彗星が近い   作:情けない奴!

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第四話 マンマの行動による人間関係の変化。富野作品あるあるを目指した。作者の感想だけど、富野監督が書いた小説って各人物の設定資料集の間違いじゃないかと思うの。


彗星と思い

 

 私は今、ベットの上で悶えている。左右に体位交換を行っている惨めな少女の図が見れるだろう。

 

 気持ちが悪い!嘔吐感が昇っては、引っ込むを繰り返す。ヅダの操作により、内臓が縦横無尽に引っかき回され、胃液の逆流が私を襲っていた。正確には今になって気持ち悪さが襲ってきた。宇宙飛行士になる者達ですら過酷な無重力化の訓練に苦労するのに、訓練どころか体を鍛えてもいないのに基本一方向の重力を四方八方にブースターで無理やりかかる負荷は想像以上に辛いものだった。

 

 身体的にも辛いが、精神的にも辛かった…私はヅダを動かすにあたり、ジャン・リュック・デュバル少佐の残留思念を取り込んだ。『私は、ヅダを見捨てたりはしない』…と呼びかけを行った瞬間に衛星軌道上からものすごい勢いで受信できたのだこの人。こうも上手くできるとは、思わなかったけど上手くいったのだから結果良し…一瞬だが虹のような何かが見えたが、ララァが手助けでもしたのかもしれない。サイコフレームもないのに虹を見せないでくれ…

 

 問題は…自分に纏うようにするのではなく、文字通り取り込んでしまったのがマズかった。記憶でも残留思念を取り込んだNT達がいたが、補助ありであった理由がわかった。感受性を高める意味合いもある、サイコミュシステム等、機体を通して残留思念を情報の一部としてパイロットに伝達する仕組みがあったのだ。・・・では、情報としてではなく、ダイレクトに残留思念を取り込んだ場合はどうなるか?

 

『ザクなどに負けてなるものか!』

 

 彼の意識が私を支配した。残留思念とは、死者の念と言われる…死んだ時の意識のまま漂っている状態を指す。ザクに対抗意識を持っている人物を取り込んだのだ、それぐらいはあるだろうと思っていたが…私は何故、死者の念と呼ばれる意味を実体験することになった。

 

 …私の中でイメージが湧いて来る、デュバル少佐の強い記憶の断片、オデッサ攻防戦直後の敗戦による衝撃、脱出した者達に対する連邦のボールによる一方的な殺戮、連邦のジムとの戦闘、その直前までのやり取り…自らが関わっていたヅダへの冒涜。

 

『ひゃははは!こいつ知ってるぞ!放送で世界に恥を晒したポンコツだ!』

 

 ジムのパイロットからの罵倒、それに伴う違う!という、ヅダに対する狂気に満ちたまでの思い、劣等感と関わってきた者達の反応、その全てを飲み込みながら操作する心境…その全てが、ダイレクトに私を襲った。

 

(連邦憎しの精神と、自分の人生そのものを両立させながら戦った人)

 

 シャアとの模擬戦中、私の意識が回復したのは終盤だ。デブリの隙間から隙間へ、ヅダを操作している最中だ。

 

(それまで…シャアの事を憎いジムと思って戦闘していたのよね…残留思念、危険だわ)

 

 少し落ち着いてきた頃合いに、今の状況を確認した。自分が寝転んでいるのが簡易的なベットである事から、病院なのだろうか。まだ体調が悪い体を動かし、起き上がろうとすると…誰かの足音が聞こえて来た。少し待っていると、中に入って来たのはオリヴァー・マイ技術中尉だった。

 

「目が覚めたのですね!まだ起き上がらないでください、すぐに医務の者を」

「待って、聞かせて。貴方が感じたことを」

「ッ…」

 

 何の為にこの状態になったと思っている!少しは割り切れてくれなければ帳尻が合わん!

 

「大佐からお聞きしました…マンマ嬢、貴方はNTであると。自分はNT機関に関わっていない為、どういった技術なのか想像の域をでません。ですが、あの一戦を見れば想像を絶する何かであるとは理解しました」

 

 シャアめ余計な事を…まあいい。NTであろうが、何であろうが、闘争意欲はだいぶ削れたようだ・・・今の彼から感じるのは…怖れと、希望?何の感情なの、でもいいか、悪い感情ではなさそうだ。

 

「私に何を求めているかは未だに存じ上げません。ですが…彼らは、皆は、確かにあの一戦にいたのだと感じました」

 

 まあ、実際いたんだけどね…あのヅダ自体に残っていた遺志、モニク・キャディラック特務大尉の記憶も少しだが操作中に感じていた。彼女が関わって印象が残っていた強い人物、ヘルベルト・フォン・カスペン大佐の動きも自然と自分に取り組んで動けていた。あくまで残留思念というより、残っていた残り香に近い遺志のような物だったが、でも助けられたんだよな。私が加速のGで意識を手放そうとする直前に、『エンジンを切らんか!』と指導されたように感じて残った意識でエンジンを止めれた。

 

「そう、ならよかった。そういえば、シャア大佐は?」

「シャア大佐は、本部の方に収集を受けました。最後まで貴方を心配しておられましたので、お会いした際は一言お伝えした方がよいかと…医務の者を呼びますので、横になってお待ちください」

 

 …まあそうだよな。模擬戦をいきなり頼んだり、その他の問題をシャアに任せてた訳だし、シャアの影響力を考慮したらむしろここまで自由に動けたのが贅沢なのだ。私は言われた通りにベットに横になる。

 

(・・・後で礼の一つでも言わないとか。まあいい、これからの事を考えよう)

 

 仲間集め候補の一人、オリヴァー・マイ技術中尉は憑き物もだいぶマシになって加入は決定した。まだ油断できないが、これでホイホイと急進派に行く事はないだろう、そうであってくれ。

 

(エンツォ・ベルニーニ大佐たちが行う裏工作…廃艦の存在、連邦のスパイ利用、式典に相手から攻撃という心理敵戦闘意欲の誘導…)

 

 裏工作であるだけあって大がかりである。何よりも、どの工作も上手く妨害しても、別の作戦に切り替えられる余地が出るので困るのだ。半年もかけたとか記憶では言っていたが、例え妨害しても今度はクーデターを本格的にしてくるだけなので、根本的解決にはならない。

 

(今更止めに入っても、もう遅いのが問題なのよね…だからこそ、私は吹っ切れてシャアの問題を第一に動いたわけだけど・・・・・ゼナ様がご病気になっていなければマシだったけど無茶か)

 

 まだゼナ様は倒れていないはず。当初から見た感じ体調が悪そうなので、そろそろ倒れるであろう…人の死が近づいているのに、割り切れる私は畜生だな。それも物語を描いた者達が悪い、私は今しか見れないモブだ、仕方ない…。

 

(…ミネバ様の存在が邪魔と思うのは傲慢かしら。産まれて来るべきではなかったと、私は…今を生きる私は思ってしまうわ)

 

 アクシズに生きる者達が平穏無事に過ごされば、私はそれでいい。ハマーン様や、セラーナ様、お父様や関わってきた者達…その全てを巻き込む異物、ザビ家の血筋は、呪いのようにジオンに関わる者達を縛り続ける。

 

(赤子の貴方に思っちゃダメよね…未来でバナージ君とイチャイチャしながら過ごす日々を選ぶ貴方にジオンなんて、最初から重荷でしかなかった)

 

 体調が悪いと思考まで悪くなるようだ。一度思考を放棄して目をつぶる…合わせる様に看護師が入って来て、血圧などを測ってくれる。

 

「大丈夫か、マンマ」

「…お父様、ご心配をおかけしました」

 

 看護師と一緒にお父様も入って来た…心配している気持ちを受けて喜ぶ私もいる。だけど、心の内に…私への恐怖心があるのを読み取ってしまった。当然だと思う、今までただの子供だった私が唐突にNTという怪物に変貌したように見えているのだ。実際NTになってしまったが、変貌の理由は記憶のせいだ…大人びたと表現すればいいのか、物事をまるでテレビに映る自分を眺めているかのような心境なのだ。だからこそ、大胆に動けている。

 

「どうしてシャア大佐と…いやそれ以前にMSの操縦なんていつ…NTだからか?」

「…はい。NTとして、ジオンの、皆の為に何かできるかと思いました」

「ッお前はまだ…いや、良い覚悟だな。父さんも誇らしいよ」

 

 笑ってくれた父の顔は、記憶にある優しい顔ではない初めて見る顔だった。

 

「どうやら、MSを動かして肉体に負荷がかかったようだ。父さんもザクを動かした時は苦労したよ、まだ辛いだろう?もう少し横になっていなさい」

 

 布団をかけて出口の方に歩いていくお父様を見て…一瞬手を伸ばそうとしてしまう。

 

「マンマ…私も頑張ろう、ジークジオン!」

 

 最後にわざとらしく呟いて扉の先に行ってしまう。最後までお父様は、前のように私の頭を撫でてくれることはなかった。

 

(ジークジオン)

 

 最後に残していった言葉が、私の中でグルグルとしながら疲れ切った肉体に溺れていった。

 

 

 

 しっかり休んだ翌日には退院許可が下りた。体調は万全ではないが、ほぼ完治している。自分でも思うが、私は意外と頑丈なのだろう。

 

「マンマ、さあ帰ろう」

 

 お父様は迎えの連絡があると、付き人に任せず自ら迎えに来てくれた。議員としての立場上こうも会えるなんて、ありえないと驚いていると、察したお父様は苦笑いで答えた。

 

「実は無理を言って休みを貰った、お前を帰した後はまた会議に行く」

「そんな、だったら私なんかより」

「ははは、家族を大事にする父親の方がいいだろう?そういう心配するところは母さんに似たな」

 

 そう言いながら、車を出すお父様。お母様とは幼い時に死別しているので私は覚えていない。何でも、私を産んでからアースノイドとスペースノイドの摩擦に巻き込まれたとか…今に限らず、どこにでもある問題で亡くなっている。

 

「シャア大佐も心配していたぞ。まだ病み上がりだから、面会は断らせてもらったが」

「そうですか、何か言っていましたか?」

「体調も考えずすまなかったと言ってたな…次会う時にでもお礼を言いなさい。今回の模擬戦はお前の方から頼んだのだろう?」

 

(…そうだけど、そうなんだけど…元から言うつもりだった事を指摘されるのってイらってくるわね)

 

 気持ちでは理解しても、身内から指摘されると何か我慢できず言葉にしてしまう。

 

「言われなくても、伝えるつもりでしたよ」

「そうか、ならいいんだが…」

「…何です?」

「マンマがこんなにも、シャア大佐と相性が良いとは思わなくてな。酒場の件も兵士達から聞いた…二人の演説は見事だったらしいな、活気立っていたぞ、ジオンの未来は明るいと」

 

 何だこの感情は…愛情?どこか寂しげのような、憧れが混ざる?何だこれ、もっと強く意識してくれたらイメージを読み取れるのに曖昧に考えているせいで読めない…あれ、何でエンツォ・ベルニーニ大佐の事を一瞬考えた?

 

「そういえば、オリヴァー・マイと名乗る人物からも、今後ともよろしくお願いしますと礼を言われたな。メカニックとして有能な人材をスカウトするとは、大佐共々アクシズの希望だよ」

「彼はシャア大佐直属にする予定なので引き抜きは止めてくださいね?」

「お前に今度から人事を頼んでみようか?」

「可能なら喜んで」

「…冗談、とは言わないでおこうか」

 

 本当に人事を動かせる位置にいればだいぶ楽ができる。まあ、流石に難しいだろう。

 

(…連邦のスパイについて伝えておくか?)

 

 今更感が強いが、スパイの存在を早期に教え穏健派が動きやすくする先手にはなるかもしれない。

 

(でも、この時期には連邦の小惑星帯機動艦隊がアクシズに向かって来てるから、上手くスパイの端末を入手できて早期に情報を止められたとしても探索続行された時点で意味がない…何より問題なのが、統括がジャミトフ・ハイマンだから絶対見つからなかったを許さないだろうし)

 

 それもあるが、アクシズの食料などは他のコロニー経由で足りない分を賄っているので、停戦直後で混乱している今と違い、落ち着いてきて本格的に残党狩りに移行しだせばアクシズは遅かれ早かれ所在地がバレる。

 

(何より、独立戦争を続ける残党ジオン兵達が急進派関係なく空で動いている現状…急進派、連邦、残党兵、その全てに対処なんて無理だ。やっぱり急進派の勢いを挫くことが、今できるベストだろうか?)

 

 アクシズの問題だけならまだ、私や…シャア、マハラジャ・カーン様たちが動けば抑えられる可能性がある。連邦の動きを止める方法…連邦政府が戸惑うレベルの何かを持ってしまう事か。最終手段用の物を手に入れておくべきか?

 

(できなくはない…小競り合いまでには間に合わないと思うけど、ジオン独立に伴う抑止力なら手に入る。でもどっちにしろ急進派をどうにかしないと、利用されてもっと激しさを増す)

 

 …よし、伝えよう。抑止力に関してはやっぱり、シャアと…行かなきゃ駄目だな。良くも悪くも一番内面を理解できている相手だし、赤い彗星だから…納得できるのだが、納得できない自分はなんだろう。情けない奴の存在がこうも大きいと、全体が比較して小さく感じるのは私の傲慢なの?

 

「お父様、少しよろしいですか?」

「どうした改まって…何かあったか」

「…連邦のスパイを知っています」

 

 一瞬、お父様の顔が強張ったがすぐに元に戻る。内心であまり驚いていないな、そして納得か…NTについてシャアからある程度聞いてたのかな。

 

「…いつから知った?」

「シャア大佐と移動している時に、名は連邦軍カイル・マッケンジー中佐です。潜入している今はケヴィン少尉ですね」

「…そうか、そこまで。その事をシャア大佐は?」

「いいえ、まだ」

「そうか…この案件は私がマハラジャ提督に伝えよう。マンマ、どこに耳があるかわからない、この件はこれで終わりだ、いいな?」

 

 念を押すように怖い顔で言われ、少し怯えながら頷く。私を心配しているのだろう、マハラジャ・カーン様と前回の対面時に私は過激発言をしたのだ、あれぐらいしないと印象にも残らないので後悔はないが…お父様の立場的に大問題だったな。これで成果の一つにしてくれれば幸いだ。

 

「さあ、着いたぞ…いいかマンマ、体調も万全ではないのだろう、オトナシク待っていなさい?」

 

 自宅前で降ろされて、まるで念入りに言うようにオトナシクを強めの口調で言いながら行ってしまう。まるで聞き分けのない子に伝える様に…そういえば、私って13歳だった。ハハ、子どもなのに子供に戻りたいとか変な考えに至ってるわ!

 

(そうよね。普通の少女は、情けない奴の心理治療したり、MSに乗ったり、政権に口出し、酒場で演説擬きとかしたりしないもん!…誰も助けてくれないから)

 

 …この記憶を上手く使えば、私達の未来が開く可能性がある。だから頑張るしかない。でも、何でそのキーマンがシャアみたいな奴しかいないの!アムロさんが来てよ!無理だってわかってるけど、シャアの誘いに乗ってくれてたら…でも万が一乗ってたらララァの問題で結局仲違いしそう。そもそも、ララァが生存してたらアクシズに来てないか…結局ダメだ。

 

(シャアの自立心を育てないと…ずっとこの関係は、私が精神的に辛い)

 

 私はため息を吐きつつ、家に入り自室までゆっくり歩みを進めた時…外から、別れてそこまで経っていないのに凄く懐かしい友の気配がして、歳相応に浮足気味に扉を開ける。

 

「セラーナ!」

「きゃあ!どうしてわかった…どうしたの、大丈夫」

 

 何故だろう…無性に抱きついてしまった…

 

「…」

 

 セラーナ様…セラーナは、何も言わず私を抱きしめ返してくれた。そうしてくれるだけで、私はここにいるんだって、改めて感じる。ある程度落ち着いた時には、互いに恥ずかしくなりなりながらも、家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 私には不思議な友達がいる。いいえ、不思議になったのは最近になってからかな?

 

「姉さんに酷い事したの?姉さん泣いてたのよ」

「…誤解なの、シャア大佐の件でちょっと…ああ!セラーナ様は関係ないから!シャア大佐と関わらないでね、本当に!」

 

 ジオン兵の人達を見に行く途中で頭を痛がるように蹲ってから…どこか、そう、遠くに行ってしまったように感じる。

 

「もう、また様って呼んでるわよマンマ!」

「癖みたいな…気にしないで」

「今までセラーナって呼んでくれてたじゃない!」

 

 姉さんの件といい、シャア大佐と関わったから皆変わっちゃったのかしら。

 

「姉さん、今日はシャア大佐と一緒に訓練するんだって気合が入ってたけど」

「ああ、そうなのですか…ナタリー中尉も同行してますよね」

「ナタリーさんも一緒だけど、本当に意識しないと敬語になるのね」

 

 愛想笑いで返される…私はこの顔が嫌いだった。酷く仲間外れをされたみたいに感じるのだ。

 

 私達は同い年の友達で、お父さんとの紹介で知り合った。最初は互いにたどたどしくて、何を話せばいいのかわからなかったけど、一緒に遊ぶうちにそんな事を気にしなくなっていった。

 

『セラーナ!またマンマと、もう泥だらけじゃない!』

『ごめんなさい、姉さん…』

『はぁ…早くシャワー浴びなさい』

 

 いつも優しくて、私に構ってくれて、大人の人達と私じゃわからない事をしてる姉さんは、いつもカッコよかった。

 

『うっっうう…』

 

 …姉さんが泣いていた。何で泣いていたのかは教えてくれなかった、私も聞けなくてどうしようと思っていたけど。

 

マンマッっ!…ッ

 

 押さえつける様にマンマの名を口にした姉さん・・・とても怖かった。喧嘩したなら早く仲直りしてほしい、ナタリーにもお願いして仲直りできる場を用意してあげないと。

 

 肝心のマンマは、どこか疲れているようで、私とのお話は嬉しそうにしているから何も言えない…何があったのか教えてくれないし、姉さんもマンマも私だけ除け者にする。

 

 …何か…さびしいな…

 

 

 


 

 

 

 兵士たちの間で話題となっていることがある。あの赤い彗星が、未来のジオンを背負う覚悟を持った少女を連れている…そんな噂が流れていた。

 

「ハマーン、あまり無茶をするな」

 

 当の本人は、噂を否定もせず肯定もせず、ただそこにあり続ける姿勢を貫いている。そんな人物は今、ピンク髪の少女からの願いで模擬戦を行っていた。既に何度も戦闘を繰り返していたのだろう、ビット兵器に不具合があったのか、宇宙に漂うように流れている。

 

「はぁはぁ、まだ行けます!」

 

 白いリック・ドムを操り、的確に相手の先を予測して放つ弾は、並の兵士では避けられないだろう。彼女の感応波に応じて残ったビットが進路を塞ぐように展開される。

 

「動きが鈍くなっているぞ」

 

 対峙しているザクⅡは、まるで弾道を予測していたかのように加速し、リック・ドムに急接近する。その動きに対処できず、ハマーンは回避行動が間に合わなかった。

 

「終わりだ!」

 

 …撃破判定のアラートがハマーンのコックピットに鳴り響く。その音を聞きながら、ハマーンの中で憧れと悔しさが心を満たした。

 

 

 

 

 格納庫まで戻り、コックピットから出るとシャア大佐は笑顔で迎えにきた。私はその笑顔に嬉しい気持ちを持ちながら、抱き着くように飛び出した。

 

「驚いたよ、もう少しでやられるところだった」

 

 ハマーンにとって赤い彗星とは、一種の希望であり、自らの孤独感を埋める糧であった。幼き頃より、NTとして感受性を高め、己自身が人でない化物と認識してしまう程、自らの力に恐怖する日々を送っていた。それだけでない一部の者達から実験と評した、モルモットの如く扱われ、人その者に恐怖感を持ってしまい、表面上は出さないようにしているが、自分ではどうしようもない現実から救い出してくれる存在を常に願っていた。

 

「ありがとうございます。シャア大佐に褒めていただけるなんて」

「そんなに急ぐ必要はない、ハマーン。サイコミュ兵器は」

「ッいいえ!ジオン公国の独立の為には一早く更なる実戦データが必要なんです」

「…理解はできるが、少し気を急ぎ過ぎているな。何かあったのか」

 

 その言葉を聞いた時、ハマーンの中で一人の少女の面影が浮かび上がった。同時に心を揺さぶるような感覚が自分を襲う、高まった感覚がそのままNTとしての本質を刺激したのだ。

 

(どうして…どうして、シャア大佐の中にマンマがいるの…)

 

 シャアの存在はハマーンにとって自分を人として扱ってくれる最愛の人物と映っていた。NTとして己を否定していた日々、暗闇が広がる中で文字通り光を指してくれたのが彼だったのだ。

 

 シャアは正しく理想が現実となった人物だった。優しく包み込んでくれる父のような抱擁感、どんな事があっても導いてくれる安心感、どんなに辛い時でも一緒にいてくれると心から彼の事を思っていた。ゼナ様とドズル中将が結婚した光景に自らを当てはめる様に。

 

『マンマのようなNTを目指すといい』

 

 どうしてマンマなの?

 

『マンマは未来が見えていた』

 

 どうして私を見てくれないの?

 

 シャア大佐は…私を見ていない。いいえ違う、マンマが奪ったのだ。

 

「マンマの事を気にされていますね」

「…私の不手際で彼女を傷つけてしまってな、命に別状がなかったのは幸いだった。我々のように訓練もしていない少女を戦場に導くなど・・・・・本来あってはならない事だった」

 

 マンマは戦場に来るべきではない。そうだ、そうなのだ、セラーナの友達だった普通の子・・・そうだったはずなのに・・・

 

「シャア大佐、お疲れ様です。ハマーン?どうしたの」

「…何でもないよ、ナタリー」

「シャア大佐、ハマーン嬢、お見事な腕前でした。サイコミュ兵器の使用に伴うフィードバックについて話し合いを」

「オリヴァー中尉…それは私達の方でまとめてからにしましょう?」

「そうでしょうか?ナタリー中尉、実際に使用したパイロットから」

「いいから!」

 

 …新しく来たシャア大佐のサポートメカニック、オリヴァー中尉は技術者と紹介されていたがMSの操縦も、開発も、設計も、全てに携わっている万能な人物だった。聊か堅物な部分があるが、ナタリーも驚く程のプログラミング技術もあるらしく、今まで関わった事もないはずのサイコミュ兵器についても大まかに把握してしまう程だとか。

 

「彼が来てくれて助かっているよ、私のゲルググのバックパックの不具合を見ただけで把握したそうだ」

「凄いですね」

「ああ、マハラジャ提督やエンツォ大佐も驚いていたな。ゼロ・ジ・アールの問題点を指摘されて」

 

 お父様が早期にNTについてシャア大佐と話していたのは知っていた。私の事もよろしくと伝えてくれていたのも知っている。でも…お父様は恐怖していた、NT…いいえ、マンマの事を、何かあったのだ、だからこそシャア大佐にジオンの兵器を見せて、安心したかった…

 

(マンマ…貴方は私から奪い続けるの)

 

「ハマーン?」

 

 シャア大佐は優しく私に微笑んでくれる。でもその中に私は入れない、そんなの…言ったじゃない、興味ないって…

 

 …嘘つき…

 

 

 

 

 その日の夜…ゼナ・ザビは病に倒れた。 

 

 





 マンマの性格について○○みたいだ、みたいな感想が増えたので参考にした三人目を紹介。3割ぐらいはマンマの性格を象るように描いているつもりです。

 パプテマス・シロッコ…彼女の本質に近い部分は彼を参考にしました。

 
 もう3割ほどはとある強化人間さんですね。正確にはならざる得なかった。柵から逃げたい意思があっても、逃げることを諦め、その身は強くなっても、己を仮面で隠した人。



 そういえば…頭を空っぽにしてジオンが連邦に勝つ方法を作者考えてみたんです。物量差は約10倍かそれ以上、ビーム兵器がオンパレード、最強の白い奴がいる。こんな絶望的な状況を覆す方法。

 デギン・ザ・グレートしかないなって思った。
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