No.2、ドゥーエが稼動を開始したのは新暦0052年の春のことである。
偽りの仮面という先天固有技能(ウーノ曰わく諜報・暗殺に最適らしい)を発現した彼女を一言で表すなら────
「ドクターの開発したピアッシングネイル、実に素晴らしい私向きの武装です」
──なんかエロい金髪のねーちゃん。この一言に限るだろう。
ピアッシングネイル(元はピンセットを改造したものなんだが気に入っているようだ)を眺める姿は妖艶。
そしてあのエロいボディスーツが実によく似合っている……くっ、治まれ私の無限の欲望!
ドゥーエは私(とウーノ)の作品、つまりは我が子だ。
そんな目で見ているなんてドゥーエに知られてみろ、白い目で見られるのは必至ッ。
洗濯物はドクターと別にしてねとか、ドクターの入ったお風呂になんか入りたくな~い、とか言われるに決まっている。
……だが、他に彼女に合った服などないし、このボディスーツで我慢してもらうとしよう。
「ドクター?」
そして問題の5番、チンク。
男の子がチン●と言われるのと女の子がチン●と言われるの、どっちが嫌なんだろうか。
いやどちらにしてもそんな名前をつけるなんて最低! →それはウーノが→うるちゃいうるちゃいうるちゃい! となるだろう。
「ドクター……?」
ああ、父親というのは娘に嫌われる運命にあるのか……母親のいない彼女たちは愛に飢え、非行に走り、管理局のお世話に……まさかウチの子に限って!
「──ドクター、もう次の目的に向かって思考しておられるのですね」
「……教育だけはしっかりしておかなければな」
私、無限の欲望の娘というだけで世間の目は冷たい。せめてどこに出しても恥ずかしくないように教育しよう。
「! はいっ、(ドクターの)夢のために全力を尽くします!」
「──ああ、真っ直ぐに育ってくれよ」
将来的には私のようないつ切り捨てられるともしれない仕事ではなく、公務員、管理局に就職してもらいたいものだ。
いや、教会というのもいいな。見た目とは裏腹に信仰と慈悲の心に溢れた女性になれるだろう。
教会と言ったら、
「やはり聖王教会か……」
この十数年後(つまり大学あたりまでの教育を積ませた後)、ドゥーエが本当に聖王教会に勤めることになるとは今の私は知る由もなかった。
◇◆◇◆
「プロジェクトFの論文データがない、だと……?」
ドゥーエがナンバーズに加わってからしばらくしてからのこと。
ウーノが自分と同じように、勝手に私の遺伝子をドゥーエに埋め込むという大事件も過去のこととなったある日。
少々肉体増強に手間取っている(“戦闘”機人をつくるのは初めてなのだ)が、No.3の制作も順調に進み、私はなんとなく再びプロジェクトFの研究に取りかかろうと思い、端末を起動した。
だが、データがない。
「ま、まさか一昨日の扇風機の実験でブレーカーを落とした時に消えてしまったのか──!?」
そ、それとも有線で繋いでいたらそのケーブルにドゥーエが引っかかって抜いてしまった時か……!?
「──ドクター? どうかなさいましたか?」
「ウーノっ」
そうだ、メインコンピューターと繋がっているウーノならデータがどうなったかもわかるはず!
「プロジェクトFのデータはプレシア・テスタロッサという魔導師に流しました」
「な、なぜそんなことを……」
「プロジェクトFが完成すれば、保険がより強固なものとなります。しかしドクターは多忙の身ですから、ドクター以外に完成させることのできそうなプレシア・テスタロッサに」
多忙だと思うなら少しは休ませてほしい。
「私以外にプロジェクトFに興味を持つものがいたのかい?」
アルハザード時代ならいざ知らず、今の時代にクローンを造って記憶を転写するなどという発想をするものはそうはいないと思っていたが。
「プレシア・テスタロッサは事故で娘を失っています。その娘を生き返らせるためならなんでもするはずですから」
娘を……。
「──ウーノ、プレシア・テスタロッサと通信できるかい? プロジェクトの基盤を作った私となら彼女も話してくれると思うんだが」
「可能ですが、何のために?」
「プレシアの娘を生き返らせるのに協力したいんだよ」
(このドクターの表情は……何か考えが?)
くっくっくっ、ここで私がプレシアの娘を助けるために協力すれば……
ウーノ:ドクターは悪の科学者→ドクターは良い科学者
ドゥーエ:ドクターと洗濯物別→ドクター、背中流してあげる
となる!
完璧じゃないか。
娘(ナンバーズ)が生まれた時から変わらずに揺らめいていた私の願い。
娘の誤解を解きたい&娘に慕われたい。
叶えてみせようじゃないか。
──プレシアとの対話で私がアルハザードの技術で造られた存在だと教えてしまうのは、もう少し後のことだ。