数の子って言うな!   作:うた野

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第20回

 やあ、私はジェイル・スカリエッティ。子育てに燃える、十二児(予定)の父だ。

 

 仕事が漸く一段落したと思ったら、今度は娘たちの不器用な親孝行に嬉しくなる反面高町なのは嬢には迷惑をかけてしまったと胸が痛くなった。

 一応見舞金と治療費としていくらかお金と果物を送ったが、お見舞いを送るなんて初めての経験だからね、あれで足りたのだろうか? 

 

 

 まあ過ぎたことは仕方ないと割り切ろう。いや、高町なのはに会ったら親として、もうものっそい勢いで謝らせてもらうよ。

 それまでは胸の内にしまっておこう。

 

 

 ──さて、今日のおはなしなんだが……今、私には8人の娘がいる。

 しっかり者の長女 ウーノ。

 ウーノ以上に大人な色気を放つドゥーエ。

 父親の私よりも男らしいトーレ。

 ちょっと姉妹の仲が上手くいっていないクアットロ。

 名前に負けずに真っ直ぐ育ってくれているチンク。

 我が家のムードメーカーセイン。

 少し間を開けて、ツンデレ気質なノーヴェ。

 ボーっとしているディエチ。

 

 もう少し(要するに次回)で十一番の娘が誕生するのは別として、最近気になることがあるんだ。

 ああいや、ドゥーエとクアットロのことじゃない。あの娘たちはほら、少し不器用なだけなんだよ。

 きっと、いつかきっと分かってくれると私は信じている。

 それで今回気になっていることというのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンク姉、これは何処に運べばいいの?」

 

「それは2番の倉庫だ──っとセイン、もっと丁寧に扱え。危険なロストロギアもあるんだ」

 

「はーい」

 

 

 新しいラボ(引っ越しました)の一室。

 正規のルートやちょっと危ないルートから仕入れた物品を娘たちが整理してくれていた。

 ああ、その気持ちはとても有り難い、有り難いんだが。

 

 

「チンク姉、これは?」

 

「ん、これは……すまない、これは私には判断できないな」

 

 

 ディエチが自分よりも大きいケースを持って、チンクに尋ねる。

 ああっ、それは間違ってオークションで落札してしまったロストロギア! 

 封印しているとはいえ危険な代物っ。

 

 

「仕方ない、ドクターに指示を──」

 

 

 そうっ、それでいい! 

 私に、この私に聞きにきなさい! 

 どうせ使わないし、倉庫の奥にしまってしまうから! 

 

 

「それは今のドクターの研究には関係ない、15番でいいだろう」

 

「トーレ」

 

 

 さあ、私に……? ←影から今か今かと様子を窺いながら

 

 

「この程度でドクターの手を煩わせるわけにもいくまい」

 

「──ああ、それもそうだな」

 

「ん、わかった」

 

 

 ……もうちょっと父を頼ってくれてもいいじゃないか? 

 

 

 ──私は今、娘たちの急速な親離れに悩んでいるんだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 どうもおかしい。

 確かに娘たちは私に遠慮している部分は多かったが、ここまでではなかった。

 セインなんかはもっとこう、フレンドリー……いや、家族でフレンドリーというのもおかしいか。

 とにかく、もっと和気藹々としていた……はずだ。

 

 

 考えてみるに高町なのは嬢が怪我する前後から様子がおかしくなっている。

 ふむ……これもウーノの何らかの心遣いなのかもしれないが、果たして……? 

 

 

 うんうんと唸る私の前に、カチャリと音を立ててティーカップが置かれた。

 

 

「あまり考え込まないでください、ドクター。あの子たちもあの子たちなりに、ドクターのために頑張っているんですから」

 

「ああ、ありがとうウー、ノ……?」

 

 

 いつものように紅茶に手を伸ばしたところで違和感に気付く。

 この声は──

 

 

「残念、ドゥーエですわ。ドクター」

 

「あ、ああ。ありがとう、ドゥーエ」

 

 

 顔を上げれば、思ったよりも近くにドゥーエの顔があって驚く。

 動揺を隠すように紅茶に口をつけると、いつもとは違った味と香が広がる。

 

 

「教会での仕事のお蔭もあって、私としてはそれなりのものを出せたと思いますが」

 

「ああ、美味しいよ」

 

 

 ウーノとはまた違った味わいがある。

 これが外の味、というのだろうか? 

 

 

「ウーノと比べてどちらが?」

 

「……」

 

 

 なんだいなんだい? どうしたんだい、ドゥーエ? 

 はっはっはっ、あまり父を困らせないでおくれよ。

 

 などと、先程とは正反対のことを心中で呟く私。

 

 

「ごほんっ、私は評論家ではないからね。強いて言うなら甲乙付けがたい、とだけ」

 

 

 断じて逃げではない。紅茶の味について語れるほど飲んだことはないのさ。

 

 

「ん──まあ、良しとしましょう。私がドクターを困らせてしまっては本末転倒ですし」

 

 

 とりあえずドゥーエは良しとしてくれたらしかった。

 

 

「あの子たちのことですが、あまりお気になさらないでください。今は少々引っ越しで忙しいですが、すぐに元に戻ります」

 

「そう、かい……?」

 

「ええ。みんな、ドクターのことが好きですから」

 

 

 と、素晴らしい笑顔で言ってくれる我が娘。

 

 

「……すまない、もう一回」

 

「みんな、ドクターのことが好きですから」

 

「もう一声」

 

「みんな、ドクターのことが大好きですから」

 

「…………ふぅ」

 

 

 いかんいかん、私の無限の欲望の中の一つ、「お父さんだーい好きっ」が叶ってしまったせいで何処かに飛んでいくところだった。

 

 

「いやー、はっはっはっ、そうかいそうかい。ならもう少しだけ我慢してみよう。娘たちにも事情があるからね、あまり私がヤキモキしても仕方ない」

 

「はい。心配せずとも、ドクターの気持ちは伝わっていますから」

 

 

 うんうん、それはよかったよかった。

 確かに引っ越しで忙しい中、娘たちが構ってくれないからといって父親である私がどうこう言っても仕方ない。

 私は私で、私の仕事をしよう。

 さーて、まずはあのロボットの改良・量産からだな。少しでも娘たちの負担が軽くなるよう、私も頑張るとしよう。

 

 

「それではドクター、私も妹たちの手伝いに戻ります」

 

 

 そう言ってドゥーエは一礼し、踵を返した。

 

 

 

(ウーノが居ない隙を見て来たから、戻って来る前に退散しないと……妹たちにももう少しドクターと関わるよう言い含めておかないとね)

 

 

 

 

「ドクター、お茶が入りました……?」

 

 

 少し遅れてやってきたウーノが見たものは空のティーカップ。

 ドクターはやる気を漲らせて研究室に入ったところだった。

 

 

 

 

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