数の子って言うな!   作:うた野

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第11回

「5年ぶりになるのかな。君の顔を見るのは」

 

『そうね。私は二度と見たくもなかったわ』

 

「おそらくこれが最後になる、我慢してくれ」

 

 

 ──随分と顔色が悪くなった。

 以前はもっとマシだったというのに……やはり、プロジェクトFのせいだろう。

 

 

『──ソレはあなたの作品かしら?』

 

「ああ。君は会ったことがなかったね、チンクとセインだ」

 

 

 会ったことがなかった、というより私が会わせようとしなかった。

 娘を失ったプレシアには酷であり、憎悪の対象でしかないのだから。

 

 

『5番と6番、機械人形には似合いね』

 

「……君の娘、フェイトと同じようにかい?」

 

 

 ──モニター越しにも理解できた。空気が変わったことに。

 

 

『娘? ふざけたことを言わないでちょうだい。あんな出来損ないの人形が、アリシアと同じなわけないじゃない』

 

 

 そして同時に確信する。

 やはりプレシアは道を違えたのだと。

 

 

「──彼女は君が生み出した作品で、君の娘だろう」

 

『──!』

 

 

 ガンッ、とプレシアが杖で床を叩く。

 すると床から十数体の兵隊──傀儡兵──が現れ、チンクとセインを取り囲んだ。

 

 

『──ふざけないで。私はあなたとは違う。生み出した作品に、しかも出来損ないに情なんてわかないわ』

 

「彼女は、私の描いたプロジェクトFとしては間違いなく成功作だよ」

 

 

 だというのに、プレシアはフェイトを認めない────それは、科学者として失格だ。

 まあ私のように作品に愛情を注ぎすぎるのも、科学者としてはもう使い物にならないがね。

 私には娘たちを使い捨てることなどできないのだから。

 

 

『あなたの描いたプロジェクトと私の描いたプロジェクトは違う──でも別にもういいわ。あなたのお陰で、私はアルハザードの存在に確信が持てた。今は人形のことなんかよりも、せっかくだからあなたに訊きたいことがあるの』

 

「……アルハザードのことかい?」

 

『いいえ。あなたを生み出した存在──最高評議会について、あなたの口から聞きたいのよ────小娘は置いて、大人の話をしましょう? ジェイル・スカリエッティ』

 

「──そうだね。もしかしたら君の気が変わるかもしれない」

 

 

 チンクとセインに動かないように告げ、モニター越しとはいえ、これで実質プレシアと1対1────望んでいた状況になったわけだ。あまり娘たちには見せたくないと思っていたんだ。

 

 

 

 

 

「彼らについて訊いてどうする?」

 

『私はアリシアとアルハザードに旅立つ。あの老害どもにアルハザードへ渡る術を持っていられたら困るのよ』

 

「彼らはアルハザードの技術を保存しているに過ぎない。長い時の流れ中で彼らも保存された技術も擦り切れている。彼らはアルハザードに渡ることはできない」

 

『そう。それを聞いて安心したわ』

 

 

 最もアルハザードに近付いた彼らが其処へ渡る術を持たないなら、プレシアとて同じこと。

 だが彼女には成功のビジョンが見えているのだろう。

 

 

『ならもう一つ。これは単純な興味からの質問なのだけど』

 

「なんだい?」

 

『あなたはいつまで人形遊びを続けるのかしら?』

 

 

 ……人形遊びね。

 

 

『ねえジェイル・スカリエッティ、あんな人形を何体も。6番なんて人形の分際で無駄なものが多すぎる。あれならまだフェイトの方が役に立つわ』

 

 

 ここだけプレシアは敢えて、傀儡兵に囲まれたセインたちに聞こえるような声で言った。

 

 

「そんなことはない。セインもチンクも、それぞれ素晴らしいものを持っている。人形にはない、人間の生命故のゆらぎだ」

 

 

 対する私は静かに、プレシアに向けてだけ言葉を発する。

 

 

『人形が人間の真似をして、どうなるの? まさか、あなたも父親の真似事でもしているのかしら?』

 

 

 プレシアの嘲笑。

 本当の母である彼女から見れば、私のしていることなど所詮ままごと、というわけか。

 

 

「私も娘たちも今はまだ不器用だ。だけどいつか、本当の家族のように笑いあえれば良いと思う」

 

 

 だから、こんなことはさっさと終わらせてチンクたちには戻って来させなければならない。

 

 

『──漸くわかったわ、私の苛立ちの理由が。気にくわないのよ、あなたみたいな存在がそんなことを口にするのが。家族だなんだと語るのが。無限の欲望なんていうコードを付けられた存在が綺麗事を吐かすのが!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────綺麗事? おかしなことを言う。

 

 

 

「プレシア・テスタロッサ。君は私が綺麗事を並べ立てる、そんな善人に見えるかい?」

 

『なんですって……?』

 

「この私が善人? 犯罪者である私が? やめてくれ、不愉快だ」

 

 

 そんな傑作なことがあってたまるものか。

 

 

「善人が人間の身体を弄くり回して機械を埋め込むのかい? 違うだろう?」

 

 

 この私が善であってはならない。

 欲望など、悪の最たるものだろうに。

 だからこそ娘たちには私を反面教師にして、良い子のまま成長してもらいたい。

 

 ──ああいや、今は善悪だとかそんな話じゃなかった。

 まったく、プレシアがあまりにも的外れなことを言うもので話がズレてしまったじゃないか。

 

 

 

「プレシア。私からも君にいくつか言いたいことがある」

 

 

 そう。私はそのためにチンクたちに無理を言ったのだ。

 

 

「君が認めようと認めまいと、フェイトがテスタロッサの姓を持つ君の娘である事実は変わらない」

 

 

 管理局はフェイトをプレシアの娘だと思っているだろうし。

 

 

「そして子供がしたことは親の責任だ。必ず君に返ってくるよ、フェイトが他人に迷惑を掛けた分だけ、傷つけた分だけね」

 

 

 たとえばあの少年や民間協力者の少女。

 

 

「そして君がしたことは君だけの責任だ。フェイトにも、アリシアにも罪はない。君が背負いたまえ」

 

 

 

 

 子供がしたことは親の責任だが────親がしたことに、子供は何の責任もないのだから。

 

 それだけ伝えておきたかった。少々勘違いしているようだったからね。

 

 プレシアがアリシアのために選んだことだ、止める気はない。

 ただ母親としての役目は果たしていきなよ、とだけ。

 

 科学者としての道を違えても、母親としての道は間違えないでくれ。

 でないと、アリシアに合わせる顔がないだろう? 

 

 

 

 

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