「──馬鹿者が……」
「本当、お馬鹿さんね」
私と共にモニターを見つめるのはトーレとクアットロ。
モニターに映し出される、荒れ狂う海と六本の竜巻。ジュエルシードを強制発動させた結界──それを見つめ、トーレは忌々しげに呟いた。
「君たちから見ても、そう見えるかい?」
「はい。あれではすぐに自滅するでしょう」
フェイトがジュエルシードを強制発動させ封印、使い魔は無防備なフェイトのサポート……理には適っている、だが万全な体調ではないフェイトでは────いや、ただの人間がロストロギアを御そうなどというのが土台無理な話なのだ。
「……管理局が先か、プレシアが先か」
どちらが先に手を出す?
優秀な指揮官であれば、フェイトが自滅するのを待ってジュエルシードを確保するだろうが……だがプレシアは?
まさかフェイトが封印してくれるなどとは思っていないだろう──必ず介入してくるはずだ。確実にジュエルシードを手に入れるために。
「チンク、セイン。ジュエルシードの暴走に巻き込まれないように注意してくれ」
『そんなミス、いくらあたしでもしないよ』
「それでも、やはり心配なんだ。こんな任務で君たちに怪我をさせるわけにはいかないからね」
『承知しています、ドクター』
さて、どう転ぶかな……。
「──あれは」
「あらあら、お馬鹿さんがもう一人。もうすぐ自滅しそうなのに」
驚いたように言葉を漏らしたのはトーレ。
呆れたように呟いたのはクアットロ。
『民間協力者の少女……と男の子?』
「間違いなく命令違反だろうな」
戸惑った表情のセイン。
トーレは少女の行動を冷静に切り捨てた。
……やはりこういう状況での反応も、普通の子とは違うのだろうね。
トーレのように冷静な判断を下すでもなく、クアットロのように呆れるのでもなく、セインのように戸惑うのでもない。
あの少女と少年の行動に感銘すべきだ。
「──チンク、知っているかい?」
『……?』
事の成り行きを見守っていたチンクに私は独り言のように話し掛ける。
「その世界では15歳までの教育が義務づけられているそうだ」
『それは……管理世界にはない義務ですね』
「ああ──そうだね」
……プレシア、君は理解していないだろうな。
君の行動が管理外世界の少女に杖を握らせていることに。
“大人に成らざるを得ない状況”に少女たちを置いていることに。
『ドクター……?』
「──いや、なんでもない。すまなかったね、変な話をして」
いえ、とチンクは目を伏せた。
「──プレシアが仕掛けるならそろそろだろう。解析準備をしておいてくれ」
私の戯言に付き合わせている間に、竜巻はバインドによって一つに縛られ、二人の少女により封印が行われようとしている。
おそらくはジュエルシードを封印した直後、プレシアは攻撃を仕掛け、その隙にジュエルシードを回収させるはずだ。タイミングはそれしかない。
────そして私の予想は概ね的中することになる。
外れたところと言えば、プレシアがフェイトにも雷を落としたことだろうか。
『解析完了っ。邪魔されなけりゃ簡単簡単!』
『よし──次元跳躍攻撃の発生源を特定しました。いつでも術者の下へ飛べます』
「管理局の船にも攻撃直撃~、システム復旧まで後10秒ほどですぅ」
愉しげにクアットロが報告してくれた。
──いよいよか。
「今ならプレシアも疲労しているはずだ。すぐに飛んでくれ」
『りょーかい!』
セインの言葉と共に、魔法陣とは違う陣がチンクとセインの足下に現れる──魔導師ではない彼女たちには転移魔法は使えない。
今回はこちらからの補助で示された座標へ転移させる。
消費するのは魔力ではなく、私のラボを循環する大量のエネルギー。
それ故に多用できるものではない、今回は特別だ────プレシアの体力が戻っていたら、チンクたちをいきなり殺してもおかしくはないのだから。
◇◆◇◆
「うわぁ、なんかいかにもって感じ」
「以前は綺麗な場所だったとドクターから聞いたことがあったが……」
その面影はなく、主の心を表すかのように庭園は暗かった。
それも当然か、次元空間に太陽はないのだから。
「プレシアってのと接触して、ドクターと話をさせればいいんだよね」
「ああ。直接転移したのだから、すぐ近くに────!」
戦闘機人である私の耳が、電撃の音を捉えた。
「────管理局、ではないわね」
「……プレシア・テスタロッサだな?」
私の纏ったコート(任務前にドクターにいただいたものだ)がAMFを発生させ、魔力の電撃を防ぐ。
「ドクターの言ってた通り、ってか体力戻ってなくても攻撃してきたよ……」
「ドクター……誰のことか知らないけど、無駄な体力を使わせないでちょうだい」
プレシア・テスタロッサの顔色がいいとは言えない。次元跳躍攻撃のせいだけではない、病に罹っているのか……?
「知らないはずはない。ドクターはあなたの同士であったはずだ」
「同士……?」
『────ご苦労だったね、チンク、セイン。後は私が話そう』
怪訝そうな表情のプレシアと、私たちとの間の空間にモニターが現れる。
『久しぶりだね、プレシア。私を覚えているかい?』
「ジェイル・スカリエッティ……」
ドクターを見た瞬間、プレシアは憎々しげにドクターの名を呟いた。