新暦0068年
ジェイル・スカリエッティがゼスト・グランガイツの世話を焼いているのと同じ頃。
メガーヌ・アルピーノの娘、ルーテシアが最高評議会を介してラボへと回されて来た。
ちなみにそれに関するドクターの真意は「親子は一緒に居た方が良い」であり、ウーノを初めとするナンバーズのほとんどは「レリックウェポンとして使えそうだから」である。
ゼスト・グランガイツは搬送されて来た時点で死亡しており、レリックと強引に融合させることしか出来なかったが、メガーヌは仮死状態であり、レリックを用いずとも目覚める見込みもある……が、それには一年や二年ではなく長い時間が掛かる。
しかしそれだけの時間があれば、無限の欲望 ジェイル・スカリエッティにとってメガーヌの回復方法を見つけ出すことは容易い。
幸いにもナンバーズの製造は順調に進んでおり、後数年の内に全機が稼働するだろう。
「そういうわけだよ、騎士ゼスト。だから君はレリックが関わらない限り我々と不可侵条約を結んでもらいたい。というか結びたまえ」
そしてこのラボからゲットバックヒア!
「……俺は管理局に貴様のことを告げるかもしれんのだぞ」
「ああ、大丈夫。君には自爆機能を付けておいた……ってそんな顔しないでくれ、嘘だ」
「命を何だと思っている……!」的な目で私を見ないでくれ。
ガラスのハートに罅が入ってしまう。
それに、そんなことせずとも最高評議会が勝手に何とかしてくれる。
そのことをゼストに告げると難しい顔をして「……そう、か」と頷いた。
「だがその条約は結ばん」
「ええっ!? ……ごほん、その理由は何だい?」
予想外の返答に思わず取り乱してしまった。
もしもフラグが立ってないから、とかだったらもいでしまおう。手足含めて。
「メガーヌの子、ルーテシアはまだ幼い……俺が連れて行くわけにもいくまい。だが貴様に預けておけば何をするか分からん。ルーテシアが成長するまで、俺は此処に残ろう」
「私はロリコンではないが?」
流石に2才の子供をそういう風には見れない。
光源氏計画? 神に、否、娘たちに誓って何もしないとも。
「……」
またゼストは難しい顔、まあ彼は常にこんな表情だし気にしない。
「君がそういう心配をしているなら、私はルーテシアが成長するまで極力関わらない。しかし君とてまだ全快とは言えないし、何より子育てができるとは思えない」
全快でない彼を放り出そうとしたのは私だけどもね。
「なら、間をとって私の娘たちに任せよう!」
(……そういうことではないのだが)
こうして私は勘違いしたまま、ルーテシアをナンバーズで囲うことに成功したのだった。
◇◆◇◆
ダイニングルーム
「というわけでルーテシアの子育ての役割分担を決めましょう」
「……あの、ドゥーエ姉様」
「何かしら? クアットロ」
「何故私たちがそのような……?」
いきなりの召集に急いで来てみたらこれ、クアットロの質問は必然だった。
「ドクターの命令ですから」
「……分かりました」
(……命令。命令、なら……仕方ない)
命令に疑問を持つ。
戦闘機人に人間味は不要と考えるクアットロにとってはあるまじき思考だったが彼女はそれに気付かない。
「ドゥーエ」
「何かしら? トーレ」
「ウーノとチンクはどうした?」
トーレの言う通り、ダイニングルームに彼女たちの姿はない。
「流石に全員が掛かり切りになるわけにもいかないから、ウーノはドクターについて、チンクは──自分からルーテシアの世話をしたいって言ってきたから、今は面倒を見てもらってるわ」
「そうか──チンクらしい」
トーレはそれだけ言って、後は口を閉ざした。
ドゥーエはそれに微笑を浮かべ、話を進める。
「それじゃ、決めましょうか」
◇◆◇◆
ナンバーズの子育て―遊び編― 担当 セイン ウェンディ 監督 チンク
「遊びって言っても遊ぶものとか此処にあるんスか?」
「ドクターは明日には用意すると言ってくれたから、明日からはそれを使ってくれ。今日のところはルーテシアに顔を覚えてもらわねばな」
「……」
ルーテシア2才。
メガーヌが管理局勤めだったこともあり、母親が居なくともあまり泣くことのない、手の掛からない子供であった。
「なるほど──えーとウェンディっス! よろしく、ルーテシア」
「……」
「む、無反応は寂しいっス……」
落ち込むウェンディ。揺れる胸。集まる視線×3
「ここはお姉ちゃんに任せとけっ。ルーテシア、おいで!」
広げられる腕。揺れない胸。寄ってくるルーテシア。
ぺたぺた。
「……?」
「く、首を傾げるなっ! ウェンディと比べるなぁ!」
ルーテシア2才。
まだまだ母性に餓えてる年齢。
「でもまあ、顔は覚えてくれたみたい」
ふぅ、と胸を撫で下ろすセイン。
「って何故私の胸を撫で下ろすっ!」
ナンバーズの子育て―オムツ編― 担当 ノーヴェ 監督 チンク
「──ん。出来たよ、チンク姉」
「手際が良いな、ノーヴェ。だがそれはルーテシアに言ってあげなければ」
「……出来たよ? ……ルーテシア」
「……」
慣れないことに戸惑うノーヴェはどうすればいいのかチンクに助けを求める。
「ルーテシア。こういう時はありがとう、だ」
「……」
チンクとノーヴェを交互に見つめ、そして小さく
「……ありがとう」
「……どういたしまして」
そんな2人を見守るチンクの目は優しげだった。
ナンバーズの子育て―? ― 担当 クアットロ ディエチ 監督 チンク
「……何よ、その目は」
「……」
(大体、母親をああしたのは私なのに、どうしてその私が娘の面倒を見ているのかしら? しかもこのガキ、さっきから私のことを見てくるし……チンクちゃんたちは何やってるんだか)
「……」
(ああもうっ、何なのよ本当。私の顔に何か付いてる? ──って)
「……」
「……これ、見てたのね」
メガネを外し、自分の手で弄る。
それをルーテシアは興味深そうに見つめる。
奇妙な光景だ。
「……ほら、気になるんでしょ」
少しして、クアットロはそのメガネをルーテシアに手渡す。
度も入っていないメガネだ、自分で弄ったところで面白くも何ともない。
ただドゥーエの仮面のように自分を偽る為につけているに過ぎないのだ。子供相手に自分を偽る必要もない。
ディエチとチンクが来るまでクアットロはメガネを弄るルーテシアを眺め続けた。
「……どうしたんだ、クアットロ? メガネが指紋でベタベタだが」
「何でもないわ」←チンクたちに気付き慌ててルーテシアから取り返した
「ルーテシア、何だか楽しそうだね」
頭を撫でるディエチにしか分からないが、ルーテシアの表情は確かにどこか楽しげだった。
ナンバーズの子育て―夜泣き編― 担当 トーレ
「……私では泣きやまなかったというのに、トーレに渡した途端に泣き止むとは」
「理由は分からんが後は私に任せて、お前は休め。……あまり構いすぎると後が辛くなるぞ」
「分かってはいるさ。それでもせずにはいられないんだ」
トーレにおぶられるルーテシアを見つめ、チンクは呟く。
暫く見つめていたが、トーレの言葉に従って部屋に戻っていった。
「──分かってなどいないだろう。まったく、チンクは少々背伸びをし過ぎる。ノーヴェが出来て、また悪いクセが再発したか」
自分のことを姉、と呼ぶ妹の背中を見送り、トーレはルーテシアが眠るまでラボ内を歩き始めた。
「本物の母親が目覚めた時、辛くなるということを分かっていない。……私も用心しなければな」
ナンバーズの子育て―裏―
「うんうん、立派に成長したなぁ……」
「クアットロも私が教育を担当した時と比べたら凄い進歩です」
「確かにこのまま成長していけば、労せずしてルーテシアお嬢様を手にすることが出来る。流石です、ドクター」
「……そう、なのか? これはそういう策なのか……?」
私、ドゥーエ、ウーノ、ゼスト。
4人で仲良く(1人は仕方なくだが)子育ての様子を見ていたが、うん実に素晴らしい!
後ウーノ、別にそんなつもりはないからね。
しかしこれを見ていたら私もルーテシアを育ててみたくなってきた……くっ、ゼストと約束などしなければ! 大丈夫……成長するまでの辛抱だ。だから治まれっ、私の無限の欲望!