彗星が近い 作:情けない奴!
私は自室で今後の事を考えている。一日、一日が貴重な時間であると実感しているが、同時にもどかしい時間でもある。
昨日の夜の事だ…ゼナ様が倒れた。残念ながらハマーン様のようにNT的な直観で気付く事はなく、お父様からの連絡で知ったのだ。やはり、自分の身内の方が受信しやすいのだろうか。まあ、今更だ。倒られたのであれば、そろそろ急進派が本格的に動くだろう。ミネバ様を祭り上げる下準備でもしている頃合いだ。
ミネバ様の継承式に合わせて動く予定のエンツォ・ベルニーニ大佐率いる急進派であるが、私から言わせると井の中の蛙とはこういう輩かと思う自分がいる。同調圧力な部分もあったかもしれない、ジオン独立という大義の下に集まった同士しか彼の近くにいないのだ、連邦を甘く見過ぎるのも仕方ない…いや、それでも甘い気がする…私の場合は記憶があるからか?だがしかし、連邦のジオンに対する思いを軽視し過ぎであろうよ。
ア・バオア・クーの大戦から約一年で連邦がジオンを軽視すると普通考えるだろうか?コロニー落としから始まり、一時的とは言え地球圏を実質支配下に置く程の脅威を見せ、こちら側から停戦を訴えたと思ったらコロニーレーザーによる総指揮官達の抹殺…これだけの事をしている我々ジオンに既に勝利したからナメプするぞ!…ありえないだろ、数十年ならまだしも、たった一年だぞ!確かに強かったジオンに勝ったぞと浮かれると思う、しかしだ、残党も暴れているし、連邦からしたら何してくるかわからん宇宙人というのが総意で現実なのだ。結果的に、その現実を味わう事になる…
(…小惑星帯機動艦隊と普通に戦闘すると…こちらのMS隊の30%を失うのよね。普通に痛手だわ、全壊が12機で半壊47機で済んだのはマシな方なのかしら)
敵はマゼラン級、サラミス級合わせて9隻。MS隊はジム・コマンド―部隊、約30機…対してアクシズ戦力は急進派のムサイ級、アクシズの控えにザンジバル級など数十機。ゲルググ、ザク、リックドムなど数百機…普通に考えたら一方的な虐殺になりえる戦力差に見える。例えビーム兵器主体のジムシリーズとはいえ、数の差は埋められない…と普通は思う。
(射撃戦だけとはいえ、劣化アムロ・レイ集団と化したジムと戦えとか…その実態を知ったら地獄だわ。しかも相手するジムは前期生産型ではなく、後期生産型。本来の能力をフルに扱える戦闘データより脅威度が増した機体群。こちらで例えたらゲルググとさほど変わらないスペックの一撃必殺兵器搭載型集団で、こちらのロックオンに合わせて回避行動を確実にしてくる集団…戦う人可哀そう)
しかもだ、前期生産型のジムしかアクシズにいるパイロット達は知らないのだ。一部の者達は戦場に交じる妙にいい動きをするエース機としての純後期生産型と対峙したかもしれないが、見た目は変わらないジムなのだ。乱戦状態になった戦場でいちいち覚えていられないだろう。
前期生産型のジムは数合わせの機体だ。ジオンとの最終決戦に臨む為だけに生産第一にと、本来のスペック7割ぐらい出てたらOK!GO!とされたタイプ。ザクのマシンガン数発でも普通に致命傷レベルになるほど接合が甘かったり、戦場で不良部品のせいで動かなくなったり、とにかく問題だらけの機体だった。それでも数とビーム兵器のゴリ押し戦法でジオンは敗戦したがね。アムロがいなくても結果的にジオンは負けていたのさ、物量差が元々十倍近くあるのだから…指揮系統がまともだったら少しは粘れたか?まあ今更である。
後期生産型は文字通り、カタログスペック通りのジムだ。攻撃動作も、ビーム兵器の純度も、ブースターなどの動きも、アクシズのパイロットからしたら向上しているように見えるだろう。それだけでも脅威だというのに…OSのアップデートを連邦はしている。アムロ・レイのガンダムから得た戦闘データを基にした自動回避プログラム。捕捉されたとメインカメラで確認次第、パイロットの意思に関係なく最小限の移動で回避するように自動で動くのだ。射撃を回避させない対処方として、回避する距離はアムロ基準で最小限であり、同時攻撃など逃げ道を塞ぐような波状攻撃に弱い事、またカメラで捉えた時しか回避プログラムが作動しない事など抜け道はある。連続で回避する動作に僅かなラグもあるが、そこを突けるのはエースだけなのであまり参考にならない。
(…それでも強すぎ。シャアが弱点に気づかなかったらアクシズが本気で落ちてたわ)
一番アムロ・レイと戦っていたシャアだからこそ気づいた敵の弱点。射撃戦以外で回避プログラムは作動しない、接近戦に持ち込めばチャンスがあると気づいたからこその勝利だったのだ。あとは敵指揮官に対するシャア自身の赤い彗星としてのカリスマか…このエゴによって始まった戦闘で大きい損失を産むが、それによって教訓は得た…より性能が良い機体がないと話にならないと、アクシズ内でMS開発・研究が活発になる切っ掛けにもなるのだ。
(この戦闘を回避してしまうと…パイロット達の腕の向上、連邦の基準がア・バオア・クーで止まってしまい、いざという時に傲慢が発生する危険がある)
この戦闘自体は回避可能だ。連邦のスパイを捕まえて偽情報なりを送信させ、アクシズの所在をわからなくさせればいい。一時的であるが回避はできる…が、私はその選択はしない。
(選別といったら人疑義が悪いかな)
この戦闘でMSパイロット何十人もやられる…逆に言えば、後の戦闘について来れない無駄飯食いが何十人も消えたとも言える。最前線に行った連中の大半は現状のジオン公国の独立を夢見て戦う連中が大半だ。未来のアクシズにおいて必要な人材であるのだが…酷い考えかもしれないが、ネオ・ジオンとして立て直す際に邪魔になる可能性が高い者達はいらないのだ。私は酷い事を考えている自覚はある、だが仕方ない。生きててもガザCに乗せられるか…デラーズのところに行くかだろうし。
(…アクシズは連邦と手を組む事が一番の生き残るためのベスト。未来のハマーン様が行っていた政策が一番良い。シャアの奴は、感情に流されてネオ・ジオンとしての視点を放棄しやがったからな!ミネバ様を政治の道具にしやがってこの野郎的な感情を持っていたが、そもそもお前もアクシズの内情を理解してただろうが!何自分だけ知らなかった顔してんだよ!?お前がアクシズから離脱する時からその流れは既に出ていた筈だろうが、理解していなかったって単純にお前が聞く耳持ってなかったからだろ、ハマーン様だけのせいにするな!)
やっぱりシャアは中途半端な立ち位置で逃げるから被害者顔ができるのだ!自覚を持て、自覚を!・・・ふぅ、神になったつもりはないが、我々アクシズに住む者達にとって無駄飯食いは邪魔だ。MSパイロットはジオンにとって貴重なのは間違いない。だが、このアクシズに置いておける人数は当の昔にキャパオーバーなのだ。記憶でもハマーン様が統括しているネオ・ジオンにおいての食事事情など描かれていたが…体力を使うパイロットでさえ、パンや合成肉などの食事が限界で最低限のコスト運用を求められている。勿論、未来のハマーン様は人を駒と見ている部分があったのも事実だが、普通に兵糧がギリギリだったのも事実なのだ。
連邦憎しの精神を糧にどこまでジオン兵を縛れるか…その綱渡りをハマーン様はしていたが、限界が出ていたのは事実、反乱が起こったのも必然とも言える状況だったのだ。
(それもこれも…ザビ家という幻想に夢を見続けた馬鹿共のせいだ。ハマーン様も表面上はザビ家復興とかミネバ様を上にしていたが、内心では情がなければ完全な道具として使っていただろう)
急進派の暴走、残党ジオン兵、デラーズ紛争…アクシズを巻き込むな。アクシズにいたジオン兵は、新たなネオ・ジオンの兵として活動していたというのに、ジオン残党共が暴れるせいで同列に見られていたのだ。故にコロニー間での印象は、残党共が暴れる度に低下、結果的に取引してくれる者達も少なくなり、貿易などインフラにも影響するジレンマの発生。故にザビ家が行った狂行でもして連邦を席に座らせないといけなくなり、恐怖政治の手段ぐらいしか残らない。だがそれをすると、反乱分子を増長させる切っ掛けに繋がる…ハマーン様は偉大だわ。連邦を席に座らせて強引だが対話できるレベルまで持って行ったのだから。
「だからこそ…今しかない」
今のアクシズならまだ、最悪の未来を回避できる。内部分裂からの新たな派閥争い…グレミー・トトの反乱か。あのマザコンでファザコンでシスコンでロリコン野郎がでしゃばるような状況にしない為にも、アクシズ内の派閥は統括しておくのがベストだな。シャアも似たような評価を受けていたが、シャアは甘えられる存在を欲しているだけであって、そこら辺の性事情は特にこじらせていないのだが…まあ、ララァ的なNTに近づく習性のせいで少女の年齢の女性が近くにいる期間が多すぎたのが原因か。
(…思考が余計な事ばかり考えてしまう。今が大事なのに、広い視野を得て近場の物が見えなくなりつつあるか?)
今大事な事をまとめよう。第一に最初の小競り合いについては見逃す。ハマーン様がジオン兵を活気出す演説が急進派の手助けもあり市民にも広がる、皇室という立場を得られ、護衛にシャアが就く。ここまではいいのだ。連邦からジオン独立は皆の夢、総意の受け皿となってくれるハマーン様ができる下準備なのだから。戦場でのラブロマンス…ではないが、二人を急接近させる切っ掛けでもある。シャアの性格をどうにかすれば一つの恋愛小説ぐらいは書ける展開であろう。上手く行った未来で語られるかもしれない。
『ハマーン、私とともに来てほしい。そして私と同じ未来を歩んでくれ』
『その言葉、まっていました・・・・・』
活気立つネオ・ジオン民、何かアムロさんが参列、ベルトーチカさんとソーラレイ君も来て、連邦ともいい感じになって宇宙世紀の戦いは終結!…ここまで行ければ最高だが、いやだが、この二人ならマジで行けるスペックもあるし、連邦は遅かれ早かれ腐るからアムロさん達がこっちに来る可能性もある。流石に夢を見過ぎか…でも、夢を現実にできるチャンスがあるのも事実。
(…私が頑張ってシャアをどうにかする!そして任せるのだ、ハマーン様に…シャアが良き旦那件ハマーン様を甘やかせれば何も問題ない…できるか?やらねば…)
上手く戦闘に勝利した後は連邦の捕虜だ、後に脱走で問題を増やしていくから数を減らしたい。特にエディ少尉は早期に消したい、ハッカーとしての腕を存分に振るってくれたおかげで大混乱する。とはいえ、代わりのハッカーがいないとも限らないので難しいか。そもそも何であの人数の捕虜を一斉に移動させた?いくら手錠していても近くから増援も来れない通路を大人数で移動させるとか馬鹿でしょ…どうせ逃げる場所は無いとか傲慢はあってもねぇ…物語だからで片付けられる私から言わせると、ふざけんなと言いたくなる。対処ができない事柄は余計に神経が苛立つ。
(オクサーナ・ボギンスカヤとの接触をどうするか…無駄にシャアを上げるせいで変に意識させる原因になっている。そこは私が修正していくか)
「ジオン独立だけで一苦労…マハラジャ・カーン様が本格的に掌握してくれれば楽なのに、甘い考えなのが困るわ。ザビ家並は困るけど、急進派の動きを把握できるぐらいなら弾圧できるじゃない。その場合はゼネラルストライキに注意しないといけなくなるか…頭が回る身内は面倒ね」
…今の時代なら核分裂弾頭ならアクシズにも残っている。南極条約無視になるが今更だ、それを改良して核融合弾にでもしてしまい量産、そして…アスタロスを手に入れる。それでやっと表裏合わせて連邦も座る姿勢になるのが現状だ。未来の連邦の限界を見据えハマーン様が行ったコロニー落としが、私の考える抑止力的な役割として働いていたが、そういった見極めといざとなれば動ける判断力…やっぱり任せるのはカーンの血筋に限る。
私がジオン独立を考えるならこの程度。抑止力を手に入れて、対等に会話する。普通の国家としての動きぐらいしか私にはできない、知識はあっても思考が一定を超えれないのだ。所詮はモブ、描かれる者達とは違う。
PPP…お父様から連絡が唐突にきた。何であろうか?この時期はゼナ様の事で急進派も動かないはずなのだが。
『マンマ、父さんは任務で遠出することになってな』
「…サイド3ですか?」
『すまんな、教えられん』
お父様もまた議員であるが、同時に軍人。重要な会議の都度、遠出することはよくある事だ。この時期なら、サイド3からの移民問題だろうか?キャパオーバーとしているのに、移民が止まらない現状…描かれてなくても重要だ。ジオンが敗戦したことでサイド3はインフラが崩壊している故にアクシズに来る者達が多いのだ。来ないでくれと表立って言いたいが言えない…困ったものだ。まあ、ジオン残党達から真っ先に襲われる者達は誰かと言われればこの者達なのだがね。正確には連邦の物資奪取に失敗したり、アクシデントが続いたらだけど。
ジオンはまだ負けてない。その遺志が強い連中、しかも統括がいない部隊もザラにいる。そんな連中は、海賊と変わらん。自分達が生き残る上でジオンが!的なエゴを通す為なら、守るべき存在だろうと問答無用だ。そういった無法者の中では…デラーズ・フリート艦隊はマシなのか?いや駄目だな、根本が同じで結局夢から覚めてない連中に過ぎない…アナベル・ガトー大尉も生き恥を晒すだけにされたし…上手く仲間にできるか、いや危険だな。いくらエースパイロットでも不穏分子を呼び込むのはナンセンスだ。
『話は変わるが、マンマに上層部の方々が会いたいと言われてな。私も遠出前に会うついでにでもと思うのだが…どうだ?』
上層部が…マハラジャ・カーン様の出来事が効いたか。私に会いたい穏健派…お父様を含めモブが大半でも、必要な人物達である。
(チャンスだわ、これなら合法的に会える。ホルスト・ハーネス…彼に会えればわかるはず、キマイラ隊の所在そして、ミナレット艦)
軍閥官僚としてMSパイロット達から嫌われている人物であり、ジオン公国時代から官僚をしている右翼シオン派…であるが、コウモリ的な先見の明とも取れる自らの立ち位置を理解している。急進派とも描かれていないが、繋がりはあるだろう。
(アスタロスの事を知っていた人物。キシリアとも接点がある時点で油断できないが…)
…シャアについて来てもらうのはマズい。シャアは平穏な今を求めている、アスタロスは環境破壊用生物兵器だ。しかも本来はザビ家がコロニー内に散布して使用する兵器、システムについて話す事になったら確実に暴走する可能性がある。そもそも会話に相手が応じてくれるかが問題だが、シャアがいるとこじれる案件なのは違いない。シャアを動かすときは、キマイラ隊と抗戦する際だな。この時期でジョニー・ライデン少佐はいない…生きてるのかは不明だが、他のエース達とシャアならシャアが勝つだろうし。
「ええ、喜んで」
『そうか…では迎えの者を送る』
そうして通信を切られ、その間に着替えなど済ます…MSを動かして思ったが、もう少し体を鍛えた方がいいだろうか。花柄のスカートはお気に入りだったけど…宇宙空間だと、パンチラどころかパンモロしてしまう。ジーンズとかが欲しいな…まあ、こんな私のパンツを見て興奮する馬鹿はいないか。プルシリーズが生まれればパンモロどころか、全裸を見る連中もいたぐらいだ。それに…この時代なら少女ぐらい金を出せば抱ける。勿論、裏通りに行って表に出て来れない者達が中心だが。
(私も民間人…でも、そのままだと不便過ぎる)
これを機に軍人として…嫌だな、戦場は…でもこのままだといつかは出ることになる。アースノイドとして生まれていれば良かったが、私はアクシズ民だ。ならば己の住処を大事にするだけだ。
(子供の時間は捨てるべき甘え・・・NTに目覚めた者の宿命かしら)
NTに目覚めた者達は、戦場で活躍する運命。どんなにNT達が人々の希望を投げかけ続けても現実は変わらなかった。個人として好まし人物でも、歴史の波には抗えないと知っているから、頑張る糧としての役割しか得られない運命なのだ。
(そういえば、ニュータイプ研究所があったわね。フラナガン機関の流れ者達だから、サイコフレーム技術にも関わっているはず…必要だわ。可能なら早期に欲しい、そしてナイチンゲール並の機体群を用意できれば最高)
色々と考えていると、迎えの者が来た。チャイムを鳴らされ扉を開ける・・・そこにいたのはナタリー・ビアンキ中尉だった。え、何で?困惑していると、礼をして迎えに来たことを告げられた。
「マンマ・コメット嬢!お迎えに上がりました!」
「え、あの」
「ふふ、驚いたかしら。貴方を迎えに行くのに立候補させてもらったわ」
そのまま車に催促され、落ち着かないまま車内に入る。何事もないように走り出し、更に困惑が私を襲った。ハマーン様の付き人でもあるナタリー・ビアンキ中尉が何故いるのか。
「…疑問に思っているでしょ?何で私が来たのか」
…この感情は、ハマーン様への思いか…私の事で嫉妬心持ってたからか。ああ、上手く解消するために来てくれたのかな?
「ハマーンなのだけど…マンマちゃん、シャア大佐と何かあった?」
またシャアか…何だまた悪化させたのか!奴め、私に怨みでもあるのか!お前の為に身を粉にして動いた私になんて仕打ちだ!
「聞いたわよ。酒場での事…まさか、マンマちゃんがシャア大佐とそんな事をするなんて、夢にも思わなかったわ。セラーナと一緒に遊んでるとこしか見てないから、貴方の思いを理解できていなかったのね」
(前の私から今の私を読み取れてたら、貴方こそ真のNTですよ)
どこか驚きと悲しい感覚が混ざったような思いを持っている。私の事も身内のように思っていてくれたのは嬉しい、ハマーン様との付き合いでNT特有の感情を読むのも抵抗がない…本当にいい人だ。でもシャアに産まされると考えるだけで…シャアお前は座っていろ。
「NTは戦場に出るのが運命です。今のアクシズは…平穏とは程遠いとは思いませんか?」
「ッ…ええ、そうね。でもね、NTであろうと戦場に出るのは本人の選択よ。私は…ハマーンにも貴方にも戦場に出てほしくないわ」
動揺しているな?でしょうね、貴方はエンツォ・ベルニーニ大佐に恩があり、鞍替えを後にさせられる。急進派の動きも目で追っている貴方にとっては、アクシズの不穏分子について考えるのは辛いでしょう。何より、NTであるハマーン様がMSを扱うのも内心では複雑な思いを持っている程、お優しい貴方ではね。だからこそ、決心を付けてもらう。申し訳ない気持ちはある、だが、貴方の為だ。シャアの毒牙にかかる一番の要因を排除させてもらう。
「エンツォ・ベルニーニ大佐は急進派であるのはご存じですね?」
「いったいどうしたの。私はただハマーンとの」
「貴方は選択することになる。ハマーンを取るか、己の在り方を取るか」
動揺して言葉がでないようだ。当然だな、意味がわからんだろう。未来の事だし、わからないのが普通だけど。
「…未来が見えたの?」
は?何で未来の事を、うん?これはシャアのイメージが…またかシャア!お前まさか私がララァみたいなNTです的な事を話してないだろうな!?違うけど、違わない!私を混乱させるな!まあいい、どのように話したかは不明だが利用するまでだ。
「貴方はハマーンを最後まで見守る事…それが貴方にとって一番の幸せに繋がる。一時の在り方より、ハマーンを取って!ジオンの独立はハマーンがやってくれる!貴方はただハマーンの為に動き続けてほしい!」
「ハマーンがッそんな…!?」
エンツォ・ベルニーニ大佐に昇進させてもらった恩。その恩から始まり、ジオン独立という大義名分を掲げられて裏切り行為をすることになる…ハマーン様に迫るファビアン少尉を見逃し、シャアへの誘惑からの…どっちにしろ、ハマーン様を第一にしていれば全て回避できたことでもある。
「貴方がエンツォ・ベルニーニ大佐に何か脅されたらすぐに・・・シャア大佐に伝えて」
…シャアに任せたくない。動く地雷レベルの奴だけど、こういった主役ではないけど、必要な人物的な動きを要求される所謂お助けキャラ的な動きを任せられるのはお前しかいない現状…仕方ない。最初から接近する遺志がなければ当初の彼女通り、諦めて割り切りができるはずだ。
「…マハラジャ提督が言っていたのはこれね。マンマちゃん?貴方は少し急ぎ過ぎているわ」
「何を言われたのかはわからない、けど現実になる!」
マハラジャ・カーン様に何か言われたのか。連邦との取引をオススメしたから、非国民だ的な…っだとしても信じてもらわないと、貴方やハマーン様が傷つく!!
「貴方が必死に考えて伝えてくれたんでしょ…見ればわかるわ。ありがとう」
「ならハマーンを取る?」
心の中で考えている。ハマーン様の幼少期からの成長、妹のように思っている心境、ジオン軍人として在り方…
「そうね…ハマーンを守るわ」
「…よかった」
「でもね、貴方も守るわ」
何で私も入る?嬉しいけど、たぶん一緒になる機会の方が少ないけど。
「子供に私達の重荷を背負わせる気はないのよ。例えNTとか特別な力があってもね」
ウインクをされ、覇気のある言葉と意思で言われた。心から思っているのだ、ジオンという未来を背負うのは大人である我々の役目であると…まだ二十歳にも満たない者であり、私やハマーン様と同じ子供の粋を出ていない人物がだ。
(少しはシャアも見習え!)
シャアとは雲泥の差だ!万が一シャアに今みたいな選択を迫ったら『君ならどっちを選ぶ』とか他者に選ばせるか、『私には大きすぎる選択だな』とかもったいぶって有耶無耶にして逃げるぞ絶対!
「ふふ、シャア大佐の事を考えているでしょ?」
「へ?何で」
「あーあ、これはハマーンも苦労するわね」
「シャア大佐にはハマーン様がお似合いです!」
「いいの、いいの。ハマーンも青春を味わういい機会よ!」
違う!?変な勘違いが起きている!私がシャアに恋心だと!ありえん、これではまるで敗走ではないか!
否定する発言を繰り返すが、笑って返されを繰り返される。どう見ても、この子はシャア大佐の事が好きなのね~的な考えに至っている!?バカな!このままハマーン様のところに行ってこの勘違いが広まったら殺される!?
「は、ハマーン様には言わないで」
「わかってるわよ。あの子もシャア大佐にお熱だもの、ああそうね…ハマーンの事を第一に考えてあげなきゃね?」
「そうです!ハマーン様がシャア大佐とご婚約されるべきです!」
「は、ははマンマちゃん?婚約はちょっと早くないかしら」
この無駄話だけど、死活問題な話題を話しながら本部に着いてしまった。流石に内部でこんな話題を話せない…畜生!更にこじれるぞこれ、ハマーン様違うんです!シャアが悪いんです、私は悪くありません!
「…マンマちゃん?貴方ならわかったつもりかもしれないけど現実は、そう上手く行かないものよ」
会議室に近づくにつれ、ナタリー・ビアンキ中尉の顔は強張っていった。中にいる人物・・・嘘でしょ?だってお父様は穏健派のはず!
「やあ、待っていたよ。我らジオンを背負う未来の象徴、まさか君のような少女がいるとは、私も驚いた。さあ座ってくれたまえ。ナタリーご苦労だった下がってよい」
無情にも開かれた扉の先にいたのは…エンツォ・ベルニーニ大佐だった。私は咄嗟にナタリー・ビアンキ中尉の方を向いた時、一歩前に出てくれた。
「エンツォ大佐、彼女はまだ子供です!私の同席許可を」
「…いいや、これから話す事は彼女の未来に関係する事だ」
「だからこそ!彼女をしる私が」
マズいな…お父様についてもそうだけど、まさかエンツォ・ベルニーニ大佐が私に興味を持つとは…予定変更だ。このままだとナタリー・ビアンキ中尉が無駄に立場が低下してしまう。
「ナタリー中尉、大丈夫です」
「でも、貴方はまだ子供なのよ!」
「ですが、私は子どもではいられないようです」
「おいおい、呼び出した私が悪者みたいじゃないか」
…私からすると悪者で合ってるんですが。無駄に威勢のいいオヤジだけど、やってることがこう、一世代前で思考が止まってるんだよお前。
私が静止を振り切り、対面の席に座ると…改めてエンツォ・ベルニーニ大佐から退席指示を受け、最後まで私の方を見ながら退席した。
「噂にたがわぬようで嬉しいよ。君のような若きジオンの象徴が身内とは、ダデイ大佐も鼻が高かろう」
この様子だと…お父様からあの会話を聞いていないな。
「噂とは…酒場でのことでしょうか」
「ああ、私の耳にも入ってきてな。兵士達が活気立っているのが気になって聞けば、あのシャア大佐と君だ。我々ジオンの精神を理解して表現してくれた君に是非会いたくなったのだ」
「あれは、ただ皆さんが落ち込んでいたから」
「そうだろうか…君はオリヴァー・マイ中尉を思ってMSに乗ったそうじゃないか。しかも、彼が思い入れがある機体で…普通の者はそんな行動できない」
よくもまあ、口が回るな。まるで全部噂を聞いたから調べました的に聞こえるが…その噂を流したの貴方じゃないのか、エンツォ・ベルニーニ大佐?
「シャア大佐との模擬戦記録を見せてもらった…本当にMSに乗ったのは初めてなのかね」
「…はい」
「そうか…君は正しくジオンの精神が形になったようだ!」
それガトー大尉のセリフ!さっきから妙に持ち上げますね!…これって私をスカウトしてる?
「どうだろう?君が良ければ、見習いになるが軍事の席を用意できるのだが…君ならばジオンの未来を羽ばたく翼となると私は確信した!是非、私の手を取ってほしい!そして共にジオンの未来を歩む者の一人として見せてはくれないか」
凄い迫力と熱が籠った言葉だ…目の前にすると、高揚感に近い感情を引き出すのが上手いとわかるな。ジオンの国民は自国に対する思いが強い、一種の洗脳に近いがジークジオンと耳にする機会も多く、スペースノイド=ジオンという掘り込みが日常的に行われている。私でなければ、躊躇なく手を取るかもしれないな。
…しかし、悪い話ではない。見習いだろうと軍人として堂々と出入りできればやりやすい。問題はシャアや、穏健派の方々から一線引かれる事か…シャアは何とかなるけど、穏健派から距離を取られるのはマズいな。いや待て・・・なるほど、お父様の立ち位置はそう言う事か。
「…お父様、ダデイ大佐は穏健派のスパイですか?」
「ほう、勘もいいようだ。NTの力か?…いや違うな、ハマーンでも理解できていないのだ。君はナタリーのように賢く、それでいて勇敢という訳か、自らの父親の立ち位置を私に教えていいのかね?」
「答えを自ら話していますよ、エンツォ・ベルニーニ大佐…急進派の方かとも思いましたが、穏健派の方でしたか」
私が言葉遊びを披露すると、一瞬目を見開き、その後、あくどい顔になって私に語りかける。
「クク、なるほど、これは有望な者を見つけてしまった。で、どうなのかね?」
…お父様が一先ず穏健派であるのは良かった。だがバレている時点で最悪だ、兵力総括顧問でもあるエンツォ・ベルニーニ大佐に楯突けば事故に合う可能性が出て来た。穏健派に伝えても証拠がないし、そもそも逆にスパイ活動の証拠は取られているはず…軍事裁判などになればお父様はッ…冷静になれ、どっちにしても自らの選択が結果的にだが広がる結果になったのだ。
「…お受けします」
「おお嬉しい返事だ。君のような優秀な者が同士となるなんて私も嬉しいよ」
何が同士だよ!脅しの間違いだろうが!そうか、私を試す為でもあったのか…お父様が任務でアクシズを離されたのは邪魔が入らないようにする為、そして私自身の口から伝えて納得させる役割を果たす為に呼ばれたのか。
「では、そろそろ君の御父上が出航される…会いたいだろう?」
「…ええ、次会う時はMS戦で活躍できる姿をお見せしますよ」
「ハハハ、素晴らしい回答だ」
そう言ってモニターの方に向かうエンツォ・ベルニーニ大佐…直接会わせないのかよ、いざとなれば機械類の故障で乗り切る為か。私が感情で余計な事を口走る可能性も考えてるな…どこまでも政治家のようで安心したよ。
『マンマ?何故、エンツォ大佐と一緒に』
この様子だと…上層部の誰が会うまでは知らされてなかったか。
「彼女から志願されてな、ダデイ大佐。是非このジオンを背負うと言われ、私は歓喜した!君のご淑女は未来を担う勇敢なジオン兵となるだろう!」
『そんなッ!マンマ!』
…気づいているなお父様は、エンツォ大佐が何かしたと…でも、私は割り切れている。
「はい。私から志願させて頂きました」
『ッそれは・・・本心なのか?』
(本心でもあり、違うとも言える…はぁ、こんな気持ちで関わることになるなんて)
「はい。お父様の任務達成を願っています」
まだ何か言いたげだったお父様だが、私がモニターを切った。これ以上話していたら、子どもの私が揺らいでしまいそうだから。
「もういいのかね。まだ時間はあるが」
「いいえ、これ以上の語るべき事はありません」
私もこの気持ちを整理しないと…まともに話し合いもできそうにない。
マンマがエンツォ大佐と話して数分だろうか、私にとってその数分が数時間に感じるほどただ待っていた。
「ッマンマちゃん!」
出て来た彼女に近づき、顔を見る。そして後悔した…彼女の顔がまるで軍人のように、覚悟ある者の顔になってしまっていた事に。
「ナタリー中尉、申し訳ありません」
「え、あ…」
「私が伝えるタイミングが悪かったです。今回は回避しようがありませんでした…ですが、ハマーン様と貴方を選ぶ際は何卒」
どうして、そんな顔でいられるの…いえ違うわ。その顔にしてしまったのは私だ。
「マンマちゃん、一体何があったの」
私の問いに彼女は…敬礼で返した。まだ腕の位置も、動作も見様見真似、でもその在り方は下手な兵士より様になっていた。
「これから見習いとなりますが、同じ軍靴を鳴らす一員となります。その際はご贔屓にお願いします」
彼女を止めようとした。でも、彼女の雰囲気がまるで戦場に行く者達のように気が引き締まった状態に見え、余計な手出しは返って彼女を傷つけてしまうと思ってしまった。そう思う、そうさせた自分に嫌気が刺しながら、エンツォ大佐がいる中に勢いのまま入った。
「エンツォ大佐!」
「おお、ナタリー。見たかね、あの若き勇敢なるジオン」
「彼女に何を言ったのですか!」
「彼女から志願されただけだよ。ジオンを背負う者になりたいと」
「そんな事ッ!」
「それが事実だ。それよりいいのかね?彼女の帰りは君の役目の筈だが」
…言っても無駄だとすぐに理解した。同時に彼女の言葉を思い出した、自分の在り方とハマーンを選ぶ。彼女は望んでいた、私がハマーンを取ることを。
(私は、ごめんなさい、マンマちゃん!)
私はどこか、彼女の覚悟を笑っていたのだろう。子供の戯言、思春期の子どもによくある事だと…でも違う。彼女は文字通り人生を賭けて私に伝えたのだ。それを私は、こんな事態にならないと理解すらしてあげれなかった!
(ハマーンを守る…でも、貴方も一緒よマンマ)
動き出した針は止まらない。ならば、私は、今度こそ手を離さないようにしよう。
(シャア大佐にも報告しないと。彼女のサポートは大佐が適任の筈、ハマーンは思う事もあるだろうけど)
抱える事柄が増え、責任も増えた。だが今の私には彼女達の描く未来を守る覚悟以外何も映る事は無かった。
前回から間がありますが、マンマの性格元の四人目の紹介。
カロッゾ・ロナ…彼の仮面を被るまでの人生観を見て、シロッコ因子に混ぜる様に描いています。
【ちょっとした解説】
・作中で核分裂弾と書きました。また核融合弾とも。核分裂弾は一年戦争でジオンがコロニー住民を2億人ほど殺した核兵器の事です。コロニー落とし用のコロニー確保の為、反乱分子を殺す為に使用した核兵器です。資料にもよりますが、人口の半分をコロニー落とし含め50億ほど殺害したわけですね。これで1年経ったからジオンの事を忘れた?ちょっと都合よすぎと作者は思います。それにプラスしてコロニーレーザーとか、エンツォ大佐の考えを見ると楽観視し過ぎとしか作者は思えませんでした。
・核融合弾はアトミックバズーカの弾頭。もっと分かりやすく言えば水爆ですね。最近の設定だと、ビーム型核弾頭兵器としてミノフスキー粒子を使用した的な説明がありますが、結局核なのでロールアウトできるやろ。え?南極条約?そんなの無効じゃよ。
まあ、ザビ家が悪いね。アスタロスの認証画面で「宇宙移民の独立を、意思を、それを体現したザビ家を受け入れぬ世界など消滅するがよい。そして人類は宇宙世紀をもう一度やり直すのだ」で、更にコロニーに被害拡大させるつもりだったんだから今更感。