてるんだ。色々試行錯誤してた時期に使ってたから」

 宝物を見るように、自分の右腕を輝かしい瞳で見つめる鳴島。

 自分と似ても似つかないその感情に、金時は触れることなく話に応じる。

「あの奇襲もその経験を踏まえた機動力が為せる技ということですか。……ところで、それまでの過程は如何に」

 奇襲までの過程。即ち、コンテナでサンドされた鳴島がどう動いて大胆不敵な襲撃を果たしたかの道程。

 ガントレットについて話足りないといった様子の少年だが、聞かれれば快く答える。先ずは思考と共に声を伸ばして、それから切り出した。

「コンテナにぶっ飛ばされた後、後ろにあるコンテナに挟まったらヤバいなって思ったんだよ。だから……ぶつかる時にコンテナとコンテナの間に滑り込めるよう一か八か頑張った」

 所々言葉を組み立てる所作が入りつつもハキハキと伝える。

「コンテナの間ですか」

「そう、飛ばされたコンテナじゃなくて、並んでたコンテナと……その横にあるコンテナとの間。それでどうにか受け身取って、一旦能力消して大回りしてた」

 つまり鳴島は、蹴り出されたコンテナの勢いを使って見事隙間に飛び込み、激突を避ける事に成功したという。

 小柄な鬼の少女を抱える金時は、表情が読めないながらも関心を声に出す。無表情に見える糸目の少年から見事と言われ、やや座りの悪さを感じつつも、鳴島は続ける。

「で、ワイヤーをあのクレーンに引っ掛けて近付いてみた。コンテナの近くにいてくれたら奇襲も出来たんだけど、集まられちゃったから」

 あのクレーン。鳴島はそう言うと振り返り、一点を見つめる。視線を追えば紅白色のヤードクレーンがそびえていた。

 〈放電〉に応じて形状を変える黒鉄の混紡を、巧みに巻き付けることで自分の身体を引き上げ放物線を描かせる。近寄りにくい相手へ繰り出した選択肢が、空間を使って強引にでも距離を詰めるというのは、電気能力者特有の思い切りの良さが現れていると言える。それも、積み上げた経験がなければ儚い思い付きの産物となっていただろうが。

「先輩。もー動けるっす……」

 鳴島の身体から添木が離れていく。かろうじて口角を上げていながらも、苦渋をしたためる表情は誤魔化せていない。

 先輩として声を掛けるべきか、幾許の間思考を巡らせるも、鳴島は何も言わない事を選ぶ。

 程なくして目的地が見えた。

「これからも試験は続くし、頑張って。このガントレットみたく、きっと合格したら、皆の装備を不知火先輩も作ってくれるよ」

 管理棟の扉は既に開いており、数人の医療部が待っていた。鳴島は右手の拳を三人に向け、これから先の健闘を祈る。

「はい。認められた暁には、再びお手合わせ願います」

 

 

 晴れやかな鳴島の笑顔を思い浮かべつつも、朽羽は動き始めた局面に意識を合わせ直す。

 見上げたモニターには椛野、小森、土内の浮かべる三者三様の闘志。

 耳に入れていた三人の作戦会議で、確執が完全に晴れたとは思い難い。しかし今一度揃って、同じ方向を見据える三人には、僅かばかりの期待を乗せるには充分な表情が作られていた。

「……椛野さんは特に、ここで受かってもらわなきゃ困るんだ。頼むよ」

 三つ編みの少年は悠々と口を滑らす。同室の幹部の視線にはどこ吹く風で、行く末を巡らせた。

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