彗星が近い   作:情けない奴!

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第六話 みんな仲良くメビウスの輪に落ちる。


彗星と本能

 

 マンマという存在は彼にとって初めての光だった。暗闇の中を歩む自分の隣に立ち、共に歩むと言ってくれた一筋の願い。

 

 壊れそうで、しかし、とても柔らかく尊い。己という空の器を抱きかかえる母のようであり、時に歳相応の微笑みを浮かべる魅力ある少女。業に焼かれる人生を歩む自分に、ララァという導きによって繋いだ新たな希望。

 

「エンツォ大佐!貴様という男はッ!我々の業を幼い子供に背負わせるとはどういうことだ!」

「ぐはァ!?」

「駄目ですシャア大佐!」

 

 平和の中で咲く一凛の花であってほしかった。間違った道に行こうとするとき、そっと隣に映り、己の場所を示す道標になってくれればと思っていた。そんな己のささやかな願いすらも、ザビ家が生み出した忌まわしい幻想に縋る者によって焼かれてしまった。

 

『なに、マンマが!』

 

 ナタリー中尉からの連絡で知らされた。マンマがエンツォ大佐の策略で軍に入隊させられたと…その知らせを聞いた瞬間走り出していた。近くにいたハマーンもついて来ていたが気にしている余裕はなかった。

 

(マンマの父親を利用されたかッ)

 

 マハラジャ提督より、急進派へのスパイをしていると事前に知らされていた。だからこそ、間接的にマンマに被害が及ばないように日頃からダデイ大佐の周りには気を配っていたが、よりにもよってマンマ本人に手が伸びるとは思わなかったのだ。政治的利用できるだけの手段になりえないだろうと、自分の中でどこか彼女の存在を隠したい気持ちもあったかもしれない。だがその傲慢が裏目に出た。

 

 政治将校の考えることなど大体同じだ。己の印象を、票を、立場を、その全てを高める為なら涙すら平然と流す輩だ。マンマが利用される理由とするなら、自らにも責任がある。

 

(これではまるで…っ)

 

 NTのありようを示し過ぎた…『ララァを戦いに巻き込んだ!』…『ララァは戦いをする人ではなかった』…自らのありようは、否定しない。可能性に縋り、その道筋に導かれるところまで来ていたのだ。その可能性の光に導かれたのは私だけではない…だが、マンマは違う。

 

『私はララァ・スンにはなれませんよ』

 

 彼女に伝えられた真実は、自らが思い願う理想の否定から始まった。NTは全ての人類の理想、この混沌とした世界を変える唯一の希望…その可能性がララァであった。だがそれは、唐突に失われた。しかし…肉体を失い、熱を感じる事のない空の中でも彼女は私を導いてくれた。

 

『いいえ、私と一緒に歩んでほしいのです』

 

 マンマは導きを否定した。彼女が示したのは、過去に置き去りにした己の姿…捨てた自分を取り戻させようとする、罪の追及だった。

 

『考えることを放棄するな!』

 

 …ダイクンとしての自分は、ザビ家という悪意に殺された。今の自分は復讐という業火が消え残っただけの器に過ぎない。だがマンマはそれを許さない、シャアという男を被り続ける自分を許してくれない。だがそれが、もう一つに己の光なのだと感じている。

 

 己と違う、平穏な人生を歩み、その在り方は全てを包む母のようで、失った過去を埋める為にあるような…これがNTの真実ならば、この感覚に覚えがあった。ララァとの付き合いもまた、己を埋めてくれる言葉を、道標を示してくれていた。人類の先が見えない時、その先を照らすかの如く現れるのがNTなのではないか…だとするならば。

 

 NTとは、母なる大地そのものである。

 

 母のように暖かく、その身は全てを受け止め、傷つく者に寄り添ってくれる…それが人類を導くNTの真実なのではないか?私やアムロ・レイが行った争いは、NTのありようを間違って示してしまった結果なのでは…その答えはまだ自分にはわからない。

 

「抑えて下さいシャア大佐!これ以上は収拾がつかなくなります!」

「ナタリー中尉ッ…」

 

 許される訳が無い。

 

『おお、シャア大佐!君の見立て通り優秀な』

 

 彼女がもっとも遠くにいなければならない場に連れて来たこいつは!…エンツォ大佐が喋り切る前には己の拳が奴の顔を捉えていた。

 

「…シャア大佐、ジオンを背負う覚悟を見出した少女。その在り方を示す切っ掛けとなったのは貴様だ!」

 

 殴られた頬を抑えながら立ち上がるエンツォ大佐。それに合わせる様に扉から奴の部下が現れ、自分を拘束した。

 

「シャア大佐は酷く錯乱している。落ち着かせる為に牢へ連れて行け」

 

 …これ以上暴れるのは、ナタリー中尉にも被害が及ぶ。未だに煮えたぎる思いはあれど、一度殴った事で冷静に物事を判断できるまでには落ち着いた。

 

 

 

 

 

「はっ、一人のガキに赤い彗星がお熱とは、随分と地に落ちたもんだねぇ!」

 

 牢に入れられるまで沈黙を貫き、ただ時を待つだけだった。

 

「…っち、どうせ謹慎程度ですぐ戻ってくるだろうが。あんたの大事なガキは安心しな、アタイが存分に鍛え上げてやるよ」

 

 その言葉で瞳に熱が入ると同時に思い出す…経緯はどうであれ模擬戦をした時の彼女の力…その危険性と未熟さが合わさった動き。つい、鼻で笑ってしまう。

 

「君では手に余るであろうよ」

 

 私がつい言葉に出した事で、エンツォ派のモニカ大尉は思いのまま口を開こうとした。だがそれは、ハマーンの乱入で止まることになる。

 

「シャア大佐!どうしてっ」

 

 ハマーンが牢まで来ると、振り上げた拳を無理やり下げつつ私を視界に入れないように消えて行った。

 

「すまないハマーン。私自身でも抑えられなかった」

 

 思えば勢いのまま動き、彼女を置き去りにしてしまったのだ。不安だっただろう…妹と同い歳の知人がマンマが軍に入隊するのもハマーン自身にとって責任を感じていたかもしれない。アクシズの為に何ができるかと普段から責任を感じていたのは知っている。だからこそ、マンマの入隊を心から否定してくれていた。

 

『マンマは戦場に、いいえ!我々のいる場に来るべきではありません!』

 

 その言葉に私は賛同していた。ハマーンも知人が、妹と同年代の子どもが軍に来る事を心から否定していた。…彼女の事をまだ子供と侮っていたが・・・我々大人が生み出した業に真っ向から対立する姿勢にマンマとは違う、未来への希望を見出している。

 

 未来を創るのは老人ではない。彼女達のようなNTによって築き上げられねばならない…この考えを現実にするのに途方もない時間を費やすだろう。

 

(…マンマが隣にいてくれるか)

 

 彼女達のようなNTが傍にいてくれるなら…そう考えては…悪夢を思い出す

 

『ララァ!』

 

 自分が光を求めた結果…その光は失われる。またそうなるのではないか、また…もしもの可能性、それがとても恐ろしく怖いのだ。

 

(アムロ・レイ…お前ならどうする) 

 

 同じくララァに導かれた者、そして私から全てを奪った者。故に聞きたい、数々の劣勢の中で名を残し続けたガンダム。争いこそNTのありようだと示し続けた忌まわしい存在…その存在を操り、それでも突き進んだお前はどのような答えを出すのかを。

 

 

「…大佐、またマンマの事を考えていますね?」

「ああ…私が気づくのが遅れた。考えられる可能性を自ら否定していたとは笑えない現実だ」

 

 ハマーンから感じる…冷たい感覚だ。当然だろう、身内とも言ってもいい存在を軍に招き入れる原因を作った男だ。この報いも必然、私が上手く立ち回れば済んだ話なのだ…とはいえ、除隊させようにもエンツォ派の目的を考えれば難しいだろう。

 

「エンツォ大佐はマンマを道化にしたいらしい」

 

 口にしても腹立たしい事だ。母のように心優しい彼女が行った事柄をジオン…いいや、己の業に組み込む為に動いている。

 

「…道化ですか」

「もしかすれば、ハマーン。君も利用されていたかもしれんな…奴の危うさはマンマの発言から気にかけていたがここまでとは」

「大佐!どうしてマっッ!」

 

 マンマの名を口に出そうとしたハマーンが睨むように牢までの通路を見た。誰か来るのかと私も通路の方を見ていると…扉が開く。そこには、ナタリー中尉…そしてマンマがいた。

 

 傍から見ても酷く動揺している…ハマーンのNTとしての感覚でこちらに来るのを気づいて話を止めたのだろう。本人の前で言う話題でないと、もう一度ハマーンの方に顔を向けた時には先ほどの棘のある目線も止まっている。やはりマンマの事を思っての行動だったようだ。

 

「…シャア大佐、何をしているのですか」

 

 目線をハマーンと私に交互に見つめながらマンマは話し出す。

 

「君を思って行動したらこのざまだ」

「ッマンマ!貴方は何で大佐と出かけたのよ!」

「ハマーン!止めなさいッ」

「ナタリーも邪魔をするの!」

 

 おどける演技で少しでも気を紛らわせればと考えたが、ハマーンはマンマの胸ぐらを掴みながら強い口調で攻めだした。感情が高ぶって制御できていないのだ、ハマーンもまだ子供であることを失念していた。

 

「ハマーン止めろ!」

 

 手が届く位置にハマーンがいた為、彼女の肩を強く掴んで止めようとする・・・その時、不思議な事が起こった。

 

『なんだこれは!?』

『なんなの、この感覚!?』

 

 それは突然の事だった。私が間接的にハマーン、そしてマンマ…彼女に触れた事で起こった出来事。私達は宇宙にいた…正確にはそのビジョンを見たのだ。

 

 

『刻が見える』

 

 

 ララァ!私は咄嗟に呼び止めた。ハマーンも彼女の事が見えているようで、慌てたように私の近くに寄ってきた。

 

 

『可能性に潰されてしまう…その前に』

 

 大佐にとって希望となるかは・・・・・彼女の導きを…途中で消える様に虹を生みだし飛んで行く彼女にもう一度名を呼ぼうとした時…視てしまった。

 

 

『そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう!』

 

「あれは私だと!?」

 

『私に同調してくれなければ排除するだけだ』

 

「うそ…私なの」

 

 それは未来、時に運命と呼ばれる何か、本来なら知ることも見る事もできない宛ら(悪魔)の視点と言うべき理から外し行為。

 

 


 

 

 最悪な気分である。エンツォ・ベルニーニ大佐に取り込まれ、急進派の目が自分の周りにウロチョロしているとわかる。これでは行動に移そうにも邪魔が入る可能性が高い。

 

(落ち着け私…急進派は物語が進めば被害は出るけど失態を多くやらかす)

 

 連邦の捕虜の件から始まり、そもそも連邦を呼び込んだ責任、暗殺等々…途中で我慢ができずシャアが殴った事で有耶無耶になったけど…マハラジャ・カーン様が甘いから元より無駄か。

 

(…私を取り込んだのは急進派のマスコットにでもしたい為か)

 

 後にハマーン様を持ち上げアクシズ民を戦争継続ムードにしていくが…なるほど、ジオンの為に戦った云々を叫ぶ少女の図はプロパガンダに使えるな。まだ連邦と戦闘していないが、事前にそのムードを作るのが吉と見た感じか。

 

 穏健派のスパイであるお父様…少なからずアクシズに戻って来るまでは、策とわかっていてもマハラジャ・カーン様は動かないだろう。良くも悪くもお優しい方で助かったか?

 

(あれ?見捨てられないよね、大丈夫だよね…ちくしょう!こんな時に前の行いが響いてくるかもなんて!)

 

 こんな時に頼れる人物…シャアか…頭が痛い。

 

「…遅いな」

 

 ナタリー・ビアンキ中尉が遅い。私の事を気にかけてくれていたが、エンツォ・ベルニーニ大佐に何か言って…向かった方が!いや待て…彼女ならどんな心境になろうとも暴力には走らない。あの人は自制ができてる…本当に私やハマーン様より4~5歳上なだけなんですか?二十歳になっていない彼女がどんな人生を経てその領域に辿り着いたのか、人として興味がある。

 

(この記憶は描かれていないところは本当に役に立たない)

 

 人としての考え、知性と呼ぶべき事柄を猿から徐々に得て人となった人類のように過程が存在するのが世の常だ。私が得たこの記憶は、その根幹すら覆す何か、地球の歴史で見た禁断の果実のような魅力が詰った力。この思考すら、私自身で辿り着いた物ではない…記憶から抽出したと言えばいいのか?多くの者達の会話やセリフから得た人生観…それらを統合して得た継ぎ接ぎだらけの何かだ。

 

(本来の私ってどんなだったかしら)

 

 もっと笑っていたと思う。もっと心から笑顔を見せていたと思う。もっと人を…見ていたと思う。

 

(考えるな…頭に響く)

 

 この間のシャアとの模擬戦経て身に付けた…感度が上がったと表現すべきか。記憶通りなら感脳波は、電波塔の役割と同時に受信する役割をする。NTとは空気中に己の電波(思念)を伝達・振動させミノフスキー粒子の反応を読み取ることで、相手の心境などを読み解くとされている。その力を更に効率的にしていく過程で【奇跡】と呼ばれる数々を起こしてしまうだけだ。

 

(そう考えると木星帝国のNT運用法は学ぶべき事が多いな…この時期だと帝国なんてできてないけど)

 

 今から20~30年後の話だが、NTをサイキックという一種の兵器運用として取り込んでいたドゥガチは復讐に燃えてなければ普通の指導者になれていた可能性…ないな。そもそもNT能力が技術的に再現可能となってる時代だった。

 

(量産型アムロ・レイか…なんて魅力的なのかしら。危険な部分はあるけど、ジオンの勝利第一に考えれば些細な事と考えられるかも)

 

 論理感さえ排除すれば未来なんて待たず、今の技術でもできそうではある…猿でできるなら、人間を使用すれば更に効率的にできるとは思わないだろうか?これから戦う予定の連邦は動きをトレースするのだから、我々は本人をトレースすればいいじゃん理論に基づき…クローンでやってるな。でも脳移植とかはしていないはず。本当に論理感さえ無視すればオーガスタ研究所とかはやりそうだな…ニュータイプ研究所に一言伝えるか?

 

「マンマちゃん!シャア大佐が」

 

 私の思考が闇に呑まれていた時、ナタリー・ビアンキ中尉の声が聞こえた。そして何が起こったのかを聞くと思った…  

 

 情けない奴!

 

 何度でも言いたい!シャアの奴め、私の為に怒ってくれたのは…嬉しい気持ちもある。だがしかし!いきなり暴力沙汰に走るとか何してんだよお前は!我慢できないほど私が大切だったか!…恥ずかしいな…いやいや!っハマーン様を利用したエンツォ・ベルニーニ大佐を思いのまま殴り抜ける男だ。私だけ特別ではないだろう。

 

(不愉快な気分にさせるな!お前の事をいい男だと一瞬でも思ってしまった自分を殴りたい)

 

「…ごめんなさい。私がもっと強く止めていれば」

「いいえ、シャア大佐は止まりませんから」

 

 いや本当に…シャアはアムロ・レイが相手だから弱いように見えるだけで、肉弾戦もMS操縦も最高レベルだからね?単純に筋肉量だけで言えば上はいるけど、何だかんだNTの先読みがある程度使えるシャア相手だと普通の奴では止まらん。MSに関してもアムロ・レイを除けば瞬殺できるレベルだし…アムロ・レイと関わるから不幸になってる?まあまあ、そこはシャアだから。

 

 私達はシャアのいる牢まで出向いている…それにしても錯乱ねぇ、エンツォ・ベルニーニ大佐は今回の事を穏健派への貸にしたいらしい。この場合は穏健派を叩くための口実にする為か?穏健派の汚いやり方のせいでシャア大佐が!的な…私の事は上手い事、自発的に証言させるオマケ付き、やりそうだな。

  

(仕事を増やすんじゃねぇ)

 

 穏健派との溝、この場合はマハラジャ・カーン様に対してか?どっちにしても私の立ち位置が劣勢に立たされることに変わりない。そうならない為には…シャアにすり寄って、シャアを中継して穏健派との繋がりを作りつつ、お父様の安全を確保した後に動く他にない。つまり変わらない、今まで通りシャアを上手く動かし続ければいい依然変わりなく。

 

「ッ!?」

「どうしたの!」

 

 何だこのプレッシャー!?扉の先からまるで、観音像みたいなイメージが私を突き刺している。もはや腕にビームライフルでも装備しているかのような強力なイメージが感じ取れる。

 

(え、嘘!この気配はハマーン様!?前より攻撃的になってる!?)

 

 ガタガタと震えが出るほど私は動けなくなった。その様子にナタリー・ビアンキ中尉は私を隠すように抱きしめてくれた…結果的にだが、そのせいでハマーン様のプレッシャーが収まった。身内に己の力を当てたくないのだろうと思う中で冷や汗が止まらない。

 

「そうよね、ごめんなさい!貴方はまだハマーンより子供だもの」

(違います…そのハマーン様から襲われたんです)

 

 どうすればいい…これはあれだ、ジュドー君が未来のハマーン様に感じたNTイメージだ。その時は不動明王みたいなイメージだったが、育ち切っていないから観音像になってるんだ。

 

(だからなんだよ!?これは完全にハマーン様になりつつあるから喜ぶべき…いや違う!?私に対しての嫉妬が大半だったのはマズい!?)

 

 少し過呼吸気味になりつつも、何とか持ち直す。私を帰らそうとナタリー・ビアンキ中尉から言われるが…ここで引いたらもうダメな気がする。怖い気持ちは置いていけ、やればできる!その勢いのまま中に入る。

 

「…シャア大佐、何をしているのですか」

 

 ハマーン様から精神攻撃を受けながらもシャアに話かける…傍から見ると怖がって見えるか?もう少し気を張ろうと改めて二人に顔を向ける。

 

「君を思って行動したらこのざまだ」

 

 …は?ふざけんな!この状況下で何考えておどけてんだテメー!お前が余計な事をしなければ!…つい感情が高ぶり、余計な事を私は考えてしまった。普段ならそれでもいい、しかし…ハマーン様の前でその選択は最悪の一言だった。

 

「ッマンマ!貴方は何で大佐と出かけたのよ!」

(しまったァァ!私の考えが読まれたァァァ!?)

 

 怒りと悲しみ、そして嫉妬と渇望。ぐちゃぐちゃに混ざり合った感情の波がハマーン様からこちらに流れこんでくる!?

 

「ハマーン!止めなさいッ」

「ナタリーも邪魔をするの!」

 

 それにプラスしてリアルで首絞めに近い状況になっている…対格差自体はハマーン様と違いがほぼない為、息ができない状況にはならないが、私の外と内両方からの同時攻撃を受けて、気持ち悪い感情が絶頂に達しようとしていた。

 

「ハマーン止めろ!」

 

 シャアの声が聞こえたと同時に・・・・・私の瞳にはある人物が映っていた。

 

(ララァ スン!?)

 

 このタイミングで何しに来た!と残った意識で語りかけると、彼女は真剣な表情で私に近づいて来る。

 

『あなたのNTの力が強くなり過ぎている。このままだとあなたは…』

 

(曖昧に言うな!どうなるん!ちょ、くるな)

 

 そう言いながら、ララァは私にヌルリと入って行く…そう、この間のジャン・リュック・デュバル少佐を取り込んだ時のように…そして、残骸のような何かが放出されるような感覚に陥った。

 

『ジークジオン!』

 

 何だこの感覚…私はララァが入り込むと同時に虹に乗っていた。

 

『あなたの内に残ってしまった悪い物を取り出したわ』

 

 …何だろう、スーとするような…何でジオン独立を中心にアクシズをみたいな事を考えていたんだっけ?私が求めていたのはアクシズの皆を…

 

『人の思念とは、真理と同じ。死には善悪はないけれど、時に心を動かす事に繋がるの』

 

 貴方が言うと説得力がありますね。それとその考えはインドの考え方ですか?死とは身近にあり、同時に知る事こそが真理に繋がる的な?

 

『うふふ、あなたは常識に囚われ過ぎているわ』

 

 この記憶でだいぶスピリチュアリティに目覚めたと思いますがね。…さっきのはデュバル少佐の思いですか。

 

『彼の思いもあなたは取り込んだ。その思いに反応してあなたの魂も寄って行った』

 

 マクロコスモスとミクロコスモスの関係ですか…宇宙の中に私がいる、私の中に宇宙がある…それは他者も同じであり、違いはない。一つの過程が違えば、一つの過程が生まれる、それが人であり、隣人であり、この世の理である。

 

『難しく考える必要はないわよ…アムロは考えたのね』

 

 …私の記憶も見えているのでしょう?なら貴方からもシャアをどうにかしてくれたりしないかしら。

 

『答えは知っているのではなくって?』

 

 ですよねー…貴方はもう解放された。残ってしまっているだけの…記憶に過ぎない。ララァ・スンという個人は既に死んで、今の貴方はその時のまま劣化しない記憶媒体に近い存在。それは貴方自身で理解している、けど自らの場所がわからないでいる。つまり迷子?

 

『大佐が必要としてくれる限り、近くにいるわよ』

 

 シャアがどうしようもない地雷男だって知っていたでしょうに…途中で逃げる選択もあったはず、シャアが求める女を振舞う人生を選ぶなんて普通はしないわよ。

 

『…大佐は歩いていける。そう信じてる』

 

 その言葉を聞くのを最後に景色が元の牢に戻っていく…どうやらこの謎空間ともお別れのようだ。

 

『マンマ…大佐をよろしくお願いします』

「…私なりに付き合っていくよ。甘やかさないけどね」

 

 笑顔で消えていくララァに私も、どこか笑顔で答えていた。頭が軽くなったような感覚…元に戻った感覚になり、何で悲観的になっていたのかさえ馬鹿らしく感じる。

 

(そうよ!頑張る私が一番よ!)

 

 どんなに言い訳しても、私のエゴなのだから!シャアだろうが何だろうが突き進むのみ!

 

「皆、大丈夫!」

 

 おっと、取り残されたナタリー中尉には・・・ちょっと待て、私だけじゃないのか…

 

 最後に見た光景と比較すると…ハマーン様が光が無い目でダラーンと棒立ちしている。シャアも似たような状況。これはあれだ、私みたいに謎空間に飛ばされている。

 

(うぉい!?ララァさん、何でこの二人まで巻き込んだ!というより、この瞑想?の上位互換的な事できるなら最初からシャアを粛清できただろ!)

 

 サイキックパワー…その片鱗を体感したことで、NT以前にララァ・スンという存在がヤバくね?と改めて感じた。そもそもララァも、アムロより短い期間でエルメスといったMAを動かして戦果を出せている時点で異常な存在だったのだ。そこにインド的なNT要素、スピリチュアルまで絡んでくると想像を超えた何かを発現させてもおかしくない。

 

(…まとまった時間があればインドで修行も悪くないかしら)

 

「ッあ、ああ…!!」

 

 ハマーン様が戻ってきたようだ…何だこの感情は…何で私に恐怖、そして混乱…あの空間から何でそんな感情が生まれる?

 

(…へ?ハマーン様の中にハマーン様??)

 

「いやぁぁぁーー!!」

「ハマーン!」

「ッ早く追ってください!私はシャア大佐を見てます!」

 

 ナタリー中尉は一瞬混乱していたが、すぐにハマーン様を追った。自分も混乱しているのにハマーン様を第一に考えてくれるなんて…待て待て、前の私はナタリー中尉の事を軽視していなかったか…あとで改めて話さないと。

 

(ハマーン様の中に未来のハマーン様のイメージがあった…つまり、私の記憶を見た?)

 

 …ララァ!何してんだお前!お前が私の中から思念を取り出してくれたのは嬉しいけど、余計な物まで取り出しただろ!?

 

「ッここは…戻ってきた…のか」

「シャア大佐…貴方も見たのですか」

「マンマ…あれは、未来なのか…私はどうすれば」

 

(…『逆襲のシャア』を見終わったと…いや、ところどころ断片的な部分があるな。そこに至るまでを見てないだけ軽傷か…そう思うしかねえ!)

 

「どこまで見ました」

「…私がアクシズを、指導者として立っていた。そして・・・・・アクシズを地球に落とそうと」

「何で落としたかわかりますか?」

「いいや…だが、地球に絶望していたのか…いや、NTにしたいと思ったのかもしれん」

 

 ほう…根本が一緒だから、何となくでも理解はできるのか…理解できないでほしかったけどね!ええい、私に縋るような思いを乗せるな!本当はハマーン様の方に行きたいのにお前を優先してるだけありがといと思え!

 

「シャア大佐、よく聞いて…それは可能性の未来です」

「やはり、私はアクシズを」

 

 いやお前!自分はアクシズを落とす必要が出て来るのか~で納得しようとするなよ!可能性の未来って言っただろうが!

 

「前にも言いましたね。考えるのを放棄するなと、その未来は可能性です」

「では、やらなくて…いや、これは私が考える事か?」

 

 お、少しは進展があったじゃないかシャアなのに自分で一歩進めたのは褒めてやるよ!…カミーユ君達の経由を知らんから、この時期だとザビ家みたいなコロニー落としのようなことをするのかって気持ちが強いようだ。そりゃ嫌だろうね、そして私の故郷を落とすことに対する逃避感を持っていたのも…少し情けないが、まあプラス点をやろう!そもそも落とさせないから安心しろよ!

 

「私は近くにいます。ハマーン様も…だから、そんな可能性は捨ててしまってください!」

「…ふっ、光に魅入られた者には君は眩し過ぎるな」

「何のためのグラサンですか?見えない物を見える様にしますが、見たくない物を見えなくする物ではありませんよ?」

「手厳しいな」

「貴方にはこれぐらいが丁度いいと思います」

 

 おおし!これぐらいで十分だろう。精神的にも落ち着いて来たし、私も頑張らないと…さてハマーン様はどこまで見た、一瞬だけだが未来のハマーン様が見えたから『Ζガンダム』か、それとも『ZZガンダム』まで…どっちにしても今のハマーン様には辛い現実に違いない。最悪な未来を回避したいだけなのに、より最悪にするなんて言語道断だ!

 

 

 

 

 

 

 

 うそだ…そんな幼稚な考えが、私の中を支配していた。同時にもう一人の私…未来の私が囁くのだ。

 

『俗物共にジオンを任せていていいのか』

 

 違う、私は皆を、アクシズの皆の助けになれば!

 

『人は駒でしかない』

 

 人は大切な、命は、ジオンの皆が!

 

『邪魔をするなら排除するのみだ』

 

 マンマ…憎い、けど…私は殺したい訳じゃ…

 

「ハマーン、どこなの!」

 

(ナタリー…ッ)

 

 誰も信じられない!…自分自身でもわからない。この気持ちも、シャア大佐への思いも、この世界も。

 

 私はただ走っていた。誰にもバレないように、でも誰からも見つからないように・・・・・どこまで走ったのだろう。

 

 息も絶え、それでも動き腹の中身を裏路地に垂れ流しながらも歩み続けた。酷い格好だ…こんな姿は誰にも見せたくない、道中で転んだせいか、服も汚れ、擦り傷もできている。嘔吐した臭いも体に染みついているかもしれない。

 

「ッ…っ…」

 

 どこかの路地裏。薄汚れた蓋をしているゴミ箱にスカートを折りたたみ座る…こんな時でも体に染みついた気品を大事にするなんて馬鹿みたいと…押し殺した弱い自分を感じながら、ただ泣いていた。

 

(っだれか来る…)

 

 こんな路地裏に人が来るなんて…ただ闇に逃げようとした。こんな醜い自分を誰かに見せたくないその一心で…だけど、その自分自身を隠そうとする手を掴む者がいた。

 

「やっぱり、ハマーン様!覚えてますか、ゲームセンターで」

 

 懐かしい声だ。勿論、覚えている。二人で遊んだゲームセンタでの…振り返りたい、また会えたねと笑いたい。

 

『強化し過ぎたか』

 

「ッ…駄目!離して!」

「で、でもハマーン様、その恰好どうかしたんですか!」

 

 彼の優しさが伝わってくる。私を心配している気持ちが一心に、だからこそ私なんかに近づいちゃ駄目だ。こんなに優しいのに、こんなに思ってくれたのに!!

 

『ハマーン様バンザーイ!』

 

「ほら!頂いた薔薇だってここに、ああ!新しい薔薇を用意しておけば!」

「ッやめて、マシュマー!私はそんなっ…」

「ハマーン様!?大丈夫ですか!?」

 

 彼の前で泣いてしまった。どうすればいいのかわからない…視界がふらつく。

 

「あああ、どうすれば、どうすれば!」

 

 マシュマーの胸に入るように体が言う事を聞かない。情けないな…私…彼は汚れている私に自らの青いジャケットを羽織らせてくれた。薄れゆく意識の中で、まるでお姫様のように抱きかかえられる感覚を感じた。意識を完全に手放す時まで彼の中は私を心配する思いしかなく、私は思う資格もないと感じながらも、安心して目を閉じてしまった。

 

 

 





 ご都合主義全開である。本当はこのまま、バットエンド予定でしたが…路線変更します。ハッピーを目指そうかと思いました。もうガンダム世界の時点でバッドみたいなものだし、視聴者もハッピーの方がいいよね?


 ですので…マンマの人格、最後の5人目の役割が消えました。

 アンジェロ・ザウパー…言わずもがな┌(┌^o^)┐(大佐ァ)要素です。正確には一部の人に対する執着心ですね。私はバットエンドが好きな方でして、元々何やかんや精神崩壊手前のマンマちゃんに最後まで残ったシャアとの、温度差がありながらドロドロな思いを隠してシャアと至る感じに落ち着こうとしていました。愛の逃避行的な? 

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