「ドゥーエ姉様、融合騎を拾いました」
「元の場所に返してきなさい」
「元の場所は破壊してしまいました」
「全く仕方ないわね……」
「というわけでドクター、彼女がその融合騎です」
「……いやすまないドゥーエ、私としたことが話を聞き逃してしまったようだ。というわけで、の前から話してくれるか」
「ご安心を。何も言ってませんから」
「……」
クスクスと笑うドゥーエを見て、ようやくからかわれていたということに気付く。やれやれ、やるようになったものだ。
「それで彼女は融合デバイスなんだね? それともそれも冗談で小人型の新生物だったりするのかい?」
研究室のデスクに横たわる赤毛の小人。もし新生物だったら実に興味深いことだが。
「いえいえ、彼女は冗談ではなく正真正銘の融合騎ですわ」
「ふむ……」
「──ところでドゥーエ、以前から気になっていたけれどドクターに対するそのふざけた口調はどういうつもりかしら?」
「あらウーノ、居たの?」
「あなたが来る前から私はドクターのそばに居ました」
「うふふふ」
「ふふふ……」
「……」
な、なんだか空気が変わった気がする。笑ってはいるが正直怖い。いや娘たちは常に可愛すぎて怖いのだけどそうではなく。
「ま、まあまあ。私は構わないよ。けどあまりウーノをからかわないでやってくれ。私に付きっきりで疲れているんだ」
「まあ大変。なら私が変わりましょうか? ウーノお姉様」
「必要ないわ。あなたにドクターを任せた方が心労で疲れてしまうもの」
「……」
は、反抗期なんだろうか。うちの娘に反抗期はないと思っていたのに、まさか今になって長女と次女の二人に反抗期が来るなんて……。とりあえず洗濯物を別にされてしまう覚悟はしておいた方が良いのかもしれないな……。
「と、とりあえず経緯を説明してくれるかい? 彼女と何処で会ったのか」
「話は当事者たちからの方が良いでしょうから──騎士ゼストかルーテシアお嬢様、もしくはオットーかディードからお聞きください」
本来ならまとめて話を聞いた方が早いんだろうが、これはチャンスだ。一人一人から話を聞けばルーテシアとも邪魔が入らず会話できるし、オットーとディードとも親子の絆を深めるチャンスじゃないか!
「そうだね──じゃあまずオットーを呼んでくれるかい?」
「かしこまりました」「かしこまりました」
「……」
「……ドゥーエ、ドクターは私に命令してくださったのよ」
「いえいえ。今のは明らかに私でしょう?」
末っ子たちと話をする前にこの二人と話をすべきかもしれない、と考えてる間にオットーが入室した。どうやら言い争いながらも通信を送っていたようだ。
「ウーノ姉様とドゥーエ姉様から急いで来るようにと指示があったのですが、何か?」
「勿論私の指示で来てくれたのよね、オットー」
「私でしょう? オットー」
「え、僕は……」
「ごほんっ。呼んだのは私だよ。オットーに話を聞きたくてね」
「は、はい……」
末っ子が小さくなっていくのを見て助け舟を出す。
「この融合騎は何処で?」
ゼストとトーレたちが襲撃した研究施設か遺跡のどれかなのだろうが、一応訪ねておく。
「ウーノ姉様がリストアップした施設の一つです。トーレ姉様たちと共に出撃した際に最奥の研究室に幽閉されていました」
オットーが口にした研究施設の名前と座標は聞いたことがないようなものだったので省略するが、内容不明の研究をしていた施設にレリックがあるのではないかと襲撃したところ空振り、話を聞く限り融合騎に限らず古代ベルカの研究をしていた施設のようだ。最高評議会の息がかかっている可能性もあるが、それは問題ではない。彼らに私以上の研究者の当てがあるとも思えないので、少し私の研究成果(彼らが喜びそうな研究はここ数年していないが、貯金はある)をくれてやれば良い話だ。
「騎士ゼストは管理局への保護を提案していましたが、僕たちの情報を漏らすことはしない方がいいとトーレ姉様とルーテシアお嬢様が進言したので、此方に連れてきました」
「トーレとルーテシアお嬢様の判断が正しいわね」
「ええ。管理局でも運が悪ければ場所が変わるだけで同じことをされていたでしょうし」
「その通りだね。私は融合騎に興味はないし──とりあえず判断は彼女本人に任せるとしよう」
とはいえトーレだけでなくルーテシアも保護することを望んだのだから留まるように出来る限りお願いするが。
「烈火の剣聖と名乗った融合騎もルーテシアお嬢様と騎士ゼストに恩義を感じていたようですから、お二人が頼めばそれに従うと思います」
「ふむ……オットー、君はどうなんだい?」
「……? 僕、ですか?」
「ああ。君も彼女を助け出した当事者だ。君の意見も聞いておきたい」
……ううむ、少しばかり固い物言いになってしまった。いやしかし当事者であるオットーたちがこの融合騎を此処に置きたいと望んで、此処に住むことになったら世話は望んだ者たちが一番にやるべきだ。ただ可愛いから、可哀想だからという理由だけで住まわせて後はそれっきり、なんてことはルーテシアや私の娘たちに限ってあるわけもないが、一応ね。
「僕からは特にはありません。クアットロ姉様からは任務中はトーレ姉様の指示に従うようにと言われていますから」
「はあ……」「ふう……」
思わず出た溜め息がドゥーエと被ったので見てみると、やはりドゥーエは笑っていた。私も釣られて苦笑を浮かべる。
「後でドゥーエからクアットロに言っておいてもらえるかい?」
「かしこまりましたわ、ドクター」
頷くドゥーエに私も頷き返し、オットーに向き直る。しかしクアットロも不器用だね、そんなところばかり私に似て……っは! 今の私の思考はまさに親そのものと言っても過言ではない思考だったんじゃないか!? おぉ、何だか感動してしまう。だがそれを何とか表情には出さず、口を開いた。
「オットー、その様子だとディードもなんだろうが、君たちはガジェットのような機械ではない。それを理解してほしい」
「はい……」
怪訝そうに頷くオットー。どうやら伝わってはいないようだ。クアットロの教育のせい、だけではない。思えば外の世界に出す前にもっと私が一緒に居てあげるべきだったのだ。
「ただ命令通りに動くだけならガジェットでも出来る。君の頭脳も君の手足も戦闘の為だけに作ったわけじゃないんだ」
そりゃあ悪漢100人ぐらいに襲われた時の為にも戦闘能力は下の妹たちも高い。だが決してそれだけの為のものではない。
「勿論、クアットロたち姉の言葉、父である私の言葉を素直に聞いてくれるのは嬉しい。けどそれだけでは駄目なんだよ」
私も昔までは私の言葉に従う娘たちを素直で良い子だと思っていた。しかしそれではプレシアに言われた通り、人形遊びでしかない。
「以前服を買いにいかせたことがあったろう? それも君たちに自然に個性を出させる為だ。服の趣味だけじゃない。セインやウェンディのように悪戯好きなのも個性だし、チンクのように牛乳が好きなのも個性。君から見ればまるで戦機のように映るかもしれないトーレの寡黙さも個性だ。オットー、君はディードと双子だからこそもっと個性的に育ってほしいと私は思っているよ」
──以上、このラボの最奥にてガジェットⅢ型5体が防衛している私のバイブル、『シングルだって大丈夫! 目指せビッグダディ ~一から始める大家族編~』より引用。
「うふふふ」
ドゥーエだけが全てを見透かしたように笑っていたので、補足しておこう。
「此処に居るドゥーエがコーヒーをブラックで飲めないのも立派な個性だ」
「っ!?」
私の後ろで吃驚したような声が聞こえたが、振り向かずに話を進める。何やらウーノがドゥーエを苛めているようだが気にしない。喧嘩する程仲が良いと言うし。
「さて、それを踏まえた上でもう一度聞こう。オットー、君は彼女をどうしたい?」
すぐに答えられるとは思ってはいない。今はただ考えることだけを忘れず、私の(バイブルの)言葉を心の片隅に置いていてくれればいい。
「……ルーテシアお嬢様が望んだことですし、僕も融合騎は此処に置いておくべきだと思います」
「うん。今はそれで良しだ。まだまだこれから、焦らずにゆっくりと理解してくれればいい」
「……はい、ドクター」
……そこは父さんと呼んでもらいたかった! いいさ、まだまだこれから……。と思ったがむしろ成長すればするほど呼称の変更は難しくなってくるんじゃないだろうか……? くっ、バイブルにはパパと呼んでもらう方法なんて載っていなかったぞっ? やはりこれは自分の力でどうにかしなければいけない問題のようだ。多くの父親と母親が通った試練に違いない。私も評議会の連中を親などと思ったことはないし。それについては刷り込まれていなくて本当に良かった……。想像するだけでもおぞましい。
「それじゃあ彼女が目覚めたら声を掛けるよ。わざわざ呼び出してすまないね──私が」
また後ろの二人の論議が始まっても困るので念を押して言っておく。
「……。それでは失礼します」
「──そう、それだよ、オットー。そうやって笑っていればいつかは個性なんて身に着くものさ」
退室の間際に見せた表情に思わずジーンと来ながら、小さく呟いた。やっぱり私の娘は最高だね!
「だいたいあなたこそ個性がないんじゃないかしら?」
「コーヒーも飲めないような次女が何を言うかと思えば……それにドクターへの愛情こそ、私の個性よ」
「あら、それなら私も持ってるわ。生まれた時からね」
「そう。私は生まれる前から持っていたわ」
感動して自分の世界に入っていたせいでそんな最高の会話を聞き逃したのは一生の不覚だよ、まったく。