「あんな人形を何体も。6番なんて人形の分際で無駄なものが多すぎる。あれならまだフェイトの方が役に立つわ」
(クア姉と同じことを言うんだな、あの人も。まあ自覚はあるんだけど……今回ばかりは失敗しないように頑張ったのになぁ)
セインは思考する。
ドクターが自分たちに動かないよう命令したのも、余計なことをしないようになのかもしれない、と。
(……好き勝手言ってくれるな、彼女も)
チンクは思考する。
プレシア・テスタロッサは妹の個性を無駄呼ばわり。
ドクターの創造した私たちに、無駄な部分などあるはずもない。
セインの個性が無駄だというなら、コンシデレーション・コンソールを使って洗脳すればいいだけのこと。
それをしないのは必要がないからに他ならない。
我が身がこんな体型なのも、無駄ではない……そう、無駄ではないのだ。
(……ということは牛乳を飲んで成長したとしても、この体型に戻されるのではないか?)
この無駄のないボディが至高だというなら、つまりはそういうこと。
(いやしかし、成長する余地があるのならばそれは無駄などではないのでは?)
うん? と論点がズレていることに気づかないまま、チンクは唸る。
そんなところも父親譲り。
「────話は終わったようだな」
「だね」
そして切り替えが早いところも。
チンクとセインは自分たちを囲む傀儡兵の異変に気づいた。
(──もういいわ。もう)
プレシア・テスタロッサの心は不思議と冷めていた。
ジェイル・スカリエッティに感じていた苛立ちもどこかへと消えている。
そして彼女は決断した、自然に、それが当然だと言わんばかりに。
(父親になりたいというのなら味わえばいい。愛する娘を失う衝撃を。そうすればきっと、あなたにも分かる。自分の言っていることが綺麗事だったと)
5年前の、プロジェクトFに希望を見いだしていたプレシアであったならそんな決断には至らなかっただろう。
このプレシアの決断が、彼女が壊れてしまったということを如実に表していた。
「ジェイル・スカリエッティ。其処で見ていなさい、自分の愛娘が壊れる瞬間を。そして理解するといい、親の気持ちをね」
それが、あなたが望んだことでしょう?
そう言って壊れた女は杖で床を叩いた。
『……悲しいね。私の知っている君はもういない。君たちがアルハザードに辿り着き、本当の君に戻ることを祈っているよ』
狂気の科学者は呟いた。
私は君のようにはならない、絶対に娘たちを失うようなことはしない。
◇◆◇◆
「──IS発動、ランブルデトネイター」
まさか、本当に実戦になるとは。
トーレの心配(本人は認めないだろうな)が現実になったようだ。
傀儡兵の関節を狙い、固有武装 スローイングナイフ・スティンガーを放つ。
セインの能力は直接戦闘にはあまり向かない、私がサポートしなければ。
「チンク姉!」
「心配するな、姉に任せておけ」
「人形が姉妹ごっこ、親に似て幼稚ね」
プレシア・テスタロッサ……親というのはドクターのことだろうか。
「ごっこではなく、私たちは姉妹だ。ナンバーズ全員がそう認識している」
──どうする? できるだけ私たちの痕跡を残すわけにはいかない。プレシアとの戦闘は避けるべきだ。
だが易々と転移させてくれるとは思えない……やはりドクターからの指示を待つしかない。
「だから人形なのよ、あなたたちは」
迫る雷撃をAMFを発生させることで防ぐ。
今の彼女相手ならば時間は稼げる……すまないセイン、持ちこたえてくれっ。
◇◆◇◆
「ちょっとマズいかな……」
ISが戦闘向きではないとはいえセインも戦闘機人、傀儡兵の一機や二機に遅れを取ることはない。
だがチンクはプレシアと対峙し、十以上の傀儡兵がセインを狙っている。
対するセインには傀儡兵を破壊できるような力はない、トーレのような肉体増強は受けていないのだから。
(……でもまあ、壊れたら壊れたで直せないこともないからいいか)
自分の能力の貴重さを考えれば、使い捨てられることもない。
何よりセインは────
(チンク姉なら大丈夫そうだし……生き残れって命令を受けたわけじゃないし)
──命令を受けていなかった。
機械であるが故に彼女には恐怖などない。
セインはただ淡々と事実を受け入れていた。
如何に明るい子であったとしても、その根幹には戦闘機人としての意識がある。
絶対にこの任務を失敗したくない、チンクの邪魔になりたくない、そんな思いが機械的に、振り下ろされる傀儡兵の剣を受け入れることを選択していた。
(これでクア姉も少しはあたしを見直してくれるよね)
「──馬鹿どもが……!」
──クアットロであっても、こんな予定外の場所で妹に傷をつけることは許さないだろう。
ならば、実戦リーダーである彼女がそれを許すはずもない。
──否。そんなことを許す者など、ナンバーズには存在しない。