彗星が近い   作:情けない奴!

8 / 10
第八話 ハマーン様、覚醒の回。




彗星と先導者

 

 マハラジャ・カーンは、参謀が集まる場で怪我の功名を語る男の話を聞いているのが徐々に疲れていた。わざとらしい…顔の怪我自体は本物なのだが、指摘するほどではないが、やや大袈裟な主張を醸し出している様は、目の前の人物の内心を表しているかのように感じられた。

 

 表面には出さないが…シャア大佐の気持ちを察した故に、一ミリも理解していないだろう人物に対し、残念に思う気持ちが湧いてくる。エンツォ大佐のジオンに対する熱い思いは本物だ、だが彼は戦いという選択しか選ばない選民思想染みた回路から抜け出せないでいる。思想に向けて突き進む覚悟は称賛すべき事だろうが、我々は多くの血を流し、流させ続けてきた。次代に残すべきは血の連鎖ではない、戦力によらない体制の維持を願うばかりだ。

 

 今に至るまで派閥との見えない壁はあれど、彼の在り方を何とか更生できないかと接してきた。だが…未だに成果が出てないのが現状に、今回の事を見てしまうと、己の不甲斐なさに頭を抱えてしまう。

 

「シャア大佐が我を忘れ、私を殴りに来る様は実に鬼神迫ると表現できるものでありました…ジオンの未来を見据え、本来真っ先に手を差し伸べる必要があった勇敢なるジオン兵に対しッ!我々は一歩を、その一歩が踏み出せていなかったのです!…赤い彗星として、ジオンの星となり、数多の戦場を駆け抜けた彼が怒りに呑まれるのも致し方ないッ」

 

 不甲斐ない現実を受け止める様に表現する様は、見る者によっては心を動かし得る一手となるだろう。殴られた原因を知っている者からしたら、このような茶番に付き合う現実に嫌気が刺してくる。実に対極と表現できる変化に頭が痛くなる状況だ。

 

(マンマ・コメット…また彼女か)

 

 本質を見定める為に呼んだ一件…あの一件での出来事は未だに心に残っている。その顔は、記憶にある幼子でありながら違うのだ。存在が、感覚が、まるで…

 

『相手側から支援だけ貰える奥の手があるとしたら…マハラジャ・カーン、貴方はその手を血で染められますか?』

 

 今までの印象を覆された。セラーナの良き友人として、この密閉された軍という中で笑顔を引き出す存在としての彼女。少女でありながら、男子が好きそうな事を進んでやり、興味がある事には全力で取り組む様はまさに絵にかいたような童心そのものであった。セラーナも当てられたか、聊か淑女としては遠退く事になったが、それでも、いや逆にマハラジャ・カーンにとって嬉しい事でもあったのだ。

 

 今のジオン、スペースノイド全体が暗雲がたちこめる状態となり、人の心が曇る様を見てきた者として、明るく照らす日差しの下に娘がいると考えるだけでどこか心の拠り所として見ていたのかもしれない。ハマーンもまた、セラーナを通して姉としての思いを強く意識するようになり、良き結果に繋がっていると…思っていた。

 

「だからこそ!今のジオンを思い、あの赤い彗星と歩みを見せた少女…いいや!同士であるマンマ・コメットを入隊することを推薦させていただきたく思う!」

「…だが彼女はまだ13と聞く、適性年齢から大きく下回る事となります」

「ハマーンと大差ないでしょう?それにご安心を。私とて戦場に出そうと考えている訳ではありません。彼女の気持ちを考え、兵士達と接する場を用意しようと考えたまでの事」

「入隊という形にせずとも、接する機会は作れるのではないかね。それにハマーン嬢は入隊している訳ではないぞ、エンツォ大佐」

「ええ、勿論。しかし、彼女もまた我々ジオンを思い、日々我々と共に先へ行く気持ちを持っていると皆もわかっているはず。私としても、彼女も望むなら入隊させたい気持ちではありますな…どうでしょう、提督?」

 

 嫌な手を使う…ハマーンがシャア大佐に憧れを持ち、その気持ちを逆手に取った形である。軍内部を自由に移動できるのは、娘の歩みを邪魔したくない親としてエゴもあるが、エンツォ大佐も利用できると考え、実例という結果を得たい考えもあったからこそ何も言わなかったと実感している。娘の思い一つでも、我々大人の柵を気にしなければならぬ現状は実に好ましくない実例だ。

 

 娘のことを出され思うところはあるが今回の話題で注目すべきは、適性年齢である。戦時中ならば学徒兵…適性年齢を下げ、ギレン総帥下、ア・バオア・クー戦線末期時では、段階的に14歳まで引き下げられていた。停戦をした事で、サイド3だけでなく我々アクシズも一早く元に戻しはしたが…帰って来れた子供達には、心を病む者も多くいた。

 

 受け入れの際、共に見たというのに…エンツォ大佐の中では次の戦いの備えとしか見えてなかったのだろう。手厚く言葉をかける彼に、少しは何か良い変化があればと考えていたが…また彼の心に響かなかったと、最後に辿り着く場所は同じだというのに…ままならない現実をまた知ることになった。

 

(エンツォ大佐の目的は、若い層の取り込みにあるか…その先は破滅であろう…) 

 

 眼を閉じ思う。我々スペースノイドの民はどこで間違えたのだと…ジオンという可能性に縋ったのが間違いだったのか?では、アースノイドによる搾取を受け続けるのを良しとすればよかったのか?全ての宇宙移民の拠り所、独立という理想…ただ、人でありたかった。それだけの事なのだ。それだけの為にいつまで血を流せばいいのだ…

 

「…マンマについては、ダデイ大佐はどのように思っている」

「はは、出発前にお会いした際は驚いておりましたよ。マンマから是非と心からの言葉を聞き、そのまま行ってしまいましたな」

 

 …反対する間もなく、この場合は最初からタイミングを図っていたか。ジオン共和国とのインフラ・物資を含む問題故に図りがあるとは思わなかった。目的は彼女を急進派に立たせ、若者層の宣伝といったところか…彼女がシャア大佐と動いてすぐ取り込もうと考える行動力は感心すべきか、直球的すぎる考えは危険だと表現すべきか。あの変わってしまった少女の本質を理解した上で選んだのであれば…視ていないであろうな。

 

(…マンマ自身も望んでいるのか。血を、まだ流したりないと、ジオンに必要なのは血塗られた道しかないと)

 

 悲しい事だ。シャア大佐はマンマに対しどこか期待しているようだが…彼女のあの思想、あの考え、未来を見据えた…いや、あれは見据えたというより、視たように答えを出していた。

 

 あの瞳は駄目だ。未来を見ているようで、見えていない、ただ答えを述べているだけで経由を無視して突き進むような暴挙にしか見えなかった。NTという考えを知って、まだ解明しきれていない特殊な力を待ってしまった故の暴走…恐怖だ。私は彼女に恐怖した。

 

 マンマが怖いのではない。マンマの在り方、彼女を豹変させるだけの何か、未知の力そのものが怖いのだ。ハマーンもNTだと知っている。だからこそ、あれは違う何かだと確信している。あれは…そう、テレビで見た情報のように、上辺だけの情報を知った故にその情報を信じ動いたように見えた。

 

(一見正しい事でも、過程を無視して動けば破滅するのみ…得た力に呑まれたか)

 

 彼女も被害者と見るべきか…シャア大佐が少し話してくれた思想の一部を考察した上で、彼女のような存在を何故求めている理由はわからない。しかし、あのような直進的で正しい事だけを述べ、実行していくであろう存在を上にすれば…いい結果になるとは到底思えない。

 

「私としては、マンマはセレーナの友人でもある。それに、どのような理由があろうと幼子を我々の場に招くのは本意ではない」

「…なるほど、私は少々急ぎ過ぎていたようです。ですが、彼女の思いを無駄にしたくはありません。ハマーンのように見習いとしての席を用意するのはいかがでしょう?」

 

 軍に正式に入隊させるのは決して許されない。実例を作ってしまえば、次に続く者達の道標となってしまう。一度道ができれば、エンツォ大佐が利用しないはずがない。

 

(この提案も拒否すれば…ダデイ大佐が危険か)

 

 可能な限り目を広げているが、手が出せない場所で行われる事柄には無力だ。

 

「…いいだろう特例としてだが。だが彼女はまだ幼い、同伴させる者を付けるとしよう」

「ええ、彼女もまだ幼いですからな」

 

 ダデイ大佐が戻るのは、数週間はかかる。その間で動くか否かといったところか。

 

(連邦のスパイか)

 

 …ダデイ大佐から直接伝えられた重大な情報。マンマがNTとしての能力で見つけたと言うが、信じていいものか。

 

(彼女の発言にはやはり矛盾がある)

 

 聞いた話では、シャア大佐と出かける道中で偶然にも連邦のスパイとすれ違ったという。NTの力が、他者の思考を読めるというのは研究所からの報告である程度は知っているが…実に都合が良い出会いであろう。そんな重要な情報を持った人物が偶然にも近くを通り、偶然にも力で内心を読み解く…どちらにしても信用ならない。

 

 急進派と結託していた場合、この情報を信じるのは難しい。例え本当だとしても、どのようにスパイだとわかったのか理由がないのも問題だ。そもそも結託しているなら我々をハメる為にあえて伝えた可能性も出てくる。

 

(かといって、事実なら手をこまねいている時間も惜しい)

 

 一応であるが、聞いた名の人物を信頼できるハインツ少佐に調べてもらったが…確かにケヴィン少尉は怪しい経歴であった。現在、アクシズ周辺を警備するザンジバル艦にいる事も知れた。それが知れた時点で矛盾が出ているが、彼女の力故に得られた情報と考えれば、過程をでっちあげでも伝われば良いと割り切った可能性も捨てきれず、結局監視の粋をでない行動しかできていない。

 

「ッままなりませんね。今回の事を皮切りに急進派は動くのは確実かと」

 

 執務室に戻る道中。ハインツ少佐が近くに来て喋りかけてくる。その言葉を受け、溜まった鬱憤も出す思いで語った。

 

「元より、入れられる枠さえ得られれば良いと考えていたのだろう…あの件はどうかね」

「…急進派が周りを固めているようです」

 

 限りなく黒に近い…か。だが、急進派が連邦のスパイを野放しにする理由は何なのか。急進派が連邦と取引…ありえなくはないが、彼らにそこまでの妥協を許す思考になるかを考えると難しいだろうとは理解している。

 

 …あってほしくない可能性を考えてしまった。

 

「…そのスパイの活動期間はどのくらいだ」

「半年かと…ア・バオア・クー帰りの者達に紛れ込んだとしか」

 

 ア・バオア・クーからアクシズまでの道中での兵士被りを見破るのは難しい。確認しようにも、指揮系統が壊滅していた中で兵士一人一人の生存を立証するには途方もない時間を有する。そこに急進派が情報を隠蔽すれば手が出せなくても無理がない。

 

「地球から…このアクシズまで向かった場合は…予測でいい」

 

 その言葉を投げかけた事で、ハインツ少佐もまた、同じ可能性に行き着いたのだろう。緊張した様子で口を開いた。

 

「…約半月です。来た日数を引けば、残り二週間あればといったところ。提督!ここは強行する必要がある案件です!」

「いや、ならん。まだ事実だとは…」

「ですがッ確かに怪しい筋ではありますが、事実だった場合の被害が!」

 

 急進派がジオン独立の為に連邦を招き入れる可能性…行き着いてしまったこの考え、そして同じ宇宙移民独立を思う者として信じたくない可能性。そう、全ては可能性止まりなのだ。

 

「急進派ならやりかねません!連邦もまだアクシズの所在は気づいていないはず、本腰を上げて来ないと理解した上で利用すると提督も考えたはずです!」

 

 確かに考えた、考えられてしまった…だがしかし、私は信じたい。考えは違えど志は同じなのだ、共に歩む者を信じず何を信じればよいか。

 

「…ならん」

「提督!…ッ、でしたら私の方でスパイである立証の証拠を集めます!」

(すまない、ハインツ少佐。だがわかってほしい…ジオンの、同じスペースノイドの者達が向かう先にこれ以上の…)

 

 彼の背を見守るように別れ、自らもまた歩みを進める。重い足取りだ…しかし、どのような心境であれ、家族の前まで引きずる訳にはいかない。

 

 ハマーンが見つかった。昨日の昼過ぎの事、シャア大佐とマンマがいる空間で突然叫び出し、行方不明となったのだ。その報告をナタリーから聞いた時、居ても立っても居られなかった。だが、シャア大佐の件やマンマについての事を話し合う会議があるとわかっていた故に動けず、大事にして急進派に知られるのもマズかったのもあり、任せるしかない現状に歯がゆい気持ちを抑えていた。

 

(ハマーンの友達か…知らぬ間に子は成長するのだな)

 

 執務室に待たせているが、ハマーンは友達の自宅に泊まったそうだ。理由はわからないがNTの能力が関わっているのは何となくだが理解できた。悩みを打ち明けたのか、自分で割り切ったのか…どちらにしても、娘が成長したことは事実だろう。私にできることはただ、ハマーンを受け入れる親としての役目を全うする事だ。

 

(入隊希望か。若さゆえに先を見ず、安易な手を取るのは皆同じ事…その選択の幅を増やすのが我々の役目ではあるのだが…現実は上手くいかんものよ)

 

 娘を思っての事ならば、私の前まで来て打ち明けてくれる覚悟を理解した上で否定しなければならない。その行動力を戦場で発揮する未来にならないようにするのが、自らが人生全て賭けて行うべき事柄なのだから。 

 

 自らの執務室前まで来た。扉に手をかけ、開けていく…そこには、会いたかったハマーンの姿、そして聞いていた通りの二人の子どもが佇んで…いや、片方の赤髪の彼女は客人用の菓子をつまんでいるようだ。緑髪の男子に止められているが、なかなか個性的な友達のようだ。

 

「うまっ…ぐっふ!?」

「ははは、構わんよ」

「お父様!」

「ハマーン…大丈夫だったか」

「ごめんなさい…」

「キャラァァ!この大馬鹿者がァァ!?これではハマーン様の騎士としての品位がァァ!!」

 

 私を前に少々下品な飲み方で、これまた客人用の茶を飲み干す彼女を見ながら、怒鳴りつける男子の図を見ていると…どこか今までの重りが飛んで行く気持ちになっていく。ハマーンは面白い者達を友にしたようだ。

 

「このお菓子は私が出して、その」

「なに、ハマーンの友達で私にとっては客であろう?何も問題ない。それよりナタリーは?」

「…マンマを連れて来るように願いました。そろそろ来る頃かと」

 

 …マンマをか。ハマーンの様子を見て、感じたことがあった。

 

「少し見ない間に大きくなったな」

「っそう、見えますか」

「ああ…とても、な」

 

 そんな会話をしている時、執務室の扉を開けてナタリーと…マンマが入って来た。

 

 


 

 

 ハマーン様が行方不明となり一日経った。私も捜索に参加しようとしたが、ナタリー中尉に止められた…その代わりにシャアからアンディ中尉とリカルド中尉を応援に呼べと言っているのを耳にし、どうやらシャアはどこかのタイミングで二人と再会していたようだ。彼らは元、シャアの部下であり、後の物語でもアポリーとロベルトと名を変えてシャアについて行く二人だ。

 

(…ナタリー中尉とのデートイベントを実質潰しても会えたのは偶然か、必然か)

 

 本来ならデート中…ハマーンの事ばかり考えるシャアとデートしても無駄な時間になるだけだが、その過程で二人と出会う切っ掛けとなるのが本来の展開だ。しかもゼナ様が亡くなってからのデート中だ、まだゼナ様は生きている。倒れてまだ二日だ、あと一日二日は…いやわからないな、今日かもしれん。体調が芳しくないのは、倒れた時点でもそうなのだ。描かれていた状態から早くて一週間あればいい方だ。彼女の場合は夫が確実に迎えに来てくれていた…それがせめてもの救いであろう。

 

(…早めに出会っていても困る事ではない…さてと)

 

 鉄格子越しにシャアがいる。私は人生初の軍施設で寝泊まりを体験した…といっても、女性用のワンルームでだが。朝起きて、シャワーを浴びてそのまま食事からの牢まで直行だ。

 

「マンマ…軍の施設で寝たのか」

「はい。その方が都合がいいので」

「私に会いに来るために?」

「そうですね。それにハマーン様とすぐに会えるようにする為でもあります」

「…ハマーンも未来を見たのだったな。何を見たんだ」

「未来の自分を少しでしょうか」

 

 言えるか馬鹿野郎!気になってるのはわかるが、喋らんぞ!ていうか、原因がお前なんだけど、未来のお前と問題起こしてお前の真似をした未来の自分を見ましたって言っても…上手く説明できても、受け止められないだろうし、そもそも理解を拒否しようとするだろうお前!

 

「ハマーン様はナタリー中尉に任せるしか、現状他にありません。大人数で捜索に当たれば発見は容易だと思われますが」

「急進派がその事態を利用するだろう。困った連中だ」

 

 …お前にも困らせられてる。と言ってもいいが、まあ許そう。今のお前の心境を読んでいると怒る気も失せる…こいつ、牢に入れられて私と会話しているこの状態がどこか嬉しがってやがる。他にやることがない現状が、結果的にシャアの精神の安定に繋がってるのだ。

 

(ハマーン心配だな、でも動けないし、他の人が探してるし大丈夫だろう。マンマもいてくれるし、これは仕方ないんだ、自分には現状できることないし…ふぅ…こいつの深層心理を代弁しただけで疲れたわ)

 

 これでも少しはマシに…なったよね?私がいないと、たぶん今の心理にプラスして自己嫌悪とかマイナスな事も考えだして、どんどん自分を追い込んで行くからだいぶマシなのだ。そうこれでもマシ!そういったマイナス面が積み重なって、最終的に我慢できなくなっていくのがシャアなのだ。勿論ある程度は我慢できる。しかし、もういやだ!と一度でも考えてしまうと、こういった心理状態が所要限界を超えていたら速攻で逃げる算段を立てて消える。そこに未練があろうと消える、それがシャアだ。

 

 シャアは本来、陰キャ…心を閉ざしているのに、NTという思想で無理やり歩みを進めている精神異常者か、あるいは精神患者である。文字にするだけでこいつのヤバさがわかるの卑怯じゃない?でも本当の事なのだ。

 

(こいつがいるべき本来の場所は精神病棟か、自然溢れるどっかのコロニー、あるいは地球の田舎とかがベストであるが…役目を降りさせる訳にはいかん)

 

 …ララァが私の悪い部分、ジオンとスペースノイドをごっちゃにしていた原因を取り出してくれたおかげで、周りを改めて見つめる機会を得られた。そこで、今一度シャアについて考えてみた。

 

 こいつは才能がある。どんな事でも無難にこなせるだけの才能が。だが肝心の本人がその才能に見合った覚悟を持てないのが現状だ。過程はどうであれ、自信を無くし、NTという宗教で無理やり自分を持たせている現状…だが…うーん!やはりこいつに巻き込まれた人達とかを思うと…シャアが精神患者と見抜ける奴はいたか?と考えれば、最終的にアムロさんとか一部のNTの人だけだったけど…ああもう!無理だけど、無理って知ってるけど!シャアめ、嫌なら逃げるじゃなくて嫌と言えや!そうすればだいぶ被害を抑えられた案件が多すぎる!!

 

 シャアは問題と直面した場合、一人だけで解決できる案件があれば悩んだ末に逃げれるなら逃げる、逃げれないなら解決に動くと…回避不能レベルにならないと自分で動かない。だがそこに他者の思惑が絡んだりして、問題事が山積みになってくると、問答無用で逃げを選択する情けない思考になっている。

 

 他者を理解しないとか、自己中心的とか、色んな問題を抱えているが…結局、自我を抑え込み過ぎて発散するやり方を知らない為の情けない奴直行ルートを辿る。万が一であるが、自分の思いを隠さずにアムロと対面していたら…

 

 

 

『アムロ君、私はララァに母のような抱擁感を感じていたい男だ。NTが人類の革新ならば、ララァのような存在が人類を動かす道標となるように協力してほしい』

 

 …絶対協力しないな。アムロさんなら、無理やりでもララァを連れて逃げそうだ。

 

『アムロ!ララァは私の母になる女性だ!』

『ララァは一人の女の子だ!』

『私の母になるのだ!』

 

 ここまで突き抜けてたなら…そもそも病んだりしないか。この場合は情けない奴というより、穢らわしい奴になるだけか。シャアの内面を全力で出すと、形容しがたい何かになって、例え出さなくても問題を起こす…面倒だなこいつ。

 

「マンマ?」

 

 内面を出せない今の状態だと、例え物事を上手く進んでも…最終的に消えていなくなりそうなのがシャアだ。出させすぎは困るが、少しは改善させないと自滅するバランスが難しい。

 

「シャア大佐…貴方は頑張っています」

 

 …こいつを甘やかすのは良い手とは思わない。しかし、少しは自分に向き合おうとしている現状から、自己嫌悪を再発しないとも限らない。人の心は複雑怪奇、何が切っ掛けでぶっ壊れるかわからん。ここでいきなり吹っ切れて、何か面倒になった!とかの考えに至る可能性もなくはない。ある程度、心理的固定化をしておく必要がある。所謂、成功体験のような感覚を与えておく。

 

 少し手招きして、シャアをしゃがませる…私にララァのような思いを感じているのはわかる。ふざけんな!と普段なら突き放すが、アメとムチだ。少し頭を撫でてやる。

 

「…随分と大胆だな」

(は?お前今、頭だけじゃなくてララァにしてもらった膝枕みたいのを想像したな!こいつ、調子に…ちっ)

 

 イらっとするが!ただ優しくしただけだと思うな!

 

「シャア大佐、貴方は一人で進めています」

「いいや、ララァやマンマ。君たちが私を」

「それは違います。貴方が選び、そして歩んでいるのです」

 

 こいつは自分から動けない、動こうとしない。だからこそ、無理やりでも動かす必要がある。でも自分から、という事を前面に出して納得させなければ心の成長には繋がらない。

 

「…私は流れに身を」

「その考えは違いますよ。貴方は今を歩んでいる、貴方の足で、貴方の意思で。私やララァは切っ掛けに過ぎません」

 

 まだ駄目か…こいつの精神がブレブレなのは知っていたが、でも俺なんか的な自己嫌悪感が出ている。言いたくねえ・・・・・でも、手っ取り早いのは確か。依存度が急激に上がるから、後に面倒になるが…そろそろ、連邦との戦闘も始まる時期だ。そこからは速攻で進んで行く事になる。協力を仰ぐ事になるのは確実な為、迅速な行動の為に覚悟をしなくてはならないか。

 

「シャア大佐…いいえ、キャスバル・レム・ダイクン…」

 

 私が本当の名で呼びかけた事で目を見開き、心身ともに私を見ている。…ララァのやり方を真似る日が来るとは…そもそも、ララァも気づいてはいたか。ただ私のように自立心を育てようとまで至らなかっただけで。

 

「私は…母のように貴方を愛しています」

 

 …言ってしまったな。ああ、思った通りの反応だ。シャアの心から困惑と歓喜、トラウマ的な恐怖感にNT云々の考えなどがミックスになって弾けている。

 

「…それは、どういう」

「そのままの意味です。貴方が一人で歩める姿を見たい。ララァもそれを望んでいます」

「ララァも…私は進めているのだろうか」

 

 うお、いきなり心の闇を放出するな!シャアに至るまでや、戦争の経験、今に至るまでの全てを考え嫌悪してやがる。精神を病んでる輩と関わると、関わった奴も病むリスクがあるそうだが、NTだとそのリスクが段違いに跳ね上がるな…まあ、こいつに関しては割り切れるから効かないがね。

 

「貴方が感じた事、思った事、他者から言われた事、全ての経験は貴方の歩みによるもの…違いますか?」

 

 当然の事を当然のように伝える。別の角度から自分を見て見ましょう!私は詐欺師かな?でも、相手のしてきた事を否定せず、こういう見方もありますよね?っていう疑問、思想の植え付けを行うのが精神を正常に戻すバイアスにもなりうるやり方だ。宗教にハマったんだ、こいつには効果は抜群だ。

 

「私は…」

 

 泣きやがったこいつ…ガキかお前は!…今、自分のしてきたことを考えている。このやり方でだいぶ向き合う大切さを理解してくれていると実感できるのは嬉しい部分ではある。問題はこの後だ、このやり方は本来、私ではなくハマーン様に将来やってほしかったポジションだ。だが…未来を知ってしまうアクシデントから、リカバリーできるか不透明になっしまったから私が代わりにやったという事だ。

 

「あなたは一人じゃない」

 

 精神患者には、何度も同じことを刷り込む必要がある。一種の洗脳に近いが、心のバランスを正常にする過程で必要なのは喜怒哀楽。今のシャアは哀の感情が桁違いに大きい、無理やりでも他の感情を大きくする必要がある。

 

 …鉄格子があってよかった。こいつ、何もなければ私を抱きしめてギャン泣きする手前だった。やめてくれシャア、大の大人が私のような子供に助けを求める精神とか情けない奴のランクが桁違いに下がりそうだ。だから離せ、私の手を…両腕で掴むな。

 

 落ち着くまで数分、私はシャアの静かな泣き顔を眺め続ける事になった。

 

「落ち着きましたか」

「…ああ、ありがとう」

 

 ああ、ヤバいぐらい感情の熱が上がった。だが仕方ない…ハマーン様が未来を知るという事は、自分とシャアとの関係も知るという事だ。今のハマーン様であればトラウマとなり、シャア大佐に近づこうとしなくなるかもしれない。それでは、シャアをアクシズに縛る役目の人物がいなくなる。悲しいかな…つまり、代理の役目が必要になったのだ。

 

 ハマーン様のメンタル回復は難しい。NTとしての感受性の高さ、私がシャアを奪ったなどの嫉妬心を考慮して、彼女の精神回復に立ち会う事ができそうにない。無理やり精神を読めなくする否定する感覚で自分の心を閉ざすやり方もあるが、それをすると本末転倒してしまう。

 

 …おや、この感覚はナタリー中尉。ハマーン様が見つかったか!

 

「シャア大佐!あ、マンマ。丁度良かったわ、ハマーンが見つかったの!」

 

 そこからハマーン様が見つかった事を聞くと同時に、私は驚きと困惑に苛まれた。何で今の時期にマシュマーとキャラが友達になってるの!?意味がわからん、誰か説明してくれ!

 

「ハマーンが見つかってよかったが…そうか、友人が軍に」

「はい…彼らの覚悟を見て、その…アンディ中尉と私が」

「若さゆえの行動だ。気に病む必要はないさ、マハラジャ提督なら正しい判断を下すだろう」

 

 すげー、さっきまで私の前で気に病んでた奴が凄いこと言ってる。シャアの奴…マハラジャ提督に父性を求めてやがる。ダイクンの意思を継ぐ存在として、父の存在を重ねて見てしまっている部分があるのはわかる。逆にマハラジャ提督からは、こいつにアクシズ任せたい意思を持ってしまっている。関係性だけ見たら父と子という理想的な関係なのだが、シャアじゃなければ良かったのに。

 

「それでね…ハマーンからマンマを呼んで来てほしいって頼まれたの」

 

 …未来についてか?だがこのタイミングでだと、何を考えているですかハマーン様。まあ行くしかない…おいシャア?私が行くのを止めようと動くなよ。自分も一緒に行きたい気持ちがあるようだが、そこにいるのは自業自得だからな?

 

「シャア大佐。私は行きますね」

「…そうか」

 

 ナタリー中尉が私達の雰囲気の変化に気づいたようだ。どのような変化かはわからないようだが…いや、わからせたら辛い。私の精神的にも辛い。黙っているのが吉だ。

 

 マハラジャ提督の執務室…今度は敵対的な態度は逆効果になるだろう。お父様の命がかかっている。だが急進派に実質所属したような状態の私をどこまで信じてくれるか。そして、あまりに不利な情報を穏健派に与え続けた場合もアウトだ。私はコウモリのように動く必要がある。

 

「大丈夫、マンマ」

 

 ナタリー中尉から見て、私は子どものままらしい。大事に思ってくれるのは嬉しい、でも…子供のように泣いてるだけでは何も得られない。

 

「大丈夫です。私より、ナタリー中尉は大丈夫ですか?昨日から寝れてないのでは」

「ははは、大丈夫よ!このあと寝れる時間があるから」

 

 安心して眠気が襲っているな。体は大事にしてくれ、本当に…

 

「無理はしないでくださいね」

「それは、マンマもじゃない」

 

 無理は…している。いや、ほぼほぼシャアとか精神面の問題対処だし、ジオン兵のメンタルも、他のメンツも精神攻撃を中心に…私って精神方面しか何もできてないな。

 

(物理的に対処する際はシャア頼みしか残ってないか…だが仕方ない)

 

「まあ、程々ですよ…着きましたね」

 

 ナタリー中尉が扉を開けてくれる。そして中に入った時…感じたのは、まずハマーン様から何とも言えない感覚…嫉妬心はほぼなく、受け入れるような、大きな暖かい感覚…え、ナニコレ。

 

「ふむ…揃ったようだな」

「おお、貴方がマンマ嬢か。このマシュマーとハマーン様を早期に結ばせた事に感謝を、だが!ハマーン様にした仕打ちを忘れた訳ではない!」

「マシュマー、もういいから。キャラ」

「はいよ。ちょっと黙ってな騎士様」

 

 本当にマシュマー達がいる。キャラに口を塞がれ、ジタバタしているマシュマーの図を眺めながらマハラジャ提督、そしてハマーン様の横に立つ。

 

「…お久しぶりです。マハラジャ提督」

「ああ、あの時以来だな…ダデイ大佐については私の方で死力を尽くそう」

「ありがとうございます」

 

 わかっていたが…マハラジャ提督は私を警戒している。敵意ではないが、困った相手として気まずい内心だ。私も気まずい。

 

 そんな互いの様子を眺めていたハマーン様から告げられる。

 

「マンマ、話しなさい。内に秘めた思いも、視た事も全部」

「…何を言ってるんです」

「ハマーン、何を」

 

 バカな、ハマーン様の内心が読めない!?昨日まで読めていたはずなのに、ハマーン様のNTとしての力が一日で私を超えたとでも言うのか!

 

「私は知ったわ…一人だと未来は変えられないって。それでね、思ったのよ。マンマ、貴方も私と同じ間違いに落ちてるって」

「同じ間違いですか。何を言ってるんです、私は自分にできない事はちゃんと」

「自分で物事を判断してしまう…人は物ではないの」

 

 ッなんだ、この感覚。怒っていないけど、私を包むような、逆に怖い!

 

「ええ、人は物ではありませんね。先ほどから何を言いたいのですか?」

 

 何だというのだ。ハマーン様が私を憐れむような視線を向けて来る。意味がわからない。ハマーン様は私との会話を止め、マシュマー達の方を向いた。

 

「どう?この時期に彼らはいたかしら」

 

 いるわけない。本来なら、七年以上先で本格的に活動する人物のはずだ。私の態度から、読み取ったのか話を続けていく。

 

「未来は変えられる。違うかしら?」

「…確かに変わりました。ですが、それがどうかしましたか」

「貴方は背負い過ぎている。その背負った物を私達に託しなさい」

 

 …優しい感覚だ。何だこれ、叱るような思いもあれば、慰めるような。駄目だ、変になる!これが精神干渉という奴かッ、甘えちゃ駄目だ。

 

「未来は思い通りに動きません」

「だからこそ、協力する必要があるでしょ?」

「…下手に動けば、対処できない未来に繋がるかもしれないんです!」

「マンマ!」

 

 そうだ。ハマーン様は安易に考え過ぎだ。急進派はどうする?スペースノイドの未来はどうなる?これから来る連邦だって、身内のいざこざだって出てくる!そんな簡単に動けるわけない!

 

 ハマーン様は目を閉じ…そして、開いた時…何かが変わった。

 

「未来という引力に魂を引かれるのは、貴方の役目ではないはずよ」

「え、あ、ハマーン様?」

「時代は確実に動いている。そして、動かすのは皆でだ…マンマ、話してくれるな?」

 

 何が起こった…ハマーン様が、まるで未来のハマーン様のような雰囲気になった。いや違う、何だこれは。私にも理解できない現象だ、ハマーン様から感じるのはプレッシャーのようで違うのだ。まるで全てを飲み込む海のような暖かい感覚を私は受けている。これは安心できるような、深い何かだ。

 

『人は分かり合える』

 

 ララァ…話せと言うの…

 

「…これから話すことは、信じるも信じないも自由ですよ」

 

 未来は変わる、変わらなければならない。確かに私だけだと限界があるのは事実…でも…

 

「大丈夫よマンマ…今を見るのよ。あなたにも見えるはずよ」

 

 この部屋にいる皆が吞まれている。今のハマーン様の変容に、でもそれが暖かい…何故なのかはわからない。

 

 私は…話してしまった。全部だ、アクシズに関わる事を全部話した…それを聞いていたマハラジャ提督、ナタリー中尉、そしてマシュマーやキャラでさえ、未来という未知の恐怖に呑まれていた。でもハマーン様だけは、ただそこに立っていた。

 

 頭を押さえる様に口を開いたのは、マハラジャ提督だった。

 

「…今のは事実なのだな」

「はい。信じられないでしょうが」

「未来で、私が」

 

 ナタリー中尉の末路…シャアとの関係、起こりうる事の悲劇の連鎖、それに彼女は耐えられないでいる。私に違うと言ってほしい、冗談だと、でも事実なのだ。

 

「大丈夫よ、ナタリー…私を信じて」

「ハマーン」

「…お父様。今からスペースノイドの独立に向け、動くとするならどのように動きますか?」

 

 今聞くことなのか…一瞬の迷いの末、マハラジャ提督は聞いた内容を入れつつ言葉にした。

 

「今からならば…先ずは小惑星帯機動艦隊とやらを対処だな。その後に…急進派を…」

「お父様、独立だけでいいのです」

「あ、ああ。ならば、ジオン共和国との連携の強化。首相のダルシア殿との折り合いを付け、地球連邦政府との会談に向けて動くか…完全な独立を求めるとなると、連邦政府内の腐敗を待った方が確実であろう。しかし、被害を出させてから…」

「お父様、もう大丈夫です…どうかしらマンマ?少しは不透明な未来は見えたかしら」

 

 …動きはした。だが、まだ足りない。

 

「マンマ、貴方の見た未来の流れは知れた。でも細かい部分は、私達にはわからない。そこは貴方が頼りよ」

「え、私の知ってることは」

「さっきのお父様がジオン共和国で連携の話は聞いたわね。貴方が思う、信用できる人物を教えて」

「…ハマーン、マンマを利用する気か。私はそのような行いは容認できん」

 

 ハマーン様は胸に手を置き、ここにいる皆に発した。

 

「一人の人間に全てを押し付けても、その先は破滅しかない。人の道を示すなら共に歩んで行かなければならない!私も、いえ、全ての人間には足りない物が多すぎる、だからこそ、共に進むの。私がその先頭に立ちましょう、皆の道標と、灯りとしての役目を果たしましょう。でも先は暗闇なの、酷く恐ろしく、怖いの…だから!一緒に照らしてほしい!助けてほしいの!」

 

 それは叫びだった。未知へと立ち向かう恐怖、先の見えない目的地へ先頭に立ち歩もうとする未来への咆哮。その響きは確かに、確実に、ここにいる者達の内に聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある病室の一室で、一つの影が現れる。現れた人物に手を伸ばし、その手を掴み返される。

 

「ミネバ様の未来は、絶対にお守りします」

 

 意識も朦朧とし、掴まれている感覚も曖昧だ。

 

 声がでない。こんなに近くにいるのに、遠くに感じてしまう。でも思うのだ、どんなに変わっても、彼女の泣きそうな顔を隠せていない。

 

 誰か気づいているのだろうか。そんな思いを考えた時、彼女は声をかけてきた。

 

「私は大丈夫です…いっぱい迷惑をかけます、いっぱい助けてもらいます…だから…」

 

 一筋の涙が流れて消える…ああ、どうか。この子の未来が明るい明日になることを。

 

 ほんの少しの時間。だがその時間は、決して無くしてはならない記憶として、一人の生涯に残る一滴となったのだ。

 

 





 ご都合主義全開だ。

 バットエンドは比較的簡単に物語が組める。ハッピーを目指すと凄く難しくなる。そして、八話になるのに、まだガンダムCDA一巻本編すら進んでいない現状である。大丈夫なのだろうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。