彗星が近い   作:情けない奴!

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第三話、仲間集め第一弾。オリヴァー・マイ技術中尉編、無駄に長くなって物語が進みませんでした。申し訳ない。


彗星と技術者

 

 風に草靡くとはよく言ったものだ。戦争が始まり、戦争が終わり、また始まる。同じ人であるのにスペースノイドやアースノイドと区別する思想の転換、その全てが一部のエリート達による独断によって決まり、新たな常識という枷がこの空を覆い尽くす。

 

(パプテマス・シロッコが語った、常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才という言葉はある意味合っているかも…まあ、言った本人も一握りの天才にはなれない凡人よりは上で止まった天才だったけど)

 

 私は今、シャアと軍用車両でアクシズ居住区付近まで移動している。オープンカーな為、私は髪が風でなびかないように後ろでまとめながら、この世の道理について考えていた。人生経験が乏しい私が、この世の真理に近い記憶を持ってしまったが故の瞑想のような習慣である。

 

(…ほんと、子どもじゃいられないわね)

 

 こうして思考を続けて、実際は何もできない言葉だけの少女、それが私…ませガキって私みたいな奴よね。こうすればいいのに、ああすれば、言葉にするだけで力のない無力な子供…そのまま終われるならどんなに楽か。

 

(でも、それでも、と言い続けた者達を知ったおかげで…私はまだ頑張れるかな?)

 

 この記憶によって未来を知った。NT…その一端に触れ、私もまたNTになってしまった。だからこそ、と割り切れた訳ではないが、故郷や友や自分の為、前に進み続けると決められたのだ。

 

 …流し目で運転しているシャアを見る。そして・・・・・内心でため息を吐いた。

 

(人として駄目なのは知ってる。自分と他者を比べて、ああこいつよりマシだと考える自己制定感に浸るのは、駄目な事だ)

 

 覚悟を持った者達を知った。絶望の先を知っても、暗い闇の中だとしても、ほんの少しの光を創る者達の物語を知った。だからこそ・・・

 

(・・・こいつだけは駄目だ!いい歳になっても覚悟の【か】の字も理解できなかった人生を送りやがったこいつは、尊敬の欠片も湧かない!)

 

 シャア…何でお前はもう少し、自分を見直す気がないんだ。チャンスはいっぱいあったのに…畜生、こいつと長い付き合いになると考えただけで、憂鬱気味になってしまう。

 

 私の視線に気が付いたのか、シャアが口を開く。話す気もなかったが、この際だから聞けることは聞いておくとしよう。

 

「どうした、マンマ」

「…いいえ、そういえばハマーン様にお会いしたそうですね」

「ああ、彼女か。よい素質を持っている、未来に期待だな。君の友達が彼女の妹だと聞いたが」

 

 やっぱりこいつ私をだしに話題作りしてやがった!だからだよ、この時期のハマーン様は赤い彗星の異名で興味を持っていて、その人物がイケメンで表面上紳士で、無駄にカリスマと頼り…前もやったな。

 

「ハマーン様はシャア大佐と親しくなりたかったそうですが」

「親しくしたつもりだが、伝わらなかったなら残念だ」

「…妹様のように?」

「ふっ、さあどうかな。マンマ、口は災いの元にもなる注意した方が良い。君はまだ大人ではないのだから」

 

 いい顔で笑いながら人差し指で口元を塞がれた・・・は?キレそう・・・

 

 こいつアルテイシアさんみたいに軟弱者ってぶっ叩いてやろうか!?普通にイラついたんだけど、私じゃなけりゃあ騙されるかもしれないがな!お前がやったことは、アプローチをかけた男に見向きもされず、他の女の事を話だし、挙句の果てに妹みたいで可愛いね…と最悪の三連コンボを友の姉にしでかしたと自白したんだぞオラ!!やっぱりこいつに女性は駄目だ!!

 

 そもそもこのダメ男に合う性格って限られるんだよ!こいつと末永く過ごす事を前提に選ぶとしたら二択しかない。前進あるのみと突き進む猪突猛進タイプか、何でも受け入れられるママのような心の広いタイプのどちらかだ。

 

 例とするなら…猪突猛進タイプなら男性になってしまうが、カミーユ・ビダンさん。NT能力込みだが彼みたいに、こいつの内心をある程度理解した上で『修正してやる!』とできる輩で、このダメ男が自滅するのをその都度無理やりでも修正できる人物が第一候補だ。まあ、修正パンチより前にレコアさんは毒牙にかかってしまっていたが…何がサボテンの花がだよ!

 

 そしてママのようなタイプ・・・はぁ…いるんだよ、ていうか柵さえなければ候補としてダントツで、こいつの心の闇を含めた諸々を受け入れて話を聞いてくれる聖母のような人がこのアクシズに…ナタリー・ビアンキ中尉。正確には互いに内に秘めた思いを伝えあった上で、結ばれる可能性があるだな…実際記憶では、シャアの子を身篭ってる。そして…ハマーン様に見捨てられた、いやあれは間が悪かったか…私にとっても知人なのだ、死なせたくない。

 

(結局こいつの他者を理解しようとしない性格に翻弄されるんだよ周りが!)

 

 徐々でもいいから、こいつの性格を修正しないとマズいのは事実…はぁ…私がやるしかないのか。

 

「…シャア大佐、私から貴方に伝えたいことがあります」

「ほう、聞かせてくれ」

「まず…己と向き合いなさい」

 

 …困惑と混乱、それと怖れか…相手の感情を利用するのは心が痛むが、仕方ない事だ。特にこいつなら仕方ないな!

 

「…私はシャアとしてここにいる」

「私が伝えたい事は上辺の仮面についてじゃない」

「君は…私をどうしたいんだ?」

 

 己を振り返えさせ、超有能なシャアにしたい…と言っても無理なので、自己分析をさせる。

 

「貴方が大切と思った者達を思い出して、そして理解して。貴方に対し、何を思っていたか、何を感じていたか、その時思っていたことを何でもいい紙でも…私でもいい表現して」

「…質問の意図が見えんな」

「考えることを放棄するな!」

 

 私が声を荒上げて言うと、シャアの心が揺れ動く。押し黙った彼に私なりにゆっくり伝えるのだ、壊れないようにゆっくりと。

 

「いい?貴方は一人じゃない、例え一人だと思っても・・・・・私が近くにいる、だから少しずつでもいいの、周りを視て、そして感じて、今の貴方には多くの足りない物がある。私はその足りない何かを埋めていく、その為に一緒にいると約束する」

「・・・私を導いて」

「違う。一緒に歩むの、だから考えることを止めないで…答えはいつでもいい、考えて」

 

 私が伝えた事は、シャアの根本的問題、他者への興味関心についてだ。最初から興味を持てと言っても無駄だ、興味以前に他者を理解することから始めなければならない。そして、理解する意味も彼は理解していない…問題は山済みだ。だから段階を分ける、それを隣で私が修正していく作戦だ。何で子供の私が、精神が子供の大人の面倒を見なければならんのだ!全く…仕方ない事だ、そう、納得するしかないんだ、お互いにな!シャア、お前も辛いが私も辛い、一蓮托生というやつだな!ははは…はぁ…

 

 それ以降、何か落ち込んだような雰囲気…何か怒られた子供みたいな感じを出しながら、目的地まで無言で着いた…どんだけしょぼくれてんだよ!これからスカウトしに行くのに肝心のお前がこれだとマズいんだけど!?本当に面倒だなお前、ご機嫌取りまでしろと?アフターサービスをご所望かよ!

 

「行きますよ、シャア大佐」

 

 どうだ!私が手を繋いだ状態で降ろしてやるよ!恥ずかしいだろ、少しは自分で動くことを学習しやがれ!周りを見ろよ、近くのジオン兵の皆さんがお前に気づいて見てるぜ!これじゃあ笑い物だよな!

 

「ああ…ありがとう、マンマ」

 

 …いや、うん。私に引かれるように降りるのはいいけど、何だこの感情の波は?親愛?何故?恥ずかしいと思わないのかよ!こっちが恥ずかしいわ!

 

 そう思ってこっちから手を離すと、名残惜しそうにしながら…薄笑いをして降り立った。まあいいや。

 

「…ここは君を連れて来るところではないな」

「でも、ここにいる気配を感じました」

 

 アクシズ住宅地の酒場の前に私達はいる。この時期だと人通りが、ジオン軍人…まだ昼間に関わらず酒場がほぼ満員になっている状況が異常と考えるべきなのかもしれない。

 

(…負の感情が多い…気をしっかり持たないと辛いわ…)

 

 まだ入口だというのに、中から漂う思念を感じ取り嫌になる。まだ戦場の中で生きている者達もいれば、戦争で精神をやられた者、無力感・・・様々な感情が渦巻いている。私とシャアを見て困惑している感情も送られて来たけど無視よ…ていうか、シャアは気づいてなくない?受信するアンテナがひん曲がってるから仕方ないか、なりそこない言われるぐらいには受信感度低いし。

 

 それにしても、何で酒場にいるんだ?オリヴァー・マイ技術中尉は、どちらかというと酒場とか賑やかな場より、落ち着いた場所を好むと思っていたのだが。まあ、合ってみればわかることか。

 

 

 …カラン、カラン…

 

 

 私達が入った直後は酒飲みやギャンブルなど平常通りで反応なかったが、近くに座っていた一人がシャアに気が付くと一気に皆、気が立って行った。表面上だけでなく、内面も見れると…シャアという存在がこの者達、いやこのジオンという中でどれだけ大きい存在か理解させられる。

 

『シャア大佐!』

 

 誰が言ったか、シャアの名を呼び敬礼していく者達。シャアもまた軽く敬礼で返し、落ち着くように伝える。

 

「落ち着け、私もただの客の一人に過ぎない。邪魔して悪かったな」

 

 …まあ、皆さん落ち着けてない。これは私が急かしたのが悪かった、シャアは軍服のままここにいる。一目で赤い彗星だとわかってしまう…精神的強いショックを受けた為か、一時的ではあるが皆の負の感情が和らいだのは幸いなのか?少なからず私にとっては、動きやすくなった。

 

「シャア大佐!ジオンはまだ負けてません!今こそ大佐のお力で皆を」

 

(ええい、冗談ではない!咄嗟にシャアのセリフを考えてしまったが…酔っ払いか、急進派のサクラかと一瞬考えたけど違うならマシだな)

 

 名も知らぬジオン兵が、ヨレヨレの軍服に酒瓶を持ってシャアの前に出て来る。周りは止めようと動くが、そのジオン兵が暴れて進路妨害である。

 

(…これは、同調したい連中が結構いる。面倒なこういった輩の対処が上手いのがエンツォ・ベルニーニ大佐なんだよな…単純に同調するだけとも言えるが)

 

 例えその先が地獄の始まり、周りを巻き込む形になろうとも戦場に魂を置いてきた輩の前には言葉なんて飾りにしかならない。

 

 マハラジャ・カーン様の欠点の一つ、戦士達の精神的苦痛を理解しきれない事。これは普通はできないし仕方ない事でもあるが、このアクシズにおいて致命傷になりかねない事柄の一つだ。この因子を野放しにしてしまうと…後の祭りになるのだ。

 

 どうすればいいか…シャアにどうにかしてと流し目を向けると、シャアは答える様に喋り出した。

 

「今は停戦中だ。我々ジオンにとって逆風が吹き荒れる世が待っている、今は耐えるしかない」

 

 シャアの活気ある言葉を期待していた者達は、というより酒場にいる者達全員が一気に暗くなる…え、シャアさん?ジオン兵の皆さんの精神がヤバいんだけど!?自責の念で潰されそうになってるから、止めろお前!!目的の人物までの通路確保は望んだが、上手く避ける言葉を期待したのであって場全体を地に落とせは伝えてない!?

 

「シャア大佐、私が話します」

「マンマ?」

 

 酔っ払いも上司からの冷や水ですっかり、冷静になってきている。今なら小娘の言葉でも通るだろう。シャアの前に出て、悠然とその場に現れた小娘を困惑しながら見つめる視線…それを受けながら心の中で息を吐き、言葉を繋ぐ。

 

「私は、マンマ・コメットと言います。このアクシズで議員をしている、ダデイ・コメットの娘です」

 

 静かになった酒場に私の声は響く。自分でもこんなに響くのだと感じながら、戦場帰りの兵を落ち着かせる考えを述べる。

 

「ジオンの、私達の、皆の為に戦ってくれた方々…ありがとうございました!」

 

 最初は礼だ。命がけで戦場に出てくれた者達、どんな経由があってもその事実を我々スペースノイドの民は理解していることを伝えるのが第一だ。突然少女が現れ礼を言われる、周りの者達を含め酔いが冷めてきたようだ。

 

「き、君?顔を上げてくれ」

 

 酔っ払いも冷静になって、今の状況が気まずいと感じ出したのだろう。だがまだだ、まだ終わらんよ。数秒の静寂を得て、改めて顔を上げ声を出す。

 

「我々スペースノイドは、シャア大佐が仰ったように逆風の中を歩む事になるでしょう…しかし、だからこそ、貴方たち、帰って来てくれた者達の力が必要なのです!貴方達こそが我々の、アクシズの希望なのです!これは変えようのない真実、だから…前を見てください、私達はまだ歩みを止めちゃダメなんです」

 

 労働力としてだけではない、人口問題、技術、言葉にすれば薄汚い言葉で表現できるかもしれない。だが違う、私が真に求めているのは、戦場帰りだからこそ得ているその精神だ。いつ死ぬかもわからない戦場で生き抜き、その空気に感染した者達だからこそどのような状況でも冷静に、冷徹に動くことができる輩だからこそ、今のアクシズには重要な人材なのだ!

 

 宇宙世紀において、いつ戦場になるかなんてわかったものではない・・・今まで生きていた世界が一瞬で吹き飛ぶなんて事もあり得る。故にその世界で生き抜く知恵、技術を持ったジオン兵の諸君は、本当に希望なのだ。戦いになり、平和な日常から地獄に向き合える存在はな。

 

「…聞いたな?我々の戦場はまだ続いている。形は変わるが、いつでも動けるようにしておけ」

「ッは、はい!失礼いたしました!ジークジオン!」

 

 シャアが上手い事、酔っ払いの肩に手を置きまとめてくれた。周りもジークジオン!と同調せんでいいから。私に何か、シャアと同じぐらいの感情を向けないでよ…私はただ結局、自分の為に動いただけだからね、私はモブでしかないから。

 

「君の感情を独り占めできないのは残念だよ、マンマ?」

(お前に構うのも、お前が情けない奴だからだよ!ジオン兵全員が情けない奴になるとか地獄だろが!)

 

 全く、何を考えているんだシャアめ!私はララァにはなれないと伝えただろう…だがある程度依存させないと逃げるしな、いい感じのところでハマーン様とくっつけて終活人生にシフトチェンジでサヨナラしてもらうか。その為には、ハマーン様も政治力を高めてもらいつつ、シャアの尻を蹴り上げられる未来のお姿までは行かないまでも、程々に育ってもらわないといけないか。

 

(ハマーン様は好きなシャアと夫婦、私はセラーナ様と一緒に支える…理想はこれだな)

 

 誰も傷つかない案を考えつつ、やっとオリヴァー・マイ技術中尉の前に来れた。どうやらグラスに酒は入っているが、酔っていないようだ。私達が来たせいでうろたえている。

 

「シャア・アズナブル大佐、マンマ・コメット嬢、見事な演説でありました!私にどのようなご用件でありますか!」

 

 …真面目だな。オリヴァー・マイ技術中尉、彼は純粋な技術屋として一年戦争の間、試験支援艦ヨーツンヘイムで兵器の評価をし続けた男性だ。個人的に言えば、政治的な側面がなければもっと別の支部で成果を上げていたかもしれない技量を持っている。

 

 今回、この人物をスカウトしに来たのには理由がある。この人物に急進派が接近し、後の…『デラーズ紛争』に繋がるキーマンになる為だ。ソロモンの悪夢、アナベル・ガトー少佐にアナハイム・エレクトロニクスを経由して、ノイエ・ジールを届けると同時に設計に携わる等、大事に繋がっていくのだ。今のうちにアクシズ艦隊なり何なりに取り込んでしまえという事だ。

 

「彼女の推薦でな、君をスカウトしに来た。オリヴァー・マイ技術中尉。できれば私のサポートをしてもらえないだろうか?」

「こ、光栄であります!赤い彗星にスカウトされるとは夢にも思いませんでした…シャア・アズナブル大佐、発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか」

「ああ、構わないが」

 

 …何だと…この感情は馬鹿な!貴方はそんな戦いを好む思考ではなかった筈!…

 

「じ、自分は!散っていった仲間達に報いなければと考えであります!大佐のように数多の戦場に出向いた訳ではありませんがッ、多くの…者達を知りました」

 

 ッ強い感情が渦巻いてる。これは…評価してきたMS、そして人々の生き様か…生真面目な彼は囚われている、評価を下す立場として、関わってきた者達全てを評価してきた者として、無くしてはならない事として彼は記録しているのだ。

 

「つまり…戦争を継続したいと言いたいのか?」

「…わかりません。私は、技術者として…ただ…」

 

 彼自身にも、どうしようもない感情ということか。なるほど、こんな時に急進派の上辺だけとはいえ、戦士達を弔い、言葉巧みに誘導されたという事か…アナハイム・エレクトロニクス社で成果を上げていた事から、この思いを飲み込みながら兵器開発などに携わり、己を持たせ続けた人生を送ったというところか。

 

 …あぁぁぁ!もう、ジオン軍人の連中は多かれ少なかれ精神的に抱え込み過ぎる!いやそれは戦争帰りの連中なら当然かもしれないが、それでは私が困る!申し訳ないが荒治療を開始させてもらうぞ!こんな序盤から躓くなんて、幸先が悪いな!?

 

「オリヴァー・マイ技術中尉、ヨーツンヘイムにあるMSをお借りしてもよろしいですか?」

 

 やるしかない。この人の重りを解消させるには、関わってきた機体で表現しなければならない。会話中に割り込む形で喋ったが、あまりの内容に驚くように声を荒上げてくれた。

 

「な、いけません!あの機体はエンジン部分に問題があるんです!」

 

 当然だよね、私もあんなポンコツに乗りたくない。でも…今の貴方に一番効果的なのはあの機体しかないんだよ、なら私だってやってやる!

 

「シャア大佐、私とMSによる訓練をお願いします」

「突然だな…MSの経験は?」

「ありません」

 

 当然だろ。私みたいなモブな少女がMSなんて動かせる立場であるか!気合だよ、気合!やらなきゃ未来に関わるんだ、やってみる価値ありまっせだ! 

 

「シャア大佐!何を考えているんです、止めて下さい!」

 

 シャアは私の方を向いている。ああそうだよ、ちょっと付き合え。

 

「オリヴァー・マイ技術中尉…貴方には評価をしてほしいです」

 

 それと、エンジンが暴走しないように声掛けよろしく!

 

「マンマ・コメット嬢!何を考えているかはわかりませんが、あの機体の評価は既に」

「できてない、貴方の心は評価を望んでいる」

「な、なにを…言って」

 

 だって貴方、あの機体というより、関わってきた人物達の思いの方に囚われているでしょ?だったら使わなきゃ駄目なのよ、絶対。

 

 


 

 

 私達はヨーツンヘイムがある格納庫まで来ていた。シャアとは途中で別れ、次に会う時は模擬戦の相手となる。

 

(覚悟、覚悟よ私…いつかはMSに乗る必要が出て来るかもしれない。だから早い内から覚えておく必要がある)

 

 あの後も、オリヴァー・マイ技術中尉は反対し続けた。特に私が使う予定のMSに関して詳しく、その説明を聞いたシャアも止めようとしたが、私がゴリ押しでやると決めさせた。

 

「いいですね!マンマ・コメット嬢!MSの扱い方も知らない貴方が、よりにもよってあの機体を動かすなんて本来あってはならないんです!」

 

 …MSデッキ付近まで来ても注意してくれる。

 

「少しは落ち着け、技術中尉。あのシャア大佐の推薦されたんだ、ただの令嬢ではない。だろう?」

 

 私の方に顔を合わせる女性、モニク・キャディラック特務大尉。偶然、ヨーツンヘイムの近くにいて私の事情を知り、悩んだ末に許可を出してくれた。

 

 …いい感じに私へのヘイトが緩んだすきに、パイロットスーツを着込む。初めてのスーツを着るのすら難しく、衣服をたたみながら何とか着込む…わかっていたが、だいぶブカブカだ。傍から見たら滑稽の一言だろう。

 

 着終わって戻ってみたら、未だに言い争いをしていて申し訳ないと思いつつも、その足でMS前まで移動する。

 

(集中しろ…カミーユさんがやっていた、この空の中に漂う残留思念に語りかけろ…少しでいい、力を貸してください)

 

 

 

 

 

 

 オリヴァー・マイにとって、マンマ・コメットは気味の悪い少女だった。まるでこちらを覗き見るかのように、的確に自分の思い入れのある事柄に触れて来る。今もそうだ、MSを動かした事もないのに、いきなり模擬戦、しかも相手は赤い彗星である。手加減はするだろうが、無謀の一言、それよりもあの機体でもしものことがあればと、不安しか湧いてこない。 

 

「楽しませてくれる」

「どこが楽しいのですか!あの機体の危険性は」

「知っている!だが、あの子は選んだのだろう?あの機体を、どういった遺志で選んだかは知らないが…我々にとって意味のある一戦になればいい。そう思えないのか、技術中尉?艦長たちもいればよかったが残念だ」

「ッ私はロマンティストではありません」

 

 モニク特務大尉…彼女はいつも、感情的で自分とは合わない。あの機体も、あくまで予備機として修繕しただけだったのだ。

 

『ザーーザーーき―ー聞こえるか?--』

 

 彼女はMSの動かした経験がないと言っておきながら、レクチャーもいらないと断っていた。最初の通信を接続するだけで躓くと思っていたが、こちらの周波数に合わせるぐらいはできたようだ。

 

「…ええ、聞こえています。絶対に無理をしないでください!」

 

 MSの瞳に光が入る。起動も成功したようだ…本当に初めてなのだろうか、MSに入ってこの速度で安全チェック、まるで熟練のMS乗りと同等としか思えない。それどころか、まるで慣れているかのようにチェックを終わらせていく。

 

(どういうことだ)

 

 熟練MSのパイロットと言えど、初めての機体では相応の戸惑い、慣れるのに時間がかかる。彼女の場合は、MSに乗った事すらないはずだ…ありえない。

 

「やはり普通じゃなかったか」

「…」

 

 後は出撃のみとなった。模擬弾の弾薬に変える必要があるが、素人では苦労する作業だろう。リロード動作だけで、腕の動作を精密に行わなければマシンガンのパーツ破損に繋がる。

 

「な、AMBAC!」

「…凄いな彼女は」

 

 腕の補助ブースターを僅かに点火させ、その反動を利用して細かな動きをする、AMBAC(アンバック)技術。熟練パイロットしかできない証のような技術を、彼女は平然と使用し、高速でリロードを終えた。

 

 驚かさせる現実に戸惑いながらも、彼女がハッチ解放を求める通信を行い、こちらも動く。

 

『技術中尉、ハッチを開けてくれるかな?』

「え、あ、はい!ですがいいですね、エンジンが暴走警報があれば、必ずエンジンカットをしてください!」

『ふっ、ああ覚えておこう』

 

 こちらの警告を鼻で笑われ、違和感を覚えた。彼女はこんな性格ではなかったはずと…違和感を覚えながらもハッチを開ける。

 

『EMS-04 ヅダ―ーー出撃する!』

 

 ブースターを点火し、いざ宇宙へ再び飛び立とうとしている青い機体を見る。その背を見て思うのだ、自分の関わってきた者達の顔が走馬灯のように流れていく・・・少しの間、感傷に浸ってしまった心に彼女の呟きが広がった。

 

『MSヅダは最早、ゴーストファイターなどではない』

 

 え…無意識にオリヴァー・マイは口に出してしまった。彼女の乗る機体に乗り、散ってい行った者の名を。

 

 

 

 デュバル少佐?

 

 

 

 

 

 シャアは一足早く、宇宙空間に到着していた。マンマが使用する機体を聞いて、心配しかなかったが…何事も無いようにアクシズ周辺のデブリを回避しながら、こちらに向かっていた。

 

(あの感覚は何だ!)

 

 MS-06 ザクⅡを借りて、先んじて待っていたが…動作不良など見られず、一先ず安心していた。

 

「マンマなのか!」

 

 つい通信してしまう。相手の機体から感じる強い遺志…まるで熟練のパイロットを相手するかのようなプレッシャーを放っていた。MSに乗った事もない少女が、ましてやNTであろうともこんな感覚を放つなんてシャアは理解できなかった。

 

「ジオンの栄光をヅダに!」

 

 開幕は彼女の一声からだった。高速でエンジンを吹かし、マシンガンを掃射してきた。直線状ではあるが、自らのザクより速いと感じ大きいデブリを利用して受け流す。

 

「ええい、ままよ!」

 

 シャアも反撃でマシンガンを放つ…それを動きこそ単調だが、補助ブースターをその都度吹かし、デブリの中だというのにその間を通って回避された。熟練のパイロットでも難しい技術を、まるで手足のようにMSを扱う彼女に一種の末恐ろしさすら感じる。

 

 デブリの隙間を器用に通りながら、マシンガンを放つ相手に、こちらもデブリを避けつつ、動くであろうポイントまで誘導していく。やはり相手の機体は、出力はいいようだが、細かい動作をAMBACで補っており、このデブリ間での戦闘に不向きであろうと察した。何より、エンジン出力を上げ過ぎると自壊するらしく、何とピーキーなと聞いた時は思った物だ。それでも使い手を見ると、素晴らしい機体に見えてしまうのは贅沢な悩みなのだろう。

 

「っどうしたマンマ!」

 

 反撃できるポイントまであと少し、そんな時だった。彼女の機体がいきなりエンジンカットしたのだ。とはいえ、エンジンを止めても発生した勢いを止めない限り宇宙空間では止まらない。シャアはザクを動かし、受け止める形で彼女の機体を止めた

 

 それと同時ぐらいに、オリヴァー・マイから慌てたように通信が入る。

 

『彼女がコックピットで気絶しています!急いで医療班に!』

 

 その通信を聞いた瞬間、シャアは何も考えられず全力でブースターを吹かした。

 

 





マンマの性格について感想を見かけたので少し解説。解説する前に当てられたけど…

彼女の性格は、作者が元にした者達が濃く出ている為でもあります。
5人です、性格を考えるにあたり5人の人物を参考にしました。

一人目はマシュマー・セロ(強化前あたり)
二人目はギギ・アンダルシア(シャアのやり方、正しくないよ) ₍₍(ง )ว⁾⁾
あと3人います。その内2名は強化人間を参考にしています。時間があれば考えてね。


また、評価ありがとうございます!


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