白夜と藍嵐   作:凍星 奏雨

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【登場人物】
――月桜学園・一年
椛野 穂咲(かばの・ほざき)
……赤毛の少女〈種子〉
辻  誠也(つじ・せいや)
……青鱗の少年《竜人》
房嶋 豊鷹(ふさじま・ゆたか)
……深緑目の少年〈治癒〉
八河 昏(やつが・こん)
……浅黒い肌の少年《蛇人》
風吹 愁谷(ふぶき・しゅうや)
……黒眼球の少年《翼人》
白竹 万珠(しらたけ・よろず)
……白目の少年


第三十九話 隣人トラブル

 景気の良い青空だった。

 学園の屋上は解放されていて、ベンチも置いてある。堂々と了解された環境で、オレはメロンパンを握った。

 椛野はいつの間にか帰ってきたようで、今朝の二時間目から出席していた。傍目から見ていたところ、少し調子が出ない様子だ。銀狼隊の活動が如何なものか知る由もないオレは、ご苦労の一言も言わず、一人で昼を潰している。

 成り行きの付き合いだし、椛野も気にしたものではないだろう。

 メロンパンを食べる上で最も大事な一口目を上の空なまま齧ってしまったが、実のところ本命は二番目という説も、まことしやかに囁かれている。

 グラニュー糖が零れないよう袋を構え直して頬張った。その直後だった。

「探しましたぜ。其方失礼」

 小説やアニメのように、学校の屋上で秘密話をしている連中はここにいない。晴れている時は穴場第一候補である、オープンな場なのだ。だから扉の開閉を一つ一つ聞いてもいられない。

 間抜けに大口を開けていたのを見られたともなれば、今後の警戒心を高く見積もる必要が出てきたと言えるか。

 それも……白竹万珠(こいつ)に見られては。

「なんの用だ?」

「これ、返してもらおうと思いやして」

 言うと、鞄からハードカバーの本を取り出して渡す。

 オレはこれを見せびらかして校舎を歩くのか?

「返す為の場所があるだろ。都合を付けて、自分で返してくれ……」

「と言いつつ受け取ってくれるんですかーい。……まっ、使いっぱしりにする為に来たわけじゃありませんぜ。そいつぁダメ元、要件は別にあるんでね」

 図書室での出来事は一昨日。金時関連が妥当か。

 白竹との僅かな距離に『サンタ・ムエルテ』――ハードカバーの本を置いて。

「一々聞かないといけないか? その要件ってやつはなんだ」

 おちおち食べてもいられない。何かあるならさっさと済ませてくれないと、観察されているような心地になるのは愉快なものじゃないんだ。

「ん?」

「だから、用があるから尋ねてきたんだろ」

「ああー、はいはいはい」

 まるで数日前に貸した金のことを言われたかのように、いやそれにしたって白々しく答えるものだが、奴はアクションを示す。

 最初は何か取り出すのかと思ったが、白竹の人差し指はピンと地面を指して終わった。

「昼で要件ってそりゃあ、これでしょう。其方さんも普段トモダチと食べていましょうよ、それですぜ」

「友達だって?」

「手前も其方のご友人になりたいだけですぜ。その点確かに、だんまりは粋な心得でもねえですが」

 疑問符はお前個人に向けたんじゃない。まぁ、別に重要じゃない。奴の誤解を積極的に正すのは疲れそうだ。

 ふと、或る一文を思い出す。

 カマをかける気持ちではいたが、その割には、微弱な期待が際立ったチョイスかもしれない。

「金時といい、お前といい……。オレは『求道者の足掛かりとはならない』ぞ」

「金時さん? てっきり椛野の名前が出ると思ってましたが、其方とも仲がいいとは」

 頭の隅が冷える。

 手に持った菓子パンを下げて、オレは声を低くした。

「むしろ、どうしてそこで椛野の名前が出てくる?」

「入寮式」

「…………なんのことだ」

「とぼけるんですかい? あれだけの雄姿を見せておいて」

 舌打ちを飲み込む。

 用をさっさと済ませる為に、これだけの回り道を踏まえなきゃいけないとは誤算だった。

「椛野に、その件で新聞部が訪ねてきた時があった。お前もその類か? ほとぼりが冷めたと思ったかもしれないが、そろそろ時効……興味半分に聞くんじゃ、答える義理も無いぞ」

「心外ですぜ? そりゃあ。手前はただ其方と――」

「あのなぁ」

 喉の奥で唸るように、白竹の声を遮る。

「オレは誰彼構わず友好的にするつもりはない。たまたま鱗が全身を覆っていないだけの、竜を身にやつした人外だ。何かを期待するなら率直に言え、腹の探り合いにオレを巻き込むな。この制服は、人間を立てる為のおべっかじゃねえんだ」

 牙でむしるようにパンを齧った。

 顔色は知らない。どう困ろうが、見て分かることを(外見で)判断しなかった向こうが悪い。

「アンタ、気付いてるんですねえ。先ずはそこについて、率直に聞きやしょうか」

 甲斐甲斐しくも、強いアクセントを付けてまで率直さを尊重してくれるらしい。

「其方が人嫌いなら、そもそもあそこで椛野を助けんでしょうよ。其方はすでに、手前の考えに察するものがある、それゆえ人嫌いを口実に口を閉ざしたと見ますがね。一体何処で察しがついたんですかい?」

「買い被るな」

「竜人は元来、聡明さが特徴でありましょう。欠落した繁栄能力を補うべく、知性で種を保存してきた。長命でありながら、魂は本質を損なう事もなく記憶を保持してきた。さて、今どき鱗が出る程血の濃い竜人も珍しいですぜ」

 自分で蒔いた種だな、これは。

 禍根を作ったなら最後まで世話をして芽吹かせるべきだ。いつまでも根を張られる方が困る。

 にしてもやたらと詳しいな。調査してきたと考えるのは、それこそ自意識過剰か。

「丁度一昨日から、椛野は銀狼隊の都合で休んでいた。そしてたまたま、今まで本を借りてこなかった銀狼隊の戦闘隊員が図書館で張っていた。あの時点で思い付いた妄想じゃないがな。ただ、今となっては、本が目的じゃなかった――オレと関わることで達成できる目的が存在するという事実があった」

「ほう? 確かに其方の言う通り、其方と関わる事が目的とは手前が宣言したことでもありましょう。しかしそれこそが、読了した本を返したかっただけなのかもしれませんぜ」

 食い気味に否定する。

「ないだろ。……ボリュームが厚いのは、明確な否定材料にはならない。速読はオレもだ。ただ……『私は求道者の足掛かりとはならない』」

 この一言で、奴は察したようだ。

「……運が悪かったってやつですかい」

「かもしれない。いずれにせよ結果論だが、隠すつもりはないようだな。……『サンタ・ムエルテ』のこの一文、読んで間もない奴が取りこぼすとは思えなかった。これこそ人それぞれだろうが、認めたな」

 オレは捲くし立てる。

「そして、オレに用があるとしても、直接会ってまで探りを入れる必要は無い。本を返すように話し掛ければいい、或いは別の人間へオレの名前を出せばいい、どちらもお前が実際にやったことだ。――最初は金時のことだと思ったが、反応したのは椛野だったな」

 オレはここで、ようやく白竹の顔を見た。

 最早儀礼的ですらある、自白の促しに、さぞ不愉快な顔をしているのだろうと思っていた。しかし反して、奴は笑いを零して言った。

「んー、遊びすぎたなぁ」

「……」

「巻き込まれている自覚のある人間から直々に釘を刺されちゃ、手打ち料を払うべきでしょうね。手前は、椛野と――」

 屋上の扉が開いた。

 横目に捉えていただけなのに、長い赤毛が視線を呼び込む。

「あ、辻君」

 噂をしたら、ってもんじゃないぞ……。

 まぁ、断ち切るにはこれ以上無いきっかけだ。何かを企てているとしても、それに気付いたオレへ、今後わざわざ接する理由もないだろう。

「白竹。まだ続けるか?」

「……さぁ?」

 最早何のつもりか、白竹はとぼけて言う。

 ふざけて流すには互いに剣呑すぎた。それを分からない鈍感じゃ無かろうに。

「白竹?」

 この問いはオレじゃない。

 椛野が反芻した様子を、白竹は挑発的な笑みで見つめていた。

 次第に、奴はオレがベンチに置いていた『サンタ・ムエルテ』をノールックで持ち上げる。

「――どうして貴方のような人間が、この学園にいるの」

 静かに責めるように、椛野は言った。

 対する白竹は受け流すように、本を緩慢な動作で鞄に入れながら答える。

「お前様がそれを言いますかい? 皐月姫サマ」

 立ち上がった白竹は、無遠慮に椛野の脇を横切る。

「トモダチが見てますぜ」

 白々しい瞳で、オレの顔をなぞりながら。

 

 白竹が立ち去った後、椛野は無言で横に座った。

 どういうつもりだよ。

「……ごめん」

「いや。オレも、オレの都合で向こうを焚き付けた節がある。まぁオレは巻き込まれただけだ、謝るものも無いが」

 ふてぶてしいか? 事実ではあるが。

「いつの間に知り合ったの?」

 また探られている。

 妙に気落ちした様子の椛野に、鼻っ柱目掛け、疑問を押し殺せ! と言い付けるのは、酷な話だろう。

「一昨日、奴が図書室で本を借りた。図書委員として受け付けた。それだけだ。友達でもなんでもない」

「そう。……身内の不始末って言葉で片付ける方が、この場合は無責任かな」

「興味があるわけじゃない。話す気のないものを無理に話す必要はないだろ」

 間をもって頷いた椛野に、何かが晴れたような様子はなかった。

 他所を見ながら付け足しておく。

「別に、話したければ話せばいい」

 それだけの義理は椛野にはある。こないだは誕生日だったわけだしな。

 逡巡か、それとも言葉を纏めているのか。パンを四回齧れるくらいの時間が経って、椛野は言った。

「多分、そういうわけじゃないと思うんだけど。人に話したことが無くってさ……それに、ずっと言わないでいるのは良くないっていうのも、分かってはいるから」

 それを踏まえて興が乗らないなら、言うべきは今じゃないんだろ。聞き手がオレじゃ尚更に。

「オレにとって今回の件は、本が無事に戻って来るだけで充分な話だ。そういう身の丈話は、真代か房嶋にでも聞かせてやればいい」

「……ありがとう」

 そもそもの話、言わないでいる方が良くないというのも共感出来ない。オレにとって、人に過去を言うべき機会なんてものは、面接の場で充分事足りた。

 椛野とオレの人生なんて、たまたま同じ学校同じクラスにいなければ、類似点も微かに過ぎる。

 人生の選択の仕方すら違うだろうに、言うべきも言わないべきも、オレが言えた話ではない。

 最後の一口を放り込んで、ずっとベンチに置いて放置していた紙パックのレモンティーに手を伸ばす。

「そういえば、五時間目のことは把握してるか」

「うん。リレーでしょ? 房嶋君から聞いたよ」

 ならいい。

 封を開け損なったレモンティーを、改めて椛野とオレの間に置き直す。

「わざわざここで食べるくらいだ。今は一人で食べたかったんだろ」

 立ち上がって、屋上を後にする。

 図書室に行って白竹と鉢合わせるのも不愉快だ、教室で、慎ましく本でも開いていよう。

 

 

「――ご立派な用心やね。白竹はん?」

「ええんですよ。これで」

 特別教室棟の影、やや肌寒さの残る場で、二人の生徒が肩を並べて話していた。

 棟の壁に背を預け、悠然とした佇まいの白竹。一方訛りのある少女は粛然と足を揃えて立っている。

 人が通りがかることもなく、漂う緊張感を咎める物音もない。

「どの道手前とお姫サンは鉢合わせるんですから、手前の在籍がバレたところでなんの問題もありゃあしませんぜ。あるなら、ほら、其方と違い名前をくれなかった、えらい人の責任ってことで」

「わたくしは庇いまへんで」

 手の甲を唇へ運び、少女は口元を隠す。セーラー服であることを忘れているような素振りに、白竹は何処か満足そうな声色だった。

「結構、結構。房嶋君や真代坂チャンは見えてる地雷でしょうがね、辻君もその類とは思いませんでしたが。火の粉にならんと分かっただけ充分ってなもんですよ」

 呆れ、少女はこの場を離れようとする。

 残す言葉を選ぶ間に、白竹のポケットからやや独特な呼び出し音が鳴った。表情こそ動かないものの少女は冷たい視線を寄越す。

「失敬、失敬」

 言って、少年は携帯端末を取り出す。

「……わたくしも貴方も、役割果たせへんなら、生きてる意味はあらへんで。自分の胸に、たんと確かめておくんなまし」

「はいはいっ、と」

 さして胸に響いた風でもなく、白竹は返す。そしてコールに応じた時、既に少女はおらず、白竹はただ一人、残されていた。

 

 

 

 改めて体操着姿の同級生を見ると、この学園の懐の広さへ感慨に耽る思いだった。

 かくいうオレは代わり映えのない通常のデザインだが。獣人用の尻尾穴などは勿論、翼人である風吹(ふぶき)愁谷(しゅうや)なんかは、脇の下をボタンで締める独特な構造となっており、腕と一体化した大翼でも難を要さず着替えることが出来ている。

 ……身体能力とかを加味して、うちのクラスの体育祭実行委員が振り分けたリレーの走順。オレやその周りは、良く言えば繋ぎ――露悪的に言えば無難なところへ混ぜ込まれた、リレーの、サビとサビの間に纏められている。

「ボクなんて見るからに走るのが向いてないのに、やる意味ないよね」

「おーい付き合ってやれって。初めて体育祭やる奴もいるかもしんないし。てかお前もそうだろ?」

 まあね、と風吹は答える。風吹も、八河(やつが)も、そしてオレも、積極的な連中が練習を進めていく様子を遠巻きに見ていた。

 態度の悪い隣人は体育祭でも平常運転のようで、さてやりますかという気持ちにはならないらしい。

 分からんこともない。風吹の、振袖を凌駕する翼の面積は走るのに向いていないと一目で分かるし、八河は全身が鱗で覆われた蛇人だ。これは鱗がどうというより、蛇人の垂れ下がる尾が他の爬虫類の混血よりも長く、地面に引き摺った状態で走ることになり、これもまた走るのが向いていない身体能力と言えるだろう。

「ていうか、この順番さ」

 風吹が言葉を区切ると、二人は不意に房嶋の方を見る。オレもさりげなく視界に入れてみたら、房嶋は実行委員の顔を立てながらも、体育祭に精力的なクラスメイトの士気を上げていた。

 そして、順番と言えば、オレは房嶋からバトンを受け取る。

 二人は視線を、酷く冷たい瞳をこちらにひとたび向けたかと思えば、息遣いに笑いを含む。

 オレは房嶋からバトンを貰い、そしてオレは風吹へ、風吹は八河へバトンを繋いでいく。

「なんか、段々化け物になってってるみたいなぁ……?」

 ニタつきながら、八河が先の言葉を継いだ。

 ……バトンを繋いでいく。奴らへ、オレが。

「一旦通しで!」

「並んで並んでー!」

 遠くで様子を見ていると、時折、既に決まったことへなんとなく乗っかる瞬間がある。今回もそうだ。いつの間にか決まっていた待機場所へ着いて行き、ぬるっと始まったリレーをアガらないまま見ている。

 房嶋からぎこちなくもバトンを受け取り、走り、風吹へ手応えの無いパスをする。終わり。

 走り終わった奴らの溜まり場になんとなく居といて、例の二人も次第に、外周で待機し始める。

 さて……マジで奴らにバトンを繋ぐのか。

 八河(こん)と風吹愁谷。同じく席を隣接させている小森にはほぼほぼ無関心(これも大概だが、逞しくも己の道だけを見ている小森へ賞賛)な態度だが、オレに対してはなまじっか同族っぽさも感じているのか、かえって冷たさを表面化している二人。

 ふむ。

 「よろしくな! 折角異種族が堂々と体育祭に参加出来るんだ、精一杯楽しもうな」――ムリだな。オレに房嶋みたいなコミュニケーションはムリだ。第一、コイツらは求めてもいまい。

 オレはただ、それなりの居心地で静かに過ごしたいだけだ。他人にもてはやされたいわけじゃない、それこそ小森への対応のように、無関心で居てもらえればそれでいいんだが。

 しかし。

「さっきバトンちょっとミスったよなぁ。もうちょっとしっかり渡した方がいい感じか?」

 房嶋が房嶋みたいなコミュニケーションをしてくる。

 ん?

 まあいい。

「……いや、オレがあんまりだった」

「そっかそっか。ちょっと軽く合わせたいんだけど、今、大丈夫か」

 曖昧な声で頷く。

 これだ。房嶋や椛野がオレを認めてくるせいで、オレまで、何かを持っているような外聞になってしまう。

 多分、八河とも、風吹とも、オレの性根はそう違わないのに。

 違わない? 全然知らない、ただの皮肉屋に対して、よく言う。……でも、奴らが口に出さなかったら、オレは内心で、奴らのナンセンスな文言を唱えていたかもしれない。

 

『──ッ死んで……ないよな!?』

 

 ……なんで今、入寮式のテロを思い出す。

 あれは、目の前で死なれるなら、頑丈なオレが出た方がよかったからだ。

 

『オレは誰彼構わず友好的にするつもりはない』

 

 じゃ、オレはいったい誰となら友好的になるって?

 二律背反。

 人らしく居たいのか。怪物で在りたいのか。

 オレは、ずっと矛盾をやり過ごしているだけ。

「辻?」

 そういや稲袋でも房嶋が傍に居たか。

 オレはあの時、椛野を助けない選択をして、やっぱり目の前の仙慈は助けて。オレが白竹に言ったものは、結局なんの中身もない出まかせでしかないんじゃないのか? 過去に懲りていると聡明ぶって、オレはやっぱり、何かが起こってからしか、判別一つ出来ない――。

「調子悪いか? ちょっと暑いしな、今日」

「え、あ、いやっ……」

 ……なんで今、こんなことを考えてたんだ。

「……悪かった」

 改めて動く態勢を見せるものの、煮えを切らしてしまったか、房嶋は表情を硬くし、広々とした校庭の何処かを見つめた。

 ここで視線を追うのも、奴にとっては鼻白む態度だろう。少し珍しい、顔のいずれも緩めない房嶋を見上げる。

「まぁ、貧乏くじにはなっちゃったよな」

 こういう話では察しがつく自負があったのに、房嶋のこの言葉には気付くのが遅れた。

 房嶋から、ネガティブな話が出てくること自体が予想外だった。

「特に。オレもその側だ」

 オレは房嶋のことを、明るく、平等な男だと思う。さっきまでは分別の付かない男という主観も含まれたかもしれない。なにぶん、見知らぬ悪魔が道端で絡まれている状況に突っ込んでいくような奴だったからだ。それでも房嶋の中に好感度というものは確かにあって、風吹や八河、他にもいる無粋な奴には思うところもあるのだろう。

 その点で言えばオレもそうだ。陰気で、自分から人と仲良くなろうとは思わない。混血の中でも親しみやすさがない竜人なわけで、当然、オレと組み分けられる奴も今まで例外なく外れくじだ。隣の席に四の五の言える立場ではない。

 だというのに、房嶋はあからさまに納得の行かない顔をする。

「その側ね。違うとは言わねえけどさ。辻が今までどうだったか、知らないで言える話じゃないから」

 よく変わる表情筋は、最も馴染みある顔を形作った。

「ま、俺にとって辻は当たりってこと、あんま疑わないでくれよな」

 何様って感じだけど。と、付け足して。

 折角の言葉にも、オレは曖昧に頷くことすら出来ず、ただ来たるバトンに背を向けて待つしか出来なかった。

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