数の子って言うな!   作:うた野

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第30回

「どうやらゼストがやられたようだな……っス」

「仕方ありませんわ。奴は私たちの中でも最弱……」

「次はこの私が出ることにしよう……っス」

 おや……。

「……何をやっているのだ、お前たちは」

 いつの間にかゼストが帰ってきたようだ。しかし帰ってきて早々娘をお前呼ばわりとはどういうつもりなのかと。

「あ、おかえりっス、騎士ゼスト~」

「ほーらルーお嬢様もゼストおじちゃんにおかえりって言いましょうね~」

 ゼストを明るく迎え入れたウェンディとセインが聞き逃せない呼称を用いた。

「……おかえり、ゼストおじちゃん」

 おじちゃんだって!? わ、私でさえまだドクターとしか呼ばれたことがないというのに、この私を差し置いておじちゃんだと……!? 

「……ルーテシアに余計なことを吹き込むな。メガーヌに会わせる顔がなくなる」

「いやぁ躾が厳しいっスねぇ、騎士ゼストは。子供はもっと伸び伸びと育てるのが一番っス!」

「ドクターの部屋に何でかあった教育本の受け売りだけどね」

 …………まさか、見られていたとは。隠し場所を見破ったのはドゥーエ以外では初めてだよ。やはりガジェットに護衛させるべきか……。いくら参考になっているとはいえそんな本を読み耽る父親の姿を想像させたくはない。今ならまだ私の持ち物だとは思っていないようだし……。

「ところで何処に行ってたんスか? 外出はクア姉に禁止されてたはずっスけど」

「それは──いや、その前にアレは何のつもりだ?」

「?」「?」

 二人が揃って首を傾げる。ゼストが視線を向けるアレ──ガジェットⅢ型。他の2タイプよりも巨大で、ボール型の機動兵器……である。一応。

「ガジェットがどうかした?」

「稼働してるのは少ないっスけど、倉庫の方には大量に保管してあるし、珍しくないはずっスけど」

「……時折お前たちが本当に戦闘機人なのか疑わしくなるな……」

「ふっ、それは愚問というものだ、騎士ゼスト!」

 向けられた三人の視線に応えるように私はガジェットⅢ型の上部を持ち上げ立ち上がり、姿を現す。

 私の娘たちは断じて戦闘機人なんて言葉では表せない! と続けて口を開こうとしたが、二人の驚愕の声にその口を閉じる。

「ド、ドクター!?」

「な、何でガジェットの中に……?」

 その隣でゼストが「それこそ愚問だろう」とでも言いたげな表情をしていたが、気にすることはない。

「一応聞いておこう、何のつもりだ」

「最初は気分転換のつもりでこのガジェットを弄っていたんだがね、少し夢中になりすぎてしまった」

 断じて嘘ではない。決して娘たちを隠れた見ていたというわけではない。Ⅲ型の中に入ることでⅢ型の気持ちになって改良すべき点を確認していただけだ。

「そういう君は最高評議会から呼び出されていたようだが、一体何の話だったんだい」

「……貴様に言う必要はない」

 ゼストは一瞬ルーテシアに視線を向け、そう言った。ふむ、ルーテシア絡みか。だとすれば恐らくルーテシアを人質にゼストを操るつもりなのだろう。評議会の考えそうなことだ。

「言いたくないならそれで構わないさ」

 というか私も興味はない。ただセインたちの質問に早く答えろと言いたかっただけだ。

「だが私の方が少し君に話があってね」

「何……?」

「大した話ではないんだが、場所を移そうか」

「……」

「それじゃあセイン、ウェンディ、ルーテシアを頼んだよ」

「了解~」

「了解っス」

 通り過ぎ様にルーテシアの頭を撫でようとしたがまたゼストに叩き落とされたのは気に入らないが、ゼストを連れて部屋を出る。

「ビックリしたぁ……まさかドクターが居るなんて」

「ウー姉が探してたから何処にいるのかとは思ってたスけど、まさかガジェットの中とは予想外っス……」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「用件は何だ」

「その前にいい加減手を叩き落すのはやめてほしいね。君は過保護すぎる」

「貴様のような人間にルーテシアを触れさせたとなったらそれこそメガーヌに顔向けできん」

 ぐぬぬ……。こうなったら一刻も早くメガーヌを蘇生させて母親である彼女に直接お願いするとしよう。

「──大方最高評議会からルーテシアを人質に傀儡になれとでも言われたんだろう?」

「……だとしたら、どうする」

「出来ることならルーテシアを置いて出ていけ、と言いたいところだが未完成のまま世に出すことは私のなけなしのプライドが許さないし、そもそもルーテシアが悲しむからね」

 今はまだゼストをこのラボに置いておかなければならない。娘たち、主にチンクへの悪影響が心配だが、それはこの私が阻止しよう。とりあえず娘たちに触れようとしたら腕を切り落とす。

「評議会からの仕事ついでに私の仕事もしてくれたまえ」

「断る」

 ……私が可愛い可愛いルーテシアを人質になど出来ないことを知ってこの態度か、このむっつり騎士は。

「ならメガーヌの蘇生を少しでも早める為にもレリックを集めてくれ。無くとも蘇生には問題ないが、彼女に適合するレリックがあれば蘇生は格段に早まる。これなら君にも悪い話ではないだろう」

「……今回は評議会の者共の目に触れさせぬ為に預けたが、貴様の居る場所でルーテシアを一人にはできん」

「評議会から命令がある度ルーテシアも一緒に外に連れ出すつもりかい? それはこの私が許さない」

 まだ三歳の子がこんな子育てなんてしたこともないような人間と危険な場所に赴くなんて看過するわけにはいかない──ルーテシアのおじちゃんとして! 

(……スカリエッティを信用など出来るはずもない、が確かに俺と共に動けばルーテシアを危険な目に合わせることになる……)

 ……まだ退かないか。どれだけ信用がないんだ、私は。いやゼストに信用されても嬉しくはないが……。仕方ない。

「それでも尚ルーテシアを連れ歩くというなら、こうしよう。万が一に備え、私の娘を同行させる」

「……」

「勿論チンクじゃないぞ。トーレ、それにオットーとディードの三人を連れて行きたまえ」

 人選の理由は言うまでもない。トーレならば不埒な行為に及ぼうとした瞬間ゼストの息の根を止めてくれるだろうし、オットーとディードはクアットロが後学の為にも出来るだけ色々な経験を積ませたいと言っていたからだ。トーレにならルーテシアもオットーとディードも安心して任せられる。勿論ゼストが一人で動いてくれるのが一番なのだが。万が一にもゼストが不覚を取っては困る。少なくとも彼の肉体が完璧になるまでは。

「これ以上の譲歩はない」

「……いいだろう。だがルーテシアには常に俺の目の届く範囲に居てもらう。貴様の──貴様の娘たちが裏切らんとも限らないからな」

「後半の発言も聞き捨てならないが、前半の発言も管理局に捕まりかねない発言だって自覚はあるのかい……?」

「貴様にだけは言われたくない台詞だな。隠れて娘たちを監視していた貴様にだけは」

 無言でにらみ合う私たち。やはりいつかは決着を着けなければならないようだ。セッテの最終調整にゼストとメガーヌの完全な蘇生、聖王の再生とやることは多いが、それと並行して私用にデバイスの一つでも作るとしよう。この男を完膚なきまでに叩きのめすために。

「──貴様は何を企んでいる?」

 暫く睨みあっていた私たちだったが、ゼストがその沈黙を破った。

「失敬な。何も企んでなんていないさ」

「あれだけ俺が貴様の娘たちと接触することを嫌っていた貴様が、こんなことを言いだしたのだ。疑いもする」

「君は常に疑っているように見えるがね」

 だがゼストの言う事は尤もだ。確かにこの私がトーレだけでなく生まれて間もない二人をゼストに預けるなんて正気を疑う話なのだから。

「……私だって苦肉の策だよ。けどドゥーエに他の娘たちも他人ともっと関わるべきだと言われてしまってね……。確かに知識として礼法礼節は知っているが、実践となると訳が違う──ドゥーエの経験談だ。それを踏まえて、トーレなら安心して送り出せると考えたんだ」

 かつてセインを助けてくれたトーレなら、ともすればチンクよりも姉らしくあろうとしているトーレならば、と。

「私は娘たちと静かにこのラボで暮らすことが一番の幸せだが、だからといって娘たちをこのラボに閉じ込めるのは父親失格だ」

 今更過ぎる話だがね。

「……ひとまずはその答えで納得しておこう」

「一々癇に障る物言いをするね君は……」

 本当に気に入らない、が彼のような人間と相対するのも珍しい。ここまで冷静に私と話す人間はそうはいない。評議会の脳みそ共は私を人形としか見ていないし、管理局の魔導師は使命や憎悪に燃えている人間がほとんどだ。内心はどうあれ、だが。

「けど私はまだ君に娘たちを預けることに納得したわけではない! もしも傷の一つでも付けたら命はないと思いたまえ!」

「元より命など既にありはしない──だが俺も騎士を名乗る者だ。約束は守ろう」

 ゼストは静かに言う。約束を守るのは当然だとして──しかし騎士か。トーレやチンクに勧めてみるのもいいかもしれない。彼女たちならきっと私などと違って歴史に堂々と名を残すことができるだろう。

「私も落ち着いたらいっそのこと転職を考えてみるのもいいか」

「……本当に貴様は気に食わん」

「奇遇だね。私もそう思っていたところだ」

 フン、と首をお互いに背け、私とゼストは別れた。

 

 ──これより暫く後になるが、ゼストが連れてきた赤毛の小人を見て、やはりチンクには近づけさせまいと固く誓ったのだった。私もそうだが、ゼストも管理局に捕まるべき存在だと強く思う──手を出してしまう前に。

 

 

 

 

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