数の子って言うな!   作:うた野

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第16回

 新暦0065年 冬

 

 

「最近は平和だなぁ……」

 

 

 夏頃は事後処理やら隠蔽やらで忙しかったが、今はそれも落ち着いている。

 概ね平和と言えるだろう。

 

 フェイトの裁判ももうすぐ終了、無罪はほぼ確定で心配事もなくなった。

 

 

 

「ええと、今月はと……まだまだ節約するべきところはたくさんか。来年中には引っ越ししたいところだが……」

 

 

 先立つものがないとどうにもね。

 まさか金のことで最高評議会に借りをつくりたくもないし、コツコツと貯めるしかない。

 

 

「いやしかし私も主夫が板についてきた」

 

 

 最近の自分の思考を思い出し、苦笑い。

 培養槽で生まれた時に揺らめいてた私の願いは一体どこにやったのか。

 自由な世界、そんなものに憧れていた頃がひどく懐かしい。

 

 

「──願わくば、君たちが生まれてくる世界が君たちにやさしくあるように」

 

 

 未だ培養槽に眠る娘たちを見つめ、呟いた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 ラボ内 ダイニング

 

 

「──はむっ……ん、やっぱウー姉のつくるご飯は美味しいなぁ」

 

「同感。やっぱりウーノのが一番だ」

 

 

 いやまったく。

 だが私としては他の娘のも食べてみたいものだ(他の姉妹のつくったものをウーノは食べさせてくれない。私の体調管理のためらしい)。

 

 只今娘たちと食事中、ジェイル・スカリエッティです。

 

 

「戦闘機人としては喜んでいいのかわからないけど……」

 

 

 セインとディエチの言葉にウーノは謙遜、というより戸惑った表情を浮かべた。

 

 

「そんなことはない。魔導しかできない魔導師などいないように、戦闘だけの機人というのもいないさ。自信をもって良い、今日も美味しいよ、ウーノ」

 

「──ありがとうございます、ドクター」

 

 

 ううん、ドゥーエは協会でしっかりご飯を食べて、休むようにしているだろうか? 

 4日前に見たときは大丈夫そうだったが……心配だ。

 ああ、心配といえば──

 

 

「チンク」

 

「? はい」

 

「ドゥーエに頼んで送ってもらっている牛乳、賞味期限がもうすぐだから気をつけた方がいい」

 

「ごほっ、ごほっ! ……あ、ありがとうございます」

 

 

 冷蔵庫の奥にまるで隠すように置かれていたから忘れているんじゃないかと心配だったんだ。

 忘れていなかったのならよかった。

 

 

(お馬鹿なチンクちゃん)←クアットロ

 

(チンク姉、まだ続けてたんだ)←セイン

 

(そんなに自分の体型が気になるものなのか? わからん……)←トーレ

 

 

 うーん、味が染みていて美味しい。

 それに全員揃っての朝食というのはやはりいい。

 

 

「どうぞ、ドクター」

 

「ありがとう、ウーノ」

 

 

 私がちょうど取ろうと思ったおかずをウーノが取り分けてくれた。

 ……できた娘だー。

 

 

「うん、美味しい」

 

「あ、ウー姉、あたしにもちょーだい」

 

「自分で取りなさい。私を使おうなんて偉くなったものね、セイン」

 

「じょ、冗談です」

 

 

 ウーノの鋭い視線に射抜かれ、セインはおとなしく自分でおかずを確保していた。

 

 

「──クアットロ、まさか私の料理を残すなんて言わないわよね? まだピーマンが残ってるわよ」

 

「い、いえっ、そんなことあるわけないじゃないですかウーノ姉様っ────うぅ」

 

(クアットロも形無しとは。流石はNo.1ということか)←トーレ

 

(好き嫌いしているようでは私が追い越してしまうぞ)←チンク

 

 

 ……やっぱりいいなぁ、こういう生活。

 

 

 

 

 

 

 

 ────遠く、聖王協会。

 

 

(……ウーノのご飯が食べたい)

 

 

 

 No.2 ドゥーエ。

 良い意味でも悪い意味でもスカリエッティの因子の影響が最も出ている戦闘機人である。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 万年人員不足である時空管理局、それは“海”も“陸”も変わらない。

 そんな管理局の陸側、悩める男が一人。

 名はレジアス・ゲイズという。

 最高評議会という強力なバックボーンを持つ彼が人員不足を解決するために出した答え、それは────

 

 

「ジェイル・スカリエッティに戦闘機人造らせればよくね?」

 

 

 ──そんな口調でなかったことは間違いないだろうが、とかく彼はその考えに至った……割と前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──はい、ではそのように』

 

「……ジェイル・スカリエッティはどうした。まだ奴は儂と話す気はないと言うのか」

 

 

 もう何度目になるのか分からない、ナンバーズの長女、ウーノとの通信。

 初接触から数年、レジアスの描いた戦闘機人計画はほぼ滞りなく進んでいた──肝心のスカリエッティを抜きにして。

 

 

『ドクターは現在、新たな妹たちの調整中で多忙の身ですので。それはあなたの夢へ近づいている証拠、どうか御容赦ください』

 

「ふん……」

 

 

 内心でレジアスは悪態つく。戦闘機人計画のことをなぜ戦闘機人と話さねばならないのか、と。

 

 

(兵器と兵器の話をして、何の意味があるというのだ)

 

(──ドクターは現在約48時間ぶりに睡眠をとられている。邪魔をするわけにはいかない)

 

 

 タイミングの悪い男、それがジェイル・スカリエッティであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(今夜は……ディエチの好物をつくる日ね。もう用意を始めないと夕食の時間に間に合わないかもしれない)

 

(今夜はオーリスと夕食の約束がある、ジェイル・スカリエッティがいないならば今日はもうこれで──)

 

 

 どちらも真剣である。

 愛する家族のことなのだから。

 

 

『では今回の報告はこれまでに』

 

「ああ。だが次こそはジェイル・スカリエッティに繋いでもらうぞ」

 

 

 ──どちらからともなく通信を切り、各々支度を始めた。

 

 闇の書で大変な地球とは違い、管理世界の平和な日々はこうして過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

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