彗星が近い   作:情けない奴!

2 / 10
第二話でマンマの具体的方針を語ります。子供の視点って大変ですね。


彗星には男をぶつけろ

 

 このアクシズの問題を大まかにまとめてみよう。第一に派閥争い、第二にジオン兵たちの処遇、第三に連邦からの圧力、第四にインフラ整備など諸々。

 

 第一の派閥争いについては、マハラジャ・カーン率いる穏健派とエンツォ・ベルニーニ大佐率いる急進派の争いだ。どちらも我々スペースノイド(宇宙居住者)の地位向上について真剣に考え取り組んでいる派閥であり、どちらにも支持者がいる。しかし、エンツォ・ベルニーニ大佐は良くも悪くも現場上がりと言うべきか…物事に対する考え方が極端であり力業で動かすきらいが目立つ。兵士達からは人気があるが、全体的に見たら一部だけだ。現状はマハラジャ・カーン支持が多い。民間人達からしたら、もう戦争はしたくないという意思の方が強いのが本音故だ。

 

 このまま政治的争いを続けてくれるなら楽なのだが…私の記憶で行った彼の裏工作の数々を今後行うならば面倒な事になる。まあ、例え記憶がなくても彼ならクーデターぐらいやりかねないと皆理解できていただろうけど、優先して何とかする課題である。

 

 第二にジオン兵については、第一の急進派側との接触する一部の連中が問題だ。ジオン兵と言っても全員が問題を起こす訳ではない。まあ、そもそもジオン兵を受け入れざる得ない状況の今の時点で政治的観点で言えば問題と言えるのだが、私は政治家ではないのでそこは気にしない。それに、アクシズ計画時代まで遡ってデギン・ソド・ザビ云々の話を続けたら別の問題まで浮上してくる。気にしたら負けという奴だ、そんな薄汚い話は大人の役目である。

 

 ジオン兵に限らず、戦争で血を流し続け、血に染まった者達は常人では理解できない心境になりやすい。戦争後遺症と一言で表せれば終われる程、争いとは簡単ではないのだ。実に度し難い現実だが、荒治療になるが解決できる策はある。問題をそのまま擦り付けとも言える策だが…これは保留案件。今やれる事と言えば、第四のインフラで語ろう。

 

 第三に連邦からの圧力については…語らなくてもいいかもしれないが、ジオンと手を組んでいるのが問題だ。仕方ないのだが、アクシズはジオンからの援助でできた惑星兼自治権の保有に近い立場な為、実質ジオン本国のような~ジオンでないような~言葉で表してもとても微妙な立ち位置という現状なのだ。アクシズ民やジオン兵諸君からしたら、ここはジオンだ!と言ってしまうだろうけど…表面上はアクシズ自治領?でゴリ押し中だ。そういう駆け引きができるのが、マハラジャ・カーン様なので私は純粋に尊敬している。エンツォ・ベルニーニ大佐は絶対できないやり方だ。

 

 連邦からどんな圧力があるか…それはインフラの話にも繋がるが、ハッキリ言うと全部だ。宇宙で賄える貴重な鉱石とかを除いて、地球産の食料から娯楽品などほぼ全部が高い税を課されている。その他にも、カツアゲ染みたコロニー間の物資運搬に伴う駄賃等々…とにかく嫌がらせが目に見えて酷い。正確には目には見えないが、インフラという形で我々を襲ってくる。このままでは生活の質が低下し続け、人々の心から新たなジオンを生みだしかねない事になる。この問題も重要な課題だ。

 

 そして、第四の問題がインフラの整備諸々…どうすればいいんだろうね…記憶通りならアクシズに段階的にジオン兵達、約3万人が来る。記憶では数年かけて受け入れ準備を何とかしたようだが、後のコロニー事情などを踏まえても治安の悪化は避けれず、アースノイド(地球居住者)との摩擦が引火するレベルで爆発する。

 

 戦争直後で高ぶってる兵、民間人、とにかくインフラを整えて、高ぶる闘争本能を消火しないといけない。肝心のインフラを整える伝手が・・・・・作れはする。ただし、私では手玉に取られて終わるので協力者が必要。

 

 

 

 

「やる事多すぎ!!」

 

(何なのこれ!?記憶を少し見るだけで、地獄が広がってるんだけど!?)

 

 頭が痛い。本当に痛い。私がまだ政治的観点を学んでいない為、記憶から必要な事を抜き出して考えただけでこれだ。私みたいなへっぽこ少女より、それこそマハラジャ・カーン様がこの記憶を持っていて欲しかった。

 

(しかも、しかもよ!今考えた事を何とかクリアしたとしても今度はティターンズとか出て来るんでしょ!?もうイヤ誰か助けて!!)

 

 自室のベットでバタバタと足を動かしながら涙目になる。どうしてこんな現実を教えたのだと、見えない神に怨みの一つも送ってしまう。モブであり、13歳の少女に何ができるというのだと…疲れた彼女は思った。

 

「・・・・・全部シャアに任せようかしら、ハハ無理よね…」

 

 シャア・アズナブル…キャスバル・レム・ダイクンと言った方がいいのだろうか?彼ならば何やかんや問題を対処できるかもと思ってしまう。実際に任せた場合、成功する可能性もある。それだけの実力、人々をまとめ上げるカリスマはあるのだ。

 

(でもその後が…確実に破滅するのよね)

 

 頼り過ぎた場合、彼の背を見ていた者達は挙って地獄に落ちる…比喩ではない。彼はどんな立場になろうと、最終的に自己以外どうでもいいと考えてしまう人種なのだ。カリスマがある指導者を見ていたのに、見えていない、彼の言葉を借りるなら『これでは道化だよ』とでも答えよう。

 

(シャアを上手く使うなら、会社で言えば社長より中間管理職が正解なのよね。ただし、社長より中間管理職に支持が集まるという意味が分からない状況になるけど。そして問題の人物は指示されたこと以外受け入れず、面倒になったら逃げると…情けない奴…)

 

 でも…そんな奴に頼らないと現状を打破もできない自分はもっと情けない…はぁ…

 

「病は気からよね・・・よし!」

 

 私は起き上がり、気合を入れる!どんな理由があっても、これから起こりうる問題に対処できる立場にならざる得ないのだ!生まれ育ったアクシズの為、友の為、そして私自身の為にも頑張るのだ!

 

(まずは仲間を増やす!シャア・・・ッやってるよ、お前を管理してやる!気合よ私!NTのなりそこないだろうが何だってんのよ!アムロさんの怪文書に比べればどうってことないわ!)

 

 そうと決まれば、シャアがいるであろう場所を思い浮かべ…マハラジャ・カーン様の執務室とかを想像した。

 

「…流石に無理よね。いえでも、まだアクシズに来たばかりなのだから自由行動も多いはず!」

 

 こういう時、父親が政府関係者なのが都合が良い!私は自室を出て、父親の書斎に入る。今日は偶然にも自宅にいてよかったと思いながらノックして中に入る。

 

「お父様、少しお話…失礼しました

 

 タイミングが悪かったようだ。丁度誰かと連絡している最中であった…連絡が終わったのに合わせて声をかけようとすると、父親の方から告げられた。

 

「マンマ丁度いい時に来た、これから一緒にマハラジャ提督に会いに行こう」

 

 …なんて都合がいいのだろう。同時に疑問が出てくる、何で私がと思ってしまうが、答えは実に簡単だろう。私に興味引く何かを感じた、あるいは誰かの入れ知恵でも貰ったか。

 

「…シャア大佐から何か?」

「おお、大佐が言った通りお前は賢い子だ!大佐からの推薦を受けてな、是非これからの未来について意見をとな。ははは、私にも一言伝えてほしかったな、大佐が感心するほどの論を説いたとか」

(…あの自己中心野郎!私と会いたいから一部を誇張して伝えやがった!どうせ自分で会いに行くと面倒な状況になるな、そうだ呼び出そう!的な軽いノリで言ったに違いない!!あいつは他者の事情なんて考えないからな畜生が!!)

 

 悪態を言葉に出したい欲求を抑えながら、落ち着く。都合が良いのは事実なのだ、その経由を考えなければ自分にとってプラスになる事柄にいちいち気を尖らせていたら、埒が明かない。

 

 準備を素早く済ませ、車に乗る。そこそこの速さで、しかし確実に目的地に向かう道すがら…アクシズの現状が目に映る。

 

 仮住まいを建設している地区もあれば、心身共に高ぶるあるいは落ち込む者達に対し商売に励む者、新たな移住者(ジオン兵)を歓迎するムードが広がっていた。

 

(…仮初の宴なんて馬鹿みたい…ああ駄目ね、この記憶のせいで物事を軽く見てしまいがちになる。前までなら私もあの宴に笑顔で参加したいと笑っていたかもしれないのに、私自身も度し難い者達の仲間入りね)

 

 アクシズに住む労働者階級の者達は、新たな労働力として受け入れているのだろう。

 

 ジオンと連邦が停戦しているからできた平和な時間。その意味を理解した上で宴をしているなら、なんて残酷な事をしているのだろうと私は考えてしまう。

 

(彼らに悪意があるのか、ないのか。どちらにしても、戦場帰りからしたら暖かく迎えてくれる場所は一時の支えにはなる…でもその後は?満たされた心を維持できる環境のままならいい、衣食住が満足に配給されると確約できるなら最高だが…)

 

 どうしても暗く考えてしまう。そもそも明日の未来を見るすべなんて本来ないのだ。私が第三者の視点となり、同じ生きる者達を見下ろすなんて本来あってはならない。神になったつもりではないが、この悪意に満ちた(宇宙)の中に本当の神がいるなら、それこそNTとしての何か、偶像の中の悪夢とでも呼んでやる。…何だこの変な例え。

 

(駄目だ!シャアと話すときの為にアムロさんの怪文書を読み解こうとしたせいだ!インドの神々とか仏教とか、寝ながら意味わからん事を考えたせいだこれ!?)

 

 シャアを語る上でアムロ・レイの存在は必要不可欠な要素になる。だからこそ、彼の考えを読み解こうと彼に関する記憶を思い浮かべながら昨日の夜を過ごした。

 

 アムロ・レイはシャアのライバルと呼ばれる人物のようだが…私が思うに、シャアの一方的な思い込みに巻き込まれただけじゃない?としか思えなかった。嫉妬心とも呼ぶかもしれないが、シャアの思い、考え、その立ち振る舞いに伴う他者の考えが伝達していきライバル関係と認識されたとしか思えなかった。

 

 物語の主役として描かれた彼は、シャアと真逆の位置にいる存在だと先に伝えておく。相対的に見て行こうか、まずシャアは母親の愛情を受けて妹と育つのに対し、アムロは父親の愛情を受けて育つ。男女の差はあれど愛情は受けていた、そこからの転落人生がシャアを襲う。ザビ家含む政治的、大人の事情などで母と別れ、幼いながらも妹を守るために自身が大人になるしかなかった。アムロは父親から機械工学関連の教えを受けながら自分の趣味に没頭するなど互いに認め合い、愛情を感じながらすくすく育った。この時点で人格に差異が大きく出る切っ掛け、愛情の差が生まれる。

 

 そこからはまあ、わかりやすいのだが、大人が全て敵としか思えない環境で育ったシャアと緩やかな学生時代含む自由に育ったアムロと…本来なら互いに絶対話が合わないタイプなのよね。実際合ってないけど、変わる切っ掛けはあったはずなんだけど、そこはシャアだから仕方ない。

 

 描かれていたアムロ・レイは、友達の付き合いもあれば、自分の趣味に全力を出せるだけの精神性も持ち合わせている…彼に悪いかもしれないが、その精神性こそ完璧なシャアに必要な要素を持って育ったのだ。

 

(NT要素限らず、シャアが気にする要素の塊だったのがいけないのよ・・・あの理解不能な強さは何なのかしら?叩き上げとはいえ天性の才を持ってても数ヶ月の実戦で最強になるとか、人間性は普通だけど他者から見たら化物としか見えないわね)

 

「さあ着いたぞ。どうしたボーっとして」

「ああ、考え事を…シャア大佐も会議にいるのですか?」

 

 父は落ち着かせるように私の頭を撫でてくれた。私はこの気遣い、そして感じる確かな愛情が私を包む感覚に安らぎを感じた。この一時の安らぎが、遠くなった過去の私を思い出させてくれる。

 

「あまり考えすぎるな。お前はまだ子供だ、今回の会議だって父さん達でまとめた事を少し話すだけなんだ。心配するなシャア大佐だってお前のサポートをしてくれるだろう」

(何を伝えたんだあいつ!お前のサポートなんて厄介事の前触れとしか思えないわ!?)

 

 表に出さないようにしているが、不安感が己を支配していく。会議で意見を聞かれた際の事もそうだが…シャアお前だ。奴が何を言うのか、自分にとって都合が良い事柄を優先して言うとわかってるが故に不安なのだ。

 

(あーもう!シャア!どこまでもどこまでも私をバカにしてぇっ!)

 

 全部シャアが悪い!お前が無駄に能力が高いせいで頼りがいがあるのが悪いんだ!理不尽な事を考えてるのは自覚している…でも理不尽を生みだす権化がお前だというのなら、こうもなろう!

 

 そんな八つ当たり精神で歩いていると…ピリッとする感覚が襲ってきた。その方向に顔を向けると、ピンク髪のツインテールが目立つ活発なお嬢様が・・・・・見るからに嫉妬しているような瞳で私を見ていた。その後ろにナタリー・ビアンキ中尉が佇んでいる。

 

(は、ハマーン様!?どうしてそんな目で私を…いや考えなくてもわかる、シャアめ!もう手を出したのか!)

 

 あちらも気づいて形だけの挨拶をしてくる。こちらも内心では混乱していたが、何とか挨拶を済ます。父は先にマハラジャ・カーン様たち穏健派議員に挨拶へ行ってしまう、この時ばかりは行かないでと歳相応に泣きたくなってしまった。

 

「…シャア大佐から呼ばれたみたいね?マンマ…貴方がセラーナとブロックに行ったのを聞いたけど、大佐と会っていたのは知らなかったわ」

「挨拶をしただけです。ハマーン様」

 

 あ…丁重に返答したつもりだったが、その対応がハマーン様に火を注いでしまった感覚に陥った。

 

「別に様はいらないわよ!セラーナにも言ったけど勝手に行っちゃダメでしょ!」

「すいません」

「ッ貴方、本当はシャア大佐と会いたいから!」

(いやそれはない…できれば会いたくないです。逆にハマーン様がシャアを抱くなら全力で応援します!)

 

 口に出しても火に油、業火の中の栗を拾う気にもなれず、彼女の鎮火を待つしかない。ハマーン様と既に出会っていたシャア…遅かれ早かれ出会う立場なのでそこは仕方ないと割り切れる。だがこの怒りようよ、シャアの奴が何かデリカシーのない事を言ったのであろう。例えば、ハマーン様がシャアにアプローチを賭けている時に、私の事を聞くとか・・・やりそうだな、シャアだしな。

 

「こら、その辺で止めてあげなさい。ごめんなさいね、マンマちゃん。ハマーンは今ちょっと怒りやすいだけだから」

「ナタリー!どうしてッっうっうう!!」

 

 な、泣いてしまったァァァァ!?畜生シャア許さん!?ど、どうすれば、これは誤解なんだって伝えなければマズい!

 

「私はシャア大佐の事なんて興味ないです!」

「っッ嘘つきっうう」

 

 ど、どうすれば、シャアの事を正直に伝えるか!?母を求めて、NTという宗教に嵌って、自分以外どうでもいい自己中の駄目男なんて私は好きではありません・・・いや駄目だ!冷静になれ、そんな戯言みたいに捉えられるのは確実。それどころか、私の印象がとても悪くなるだけだ。ダァァ!シャア貴様!修正してやるぅぅ!何でお前表顔だけ良いんだよ、批判もできないじゃないか!

 

 見るからに混沌とした場だったが、そこは冷静な大人のお姉さん、ナタリーさんが前に出る。薄笑いをしながら泣いているハマーン様を抱きしめ、ゆっくりとその場を後にしていく。その時、軽くこちらに薄笑いで会釈していくあたり場慣れしていると、こんな時なのに冷静な部分の私が感心していた。

 

(た、助かった…いや駄目じゃん、このままだとハマーン様から敵認定受ける!お、落ち着け、汚名挽回せねば、まだチャンスはある!)

 

 ハマーン様は歳相応…この場合は私が変なだけか。感情のコントロールができない時期の彼女から嫉妬心を向けられる、傍から見たら可愛らしいのかもしれない。でも私からしたら断頭台に乗せられるのと一緒の意味に近い。

 

(ハマーン様も嫉妬深いんだよ…ああ、最悪。ナタリーさんもシャアの毒牙にかかる前に離さなければ…つらい)

 

 このままにしておくと、場がよければ偶然・・・私が事故に合う可能性ができてしまった。どうやって仲直りしようとオロオロしていると、父が迎えに来た。

 

「準備はいいかい?」

 

 無理です。とは言えない…私は何ともないように歩む。会議室に行くのかと思ったが、向かうのは執務室の方だった。意見を聞きたい的に聞いていたが、穏健派全体で聞きたい訳ではないようだ。まあ当然か、シャアの一声があっても、たかが13歳の子どもの考えに耳を傾ける輩なんて普通はいない。

 

(それでも呼ぶ辺り、マハラジャ・カーン様にとってシャアという存在が大きいということ…これでシャア自身が自覚を持ってくれていたなら・・・むりなんだよなー、シャアの中では責任逃れじゃないけど、面倒過ぎる関係にはならないように一線引きたい気持ちで動いている。だから情けない奴なんだよ!お前を考える度に、私を苛立たせる!)

 

 執務室前にきた。コンコンとノックして、無礼のないように入る…そうすると、優しそうに歓迎してくれるマハラジャ・カーン様・・・そして、クワトロ・バジーナ…じゃないか、グラサンを付けたシャアがいた。

 


 

 

「やぁ、マンマ」

 

 彼女が執務室に入って来て、私は軽く挨拶をした。彼女はその様子に前と同様にどこか呆れたような雰囲気で挨拶を返してくる。

 

「昨日ぶりですね、シャア大佐。こんなお早い再会になるなんて夢にも思いませんでした」

「それは良かった。私としては、君との有意義な時間を取りたいと思っていたのでな」

 

 その言葉を投げかけた直後、最初に出会った格納庫ブロックでの感覚を感じた…どこか自分を憐れむ、そして叱るような・・・どこか懐かしい(アストライア・トア・ダイクン)からの思いのような感覚が自分に突き刺さる。

 

 幼い時に子供だった自分、(アルテイシア・ソム・ダイクン)と共に優しく包み込んでくれた確かな愛…俺という個人を知った上で叱る母の愛、何故か彼女から感じてしまう自分がいた。正直に言えば、母から叱られた経験なんてない。強いて言えば…冷たくなっていく母の体を、母の思いを一心に受けた時から、心の底から己を怒ってくれた者なんていなかった。

 

「…---である為、新たな移住民に伴うインフラ整備は早期に行う必要があると思います」

「ふむ…私達としてもその意見は出ているが、具体的な解決案がな」

 

 目の前で繰り広げられる、少女と老人の会話。彼女ならできるのではと思ったが、やはり彼女は人々を導くNTであるのだと強く思った。常人では理解できないであろう、たった13の少女が、政治のましてや今まで社会という世論すらも目に映していないような、少女が、その頂点にいる人物と対等に会話しているのだ。その父親の方を見れば、唖然としている様子から普段はその片鱗すら見せていなかったのだろうと読み取れた。

 

(やはり彼女は刻が見えている)

 

 ララァの導き。失った愛すべき存在からの願いによって、己は新たな導きに出会った。

 

(だが彼女は、ララァにはなれない…か)

 

 背を向けられながら発せられた言葉。それは導き手として、自分の前に立たないと彼女は言ったのだ。だがそんな事を認められるわけない。彼女がこちらに興味を持たせるようにアクシズの現状を話したのは理解していた、だからこそ、この場を用意したのだ。彼女自身の能力を活かしつつ、己も手伝う事の出来る関係に、彼女もそれが望みだったのだろう。シャアという存在の力を借りたくて、ならば望む様にするまでだ。

 

「…インフラを抑えるには、コロニー間の連携では限界がでます。ましてや連邦にとって我々ジオン、アクシズの者達は格好の的、丁度良い当てつけ場なのですから」

「ふっ…ハッキリというな、マンマ嬢?」

 

 彼女はこのアクシズに思いを縛られている。彼女の意思、彼女の思想、彼女の願い、彼女が思う理想こそNTの未来への近道だというのなら、アステロイドベルト時代から進歩していない者達に対し、新たな一手を見せるはずだ。

 

 その思いを乗せ、彼女の瞳を覗きこむ。それに気づいているように彼女は続きを話した。

 

「地球連邦政府との取引を行いましょう。援助を頼むのです、少なからず餓死する者達は減るでしょう」

「な、何を言ってるのだマンマ!申し訳ありませんマハラジャ提督!シャア大佐、これは」

「…いや、いい。続けてくれ」

「私も問題ありません」

「いやしかし」

 

 ハッキリという。言葉にする者が違うだけでこうも心境に変化が出るのだと己ですら思う。彼女は理解した上で、この場で言ったのだろう。ジオンという側に立ち命がけで戦った者、その者達をまとめ上げる最高責任者、双方の前で敵と取引しようと提案するのだ。全く、驚かされる。

 

「取引相手として、連邦政府参謀本部所属ゴップ大将がよいかと」

「・・・ジャブローのモグラと取引か。何故だね」

「良くも悪くも政争が彼の戦場だからです。他の者達だと、席に座る事すらしないかと」

「取引材料は何だね」

「貴重資源含む、労働力の提供」

「…君は何を言っているか理解しているかね。我々は奴隷商ではないのだぞ!」

 

 マハラジャ提督は拳を机に叩きつける…当然の反応だ。彼女の案ではスペースノイドの住民が完全にアースノイドの者達に屈服しろと言ってるようなものだ。穏健派とはいえ、全面降伏なんて絶対通るはずがない。

 

 しかし、私は彼女がわざと通らない案を示したとわかっていた。彼女の瞳が語っているのだ、それはまるで、我々兵士のような覚悟をした瞳が。

 

「相手側から支援だけ貰える奥の手があるとしたら…マハラジャ・カーン、貴方はその手を血で染められますか?」

 

 動揺する場を作り、己の案を通す。政界でよく使われる手をこんな少女が使ってくる。

 

「・・・今日の話し合いは、ここまでとしよう…いいかね、マンマ嬢…」

「…ええ、わかりました」

 

 …彼女の問いにマハラジャ提督は応えられなかった。それは彼女自身が知っていた、つまり真にこの議題を話したいのは…

 

 彼女が扉の奥へと消えていく。すぐ近くで待っているであろう感覚を覚え、己の考えが合っていたと確信した。

 

「シャア大佐…彼女はNTなのだな」

「ええ、間違いなく。マハラジャ提督も感じたはずです」

 

 この短期間で更に老け込んだように見えるマハラジャ提督は、己の心境を語った。

 

「…私は恐怖した。NTなどの考えではない…まるで全てを知っているかのように話すのだ、我々大人が揃って考えた土台を十年そこらしか生きていない少女が掘り返す様はなんと滑稽か」

 

 眉間のシワを伸ばすように手を置き、下を向く。その様子に、新しい世界に取り残される者の姿かと思いを乗せながら彼女の下へ歩みを進めた。

 

「NTはエスパーではありません」

「人の革新であろう…」

 

 マハラジャの返しにシャアは答えなかった。

 

 

 

 

 

 私が思う地球連邦との双方の立場を均等にする方法にはいくつか方法がある。だがどれも、力業で行う作業が必ずあるのだ。

 

 具体例を挙げるなら…『ザビ家の復讐装置』とか。相手側が黙っていられないレベルの何かを持つこと、抑止力を持ってしまう事が手っ取り早い解決策である。

 

(まあ、それは最終手段だけど…)

 

 今回の話し合いでしたかったことは、私がただの子どもじゃないと理解させる為だ…父からも恐怖の感情を感じ取り、気分が悪いが仕方ない、そう…仕方ない。

 

(ラプラスの箱も手段の一つだけど、サイアム・ビストがまだ現役の今では下手に敵対行為はマズいか)

 

 …父に一言伝え先に帰ってもらう。私は出口前で待っていると、そうすれば、必ずやって来ると確信していたから。父は何か言いたげだったが、一言告げて帰っていく・・・

 

「待たせたかな、マンマ」

(…何が待たせたかなだ!サポートも何も気色悪い目線と熱を向けやがって!変に意識したせいで言葉に圧が無駄に入った気がするわ!)

 

 落ち着け、落ち着け…私には、アクシズには時間がないのだ。自分を処せ、大事な者達を失う事になりかねなんだ…冷静に一つ、一つ問題を対処しよう。まずはシャアの女問題からだ!

 

「シャア大佐…私にジオン兵の皆さんとの架け橋となってほしいです」

「ふっ、私に導き手となれと?」

 

 お前なんぞ先頭に立たせん!

 

「いいえ、私と一緒(・・)に歩んでほしいのです」

 

 …こいつ動揺してるな、そりゃそうか、お前対等な友達いないもんな!私がなってやるよ!これが私が出した結論、こいつを上手く動かすなら隣で対等な立場で誘導するだ!

 

「貴方にとっての相棒に会わせますよ、MSのメカニックになりますが」

「…サポート役ならナタリー」

「駄目です」

 

 お前に女性は危険すぎる。シャアに女だめ絶対!これからお前には男性しか近くに置かんぞ!これから必ず、急進派が暴れるのは確定なのだ。今のうちに対処できることはしておく、事前に止められたらよかったが…流石に暗殺しろとか、そもそもそんな事を頼める伝手なんてない。だから、使える人材を集めちまおう作戦だ!

 

 …最初に会いたい方の名は伝えておきますね。まずは、オリヴァー・マイ技術中尉です…

 

 

 

 

 






 ガルマ三部作はいい作品。でもガルマ、お前はもういないんだ…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。