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魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE - THE GEARS OF DESTINY - のネタバレを含みます。未プレイの方、プレイ途中の方はご注意ください。
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1ヶ月程前、管理外世界 地球で再び次元震が発生し、実に興味深い者たちが現れた。過去と未来、異なる世界、時空からの来訪者。その原因である砕け得ぬ闇と異世界エルトリアに纏わる一連の騒動はとりあえずの解決をみた、と管理局は認識したようだ。だがしかし。
「ねえねえ王様、王様、エクスカリバーやってよエクスカリバー」
「いやいやセイン、ここはやっぱりアレっスよアレ、あの王の威光って技っスよ。ねえ王様」
「二人してお馬鹿さんねえ。最初みたいに「頭が高い!」って言ってちょうだい、王様ちゃん」
「ぐっ、ぐぬぬぬぅ! 揃ってこの我を愚弄するか塵芥どもめ……!」
実際には問題が全て解決したわけではない。異世界エルトリアに広がるという死触地帯を復興するのは如何に古代ベルカのロストロギアであろうと、未来の機人であろうと容易いことではない。
しかも事件の中心にいたマテリアルはその力を失い、我が家最弱の名を欲しいままにしていた。彼女の言動から察するに言語機能や知能も恐らく低下しているのだろう。でなければ王を冠するマテリアルがこうまで残念なはずはない。ルーテシアにまで手玉に取られる始末であるし。恐らく、きっと。
「ということでこの私の出番という訳だ!」
「は、はあ……」
私の向かい合って座る少年──トーマ・アヴェニールがビクっと体を震わす。
『トーマ、この人、ジェイル・スカリエッティって言ってたけど……』
『うん……未来、俺たちからすると過去だけど──スゥちゃんやティア姉たちが逮捕した稀代の広域次元犯罪者、のはず』
問題その2。私からすると興味深いこちらの方だ。
彼らはどうやら未来のこの世界から来たらしく、事件解決と共に帰還するところをマテリアルたちと共に招待させていただいた。多少強引かつ事後承諾だったが仕方ない。
「エクリプスウィルス、研究者としては実に興味深い」
彼、トーマが感染したエクリプスウィルス。未来の管理局でも治療法は見つかっていないという難病らしいが──
「今は君の中に居る彼女──リリィの持つ抗体がウィルスの進行を抑えているんだったね」
「はい。けどそれもまだ不完全で、今はシャマルさんたち……あ、いや未来の管理局の人が治療法を探してくれてます」
どうやら夜天の書の主と騎士は未来でも管理局で働いているらしい。
「成程。けれど意外だね。私のことだから生活費稼ぎに治療法の一つや二つ発見してそうなものだが」
それとも何か理由があったのだろうか。宝くじが当たったとか。娘が嫁入りしてショックで寝込んでいたとか。まだまだ娘が増えて子育てに奮闘していたとか。或いはウーノが私の後を継いで、私は引退していたとかだろうか?
「あ、あははは……」
「まあ今考えても仕方のないことだね。少し血をいただくよ」
注射器をブスリと刺して少しばかり血を抜き取る。
「これでリアクト時の君たちと通常時の君たちの血液が揃ったことだし、それほど時間はかからなそうだな」
「ちょ、ちょっと待ってください! いつの間に俺たちの血液を!?」
「君が寝ている間にだが──ああ、リリィについてはウーノがやってくれたから心配しなくていい」
「そういうことじゃなくって!」
「そうそう、上の娘たちに会うのは初めてだろう? 未来では忙しくて会えないんだろうから、今の内に親睦を深めておくといい。私の自慢の娘たちは、チンクやノーヴェたちだけではないのだから……!」
トーマの反応からしてクアットロより下の娘たちとの面識はあるようだが、上の娘たちとは初対面のようだった。きっと未来では多忙な日々を過ごしているのだろう。ひょっとしたら父親である私も中々会えていないんじゃ……!? そんな未来にしない為にも、今を精一杯生きるとしよう。
そして問題その3。私にとって他人事ではない問題が彼女たちだ。
「ディエチ、様子はどうだい?」
「今のところは落ち着いてます。けどドクターの予想通り、時間遡航と異世界渡航の影響が出ているみたいで……」
「やっぱりかい。リアクトしていたトーマとリリィ、それに聖王と覇王の遺伝子が守ってくれたのかヴィヴィオとアインハルトは問題がなく来訪し、帰還できただろうが、この二人はそうはいかなかったようだね」
培養漕に浮かぶ二人の姉妹、アミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアン。未来の異世界の研究者──いやそんな長い呼び名は必要ないか。彼女たちの父親が生み出した、自動作業用機械、ギアーズ。要するに彼の娘である姉妹の体は少々傷んでしまっている。
「いくら普通の人間より丈夫とはいえ、時間遡航と異世界渡航は辛かっただろう。未来でも実用化されているわけでもないようだから」
私の自慢の娘たちでさえ、ただでは済まないかもしれない。だからこそ彼女たちの父親も反対していたのだろう。
「確かに。クアットロが与えたダメージのせいもあってこのままの時空間移動は無理だと思う」
子供が親を思ってしたことだ。親冥利に尽きるというもの。私は同じ娘を持つ父親としてその手助け……というか罪滅ぼしをしなければ。
「……してしまったものは仕方ない」
彼女たちをこのラボに転移させた時、少しばかり誤解があったせいでクアットロが少々強引な手段で彼女たちを止めてしまったのだ。ならせめて父親として、責任を持って彼女たちが安全に元の時空へ帰れるよう、調整させてもらおう。
「それにしても双子か……うん、それもいいかもしれないな」
「……?」
「何でもないよ。ただこれから忙しくなりそうだ、ってだけだ。私もディエチたちもね」
まだ見ぬ双子の娘たちのことを思いながら、私は作業に取り掛かった。
「──しかし残念だな。こうして多少なりとも父親として成長した私なら、今度こそ彼女との娘自慢にも勝てると思っていたのだが」
ディエチに聞こえないよう、そっと呟く。マテリアル復活に伴い再び発生した無数の闇の書の欠片──の中に混ざっていた彼女。欠片ではなく正真正銘の彼女と彼女のもう一人の娘は果たして今何処で何をしているのだろうか。
◇◆◇◆
「た、だい、ま……?」
「おかえり、ヴィヴィオ」
「おかえりなさぁい、ヴィヴィオちゃん」
過去での冒険を終え、無事にミッドチルダ、高町家に帰還したヴィヴィオを迎えたのは愛する母──ではなく、
「ク、クアットロ……!?」
「私もいるよ」
「ディエチはいいの! だってクアットロは捕まってるってママが……」
「失礼な子ねぇ。お宅の教育はどうなってるのかしらぁ?」
クアットロの視線の先を見ると、愛する母の姿があった。先程までとは違う、成長し大人に、ママになった高町なのはの姿が。
「こらヴィヴィオ、ママはそんなこと言ってないでしょう? 確かにクアットロは犯罪スレスレのこともするし、前科もたくさんあるけど、ね」
「あら、失礼しちゃうわねぇ」
ぷんぷん、と口で言うクアットロとぞんざいに扱われ頬を膨らますディエチ。そんな二人となのはを混乱した様子で見比べるが、それだけでは何も分かるはずもない。
「それに前科なんてものを償ってあまりあるぐらいの成果は上げてるつもりよぉ?」
「それはドクターの……痛い痛いっ」
「余計なことを言うからそうなるのよ。本当にお馬鹿なディエチちゃん」
「そういうことするからヴィヴィオに捕まってるなんて言われるんだよ? さ、二人とも手伝って」
「はぁい」
「……はい」
ジト目でクアットロを睨むディエチとそれをどこ吹く風で受け止めるクアットロを伴って、なのはは再びキッチンに姿を消した。
「どうなってるの……?」
ぽつんと佇むヴィヴィオ。そんな彼女にキッチンから顔を出したなのはが笑顔で言う。
「おかえりヴィヴィオ。ごはんもうすぐ出来るから手を洗って待っててね」
「う、うん……ただいま……」
「フェイトママももうすぐ帰ってくるから、ね?」
「うん……」
納得できないことばかりだが、大人しく手を洗いに歩き出す。そんなヴィヴィオにまた一言、なのはが付け足した。
「今日はウーノお姉ちゃんとセッテお姉ちゃんも来てくれるってー!」
「本当にどうなってるのぉぉぉぉ!?」
涙目になりながら走り出す高町ヴィヴィオ。聖王の加護はありそうもない。
◇◆◇◆
「……」
それから紆余曲折を経て元の時代に帰還したトーマとリリィ、同じくスカリエッティに捕まることなく帰還していたヴィヴィオとアインハルト。時代は2年程違うが、反応は全く同じ、一瞬の沈黙と驚愕の表情。
「ええええええええ!?」
「ど、どうしたのトーマ君?」
「な、何で彼女が此処に!?」
「あら、私が此処に居たら駄目なの?」
まずスカリエッティに血液採取や身体検査をさんざんされたあげくに何の説明もされず妙な薬品を注射された途端に彼が帰還させられたのは特務六課の医務室だった。
「完治を祝して私がドクターの代わりに患者さんの顔を見に来たの」
「ドクターは多忙だから代わりに彼女──ドゥーエさんが来てくれたんだけど……そんなに驚くことでもないでしょう?」
「驚きますシャマルさん! だって彼女は──って、え、か、完治? 何のですっ?」
「エクリプスウィルスに決まってるじゃない! それとも他に何処か悪いところでもあるのっ?」
「あらあらそれは大変ね。一応検査しておきましょうか」
妖しく笑うドゥーエの指、ピアッシングネイルがキラリと光る。
「リ、リリィ! リリィは!?」
「リリィちゃんなら少し錯乱してたから眠らせたわ」
迫るドゥーエから逃げようと部屋の外に飛び出した瞬間、トーマは何かにぶつかり体勢を崩してしまう。嫌な予感をひしひしと感じながら視線を上に向けると──
「トーマ。しっかり前を見て歩け。全くお前は昔から落ち着きがないな」
「──ト、トーレさん……?」
「シャマル、こいつに命に別状はないものの指一本動かせない程度の治療を頼む」
「それは治療じゃなく生殺しです! まったくトーレもですけど──アルちゃん! また悪さしたんですかっ」
「うぅ……あたしのせいじゃないよぅ……ビル兄が何度言われても服を着ないから……」
「ドゥビルも痛めつけておいた。今は身動きは取れんだろうが、奴ならすぐに回復する」
「ア、アルナージ……!? 本当に何がどうなってるんだ……」
目を白黒させるトーマを尻目にドゥーエとトーレが会話していた。
「ドゥーエ、このトーマは──」
「ええ。どうやら戻って来たトーマみたい」
「そうか。なら無理もないかもしれんな。あの時の私も、こうなろうとは想像もしていなかったのだから」
「全てドクターのおかげね」
「ああ。感謝しなくては。ドクターに、私たちの──父に」
いつか、どこかの世界での日常。
「オリジナルのオリジナルで、オリジナルのオリジナルの母親……つまりボクの曾祖母ちゃんってことか!」
「……どいてちょうだいアリシア。そのアホを消し飛ばしてあげるわ……」