数の子って言うな!   作:うた野

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第13回

「──君の指示かい? ウーノ」

 

「いえ。これはトーレとクアットロの判断です」

 

 

 ──そうか。あの二人が……よかった。

 

 

「ディエチ、よく見ているといい。君の姉の姿を」

 

「……はい」

 

 

 プレシアと1対1で話したい、そうトーレとクアットロには伝えたが……ふふ、私に似て行動的だ。

 だがそれに比べて今の私は──

 

 

「──やはりまだまだままごと、か」

 

 

 セインがどうして攻撃を避けようとしなかったのか……戦闘機人とて、生きた人間だ。

 確かに部品に代わりはある。だがその脳──心には代わりなどない。

 いや、違う……たとえ部品があり、修復できたとしても、私は娘が傷つく姿など見たくはない──戦場に送り込んだ者の言葉ではないな、まったく……。

 ウーノたちに任せきりだったのがやはりよくなかった。父親としての自覚がまだまだ足りないようだ。

 

 

「ドクター? どうかなさいましたか?」

 

「──いや、なんでもないよ。ただトーレも変わったと思ってね」

 

 

 娘に情けない姿は見せられない。

 話を逸らすために口にしたことだが、それは心からの言葉だった。

 

 

「セインのお陰です。あの子の性格はトーレやクアットロの精神的成長に繋がっていますから」

 

 

 勿論、ディエチにもね。とドゥーエは言って、末妹の頭を優しく撫でた。

 

 

「……うん」

 

 

 ディエチはくすぐったそうな表情をしながらも、その手を受け入れる。

 ──セインの明るさには私も助けられている。そうだ、今度は私たちがセインを助けてあげなければならない。

 心の中の闇を取り除かなければ。

 セインの本当の笑顔のために。

 

 

「クアットロも、もう少し素直な子に育ってくれればいいんですが」

 

「そんなことはない。クアットロの素直になれないところも、大切な個性だよ」

 

(あの子は素直になれないというより、性格の問題な気もするけど……でも、個性には違いないわね)

 

 

 もっと時間を作ろう、話す時間を。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「トーレ……何故お前が此処に?」

 

「何の保険もかけずに妹たちだけで戦場に放り込む姉が何処にいる」

 

 

 セインを片手で抱えながら、トーレはチンクの前に降り立つ。

 

 

「本来ならばお前たちだけでやらせるつもりだったが……」

 

 

 乱暴にセインを床に降ろし、傀儡兵たちを睨みつけた。

 

 

「まだまだお前たちには教育が足りなかったようだ」

 

「……ごめん」

 

「セインは十分に────ッ!?」

 

 

 姉としてセインをフォローしようとしたチンクの頭に、トーレの拳が振り下ろされる。

 

 

「貴様もだ、馬鹿者が」

 

「っ……?」

 

 

 何故殴られたか分からないチンクが涙目になってトーレを見上げる。

 トーレはチラリと一瞬チンクに視線を向けるが、すぐに眼前の敵へと視線を戻す。

 

 

「ドクターの命令を待っているようでは、こいつらと変わらん。ただの機械であれば頭に脳が詰まっている必要もない──そんなことも理解していなかったのか、貴様らは」

 

「……」

 

 

 先ほどの自らの思考を思い出し、チンクは俯く。

 

 

「────本当にお馬鹿だったのねぇ、チンクちゃんは」

 

 

 そんな彼女の耳に届いたのは、4番特有の人を馬鹿にしたような声。

 

 

「クア姉……」

 

「セインちゃんも。失敗するだけならまだしも、壊れられたらドクターも私たちも困るのよ? まったく……」

 

 

 心底呆れた表情のクアットロがステルスを解き、姿を現した。

 ──この言葉はクアットロの本心からの言葉であり、妹に対する心配などはまったくなかった。

 だが同時に感じていたのは、小さな胸の痛み。

 馬鹿なことをしようとした妹への苛立ちだと、そう結論付けてクアットロは自らのISを発動する。

 ──クアットロが不要とする人間味、完全なる戦機としてのナンバーズ。

 だがそのクアットロ自身にも人間であるドクターの因子によって、人間らしさが芽生えてきていた。

 

 

「所詮は図体だけの人形、私たちの足元にも及ばない木偶──踊ってなさい、その女と一緒にね」

 

 

 クアットロたちの幻影が現れると同時に、本物のクアットロたちの姿がプレシアの視界から消えた。

 

 

 

 

「そんな幻影程度で逃げられるとでも思っているの? 見えないなら部屋全体を焼き払って──」

 

 

 クスッと幻影のクアットロが笑う。

 

 

「逃げる? 嫌ねぇ、見逃してあげるって言ってるのよ? 下手に殺して管理局に私たちの存在を悟られるのも面倒だから」

 

 

 プレシアにも似た狂気を孕む笑み。

 クアットロが言葉を紡ぎ終わる頃にはもう勝負は決していた。

 

 

「──あなたにはドクターの代わりにプロジェクトFを完成させていただいた借りがある。私たちはもうあなたの行動に干渉はしない、ですから今回は退かせていただきます」

 

「ッ、人形風情が私を脅すの……」

 

 

 一人、IS シルバーカーテンを解いたトーレが己の固有武装、インパルスブレードをプレシアの首筋に突きつける。

 ──かつて、大魔導師と呼ばれた頃のプレシアであったならばどうとでもできていただろう。

 だが今のプレシアには突きつけられた光刃をどうすることもできなかった。

 

 

 

 

 

「さ、帰るわよチンクちゃん、セインちゃん」

 

 

 呆気にとられている二人を尻目に、クアットロは転移用のテンプレートを展開する。

 

 

「……ああ」

 

 

 稼動時間だけならば、クアットロよりも長いチンク。

 

 

(だというのに、この差はなんだ……? 私は初期制作機である姉たちに及ばないのか?)

 

 

 ドクターの因子の有無、それだけの差。

 だが因子を持たぬチンクたち後期制作機には、人間としての心が根幹的な部分で未だ未熟であった。

 

 

(……本当、お馬鹿ね)

 

 

「トーレ姉様、戻りましょう」

 

「ああ────アリシアお嬢様と幸せにお暮らしください」

 

 

 トーレはそれだけ言って、プレシアの首筋からインパルスブレードを外した。

 

 

 

 

 

 

 

 ────クアットロたちが転移した後、漸くプレシアは俯いたままだった顔を上げた。

 

 

「……人形に言われるまでもないわ、私とアリシアはアルハザードへ旅立つ。全ての柵から解き放たれるのよ」

 

 

 ──壊れた魔女は止まらない。

 

 

「私のお人形も、もういらないわね」

 

 

 ジュエルシードは十全とはいえないまでも、彼女の強い願いを叶えるには十分な数だろう。

 あんな反吐の出る家族ごっこを見せられた後で、人形と話すなんて考えたくもない。

 

 

「私は私の本当の家族と、アリシアと幸せになるの」

 

 

 

 

 

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