彗星が近い 作:情けない奴!
ハ!…突然の事だった。私は謎の
(何なのこの…不愉快な雑念はッ…)
映像や音声、時に小説や漫画…娯楽作品からなる記憶の激流。情報という波が処理しきれない程の激震のような
「大丈夫なの、マンマ!」
私の名は、マンマ・コメット。記憶にも存在しない、
「大丈夫です。セラーナ・カーン様」
「何でいきなり敬語なのよ…まあ、何ともなくてよかったわ」
現在の状況…宇宙世紀0081年3月28日の小惑星アクシズに私はいる。私の家系はアステロイドベルト時代から何か政治的に関わってきた大物だったらしく、今もアクシズで穏健派に所属する一議員。私は柵も絡むかもしれないが、このアクシズ最高責任者マハラジャ・カーンの三女である、セラーナ・カーン様と仲良く過ごしているモブ娘である。
セラーナ様はあのハマーン様の妹…まだハマーン様にはなってないか…あ!
(これから隠れて、ジオン兵を見に行く途中だった!)
そう、何と受信する前の私とセラーナ様はア・バオア・クーの激戦から生き残った者達を見たく
前の私ならジオン兵に対し、憧れに近い感情を向けていた。だってそうだろう?表面上とはいえ、宇宙民の我々の為に立ち上がったジオン軍の兵なのだ。この記憶が無ければ例え負けたとしても英雄に違いないと、受け入れもする。実際戦った者達は英雄だろう、そこは贔屓なしに語られるべき真実だ。
(悪いのはザビ家…だが地球連邦とまともに戦って勝てるはずがない。しかし、コロニー落としは…)
どっちが悪いかと語れる身分でも、運命を背負ってる訳でもない。大元は地球側の圧力や税などの重圧の積み重ね、そこにザビ家含む政治家が絡む形でジオンの登場。そこから始まる物理的な介入からなる、血塗られた運命の連鎖。
「どうしたの、早く行きましょう。姉さんはもう着いてるはずよ!」
どこか心が躍っているようにも見える少女。姉であるハマーン様の事も大好きなのが見て取れる。友達なのに他人のような心境なのはどうしてだろう…だが同時に思うのだ。
(あの
この記憶がどこまで正しいのか、そもそも本当なのかは不明だが、少なからず奴に興味を持たせないようにしないとマズいかもしれない。
表面上の彼を一言で表すなら完璧人間に近いだろう。若くしてジオン軍の赤い彗星と呼ばれ、ザビ家の良心であり人気者のガルマ・ザビの親友だった…そして、表に出ていないが、ダイクンの子。しかも指導者としてのカリスマも、過酷な人生から会得してしまっている。なるほど…一見すれば場を用意すれば返り咲くと言えばいいのか?上になる器になれるだけの土台はある・・・・・ように見える。
(でも…人前に出る事も、人付き合いも実は苦手で、それでいて頑張ろうとするけど、根っこの部分がそれだから肝心な時に逃げていく人)
過酷な人生だったのだろう。他人事と割り切れる私からすればそれで終わる、数多の記憶が浮かび上がるが…どの世界でも彼の生い立ちを考えれば過酷なのは違いない。幼少期から親を頼れず、大人を頼れず、妹を守りながらそれでも生きて、でも復讐に呑まれ妹を捨て、シャアという仮面を被り復讐に走ると思っていたら…ガルマ・ザビと真の親友になってしまいながらも殺してしまい鬱状態、それからララァ・スンとの出会いと別れを経験。
アムロ・レイ…彼との出会いもまたシャアの人生を狂わせたキーではあるが、一番の原因は幼少期からの人格形成時点で完成していたのではないかというのが結論だ。結局、誰も自分から信用できないのがシャアなのだ。そんな彼と心から接した者達とひっそり過ごせば緩やかに終わったかもしれない、またはシャアに少しでも現状を変えようとする意志があれば…いや、既に終わった事をここまで考える必要もないか。そもそも彼自身が言っていたな『人は流れに乗ればいい』彼自身がもう動く気もないんじゃ、他者からの忠告なんて無駄無駄なのだ。
私個人から言わせれば、どうでもいい男だ。この記憶通りの物語を動かす者だとしても、この世界で生きる私からすれば面倒な男としか思えない。関わらないが賢い選択だろう。少し被害者たちを思い浮かべ…
(関わった女性を不幸にし過ぎよ!)
ただの一人で朽ちていくならそれでいい。しかし、彼の内面を知らない者達からしたら頼りがいのあるリーダー格なのだ…そして、肝心の彼自身が押しに弱い。何だかんだいい所までは行けるから余計に重圧を受けて自滅していくのだ。
(だからってハマーン様を捨てるなよ!)
人生を狂わされた被害者顔…実際に被害者でもあるけど、加害者としての実例が多すぎて庇いきれない。その被害を受けた人物の一人が何を隠そう、友の姉であるハマーン・カーンである。
(今日、シャアとハマーン様は出会う事になる。だがまだ出会うだけ、まだ間に合うかもしれない。私自身ハマーン様と挨拶ぐらいで仲がいいわけではないけど…だがさせないぞシャア!未来でハマーン様が児童を襲う不審者にはさせん!)
シャアと関わったせいで淑女に育ったハマーン様…だいぶオブラートに包んだが、原因はシャアお前だ。明らかに異性として好意向けてくる相手を、妹みたいに可愛いと思うだけとか、性格的に無理なんだと私は理解できるが故に言いたい…
情けない奴!
私は知っている。だからこそ言いたい…歳の差もあっただろう、シャアは20代前半、対するハマーン様は時期によるが14歳~15歳。恋愛対象に見えるかと言えば、個人差があるかもしれないが大事な人が亡くなり、政治的に厄介な関係になりかねない等考慮しても拒否するのも、まあ仕方ない。外的要因を考慮していたのかは不明だが、他者から状況だけ見ても厄介なポジションに置かれるとわかっていたなら、逃げてしまうのも手であるとは思う。
理解はできる・・・でもねシャア…15歳の少女に全権限丸投げして逃げるとか、情けない以前に人としてクズ過ぎて変な笑いすらこみ上げて来るわよ!?しかも、生真面目で表顔のシャアしか見えていなかった幼いハマーン様は理想のシャアを演じ続けて…演じ続けられてしまって歪んで、何かもうダメな方向にぶっちぎりで行ってしまったのよ!つまりシャア、お前がハマーン様と抱かなかったから悪い!
(無理そうなら、ハマーン様を抱かせるか)
やれるか?ではない、やらねばならぬ!私にできる事はやる、絶対アクシズから出させんぞ!ついでになってしまうが、ナタリー・ビアンキ中尉の為でもある。ハマーン様の嫉妬で亡くなってしまったようだが、うんやっぱりシャアが悪い。シャアが大人しく抱いていれば仲良く、ネオ・ジオン復興に励む、ハマーン夫婦が・・・でも、シャアだしな…いや考えるな私。とにかく疫病神の対処を今のうちにしなければ!
色々な事を考えていたが、もうすぐ着いてしまう。我らがジオン兵の方々含む、厄介者たちが集まるブロックに…表面上アクシズはジオン兵達に手厚く歓迎している。本心では手を返したくてウズウズしてる連中の方が多いだろうが…
(政治的立場、武力面の確保、何よりモビルスーツ含む技術面の吸収が目的なんだよね。オマケでパイロットとか、労働力も来るという…移住に伴う問題対処に苦労するだろうけど)
ジオンとて一枚岩ではない。一枚岩だったら連邦に勝ってたか?と聞かれても答えに悩むが、ジオンというわかりやすい象徴を利用したい奴なんて腐るほどいる。言い方が悪いが、マハラジャ・カーンもまたその一人に過ぎない。そんなことを言い出したら、全員そうかもしれないが。
「見てマンマ!あれは確かザンジバルって艦よ」
「…ええ、実物は凄い迫力です」
私達は格納庫ブロックの上デッキにいる。ぶっちゃけ隠れていない、でも誰からも指摘されないので見逃されているのだろう。
(ザンジバル、ムサイ…そして
傍から見たら私は大人しく見てるだけの少女だろう。しかし、内心は違う。好奇心半分、恐怖半分のミックス状態である。これからの未来を疑似的に知ってしまったが故に本物を見れた嬉しさ、同時に逃げられない現実という事実が私を襲う。
私の隣で目が輝いて見える少女が、可能性の未来で姉を語り、己を殺す人生を歩むかもしれないと考えるだけで謎の吐き気を覚えてしまう。全部あいつが悪い!
「ねえマンマ、あれってもしかして赤い彗星じゃ…あのあかちゃんは」
セラーナ様が指さす方向に奴がいた。ああ、そして…ミネバ様か。あれ?こんな場面あったかな、まあ護衛していたシャアがミネバ様を抱えていてもさほど違いはないだろう。どうやらファースト時空の話らしい、ゼナ様もいたが見て分かるぐらいやつれている。
(普通にしてれば、いい男なのに…ほんと)
…情けない奴…
「え、こっちを、見つかっちゃった!?」
シャアが見た。慌てているセラーナ様が可愛い…ではない!
(変なところで
マズい、シャアが来る!何故かミネバ様を近くの者に預け登って来るビジョンが見えた。そんな気がする…そして丁度良いタイミングでマハラジャ・カーンが来た!
「逃げましょう!怒られてしまいます!」
「え、ええそうね!」
私とセラーナ様は逃げ出した。先ほど遅れてマハラジャ・カーンが来たのは、たぶん会うまでの事前準備をしていたのだろう。政治的厄介事の塊が来たのだから、穏健派とはいえ立場が大事なのは違いない。ハマーン様はたぶんその後、初顔合わせだろう。つまり私達はタイミング的に早すぎる接触だったという事だ。普通に考えても、代表より先にその娘が遊び半分で会いに来るとかマズいの一言だ。
『大佐はやさしい方です』
(ッ誰の…こえ…ッ気にしちゃダメだ)
『人は分かり合える』
(残留思念…何で私に話しかける、ララァ・スン!)
『彼を救うには、私ではだめだった』
(…あのひねくれ者を導ける奴なんていない。貴方に理想を見続けた男だぞ?)
『NTとは戦いや憎しみの無い時代を作れる』
(それは理想論でしかない!実際は)
私がNTの真実を語ろうとした時には、残留思念の存在は消えていた。
セラーナ様と息を切らしながら、でもやり切ったような清々しい顔をされた様子を見ながら別れた。この時では、私という友達が彼女の笑顔を作れるだけの存在としてここにいる。その事実に謎のやる気が湧いて来る…守らねば。
「何で私なんだ。そこはハマーン様とかに言いなよ、私の代わりに大佐を抱け!とか伝えれば今の時期でも行けるんじゃない?はぁ…」
考えないようにしたが、シャアから逃げようと背を向けた時…私は確かに女性の声と会話していた。
(私がNTですって?どんな冗談よ、私がしがないモブよ)
スウェッセム粒子…未来でNT能力の真実に辿り着いた者達の技術の名称。まあ、この時代では関係ないかもしれないが、何が言いたいかと言えばNTなんて科学的に証明されてしまえば、NT論の象徴【平和な世界】を創る存在がNTという過程なんて最初からなかったと同じなのだ。
(平和なんてない…そうでしょう?ララァ・スン、私にとって貴方も被害者の一人で終わるのよ)
そう。私にとってこの地獄のような現実をどうにかする。生き残る、できれば知人は助ける、それぐらいが限界、それぐらいしか思えない女なのよ。
「意外と逃げ足が速いなお嬢さん?」
…聞きたくない声が背中から聞こえる。正確には気づいていたけど、知らないと思い込んでいたか。もう無理だけど。
私は一息入れ、振り向く。ブロックにいた時は緑のパイロットスーツだったが、今は記憶に残るあの赤い彗星の軍服…そしてあの仮面を脱いで私の前にいた。
整った顔だ。美男子と言えば100人中100人は回答するぐらいには美男子だと思う…ララァを亡くなった傷が色濃く出ている為か、全体から発せられる水に濡れた犬のような悲壮感がどことなく漂う色男。この色気にカリスマ、そして大事に思ってくれる的なアプローチ…はぁ、これでハマーン様を堕としたのか。これで無自覚な部分が大半とか呆れがきてしまう。私もこの記憶がなければ惚れていたかもしれない…描かれていたら、知らないところでフェードアウト的に消えていただろう。そう考えた瞬間、目が死んだ。
「マハラジャ・カーン様とお話は?」
どうせ逃げたんだろ?…普通は思わないだろう。いかにも病人っぽい人と赤子、護衛の人もいたとはいえ、あの場で一番頼りがいのある人物はこいつなのだ。何より、護衛対象を置き去りになんて。
「なに、今はジオンにとって大事な時期。一端の兵が口を出す案件ではないさ」
(正しい事言ってるかもしれないが、病人を置き去りにするなよ!絶対ゼナ様困惑してただろ!確かにジオンにとっても、政治的にもミネバ様含めて大事な話もあるだろうよ!確かにどんな立場でも今のシャアは兵士に過ぎない。だから大事な話の際は間を置く時もあるだろう、でもな?それは護衛対象を安全な場所へ誘導、そして会議できる状態にしてからの話だ!そもそも病人なら尚更いなきゃ駄目だろうが!心の支えとかも考えられんか!?そうだよな、お前無理だもんな!本当に内面とか理解するとこれほどイライラする人物もいないぞお前!!)
結局こいつ逃げたのだ…その原因になったのが、自分の小言とはいえ、普通は(あいつから何か自分を馬鹿にする何かを感じた)的な考えに至っても追いかけてこないだろ普通!?絶対、私を理由に外に出て来たぞこいつ。どうせ、『あの少女から不思議な感覚が』とか意味深なセリフでもほざいて出て来たぞ!
「…こんな少女を追いかけて何か?」
「魅力的だったものでな、つい追いかけてしまった。どうだろう、少し話さないかレディー?」
(このやり取りで無自覚部分があるとか嘘でしょ?傍から見ても攻め100%のタイプに見えるわ!)
普通の女の子ならキュンとなる者もでるだろう。しかし、私にとっては逆効果だ。呆れたようにその場を後にしようとする。だって、ここまでのダメ男を知ってる身としては頭を抱えたくなるだけである。
「このアクシズもザビ家のように一枚岩ではありません。ましてや、新たな火種が来ました」
「ほう…君はジオン兵が火種だと。戦争継続派と強硬派がくっつくと見たか、その歳でよく見ている。私も集めた情報だが、戦争継続を望む兵と接触する連中がいると聞いた。対処するなら、混乱している今のうちに動いた方がいいだろう…君はどう思う?」
(そういうところだぞ!無駄に頭が回るからって口に出すなよ、本当に頼りがいのあるリーダーみたいな奴だな!)
本当にリーダーみたいにまとめやがって!だがこの場合はいい、私が我慢するのだ。私が行こうとしたのを見て、私の言葉を聞く気が強くなっている。
「…残念ながら、マハラジャ・カーン様は最高指導者であるのは認めますが、穏健派。もっと言えば、血を見るのをお嫌いな方です」
そうなのだ。マハラジャ・カーン様は有能なのだ、しかもこの宇宙世紀において信じられない程、まともな思考…甘いとも言えるが、あいつを野放しにするとマズいと理解していながら、事件が起きるまで見逃してしまう甘さが目立つのだ。
「君は私に血に染まれと…?」
「さあ…でも貴方を頼りにしてる者は沢山いるようですよ?貴方はもう他者と関わりたくないでしょうけど」
口にして言い過ぎたと思った。完全に興味を失せるような言葉は逆効果だ、程々に責任を押し付けて逃げれない程度のストレスを与え続けるのが、こいつとの付き合い方だと知っているのについ口が滑った。
今度こそ背を向けて歩き出すと…前に回り込む様に塞がれ、壁ダァァンをされた。ああ、少し頭にきた感じだなこれ。
「レディー、君の名は」
「…マンマ・コメット」
「ではマンマと呼んでもいいかね?」
うわ…背筋がゾワゾワする!?これは、あれだ、私の名前を呼んだけど別の誰かを重ねたみたいな感じだ。まあ、こいつが重ねる存在なんて一人しかいないけど。
私はララァ・スンにはなれませんよ…シャア・アズナブル…
通り過ぎていく少女…マンマ・コメット。その背を見ながら、どこかこの
「間違いない…NTだ…」
自分を導いてくれる存在の登場。そして、同じく導く者であるはずの存在に奪われた。自分は生きる意味もない骸になるはずだった、だがまだ俺はララァの導きでここにいる。
(ララァ…彼女なのか、私の力とは)
生きる意味を失い、導きを失い、
(マンマ、私を導いてくれ)
彼は進み続けるだろう。それが今はいない少女の声であろうと、真実しか知らぬ少女の声であろうと、彼は永遠に真実を求める亡霊となったのだから。
見て頂きありがとうございます。今後も続いても、たぶんシャアが情けない奴から向上するかは未定です。それでもいいのなら今後ともよろしくお願いいたします。