数の子って言うな!   作:うた野

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第15回

 5月末。

 

 

 プレシア・テスタロッサは虚数空間に消え、民間協力者であった高町なのはもアースラを降り、フェイト・テスタロッサだけが残った。

 

 

 

 

 

 

「──お疲れ様、クロノくん」

 

「砂糖とミルクは──」

 

「勿論入ってないよ。入れた方がよかった?」

 

 

 やめてくれ、と心底嫌そうな表情をしながらクロノ・ハラオウンはエイミィ・リミエッタからコーヒーを受け取った。

 

 

「綺麗な形とは言えないけど事件は解決したのに、まだ何か気になるの? プレシアのことを調べてるなんて」

 

「いや──なのはに言ってしまったからな。フェイト・テスタロッサには絶対に無罪になってもらわないと困る。そのために何か使えそうなものはないか探しているだけだよ」

 

 

 クロノ・ハラオウンはそう言うが、それだけではなく確かに彼には今回の事件について腑に落ちないところがあった。

 例えばフェイト・テスタロッサを生み出したプロジェクトF。

 

 だがそのプロジェクトFの基礎理論を組み立てたのは誰だ? 

 クローンをつくり、そのクローンに記憶を転写する。そんな発想ができる人間など、一体どれだけいる? 

 だというのにプロジェクトFに関係する情報はほとんどない。全てプレシアと共に虚数空間へと消えてしまった。

 

 

 ──裏に何かがある、それがクロノ・ハラオウンの見解である。

 

 

 

「さーて、じゃあ私もお仕事に戻ろうかな」

 

「なんだ、まだ終わっていなかったのか?」

 

「うん────フェイトちゃんの無罪が決まるまでは終わりそうにないね」

 

 

 エイミィの言葉にクロノは一緒ポカンとした表情を浮かべた後、小さく笑った。

 

 

「ならさっさと終わらせないとな、お互い」

 

「だね」

 

 

 時空管理局。

 裏に蠢く思惑を知らぬまま、局員たちは今日も働く。

 自らの信じる正義のため、助けを待つ何処かの誰かのために────。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 同日。

 

 

「私たち、これからどうなるのかな」

 

「────まだしばらくは自由の身にはなれないけど裁判が終わったら、ううん、裁判が始まる前からだってフェイトがどうしたいか、それだけでどうにでもなるさ」

 

 

 どうなるかではなく、どうするかだと、使い魔 アルフは言った。

 

 

「でもまあ、一番したいことはもう決まってるんだろ?」

 

「……うん。あの子に会いたい、会って話したい」

 

「なら、フェイトがそうしたいってことを言葉で伝えないとね」

 

 

 少しずつ、フェイト・テスタロッサは変わっていた。

 アリシアのクローンとしてではなく、フェイト・テスタロッサとして、少しずつ。

 

 それがアルフにとって堪らなく嬉しい。

 

 

「──ねえアルフ」

 

「なんだい?」

 

「アルフは今までずっと私のそばにいてくれたね」

 

「当たり前だよ、フェイトはあたしのご主人様なんだから」

 

 

 アルフがいて、優しくしてくれる人たちがいる。

 悲しさも苦しさも寂しさも、ずっと永遠には続かないから。

 楽しいことやうれしいことが、探していけば必ず見つかるはずだから。

 それを手伝ってくれる人たちがそばにいてくれる。

 

 ──フェイト・テスタロッサは前を見て、立ち上がろうとしていた。

 

 

「これからもよろしく、アルフ」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 6月2日

 

 

「なのは、朝だよっ」

 

「うぅん……」

 

「今日は友達の所に出掛けるんでしょっ? 遅れちゃうよ」

 

 

 寝返りをうつ少女 高町なのはに必死に声を掛けるのは、フェレットによく似た動物──に変身した人間の少年 ユーノ・スクライア。

 

 

「…………そ、そうだった!」

 

 

 ユーノの言葉に暫し沈黙し、なのははガバッと体を起こした。

 そしてそれを見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。

 ディスプレイには着信の二文字。

 

 

「もっ、もしもし!」

 

『あ、やっぱり……なのは、あんた今起きたでしょ?』

 

「でもでも約束の時間には間に合うから!」

 

 

 何もかも親友はお見通しのようで、電話越しに溜め息が聞こえた。

 

 

『ちゃんとおめかしして来なさいよ? 初めて送るビデオレターなんだから』

 

「うんっ」

 

『じゃあ急ぎなさい、ほらもう30分よ』

 

「わわっ!? じ、じゃあまた後でね、アリサちゃん!」

 

 

 通話を一方的に終了させ、電話をベッドに放り投げながらなのはは準備を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、お父さん、おはよう!」

 

「おはよう」

 

「おお、おはよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おはよう!」

 

「なのは、おはよ」

 

「おはよう、なのは」

 

 

 

 

 

 

「──行ってきまーす!」

 

 

 窓越しに見えたユーノに手を振って、なのはは走り出す。

 今は少し遠くにいる友達に早くメッセージを伝えたくて。

 私たちは待ってるよって伝えたくて。

 

 言葉にしなくても伝わることかもしれない。

 でも、気持ちを言葉にして伝えたいから。

 

 

 それはすごく、素敵なことだと思うから──。

 

 

 

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